俺は毎朝犬を連れて朝の海辺を散歩する。朝日を反射する水面に今更感動することなどない。目線を落とし砂浜をザクザクと歩きながら、早く帰って朝ご飯を食べたいなーなどと思う。
我每天早晨都会带着狗在海边散步。对反射着朝阳的水面早已不会感到新鲜。低头踩着沙沙作响的沙滩前行时,满脑子只想着快点回家吃早饭。
「あ」 "啊"
その時、視界の端にきらりと光ったものが見えて俺はその場にしゃがみこんだ。砂に手を突っ込みそれを拾う。ガラスだ。波に揉まれて角が取れて丸くなったガラス。朝日を反射してきらきらと光っている。その青色のガラスを、俺はズボンのポケットに入れた。
就在这时,视野边缘突然闪过一道微光,我当即蹲下身来。将手插进沙砾中拾起那个物件。是玻璃。被海浪打磨得圆润光滑的玻璃碎片。此刻正折射着晨光闪闪发亮。我把这片湛蓝的玻璃塞进了裤袋。
立ち上がり、顔を上げる。 起身抬头时,
「あ」 「啊」
俺が気付くのと犬がワンと鳴くのは同時だった。浜辺の向こうから人間が二人と犬が一匹こちらに歩いてくるのが見えた。
我注意到的时候和狗叫"汪"是同时发生的。看见海滩对面有两个人牵着一条狗朝这边走来。
「コーチとよっちゃん」 「教练和由酱」
声をかけると向こうも「おはよー」と返事をしてくれた。ちなみにコーチは無言だ。コーチとよっちゃんの手はしっかりと握られている。この二人はいつもそうだ。外を歩く時はいつも手を繋いでいる。うちの母さんは「新婚さんだもんねぇ」とどこか羨ましそうに言っていた。
我打招呼时,对方也回应道"早上好"。顺带一提教练没出声。教练和由酱的手紧紧相握着。这两人总是这样。外出时永远牵着手。我家老妈曾用略带羡慕的语气说过"毕竟是新婚夫妇嘛"。
コーチの家の犬と俺の家の犬が戯れ始めるのを三人で見守る。コーチの家の犬は大型犬で、うちの犬は中型犬なのでいつも押し潰されたようになってしまう。
我们三个人看着教练家的狗和我家的狗开始嬉戏打闹。教练家的是大型犬,我家的是中型犬,所以总被压得扁扁的。
その時、よっちゃんが俺に言った。 这时,小耀突然对我说。
「これあげる。さっき拾った」 "这个给你。刚捡到的"
はい、と手渡されたのはガラス。緑色で綺麗な丸い形をしていた。俺がシーグラスを集めているのをよっちゃんは知っている。俺は「ありがとう」と言ってそれを受け取りポケットにしまった。ポケットの中で、俺がさっき拾った青色のガラスとよっちゃんがくれた緑色のガラスがぶつかり、カチリという音が鳴った。
"好",递过来的是一块玻璃。翠绿色的,形状圆润漂亮。小耀知道我有收集海玻璃的习惯。我道了声谢谢,把它收进口袋。口袋里,我刚捡的蓝色玻璃和小耀给的绿色玻璃轻轻相撞,发出清脆的咔嗒声。
「シーグラス綺麗だよなぁ。俺も集めたいんだけど、凛がいらないって言うんだよなぁ」
"海玻璃真漂亮啊。我也想收集来着,可凛说不需要呢"
「……ゴミになんだろ」 "......不就是垃圾嘛"
「ほらな」 "你看吧"
コーチの言葉に怒った風でもなくよっちゃんが笑う。二人はあっという間に俺のことなど視界から消して二人の世界に入ってしまう。俺がいても手はしっかりと握られたままで、よっちゃんがコーチの肩に頭をこてんと乗せて甘えている。
面对教练的话,小悠非但不生气反而笑了起来。转眼间两人就把我抛在视线之外,沉浸在他们的小世界里。即便我在场,他们依然十指紧扣,小悠把脑袋轻轻靠在教练肩上撒娇。
「今日も海綺麗だなー」 "今天的大海也好美啊——"
よっちゃんに言われて海に目を向ける。コーチもここに引っ越してきて長いから、俺と同じく海に対してもう何も思っていないのが分かる。
听到小优这么说,我望向海面。教练搬来这里也很久了,我能看出他和我一样对大海已经毫无感触。
この場でよっちゃんだけが、海を見ながら目をきらきらと輝かせていた。
此刻只有小优望着波光粼粼的海面,眼睛闪闪发亮。
俺は割とよっちゃんに気に入られている方だと思う。というかそう思っている奴は多い。よっちゃんは誰かを特別扱いするのが上手いのだ。ただ、そんな中でも一番の特別扱いはコーチだけど。
我觉得自己算是比较受小优待见的。或者说这么想的人很多。小优特别擅长让人感觉自己与众不同。不过说到底,最特别的待遇永远只属于教练。
「俺さ、ずっと凛に片思いしてたんだよなー」 "我啊,其实一直单恋着凛呢"
サッカークラブの練習中、座って練習試合を観戦している俺の横によっちゃんも座って言った。よっちゃんはこのクラブの正式なコーチではないけれど、ほぼ毎日のようにクラブに顔を出して指導をしてくれる。コーチとよっちゃん、二人の元日本代表選手がコーチをしてくれるこのクラブの噂は口コミで広がり、随分と所属メンバーが増えた。市を跨いで通ってくる奴もいるくらいだ。そのせいでなかなか試合に出られなくなっちゃったのが俺だけど。だからよっちゃんはよく俺に目を掛けてくれるのだと思う。
足球俱乐部训练时,正坐着观看练习赛的我身旁,阿洋也坐下来这么说道。阿洋虽不是俱乐部的正式教练,却几乎每天都来指导训练。由教练和阿洋这两位前日本国脚执教的俱乐部口碑相传,成员数量激增,甚至有人跨市前来参加。虽然这导致我很难获得上场机会,但阿洋总是特别关照我。
「ずっとって今も?」 "一直...包括现在也是?"
「そう。結婚はしたけど、今も俺の方がずっと凛のことを好きだと思う。だからある意味片想いなんだよ」
"是啊。虽然她已经结婚了,但我至今还是比任何人都更喜欢凛。所以从某种意义上来说,这依然是单恋呢"
そんな風には見えないけど、と俺は呟いた。言わせてもらえばコーチもだいぶよっちゃんのことを好きだ。だってあのコーチがよっちゃんと外にいる時は常に手を繋いで歩いてるんだぞ。こっちに引っ越してきたばかりの時「俺に無闇に近付いたら殺すぞ」みたいな凶悪な顔をしていたあのコーチが。
虽然看起来不像这样,我低声说道。要我说的话,教练其实也挺喜欢小耀的。因为那位教练和小耀外出时总是牵着手走路啊。明明刚搬来这边时还摆着张"敢随便靠近我就宰了你"的凶恶面孔呢。
「この前、どっちの方が相手のことをより好きかって内容で凛と喧嘩した」
"前几天,我和凛为了'谁更喜欢对方'这种事吵了一架"
よっちゃんは練習試合を眺めながら言う。でもその視線はチラチラとコーチを追っているのが分かる。
小好望着练习赛说道。但我注意到她的视线总是偷偷追随着教练的身影。
「バカップルじゃん」 “真是对笨蛋情侣呢”
「結構本気の喧嘩だった」 "那场架可是动真格的"
「喧嘩って言わないよ、そんなの」 "才不叫打架呢,那种事"
そんなの喧嘩じゃなくてただの惚気だ。でも当人たちはきっと真面目に喧嘩しちゃったのだろう。
那种程度根本算不上打架,纯粹是打情骂俏。不过当事人肯定都认真地当成吵架了吧。
「よっちゃんっていつからコーチのこと好きなの?」 "小优是从什么时候开始喜欢教练的呀?"
「んー。……俺と凛がブルーロックってところにいたのは知ってる?」
"嗯……你知道我和凛曾经在蓝色监狱待过吗?"
「知ってるよもちろん」 "当然知道啊"
少しでもサッカーを齧っていて、ブルーロックを知らない奴なんていない。
但凡稍微接触过足球的人,就不可能没听说过蓝色监狱。
「その時からかな。だから16,7年とか?それ以上経つかも」
"就是从那时候开始的吧。大概十六七年?说不定更久"
「すげー……」 "太厉害了……"
俺はいま10歳なので、俺が産まれるよりずっと前からよっちゃんはコーチのことが好きらしい。きっとコーチもそうだ。
我现在才 10 岁,所以早在我出生之前,小悦好像就喜欢教练了。教练肯定也喜欢她。
「大昔に一回さ、凛に告白しようとしたことあるんだよ、俺」
"很久以前啊,我有一次差点向凛告白了。"
よっちゃんは止まらない。きっとさっきよっちゃんが言っていた「どっちが相手のことをより好きかって凛と喧嘩した」って話は昨日とか一昨日とかそれくらい最近のことなのだろうと思った。これは惚気に見せかけた愚痴であり、まあ正真正銘の惚気だ。俺は大人しく聞いてあげることにした。
阿勇根本停不下来。我猜他刚才说的"和凛吵架争论谁更喜欢对方"这件事,大概就发生在昨天或前天这种很近的时间。这看似是在秀恩爱,实则是在抱怨——不过说到底还是货真价实的秀恩爱。我决定安静地当个听众。
「ブルーロックを出て、ヨーロッパリーグに行く直前にさ。勇気を振り絞って凛を呼び出して、カフェに行った。でも俺、その時はなんも言えなくてそのままメロンソーダだけ飲んで帰った。アイスが乗ってるやつ」
"就在离开蓝色监狱,即将前往欧洲联赛之前。我鼓起勇气约凛出来,去了咖啡厅。但那时候我什么都说不出口,最后只喝了杯带冰淇淋的蜜瓜苏打就回家了。"
「ふーん」 "这样啊"
「その時さ、俺、凛に言ったんだよ。『俺、すぐトップリーグに上がるから、俺が試合に出れるようになったら観に来てよ』って。あれがあの時出来る精一杯の告白だったんだけど」
"那时候我对凛说:'我很快就能升上顶级联赛,等我能够出场比赛时,你要来看哦'。那已经是当时我能做到的极限告白了。"
「コーチ、観に来た?」 “教练,你来看我了吗?”
「ううん。来なかった。俺なかなかトップリーグに上がれなかったし。凛もその次の年にはプロ契約して俺より忙しそうにしてたし。そもそもそんな約束、凛は忘れてると思う」
“没有。她没来。我一直没能打进顶级联赛,凛第二年就签了职业合约,看起来比我还忙。而且我觉得她早就忘记那个约定了。”
「聞いてみたら?」 “要不你问问看?”
「うーん。まあ機会があれば……」 “嗯...等有机会的话...”
そう言うけど、絶対聞かないだろうなと思った。よっちゃんにとってはそれは失恋の思い出らしい。
虽然这么说,但我觉得他肯定不会去问的。对阿良来说,那似乎是段失恋的回忆。
「プロになってからはコーチと会ったりしなかったの?」
"成为职业选手后就没再和教练见面了吗?"
「日本代表戦とか、あとチャンピオンズリーグで顔を合わせたりはしたけど。プライベートではほとんど会えなかったなー。……凛が引退した時さ。すげぇショックだったけど、もしかしたら引退して暇になったら俺の試合を観に来てくれるかもとか思ったんだよ」
"在日本队比赛和欧冠赛场上倒是碰过几次面。私下里几乎没怎么见过了......凛宣布退役的时候,我虽然大受打击,但转念一想说不定他退休后有空了会来看我比赛呢。"
「へぇ」 "诶"
そういや、引退はコーチの方が早かったんだっけ。 说起来,教练退役的时间更早来着。
「でも全然こねぇの。俺も意地になって、そのせいで俺はなかなか引退出来なかった」
"可完全不是那么回事。我也赌上气了,就因为这个我一直没法退休"
「あはは」 "啊哈哈"
「……ってのは冗談だけどね。半分本気。サッカー辞めなければ凛との繋がりも切れない気がしたんだよなぁ。俺らの繋がりってサッカーしかないし」
“……这话当然是开玩笑的。但也有一半是认真的。总觉得只要不放弃足球,和凛之间的联系就不会断。毕竟我们之间除了足球就什么都没有了。”
そういう話を、俺じゃなくてコーチにしてあげれば良いのに、と俺は思った。まあ本人には恥ずかしくて言えないから俺にこぼしているんだろう。
我心想,这些话要是说给教练听而不是对我说该多好。不过大概是因为她不好意思直接对教练说,所以才向我倾诉吧。
「お、そろそろ終わるな」 "哦,快结束了呢"
よっちゃんが呟き、立ち上がる。ちょうどそのタイミングで試合終了のホイッスルが鳴った。
小悠喃喃自语着站起身来。就在这个瞬间,比赛结束的哨声响起。
俺は、もっとよっちゃんの話を聞きたかったな、と思いながらのろのろと立ち上がった。
我慢吞吞地站起身,心里想着真想再多听小悠说说话啊。
サッカークラブの練習は俺が通う小学校のグラウンドで行われている。練習で使うボールとかコーンとかはグラウンドに近い1階の空き教室に片付ける。その日、後片付けも終わりあとは帰るだけ……となったところで、俺はグラウンドの片隅にぽつんと残されたボールに気が付いた。どうやら仕舞い忘れてしまったようだ。俺はそのボールを手に取り、空き教室に向かった。教室の鍵はもう閉められているかもしれない。そうであれば職員室に行かなくてはいけない。ちょっと面倒臭い。空き教室に向かい、扉を開けようとすると案の定、鍵が掛かっていた。
足球俱乐部的训练在我就读的小学操场上进行。训练用的足球和锥筒等器材都收在靠近操场的一间空教室里。那天,收拾工作已经结束,正准备回家时……我突然注意到操场角落孤零零地落着一个足球。看来是有人忘记收了。我捡起那个足球,朝空教室走去。教室门可能已经锁上了。那样的话就得去职员室拿钥匙,真麻烦。走到空教室前试着开门,果然如我所料,门已经锁住了。
俺は窓に手を掛けた。空き教室の窓は磨りガラスのようになっていて外からは中の様子が見えない。たまにこの窓は鍵を閉め忘れられていることがあって、今回もどれか一つくらい開いていないか、と俺は窓をいくつか揺らしてみる。と、真ん中ら辺の窓の一つがするすると音もなく開いた。
我把手搭在窗户上。空教室的窗户是磨砂玻璃的,从外面看不清里面的情况。偶尔会有几扇窗忘记上锁,我试着推了推几扇窗户,想着这次会不会也有一扇没锁。这时,中间位置的一扇窗户悄无声息地滑开了。
お、ラッキーと思いながら部屋の中を覗き込む。誰もいないと思っていた空き教室には人がいた。それも二人。
"啊,运气真好"——我边想边探头往教室里看。本以为没人的空教室里,居然有两个人。
コーチとよっちゃんだ、と俺はすぐに気が付いた。 我立刻认出来了,是教练和由酱。
二人は教室の窓際でキスをしていた。 两人在教室窗边接吻。
夕方なので窓からは夕陽が眩しいくらいに降り注いでいる。俺からは逆光で二人の表情までは見えない。ときおり、二人は顔を離して二、三言何かを喋り、そしてまた顔がくっつく。
正值黄昏,夕阳从窗户倾泻而入,耀眼得令人目眩。逆光中我看不清两人的表情。他们时而分开脸庞低语几句,随后又再度相拥而吻。
男同士のキスなんて初めて見たけど、別に嫌悪感などは湧かなかった。そもそもこの二人は常日頃から距離が近い。人前で流石にキスまではしないけど、まあしてもおかしくない距離感ではあった。
虽然第一次目睹男性之间的亲吻,却意外地没有产生厌恶感。毕竟这两人平日就举止亲密。虽说不会公然接吻,但发展到这一步倒也合乎他们之间的氛围。
仲直りしたのかな、と俺は思った。 我猜他们大概和好了吧。
どっちがよりどっちを好きか、の喧嘩。まあ俺からしたら、そんな喧嘩を出来る時点でお互い相手のことを十分過ぎるほど好きだと思う。この二人は言葉が足りないし、相手の感情に鈍すぎる。
关于"谁更喜欢谁"的争吵。要我说啊,能吵这种架本身就说明两人都爱对方爱得过头了。这两个人既不善言辞,又对彼此的感情太过迟钝。
コーチの手がよっちゃんの頬を撫でる。コーチの表情は見えないけど、きっと俺が見たことないくらい柔らかい表情をしているはずだ。
教练的手轻抚着阿亮的脸颊。虽然看不见教练的表情,但肯定是我从未见过的温柔神情。
――サッカーボールは出入り口の前にでも置いていこう。俺は窓をそっと閉めた。
——足球就放在出入口那边吧。我轻轻关上了窗户。
きっと帰る時に二人が気付いて片付けてくれるはずだ。俺はボールを鍵の閉まった扉の前に置いて、空き教室の前から立ち去った。
等回去时他们肯定会发现并收拾好的。我把球放在上锁的门前,从空教室门口离开了。
pixiv
Sketch
FANBOX
FANBOXプリント
pixivコミック
百科事典
BOOTH
FACTORY
pixivision
sensei
VRoid
Pastela