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LIAR STAGE 1/べる的小说

LIAR STAGE 1  骗子舞台 1

31,236字1小时2分钟

平和な日々が続いていたと思われたある日、とある事件が発覚する。それを追うために千空達は潜入することになり....
就在人们以为平静日子会持续下去的那天,某个事件突然曝光。为了追查真相,千空一行人决定潜入调查...


※原作最終巻まで読んでいない方はご注意ください  ※未阅读原作最终卷的读者请注意
※千空が女装します  ※千空将进行女装

【お知らせ】  【公告】
2025年7月13日(日)に開催されるスタチオンリー
将于 2025 年 7 月 13 日(周日)举办的同人志即卖会

『スコープ越しに見た空は』にてこのお話の再録+書き下ろし (R18)を加えたものを発行します。詳細は方の✕垢(@syabon513)にて告知いたします。
《透过镜片望见的天空》将收录本故事再录版+新增原创内容(R18)。详情请关注主办方✕账号(@syabon513)的通知。

スタ千オンリー開催おめでとうございます!  祝贺同人志即卖会成功举办!

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Prologue  序章


喧騒が消え、風の音と石畳をかつかつと歩く靴音だけが響く。街灯も住宅から漏れる光もまだらな小道を、男は上機嫌に歩いていた。時刻は深夜二時。友人に久しぶりに会えたことが嬉しくて会話に花が咲き、つい飲みすぎてしまったようだ。気がついたらとっくに日付が変わっており、そろそろ帰ろうとなったのが先程のこと。友人とは帰る方向が違ったので、一人で帰路に着く。
喧嚣散去,唯有风声与踏在石板路上的脚步声回响着。男人心情愉悦地走在路灯与住宅漏出的灯光斑驳交织的小径上。时值深夜两点。因难得与友人重逢而欢谈甚欢,似乎不慎饮酒过量。待回过神来早已过了午夜,方才决定该启程回家了。由于与友人返家方向不同,此刻正独自踏上归途。

文明はかなり復興しているが、街中の整備はまだまだといえよう。実際、今男が歩いている道は大通りではないので、街灯が少なく薄暗い。そのため自分以外、誰も人が歩いていない。大通りから外れた裏道は、雲に隠れているため月明かりもなく、ひっそりと暗い闇につつまれていた。
虽说文明已相当复兴,但城镇建设仍显不足。事实上,此刻男人行走的并非主干道,路灯稀疏光线昏暗。因此除他之外杳无人迹。偏离大路的巷弄因云遮月隐,被沉寂的黑暗彻底吞没。

その時、一際大きな風が吹く。もう春とはいえ、夜風はまだ少し冷たい。先程までは火照った体にはちょうどいいと思った風も、こうして歩いているうちに酔いが少し冷めてきたからか、段々と肌寒く感じてきた。早く帰って風呂に入ろう。そう思い男が足を早めていると、奇妙な香りが鼻をかすめた。このまままっすぐ帰るかどうか迷ったが、どうにも気になって香りを辿ってみる。そうして歩いていると、道端に人が蹲っているのを発見した。男は慌ててその人物に駆け寄る。
倏然一阵强风掠过。虽已入春,夜风仍带着几分寒意。方才还觉得这凉意正适合发烫的身体,但随着行走逐渐酒醒,渐渐感到肌肤生寒。还是快些回家泡澡吧。正加快脚步时,一缕异香掠过鼻尖。犹豫是否该径直返家,终究按捺不住循香探寻。行至中途,忽见道旁蜷缩着人影。男人慌忙向那人奔去。

「大丈夫ですか?どうしたんです?」  「你还好吗?发生什么事了?」
男は蹲っている人物の背中に手を添え、声をかけた。だが返事はない。横顔を見た限りの判断になるが、蹲っていたのは若めの男性のようだった。もう一度声をかけるが、やはり返事はない。それだけでなく目の焦点が合っていないようだった。
男子将手搭在蹲着的人背上出声询问。但没有回应。从侧脸判断,蹲着的似乎是位年轻男性。再次呼唤依然没有应答。不仅如此,对方的眼神似乎无法聚焦。

そこでようやく、男は異変に気付く。先程嗅いだ奇妙な香りが目の前の男からするのだ。本能的に危険を感じ、慌てて目の前の男から離れようとする。だがその瞬間、目の前の男の目と合ってしまった。横顔しか見ていなかったので気が付かなかったが、正面から見た男の目は血走っており、口の端から涎が溢れていた。どう見ても普通ではない。一刻も早く、ここから立ち去らなければ。そう思い、立ち上がりかけた時、肩に強烈な痛みが痛み尻餅をついてしまった。痛むところに目を向けると、肩から血が出ているではないか。回りきっていない頭のせいで、状況判断が上手くできない。だが少なくとも、今すぐこの場から逃げなくてはいけないということだけはわかる。べっとりと血の付いたナイフを握り、血走った目で自分を見下ろす目の前のこの異常者から。
这时男子终于察觉异常。刚才闻到的古怪气味正来自眼前之人。本能感到危险的他慌忙想要退开,却在瞬间对上了对方的眼睛——由于之前只看到侧脸未能发觉,此刻正脸相对时才看清,这人双眼布满血丝,嘴角垂着涎沫。怎么看都不正常。必须立刻离开。就在他刚要起身时,肩膀传来剧痛,踉跄着跌坐在地。看向疼痛处,肩头竟已渗出血迹。混乱的思绪阻碍了判断,但至少明白必须马上逃离。逃离这个手持沾血匕首、用充血双眼俯视自己的异常者。

痛む肩を抑えながらなんとか立ち上がり、震える体に鞭を打って駆け出す。男は唸り声のようなものをあげながら追ってきた。必死に走るが。だがチラリとうしろを振り返ると、相手が異様なスピードで追ってきていた。このままでは追いつかれるのも時間の問題だろう。もう駄目だ。そう諦めかけそうになったその時、背後で悲鳴と物凄い音が聞こえた。思わず振り返ると、先程まで自分を追っていた男が、つい先程まではいなかった金髪の男に取り押さえられ地面に伏せられていた。異常者は唸り声をあげながらもがいている。
他按着受伤的肩膀勉强站起,颤抖着双腿开始奔跑。身后传来野兽般的低吼声。拼命狂奔时回头一瞥,发现追赶者正以诡异速度逼近。这样下去被追上只是时间问题。就在快要放弃的瞬间,背后突然响起惨叫与重物倒地声。回头看见方才的追逐者已被一名金发男子制服在地,异常者发出呜咽声不断挣扎。

「うっせえから少し寝てな」  “吵死了,给我睡会儿吧”
金髪の男はそう言うと、異常者の首元に注射器のようなものを刺す。すると幾分もうちにその男は静かになった。恐らく麻酔の類だろう。
金发男子说完,便将注射器般的东西刺入那个疯子的后颈。没过多久,那人便安静下来。想必是麻醉剂之类的东西。

「例の物はありそうかい?」  “找到那东西了吗?”
危機一髪のところで助かったことに安心し、ひと息つこうとするも、今度は別の声が聞こえる。金髪の男の後の暗闇の中から出てきた男は、この場には似つかわしくないゆったりとした足取りで街灯の下へと出てきた。真っ黒なコートは今すぐにでも闇に溶け込みそうだ。
刚为千钧一发之际获救而松了口气,黑暗中又传来新的声音。从金发男子身后阴影里走出的男人,以与此地极不相称的悠闲步伐来到路灯下。纯黑大衣仿佛随时会融入夜色之中。

「いや、今回も外れだ。懐を探ってみたが、既に使用済みだったのか何も持ってねえ」
“不,这次又落空了。我摸了他的口袋,可能已经用过了,什么都没找到。”

「そうか。残念だが仕方ない。では、とりあえずその男だけ連れ帰るとしよう。運ぶのは君にお願いしてもいいかな、スタン」
“是吗。虽然遗憾但也没办法。那么,先把这家伙带回去吧。搬运的工作可以交给你吗,斯坦?”

「あいよ」  “好嘞。”
金髪の男は地面に倒れている男の腕を縄でしっかりと拘束した後、肩に担ぎ上げた。何がなんだがわからずその光景をただ眺めていると、もう一人の男の目が自分に向けられた。
金发男子用绳子牢牢捆住倒地男子的双臂后,将其扛上了肩头。正当我茫然注视着这一幕时,另一个男人的目光转向了我。

「とんだ災難だったようだね。怪我は痛むかな?」  「看来你遇到了不小的麻烦啊。伤口还疼吗?」
突然話しかけられたので、一瞬口籠もってしまったが、なんとか声を振り絞り返事をする。
突然被搭话,一时语塞,但还是勉强挤出了回应。

「か、肩が少し痛みますが、とりあえず大丈夫です」  「肩、肩膀有点疼,不过暂时还撑得住」
「そうか。念の為病院で見てもらった方がいい。今の時間だと、ここから歩いて十五分程のところに病院があるから、そこなら診てくれるだろう」
「这样啊。保险起见还是去医院看看比较好。这个时间的话,从这儿步行十五分钟左右有家医院,应该能接诊」

「あ、ありがとうございます」  「啊,谢谢您」
「では僕達は急ぐので失礼するよ。良い夜を」  「那我们就先告辞了,赶时间。祝您有个美好的夜晚」
そう言うと銀髪の男と金髪の男の二人組は夜の街中へと消えてしまった。一体何者だったのだろうかわからないままだが、彼らのおかげで命拾いをしたのは間違いない。今夜は次から次へと奇妙なことが起こって疲れてしまった。このまま家に帰って早く寝てしまいたい。だがまずはこの肩の傷をどうにかしなくてはならない。男は肩を押さえながら立ち上がると、銀髪の男が教えてくれた病院に向けて歩き出したのだった。
说完这句话,银发男子和金发男子的组合便消失在夜色中的街道上。至今仍不清楚他们究竟是什么人,但多亏了他们才捡回一条命确是事实。今晚接二连三发生的怪事让人精疲力尽。真想就这样直接回家蒙头大睡。但首先必须处理肩膀的伤口。男人按着肩膀站起身,朝着银发男子告知的医院方向走去。


ep01

「千空ちゃんおっつー!ここ座っちゃってもいいかしら?」
“千空酱好呀~!我可以坐这里吗?”

食堂で遅めの昼食をとっていた千空の目の前の席に、軽快な声と共に登場したゲンが腰を下ろした。飲まず食わずでタイムマシン作りに没頭していたところ、クロムに”いい加減休んでこい”と言われ、一人食堂で昼食をとっていたのだった。
食堂里,正在享用迟来午餐的千空面前,随着轻快的话音,幻一屁股坐了下来。原本废寝忘食埋头制造时间机器的他,被克罗姆一句“差不多该休息了”赶来食堂独自用餐。

「よお、メンタリスト。ちょいと久しぶりじゃねえか」
“哟,读心术大师。可有些日子没见了”

「こう見えても俺結構忙しいのよ?千空ちゃん俺のことこき使うんだもん」
“别看我这样其实超忙的哦?千空酱老是把人家当工具人使唤嘛”

文明復興後、外交官として世界中を飛び回っているゲンは日本にいないことが多い。流石に以前のように数年日本に帰って来れないといった状況ではないものの、数ヶ月ぶりに会うなんてことも珍しくなかった。
文明复兴后,作为外交官在世界各地奔波的幻经常不在日本。虽然不至于像从前那样数年都回不了日本,但时隔数月才能见上一面也并不稀奇。

「てめえにしか頼めないことだ。精々頑張りやがれ」  "这件事只有你能办。给老子好好干"
「ドイヒー!でも千空ちゃんにそこまで言われたら、やるしかないのよね...俺って案外チョロいな...」
"真是的!但被千空酱这么一说,也只能硬着头皮上了呢...我意外地好搞定啊..."

「何ぶつぶつ言ってんだ」  "嘀咕什么呢"
「大したことじゃないから気にしないで!そういえば、タイムマシンの方はどう?」
"不是什么大事,别放在心上!对了,时间机器那边进展如何?"

「まだまだ模索中ってところだな。とにかく色々試しまくってる」
"还在摸索阶段呢。总之就是不断尝试各种方法"

文明復興と両立して、千空達科学者チームはタイムマシン作りに挑んでいる。だがそう簡単にはいかないことばかりで、日々奮闘しているところだ。
在复兴文明的同时,千空率领的科学团队正致力于时间机器的研发。但事情总没那么简单,他们每天都在奋力攻关。

「そっかそっかー。てか千空ちゃん、ちゃんと休んでるの?スイカちゃんから千空ちゃんがいっつも夜遅くまで一人で残って作業してるって聞いたよ。倒れてからじゃ遅いんだからね」
"这样啊这样啊。话说小千空,你有好好休息吗?从西瓜那里听说你总是独自工作到深夜哦。等累倒了可就晚啦"

「お前は俺の母親か。流石に寝ないと効率も下がるからな。最近は日付超える前には帰ってるわ」
"你是我妈吗?不过确实不睡觉效率会下降。最近我都在日期变更前就回来了。"

「そんな夜遅くまで残ってるの!?体力的にも心配だけど、人間もこんだけ復活してるから変質者の一人や二人いてもおかしくないのよ。夜中だとそういう輩もいるだろうし、襲われたりしないか心配で。ほら、千空ちゃんって悪い方の意味で引きがいいから」
"你居然待到这么晚!?虽然担心你的体力问题,但现在人类都复活了这么多,就算出现一两个变态也不奇怪。深夜时分那种人肯定不少,我好担心你会不会遭遇袭击。毕竟千空君你可是在糟糕的意义上特别招人喜欢呢。"

「俺みたいな野郎を襲うなんてよっぽど相手に困ってるホモか、相当ぶっ飛んじまってる奴くらいだろ。そんなん出会う確率の方が低いわ」
"会袭击我这种家伙的,要么是饥不择食的基佬,要么就是彻底疯了的混蛋吧。遇到这种人的概率可比中彩票还低"

「うーん、今までの経験上こういう会話の後が一番不安なのよね。フラグ立ちまくりっていうか...」
「唔...根据以往的经验,这种对话之后最让人不安了。简直就像立满了 flag 一样...」

念の為、千空のことを気にかけるよう誰かしらに言っておいた方がいいかもしれない。本当はゲン自身がもっと気にかけてやりたいところだったが、自分の仕事が忙しいのと、いざという時自分では千空を守りきれない可能性の方が高い。そうなると、ある程度腕の立つ者にお願いしておいた方が安心だろう。特に危機感を抱かずにいる様子の千空を見つめながら、ゲンはそう決心したのだった。
为以防万一,或许该拜托谁帮忙照看一下千空。其实源自己更想多关心他,但一方面工作繁忙,另一方面真遇到危险时自己很可能保护不了千空。既然如此,还是委托给身手不错的人更让人安心。望着毫无危机感的千空,源暗自下定了决心。


昼食を終えゲンと別れた後は、研究所に戻り作業を再開した。食べ物を腹に入れたおかげか、先程よりも脳に血が巡り、作業効率も上がる。そしてあっという間に夜になってしまった。
和健吃完午饭后分别,我便返回研究所继续工作。或许是食物补充了能量的缘故,大脑供血比先前更充足,工作效率也随之提升。不知不觉间夜幕已然降临。

退勤時間はとっくに過ぎ、他の科学者達は全員先に帰らせてある。千空が一人で残るのもすっかり日常と化してしまった。それでもクロムやスイカは毎回心配そうにしており、日付が変わる前には必ず帰るという約束の下、今日も残って作業をしていた。
下班时间早已过去,其他科学家们都被他先打发回去了。千空独自留下工作已成为家常便饭。即便如此,克罗姆和西瓜每次都会露出担忧的神情,在"日期变更前必须回家"的约定下,今天他依然留在实验室继续工作。

ふと時計を見上げると、時刻は23時ちょうどを示している。普段はもう少しだけ作業をしているが、今日はクロムたちだけでなく、ゲンにまで注意を受けてしまった。彼らが自分を気にかけてくれていることをわかっていたので、今日はいつもより早めに帰ることにした。
抬头瞥见时钟,指针正好指向 23 点整。平时这个时间还会再工作一会儿,但今天不仅被克罗姆他们提醒,连弦都来叮嘱了。明白大家是在关心自己,于是决定比往常提早回去。

研究所を出ると、夜風が思いがけないほど冷たかった。コートの襟に顔を埋めながら、早歩きで自宅へ向かう。通勤に時間を取られるのは嫌だったため、研究所から自宅までは徒歩20分程と近い。
走出研究所时,夜风冷得出乎意料。我把脸埋进大衣领子里,快步朝家走去。因为讨厌通勤浪费时间,所以从研究所到家的距离很近,步行只需二十分钟左右。

今日はいつもより早めに帰れるので、久しぶりに湯船に浸かるのもありかもしれない。夕飯は面倒なので、余り物で適当に済ませてしまおう。そんなことを考えながら、夜道を急ぎ足で歩く。突き当たりを左へと曲がり、後は路地をひたすら真っ直ぐ歩けば自宅までもうすぐだ。歩き慣れた道を曲がり、路地へと差し掛かったその時、目の前に飛び込んできた光景に一瞬動きが止まった。小包のようなものを手に持っている人物が一人、それを受け取ろうとしている者が一人。二人とも目深に帽子を被りマスクをしているため顔はよく見えないが、背格好からして男性二名で間違いないだろう。
今天能比平时早点回家,也许久违地泡个澡也不错。晚饭嫌麻烦,就用剩菜随便应付一下吧。一边想着这些,一边快步走在夜路上。走到尽头左转,之后只要沿着小巷一直走就快到家了。拐过走惯的转角刚踏入小巷时,眼前突然映入的光景让我瞬间停下了脚步——一个人手里拿着包裹状的物品,另一个人正准备接过。两人都戴着压得很低的帽子和口罩,看不清面容,但从体型来看肯定是两名男性没错。

そしてわざわざこんな夜更けに薄暗い路地で荷物の受け渡しをしているということは、普通の取引ではなく、秘密裏で行わなくていけないような物を扱っていると考えられる。そうなると、その場面に直面してしまったのは非常にまずい状況と言えた。
特意选在这种深夜时分于昏暗小巷交接物品,说明这绝非普通交易,而是在处理必须秘密进行的货物。如此一来,撞见这个场面可谓相当不妙。

「クソッ、見られちまった!」  “可恶,被看到了!”
「ど、どうすりゃいい!?」  「怎、怎么办才好!?」
「見られたからには殺るしかねえだろ。万が一にでも密告されたら、こっちの身が危ねえからな」
"既然被看到了就只能灭口了。万一被举报的话,我这边的处境可就危险了。"

動揺し震えている荷物の受取人と違い、受け渡す方と思われる人物は覚悟を決めているようだ。その証拠と言わんばかりに背後からナイフを取り出し、男は千空の方へ体を向けている。まあ見られたとなると、当然そうなるよな、と千空は内心納得する。そして二人の動揺の仕方から推測するに、危険な取引であると確信が持てた。だが状況がわかったことにより、自分が置かれている状況もまた非常に危険であると理解できた。この場をどう切り抜けるかを必死に考えながら、男達から距離を取るためゆっくりと後退する。
与因动摇而颤抖的收件人不同,那位看似负责交接的男子似乎已下定决心。仿佛要证明这点般,他从背后抽出匕首,将身体转向千空的方向。千空在内心认同——既然被发现了,这种反应也是理所当然。从两人动摇的方式推测,他确信这是场危险的交易。但明白状况的同时,他也意识到自己正身处险境。他一边拼命思考脱身之策,一边缓缓后退以拉开与男人们的距离。

こんな日に限って、武器になりそうなものは全てラボに置いてきてしまい、手元にはスマホと財布くらいしかなかった。だが何もせずに、ただやられる訳にはいかない。この状況下だと、できることは限られているが何もしないよりマシだ。このまま逃げても相手が二人もいる以上、捕まる可能性の方が高い。ならば逃げるための時間稼ぎをした方が賢明だろう。
偏偏在这种日子里,所有可能成为武器的物品都落在了实验室,手边只有手机和钱包。但绝不能坐以待毙。这种情况下能做的事虽然有限,总比什么都不做强。就算现在逃跑,面对两个追兵,被抓住的可能性更高。那么争取逃跑时间才是明智之举。

鞄の中に手を入れ、何か使えそうなものがないか、もう一度確かめる。すると、入れた覚えのない物が手に触れた。誰かが入れ間違えたのだろうか。今はそんなことはどうでもいい。とにかくこの状況で僅かだが希望を見出すことができた。
我将手伸进包里,再次确认是否有能派上用场的东西。这时,指尖碰到了件毫无印象的物品。是有人错放的吗?现在这种事根本无关紧要。重要的是,在这绝境中总算捕捉到了一丝希望。

そう思ったのも束の間、ナイフを持った男が一気に距離を詰めてきた。震えそうになる足に力を込め、タイミングを見計らう。そして男がナイフを振り上げた瞬間、千空は鞄の中から懐中電灯を取り出し、男の顔に光を向けた。急に眩しい光が向けられたため、目くらましを食らった男の動きが止まる。
这个念头刚闪过,持刀男子便猛然逼近。千空强忍颤抖的双腿,伺机而动。就在男子高举匕首的刹那,他从包里掏出手电筒直射对方面门。突如其来的强光令袭击者目眩神迷,动作顿时僵住。

千空はこの隙に逃げようとした。しかしそう思った瞬間、後ろから伸びてきた腕にグッと体を引き寄せられた。煙草の匂いが僅かに香る。闇の中でも煌めく金色を纏った人物は千空を背中に庇うと、ナイフを握っていた男の腹に思いっきり蹴りを入れた。衝撃で男の手からナイフが落ちる。それを見ていたもう一人の男は逃げようと走り出した。
千空正想趁此机会逃跑。就在这个念头闪过的瞬间,他被身后伸来的手臂猛地拽入怀中。淡淡的烟草气息萦绕鼻尖。那个在黑暗中依然身披璀璨金色的人将千空护在身后,对准持刀男子的腹部狠狠踹去。冲击力使得匕首从男人手中脱落。目睹这一幕的另一名男子拔腿就逃。

だがそれを見越していたようで、千空を庇った男は銃で男の肩を撃ち抜いた。逃げようとしていた男が地面に転がる。腹を蹴られた男も蹲って地面に伏していた。
然而对方似乎早有预料,护住千空的男人用枪击穿了那人的肩膀。试图逃跑的男子滚落在地。腹部被踹的男子也蜷缩着趴在地上。

「ゲンが言っていた通りあんたの運の悪さは本物だな、千空」
"正如源所说,你的运气真是差到极点啊,千空"

一瞬で二人を倒した男・スタンリーは、煙草を咥え火を咥えると、一口吸ってからそう言った。唇から吹き出された煙が、薄っすらと闇の中に漂っている。
瞬间击倒两人的男子斯坦利叼着香烟,咬住火苗吸了一口后如此说道。从他唇间吐出的烟雾在昏暗中袅袅飘散。

「運なんて非科学的なもんはねえよ」  "运气这种不科学的东西根本不存在"
「俺は科学屋じゃ無いんでね。たまには運ってものもあるって思うんよ。あんたを見てると特にね」
"我又不是什么科学家。偶尔也得相信运气这玩意儿啊。特别是看着你的时候。"

スタンリーは地面に倒れている男二人を手際よく縄で縛っていく。そうしていると、妙に落ち着き払った声が後ろから聞こえてきた。振り返らなくても誰なのかすぐにわかる。
斯坦利利落地用绳子捆住倒在地上的两名男子。正忙着时,身后传来异常镇定的声音。不用回头也知道是谁。

「やあ千空、こんばんは。怪我がないようで安心したよ」
“晚上好千空,看到你没事我就放心了”

ゼノは後ろ手に手を組みながら、いつも通りといった様子で千空の側へとやってきた。
禅野双手背在身后,一如既往地朝千空身边走来。

「てめえの番犬のおかげで何とかな」  「多亏了你的看门狗才勉强搞定」
「誰が番犬だって?噛みつかれたくなきゃ、ちょっとはしおらしくしてな。それよりゼノ、あいつらの懐探ってみたら、例のもんが出てきたぜ」
“谁说我是看门狗?不想被咬的话就给我老实点。话说赛诺,我翻他们口袋时发现了那个东西。”

「おお!やっと当たりに出会えたか。どれ、僕に見せてくれ」
「哦!终于遇到对的人了。来,让我看看」

スタンリーが小さな小包をゼノに差し出す。それは先程男達が取引の際、手に持っていた物だった。千空はその小包の受け渡しの場面に遭遇してしまったが故に襲われかけたのだ。そうなると、その小包の中身が一体何なのか気にならない訳がない。だがおおよその予想はついていた。
斯坦利将一个小包裹递给千空。那正是刚才男人们在交易时手里拿着的东西。千空正是因为撞见了这个包裹交接的场面才险些遭到袭击。既然如此,不可能不对包裹里的内容感到好奇。不过大致内容他已经猜到了。

「もしかしてそいつの中身はやばい薬か何かなんか?」
“难道那家伙体内是危险的药物什么的?”

「ご名答。流石だね、千空」  “答对了。不愧是你,千空”
「さっき襲われかけた時に一瞬だが、男の顔が見えた。目が異様に血走ってる上に、目の焦点もおかしい。明らかに異常な状態だった。それに取引の仕方が”いかにも闇取引”って感じだったからな。順当に考えれば、一番考えられるのは薬だろ」
"刚才被袭击的瞬间,我瞥见了那男人的脸。他的眼睛布满血丝得异常,瞳孔焦点也很不对劲,明显处于不正常状态。再加上那交易方式充满了'地下交易'的感觉。按常理推断,最有可能的就是毒品吧。"

「それこそが、ここ一カ月程僕達が必死に探していたものさ」
"那正是我们这一个月来拼命寻找的东西"

ゼノは小包の包装を丁寧に解いていく。すると、中から乾燥した葉が大量に出てきた。なんと表現したらいいのかわからない異様な香りが、風にのって鼻をかすめる。
真寻小心翼翼地拆开包裹的包装。随即,大量干燥的叶片从里面散落出来。难以名状的怪异香气随风掠过鼻尖。

「酷い香りだな」  "这味道真难闻"
「ああ、ワキガのやつの脇でサンドしたハンバーガーみてえな酷い香りだ。こんなのを吸いたがるやつの気が知れねえ」
"啊,这味道简直就像在狐臭家伙腋下夹过的汉堡一样恶心。真搞不懂怎么会有人想闻这种气味。"

「…スタンリー・スナイダー。品のない例えはやめたまえ」
“…斯坦利·斯奈德。请停止这种粗俗的比喻。”

妙に想像できてしまう例えかつ、ゼノの好物であるハンバーガーで例えたのが良くない。スタンリーは小さな声で”悪い”と呟いた。
这个比喻莫名地形象生动,偏偏还用了赛诺最爱的汉堡来举例实在不妙。斯坦利小声嘀咕了句"糟了"。

「話を戻すが、てめえ二人が薬を追っていたのはわかった。だが何だってそんなことをしてんだ?」
"话说回来,我知道你们俩在追查药物的事。但你们为什么要这么做?"

千空が疑問に思うのも不思議ではない。日本で薬が流行っているなどと聞いたこともなければ、薬の存在すら公には一切出回っていないからだ。
千空会感到疑惑也不奇怪。因为在日本既没听说过药物流行这种事,甚至连这种药物的存在都完全没有公开流通。

「君が知らなくてもおかしくないよ。なぜならこれはアメリカで広まり始めた代物だからだ。もちろん公にではなく、裏取引でね」
"你不知道也很正常。毕竟这是从美国开始蔓延的东西。当然不是公开渠道,而是通过地下交易。"

ゼノが薬の存在に気が付いたのは、外交でアメリカに行った際のこと。ゼノは千空と共に研究をしている為、現在拠点を日本にしている。だがその傍ら時々外交に赴くこともある。妙
杰诺发现这种药物的存在,是在因外交事务前往美国的时候。由于杰诺目前和千空一起在日本进行研究,所以现在据点设在日本。但偶尔也会去处理外交事务。很蹊跷——

な薬の存在を知ったのもその時だった。  那时他才知道那种药的存在。

二カ月前アメリカでの交渉を終えたゼノは、スケジュールにも余裕があったため、久しぶりに故郷でしばしの休息をとっていた。アメリカもかなり復興が進み、来る度に活気に溢れている。
两个月前在美国完成谈判的杰诺,由于行程安排尚有富余,便难得在故乡稍作休憩。美国的重建进展相当顺利,每次来访都能感受到蓬勃的生机。

そして日本へ帰る四日前の夜、仕事を終え護衛として同行していたスタンリーと町で夕飯をとっていた。店内はそれなりに混んでいるものの、程よくがやがやとしており話しやすい。夕飯を食べながら今回の渡米の目的であった交渉について話していた時、近くの席の会話が二人の耳に飛び込んできた。
而在返回日本前四天的夜晚,结束工作后他与担任护卫同行的斯坦利在镇上共进晚餐。店内虽有些拥挤,但恰到好处的喧闹反而便于交谈。正当他们边用餐边讨论此次赴美谈判的要务时,邻座客人的对话突然传入二人耳中。

『なあ、聞いたか?昨日また死体が見つかったんだとよ』
喂,听说了吗?昨天又发现尸体了

『そうらしいな…なんだかこのところやけに多くないか?』
好像是呢…最近这种事是不是有点太多了?

『聞いた話によると、今回見つかった死体はナイフでめった刺しにされた跡があったんだとよ』
听说这次发现的尸体上有被乱刀捅刺的痕迹

『まじかよ…ようやく復興も進んできたってのに気味が悪いな。俺達も夜道には気を付けないと』
真的假的…明明重建工作才刚有起色,真让人发毛。咱们走夜路也得当心点

『ああ、そうだな。あと最近変な薬が出回ってるみたいだから、お前も気をつけろよ。この間ブッ飛んでるやつに絡まれちまったさ。必死で逃げたから何とか助かったが、目が血走ってるし口から涎が垂れてるし、ありゃ明らかにシャブ漬けだったな』
是啊。对了最近市面上好像流行奇怪的药,你小子也注意点。前几天我就被个嗨过头的家伙缠上了,拼死逃跑才脱身。那家伙眼睛充血嘴角流涎,明显是嗑药嗑嗨了

最初は聞くつもりなどなかった男達の会話に、気が付けば聞き耳を立てていた。その会話を聞き終えたゼノとスタンリーは顔を見合わせる。暫くアメリカを離れていた間に、自分たちが預かり知らないところで、恐ろしいことが起こっていた。そして今もその恐怖が続いている。これが三七〇〇年前の出来事であれば、警察に報告し後は任せて終わりだ。だが文明の復興が進んではいるものの、警察の組織体制などはまだ十分に整っていない。
不知不觉间,我竟竖起耳朵听起了那群男人本不打算让人听见的对话。听完对话的杰诺和斯坦利面面相觑——就在他们暂离美国的这段时间里,某些骇人听闻的事件已在无人知晓的角落悄然发生,而这份恐怖至今仍在延续。若这是三千七百年前的旧事,只需向警方报案便可了结。但即便文明正在复兴,警方的组织体系却仍未完善。

そしてゼノは男の話を聞きながら、不審な点に気が付いていた。男達は”また死体が見つかった”と言っていた。ということはここ何日か、あるいは何カ月かの間に既に複数体の死体が上がっているということだ。だというのになぜ大々的にニュースになっていないのだろう。何にせよ、まずは情報収集が必要だ。
杰诺在听男人讲述时,敏锐地察觉到了可疑之处。男人们说的是"又发现尸体了",这意味着近几日乃至数月间已出现多具尸体。可为何如此重大的事件未见大规模新闻报道?无论如何,情报收集都是当务之急。

ゼノとスタンリーは男達に話を聞くために、男達が店を出るタイミングを見計らい、同じタイミングで店を出ると後をつけた。そして人目の気にならないところまで来たところで、グループの中でも情報を持っていた男に話しかけたのだ。男は初めゼノとスタンリーに囲まれ怯えていたが、ただ話を聞きたいと伝えると、先程レストランで話していた内容と同じことを話してくれた。だがそれ以上の情報は得られなかったため、すぐに彼を開放した。この少ない情報でこのアメリカで何かが起こっていることに確信を持ったゼノとスタンリーは、限られた時間の中でできる限り情報取集をしてから帰国したのだった。
杰诺与斯坦利算准男人们离店的时机尾随而出,待行至人迹罕至处,便向其中掌握情报的男子搭话。被两人围住的男子起初惊恐万分,得知他们只想问话后,便将在餐厅谈论的内容复述了一遍。因未能获取更多信息,他们很快放走了对方。凭借这有限的情报,确信美国正发生异变的二人,在剩余时间里竭尽所能收集线索后踏上了归途。


「そういうわけで、偶然にも僕達はアメリカで妙な薬が出回っていることを知ったのさ。
"就这样,我们阴差阳错地发现了美国境内流通着某种诡异药物。"

調べてみた結果、死体と薬に関係があることがわかった。そしてその薬に恐らく国の上層部が絡んでいるであろうということもね」
调查结果显示,尸体与药物存在关联。而且那药物很可能还牵扯到国家高层」

ゼノは千空に薬物の存在を知った経緯を話した。薬物と死体に関連性を見出すのは簡単だった。なぜなら二つともほぼ同時期に存在が明らかになったからだ。又、ゼノ達がアメリカにいる間に直接確認はできなかったが、アメリカにいるスタンリーの元部下達に頼み秘密裏に調べてもらった結果、死体の中に体に大小の紅斑と水泡が確認できたと報告を受けた。これは薬物中毒者の体に現れる特徴である。
千空向石神讲述了发现药物存在的经过。找出药物与尸体的关联性并不困难,因为这两者几乎是同时期浮出水面的。此外,虽然石神团队在美国期间无法直接确认,但通过委托斯坦利的前部下秘密调查后得到报告,在尸体身上发现了大小不等的红斑与水泡——这正是药物中毒者的典型体征。

それともう一つ、死亡者の中に旧世界の既得権益者が多いというのも不審な点だった。全ての死体が上流階級の者というわけではない。だが割合が多いのは確かだった。そしてこれこそが、上層部が絡んでいると推測した要因であった。
还有一点可疑的是,死者中包含大量旧世界既得利益者。虽然并非所有尸体都来自上流阶层,但比例确实偏高。而这正是推测高层涉案的关键依据。

「なるほどな。てめえらはその薬の存在にいち早く気づいて動いてたってわけか」
「原来如此。你们是最早察觉药物存在并采取行动的啊」

「そういうわけだ」  "就是这么回事"
「まったく、僕は科学者であって捜査官になったつもりなどないのだがね。だが残念ながら国が一枚岩ではない以上、協力を仰ぐ者も慎重に選ばなくてはいけない。まあそんなわけで、仕方なく僕自らがこうして動いているのさ」
"说真的,我本是个科学家,可没打算当什么搜查官。但遗憾的是既然国家并非铁板一块,寻求协助的对象也必须精挑细选。所以嘛,我才不得不亲自出马"

正直に言ってしまえば、人類全員を復活させてしまえば、いずれこのような事件が起こることは想定できた。だからこそゼノは人類は選定すべきだと思っていたし、その思想が完全に消えたわけではない。でも今はそれ以上に、千空が復興していく新しい世界を見てみたいとも思う。だからこそ、千空に危険が及ぶような悪の芽は早々に摘んでおかなければならない。その思いが今回の行動の原動力になっていた。
老实说,如果让全人类都复活的话,迟早会发生这种事件是预料之中的。正因如此,石神千空认为人类应该经过筛选,这种思想并未完全消失。但此刻他更想亲眼见证千空重建的新世界。所以必须尽早铲除可能危及千空的邪恶苗头——这份信念正是他此次行动的原动力。

「色々話したいことはあるだろうが、ひとまず場所を変えようぜ。こいつらも運ばないといけねえしな」
"虽然有很多话想聊,不过先换个地方吧。这些家伙也得赶紧运走才行"

スタンリーが先ほど捕まえた男達を指差しながらそう提案した。男達は完全に気を失っているようで、地面に転がされている。
斯坦利指着刚才抓获的那群男人如此提议道。他们似乎已经完全失去意识,横七竖八地躺在地上。

「それもそうだね。千空もよければ今夜は僕の家に泊まるといい。まだ話したいこともあるからね」
"这主意不错。千空你要是不介意的话,今晚可以住我家。我还有些话想和你聊聊。"

「んじゃお言葉に甘えてそうさせていただくわ。ちなみに捕まえた男達はどこに連れていくつもりだ?」
"那我就不客气叨扰啦。话说你准备把这些被抓的家伙关到哪里去?"

「僕の家に隔離室を作ったから、しばらくはそこにいてもらうよ」
"我在家里弄了间隔离室,暂时先让他们待在那儿吧"

「用意周到だな」  “真是准备周全啊”
ちなみにスタンリーの家はゼノの隣だったようで、今夜は三人でゼノの家に泊まることになった。ゼノの家に着き、捕まえた男達を隔離部屋へ入れた後、一旦落ち着いてから話をした方がいいだろうということになり、千空はゼノの家のシャワーを借りることにした。急遽泊まることになり着替えなど何も持っていなかったため、寝巻はゼノから借りたものを着ることにする。千空がシャワーから上がった後、ゼノとスタンリーも順番にシャワーを浴び、全員が落ち着いたところでリビングへ集まりソファに腰を下ろした。
顺带一提,斯坦利的家似乎就在杰诺隔壁,于是今晚三人决定在杰诺家留宿。抵达杰诺家后,他们将抓获的男子们关进隔离房间,众人认为应该先稍作休整再商议对策,千空便借用了杰诺家的淋浴间。由于临时决定留宿没带换洗衣物,他只好穿上杰诺借出的睡衣。千空洗完澡后,杰诺和斯坦利也依次冲凉,待全员安定下来后,大家聚集在客厅沙发上落座。

「さて、では早速だが本題に移ろう。先程話したように現在アメリカで薬物が出回っているわけだが、問題はここからだ。今日千空が遭遇した人物を見たらわかる通り、その薬が日本でも広まり始めている。となると、日本だけでなく他の国にも流通している可能性が高い、いや既に流通していると考えた方がいいだろうね」
"好了,我们直接进入正题吧。正如刚才所说,目前美国境内流通着某种药物,但问题才刚刚开始。从千空今天遭遇的对象就能看出,这种药物已开始在日本扩散。既然如此,很可能不仅在日本,其他国家也出现了流通——不,应该说肯定已经蔓延开了"

「まあそうだろうな。だが既に広まっちまってるもんを全て回収することは不可能だ」
"确实如此。但已经扩散开的东西想要全部回收根本不可能"

「ああ、だがその薬を流している大元を捕まえることは不可能ではない。僕はそこに勝算があると見込んでいる」
"啊,但要抓住流通这种药物的源头并非不可能。我认为我们在这方面有胜算"

ゼノはそこまで話すと、スタンリーに目配せをする。スタンリーはゼノが言わんとしていることを理解しているのか、立ち上がるとリビングを出た。だが先程手に入れた薬物が入った小包を手にすぐに戻ってきた。どうやら薬物を取りにいくよう頼んだらしい。スタンリーはそれを千達が座るソファの前にある机の上に置いた。
零诺斯说到这里,向斯坦利使了个眼色。斯坦利似乎明白他的意图,起身离开了客厅。但很快就拿着刚到手的那包毒品回来了——看来是被派去取货了。斯坦利将包裹放在千空所坐沙发前的茶几上。

「とにかくまずはこの薬がどんなものか調べないといけない。成分からこれが作られている地域を特定することができるからね。だが実物がなかなか手に入らず苦労していたんだ。ところが今日君のおかげでようやく手にいれることができた。Mr.ゲンのアドバイスのおかげとも言えるね」
"总之必须先分析这种药物的成分。通过成分可以锁定它的产地。但之前一直苦于弄不到实物。多亏你今天终于搞到手了,也可以说是托了 Mr.元的建议"

「今日廊下を歩いている時にたまたまあいつと会ってな。俺に千空のことを気にかけてくれって言ってきたんだ。ついでに悪い方に引きがいいってことも聞いたぜ。んで今夜あんたの後をつけてみたら、ビンゴだったってわけよ」
"今天在走廊偶遇那家伙时,他让我多关照千空。顺便还听说你最近运气不太好。所以今晚跟踪你试试,结果就中大奖了"

「あ”ー、なるほどな。やけにタイミング良く現れたのはそうことか」
“啊——原来如此。难怪会这么巧地出现”

「そういうわけだ。今後のことで考えなくてはいけないことは山積みだが、まずはこの薬物の成分解析を行うことからだ。千空、できれば君の力を貸してほしい。これから先はとにかく人手がいるからね」
“就是这么回事。虽然今后要考虑的事情堆积如山,但首先得从分析这种药物的成分开始。千空,希望你能助我一臂之力。毕竟接下来无论如何都需要人手”

今ゼノから聞いた話は、人が増え続けていけばいずれ起こりうる可能性のある事件だ。だがそれでも日々追われている間に、こんなにも早くこのような事態になってしまったという事実に、千空は内心驚かずにはいられなかった。今日襲われかけたのが自分だったからまだよかったものの、今後仲間達が同じような目に合わないとは言い切れない。ならば自分にできることをするしかないだろう。
从杰诺那里听到的事,是随着人口不断增加终将可能发生的事件。但即便如此,在被日常追赶的间隙里,事态竟如此迅速地发展到这种地步,千空内心仍不免感到震惊。今天遭遇袭击的幸好是自己,但今后同伴们未必能避免同样的遭遇。既然如此,也只能尽力而为了。

「ククク、襲われかけた時点で既に関わってるようなもんだ。道具さえ揃ってんなら今から解析に取り掛かってもいいぜ」
“呵呵呵,在遭遇袭击的那一刻就已经脱不了干系了。只要工具齐全,现在开始分析也没问题”

「おお!君ならそう言ってくれると思っていたよ。では早速…」
"啊!我就知道你会这么说。那我们马上开始..."

「おい、今日のところは寝とけ。取り掛かるのは明日からでも遅くないだろ」
"喂,今天先睡吧。明天开始动手也不迟吧。"

ゼノは食い下がろうとしてやめた。スタンリーが千空を気遣ってそう言っているであろうと気が付いたからだ。考えてみれば未遂とはいえ襲われかけたのだから、疲れていないわけがない。それにとっくに日付を超えている。今夜はしっかり睡眠をとり、明日から取り掛かるのが賢明だろう。
Xeno 欲言又止。因为他意识到 Stanley 是出于对 Senku 的关心才这么说的。仔细想来,虽然未遂但毕竟遭遇了袭击,不可能不疲惫。况且早就过了午夜时分。今晚好好休息,明天再开始才是明智之举。

「そうだね、スタンの言う通りだ。今夜は少々疲れたし僕ももう寝るとしよう。というわけで明日からお願いするよ、千空」
"说得对,Stanley 说得对。今晚我也有些累了,该睡了。那么从明天开始就拜托你了,Senku"

「そうか。んじゃ俺も寝るわ。ソファ借りていいか?」
"这样啊。那我也睡了。沙发借我一下行吗?"

「もちろんだ。何なら僕のベッドを一緒に使ってくれても構わないよ」
"当然可以。不嫌弃的话和我共用一张床也没问题哦"

「……気色悪いこと言ってねえでさっさと寝ろ」  "……别说这么恶心的话赶紧睡吧"
「ふふ、気が向いたらいつでもきてくれていいからね。ではおやすみ千空、スタン」
"呵呵,想来的话随时欢迎。晚安千空,史丹利"

ゼノはしっしっと追い払うような仕草をする千空を見て笑いながら部屋を後にした。リビングにはスタンリーと千空の二人だけだ。家が隣ならスタンリーは自分の家のベッドで寝ればいいのではと提案してみたが、動くのが面倒だと言い、結局二人でゼノの家のソファで眠ることになった。幸いにもソファは二つあったので、大きめのソファをスタンリーが使い、小さめの方で千空が寝ることになった。部屋の電気を消し、ソファに横になる。見慣れない天井をぼーっと眺めていると、次第に眠気が襲ってきた。自分で思っていた以上に、体は疲れていたらしい。段々と重くなっていく瞼に抗うことなく、千空はそのまま目を閉じた。
千空像驱赶小狗般"嘘嘘"挥手的样子让赛诺笑着离开了房间。客厅里只剩下斯坦利和千空两人。既然两家相邻,斯坦利本可以回自己家睡觉,但嫌麻烦的他最终决定两人都在赛诺家的沙发上将就。所幸客厅有两张沙发,体型较大的斯坦利占据大沙发,千空则蜷缩在较小的那张。熄灯后,少年凝视着陌生天花板发呆,渐渐被睡意侵袭。身体的疲惫程度远超预期,当眼皮变得愈发沉重时,千空放弃了抵抗般闭上眼睛。

横になって間もなく、すぐ側から小さな寝息が聞こえてくる。スタンリーはそっと身を起こし、近くで眠る千空の寝顔を覗き込んだ。どうやらもう眠ったらしい。余程疲れていたのだろう。寝顔は少し強張っているように見えた。それもそうだろう。スタンリーが助けに入った時、千空の体は震えていた。相手はナイフを持っていたし、どう見ても錯乱状態だった。そんな奴を相手にしたのだから怖くないはずがない。むしろここまでよく耐えたものだ。だが薬を手に入れた以上、これから更なる危険と立ち向かうことになるだろう。そのためにも今はきちんと休み、明日から始まる捜査に備えなくては。
躺下不久,身侧就传来细微的鼾声。斯坦利悄悄支起身子,端详着近在咫尺的睡颜。看来已经睡熟了,想必是累坏了吧。那张睡脸仍带着些许紧绷。这也难怪——当斯坦利赶到时,少年全身都在发抖。面对持刀且明显精神错乱的歹徒,不可能不害怕。能坚持到现在已属不易。但既然拿到了药物,接下来恐怕要面对更多危险。现在必须好好休息,为明天开始的调查养精蓄锐。

スタンリーは千空の布団を首元までかけてやると、なるべく音を立てないよう気をつけながら離れた。自分のソファに戻り横になると、次第に眠気がやってくる。眠る前に煙草を吸うのを忘れたな、などと思っているうちに彼も眠りについたのだった。
斯坦利替千空掖好被角,轻手轻脚地退回自己沙发。躺下后睡意逐渐袭来,他迷迷糊糊想着忘记睡前抽烟的事,很快也沉入梦乡。


ep02

次の日、千空はゼノとスタンリーと共に仕事場となっている研究所へと向かった。いつも通り作業をこなしていく。そしてある程度作業の目処がついたところで、スタンリーが研究所へ顔を出した。
第二天,千空与杰诺和斯坦利一同前往作为工作场所的研究所。他像往常一样处理着各项工作。当工作告一段落时,斯坦利来到了研究所。

「よお、邪魔するぜ。千空、今時間取れるか」  "哟,打扰了。千空,现在有空吗?"
スタンリーは千空に声をかけるようゼノに頼まれていた。昨日約束した手前、千空もゼノが薬の成分解析をするために自分を呼んでいることを理解した。目的を意図的に言わないのがその証拠だ。まだ誰にもこの話をしていない以上、例え仲間達の前だからと言って、ここでその話をするわけにはいかない。情報はどこから漏れるかわからないからだ。
斯坦利是受杰诺所托来叫千空的。鉴于昨日的约定,千空明白杰诺是为了药物成分分析才叫自己过去。斯坦利刻意不提具体目的就是证明。既然还没告诉过任何人,即便在同伴面前也不能在此提及此事——毕竟情报可能从任何环节泄露。

「ちょうど手が空いたところだ。今なら時間取れるぜ」
"正好刚忙完。现在有空。"

「よかった。んじゃ、しばらく千空を借りてくぜ」  "太好了。那千空我就先借走啦"
スタンリーが研究室にいた科学者メンバーらに声をかける。するとクロムが不思議そうな顔で尋ねてきた。
斯坦利向实验室里的科学家成员们打了声招呼。这时克罗姆一脸疑惑地询问道。

「特に急いでやることもねえし別にいいけどよ、なんか用事でもあんのか?なんかお前ら二人の組み合わせって珍しくね?」
"虽然没什么特别紧急的事倒也无所谓啦...你们俩是有什么事情吗?话说你们这个组合还挺稀奇的?"

「おいおい、野暮なこと聞くなよ。デートのお誘いに決まってんじゃん」
"喂喂,别问这么不解风情的问题啊。这当然是约会邀请咯"

「……はあ!?!?」  "……哈啊!?!?"
クロムの大声が研究室に響き渡る。側でスタンリーの発言を聞いていたスイカもあんぐりと口を開けていた。仲間達の驚きの声を背に千空はスタンリーと共に研究室を後にした。
克罗姆的惊叫声在实验室内回荡。在一旁听到斯坦利发言的西瓜也惊讶得张大了嘴。背对着伙伴们的惊呼声,千空与斯坦利一同离开了研究室。

研究室から離れしばらく廊下を進んだところで、千空が先に口を開いた。
离开研究室后,在走廊上走了一段距离时,千空率先开口。

「おいてめえ、何適当ぶっこいてんだ。後で百億%面倒なことになるじゃねえか」
"你这混蛋,胡说八道些什么。之后百分之百会惹上大麻烦的吧"

「何とかなるだろ。それとも、本当にデートしたかったのか?だとしたら期待させて悪かったな」
"总会有办法的吧。还是说,你其实真的想约会?要真是那样,让你抱有期待还真是抱歉啊"

にやりとからかいを含んだ笑みを浮かべるスタンリーに、千空も負けじと強気な笑みを作る。
面对斯坦利那带着戏谑的咧嘴笑容,千空也不甘示弱地露出强势的笑容。

「デート?おっさんの介護の間違いだろ。そんなんこっちから願い下げだわ」
"约会?搞错成看护大叔了吧。这种差事我可敬谢不敏"

そんな会話をしている間に、とある部屋の前に着いた。ゼノの研究室だ。スタンリーはノックすることなく扉を開けると、遠慮なく中へ入った。千空もその後に続き部屋の中へ入る。
就在这样的对话间,两人抵达了某个房间门前。这是杰诺的实验室。斯坦利连门都没敲就直接推门而入,毫不客气地走进室内。千空也紧随其后进入房间。

「おい、ゼノ。千空連れてきたぜ」  “喂,杰诺。我把千空带来了”
「助かったよ。やあ、千空。忙しいところ呼び出して申し訳ないのだが、薬の成分解析を手伝ってもらいたい」
“帮大忙了。啊,千空。抱歉在你忙的时候叫你过来,想请你帮忙分析一下药物成分”

「わかってる。最初からそのつもりだ」  “我知道。本来就是为这个来的”
「それでは時間がもったいないし、早速早速取りかかろ。スタン、君は万が一にでも部外者がここへ入ってくることがないよう見張っておいてくれ」
“那就别浪费时间了,立刻开始吧。斯坦,你负责警戒,绝对不要让外人靠近这里”

「了解」  “明白”
そこからゼノと千空の研究が始まった。今までに捕らえた薬物中毒者達を検査した際のデータを参照する。ゼノ達が捕まえた中毒者達には精神的な症状の面では、幻覚・妄想・痙攣発作など、身体的な症状では不眠・過眠・異常な発汗・呼吸困難・意識レベルの低下・唇や口周りのただれ・息の匂いの異常などが共通して確認できた。これらは薬物中毒者に見られる特徴である。これらの症状からも改めて薬物であると確信する。
自此,千空与赛诺的研究正式展开。他们调阅了此前抓获的吸毒者检测数据。赛诺团队捕获的吸毒者普遍呈现以下特征:精神症状方面表现为幻觉、妄想、痉挛发作;躯体症状则包括失眠、嗜睡、异常出汗、呼吸困难、意识水平下降、口唇周边溃烂以及口气异常等。这些正是吸毒者的典型症状,由此更加确信这属于药物滥用现象。

ドラッグには化学ドラッグと植物ドラッグがあるが、今回は乾燥した葉っぱなどの形状をしているため後者であると判断できる。又、植物系ドラッグには、植物の形態が明らかなものもあるが、粉末や抽出物等様々な形状に加工され、元の形状を留めていたものも多数ある。まずは何の植物が使われこの薬物が形成されているのかを調べる必要があるため、徹底的に調べ上げた。その結果、この薬物にはマジックマッシュルームと呼ばれるサイロシン、サイロシビンを含有するキノコ類、サルビア・ディノラムと、サボテンの一種であるペヨーテなど、旧世界で幻覚をもたらす危険な植物とされていた危険な植物を中心とした混合ドラッグであることがわかった。
毒品可分为化学合成毒品与植物源性毒品,鉴于本次查获物呈干燥叶片状,可判定为后者。植物类毒品中,有些仍保留原始植物形态,但更多的是被加工成粉末或提取物等形态。为查明构成该毒品的具体植物成分,他们展开了彻底调查。结果显示,该毒品主要混合了旧世界公认的致幻危险植物:含有裸盖菇素及赛洛西宾的迷幻蘑菇、墨西哥鼠尾草,以及乌羽玉仙人掌等。

ただ調べている上で、一つ気になることがあった。全く見覚えのない植物が含まれていたのだ。千空やゼノですら知らない植物。そしてこの植物こそがこの薬物の主成分である。だというのにこの植物の名称がわからないのだ。そこで千空はある仮説を立てた。
但在调查过程中,有个异常发现——其中混有一种连千空和赛诺都从未见过的陌生植物。更令人震惊的是,这种未知植物竟是该毒品的主要成分。由于无法确认其名称,千空提出了一个大胆假设。

「恐らくこの植物は旧世界には存在していなかったものだ。三七〇〇年以上もありゃ新種の植物の一つや二つできたところで不思議じゃねえ。地形も散々動きまくって形状を変えちまってるくらいだしな」
"这种植物很可能在旧世界并不存在。毕竟 3700 多年过去了,出现一两种新植物也没什么好奇怪的。连地形都剧烈变动得面目全非了。"

「となると、この薬物を作った人物は偶然にもその新種の植物を見つけてしまい、このような代物を作り出してしまった、という可能性が高いね。まあ例え見つけたのが偶然でも、それで金儲けをしている時点で許されることではないがね」
"这么说来,制造这种药物的人很可能是偶然发现了这种新植物,才捣鼓出这么个玩意儿。不过就算发现是偶然,靠这个牟利的行为本身就不能原谅。"

「それと使われてる植物はメキシコに生息してるものが多い。だから薬はメキシコで作られていると考えられるが、植物をメキシコから輸入して、加工はアメリカでやってるっていう可能性も考えられる」
"而且所用植物大多生长在墨西哥。虽然可以推测药物是在墨西哥制造的,但也存在从墨西哥进口原料、在美国进行加工的可能性。"

「うむ、薬の製造元を特定するのには、もう少し調べる必要がありそうだね」
"嗯,要锁定药品的制造源头,看来还需要进一步调查。"

「んで、これからどうするよ」  “那接下来要怎么办?”
それまで黙ってゼノと千空を見守っていたスタンリーがそう問う。薬物の成分がわかり、製造元の候補が絞れたのならば、次の手を考えなければならない。それは間違いないのだが、現段階ではこれ以上手の打ちようがなかった。
一直沉默着守护千空和赛诺的斯坦利开口问道。既然已经查明药物成分并锁定了可能的制造方,就必须考虑下一步行动。这固然没错,但现阶段实在无计可施。

「信頼できる者たちに協力を仰ぐつもりだが、その前に僕の方で調べたいことがある。それがわかるまで少し待ってもらえるかい?」
“我打算向可信赖的伙伴寻求协助,不过在那之前还有些事要亲自调查。能请你们稍等片刻吗?”

「その調べ物にどれくらい時間がかかりそうなんだ?こういう戦況でちんたらしてると、取り逃すことになるぜ」
“你这调查要花多久?战况瞬息万变,磨磨蹭蹭的话可是会错失良机的。”

「わかっているさ、スタン。そうだね...1週間もあればわかるはずだ」
“我明白的,斯坦。是啊……一周时间应该就能见分晓了。”

「だとよ、千空。一週間は待機、あんたもそれでいいか?」
“千空,上头说要等一周,你觉得呢?”

「わざわざ言い直してくれなくても、ちゃんと聞こえてるわ。俺もそれで問題ねえ」
“不用特意重复,我听得一清二楚。我也没意见。”

こうしてスタンリーと千空は、ゼノからの指示が出るまで一旦待機を余儀なくされたのだった。
就这样,斯坦利和千空不得不暂时按兵不动,等待 Xeno 下达新的指示。


ep03

薬の解析を行った日から一週間たったある日、千空はゼノから呼び出された。薬の解析を行った日、つまりゼノとの約束から一週間経ったということだ。千空に声をかけるということは調査に進展があったのだろう。千空はゼノの研究所へと向かった。
从药物分析那天起一周后的某日,千空收到了来自杰诺的传唤。药物分析当天——也就是与杰诺约定的一周期限已至。既然主动联系千空,想必调查有了进展。千空动身前往杰诺的研究所。

研究室へ着き扉をノックすると、既に中にいたスタンリーが扉を開けてくれた。千空は遠慮なく部屋に入る。すると、部屋の中央に置いてある机の前に座るゼノと眼が合った。どこか楽しげな表情をしているので、余程いい情報を掴んだと窺える。
抵达实验室敲门时,早已在室内等候的斯坦利为他开了门。千空毫不客气地走进房间。随即与坐在中央办公桌前的杰诺四目相对。对方脸上带着掩不住的愉悦神情,显然掌握了相当有价值的情报。

「こんにちは、千空。今日はいい天気だね。実に過ごしやすい気候で、心が躍るよ」
"午安啊千空。今天天气真不错。这宜人的气候简直让人心潮澎湃呢"

「ククク、天気の話をしに呼び出したわけじゃねえだろ。さっさと掴んだ情報を教えやがれ」
"呵呵呵,叫我来总不会是为了聊天气吧。赶紧把查到的情报交出来"

「まあそう焦らず、まずは椅子に座ってひと息ついておくれ。お茶も用意したから、良ければどうぞ」
"别这么着急嘛,先坐下喘口气。茶也准备好了,不嫌弃的话请用"

ゼノはティーカップにお茶を注ぐと千空の前に差し出した。せっかくなので、ありがたくいただくことにする。千空は一口飲み、喉を潤すと再び本題を切り出した。
克罗姆将红茶注入茶杯推到千空面前。盛情难却,千空便恭敬不如从命。他浅啜一口润了润喉,随即重拾正题。

「んで、調べもんってのは一体どうなったんだ」  "所以,调查结果到底怎么样了"
「僕も自分のことは合理主義者だと思っているけど、時々君は僕をも上回るね。では千空が待ちきれないようだし、本題に移るとしよう。僕はこの一週間、薬の取引場所について調べていた。それもちょっとしたものでなく、国の上層部が集まるであろう大規模な取引をね」
"虽然我也自认为是个理性主义者,但有时候你比我还极端啊。既然千空已经等不及了,我们就进入正题吧。这一周我都在调查药品交易地点——而且不是小打小闹,是锁定国家高层可能参与的大规模交易。"

小さな取引現場を差し押さえていくだけでは、あまりにも時間がかかる上に、問題の根本的な解決にはならない。ならば薬をばら撒いて金儲けをしているであろう大元を捕まえるのが一番手っ取り早い。そう考えたゼノは、大きな取引が行われる可能性が高い集まりを調べ上げた。
仅仅查封小型交易现场不仅耗时耗力,更无法从根本上解决问题。既然如此,直接抓捕那些靠散播药物牟利的幕后黑手才是最快途径。怀着这样的想法,千空彻查了极可能进行大宗交易的集会场所。

大規模な取引をするとなると、人がたくさん集まる場所を隠れ蓑にすると考えられる。そうしてある程度条件を絞り調べている中で、ゼノは約一ヶ月後にクルージングが行われるという情報を掴んだ。そのクルージングは香港から始まり、様々な国の港へ寄港し最終的にニューヨークに到着する約14日間の旅で、日本にも寄港するとのことだった。船内は非常に豪華で、富裕層をターゲットしているのは明らかだ。気になり更に調べてみたところ、招待制のクルージングで、ある程度地位のある者しか乗船できないシステムとなっていた。そうなるとどのような人物が乗船するのかが重要である。そこでゼノはSAIに協力を仰ぎ、乗船者リストのハッキングを依頼することにした。そしてSAIの手腕により、情報を入手することに成功したのだった。
考虑到大规模交易往往会选择人流密集处作为掩护,在逐步缩小调查范围后,千空掌握到一个月后即将举办邮轮巡游的情报。这趟为期 14 天的豪华旅程将从香港启航,沿途停靠多国港口最终抵达纽约,期间也会经停日本。从极度奢华的装潢来看,目标客户明显是富豪阶层。进一步调查发现这是邀请制邮轮,只有具备相当社会地位的人才能登船。如此一来乘客身份就至关重要,于是千空请求 SAI 协助黑入乘客名单——凭借 SAI 的黑客技术,他们成功获取了关键情报。

そしてゼノが睨んだとおり、乗船客の多くが各国の上層部や上流階級の者で占められていた。中にはマフィアと思われる者達の名前まであったため、船上で何かしらの取引が行われると見て間違いないだろう。
正如千空所料,乘客名单充斥着各国政要和上流人士,甚至混迹着疑似黑手党成员的名字。这艘邮轮注定会成为罪恶交易的温床。

「というわけで僕もそのクルージングに参加させてもらうことにした。もう手配は済ませてある」
"所以我也决定参加这次游轮之旅。手续都已经办好了。"

ゼノはこの一週間で調べていたことを一通り話し終えた後、そう口にした。とんでもない発言に、スタンリーと千空は一瞬固まる。だがすぐに言葉の意味を理解すると、目を大きく見開き驚きの声を上げた。
赛诺用一周时间调查完所有事项后,突然说出这句话。斯坦利和千空被这突如其来的发言震得一时语塞。但很快理解话中含义的两人瞪圆眼睛,同时发出惊呼。

「「はあ!?」」  "「哈啊!?」"
「安心してくれ、一人で参加するつもりはないよ。僕の付き人として四名までは招待できるようだから、君たちにもぜひ一緒にきてもらえたら嬉しい」
"别担心,我没打算独自前往。作为随行人员最多可以邀请四人,真心希望你们能一起来。"

「ちょっと待て、ゼノ。話はわかったが、ただクルージングを楽しみにいくってわけじゃねえだろ?」
“等等,杰诺。我明白你的意思了,但这次可不只是单纯去享受游艇巡航吧?”

「ああ、潜入調査といったところかな」  “嗯,应该说是潜入调查更贴切。”
「ならあいつらにもそろそろこのことを話すぞ。人手は多いに越したことはない」
“那我现在就去通知那些家伙。人手当然是越多越好。”

あいつらとは科学王国の仲間達のことだ。一度皆に相談した上で、今後の作戦やクルージングに参加するメンバーについても話し合った方がいいだろうということになり、この日はお開きとなった。
所谓"那些家伙"指的是科学王国的伙伴们。经过商议,大家一致认为应该先集体讨论后再决定后续作战方案和参加巡航的成员,于是当天的会议就此结束。


そして後日、千空の声かけにより科学王国の仲間達が集まった。文明復興のために、各自割り振られている仕事についているため、こうしてほぼ全員で集まるのは少し久しぶりだ。主要メンバーが集まったところで、千空が違法薬物が出回っているという話をした。当然ではあるが皆全く知らなかったようで、深刻な表情になる。そして近々行われるクルージングで、薬の大規模な取引が行われる可能性が高いということ、そこへ潜入するつもりであることをゼノの口から伝えた。
数日后,在千空的召集下,科学王国的伙伴们齐聚一堂。由于大家都在为文明复兴各自承担着分配的工作,像这样几乎全员到齐的聚会已经很久没有举行了。当核心成员到齐后,千空谈起了市面上流通非法药物的事。虽然这是理所当然的,但大家似乎都毫不知情,纷纷露出凝重的表情。接着通过杰诺之口,众人得知近期即将举办的游艇派对上很可能进行大规模毒品交易,而他们正计划潜入调查。

「なるほどな、この間からてめえらがこそこそしてたのもその薬のこと調べてたからか」
"原来如此,所以你们最近鬼鬼祟祟地就是在调查这种药物啊"

話を聞き終えたクロムがスタンリーと千空に目を向けながらそう言った。ここのところスタンリーが頻繁にラボへ顔を出しては千空を連れていくので、クロムは密かに気になっていたのだ。
听完说明的克罗姆将目光投向斯坦利和千空,如此说道。最近斯坦利频繁出入实验室带走千空的行为,早就引起了克罗姆的暗中关注。

「それにしてもゼノちゃん、高級クルージングのチケットなんてどうやって手に入れたのよ」
"话说杰诺亲,豪华游艇派对的邀请函到底是怎么搞到手的呀"

「これでも色々と伝手があるのでね。最大限に活用したまでだよ」
"毕竟我这边也有不少门路嘛。只是最大限度地加以利用而已"

不適な笑みを浮かべているゼノに、ゲンは思わず背筋を整えた。どうやら深くは追求しない方が良さそうだ。
面对挂着不怀好意笑容的赛诺,弦不自觉地挺直了背脊。看来还是不要深究为妙。

「なるほどねー....ゼノちゃんが味方になってくれて、改めてよかったと思うよジーマーで」
"原来如此...能和小赛诺成为同伴,在吉玛真是太好了呢"

ひと通りの話を聞き終え、皆がざわめき出す。復興が進み、平和な日々が続いていると思っていた背景で薬物が出回っていたのだから、驚かずにはいられないだろう。そのような危険なものが自分達が暮らす日本でも広まり始めたとなれば、黙ってはいられない。皆覚悟を決めたような様子だった。
听完整个事件的来龙去脉,众人开始骚动起来。本以为复兴进展顺利,和平日子持续不断的背景下竟然出现了毒品流通,任谁都会震惊不已。既然这种危险物品开始在自己生活的日本蔓延开来,就绝不能坐视不管。每个人都显露出下定决心的神情。

「うおおお!つまりその薬をばら撒いている黒幕を捕まえればいいんだな!どこにいるんだそいつは!?」
"哇啊啊!也就是说只要抓住那个到处撒药的黑幕就行了吧!那家伙在哪儿啊!?"

「それをこれから見つけるために潜入するぞって話だと思うよ、大樹くん」
"我觉得接下来就是要潜入调查找到他吧,大树君"

「クククてめえに潜入は向いてないことだけは確かだデカブツ」
"嘿嘿嘿,你这大块头确实不适合搞潜入"

「うん...とにかくまずはその潜入メンバーを決める必要がありそうだね」
"嗯...总之得先确定潜入小组的成员才行呢"

ざわついていた雰囲気が、司の一言で落ち着きを取り戻す。ゼノはそのタイミングで話を再開した。
原本躁动的氛围,因司的一句话而重归平静。赛诺抓住这个时机重新开口。

「僕は招待された本人であるため絶対に参加する必要がある。僕の招待で入れるのが四名までなので、それを踏まえた上でメンバーを決めたい。そして今回のパーティーだが、上流階級の集まりなので、恐らく船内では英語での会話が必須になってくるだろう。その点も踏まえてメンバーを選ぼうと思う」
"作为受邀者本人,我绝对必须参加。我的邀请函最多可带四人入场,希望在此基础上决定成员名单。另外这次派对是上流阶级的聚会,恐怕在船内必须使用英语交流。这点也需要纳入成员选拔的考量"

「となると、まず俺は必須なんだろ」  "这么说来,我肯定是必选人员吧"
「その通りだ、スタン。潜入する以上、万が一に備えて戦力となる者がいる。君にはぜひ一緒に来てもらいたい」
"没错,斯坦。既然是潜入行动,就需要配备应对突发状况的战力。务必请你同行"

「元々そのつもりだ」  "本来就是这么打算的"
言語力、戦闘力、判断力といった面から考えてスタンリーは必要不可欠だ。まず一人の潜入メンバーが決まった。
从语言能力、战斗力和判断力等方面考虑,斯坦利是不可或缺的。第一位潜入成员就此确定。

「次にMr.ゲン、君にも参加してもらいたい」  "接下来是源先生,希望你也参与行动"
「お、おおお俺!?いやー、ゼノちゃんったら俺のこと買い被りすぎっしょ。俺にはリームーよ」
"我、我吗!?哎呀~小零真是太高估我啦。我这种水平也就配给莉姆打打下手"

白羽の矢が立ちそうな予感はしていたが、その予感が見事に的中してしまい、ゲンは内心焦っていた。ここのところ外交でずっと海外にいたため、できれば暫くは日本にいたい。だがそんな願いも虚しく、皆納得しているようで、逃れられる雰囲気ではなくなってしまった。
虽然早有预感自己会被选中,但这个预感竟然如此精准地应验,让弦内心焦躁不已。最近因外交工作长期驻外,他本希望至少能在日本多停留些时日。可这个愿望终究落空,众人似乎都已达成共识,现场氛围根本不容他推脱。

「むしろ一番適任だと思うけど。ゲンは既にアメリカでの潜入経験もあるしね」
"不如说我认为他是最合适的人选。毕竟弦在美国有过潜伏经验。"

「ゲンくんは外交官としても活躍してるし、絶対適任なんだよ!」
"弦君作为外交官表现也很出色,绝对是最佳人选!"

羽京やスイカも納得している様子だ。  羽京和西瓜也都是一副深以为然的表情。
「いやいや!俺最近でこそ外交官みたいなことしてるけど、本職はメンタリストよ!?」
"不不不!我最近虽然在做外交官之类的工作,但本职可是心理分析师啊!?"

「だったら尚更適任じゃねえか。メンタリスト様の出番だぜ、行ってこい」
"那不是更合适吗。轮到您这位心理分析师大人出场了,快去快回"

「ドイヒー!」  "喂——!"
言語力、交渉力、観察力といった面を考慮し、ゲンが二人目の潜入メンバーと決まった。
综合考虑语言能力、谈判技巧和观察力等因素,最终决定由源担任第二名潜入成员。

人心掌握の技術に優れているゲンがいれば、船内で薬の情報を持っている人物に出会った際の交渉にも役に立つだろう。
若有擅长人心操控技术的弦在场,当在船上遇到掌握药品情报的人物时,也能在谈判中派上用场吧。

「まあ選ばれちゃったなら仕方ないか...てか俺的には羽京ちゃんもいいと思うのよね」
"既然被选中了也没办法呢...话说我个人觉得羽京君也很合适哦"

「ぼ、僕?』  "我、我吗?"
「ほう、理由を聞かせてもらっても?」  "哦?能说说理由吗?"
ゼノの中で羽京という選択肢はなかった。そのため、ゲンが羽京を指名したことに純粋に興味が湧いた。
在 Xeno 的成员中,羽京本不是备选之人。正因如此,我对 Gen 选择羽京产生了纯粹的兴趣。

「ほら、羽京ちゃんって耳がゴイスーでしょ?船内で薬に関するような会話を盗み聞きして情報収集してもらえると思って。あと英語も話せるし、体術の心得もあるしね」
"你看,羽京君的耳朵不是超厉害吗?我觉得可以让他在船内偷听关于药物的对话来收集情报。而且他还会说英语,还懂格斗术呢"

「なるほど、それは名案だ」  "原来如此,真是个好主意"
「まさか僕が指名されるとは思ってなかったけど...精一杯頑張るよ」
"虽然没想到会被点名...但我会全力以赴的"

驚異的な聴力、言語力、冷静さ、そしてゲンの推薦もあり、羽京が三人目に選ばれた。咄嗟のハプニングにも冷静に対応できる羽京がいれば安心だろう。
凭借惊人的听力、语言能力、冷静判断力,再加上幻的推荐,羽京被选为第三名成员。有能在突发状况下保持冷静的羽京在场,想必令人安心。

「そして最後の一名だが、僕としては千空、君に来てもらいたいと思っている。恐らく船内へ入ったら、僕はあまり目立った動きができなくなる。顔見知りも多いし、基本的に情報収集に徹しようと思っているのでね。だがそうなると自由に動けて万が一薬を見つけた際にも、すぐに解析できる人物がもう一人必要だ。そしてそれができるのは君だけだ」
"至于最后一个人选,我个人希望千空你能加入。一旦登船后,我恐怕难以采取显眼行动。毕竟熟人太多,我打算专心收集情报。这种情况下,团队里还需要另一个能自由行动,且在发现药物时能立即进行分析的人。而能做到这点的只有你。"

ゼノの言い分は理解できた。だがゲンは千空を選ぶことが気がかりだった。というのも、千空は文明復興の功労者であり、平和の象徴といった認識が世間で広まりつつあるからだ。それに以前から千空はこういったパーティーに招待されても一切参加せず、全て断っていたことをゲンは知っていた。そのような人物が急にこのタイミングでクルージングに参加するとなったら、潜入調査だと怪しまれる可能性が高い。考えすぎだと思わなくもないが、ゲンはそう考えた。
司的考量不无道理。但幻对选择千空有所顾虑。因为千空作为文明复兴的功臣,正逐渐被公众视为和平象征。更何况幻清楚,千空向来拒绝出席这类社交宴会。若这样的人物突然在此时参加游轮活动,极易被怀疑是潜入调查。虽然可能有些多虑,但幻仍坚持这个判断。

知名度だけでいえば、ゼノも文明復興に協力した著名な科学者ではある。だがゼノの場合一部の間では危険思想を持っている人物と認識されていた。そのため、マフィアなどアンダーグラウンドな人物も参加している今回のクルージングでは、その噂のおかげでかえって怪しまれないのではないかと思われた。以上の内容を内容を踏まえた上で、千空を潜入メンバーに選ぶのは些か危険なのではないか、とゲンは伝えた。
单论知名度,司同样是协助文明复兴的著名科学家。但司在某些圈子中被认为持有危险思想。正因如此,在这场有黑帮等地下势力参与的游轮活动中,这种传闻反而可能降低他的可疑度。基于以上考量,幻向司提出:选择千空作为潜入成员是否略显冒险。

「なるほど、君の意見はわかった。だが実際、千空以上に科学の知識があり、かつ冷静に立ち回れる人物がいないのも事実だ。英語を話せるという条件も含めてね」
"原来如此,我明白你的意见了。但事实上,确实不存在比千空更懂科学知识、且能冷静应对的人物。还得包括会说英语这个条件呢。"

どうしたものかと皆で頭を悩ませる。ゲンが心配する理由も理解できる。だがゼノの言うように千空以上の適任がいないのも、また事実であった。どうしたものかと考える。そしてふと、以前の出来事を思い出した。
众人都在苦恼该如何是好。也能理解ゲン担心的理由。但正如ゼノ所说,找不到比千空更合适的人选也是事实。正苦思冥想时,突然想起之前发生过的事。

「待って、考えてみれば前やったみたいに女装しちゃえばいいんじゃない?」
"等等,仔细想想像上次那样女装不就好了吗?"

「「「はあ!?!?」」」  "「「「诶!?!?」」」"
ゲンのとんでもない発言に、その場にいたほぼ全員が驚きの声を上げた。宝島での出来事を知らない者達からしたら、驚くに決まっている。
源那番离谱的发言,让在场几乎所有人都发出了惊呼。对于不了解宝岛事件的人来说,这种反应再正常不过。

「いや、百億%無理だろ。あの時も女にしては声が低すぎるから無理ってなったじゃねえか」
"喂喂,百分之百不可能吧。上次不就因为女装时声音太低被识破了吗?"

「逆に言えば、声以外は問題なかったってことでしょ。まだクルージングまで時間もあるし、それまでに俺が特訓してあげるから心配しないでよ」
"反过来说,除了声音其他都没问题对吧?离邮轮出发还有时间,我会给你特训的,别担心啦。"

「おいおい、遊びで行くわけじゃねえんだ。本当にその案でいけるかどうか、直接この目で見てみないことには賛成できねえ」
"开什么玩笑,这可不是闹着玩的。不亲眼确认这个方案是否可行,我绝不可能赞成。"

「スタンの言う通りだ。まずは僕達を納得させてくれないと」
"斯坦说得对。你得先让我们信服才行。"

今この場には、ゲンしか千空の女装を見たことがある者はいない。スタンリーやゼノがそう言うのも無理はなかった。そもそも当の本人である千空すら乗り気ではないのだ。となればまずは皆を納得させる必要がある。
现在在场的所有人中,只有幻见过千空的女装。斯坦利和杰诺会这么说也情有可原。毕竟连当事人千空自己都不太情愿。既然如此,首先必须让大家心服口服。

「それじゃあちょっと時間かかっちゃうかもだけど、この場で見せた方が早いだろうし証拠を見せるしかないね。杠ちゃん、南ちゃん、ニッキーちゃん、ほむらちゃん、ルリちゃんの女子達は、ちょっと手を貸してもらえるかな」
"那可能得花点时间,不过当场展示应该更快吧。只能拿出证据了。杠、小南、妮琪、焰、琉璃,女生们能来帮个忙吗?"

「別にいいけど、アタシらは何すりゃいいのさ」  "帮忙倒是没问题,不过我们要做什么啊?"
「千空ちゃんビューティー化計画を手伝ってほしいのよ」
“想请千空酱帮忙实施变美计划呢”

「つまり、お化粧とか着替えを手伝えばいいってわけね」
“也就是说,帮忙化妆和换装就可以了吧”

「そうそう。当たり前だけど、男の俺よりみんなの方がメイクとか詳しいだろうしね」
“没错没错。虽然理所当然,但大家肯定比我这个男生更懂化妆之类的吧”

「そしたら私のメイク道具とか持ってこようかしら」  “那我去把我的化妆工具拿过来吧”
「なら私はお洋服担当ですな。ブティックにドレスとかたくさんあるから千空君が着れそうなやつ選んで持ってくるよ」」
“那我就负责服装吧。精品店里有很多连衣裙之类的,我去挑些千空君能穿的带过来。”

「ゲン様、ご所望とあらば私もお手伝いいたしますが」
“既然幻大人有需要,我也愿意效劳。”

「そしたらフランソワちゃんは、杠ちゃんと一緒に洋服を取りにいってもらってもいいかしら?」
“那么法兰索瓦酱,可以请你和杠酱一起去取衣服吗?”

「かしこまりました。では杠様、お供いたします」  “遵命。那么杠大人,请允许我随行。”
「そういうわけで、これから千空ちゃんの準備に取り掛かるから、男性諸君はしばらくお待ちを。ほら、千空ちゃん行くよ」
“所以呢,现在要开始帮千空酱做准备了,男生们请稍等片刻。来,千空酱我们走啦”

「おいゲン、てめえ勝手に話を進めてんじゃねえ!」  “喂 Gen!你这家伙别擅自推进剧情啊!”
ゲンは抵抗する千空を強引に部屋から連れ出した。千空の身支度の準備を任された女性陣も、その後に続き部屋を出る。怒涛の展開が一旦過ぎ去り、部屋に静寂が訪れる。ひとまず残されたメンバーは、千空達が戻ってくるのを待つことにした。
Gen 强行把挣扎的千空拖出了房间。负责为千空梳妆打扮的女性们也紧随其后离开了房间。暴风骤雨般的展开暂告段落,寂静重新笼罩房间。暂时留下的成员们决定等待千空他们回来。

「アハハ、何だか凄い展開になってきたね...」  “啊哈哈,事情突然变得好夸张呢...”
「はっはー!!一体どうなるか見ものだな!」  "哈哈哈!!这下可有好戏看了!"
「というか龍水、君は潜入メンバーに選ばれなかったことに納得しているの?てっきり君のことだからクルージングに乗りたがると思ったけど」
"话说龙水,你对没被选入潜入小组真的没意见吗?按你的性格,我还以为你肯定会吵着要参加这次豪华游轮行动呢"

羽京が疑問に思うのも無理はない。何せ世界一の欲しがりであるこの男のことだ。豪華クルージングが行われるとなれば、絶対に参加したがるに決まっていると思っていた。
羽京会产生疑问也情有可原。毕竟眼前这个男人可是出了名的"世界第一贪心鬼"。既然要举办豪华游轮活动,按理说他绝对会闹着要参加才对。

しかし予想に反し、潜入メンバーを決める際、龍水は口を挟むことはなかった。羽京だけでなく、内心皆龍水が何も言わないことを不思議に思っていた。だがやはり、ある意味予想を裏切らないのがこの男でもある。龍水はいつもの強気な笑みを浮かべると、高らかに言い放った。
但出乎所有人预料,在确定潜入成员时,龙水竟全程保持沉默。不仅羽京,其实大家心里都觉得龙水这次的反应很反常。不过某种意义上,这个男人终究还是没让人"失望"。只见龙水露出招牌式的嚣张笑容,高声宣布道。

「羽京、貴様俺を誰だと思っている?龍水財閥の力があればクルージングのチケットを手に入れることなど容易い。端から俺は別口でクルージングに参加するつもりだぜ。あまり大人数で潜入するのは得策でないしな。違うか??」
"羽京,你小子把本大爷当什么人了?以龙水财阀的势力,搞张游轮票还不是易如反掌。我本来就打算另辟蹊径单独登船。毕竟大队人马潜入可不是上策。我说得不对吗?"

龍水は薬の件とは別に他の目的もあるらしく、船内では単独で動くとのことだった。万が一千空が厳しい場合は、龍水を潜入メンバーにしようとゼノは考えていたが、それはできなさそうだ。そうなってくると、新たな人選を考えておく必要がある。だがとにかく今は、しばしの間待つしかないだろう。
龙水似乎除了药物事件外另有目的,表示将在船上单独行动。千空原本考虑若情况危急就让龙水加入潜入小组,但看情形是行不通了。这样一来就需要物色新的人选。不过眼下也只能静观其变。

「そういえば、ビューティー計画とやらに私は声をかけられなかったな。人手は十分だったのだろうか」
"话说回来,那个什么美容计划居然没邀请我参加。是人手已经够了吗?"

「コハクは女子枠じゃなくてゴリラ枠だからいらねえんだろ」
"琥珀不算女子组名额属于猩猩组所以不需要吧"


部屋から連れ出された千空は別室へ連れていかれると、椅子に座らされた。目の前の机の上に、南が次々とメイク道具を並べていく。今からこれらを使ってメイクされるのは自分なのかと思うと面倒なことこの上ないが、この場は身を任せるしかないだろう。千空は諦めて体の力を抜き、女性陣に全面的に任せることにした。
被带出房间的千空被领到另一个房间,按在了椅子上。眼前的桌面上,南正陆续摆出各种化妆工具。想到接下来就要被这些工具装扮,实在是麻烦透顶,但此刻也只能听之任之。千空放弃抵抗放松身体,决定完全交由女性们摆布。

「まずはスキンケアからね。前髪が邪魔だからこれをつけてもらっていいかしら」
"先从皮肤护理开始哦。刘海有点碍事,可以戴上这个吗?"

南からカチューシャを受け取ると、言われた通り装着した。いつもまっすぐ上を向いている髪は意外にも柔らかく、カチューシャで抑えることができた。前に垂らしてある前髪をまとめて後へ流す。
千空接过南递来的发箍,依言戴上。平时总是直竖向上的头发意外地柔软,竟能被发箍压住。他将垂在额前的刘海全部拢到后面。

するといつの間に準備していたのか、ニッキーが蒸しタオルを差し出してきた。顔に蒸しタオルを一分程乗せろと言われたので、これも言われた通りにする。メイク前に蒸しタオルを使用すると、肌が柔らかくなり、化粧水などの浸透効果が高まるとのことだ。化粧水の浸透云々は置いておいて案外気持ちいいな、と思っていると、ニッキーは千空の肩を揉み始めた。ついでだからマッサージしてやるよ、とのことだが流石に至れり尽くせりで気が引ける。
这时不知何时准备好的妮琪递来了热毛巾。被告知要将热毛巾敷脸约一分钟,他也照做了。据说化妆前使用热毛巾能让肌肤变柔软,提高化妆水等产品的渗透效果。抛开化妆水渗透效果不谈,这感觉倒是意外地舒服——正这么想着,妮琪已开始揉捏千空的肩膀。"顺便帮你按摩下",话虽如此,这般无微不至的照顾反而让他有些过意不去。

蒸しタオルが終わると次はパックを手渡され、顔につけるよう言われた。なんでも化粧水・美容液・乳液の全てが一枚で完了するというオールインワンのパックらしく、これをすることにより化粧ノリが良くなるらしい。メイクも小さな工程の積み重ねの上に成り立つと考える、科学に通じるものがある。
热毛巾敷完后,接着递来了面膜,让我敷在脸上。据说这是集化妆水、精华液、乳液于一体的全能型面膜,用了能让妆容更服帖。化妆也是由无数细小步骤累积而成,倒是颇有几分科学原理在其中。

「これで下準備はオッケーね。早速ベースメイクに取り掛かりますか。って言っても千空の場合、元の肌が綺麗だからそんなにやることなさそう」
"这样基础护理就完成啦。我们马上开始底妆吧。不过话说回来,千空原本皮肤就很好,应该不需要太多步骤呢"

「確かに千空ちゃんお肌綺麗よね。髭も全然生えないし」
"确实千空皮肤超好的。连胡茬都不怎么长"

「そしたら下地でツヤを出して、ファンデは部分的に薄くのせればベースメイクは完成かな」
"那先用妆前乳提亮肤色,再局部薄涂粉底液,底妆应该就完成了吧"

目を閉じるよう言われ、その通りにする。目を閉じている間、肌に何やらペタペタと塗られたが、思ったよりあっという間に終わった。
有人让我闭上眼睛,我便照做了。闭眼期间感觉有什么东西在脸上涂涂抹抹,但结束得比想象中快得多。

ベースメイクが終わると、次にアイブロウに取り掛かった。こちらも特に手を加える必要がなさそうだっため、眉毛の余分な毛を少し抜き、毛流れを整えるだけで終了した。問題はアイシャドウだったらしく、洋服に合わせて色を選んだ方がいいだろうかと南達が悩んでいると、そのタイミングで洋服を取りにいっていた杠とフランソワが戻ってきた。
底妆完成后,接着开始修眉。似乎也不需要特别修饰,只是拔掉几根杂毛、理顺眉形就结束了。问题似乎出在眼影上,南他们正纠结是否该配合服装选色时,恰好去取衣服的杠和弗兰索瓦回来了。

「お待たせしてごめん!服色々持ってきたよ!!」  "久等了抱歉!我把各种衣服都拿来啦!!"
「千空様に合うサイズのものを何点か見繕わせていただきました」
"我们挑选了几件适合千空大人尺寸的服装"

二人は手に持っていた紙袋から服を取り出すと、空いている机の上に並べていった。黒、白、赤、紫、青など様々な色のドレスが置かれていく。
两人从手中的纸袋里取出衣服,依次摊开在空着的桌面上。黑色、白色、红色、紫色、蓝色等各色连衣裙被一一摆放整齐。

「へえ、可愛いじゃないか!」  "哎呀,这不是很可爱嘛!"
「うん、どれも凄く可愛い。このドレスとかいい気がする」
"嗯,每件都超级可爱。我觉得这条连衣裙就不错"

「ちょっと丈が短かすぎやしないかい?」  "裙摆会不会稍微短了点?"
ニッキーとほむらがドレスを手に持ちながら悩み始める。なぜドレスという選択肢しかないのだろうと内心思っていると、千空の表情を見て何かを考えているのか察したのか、ゲンが口を開いた。
妮琪和焰拿着礼服开始犯愁。她们内心正疑惑为什么只有礼服这个选项时,看到千空若有所思的表情,似乎察觉到了什么,这时幻开口了。

「豪華クルーズともなれば、パーティーが開催されるじゃない?となるとドレスコードがあるはずだから、女性の場合はドレスでの参加になるってわけ。パンツスタイルでの参加もありだと思うけど、元が男だからこそドレスにした方が騙せると思うのよ」
"既然是豪华游轮,肯定会举办派对吧?那就意味着有着装要求,女性必须穿礼服参加。虽然我觉得穿裤装也行,但正因为原本是男性,穿礼服才更容易蒙混过关"

「わかった、わかった。服選びも全部てめえらに任せるわ」
"知道了知道了,选衣服全都交给你们决定"

とりあえず、一通り着てみてから決めようということになり、手渡されるドレスに袖を通しては脱ぐ、というのを繰り返していく。その間、着てみて良さそうなものは一旦確保という流れになった。
最终决定先试穿一轮再做选择。她们反复试穿着递来的礼服,期间把看起来不错的款式暂时保留下来。

そうして着替えることしばらく、一際シンプルなドレスを最後に渡される。黒いタイトなロングドレスで、横に大きくスリットが入っているデザインのものだ。流石にこれは厳しいだろうと思いつつも、どうせこれが最後の一着なので躊躇わずに着る。ここまで色々着た後だと、ドレスを着ることに対する抵抗もなくなっていた。細身なドレスに足を通し上まで引き上げる。ノースリーブなので、通気性が良く腕まわりは動きやすい。ハイネックなので、違和感なく喉仏を隠せるのも良い。だが思った以上にタイトな作りのため、体のラインが出てしまう。これだと厳しいだろうと思いつつ、着替え終えた千空が皆の前に姿をみせると、今までどのドレスよりもいい反応が返ってきた。
就这样换了好几套衣服后,最后递来的是一件格外简约的连衣裙。这是件黑色修身长裙,侧面设计了大开衩。虽然觉得这未免太夸张了些,但横竖都是最后一件了,便毫不犹豫地穿上。经历了前面各种试穿后,对穿裙子这件事已经毫无抵触了。将双腿伸进纤细的裙身往上提起。无袖设计让透气性很好,手臂活动也很方便。高领款式能自然遮掩喉结也很不错。但剪裁比想象中更为贴身,身体曲线一览无遗。正想着这样果然太勉强时,换好装的千空出现在众人面前,却收获了迄今为止所有裙装中最热烈的反响。

「待って、これ今まででの中で一番いいんじゃない!?」
"等等,这绝对是至今为止最好看的一套吧!?"

「ああ!大人っぽいし可愛いと思うよ」  "啊!既成熟又可爱呢"
「千空くん細身だし、スレンダーな女性って感じでいいと思う!」
"千空君身材纤细,穿出了一种苗条女性的感觉,很棒哦!"

「あとは胸に少し詰め物をして、化粧を仕上げれば完璧なはず」
"最后在胸口稍微垫些填充物,再完成妆容就完美了"

女性陣から思わぬ高評価を得たことにより、ドレスはこれで決まりとなった。ドレスが決まったことにより、アイシャドウの色やリップの色も決まったらしく、目まぐるしく準備が行われていく。何がなんだかわからぬまま、身を任せている間にメイクとヘアメイクが同時進行で行われていく。瞼にラメを塗られたりマスカラを塗りたくられたりと、慣れないものばかりで身につけることへの違和感しかない。
由于意外获得女性阵营的高度评价,这件礼服就这样确定下来了。随着礼服敲定,眼影色号和唇膏颜色似乎也随之确定,准备工作开始飞速推进。在我还搞不清状况、任由摆布的过程中,化妆和发型设计同时进行着。眼皮被涂上闪粉、睫毛被刷上浓密膏体,全是不习惯的步骤,只有穿戴这些的不适感。

「髪型はいかが致しましょう?千空様は首筋がお綺麗なのでアップヘアなどもお似合いだと思いますが、このお召し物ですとハーフアップなどもよろしいかと」
"发型您想怎么处理呢?千空大人的后颈线条很优美,盘发造型会很相称,不过考虑到这件礼服,半扎发或许也很合适"

ヘアメイクを担当してくれることになったフランソワは、千空の髪の毛をブラシで梳かしながら髪型について要望をきいてくる。
负责发型设计的弗朗索瓦一边用梳子梳理着千空的头发,一边征询对发型的要求。

「何でもいいわ。杠、決めてくれ」  "随便什么都行。杠,你来决定吧"
「うーん、悩ましいところですな...ドレスがタイトなデザインってこともあって、全体的にシンプルなんだよね。となると、正面から見た時に髪の毛が少し見えていた方が可愛い気がするから、ハーフアップがいいかも!皆はどう思う?」
"嗯~真是让人纠结呢...因为礼服是紧身设计,整体比较简约。这样的话,从正面看时稍微露出点头发会更可爱,所以半扎发可能不错!大家觉得呢?"

「私もハーフアップがいいと思う」  "我也觉得半扎发比较好"
「うん、アタシも賛成だよ」  "嗯,我也赞成"
「かしこまりました。ではハーフアップでご用意致します」
"明白了。那就为您准备半扎发造型吧"

フランソワは温めておいたヘアアイロンで手際よく千空の髪の毛を整えていく。その際、メイクの時は後に流していた前髪は、いつも通り前にくるようにした。髪全体を整え終えたらヘアオイルを手に取り、毛先を中心につけていく。そしてバランスを見ながら髪の毛を分けハーフアップを作る。バランスを整えゴムでしっかり縛り、最後に上から金色のシンプルな簪を刺し、あっという間にヘアスタイルが完成した。同時進行で行っていたメイクも、最後にリップを施され完成した。ドレスがシンプルだから付けた方がいいとのことで、仕上げに簪と色を合わせたゴールドのネックレスとイヤリングも付けられ、靴も履き替えさせられた。
弗朗索瓦用预热好的卷发棒利落地为千空的头发做造型。此时化妆时往后梳的刘海,现在又恢复成平常垂在前额的模样。整体造型完成后,她取出护发精油,着重涂抹在发梢部分。接着一边观察整体平衡度,一边将头发分区扎成半马尾。调整好造型比例后牢牢绑上发圈,最后从上端斜插一支素雅的金色发簪,转眼间发型就完成了。同步进行的妆容也在最后涂上唇彩后大功告成。由于礼服设计简约,造型师建议搭配饰品,于是又为他戴上与发簪同色系的金色项链耳环,连鞋子也更换了新款。

「千空、目開けていいよ」  "千空,可以睁开眼睛了"
南にそう言われ、目を開く。目を開けると思ったよりも近くで女性陣が千空の顔を覗き込んでおり、至近距離で目が合う。すると、彼女達は千空の顔を見て喜びの声を上げた。
听到小南这句话,少年睁开双眼。映入眼帘的是女性工作人员们凑得极近的脸庞,在超近距离下四目相对。看到千空新造型的瞬间,她们不约而同发出惊喜的赞叹。

「めっちゃ可愛いじゃん!私達超いい仕事したんじゃない!?」
"这也太可爱了吧!我们这工作做得超棒啊!"

「ああ、これなら野郎共も納得するクオリティだろうさ!」
"啊,这种品质的话那群臭男人也该满意了吧!"

「千空くん、すっごく可愛いよ!!みんなびっくりしちゃうね!」
"小千空,超级可爱!!大家都会吓一跳呢!"

「千空様。袖のないドレスの場合、腕にストールを通された方が良いかと。よろしければこちらをお使いください」
"千空大人。若是无袖礼服的话,建议在手臂上搭条披肩。若不嫌弃,请用这条"

相変わらず準備のいいフランソワは、紫色のストールを千空の腕に通してくれた。柔らかい生地で着心地がいいだけでなく、真っ黒なドレスに差し色を入れたことにより、一気に洗練されたコーディネートへと変わる。
一如既往准备周全的弗朗索瓦,将紫色披肩搭在千空的手臂上。柔软的布料不仅穿着舒适,更为纯黑的礼服增添了一抹亮色,瞬间让整体造型变得精致起来。

皆口々に褒めてくれるが、如何せん自分の姿を鏡で見ていない千空は、若干疑い気味だ。
众人纷纷称赞,但始终没照过镜子的千空仍带着几分怀疑。

「千空ちゃん、みんなのリアクション見ても信じられないでいるでしょ?ところがなんと、超美人に仕上がっちゃってるのよ、ジーマーで!自分の目で確認してみたらいいよ」
"小千空,看到大家的反应还是不敢相信吧?不过啊——你现在可是美得惊人呢,超赞的!用自己眼睛确认下如何?"

ゲンは千空に手鏡を手渡した。それを覗き込んでみると、見慣れない自分の姿が映っている。
幻递给千空一面手持镜。朝镜中望去,映出的是自己陌生的模样。

「お前達の努力は認めるが、やっぱ無理があんだろ」  "我承认你们的努力,但果然还是太勉强了吧"
「はあ!?私達の完璧な仕上がりを見て何言ってるわけ!!?」
"哈!?你看着我们完美的成果在说什么胡话!!?"

「まったくだよ。アタシ達の仕事にケチつけようってかい!?」
"就是啊。你是想挑我们工作的毛病吗!?"

千空の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで怒り出した南とニッキーを杠が嗜める。二人の勢いの凄さに押され、千空はたじろいだ。
杠连忙制止几乎要揪住千空衣领发飙的南和妮琪。被两人惊人的气势所迫,千空不由得后退了一步。

「まあまあ、二人共落ち着いて。千空くん容姿に対する興味が皆無だから、本当に良くわからないんだと思うの」
"好啦好啦,你们两个都冷静点。千空君对容貌完全没兴趣,所以他是真的不太明白啦"

「女の私達の目から見ても、凄く綺麗」  "就连我们女生看来也觉得非常漂亮"
「私もほむら様と同意見でございます」  "在下也与焰大人持相同意见"
「ほらほら、千空ちゃん。みんなもこう言ってるんだし、自信を持てとは言わないけど信じてあげてよ」
"你看你看,小千空。大家都这么说了,虽然不说要你充满自信,但总该相信我们吧"

主に南とニッキーからの圧力に押され、千空は頷くしかなかった。まあ彼女達がいくら自信満々でも、最終的な決定を下すのは部屋で待っているゼノやスタンリー達なのだ。きっと彼らが自分のこの姿を見たら、笑うか困惑するかのいずれかであって、まず潜入のメンバーには選ばれないだろう。千空は内心そう思いながらも、これ以上反論しようものなら殴られかねない程の勢いだったため、ここは大人しく従っておくことにする。
在来自南和尼基的压力下,千空只能点头同意。虽说她们信心十足,但最终决定权还是在房间里等待的杰诺和斯坦利等人手中。他们要是看到自己这副模样,肯定会发笑或感到困惑,八成不会选自己当潜入队员吧。千空暗自思忖着,但眼下要是再提出异议,搞不好会挨揍,所以还是乖乖听话为妙。

「それじゃあ千空ちゃんの準備が整ったことだし、みんなにお披露目しに行っちゃおっか」
"既然小千空都准备好了,那就去给大家展示一下吧"

「よっし、あいつらのこと驚かしてやろうじゃないの!」
"好嘞,咱们去吓他们一跳!"

「ええ!私達の自信作だからね!!」  "没错!这可是我们的自信之作呢!!"
「みんなびっくりするだろうね!」  "大家一定会吓一跳吧!"
「どんな反応をするか楽しみ」  "真期待看到他们的反应"
女性陣は顔を見合わせ、気合いを入れている様子だ。互いの目的が一致した時の女子の団結力の凄まじさに、千空だけでなくゲンも圧倒された。
女生们相视一笑,一副干劲十足的模样。当女性们目标一致时展现出的惊人团结力,不仅让千空,连幻也为之震撼。

気合いを入れ終えたニッキーと南に両腕をガッチリと掴む。、杠は千空の背中を押し、ほむらとフランソワが千空を隠すように前に立った。その状態のまま着替えを行った部屋を出て、皆が待っている部屋へと向かう。ピッタリとしたドレスと履き慣れない靴のせいで、歩くスピードがいつもよりかなり遅い。女性らしい体型になるようにコルセットでウエストを絞り、胸にも詰め物を入れているせいで尚のこと苦しい。早くもドレスを脱ぎたい気持ちになり始める。だが女性達に支えてもらいながら歩くことしばらく、行きより倍の時間がかかったものの、ようやく皆が待っている部屋の前に着いた。
被妮琪和南牢牢抓住双臂的千空,由杠推着后背前进,琥珀和弗兰索瓦则挡在前方为他打掩护。保持这个状态走出更衣室,向众人等候的房间移动。由于紧身礼服和不习惯的高跟鞋,行走速度比平时慢了许多。束腰紧勒着腰部以塑造女性曲线,胸部也塞了填充物,呼吸都变得困难起来。千空已经开始想立刻脱掉这身礼服。但在女生们的搀扶下缓慢前行,虽然花费了去程两倍的时间,终于抵达了众人等候的房间门前。

「みんなお待たせー!女優顔負けの美人さんの登場だよー!!」
"让大家久等了!这位可是连专业女演员都自愧不如的美人登场啦!!"

また話を盛りやがって、と反論したかったものの、ここまで歩いてくるだけで疲れてしまい反論する気力もない。まずは少し息を整えたかった。
虽然很想反驳说"又在夸大其词",但光是走到这里就已经累得连反驳的力气都没有了。现在只想先稍微喘口气。

待機組は二時間以上待たされていたこともあり、ようやく準備が終わったか、と胸を撫で下ろした。メイクに時間がかかることを知らない男性陣は、何にこんなに時間がかかったのだろうという疑問と、これだけ時間をかけた完成系に興味津々といった様子だ。早速千空を見ようとする。だが肝心の彼の前には女性達が立ち塞がっており、良く見えなかった。
由于待机组已经等了两个多小时,他们终于松了口气想着"总算准备好了吗"。不了解化妆需要花时间的男性成员们,既对"为什么要花这么长时间"感到疑惑,又对"花费这么多时间打造的完成品"充满好奇。他们立刻想看看千空的样子。但最关键的是,女性成员们挡在他前面,根本看不清楚。

「千空の姿が良く見えないので、見せてもらってもいいかな?これ次第では潜入メンバーを考え直さないといけないのでね」
"我看不清千空的样子,能让我看看吗?根据这个情况,我们可能需要重新考虑潜入成员的人选呢"

「だってさ、千空ちゃん。ゼノちゃんがこう言ってるんだし、恥ずかしがってないでひと思いにいっちゃってよ」
“我说千空啊,既然杰诺都这么说了,你就别害羞了,干脆一口气上吧”

「......別に恥ずかしがっちゃいねーよ」  “……我才没害羞呢”
恥ずかしいというより、なんとなく気まずいというのが正しかった。しかし、ゲンの言うとおりこういった場合、長々と躊躇うより、かえってひと思いにやってしまった方が気が楽と言うもの。そうと決まれば、やるしかないだろう。自分の姿が見えないよう前に立ってくれていたほむらとフランソワ、横にいて支えてくれていたニッキーと南に声をかけ一歩踏み出すと、千空は皆の前に姿を現した。
与其说是害羞,更准确的说法是莫名感到尴尬。不过正如幻所说,这种情况下与其犹豫不决,倒不如干脆利落地行动反而更轻松。既然决定了,就只能硬着头皮上了。千空让挡在前方的焰和弗兰索瓦遮住自己身影,又对两侧搀扶着自己的妮琪和南打了声招呼,终于向前迈出一步,在众人面前亮相。

部屋に静寂が訪れる。だがその静寂は一瞬で破られ、すぐにどよめきが起こった。声に出して驚く者、呆気にとられ口をあんぐり開けている者など、反応は人さまざまだ。
房间里瞬间陷入寂静。但这寂静转瞬即逝,随即爆发出阵阵骚动。有人惊呼出声,有人目瞪口呆地张大了嘴,众人的反应各不相同。

「驚いた...君、本当に千空なのかい?いやでも、うん...確かに千空だね」
"真让人吃惊...你真的是千空吗?不,不过...嗯,确实是千空呢"

「ええ、私もです。準備に時間がかかったのも納得です。実にちゃんとしてる」
"是啊,我也是。难怪准备要花这么多时间。真的非常完美"

「本当にびっくりしたよ...一瞬誰だかわからなかったもん」
"真的吓了一大跳...刚才一瞬间都没认出来是谁"

司の言葉に続き、氷月、羽京も驚きの声を上げた。他のメンバーも口々に驚きを口にする。
继司的话语之后,冰月和羽京也发出了惊叹。其他成员也纷纷表达着惊讶。

「ヤベー!!マジかよ、すげえな!女にしか見えねえ!」
「卧槽!!真的假的,太牛逼了吧!完全就是个妹子啊!」

「ああ!めっぽう可愛いぞ、千空!」  「啊啊!简直可爱到爆啊,千空!」
「......てめらまじで言ってんか?」  「......你们认真的吗?」
てっきり皆早々に諦め、代わりの潜入メンバーをどうするかの話し合いに移ると想像していた。だというのに、目の前では思っていたものとは違う展開が繰り広げられており、なぜか皆から賞賛の言葉をかけられる。
本以为大家会很快放弃,转而讨论替代的潜入人选。然而眼前却上演着与预想截然不同的剧情,不知为何收获着众人的赞美之词。

思っていた展開と異なっていることに困惑する。すると、いつの間にか目の前に龍水が立っていた。龍水は千空の腰を抱き自分の方へ引き寄せると、顔をグッと近づけ覗き込んできた。突然のことに驚き、千空はされるがままである。
剧情走向与预期不同,令人困惑。就在这时,龙水不知何时已站在眼前。他一把搂住千空的腰将人拽向自己,猛然凑近脸庞凝视着对方。面对突如其来的举动,千空只能呆立当场。

「ほう...美しいな。欲しいぞ!!」  "呵...真美啊。我要定了!!"
「おいおい、てめえもかよ...ただ女の服を着てるだけの男だぞ。目は確かか?」
"喂喂,连你也...这不过是个穿女装的男人罢了。你眼睛没问题吧?"

「貴様こそ自分の美しさを理解しておらんな?美しいものに男も女も関係ない。違うか?」
"你才是不明白自己的魅力所在吧?美丽之物何须区分男女。难道不是吗?"

龍水は千空の姿を目に焼き付けるようじっくり一瞥した後、ゆっくりと体を離した。
龙水将千空的身影深深烙印在眼底般凝视片刻后,缓缓松开了怀抱。

「フランソワ!」  "弗朗索瓦!"
「はい、龍水様」  "在的,龙水大人"
「千空のドレスの手配を。長旅だから今着ている物以外にも、数着は必要になるだろう」
"去准备千空的礼服。长途旅行的话,除了现在穿的这身,恐怕还需要再备几套"

「かしこまりました。少し多めにご用意いたします」  "明白了。我会多准备一些"
「....はあ?」  "……哈?"
まるで自分が最後の潜入メンバーで決定したかのような口ぶりではないか。いや、そうとしか考えられない。普段なら現状をすぐに受け入れ、次の手が浮かんでくるというのに、この時ばかりは思考を巡らせても、次にどうするべきかわからずにいた。
这语气简直就像自己已经被内定为最后的潜入成员似的。不,只能这么理解。若是平常,他应该会立刻接受现状并想出对策,但此刻无论怎么思考,都完全不知道接下来该怎么办。

その時、誰かの視線を強く感じた。その視線の主、スタンリーと目が合う。いつものように煙草を咥えたその男は、カツカツと革靴を鳴らしながら千空の方へ向かって歩いてくる。そして目の前までやってくると、指先で千空の顎を掬い上げ、顔を上げさせた。鋭い眼差しに視線を絡めとられる。スタンリーは千空の頭の先から足の先までをじっくり見ると、空いている手に煙草を持ち口を開いた。
这时突然感受到强烈的视线。与视线的主人斯坦利四目相对。那个总叼着香烟的男人咔咔作响地踏着皮鞋朝千空走来。来到面前后,他用指尖挑起千空的下巴迫使抬头。锐利的目光牢牢锁住视线。斯坦利将千空从头到脚仔细打量后,用空着的手夹起香烟开口道。

「やんじゃん」  “搞定了”
スタンリーが口を開いたことにより、煙草の煙が顔にかかる。思わず咳き込むと、ゼノがスタンリーを嗜めた。
由于斯坦利开口说话,香烟的烟雾飘到了脸上。我不由得咳嗽起来,赛诺便训斥了斯坦利。

「スタン、千空の前でその毒ガスを吐くのはやめたまえ」
“斯坦,别在千空面前喷这些毒气”

「わかったよ。それよりゼノ、これなら大丈夫なんじゃねえか」
“知道啦。话说赛诺,这样应该没问题了吧”

スタンリーは千空を指差しながらゼノにそう問う。  斯坦利指着千空向石神这么问道。
「ああ、僕もそう思っていたところだ。まさか君がこんなに美しい女性に変身できる特技を持っていたとはね。あとは声だけなんとかすれば問題なさそうだ」
"啊,我也正这么想呢。没想到你居然拥有能变身成如此美丽女性的特技。只要再把声音问题解决就完美了"

「声に関しては俺に任せてよ。クルージングまであと一ヶ月あるし特訓しておくよ」
"声音的事就交给我吧。离巡航还有一个月时间,我会好好特训的"

「...まさかてめえら、本当に俺に潜入させる気か?この格好で?」
"...你们这群混蛋,该不会真打算让我这样潜入吧?就穿这身?"

ゼノ、スタンリーが頷く。一番危惧していた二人から高評価を得たことで、千空の着替えを担当した女性陣はガッツポーズをした。頑張った甲斐があったね、などと互いに賞賛し合っている。他のメンバーも潜入メンバーが決まったため、計画を練ろうと意気込んでいる。とてもじゃないが、今更嫌だとは言えない雰囲気だった。こうなったら腹を決めるしかない。
杰诺和斯坦利点了点头。由于最令人担忧的两人给出了高度评价,负责为千空更衣的女性们兴奋地比出胜利手势。她们互相称赞着"努力总算没白费"之类的话。其他成员也因潜入人选确定而摩拳擦掌地准备制定计划。现场氛围已经让人无法说出"现在反悔"这种话了。事到如今只能横下一条心。

「あ”ー、俺が女の姿で潜入するってのはわかった。だが本名で参加するわけにもいかねえし、どういう設定の女にするかも決めた方がいい」
"啊——我扮女装潜入这事算是明白了。但总不能顶着本名参加吧?还得决定要扮演什么类型的女性角色。"

「うむ、それもそうだね。名前は一旦置いておくとして、まずは設定から考えよう。自然なところで言うと、誰かの恋人、もしくは婚約者といったところかな。僕の婚約者として紹介してもいいけど、今までそう言った話が一切なかった身だから、少し不自然かもしれないね」
"嗯,确实如此。名字暂且搁置,先来构思人物设定吧。按常理来说,扮演某人的恋人或者未婚妻比较自然。虽然可以介绍成我的未婚妻,但毕竟我至今从未提过这类话题,可能会显得有点突兀呢。"

「そしたらスタンリーちゃんの婚約者って設定はどう?俺とか羽京ちゃんでもいいけど、隣に背が高い人が並んだ方が、千空ちゃんがより女性らしく見えるだろうし。それにスタンリーちゃん煙草メーカーの社長でもあるから、恋人を連れてクルーズに参加してても違和感がないと思うのよね」
"那设定成斯坦利君的未婚妻如何?我和羽京君也可以,不过旁边站着高个子的话,千空君会显得更有女人味吧?况且斯坦利君还是烟草公司的社长,带着恋人参加游轮活动也不会让人觉得违和呢。"

「確かに。そしたら僕とゲンはゼノの付き人、みたいな設定でもいいかもしれないね」
"确实。这样的话,我和健就当仁的随从,这种设定也不错呢"

一番危惧していた潜入メンバーが確定したことにより、他の話がトントン拍子に決まっていく。潜入まであと一ヶ月。その日に備えるために、怒涛の日々が始まったのだった。
最令人担忧的潜入成员确定后,其他事项也顺风顺水地敲定了。距离潜入行动还剩一个月。为迎接那天的到来,波澜壮阔的备战日子就此展开。



ep04


光に照らされ輝く一面の青が目に眩しい。潮の香りが髪や肌にまとわりつく。水面は波もなく静かだ。顔を上に向けると、空には真っ白い雲が浮かんでおり、ウミネコが飛んでいた。天気良好、まさに絶好の出港日和であった。
被阳光照耀得闪闪发亮的蔚蓝海面令人目眩。潮香萦绕在发丝与肌肤之间。水面无波无澜,平静如镜。仰头望去,雪白的云朵漂浮在晴空,海鸥展翅翱翔。天气晴好,正是绝佳的启航之日。

あれから一ヶ月経った今日、ゼノ、スタンリー、千空、ゲン、羽京の五名は、寄港場所である横浜に来ていた。目の前には大きなクルーズ船が停泊している。見上げる程大きな船、クイーン・レッドスピネル号は最大四千四百名が乗車可能の豪華客船だ。そして彼らはこれからこの船に潜入し、十四日間旅をすることになる。
自那之后一个月过去了,今天,杰诺、斯坦利、千空、幻、羽京五人来到了停靠港横滨。眼前停泊着一艘巨大的游轮。这艘需要仰望的巨型船只——红宝石女王号,是能容纳最多四千四百人的豪华客轮。而他们即将潜入这艘船,展开为期十四天的旅程。

以前自分達が旅を共にしたペルセウス号よりも遥かに大きな船。流石にここまでの規模の船には石化前ですら乗ったことがないため、千空は内心少しだけわくわくしていた。
比起之前同行的珀尔修斯号要庞大得多的船只。毕竟石化前也从未乘坐过如此规模的轮船,千空内心不禁泛起一丝雀跃。

「それにしても、千空ちゃんの洋服気合い入りまくりね」
"话说回来,千空妹妹这身衣服真是下足了功夫呢"

大きな帽子を片手で支えながら、船を興味深げに眺めている千空にゲンが話しかける。杠は今回の潜入にあたり、千空の体にピッタリ合うよう服を全て新調してくれていた。なんでも龍水から依頼されたらしい。既製品でなんとかしようと思っていたが、おかげでどの服を着てもサイズがちょうどいいだけでなく、女性らしいシルエットになるよう工夫も凝らされており、今の千空は誰の目から見ても淑女といった装いだった。
幻一边用手扶着宽檐帽,一边对正兴致盎然眺望轮船的千空搭话。为了这次潜入行动,杠特意为千空量身定制了全套新装。据说都是受龙水委托。原本打算用现成衣物将就,但现在的每套服装不仅尺寸完美贴合,还精心设计了突显女性曲线的剪裁,任谁看来此刻的千空都是一位端庄淑女的装扮。

「確か好きな映画のヒロイン着てるとかなんとかで、ずっと作るのが夢だったとか言ってたな。それよりこのバカでけえ帽子本当に必要か?」
“好像说是想穿成喜欢的电影女主角那样,一直梦想着要做这套衣服来着。不过话说回来,这顶蠢到爆的大帽子真的有必要吗?”

今千空が着ているのは石化前の世界で一九一二年のフランスの雑誌に掲載されていたのを再現したもので、テーラーメイドと呼ばれる散歩用や旅行用のスーツスカートだ。杠が好きだと言っていた船を舞台にしたラブストーリでの冒頭で、ヒロインが乗船時に着ていたものを、記憶を頼りに作ったらしい。襟の高いシャツにネクタイを締め、その上から白いジャケットを羽織り、下は白いタイトなロングスカートを履いている。メンズライクな服装のため、ドレスの時よりずっと動きやすいが、このつばの広い帽子が些か邪魔に感じた。
如今千空穿着的这套服装,是根据石化前世界 1912 年法国杂志刊登的款式复刻而成,名为定制款的散步旅行用西装套裙。据说杠曾提过喜欢某部以轮船为背景的爱情故事,千空便凭着记忆重现了女主角登船时穿的那套行头。高领衬衫系着领带,外搭白色短外套,下身是白色修身长裙。比起裙装,这种偏男装的打扮活动起来方便得多,只是这顶宽檐帽实在有些碍事。

「そこで着るのが夢じゃなくて、作るのが夢だったっていうのが杠ちゃんらしいよね」
“不是梦想穿去那里,而是梦想亲手制作——这很符合杠的风格呢”

「ククク確かにな。てか乗船したら、俺の名前呼び間違えないように気をつけろよ」
“咯咯咯确实。对了,等会上船后可别叫错我名字啊”

「そうだったそうだった。ごめんね、“ビャクヤ”ちゃん」
"对对对,真是抱歉呢,'百夜'酱"

潜入するにあたって女装をすることになったわけだが、そうなると偽名も考えなければならない。色々と候補は上がったがどれもしっくりこず、結局百夜の名前を借りることにしたのだった。
虽然为了潜入行动必须进行女装,但这样一来还得考虑假名的问题。虽然提出了各种候选名字,但总觉得都不太合适,最终决定借用百夜的名字。

「もうそろそろ乗船時間か?......おい、スタンリー。てめえ何してやがる」
"差不多该登船了吧?......喂,斯坦利。你这家伙在搞什么鬼"

下半身へ違和感を感じ、隣に立つ自分の婚約者役である男へ目を向ける。すると、その男・スタンリーの手が無遠慮に千空の尻を触っていた。
感到下半身传来异样感,我转头看向身旁扮演自己未婚夫的男人。只见那个叫斯坦利的男人正肆无忌惮地用手揉捏着千空的臀部。

「あんた細すぎるから、ケツにもなんか入れた方がいいんじゃね?胸に詰め物入れてるみてえにさ」
"你太瘦了,屁股里也该塞点东西吧?就像往胸垫里塞填充物那样"

「......おい、ゲン。俺と部屋代われ。男のケツ揉むような奴と十四日間も同室で過ごせっか」
"......喂,幻。跟我换房间。我可不想和这种会揉男人屁股的家伙同住十四天"

「いやいや!絶対無理だからね!?スタンリーちゃんと千空ちゃんは恋人同士って設定で乗船しなくちゃいけないのよ!?!?そのためにたくさん訓練したわけだし!!」
"不行不行!绝对不行好吗!斯坦利酱和千空酱必须以恋人身份登船啊!?为此我们不是特训了那么久吗!!"

ゲンの言う通り、潜入メンバー選抜会議後から今日に至るまで、女性陣とゲンはほぼ毎日千空に女性らしく振る舞うためのレッスンを行った。特に苦戦したのはやはり声だった。ゲンは無理に大きい声で話そうとせず、声を潜めて話すよう千空にアドバイスした。そうするだけでも、少し女性らしい声に聞こえるようになるのだ。それができるようになった後は、声帯を閉じて振動しないようにし、喉の奥にある声帯を意識し、ゆっくりと閉じていく感覚で声を出す練習を行った。そうした訓練を徹底的に行い、なんとか皆から及第点をもらい潜入当日を迎えたというわけだ。
正如幻所说,从潜入成员选拔会议到今天为止,女生们和幻几乎每天都在教千空如何表现得像个女性。最困难的还是声音问题。幻建议千空不要刻意提高音量,而是压低声音说话。光是这样做,就能让声音听起来稍微女性化一些。掌握这个技巧后,他们开始练习闭合声带抑制振动,通过有意识地控制喉咙深处的声带,以缓慢闭合的感觉来发声。经过这样严格的训练,总算获得了大家的认可,迎来了潜入行动的当天。

「ちょっとケツ触られたくらいでそんな騒ぐ...ッ!」
"不过是被摸了下屁股就大呼小叫...呃啊!"

そう言いかけた時、スタンリーは指先に痛みを感じ思わず言葉を止める。足元を見ると、千空がヒールの部分でスタンリーの足の指先を踏んでいた。痛みに慣れているものの、場所が場所なだけに地味に痛かった。
话刚说到一半,斯坦利突然感到指尖一阵剧痛,不由自主地住了口。低头一看,发现千空正用高跟鞋的鞋跟踩着他的脚趾。虽然他对疼痛早已习惯,但这个部位被踩还是让他疼得龇牙咧嘴。

「おっと、悪いな。慣れない靴を履いてるもんで、足が滑っちまった」
"哎呀,不好意思。穿着不习惯的鞋子,脚滑了一下"

「二人ともすっかり仲良しだね。この調子ならこの旅も安心だ」
"你们两个关系真好啊。照这样看来这趟旅程我就放心了"

「いやいや、どこが!?!?」  "才...才没有这回事!?!?"
「アハハ、先が思いやられるね...それより、そろそろ乗船できるみたいだよ」
"啊哈哈,看来前途多舛呢...话说回来,好像差不多可以登船了哦"

羽京が指差す方へ目を向けると、船と地面とを繋ぐ階段が降ろされ、同じように乗船を待っていた人々が少しずつ乗り始めていた。少し離れたところで待機していた五人も、列に並び順番を待つ。
顺着羽京所指的方向望去,连接船只与地面的舷梯已经放下,同样等候登船的人群正陆续开始登船。在稍远处等候的五人也排入队伍,等待登船顺序。

「すぐに何か起こるとは考えにくいが、ここから先は敵のアジトへ潜入するという気持ちで気を引き締めていこう」
"虽然不太可能马上发生什么意外,但接下来我们要以潜入敌人据点的心态保持警惕"

ゼノの言葉に皆頷く。そうして待つことしばらく、千空達の順番がやってきた。階段下でチケット確認をしているクルーに、代表者であるゼノが全員分のチケットを提示する。クルーはチケットと乗船リストを照らし合わせながら、一人ひとりの顔を確認していった。
众人对千空的提议点头赞同。等待片刻后,终于轮到他们登船。在舷梯下方,作为团队代表的千空向检票员出示了所有人的船票。工作人员一边核对船票与登船名单,一边逐一确认每位乘客的面容。

「確認できました。こちらからどうぞ。船内へ入られましたら、受付にてルームキーをお受け取り下さい。それでは、良い旅を」
"验证完毕。请从这边登船。进入船舱后,请在前台领取房卡。祝各位旅途愉快"

第一関門であるここを問題なく通ることができ、皆内心ホッとする。階段が少し急なため、気をつけながら上っていく。スカートを履いているせいで上るのに精一杯なため、荷物を持つのはスタンリーと羽京に任せた。
顺利通过第一道关卡让所有人都暗自松了口气。由于舷梯较为陡峭,他们小心翼翼地向上攀登。穿着裙子的琥珀登梯时已颇为吃力,行李便交由斯坦利和羽京负责搬运。

階段を上り終え扉を潜ると、まず天井から吊るされている大きなシャンデリアが目に飛び込んできた。そのまま視線を巡らせると、まるで宮殿のような装飾が施されたホールが広がっている。床は磨き上げられた大理石で、至るところから金をかけて造り上げた船だというのが伝わってきた。
登上台阶穿过门扉,首先映入眼帘的是从天花板上垂下的巨大枝形吊灯。环顾四周,装饰得宛如宫殿般华丽的大厅在眼前延展开来。地面铺着打磨光亮的大理石,处处彰显着这艘用黄金堆砌而成的豪华邮轮。

「うわあ...!これは想像以上の豪華さだね」  "哇啊...!这比想象中还要奢华呢"
「バイヤーすぎてなんか緊張しちゃうな...って千空ちゃん達もうチェックインしに行っちゃってるし!」
"太高级了反而有点紧张...啊小千空他们都已经去办入住了!"

船内の豪華さに圧倒されていたゲンと羽京をおいて、ゼノ、スタンリー、千空の三人はさっさと受付へ向って歩いている。二人はその後を慌てて追いかけた。
正当 Gen 和羽京被船内豪华装潢震撼得愣在原地时,Xeno、Stanley 和千空三人已经快步走向接待处。两人这才慌忙追赶上去。

受付へ着くと、ルームキーの他に旅のスケジュールが載っているパンフレットを手渡された。チラリと中を確認してみると、バーラウンジやカジノなどの施設紹介や、食事の時間などが細かく記載されている。あとでじっくり読むこととする。それぞれのルームキーを受け取ると、荷物を置きにいくために一度部屋へ行くことになった。
抵达前台时,除了房卡外还收到了一份印有旅行日程的小册子。粗略翻看内容,发现详细记载了酒吧休息室、赌场等设施介绍以及用餐时间。决定稍后再仔细阅读。领取各自的房卡后,大家决定先回房间放置行李。

エレベーターで客室のある階へ向かう。部屋はゼノが個室、婚約者という設定であるスタンリーと千空が同室、ゲンと羽京が同室という割り振りになっていた。幸いなことに三部屋とも隣同士だったので、情報伝達などは楽にできそうだ。夕飯の時間まで自由時間にしようと
乘电梯前往客房楼层。房间分配如下:浅雾幻单独一间,设定为未婚夫关系的斯坦利和千空同住,弦与羽京共用一个房间。幸运的是三间房都相邻,方便互相传递信息。众人决定晚餐前为自由活动时间,

という話になり、一旦解散し各々の部屋へと入った。  于是暂时解散各自回房。

「マジかよ...」  "不是吧..."
部屋に入り奥へと進むと、大きな窓から見える一面の青に目がいく。そしてその次に目に飛び込んできたのは、クイーンサイズのベッドだった。男二人で寝ても狭くはなさそうだ。だが問題はベッドの大きさではなく、同じベッドで眠るということだ。それも二週間。乗船前に尻を触られたことが頭を過ぎる。念の為釘を刺しておいた方がいいだろう。
走进房间深处,巨大的落地窗外满目湛蓝立刻映入眼帘。紧接着跃入视野的,是那张宽大的双人床。就算两个男人同睡也绰绰有余。但问题不在于床的尺寸,而在于要同床共枕整整两周。登船时被摸屁股的记忆闪过脑海。看来有必要事先警告他。

「ベッドが一つしかない以上、一緒に寝るのは仕方ねえ。だが今度またさっきみてえな気色悪いことしてきやがったら、ベッドから叩き落とすからな」
"既然只有一张床,一起睡也是没办法的事。但要是你再敢像刚才那样动手动脚,我就把你踹下床去"

「へえ...それって手出して欲しいっていうフリか?ウブかと思ってたが、結構積極的じゃん」
"哦...这是在暗示想让我碰你吗?还以为你是个雏儿,没想到挺主动嘛"

「思考回路がどうかしてんな。脳みその血流不足か?禁煙することをおすすめするぜ」」
"你脑回路是不是有问题?脑供血不足吗?建议你趁早把烟戒了"

「禁煙?冗談キツいぜ。てか千空、あんたのスーツケースにここに置いていいか?」
"戒烟?开什么玩笑。话说千空,你的行李箱放这儿行吗?"

「おー、頼むわ。ついでに中に入ってる服を出して、ハンガーにかけてクローゼットに入れる作業を手伝ってもらえるとおありがてえ」
"哦,拜托了。顺便帮我把里面的衣服拿出来挂上衣架,再放进衣柜里的话就帮大忙了"

「いいぜ。じゃあ俺はこっちのスーツケースをやるわ」
"没问题。那我来处理这边的行李箱"

スタンリーの荷物がスーツケース一つなのに対し、千空の荷物は大きなスーツケース三つもあった。中にはドレスやメイク道具など、女装するための道具がびっしり入っている。千空自身はこんなに洋服もメイク道具も必要ないだろうと思ったが、自分のために女性陣が用意してくれたので無碍にできず、全て持ってきた結果、スーツケース三つ分になってしまったのだ。ちなみに寝る時だけはリラックスして眠りたいので、普段自分が履いているバクサーパンツやパジャマも念の為持ってきた。
斯坦利只有一个行李箱,而千空却带了三个大号行李箱。里面塞满了女装用的连衣裙和化妆工具等装备。千空本人觉得根本不需要这么多衣服和化妆品,但这些都是女性同伴们特意为他准备的,不好拒绝,结果全数带来就变成了三个行李箱的量。顺带一提,为了睡觉时能放松入眠,他还特意带上了平时穿的运动短裤和睡衣以防万一。

ドレスやワンピースなどにシワができるとまずいので、一着一着ハンガーにかけクローゼットに入れていく。女性の持ち物はかさばるものが多くて大変だ。メイク道具はとりあえずドレッサーの上にまとめて置いた。
为了防止连衣裙等衣物起皱,我把每件衣服都挂上衣架收进衣柜。女性的随身物品大多体积庞大,收拾起来真够呛。化妆用具暂且先堆在梳妆台上。

「なあ、あんた下着まで女物にしてんのか?」  "喂,你连内衣都换成女款了?"
「あ”?」  "啊?"
後ろを振り返ると、スタンリーがブラジャーを片手に不思議そうな顔をしている。スタンリーの疑問はもっともだ。千空も下着まで女性物にする必要はないだろうと、自分の女装を担当してくれた女性陣に提案した。だが彼女達にドレスやピッタリした服の場合、思っている以上に下着のラインが出るため、絶対に下着もこれにしないとダメだと説得されたのだ。
回头望去,只见斯坦利单手拎着文胸满脸困惑。他的疑问确实在理。千空也曾向负责帮他女装的女性团队提议过,其实没必要连内衣都换成女性款式。但她们坚持说穿连衣裙或贴身服装时,内衣轮廓的显露程度远超想象,必须搭配专用内衣才行。

「下着のラインが出るから、下着もちゃんとつけろって言われちまってな。まあシリコンの乳つけてるくらいだし、今更女物の下着着るくらいどうってことねえわ」
"因为内衣痕迹会透出来,结果被要求连内衣也得好好穿上。反正连硅胶假胸都戴了,事到如今穿个女式内衣也没什么大不了的"

「その胸なんか詰めてるのかと思ったが、シリコンでできてんのか」
"我还以为你是往胸口塞了什么东西,原来是硅胶做的啊"

「ああ、シリコンスーツみたいなやつだな。おかげで肩が凝って仕方ねえ」
"啊,就是那种硅胶紧身衣啦。害得我肩膀酸得要命"

「へえ...」  "嘿..."
なんとなく嫌な予感がしたのも束の間、その嫌な予感が見事に的中する。スタンリーの手が千空の乳を鷲掴みにしていた。無言で乳を揉むスタンリーと、呆然としてしまい同じく無言で立っている千空。別に偽の乳なので触られたところで問題はない。単に気になって触っているだけなのだろうから。だがこの男の場合、前科がある。また何かしてきたら、その時は絶対にベッドから叩き落としてやる。千空は心の中でそう決意したのだった。
那种不祥的预感刚浮现没多久,就精准地应验了。斯坦利的手掌正牢牢攫住千空的胸部。沉默揉捏的斯坦利与呆立原地的千空形成了诡异的静默。反正只是硅胶假胸,被触碰本身并无大碍。想必只是出于好奇才伸手试探。但这男人有前科。要是再敢轻举妄动,绝对要把他踹下床——千空在心底暗暗立誓。


荷物整理を終えたスタンリーと千空は、ゼノ達との集合時間まで船を散策することにした。ディナーまでまだ時間がある。せっかくなので、船内を把握するために見ておくことにした。
整理完行李的斯坦利和千空决定趁集合前的空档参观游轮。距离晚餐还有段时间,正好借此熟悉船内布局。

スタンリーと千空は並んで歩きながら中を巡った。レストラン、カフェ、バー、パブ、シアター、ダンスホール、プール、ジム、ショップなど、船内の施設は実に充実している。広い船内ということもあり、一通り見て回り終える頃には歩き疲れてしまった。少し外の空気を吸いたくなったので、甲板へ行くことにする。
两人并肩穿梭于各层甲板。餐厅、咖啡厅、酒吧、演艺厅、剧院、舞池、泳池、健身房、购物区......邮轮设施之完备令人惊叹。由于船体规模庞大,等粗略逛完时已走得腿脚发酸。想透口气的二人决定前往露天甲板。

甲板へ着くと、ちょうど日が沈もうというところだった。太陽が水平線の一点となって没していく。風が少し強いため、帽子は置いてきて正解だったようだ。ディナーまで他にすることもないので、このまま日の入りを見届けることにする。二人は手すりに寄りかかりながら、特に会話もなく空と海を眺めていた。スタンリーのタバコの香りが潮風に乗って鼻を掠める。今ではすっかり嗅ぎ慣れたこの香りが、千空は案外嫌いではなかった。毒ガスだという認識は変わらないが。
抵达顶层甲板时,夕阳正沉向海平线。咸涩的海风呼啸而过,幸好没戴帽子算是明智之举。在晚餐前的闲暇里,他们倚着栏杆共赏落日。没有交谈,只有烟草气息混着海风掠过鼻尖。千空意外发现自己已习惯这种味道——虽然仍认定这是毒气弹般的存在。

スタンリーは胸一杯に煙を吸い込み、海の方へと吐き出した。穏やかな時間が流れているので勘違いしそうになるが、今日から潜入調査が始まる。薬の取引の現場を押さえるために潜入したのだから、気を引き締めてこのミッションに挑まなければならない。なんとなく横目に千空を見ると、低めのお団子にまとめていた髪が風のせいで乱れているのが目に入った。
斯坦利深深吸了一口烟,朝着大海方向吐出。平静的时光让人几乎产生错觉,但从今天起潜伏调查就要开始了。既然是为掌握毒品交易现场而潜入,就必须绷紧神经面对这次任务。余光不经意瞥向千空时,注意到他扎得略低的团子头被风吹得有些凌乱。

「あんた髪型崩れてんぞ」  "你发型乱了"
「あー風のせいだな。めんどくせえ」  "啊——都怪这风。真麻烦"
「ちょっと待ちな」  "等一下"
千空の後ろにいき、髪の毛に触れる。よく見ると完全に崩れたわけではなく、少しだけ毛がはみ出ている状態だった。千空の髪に刺さっていたピンを一旦抜き、解けてしまっている髪と一緒に挟み直す。そうするとやや不恰好ではあるが、しっかりと髪をまとめることができた。
走到千空身后,轻轻触碰他的头发。仔细看发现发型并没有完全散乱,只是有几缕发丝翘了出来。我取下千空头发上的发夹,将散开的发丝重新夹好。虽然看起来有点笨拙,但总算把头发重新固定住了。

「できたぜ。まあさっきよりはマシだろ」  "搞定了。嗯,比刚才好多了吧?"
「おー助かったわ」  "噢——得救了"
そんなことをしている間にすっかり日が沈み、辺りが暗くなっていた。そろそろゼノ達との待ち合わせ時間だ。その前にスタンリーは着替える必要がある。なぜなら今夜は日本からの乗客を歓迎するディナーパーティーだからだ。パーティーでの正装は必須なので、スタンリーは着替えるために一度部屋へ戻り、千空は先にレストランへと向かうことになった。
就在我们忙活这些的时候,太阳已经完全西沉,四周暗了下来。差不多快到和杰诺他们约定的时间了。在此之前斯坦利需要换衣服——因为今晚要举办欢迎日本乘客的晚宴。宴会要求正装出席,所以斯坦利回房间更衣,千空则先行前往餐厅。

レストランの扉の前に行くと、正装に着替えたゼノ、ゲン、羽京が既に待っていた。皆スーツに身を包んでいる。
来到餐厅门前,只见已经换上正装的禅院、弦和羽京正在等候。三人都身着笔挺西装。

「あれ、君一人かい?スタンはどうしたんだ」  "咦,就你一个人?斯坦去哪了?"
「あいつは着替えに部屋へ戻った。すぐ着替えるって言ってたから、そんなに待たずに来るだろ」
"那家伙回房间换衣服去了。他说很快就能换好,应该不用等太久就会过来。"

それから程なくして、スーツに着替え終えたスタンリーも合流した。全員揃ったところでレストランへと入る。店内は薄暗くてよく見えないが、既にたくさんの人が入っているのはわかった。ウェイターの案内で席へと向かう。足元に気をつけながら歩いていると、いつの間にか横に立っていたゼノが腕を差し出してきた。
没过多久,换好西装的斯坦利也赶来会合。全员到齐后便进入餐厅。店内光线昏暗看不真切,但能察觉已有不少宾客落座。在服务生引导下走向座位。正留心脚下时,不知何时站在身旁的禅院突然向我伸出手臂。

「良ければ席までエスコートさせておくれ」  "不介意的话让我护送你回座位吧"
「おお、助かるわ」  "啊,那可帮大忙了"
ちょうど歩きづらいなと思っていたところなので、遠慮なくゼノの腕に掴まる。既に半日程この靴を履いているというのにやはり歩きづらくて仕方がない。
正觉得这双鞋走路不便,便顺势扶住了杰诺的手臂。明明已经穿了半天的鞋子,走起路来还是格外费劲。

「悪いね、スタン。君の役目を奪ってしまって」  "抱歉啊斯坦,抢了你的差事"
「んなのどうでもいいから、さっさと席向かうぞ」  “那种事无所谓啦,赶紧去座位吧”
「ちょっと千空ちゃん、声気をつけて!」  “喂千空,注意说话音量!”
あまりにもいつも通りの声のトーンで話す千空に、ゲンは小声で注意した。
面对用一如既往的语调说话的千空,幻压低声音提醒道。

レストランの奥の方の席に案内され、席に着く。ゼノが椅子を引いてくれたので、千空は遠慮なく先に座らせてもらった。丸テーブルを五人で囲む。テーブルの上に置かれたキャンドルの炎がゆらゆらと揺れていて美しかった。
五人被引导至餐厅深处的座位落座。由于杰诺帮忙拉开了椅子,千空便不客气地率先入座。众人围坐在圆桌旁。桌上烛台的火焰摇曳生姿,煞是好看。

メニューはコース料理となっているため、料理が運ばれて来るまで皆で話ながら待つことにした。店内ではジャズバンドによる生演奏が流れている。各テーブルごとに楽しんでいる様子で、想像していたよりも落ち着いた雰囲気のパーティーだった。そうして待つこと数分、乾杯用のシャンパンが先に運ばれてきた。それぞれの元に行き渡ったグラスを片手で持ち掲げる。
由于是套餐形式,在菜肴上桌前我们决定边聊天边等待。店内流淌着爵士乐队的现场演奏。每张餐桌都洋溢着欢乐氛围,这场派对比想象中更为宁静雅致。等待数分钟后,用于干杯的香槟率先呈上。众人单手举起分发到各自面前的高脚杯。

「諸君、君たちと旅を共にできることを嬉しく思う。必ずや勝利を掴み取ろうではないか」
"诸位,能与你们共同踏上这段旅程令我倍感欣喜。我们必将夺取胜利"

「当たり前だ」  "这是当然"
「ククク何がなんでもあれを見つけ出してやる」  "呵呵呵无论如何都要把那东西找出来"
「だから千空ちゃん、声!声気をつけて!!」  “所以小千空,声音!注意声音!!”
「アハハ...とにかく絶対全員揃って無事に帰ろう」
“啊哈哈...总之一定要全员平安归来”

「では、この旅の幸運を祈って」  “那么,预祝这次旅途好运”
五人が打ち鳴らしたグラスの音と“乾杯”という声が軽やかに響く。船上での潜入ミッションが幕を上げたのだった。
五人碰杯的清脆声响与“干杯”的欢呼声轻盈回荡。船上的潜入任务就此拉开序幕。

评论

  • 후추HUCHU

    この作品をまた見に来ました!何度見ても面白いです。次のエピソードも楽しみにしています!!お体に気をつけて〜! 翻訳ツールを使っているので、少し変な言い回しがあっても理解してもらえると嬉しいです。
    我又来看这部作品啦!怎么看都很有趣呢。非常期待下一集!!请多保重身体~ 因为用的是翻译工具,如果有些表达不太通顺还望理解。

    4月18日回信  4 月 18 日回信
  • 후추HUCHU
    4月1日回信  4 月 1 日回信
  • もち  年糕
    3月8日回信  3 月 8 日回信