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王様のお菓子/桧的小说

王様のお菓子  国王的甜点

6,134字12分钟

未来プロ軸のrnとisgがフランスで迎える新年の話。isgが強かにrnを掌でコロリとしている、女i王様気質&狡猾さのあるisgでお送りします。
以未来职业为背景的 RN 与 ISG 在法国迎接新年的故事。讲述 ISG 将 RN 玩弄于股掌之间的女王气质与狡黠性格。

Xに上げた今年の書き初めを、こちらでも掲載いたします。
将在 X 平台发布的新年试笔作品于此一并刊登。

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王様のお菓子  国王的甜点


 フランスで過ごす四年目。フランスで迎える何回目かの正月。欧州のクラブに所属するフットボーラーは正月などの母国では比較的重要視される行事からは切り離される。欧州はクリスマスを大々的に祝うが、新年は「年が変わる」程度の認識である。
在法国度过的第四年。这是在法国迎接的第几个新年了?效力于欧洲俱乐部的足球运动员,往往与祖国那些相对重要的节庆活动无缘。欧洲人虽会隆重庆祝圣诞节,但对新年的认知不过是"年份更替"的程度罢了。

 勿論、凛の住むフランスなどのように一月六日に公現節としてクリスマスの最後を祝うという、日本人でいうところの「正月」に近いイベントもあるのだが、正月と断言して良いかは人それぞれだろう。
当然,像凛所居住的法国这样,将 1 月 6 日的主显节作为圣诞节尾声来庆祝的习俗——对日本人而言可说是最接近"正月"的节日——但能否断言这就是正月,恐怕因人而异吧。

 肝心の凛は正月に特別な思い入れを持つことも無かった。実家であればお節やら餅やらが出され、初詣に行ったのかもしれないがここはフランス。初詣には行きようがないし、そもそもさして神仏に縋るような性分でもない彼は神社への挨拶も行かなくても構わないという思考であった。
凛本人对正月并没有什么特别的执念。若是在老家,或许会摆上年节菜和年糕,也可能去新年参拜,但这里是法国。既没法去神社初诣,他本身也不是那种特别依赖神佛的性格,觉得不去神社打招呼也无所谓。


 だが今年は一風変わった新年である。PXGで若きエースストライカーとして活躍する糸師凛は、新年早々とある人物からの訪問を受けていたからだ。
但今年的新年却有些不同寻常。因为在 PXG 俱乐部作为年轻王牌前锋活跃的糸师凛,在新年伊始就迎来了一位访客。

 午前の中からベルが鳴り、首を傾げながらモニターで確認すればそこには見慣れた顔。
从上午门铃就响个不停,他歪着头查看监控屏幕,映入眼帘的是一张熟悉的面孔。

 はぁ〜……と深く長い溜息。澄ました麗しい顔は歪み、眉間に皺を携える。
"哈啊——"他发出深长的叹息。那张平日里冷峻美丽的面容扭曲起来,眉间刻上了深深的皱纹。

 それでも彼が好敵手と認め、浅からぬ間柄の人物であれば、気乗りしないにも拘らず扉を開けてしまうのが糸師凛という男に僅かに備わった「柔らかさ」である。
即便内心不情愿,他仍会为那些被自己认可为劲敌且交情匪浅的人物开门——这便是糸师凛这个男人身上仅存的"柔软之处"。

「なんだよ」  "干嘛啊"
「明けましておめでとう凛!」  "新年快乐啊凛!"
 晴れやかな笑顔で訪れた男は凛が常々「潰す」と敵視する相手、潔世一である。
带着灿烂笑容登门的男子,正是凛日常扬言要"碾碎"的宿敌——洁世一。

「……明けましておめでとう」  “……新年快乐”
 おめでとう、などとという文言を好敵手には言いたくはないのだが、新年の「おめでとう」は挨拶の一種である。好敵手を褒め称える意味合いは限りなくゼロだと言って良いだろう。しかも初頭のこれを言わないのは日本人としてなんとなく罰が悪い。
虽然并不想对劲敌说出"恭喜"之类的话语,但新年的"恭喜"毕竟属于问候语范畴。可以说其中蕴含的赞美对手之意几乎为零。更何况作为日本人,若不在年初说这句话总觉得有些过意不去。

「今年もよろしくな!」  “今年也请多指教!”
 潔がフランスのパリにいる。それは偏に彼が昨年の夏の移籍期間の時にPXGに移籍を果たしたからだ。ドイツに二年間。凛の兄である冴が所属するスペインのクラブに約三年間所属していた彼は凛よりも半年程年上だが、既に所属は三クラブ目。凛がPXGで主力になり、クラブが手放したがらないという側面を差し置いても潔は流転を繰り返していると言えよう。
洁此刻正在法国巴黎。这完全得益于他在去年夏季转会期成功转会至 PXG 俱乐部。在德国度过两年时光,又在凛的哥哥冴所属的西班牙俱乐部效力约三年后,虽然他只比凛年长半年左右,却已辗转第三家俱乐部。即便不考虑凛已成为 PXG 主力球员且俱乐部不愿放人这点,洁的职业生涯也堪称漂泊不定。

 適応の天才である潔は同じチームメイトやリーグ内で「喰える」相手が居なくなったと感じるや否や次のクラブを探し出すと、まことしやかに囁かれているが、エージェントがその噂に関してきっぱりと否定していない様子を見るに、事実に近いのだろう。向上心と好奇心を備えた男は年々進化し今では日本人選手の中では市場価格では凛と良い勝負。膨大な移籍金にも拘らず彼は引く手数多だ。潔を欲していたのはエースストライカーに凛を戴くPXGも例外ではなかったのである。
被誉为适应天才的洁世一,每当察觉到同队队友或联赛中已无"可吞噬"的对手时,就会立刻寻找下家——这样的传闻在圈内广为流传。而从他经纪人对此传闻不置可否的态度来看,这恐怕接近事实。这个兼具进取心与好奇心的男人逐年进化,如今在身价方面已能与凛相抗衡。即便需要支付天价转会费,追求他的俱乐部依然络绎不绝。就连以凛为核心射手的 PXG 俱乐部,也曾是渴望得到洁的众多追求者之一。

 それも潔がチャンピオンズリーグ優勝の立役者であり、且つドイツ時代は二年目に所属クラブを世界一に押し上げることに貢献しているからだ。
这皆因洁不仅是欧冠夺冠的功臣,更在效力德甲的第二年就帮助所属俱乐部登顶世界之巅。


「早速だけど入れて貰ってもいいか?」  "虽然很突然,能让我加入吗?"
「どうして入れて貰えると思った? 帰れ」  "你凭什么觉得能加入?滚出去"
 新年早々ロードワークを済ませて、オフをどう過ごそうかと思案していた所だった。
新年伊始刚完成路跑训练,正琢磨着怎么度过休息日。

「まぁまぁ!……なぁ凛、正月らしいことしようぜ」  "哎哎!……我说凛啊,咱们做点有新年气氛的事吧"
 時間頂戴と、手に持っていた箱を潔は持ち上げて顔の横で掲げる。
洁说着"借点时间",把手里拿着的箱子举到脸旁晃了晃。

「何持ってきた」  "你带了什么来"
「ガレット・デ・ロワ!」  「国王饼!」
 ガレット・デ・ロワ。日本語訳では「王様の菓子」。幸せを呼ぶフランスの伝統の焼き菓子だ。
 国王饼,日语译为「王様の菓子」。这是能带来幸福的法国传统烘焙点心。

 このガレット・デ・ロワは、パイ生地の中にアーモンドクリームがたっぷり入ったさっくりと狐色に焼かれたお菓子で、本来は一月六日の公現節に家族団欒で切り分けて食される特別なケーキなのだ。とはいえ一月中に食べればよいという風潮があり、昨今では必ずしも六日に食べなくてはいけないという訳でもないのだという。
 这种国王饼是用酥皮包裹着满满的杏仁奶油馅,烤至金黄松脆的甜点。原本是 1 月 6 日主显节时全家人分食的特殊蛋糕。不过现在只要在一月份食用即可,据说近年也不一定非要在六号当天品尝。

「あぁ、それな」  「啊,确实」
 凛はその焼き菓子の存在をフランスに住んで数年になるので一応知っている。だがその焼き菓子は砂糖と小麦粉、バターをふんだんに使ったリッチなお菓子であるので、情緒のない言葉で言い表すのならば糖質と脂質の塊なのだ。ストイックな凛がシーズン真っ只中に食すには忌避感を持つ代物だ。
凛在法国生活了几年,对这款烤制点心还算有所了解。但这种大量使用砂糖、面粉和黄油的奢华甜点,用不带感情的话来说就是糖分与脂肪的结晶。对于严于律己的凛而言,在赛季期间食用这种食物实在令人抗拒。

 確かに郷に入っては郷に従えという言葉があるが、それでもどうしても取り組めないというものは存在する。
虽说入乡随俗,但总有些实在无法妥协的事物。

「……太る」  "......会发胖的"
「やっぱり駄目かぁ」  "果然还是不行啊"
 潔が眉を下げた。体型維持と栄養管理はアスリートであるので厳密に行わなければいけないのだが、日々運動を欠かせないストイックさがあり、軽量などがある階級の存在するスポーツや厳しい体重管理を要するフィギュアスケートとは異なるので、実際には焼き菓子一切れを食したところで何処まで太るのかという疑問が残るところでもある。
洁皱起了眉头。作为运动员必须严格执行体型管理和营养控制,但他有着每日坚持运动的苦行僧般自律,与那些存在轻量级分类的运动项目或需要严格体重控制的花样滑冰不同,实际上吃一小块烘焙点心究竟能胖到哪里去,这个疑问始终萦绕在心头。

「駄目元で持って来たのかよ」  "你这是抱着死马当活马医的心态带来的吧"
 凛が断ることは織り込み済みであったような素振りの潔。無理に進めようとはせずに引き下がるところは流石、芝生から降りれば人好きされる潔の性質だ。
洁早已预料到凛会拒绝的样子。见好就收不再强求,不愧是那个从草坪上走下来就会让人心生好感的洁。

「……わざわざ買って来たんだろ。一口くらい食ってやってもいい」
"......特意买来的吧。赏脸吃一口也不是不行"

 新年という特別な節目である。一口なら付き合っても体重の増減には当たらないだろう。あくまでもこれは潔を甘やかすだけであって決して己への節制を緩めたという訳ではない。
新年这个特别的时节。尝一小口的话应该不会影响体重增减。说到底这只是纵容洁而已,绝非放松了对自己的节制。

「! やった!」  "!太好了!"
 凛、皿と包丁出して! と明るい声音で厚かましさを発揮した訪問者に、内心で前言を撤回してやろうかという気持ちになったのは内緒だ。
"凛,把盘子和刀拿来!"面对这位用爽朗声音厚着脸皮提出要求的访客,我暗自思忖着要不要收回前言。



 箱を開けて出て来たのは小振りなガレット・デ・ロワ。焦げ目は少々濃いだろうか。とはいえ特段焦げているという具合でもないので、凛はこんなものかと微かな違和感を流した。
打开盒子取出的是小巧的国王饼。焦痕似乎略深了些?不过倒也说不上烤焦,凛便把这微妙的违和感当作是正常现象。

「凛はさ、ガレット・デ・ロワに運試し的な要素があるって知ってる?」
"凛,你知道国王饼里藏着考验运气的彩头吗?"

「あ? 知らねぇよ、くだらねぇ」  "哈?不知道,无聊透顶"
 運試しだの幸運だの、まだそんなことを言っているのかと凛は胡乱な視線を潔へ向けた。そんな凛の視線を受け取ることもせずに、芝生の上では生温さとは無縁となった苛烈でいっそ冷酷さを持ち合わせるような男が、器用にパイを切り分けて行く。
凛向洁投去将信将疑的目光——这人居然还在说什么运气测试、幸运降临之类的鬼话。洁对这道视线浑然不觉,只是以与草坪温度截然相反的冷酷姿态,娴熟地切分着馅饼。

「実はガレット・デ・ロワには『フェーヴ』っていう陶器の人形が入ってるんだってな」
"其实国王饼里藏着叫'蚕豆小人'的陶瓷玩偶呢"

「『そら豆フェーヴ』?」  "『蚕豆』?"
「フランス語では確かに、そら豆だな。昔は本物のそら豆が入ってたらしいんだけど、今は陶器の人形なんだって。因みに、国や地域によってはコインだとか指輪だとかを入れたりする所もあるらしいよ」
"法语里确实叫蚕豆。据说以前里面放的是真蚕豆,现在换成陶瓷人偶了。顺便说下,有些国家和地区还会往里面放硬币或戒指呢。"

 ケーキの中に「フェーヴ」を忍ばせて焼き、切り分けられたものを食し、もしもフェーヴが入っていた場合は、フェーヴを得た者が「王」になれるのだという。
蛋糕里藏着"蚕豆"一起烘烤,分食时谁吃到藏有蚕豆的那块,谁就能成为当天的"国王"。

「フェーヴが当たったらどうなるんだ」  "要是吃到蚕豆会怎样?"
「フェーヴが当たった人は王冠を被って祝福を受ける。すると幸運が一年間続くらしい」
"抽中蚕豆的人要戴上王冠接受祝福。据说这样幸运就会持续一整年"

「王冠は?」  "王冠呢?"
 潔が用意したのはケーキだけ。  洁准备的只有蛋糕。
「俺らに必要?」  “我们需要这个吗?”
 凛の問い掛けに「王冠は不要だ」とばかり告げる。どれがいい? と問われた凛は「小せぇのでいい」と静かに呟く。
面对凛的询问,他斩钉截铁地表示"王冠不需要"。当被问及想要哪个时,凛轻声低语:"小的就好"。

「幸運は、突然降って来るものじゃない。正しく引き寄せなくちゃいけない」
"幸运不会突然从天而降。必须正确地吸引它才行"

 切り分けられたガレット・デ・ロワを乗せた皿が凛へと渡される。その相貌は息を呑む程に美しい青。サファイアのような煌きは凛を照らし出し、ただケーキを渡されただけだというのに、その行為は神聖さを帯びていた。
盛着切好的国王饼的盘子被递到凛手中。那湛蓝的色泽美得令人屏息,如蓝宝石般的光辉映照着凛。明明只是递了块蛋糕,这个动作却带着神圣的仪式感。

「わかってんだろ?」  "你明白的吧?"
 年が明けた今年は二〇二六年。つまりはワールドカップが開催される年だ。
2026 年新年伊始,正是世界杯举办之年。

「言われるまでもねぇ」  "还用你说"
 潔の言わんとしていることなど言葉にされずとも理解している。優勝のために死闘を尽くし、世界一のストライカーを目指す。手っ取り早い方法はワールドカップで誰よりもシュートを決めることだ。そのためには最後まで試合をする必要がある。つまり決勝戦で試合をすること。それが一番シュートを打つための舞台に上がれる最短且つ単純で明快な方法。
即便洁不把话说透我也心知肚明。为夺冠殊死搏斗,誓要成为世界第一前锋。最快捷的方法就是在世界杯上比任何人都多进球。为此必须战至最后——也就是站上决赛舞台。这才是获得最多射门机会的最短捷径,简单明了。

「お前こそ、元日から『運試し』なんてふざけたことしてんじゃねぇよ」
"你才该反省,大年初一搞什么'运势占卜'的蠢把戏"

 潔は今クラブの同僚で情を通じ合わせている仲だ。時折お互いの家を行き来して食事をしたりオフを過ごす仲ではあるが、その根底にはやはりライバルへの闘志が存在している。
洁现在和俱乐部的同事保持着亲密关系。虽然偶尔会互相串门吃饭、共度闲暇时光,但彼此心底仍存在着竞争对手的斗志。

「ちげぇよ凛。運試しじゃない」  "你错了凛。这不是运气测试"
「はぁ?」  "哈?"
「お前のケーキにはフェーヴが入ってる。探してみ?」
"你的蛋糕里藏着幸运豆。要试试找找看吗?"

 潔の宣言に花緑青の瞳が見開かれる。  洁的宣言让花绿青瞪大了双眼。
 言われた通りに疑うような眼差しの凛。ガレット・デ・ロワに突き入れたフォークの先。何かが当たる、カチンとした音。
 凛用充满怀疑的眼神望向所指之处。插入国王饼的叉尖碰到了什么,发出"咔"的清脆声响。

「な……」  「这......」
 フォークで取り出せばそれは陶器の人形。   用叉子挑出来的,竟是个陶瓷人偶。
「なんでか、知りたい?」  "想知道为什么吗?"
 沈黙する凛の表情は言葉よりもずっと雄弁だ。  凛沉默的表情比任何言语都更具说服力。
「これな、俺が作ったんだ」  "这个啊,是我做的"
 カラクリは簡単。潔自身が作り、作った本人が切り分けたのだからフェーヴを忍ばせた場所に潔だけが分かる目印を付けておき、そこを切って渡せば良いという仕掛けだ。
机关很简单。因为是洁自己制作并切分的,所以只要在藏有蚕豆的位置做上只有洁知道的标记,然后切下那块递过去就行了。

 凛は食事とカロリー、栄養に関しても厳しく管理している。「一口だけ食べる」と譲歩した凛であるが、そうなることはある程度織り込み済みだった。
凛对饮食、热量和营养都管控得极为严格。虽然做出了"只吃一口"的让步,但这种结果早在他预料之中。

 もしも自ら「少しなら食べてやる」と言い出さなければ、正月の縁起物だから一口だけ、と潔は「お願い」するつもりだったのだ。何故ならば、オフの時に下手に出た潔のお願いを凛は十中八九断らないからである。
如果对方不主动说出"稍微吃一点也行"这种话,洁原本就打算以"新年讨个吉利就尝一口"为由请求凛。因为休赛期时,只要洁低声下气地请求,凛十有八九都不会拒绝。

「図ったな」  "你算计我"
「幸運は、自分で手繰り寄せるもんだろ? それに、安全なもの食べて貰いたいじゃん」
"幸运要靠自己争取不是吗?再说了,我想让你吃点安全的东西嘛"

 自分で作ったガレット・デ・ロワを口へ運ぶ。アーモンドクリームの香りが鼻いっぱいに広がる。
将亲手制作的国王饼送入口中。杏仁奶油的香气在鼻腔中弥漫开来。

「かなり小さく作ったんだけど、確かにこれ全部食ったらやばいかも。今日はランニング増やさないとなぁ」
"虽然特意做得很小,但全部吃完确实会出问题呢。今天得增加跑步量了"

 呑気に笑う潔に凛は頬杖をついた。  看着洁无忧无虑的笑容,凛托起了腮帮。
「……うまかった」  "......很好吃"
「褒めてくれんの? さんきゅ、凛」  "要夸我吗?谢啦,凛"
 悪戯が成功したと言わんばかりの、小憎たらしいたらしい程に無邪気な微笑み。その裏にこの世で一番のエゴイズムが潜んでいることを凛は知っている。
那笑容天真得近乎可恶,仿佛在宣告恶作剧大获成功。凛深知这笑容背后藏着世上最极致的自我主义。

「恋人の作ったもんを褒めるくらいはできる」  "夸夸恋人做的东西还是做得到的"
「あ、そういう?」  "啊,是这种说法?"
「但し」  "不过"
 凛がフェーヴを掲げる。  凛高举着瓷偶。
「俺に此れを入れたってことは、俺を王にするってことでいいんだな潔」
"既然你把这个给了我,就意味着要让我当国王对吧,洁"

 剣呑に光る対のエメラルド。その鋭い視線が潔の視界をチカリと瞬かせた。殺気にも似た威圧感と、憤怒混じりの闘志。鋭利な其れを一身に浴びて潔はもっと己を輝かせようと研磨する。それはまるで原石をカットして煌く宝石にしていくかのように。
那双翡翠般危险发光的眼眸。锐利的视线让洁的视野为之一眩。近乎杀气的压迫感,混杂怒意的斗志。被这般锋芒直指的洁反而更加打磨自身的光辉。就像将原石切割成璀璨宝石的过程。

「このガレット・デ・ロワは、フェーヴを獲得して『王』になった人はその場で一緒にガレット・デ・ロワを食べてる人の中から、女王様か王様を選ばなくちゃいけない慣習があるらしいんだよ」
"听说这个国王饼有个传统习俗,抽到小瓷偶成为『国王』的人,必须当场从一起分享国王饼的人里选出一位女王或国王呢"

「…………あ゙?」  "…………啊?"
 実際は、男性がフェーヴを獲得した場合は女性を「王」に選び、女性が獲得したら男性を「王」に選ぶというのが一般的だ。だがここでは凛の他には潔しかいない。つまり王である凛は、潔を「王」に選ばなくてはいけないのだ。
实际上,按惯例若是男性抽中瓷偶就选女性当"国王",女性抽中则选男性。但此刻在场除了凛就只有洁。也就是说身为国王的凛,必须选择洁作为"国王"。

「お前が新たに選ぶなら、俺しかいないだろ?」  "如果要选新国王的话,除了我还能有谁?"
「殺す……」  "杀了你……"
「お前に殺意向けられるなんて慣れっこ。もっと来いよ」
"早就习惯你这种杀意了。尽管放马过来"

 余裕そうに潔はケーキを啄む。  洁从容不迫地啄食着蛋糕。
「……チッ!」  "……啧!"
 不機嫌さを隠さない凛の盛大な舌打ち。  凛毫不掩饰不悦地咂了个响舌。
 この男にはいつも調子を崩される。崩れされた情緒は悪い方に転がるどころか最終的には凛の進化に繋がるからこそ悔しくて厄介なのだ。
 这个男人总能把他的节奏打乱。被打乱的情绪非但不会往坏的方向发展,最终反而会促成凛的进化,正因如此才格外令人懊恼又棘手。

「愛おしい俺の王様。その王座から引き摺り下ろすから、せいぜい良い子で待ってろよ」
"我亲爱的国王陛下。既然要把你从那王座上拽下来,就给我乖乖等着当个好孩子吧"

 ダーリン? と潔が挑発的な言葉で凛の逆鱗をなぞる。しかしその逆鱗を刺激してもなお無傷でいる潔にとっては、きっと逆鱗ではなく龍の立髪を撫でている感覚に過ぎないのだろう。
 亲爱的?洁用挑衅的话语轻抚着凛的逆鳞。但对即便刺激逆鳞也能全身而退的洁而言,这恐怕根本算不上逆鳞,不过是捋了捋龙须罢了。

 孤独を愛する凛を、潔はいつだって許してくれない。チラチラと明るく視界の中で輝く光。それは過去の絶望さえ霞ませる程に鮮烈な……。
爱孤独的凛,洁从来都不允许。那在视野中闪烁的明亮光芒,强烈到连过去的绝望都黯然失色……

 潔は「喰う」時の方が絶大な力を発揮する。故に挑戦者の立場にあった方が潔にとっては好都合なのだ。彼は馬狼皇帝カイザーも引き摺り降ろした革命者。王座にいる有力者を魔王の如き悍ましさと傲慢さで引き摺り落としにやって来る。けれども常にこの男の視界の前に在って超えていなければ気が済まない。
洁在"吞噬"时能发挥出最大的力量。因此对他来说,站在挑战者的立场更为有利。他是将国王与皇帝都拉下马来的革命者。以魔王般的凶悍与傲慢,前来推翻王座上的强者。但若不始终存在于这个男人视野前方并超越他,他就不会罢休。

「クソ潔、覚悟しておけよ」  "混蛋洁,给我等着"
「そっくりそのまま凛に返すよ」  "我会原封不动还给凛的"
 獰猛な顔で潔の手を取った。噛み付くような乱暴なキスに慣れた手つきでゆったりと凛の後頭部に潔は手を添えた。
凛用凶悍的表情抓住洁的手腕。面对这个如野兽撕咬般粗暴的吻,洁却以娴熟的手法温柔托住了凛的后脑。

 先程までの真剣で喰ってかかるような潔の勇猛さは鳴りを潜め、途端に恋人としての甘い表情で凛の顔を見詰めるのだ。
 方才那个剑拔弩张、充满攻击性的勇猛洁突然收敛锋芒,转瞬间就用恋人特有的甜蜜眼神凝视着凛的脸庞。

 この小癪な恋人が己だけを視界に移して、甘えて、少し狡猾なことをしても許されると信じているのだと思うと、凛は堪らなく独占欲と征服欲が満たされてしまう。易い男にはなりたくないのに、潔相手にはそうも言っていられない。
 想到这个嚣张的恋人只把视线聚焦在自己身上,撒娇耍赖甚至做些小奸小恶都被纵容,凛的独占欲与征服欲便得到难以言喻的满足。明明最厌恶成为轻易被拿捏的男人,可面对洁时却根本把持不住。

「……っ、……ふ」  「……嗯、……呵」
 砂糖の甘さも鼻に抜けるバターの風味も、何もかもが己のために潔が誂えたのだと思うと凛は慢性的に感じる飢餓感が満たされるのがわかる。
当意识到连砂糖的甜腻与黄油飘散的香气都是洁特意为自己准备时,凛感到常年盘踞的饥饿感正被逐渐填满。

「ンん……は、……ぁ」  "嗯……哈……啊……"
 何故か好きになってしまった潔への愛おしさと憎しみに近い気持ちが綯交ぜになり、凛の腹の底は苛立ちを覚える。
对不知为何爱上的洁那份怜爱与近乎憎恶的情绪交织在一起,凛的腹腔深处泛起阵阵焦躁。

 惚れたのは潔が最初なのか凛が最初なのか、それは未だに分からない。気が付いた時にはお互いに焦がれ合っていたのだろう。凛と同じクラブに潔の移籍が決まりパリにやって来たその日の夜に、衝動的に自宅を訪れた凛を潔は無言で迎え入れた。そして暑さの残る夏の夜、雪崩れ込むように関係は始まったのである。離れ離れになっていた片割れが戻って来たかのように、しっくり一つになる感覚を潔も感じ取ったのだろう。どちらからともなく唇をきつく吸って肌に手を這わしたのである。
究竟是谁先坠入情网,是洁还是凛,至今仍无定论。或许当两人察觉时,早已深陷相思之苦。在洁确定转会至凛所在俱乐部、初抵巴黎的当晚,冲动登门造访的凛被洁沉默地迎入屋内。于是暑气未消的夏夜里,他们的关系如雪崩般骤然开始。就像离散的另一半终于归位,洁想必也感受到了那种严丝合缝的契合感。不知是谁先用力吮吸对方的唇瓣,也不知是谁先让手掌在肌肤上游走。

 毎度事に及ぶ時に組み敷いているのは凛の方であるのに、何故だがいつも若干余裕がある潔の態度が凛にとっては面白くない。それでも彼の手を引いて、棘ばかりの己性分を丸ごと愛する心を持つ潔世一を身体ごと独り占めしたくなってしまうのだから、恋の駆け引きにおいては敗北続き。サッカーで勝てばいいのであって、恋愛方面において負けるのは一向に構わない。それで潔の存在を手中に収めておけるのならば。
每次被推倒的都是凛,但不知为何洁那副游刃有余的态度总让他莫名不爽。即便如此,他还是会牵起那只手——想要独占这个连自己满身尖刺都全盘接纳的洁世一,从身体到灵魂。恋爱博弈中他总是一败涂地,不过足球场上能赢就够了,情场失意根本无所谓。反正这样就能把洁牢牢攥在手心里。

 口付けから解放された潔が、凛の唇を最後に舌先でペロリと舐めた。その仕草一つとってもそうだ。雄弁な潔の眼差しは飄々と凛を誘うかのよう。
结束深吻的洁最后用舌尖轻舔过凛的唇瓣。单是这个动作就够要命了。那双会说话的眼睛飘忽地引诱着凛。

「ン……甘いな、凛♡」  "嗯……好甜啊,凛♡"
 端へ垂れた唾液を親指で拭って、ちぅと舐め取って艶然と目を細めたのだった。
他用拇指抹去对方嘴角的银丝,轻吮指尖眯起眼睛,眸光流转间尽是风情。


 ――ガレット・デ・ロワ王様〝達〟のお菓子  ――国王饼


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    2024年9月8日回信  2024 年 9 月 8 日回信