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薔薇の花束を買う皇帝/minori的小说

薔薇の花束を買う皇帝  买玫瑰花的皇帝

41,696字1小时23分钟

カイザーの本命がどうやら日本人らしいということを知って一肌脱ごうとする世一のお話です。
这是一个关于得知皇帝的真命天子似乎是日本人后,决定助其一臂之力的世界第一的故事。


※カイザーの本命はお察しください。  ※请自行揣测皇帝的真命天子是谁。
※BM所属ifです。  ※此为 BM 所属 if 线。

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「本命? まあ、愛だとか恋だとかは分からねえが、自分のものにしたいやつならいる」
“真爱?哼,虽然不懂什么爱啊恋的,但确实有个想占为己有的家伙。”

 扉の隙間から聞こえてきたその声に、世一は思わず目を丸くした。
从门缝里传来的声音让世一不由得瞪大了眼睛。

 シャワーを浴びてロッカールームに戻ろうとした際に聞こえてきたその声は、あまりにも予想外のもので、ドアノブに掛けられていた手をそっと止める。
 正当他冲完澡准备返回更衣室时,那完全出乎意料的声音传来,让他搭在门把上的手悄悄停住了动作。

 すると、そんな世一の存在などまるで知らない室内のものたちは、先ほどまでよりも盛り上がった様子で会話を再開させた。
 而室内那些显然没察觉到世一存在的人们,此刻正以比先前更热烈的气氛继续着对话。

「マジかよ!」  「真的假的!」
「あ、あの皇帝様にも、とうとうそんな相手が!」  "啊,连那位皇帝陛下也终于有了这样的对象!"
「自分のものにしたいって、それってつまり好きなやつだろ?」
"想占为己有...这不就是喜欢的人吗?"

「独占欲やばいな」  "这独占欲也太可怕了"
 代わる代わるに聞こえてくる声は全てチームメイトたちのもので、世一はなんとなく中での会話の内容を察する。おそらく──。
此起彼伏的议论声全都来自队友们,世一隐约猜到了他们谈话的内容。恐怕——。

(今朝の熱愛報道に対して、チームメイトの誰かが『結局本命は誰なんだ?』とでも聞いたんだろうなぁ……)
(今早的热恋报道出来后,队友们大概都在问"所以他的真命天女到底是谁啊?"吧……)

 そう、今朝のニュースと言えば、それはあのミヒャエル・カイザーと某有名女優が交際関係にあるのではないかというニュースであった。
没错,说到今早的新闻,就是关于米夏埃尔·凯撒与某知名女演员疑似正在交往的报道。

 記事曰く、カイザーは彼女を試合中とはまるで違う優しい目で見つめており、二人はそのまま車に乗り込んでカイザーの家の方向に消えていったらしい。まあ、あの男ほどの美しさがあれば、その女優と二人で歩いていても絵になるため、二人で写っているだけの写真でも熱愛報道として取り上げたくなる気持ちは痛いほど分かった。
据文章描述,凯撒用与球场上截然不同的温柔目光注视着她,随后两人一同乘车朝凯撒家的方向驶去。不过话说回来,以那男人出众的容貌,即便只是和那位女演员并肩而行都像幅画般赏心悦目,所以媒体会忍不住把两人同框的照片当作绯闻报道——这种心情我倒也深有体会。

 と言っても、世一自身は大してその記事の内容など信じていなかったが。
话虽如此,世一本人其实压根没把那篇报道当真。

(だってあのカイザーだぞ? まあ、確かに顔はめちゃくちゃ良いし、女性にもモテるし、いくらでも恋人がいてもおかしくはないけど……なんかこう、あいつの場合多分そういうのに本当に興味なさそうだしなぁ……)
(那可是那位皇帝啊?虽然确实长得超级帅,在女性中也很受欢迎,就算有再多恋人也不奇怪……但总觉得那家伙对这种事应该完全没兴趣吧……)

 正直、セフレのような後腐れない関係性の女性はいても、恋人はいないだろう。それが世一のカイザーの熱愛報道に対する勝手な見解であった。
说实话,就算有像炮友这样不留后患的女性关系,他应该也不会有恋人吧。这就是世界第一的皇帝陛下对热恋报道的任性见解。

 何故なら──。  因为——

(だってあいつ、オフの日とかほとんど俺と一緒にいるじゃん!)
(毕竟那家伙休息日几乎都和我待在一起啊!)

 そう、今現在ミヒャエル・カイザーという男は、ほとんどの時間を潔世一と共に過ごしていたのだ。だからこそ、カイザーに恋人がいるとしたら、それはもはや、月に一回も会っていないような、そんな関係性としか思えなかったのである。だからこそおそらく、カイザーは恋愛などには興味がないのだろう。そう考えると、全てしっくりきていた。
没错,如今米歇尔·凯撒这个男人,几乎把所有时间都花在了和洁世一共处上。正因如此,若要说凯撒有恋人,那也只能是那种一个月都见不上一面的关系。所以大概,凯撒对恋爱之类的事情根本不感兴趣吧。这么一想,所有事情就都说得通了。

 だが、どうやらそんな彼の予想は少し間違っていたらしい。
 但看来,他的这个推测似乎有些偏差。

 たった今扉の向こうから聞こえてきたカイザーの言葉に、世一は目から鱗が落ちた。
 方才从门对面传来的凯撒话语,让世一醍醐灌顶。

 そう──先ほど彼から放たれた「自分のものにしたいやつならいる」という言葉に。
 没错——正是他脱口而出的那句"倒是有想占为己有的家伙"。

「ちなみにカイザー、その相手とはもう恋人関係なのか?」
"话说凯撒,你和那个人已经是恋人关系了吗?"

 扉の向こうの誰かが、そんな問いをカイザーに向けて投げかける。すると、すぐさまカイザーからは答えが戻ってきた。
门另一侧的某人向凯撒抛出了这样的问题。随即,凯撒的回答立刻传了回来。

「知らねえ」  "关你屁事"
「は?」  "哈?"
「向こうが俺との関係をどういうものだと思ってるかは知らねえ。だが、俺はあいつを自分のものだと思っている。それで十分だろ?」
"我不知道那家伙怎么看待我们之间的关系。但我觉得他是属于我的,这就够了吧?"

「いやいやいや! 恋愛下手かよお前!」  "喂喂喂!你这恋爱白痴!"
 あまりにも予想外の言葉に、周りの者たちは皆総ツッコミするかの如く「それはダメだ」だとか「彼女はモノじゃないんだぞ」だとか「もっと相手を大切にしてやれ」だとかそんな言葉を浴びせていく。そんな言葉の数々に、世一もまた、扉の前で大きく首を縦に振って頷いた。どうやら、カイザーは世一が思っていた通り、恋愛経験は豊富ではないようだ。それが分かっただけでも、今日の大きな収穫と言えるだろう。
这句完全出乎意料的发言,让周围众人如同集体吐槽般纷纷嚷着"这样不行"、"她可不是物品"、"你要更珍惜对方才行"之类的话。面对这些指责,世一也在门前用力点头表示赞同。看来凯撒确实如世一所料,恋爱经验并不丰富。光是确认这一点,今天就算大有收获了。

「自分のものにしたいって言うけど、つまりキスとかセックスもしてえんだろ?」
"你说想占为己有,那不就是想接吻上床之类的?"

「まあ、いずれは」  "嘛,迟早的事"
「ならやっぱり好きなんじゃねえか! 大切にしてやれって!」
"那不就是喜欢嘛!给我好好珍惜啊!"

 そうだそうだ! 大切にしてやれって!  就是就是!给我好好珍惜啊!
 そんなチームメイトたちの非難するような声が響き始めたあたりで、世一はこんな面白い話題に混ざらないわけにはいかないという精神のもと、今まで止めていた手を再び動かすと、ガチャリと扉のドアを開いて室内に向けて足を踏み出した。
就在队友们这样此起彼伏的谴责声响起时,秉持着"这么有趣的话题怎能不掺和"精神的世一,重新抬起方才停住的手,咔嚓一声推开门扉迈进了房间。

「ふぅ、さっぱりしたぁ!」  "呼啊,清爽多了!"

 そんな言葉と共に中に入った途端、今まで盛り上がっていた人間のうちの一人が、世一の姿を見てすかさず近寄ってくる。
就在这句话响起的同时,一个原本正聊得热火朝天的人瞥见世一的身影,立刻凑了过来。

「世一! いいところに! お前なら知ってるか? カイザーの本命!」
"世一!来得正好!你肯定知道吧?关于凯撒的真命天子!"

「えっ、カイザー本命いるの!?」  "哎?凯撒居然有真命天子!?"
 白々しくそう答える世一に対して、彼はテンションを上げたまま続けた。
面对世一敷衍的回答,他依然情绪高涨地继续说着。

「そうなんだよ! 今その話題で盛り上がっててさ!」
"就是啊!现在大家正热烈讨论这个话题呢!"

「マジで!? あの百戦錬磨そうに見えて実は初恋も未経験ですみたいなカイザーが!?」
"真的假的!?那个看起来身经百战实际上连初恋都没经历过的凯撒!?"

「そう! あの百戦錬磨そうに見えて実は初恋童貞のカイザーが!!」
"没错!就是那个看似身经百战实则纯情处男的凯撒!!"

「おい……頭捻り潰されたくなけりゃそのクソみてえな口閉じろ」
“喂……不想脑袋被拧碎的话,就给我闭上那张臭嘴”

 世一たちの会話に、不機嫌さを全面に滲ませながらそう忠告するカイザーに対して、彼らはまるで聞く耳も持たないとばかりにそのまま会話を交わしていく。
面对明显带着不悦向世一他们发出警告的凯撒,那群人却充耳不闻似地继续交谈着。

「でもカイザーの好きな人って……昔何かのインタビューで『愛情深い人がタイプ』とか答えてなかったっけ?」
“但凯撒喜欢的人……以前是不是在某个采访里说过‘喜欢温柔体贴的类型’来着?”

「あったあった! 世一が『笑顔の素敵な人』とか答えてたのと同じインタビューで! お前ら二人してもう少し具体的に答えろよって散々イジられてたよな」
“对对对!就是和世一回答‘喜欢笑容好看的人’同一个采访!你们俩当时被大家吐槽说‘能不能答得具体点啊’可惨了”

「ちょっ、俺の話は別にいいだろ! それよりも今はカイザーの話なんだから! それで? 結局本命ってどんなやつなんだよ」
"喂、我的事根本不重要吧!现在重点是凯撒的事!所以呢?你真正喜欢的人到底是谁啊?"

 どうせ今朝の報道に載ってた女性とは何もなかったんだろ?
反正今早新闻里报道的那个女生跟你没什么关系吧?

 そう付け加えながら世一がカイザーに問いかけると、彼は先ほどまでの不機嫌そうな顔から更に不機嫌をプラスしましたとばかりに眉間の皺を増やすと、嫌そうな顔で世一を一瞥した。
世一这样追问凯撒时,只见他本就阴沉的脸色变得更加难看,眉间皱纹更深地皱起,用嫌恶的眼神瞥了世一一眼。

 そして、苛立ちを隠しきれないような声色で、小さく答えたのだ。
随后,他用掩饰不住烦躁的声音低声回答道。

「俺の人生に大きな影響を与えた存在だ」と。  "他是对我人生产生重大影响的存在。"



 ブルーロックを出てから早数年、バスタード・ミュンヘンへの移籍が決まった世一に待っていたのは街の人々やチームからの大きな歓迎と、ブルーロックで出逢った「ある男」との再会であった。
离开蓝色监狱已有数年,当世界第一的洁世一确定转会至拜仁慕尼黑时,等待他的是市民与球队的热烈欢迎,以及在蓝色监狱重逢的"那个男人"。

 その男は、今の世一のプレイスタイルを作り上げるのに何よりも重要な役割を果たしてくれた存在であり、なおかつ暴言を吐かれることにも慣れていた世一が唯一「嫌いだ」と声を大にして言い放った男だった。
这个男人对塑造洁现今的踢球风格起到了至关重要的作用,同时也是向来习惯被恶语相向的洁唯一会高声宣告"最讨厌"的对象。

 てっきりオファーのあったレ・アールに移籍するのかと思いきや、そういうわけではなかったらしい。再会と同時に「お前を待っていた」と言われ、いつかの時を思い出すように顎を掴まれた時には、思わず殴りそうになったのは今でも覚えている。しかし、世一もスポーツ選手として暴力沙汰は避けたいし、これから決して短くない期間を共に過ごすことになるのだから、ある程度は関係の改善を試みたい。そんな考えのもと、どうにか腹の底から湧き立つような怒りを抑え込み、出迎えた男に引き攣った笑顔で「これからよろしくな」と言い放った。
原以为他会转会到发出邀约的巴黎圣日耳曼,但似乎并非如此。重逢瞬间听到"我一直在等你"的宣言,当被捏住下巴让人想起过往时,洁至今记得自己差点挥拳相向的冲动。但作为职业运动员必须避免暴力冲突,更何况今后还要长期共事,他决定尝试改善关系。强压下从心底翻涌的怒火,洁对前来迎接的男人扯出僵硬笑容道:"今后请多指教了。"

 これが、潔世一とミヒャエル・カイザーの、ミュンヘンでの再会だった。
这是洁世一与米歇尔·凯撒在慕尼黑的重逢。

 それから数年、何をどうしてそうなったのか、世一にとってのカイザーは、サッカーだけでなく、日常生活においても無くてはならない存在となっていった。
此后数年,不知经历了怎样的因缘际会,对世一而言,凯撒不仅成为了足球场上不可或缺的存在,更深深嵌入了他的日常生活。

 まず、ミュンヘンに来たばかりの世一に対して、カイザーは意外にも率先して世話を焼き始めたのが全ての始まりだ。慣れないイヤホンを忘れ、ドイツ語を聞き取れずに戸惑っていると、どこからか颯爽と現れて手助けをしてくれた。それだけではなく、食事が若干口に合わなくて困っている姿を見るに見かねて和食の食べられるレストランに連れて行ってくれたり、スリに財布をスられた時には戸惑う世一に何も言わずに取り返してきてくれたり、挙げ句の果てにはファンから邪な感情を向けられて軽くストーカー被害と呼べるような状況に遭っていた際に、落ち着くまで自身の部屋に匿ってくれたり。それはもう、あまりにも至れり尽くせりなレベルで世一の世話を焼いてくれていたのである。
一切的源头,要追溯到初到慕尼黑的世一意外获得凯撒的主动关照。当世一忘带惯用耳机,因听不懂德语而手足无措时,凯撒总会不知从何处飒爽现身施以援手。不仅如此——看见世一吃不惯当地菜肴,就带他去能吃到和食的餐厅;发现世一被扒手摸走钱包,二话不说就帮他追回;甚至在世一遭遇狂热粉丝纠缠近乎演变成跟踪狂事件时,直接把人藏进自己公寓直到风波平息。这般无微不至的照料,简直到了令人叹为观止的地步。

 もちろん、世一もやられっぱなしは性に合わないため、何かをしてもらった時には必ずお礼と称してご飯やら酒やらを奢ったりしていたのだが、いかんせんお互いにそこそこの年俸を貰っているだけに、「奢る」という行為があまりお礼になっている気がしなかった。
当然,世一也不是任人付出的性格,每次受助后必定以答谢为由请客吃饭喝酒。只是两人年薪都相当可观,这种"请客"行为反倒显得不够诚意。

 そこで、世一は一度冗談のような言い方で「そうだ! 今度俺の手料理でも食う?」と提案したら、カイザーは意外にも拒絶せずに「食う」と頷いたのだ。てっきりカイザーは食事に対してもっと潔癖なタイプだと思っていたため、頷かれると思ってもいなかったが、一度言ったことを取り消すのは性に合わない。結果的に世一はカイザーを家に招くと、母から送ってもらっていたカレーのルーで世一特製カレーを振る舞った。カレーはレシピ通り作ればそうそう失敗しないと言っていた家庭科の先生の言葉は正しかったらしく、そこそこの出来だった。どうやらカイザーの口にも合ったらしく、彼はすぐに食べ終えるとおかわりまでした後に、そのまま帰っていったのだった。
于是,世一用半开玩笑的语气提议道:"对了!下次要不要尝尝我做的料理?"没想到凯撒竟没有拒绝,点头说了句"吃"。世一原以为凯撒对饮食会更挑剔,根本没指望他会答应,但说出去的话又不好收回。结果世一把凯撒请到家里,用母亲寄来的咖喱块做了特制咖喱。家政老师说过"只要按食谱做咖喱基本不会失败"看来是对的,成品还算像样。似乎也很合凯撒口味,他很快吃完还添了饭,之后就直接回去了。

 この日から、カイザーは頻繁に世一の家にやって来るようになっていった。そして、最初の方はカイザーも食べたらすぐに帰っていたというのに、一回世一から提案して家に泊めて以降、気付いた時には世一の家にある広いバスタブにハマったとかなんとか言って風呂を所望し、ソファでいいからと言って泊まっていくようになったのだ。なお、カイザーの身体はスポーツ選手として非常に大切な身体である以上、彼がよく泊まりに来るようになった辺りからは布団を注文してそこで寝かせている。
 从这天起,凯撒开始频繁造访世一家。起初他吃完就走,但自从世一某次提议留宿后,不知何时起他竟迷上了世一家的大浴缸,总说要泡澡,还声称"睡沙发就行"地留宿。考虑到凯撒作为运动员的身体至关重要,自他常来留宿后,世一特地订购了被褥让他睡。

 こうして、最初は関係値マイナスから始まったにもかかわらず少しずつ距離を縮めていった二人は、小さな言い争いは毎日のようにしながらも、今では「いないと寂しい」と言えるような、そんなお互いの生活には欠かせない存在となっていったのだ。
 就这样,从初始负好感度开始的两人逐渐拉近距离,虽然每天都有小争执,如今却已成为彼此生活中"见不到会寂寞"的不可或缺存在。

 だが。   然而。
 それなのに。  可即便如此。


「カイザーの本命って誰なんだよ!!」  "凯撒的真命天子到底是谁啊!!"


 これだけ一緒にいたにもかかわらず、世一はカイザーからは「本命」について、一言も聞いたことがなかった。
明明相处了这么久,世一却从未从凯撒口中听到过关于"真命天子"的只言片语。

 その事実があまりにも許せなくて、練習が終わり帰途に着いたカイザーを無理やり引っ張ると、世一は彼を自身の家に連れてきて酒を飲み交わしながら、先ほどの言葉を問いかけたのだ。
这个事实实在让人难以接受。训练结束后,世一强行拽住准备回家的凯撒,把他带到自己家里。两人推杯换盏间,世一终于问出了那句话。

 そんな世一の声に、カイザーはどこか迷惑そうな表情を浮かべながら「飲み過ぎだ世一。一旦水を飲め」と言ってコップを渡してくる。
听到世一这样的声音,凯撒露出有些困扰的表情说道:"你喝太多了世一。先喝点水吧",然后把杯子递了过来。

「水なんていらねえからお前の本命を教えろ!」  "谁要喝水啊!快告诉我你的本命是谁!"
「……言わねえ」  "......不说"
「なんでだよ! 最近は結構仲良しになれたと思ってたのに!」
"为什么啊!我还以为最近我们关系变好了呢!"

「仲良しってなんだ。随分と可愛らしい言い方だな、世一」
"好朋友是什么意思。这说法可真够可爱的啊,世一"

「茶化すなって! あっ、なんなら特徴! 特徴とか教えてよ!」
"别取笑我!啊、要不你说说特征!告诉我有什么特征嘛!"

 首に腕を回し肩を組むように絡んでくる世一に、カイザーは先ほどまでとは比べ物にならないくらいに眉間に皺を寄せると、大きくため息を吐いたのちに、ゆっくりと口を開いた。
看着世一把手臂绕上自己脖颈、像勾肩搭背般缠过来的样子,凯撒眉间皱起的纹路比方才更深了几分,他重重叹了口气后,缓缓开口道:

「……日本人」  "……日本人"
「え?」  「啊?」
「日本人で、クソ童顔でクソ鈍感のクソ野郎だ」  「是个日本人,长着张欠扁的娃娃脸,迟钝得要死的混蛋」
「待って、好きな人なんだよな? 言い方ひどくね?」
「等等,这不是你喜欢的人吗?说话也太难听了吧?」

「好きなわけじゃねえ。自分のものにすると決めてるだけだ」
「谁他妈喜欢了。只是决定要把他变成我的东西而已」

「いやいやいや、愛重すぎ! えっ、でも相手は日本人って……いつどこで知り合ったの? もしかしてブルーロックで来日してた時とか!?」
"不不不,这爱意也太沉重了吧!诶,不过对方是日本人?你们什么时候在哪里认识的?该不会是在蓝色监狱来日本的时候吧?!"

「……そうだ」  "……没错"
 ジトッとした視線でそう語るカイザーに対して、世一は先ほどまでのどこか拗ねたような口調から一転して、嬉しそうなものへと変わっていく。
面对凯撒用阴郁眼神说出的这句话,洁世一原本带着几分闹别扭的语气突然转变成了欢快的语调。

「えー! 言えよ! 日本人が相手なら俺も何かアドバイスとか出来たかもしれないじゃん! やっぱり文化の違いとかあるとアピールするのも難しいだろ?」
"诶——!早说啊!要是对方是日本人的话我说不定还能给点建议呢!毕竟文化差异大的话追求起来很困难吧?"

「クソ余計なお世話だ」  "多管闲事"
 プイッと顔を逸らすカイザーに、世一は食い気味に言葉を続ける。
面对把头扭向一边的皇帝,世一紧咬着追问道。

「ちなみにどこまで行ってんの? さっきは『自分のものにすると決めてる』とか言ってたけど、結局恋人ってことでいいの?」
"话说你们进展到哪一步了?刚才还说'已经决定要占为己有',结果到头来只是恋人关系吗?"

「……恋人、かもしれないと思っていたが、そいつの中ではどうやら違ったということに、つい最近気付いた」
"……我原以为或许是恋人关系,但最近才意识到,在那家伙心里似乎并非如此"

「あーなるほどなぁ……やっぱ早速文化の違いですれ違ってんじゃん」
"啊原来如此……果然是因为文化差异才产生了误会啊"

 カイザーの言葉に、世一は再び「なるほどなぁ」と大きく頷きながら状況を把握する。
听到凯撒的话,世一再次"原来如此"地用力点头,理解了现状。

 ドイツに来てから、なんとなくチームメイトたちとの会話で日本とは違った恋愛観を持っていることは知っていた。デーティングと呼ばれる期間が存在し、その間にすでにキスやらセックスやらもして、やがてお互いの相性を確かめた後に自然と一人の相手と交際関係に至るのだとか。その際には日本の「告白」のような言葉による確認を行わないため、正直世一からすると「なんて分かりにくい関係性なんだ」と思わずにはいられない。
来到德国后,世一隐约察觉到队友们的恋爱观与日本不同。这里存在着被称为"dating"的阶段,期间双方会接吻甚至发生关系,通过相处确认彼此是否合适后,自然而然就会确立恋爱关系。由于不像日本那样需要正式"告白"来确认关系,在世一看来"这种关系也太模棱两可了吧"。

 大方、カイザーもこの文化の違いを知らないまま、日本式に告白もせずに勝手にお互いの関係を恋人だと思い込んでいた結果、相手からは「友達」として扱われてしまったのだろう。
想必凯撒也是因为不了解这种文化差异,按照日本的方式没有正式告白就擅自认定两人是恋人关系,结果在对方眼里只是"朋友"而已。

 やはり、ここは同じ日本人である世一が一肌脱いでやるべきかもしれない。
果然,这种时候还是该由同为日本人的世一出面帮一把。

「ダメだぞ? 日本人が相手ならやっぱりちゃんと言葉にしないと伝わらないから。多分告白だけじゃなくて、思ってることはある程度ちゃんとお互いにぶつけ合って解消しないと長続きしないぞ。周りの話聞いてる限りでも破局の原因がコミュニケーション不足のやつも多かったし。まあ、これは日本人に限った話じゃなくて、ドイツでもあり得るとは思うけど」
"不行啊?对方是日本人的话,不把话说清楚是无法传达心意的。光靠告白恐怕不够,必须把各自的想法好好碰撞磨合才能长久。我听周围人说,很多情侣分手都是因为缺乏沟通。当然这也不仅限于日本人,在德国应该也有类似情况。"

「なんとなく調べて知ってはいたが……相変わらずよく分からねえ文化だな」
"虽然查资料时隐约知道......但果然还是搞不懂这种文化啊"

 調べて知ってたなら実行しろよ。そう言いたい気持ちを抑え込みながら、世一はどこか落ち込んでいるようにも見えるカイザーに対して、再び日本人の視点から彼に向けて言葉を向ける。
既然查过资料就该付诸行动啊。强忍着这句吐槽,世一对着神情略显消沉的凯撒,再次以日本人的视角向他提出建议。

「俺からすると言葉にしないでお互いに関係を察する方が難しいけどなぁ……お互いに恋人になったのを察するのって、どうしたらいいんだよ」
"对我来说,不把话说开反而更难揣测彼此的关系啊……要怎么才能察觉到双方已经成了恋人关系啊"

「知らねえ。俺が聞きたい」  "不知道。我还想问你呢"
「え? もしかしてカイザーって今の本命以前に恋人いたこと……」
"诶?难道说凯撒在遇到现任真爱之前还谈过……"

「ねえよ」  "没那回事"
「やっぱりそうだったんだ! お前なんだかんだで俺と似た匂いすると思った〜!!」
"果然是这样!我就觉得你身上有种和我相似的味道~!!"

「……ということは、世一も相手はいないのか?」  "……这么说来,世一也没有交往对象吗?"
「まあな。サッカーに集中したいし、何より女性関係とかで変に訴えられるようなことにならないようにって絵心さんや帝襟さんにもキツく言われてたし……まあ、俺はそもそもそんな相手いないんだけど」
"是啊。我想专注于足球,更重要的是绘心先生和帝襟先生都严厉警告过我,绝对不能因为男女关系惹上麻烦……不过说到底我本来就没有那种对象"

 日本でも最近はサッカー選手に対してアイドル的な応援をする人も増えてきたし、常にどこに人の目があるのかも分からない。中には女性関係が原因でコンディションを崩したり、サッカーに集中出来なくなるような状況に陥る選手もいる。そんな状況は、世一としては絶対に避けなければならないものだった。
最近在日本,像追星一样追捧足球选手的人越来越多,根本不知道哪里会有别人的视线。有些选手就因为男女关系问题导致状态下滑,甚至无法专心踢球。这种状况对世一来说是绝对要避免的。

「そうか」  “这样啊”
「まあ、お前は相手がいなくても散々撮られてるけどな」
“不过你这家伙就算没对象也被拍了不少绯闻照呢”

「黙れ、クソ世一。全部マネージャーやら何やらも一緒にいたし、パーティーとか撮影の時に撮られたもので、プライベートで会ったことなんて一度もないやつばかりだ」
“闭嘴混蛋世一。那些全都是和经纪人什么的在一起工作时拍的,要么就是派对或拍摄现场的照片,私下根本从没单独见过面好吗”

 全て間違いなくデマだ、そう言いきるカイザーに、世一はどこか安心したような気持ちになりながら「だよな」とケタケタと笑いながら相槌を打つ。
听着皇帝斩钉截铁否认所有谣言的发言,世一莫名感到安心,一边咯咯笑着附和道“就是啊”。

 そして、何気ない調子で「いやぁ、顔がいいと大変だな」と口にした時だった。
就在他用若无其事的语气说出"哎呀,长得帅真是辛苦啊"这句话时。

 カイザーは何故だか意外そうな顔色に変わった。   不知为何,皇帝突然露出了意外的表情。
「……顔、良いのか?」  "……我长得,好看吗?"
「へ?」  "啊?"
「俺の顔、世一は良いと思うのか?」  "你觉得我的脸很帅吗?世一"
「まあ……正直めちゃくちゃ良いと思うけど。えっ、もしかして自覚ないの?」
"这个嘛...说实话我觉得帅炸了。诶?难道你自己没意识到吗?"

「別に、自覚がないわけじゃねえ。けど、日本人はドイツとはまた違う美的感覚を持ってるかもしれねえだろ」
"倒也不是没自觉。不过日本人的审美可能和德国不太一样吧"

 その言葉に、世一は「なるほど」と言葉の意図を悟った。
听到这句话,世一恍然大悟地"哦"了一声。

 つまり、カイザーは世一から「自分の顔は日本人ウケもするのかどうか」を聞きたかったのだろう。何故なら、彼の想い人もまた、日本人なのだから。
也就是说,皇帝是想从世一那里打听"自己的长相是否也符合日本人的审美"吧。毕竟,他心仪的对象也是个日本人。

「……まあ、その辺は無いとは言い切れないかもなぁ。でも、カイザーの顔は正直そういう人種の壁とか色々超えたレベルで整ってると思うよ」
"……嘛,这方面倒也不能说完全没有可能。不过说实话,皇帝你的长相已经超越了人种差异之类的各种界限,属于完美级别的帅气啊"

「……本当か?」  "……真的吗?"
「もちろん! お前に世辞なんてまず言わねえから!」
"那当然!我怎么可能对你说客套话!"

 そう言って笑う世一に対して、カイザーはほんの少しだけ頬を緩めると、喜びに近い表情を顔面に漲らせた。そんないつもとは違う様子に、成人した大人の男であるはずのカイザーが、どこか子供らしく感じられる。その彼の奥に隠れていた子供らしさが、何故だか胸の奥底を揺れ動かすのを感じた。
面对这样笑着的世一,凯撒只是微微放松了脸颊,整张脸便洋溢着近乎喜悦的神情。这般与平日不同的模样,让本该是成熟男性的凯撒莫名透出几分孩子气。他骨子里藏着的这份稚气,不知为何竟让我心口微微发颤。

「……お前」  "……你"
「あぁ?」  "嗯?"
「そうしてる方が、多分今よりももっと好かれるよ」  "保持这样,大概会比现在更讨人喜欢哦"
「は?」  “哈?”
「だからぁ! そうやってちょっとだけ笑ってる姿! 普段のお前を知る人間からしたら多分そういう姿の方がギャップでやられると思う!」
“所以说啊!就是这种微微含笑的样子!对于了解你平时模样的人来说,这种反差才最让人心跳加速啦!”

 日本にはギャップって文化があるんだよ。そう語りながら笑う世一に、カイザーはキョトンとした表情で目をぱちぱちさせた後に「なるほど」と小さく呟いた。
“日本可是有‘反差萌’文化的哦。”听着世一边说边笑,凯撒困惑地眨了眨眼睛,随后小声嘀咕道:“原来如此。”

「……他には?」  “……还有呢?”
「え?」  “诶?”
「他には、日本人はどんなギャップとやらが好きなんだ?」
“那日本人还喜欢什么样的反差萌啊?”

 興味津々という様子でやってくる彼に、世一は「やっぱり最初から俺に相談してれば良かったものを」と茶化すように笑いながら、恋愛初心者ながらに周りの話などでつけた知識を総動員させて、人間が好きなギャップを思い出す。
面对兴致勃勃凑过来的凯撒,世一带着调侃的笑容说道“早该一开始就找我商量的嘛”,虽然自己也是个恋爱新手,但还是调动起从周围听来的所有恋爱知识,努力回忆着人们喜欢的反差萌类型。

 そういえば、昔クラスの女の子たちが大声で話していた会話に「普段はリードしてくれるのに、いざという時に甘えられるとキュンとくる」というものがあった。あれは少し的を射ているかもしれない。
说起来,以前班上女生们大声讨论时说过“平时总是主导局面的人,关键时刻突然撒娇最让人心动”。这个说法或许有点道理。

 そう思った世一は、カイザーの問いかけに答えるために口を開いた。
世一这样想着,为了回应凯撒的提问而张开了嘴。

「あれだよ、お前の場合は多分普段から隙が少ないし、どうせ相手の前でも隙を見せないようにしてんだろ?」
"就是那个啊,你这家伙平时就没什么破绽,反正也不会在对手面前露出弱点吧?"

「ダメなのか?」  "不行吗?"
「ダメじゃねえけど、まあやっぱりそういう隙の無いやつが突然甘える姿とか見せてくれたら、ギャップを感じるんじゃね?」
"倒不是不行,不过要是看到你这种毫无破绽的家伙突然撒娇的样子,任谁都会觉得反差萌吧?"

「……なるほど」  “……原来如此”
 そういうのもあるのか、と納得したように呟くカイザーに、世一はコツを掴んだかのように体を前に乗り出すと「他には? 他には聞きたいことある?」と楽しげな様子で問いかけた。
看着凯撒恍然大悟般喃喃自语的样子,世一像是掌握了诀窍般探出身子,用欢快的语气追问道:“还有呢?还有其他想问的吗?”

 すると、そんな世一に対して、カイザーは観念したとばかりに、ゆっくりと語り始めた。
面对这样的世一,凯撒仿佛认命般缓缓开口。

 日本人の好みの食事やら、日本人の趣味やら、ところどころ日本人あんまり関係ないのではないかと思うような問いかけもあったが、概ね文化の違いを確認するような問いかけばかりだった。そして、その一つ一つに、世一は上機嫌な様子で答え続ける。
从日本人偏爱的饮食到日本人的兴趣爱好,虽然有些提问甚至让人觉得和日本人没太大关系,但大体上都是些确认文化差异的问题。而世一始终保持着愉快的心情,逐一回答着每个问题。

 こうして、この日は世一がカイザーに「日本人に好かれるため」の講義をしながら、夜が更けていったのであった。
就这样,这一天在世一给凯撒进行"如何讨日本人喜欢"的讲座中,夜色渐渐深沉。


 翌朝目が覚めると、世一はベッドで眠っていた。  第二天早晨醒来时,世一发现自己睡在床上。
 昨夜はソファで二人で飲んでいたはずなのにいつの間に移動したのだろうか。そう思って顔を上げると、視線の先にはモフモフとした金髪が目に映って、思わず「うわっ!?」と声を上げる。
明明昨晚两人还在沙发上喝酒,不知何时竟转移了地方。正这么想着抬起头,视线前方映入眼帘的是一团蓬松金发,吓得他"哇!?"地叫出声来。

 すると、その声で少しだけ意識が覚醒した目の前の存在は、今にも寝落ちしそうな顔のまま、ゆっくりと振り返って世一と視線を合わせてきた。
听到这声音,眼前那个似乎随时会睡着的存在微微清醒了些,慢悠悠地转过头与世一四目相对。

「……よいち」  “……好一”
「カカカカイザー!? な、なんで俺のベッドに?」  “皇皇皇皇帝!?为、为什么会在我的床上?”
「……よいちが、布団よりベッドの方が寝心地いいから、一緒に寝ようと言ってきた」
“……因为好一说比起被褥,床更舒服,所以邀请我一起睡”

「なるほど!?」  “原来如此!?”
「だから、一緒に寝た」  "所以,就一起睡了"
「そ、そうだったのか……」  "原、原来是这样啊……"
 寝ぼけた様子で返答するカイザーに、世一は戸惑いながらもそう答える。
面对凯撒睡眼惺忪的回答,世一虽然困惑但还是这么回应道。

 いつもカイザーが泊まりにくる時は客用布団で寝かせていたため、まさか同じベッドで寝ているとは思いもしなかった。しかし、昨日は普段はしないような会話で気分良く酔っていたので、そのまま勢いでカイザーをベッドに誘い込んでしまったのだろう。なんとなく想像はできた。
平时凯撒留宿时都是让他睡客用被褥,完全没想到这次竟会睡在同一张床上。但昨晚借着酒兴说了些平日不会说的话,大概就这样顺势把凯撒拉进了被窝吧。他隐约能想象出当时的场景。

「あー、頭痛え……飲みすぎた……」  "啊——头好痛……喝太多了……"
 オフだからと言って、流石に飲みすぎてしまった。ドイツで飲むビールは日本の缶ビールよりも少し度数が高いからか、酔いが回るのがいつもよりも早い気がする。
虽说是在休假,但确实喝过头了。或许是因为在德国喝的啤酒比日本罐装啤酒度数稍高,醉意来得比平时更快。

 だが、朝が来てしまった以上は、これから日課である走り込みに行かねばならない。
不过既然天已破晓,现在必须去完成每日例行的晨跑训练。

「カイザー、俺はこれからロードワーク行ってくるけど、お前も一緒に行く?」
"凯撒,我现在要去路跑训练,你要不要一起?"

「……行かねえ」  "……我不去"
「はいはい、まだお眠なのな」  "好好好,还犯困呢"
「世一も行かせねえ」  "也不让世一去"
「はあ?」  "哈啊?"
 行かせない。そんな言葉と共に世一の腰に回ってきた手のひらを見ると、まるで行くなと行動でも表現しているかのように固く世一の服を握りしめていた。その様子に世一は困惑しながらも、そっとその手に自身の手を重ねて囁きかける。
"不许走。"伴随着这句话,世一感觉到有手掌环上了自己的腰际。低头看去,那只手正死死攥着他的衣角,仿佛在用行动强调着"别走"的意味。世一虽然困惑,还是轻轻覆上那只手低声询问。

「どうした? あっ、もしかして昨日俺と一緒に寝てたから一人で寝るのがて寂しいの?」
"怎么了?啊、该不会是因为昨晚和我一起睡,现在一个人睡觉得寂寞了?"

 揶揄うような世一の言葉に、きっとすぐさまカイザーは否定の言葉を発してくるだろう。そう思っていたのに、なかなか世一の思っていた通りの反応は返ってこなかった。
世一原以为这句调侃会立刻招来凯撒的否定,却迟迟没等到预想中的反应。

「カイザー? どうしたんだ?」  "凯撒?你怎么了?"
「そうだ」  “没错”
「え?」  “诶?”
「だからもう少しお前を抱き枕にしていたい。まだロードワークに行くな」
“所以我还想多抱你一会儿当抱枕。现在别去晨跑”

 そう言って更に腰に回っている力を強めてきたカイザーに、世一は「いてててて! 力強すぎ!」と抵抗するが、どうやら彼は力を緩めるつもりはないらしく、次第に諦めたようにそのままカイザーの腕の中にすっぽりと収まることにした。
面对说着这话又加大环在腰间力道的凯撒,洁世一“痛痛痛!太用力了!”地挣扎着,但对方似乎完全没有松手的意思,最终他像放弃抵抗般彻底陷进了凯撒的臂弯里。

 世一もアスリートとしてかなり鍛えている方なのだが、こうして密着してみるとカイザーの筋肉の密度にはまだ敵わないと、少しだけ悔しさが込み上げてくる。
世一作为运动员也算锻炼得相当不错了,但这样贴身接触时才发现还是敌不过凯撒肌肉的密度,不由得涌起一丝不甘。

 だが、同時にこうしてこの男の甘えてくる様子という、あまりにも意外な姿を見れて、少しだけ優越感を覚えた。距離が近い男だと思ってはいたが、ここまでだったとは。
但与此同时,看到这个男人意外展现出撒娇的模样,又让他莫名产生些许优越感。虽然知道这是个没有距离感的男人,但没想到会到这种程度。

「……お前、寝癖ひどいから寝起きはいつも髪モフモフだよな」
"......你这家伙,睡相太差所以起床时头发总是炸成蒲公英啊"

「クソな髪質の問題だ」  "都怪这该死的发质问题"
「それに、意外に甘えただったんだな」  "而且,没想到你还挺爱撒娇的嘛"
 今までそこそこ一緒にいたのに知らなかったよ。そう言って世一は、そっと自身を抱きしめてくる男の髪に手を伸ばし、その芸術的とも言える寝癖を梳かすように指でかき分けていく。
明明至今为止都相处这么久了,我却没发现呢。世一这么说着,轻轻伸手环抱住自己的男人发间,用手指梳理着那堪称艺术品的睡翘乱发。

 すると、そんな世一の行動に段々眠くなってきたのか、眠気を覚ますようにカイザーはぐりぐりと世一の肩口に額を押し付けると、小さく声を発した。
或许是这个动作渐渐催生了睡意,凯撒为了驱散困意,把额头在世一肩头来回磨蹭,发出小小的嘟囔声。

「日本人は、本当にこんなクソみてえな姿がいいのか?」
"日本人真的觉得这副屎样很帅吗?"

「ん? あー、昨日の話か。まあ、そうだなぁ……俺しか見れないお前の姿って感じがして、優越感は覚えると思うよ」
“嗯?啊——是说昨天的事啊。这个嘛...能看到只有我能见的你那副模样,确实会让人产生优越感呢。”

「……そうか」  “……这样啊”
「なあ、昨日はあんま聞けなかったけど、日本人以外に相手の情報はないのかよ」
“喂,昨天没来得及细问,除了日本人之外就没有其他关于对方的信息了吗?”

「クソ鈍感」  “超级迟钝”
「それは昨日聞いた!」  "昨天就听过了!"
「そういう意味じゃねえよ」  "不是那个意思"
 ならどういう意味なんだ。そんな言葉を顔面に貼り付けるように目を丸くする世一に対して、カイザーは答えるつもりはないようで、説明することなく再び言葉を続けた。
那到底是什么意思。面对瞪圆眼睛、仿佛要把这句话贴在脸上的世一,凯撒似乎不打算回答,未作解释就继续说了下去。

「黒髪」  "黑发"
「まあ、日本人だからな」  "毕竟是个日本人嘛"
「いろんな奴に好かれてる」  "被各种人喜欢着呢"
「へぇ、じゃあライバルが多いのか」  "哦?那竞争对手很多咯"
「多いなんてもんじゃねえ。息をするように誑し込んでいくクソ誑しだ」
"何止是多。那家伙勾引人简直像呼吸一样自然,就是个该死的狐狸精"

「なるほど? もしかしてかなり美人なの?」  "原来如此?难道说是个大美人?"
「いや、美人というよりは……百歩譲ってまあ可愛い」
"不,与其说是美人...勉强算得上可爱吧"

「あー、まあ確かに美人よりも可愛い系の方が日本ではモテる気がするしなぁ」
"啊——确实感觉在日本比起美人类型,可爱系更受欢迎呢"

 なるほどなるほど、カイザーは美人よりも可愛い派なんだな。そう脳内のメモに書き加えていく。
原来如此原来如此,凯撒是比起美人更喜欢可爱类型的啊。我在脑海中默默记下这条笔记。

 なんだか昨日から今日にかけて、今まで知らなかったカイザーをたくさん知れた気がして、世一は朝から気分が良かった。
从昨天到今天,总觉得了解到了许多之前不知道的皇帝的另一面,世一从早上开始就心情很好。

「……世一?」  "……世一?"
「ん?」  "嗯?"
「また俺の話を聞け」  "你又在听我说话吗"
「え?」  "啊?"
「日本人だから、日本人の視点でクソアドバイスとやらをくれるんだろ?」
"因为是日本人,所以要用日本人的视角给我那些狗屁建议是吧?"

 普段は世一のアドバイスなどクソ喰らえといった様子なのを考えると、昨日今日の世一との会話で何か突破口が掴めたのだろうか。
想到平时对世一的建议总是一副"见鬼去吧"的态度,看来这两天和世一的对话让他找到了某种突破口。

 それなら、少しは話を聞いてやるのもありかもしれない。世一もまた、自分の知らないカイザーを知ることは、不思議と気分が良かったのだから。
既然如此,稍微听听也无妨。毕竟世一也发现,了解自己不知道的凯撒的另一面,莫名让人心情愉悦。

 そう思った世一は、ニッコリと笑うと、カイザーの頭を再び撫でながら「特別に聞いてやるよ!」と、嬉しそうに答える。その答えに、カイザーはなぜか少しだけ複雑そうな顔をした後に、小さく「頼む」とだけ囁いた。
世一这样想着,露出灿烂笑容,一边再次轻抚凯撒的头,一边开心地答道:"特别批准你提问啦!"听到这个回答,凯撒不知为何露出略显复杂的表情,随后只低声说了句"拜托了"。

 この日から世一は度々カイザーの「相談相手」に選ばれるようになった。
从这天起,世一经常被凯撒选作"倾诉对象"。



「うわぁ、今日も記者いるなぁ」  "哇啊,今天也有记者蹲点呢"
「まあ、まだあのクソ報道から数日しか経ってねえんだから当然だろ」
"毕竟那篇垃圾报道才过去没几天,很正常吧"

 オフの間を世一の家で試合分析やら映画鑑賞やらで共に過ごした二人は、そのまま一緒にロードワークの後に練習に向かっていた。しかし、建物のエントランス周辺に見受けられる記者と思わしき存在に、世一は思わずうげぇと嫌そうな声を上げた。
在休赛期里,世一和对方在他家中通过比赛分析和电影观赏共度时光后,两人又一同进行了路跑训练,随后前往练习场。然而当发现建筑物入口附近疑似记者的身影时,世一忍不住发出"呜哇"的嫌恶声。

「こういうの、どこの国でも変わらないんだなぁ」  "这种场面,在哪个国家都差不多啊"
「日本でもこんな感じなのか?」  "在日本也是这种情形吗?"
「まあな。俺はそんな撮られたことないけど、凛とかはよく暴言吐いてるところ撮られて散々いじられてる! あと乙夜とかは毎回違う女性と歩いてるって撮られてるなぁ」
"是啊。虽然我没被拍过,但凛那家伙经常因为爆粗口被拍到然后被网友狂嘲!还有乙夜那小子,每次都被拍到和不同女性走在一起呢"

 サッカー以外の要因でサッカーができなくなることは避けたい世一にとっては、定期的にマスコミに狙われている凛は「可哀想だなぁ」と思いながら見ていた。
对世一来说,最不愿看到的就是足球以外的因素影响踢球。看着常年被媒体盯梢的凛,他总忍不住感叹"真可怜啊"。

 世一もまた、ブルーロック時代からそのキャラと愛嬌のギャップで人気はかなりあるのだが、いかんせん本人があまりにも女性に興味がなく、普段の生活は礼儀正しい青年ときているため、パパラッチたちも世一のスクープを撮ることを諦めかけているのが現状だ。まあ、カイザーのように仕事で出会った女性と複数人で会っていた姿をあたかも個人で会っていたかのように加工されてしまったらどうしようもないのだが、そういった被害にはあったことはない。だからこそ、カイザーのこうした熱愛報道は正直「可哀想に」という気分にしかならなかった。
其实世一从蓝色监狱时期就因性格与亲和力的反差收获了不少人气。无奈本人对女性实在兴趣缺缺,日常又是个彬彬有礼的青年,狗仔们都快放弃跟拍他的绯闻了。不过要是像凯撒那样,明明是和工作中认识的女性多人聚餐,却被 P 成单独约会的话确实百口莫辩——好在他从没遭遇过这种陷害。正因如此,看到凯撒这些恋爱绯闻时,他内心只有"真够倒霉的"这种感想。

「クソ、正門は使えねえな。裏口から入るぞ」  "妈的,正门走不了。从后门进吧"
「そうだな」  "也是"
 そう言って面倒くさそうに吐き捨てるカイザーに腕を引かれて、報道陣に見つかる前にそっと裏口に向かった世一は、二人で並んで歩きながら、ふと「あること」が気になってきた。
被凯撒不耐烦地拽着手臂,在记者发现前悄悄走向后门的世一,与他并肩而行时,突然在意起"某件事"。

「……なあ、カイザー」  "……喂,凯撒"
「なんだ」  "干嘛"
「あの報道がデマってこと、お前の本命にはちゃんと伝えてあんの?」
"报道是假消息这件事...你有好好告诉你真正喜欢的人吗?"

「あ?」  “啊?”
 日本にいればドイツの報道を見ることはそうそうない。しかし、カイザーはブルーロックで日本人の関心も強くなったことも相まって、SNSでもかなり取り沙汰されている。
在日本很少有机会看到德国的新闻报道。不过由于凯撒在蓝色监狱的表现让日本人也对他产生了浓厚兴趣,社交网络上关于他的讨论相当热烈。

 つまり、本命がいくら日本人でドイツの報道に疎かったとしても、カイザーの熱愛報道は知っている可能性が高いのだ。
也就是说,即便当事人是个对德国新闻不太关注的日本人,大概率也听说过凯撒的绯闻报道。

「ドイツの人だったらまあ、なんとなく最近はカイザーの熱愛報道なんてどうせデマだろって空気も流れてきてるけどさ、多分日本ではまだそうじゃないと思うんだよな」
“虽然德国这边最近开始流传‘凯撒的绯闻报道反正都是谣言吧’这样的氛围,但日本那边恐怕还没到这个阶段呢。”

「……」
「お前の本命がお前に対してどんな感情抱いてるかは知らねえけど、少しでも好意持ってたら、多分この状況を知ったらモヤモヤすると思う。離れたところにいるなら余計に」
「虽然不知道你暗恋对象对你是什么感情,但只要对你有一丁点好感,知道这种情况大概都会心里发堵吧。要是还分隔两地就更难受了」

「なら、どうすりゃいい?」  「那该怎么办?」
「え?」  「啊?」
「俺は別に不安にさせてるとは思ってねえ。だが、やはりああいうデマをデマと分かっていても不安に思う可能性もあるってことだろ?」
"我倒不觉得让你不安了。不过就算是知道那是谣言,也还是有可能让人担心的吧?"

「まあ、そもそもデマじゃなくてガチだと思ってる可能性が……」
"嘛,说到底也有可能不是谣言而是真的..."

「それはねえ。本人の口から直接『どうせデマだろ?』と言われたんだからな」
"那不可能。他本人可是亲口说过'反正是谣言吧?'这种话"

「あ、そ、そうなの?」  "啊,是、是这样吗?"
 それなら杞憂だったか。  看来是杞人忧天了。
 そう思い、今の話は無かったことにしようと世一が声を上げる間もなく、カイザーは「だが」と会話を続ける。
正当世一准备开口说"就当刚才的对话没发生过"时,凯撒却用"但是"继续了话题。

「だが、お前の言うことは一理ある。俺があいつのスキャンダルなんて見せられた日には、それがデマだと分かっていても殺意を覚える。間違いなくな」
"但你说得确实有道理。要是我看到那家伙的绯闻照片——就算明知是谣言,也绝对会起杀心。毫无疑问。"

 いくらデマだろうと、世間の誰かが、カイザーにとって「自分のものにしたい」と強く願うような相手が別の誰かに盗られてしまったという情報を信じているかもしれない、そんな状況すら許せない気がした。
他心想:即便是谣言,只要想到世上可能有人相信"凯撒最想占为己有的人被其他人夺走了"这种消息,就令人难以忍受。

 だからこそ、カイザーは真剣な目で世一に視線を送る。そして、意思のこもった目で、世一に問いかけた。
正因如此,皇帝用认真的眼神凝视着世一。随后以充满决意的目光向他发问。

「どうしたら、安心させられる?」  "要怎么做才能让你安心?"
「えっと、俺あんまりそういうの詳しくないし」  "那个...我对这方面不太了解..."
「構わねえ。お前なら、どうしたらクソ安心するか、それを答えてくれりゃいい」
"无所谓。你只要告诉我,换成是你,怎样才会觉得他妈的安全就够了"

 真剣な目で世一にそう尋ねるカイザーに対して、世一は「うーん」と考え込む。やがて、やはり答えは一つしかないとばかりに口を開いた。
面对凯撒认真的眼神,世一"嗯——"地陷入沉思。最终像是认定答案只有一个般开口道。

「やっぱり……」  "果然还是......"
「ああ」  "啊"
「はっきり本人の口から報道陣に『デマでした』って伝えることかな」
"让他本人当着记者团的面亲口澄清'那是谣言'比较好吧"

「……」
「それだけで、大分安心するかも」  「光是听到你这么说,我就安心多了」
 まあ、あれだけの記者たちにデマだと伝えるのもなかなか骨が折れるだろうし、それならば本人にだけ「あれはデマだ」と伝えるだけでもいい気はするが、しかし、世間の全てがそれをデマだと認識してくれている方が安心するのも確かだろう。
虽说要向那么多记者澄清谣言确实相当费劲,但我觉得只要向当事人说明"那是谣言"就够了。不过,能让全世界都认识到那是谣言的话,确实会更让人安心吧。

 そんな世一の考えた末のシンプルな回答に、カイザーは「そうか」と小さく呟き、そのまま世一の腕を離すと、元来た道を戻るように引き返し始めた。
面对世一经过深思熟虑给出的简单回答,凯撒轻声说了句"这样啊",随即松开握着世一的手,转身沿着来时的路往回走去。

 予想外の行動に、世一は困惑したような様子で声を上げる。
面对这出乎意料的举动,世一露出困惑的神情发出声音。

「おい、どこ行くんだ!?」  "喂,你要去哪!?"
「世一は先に裏口から入ってろ。俺は正門から行く」  "世一你先从后门进去。我要走正门"
「はぁ!? いやいやいや、正門は記者たちでいっぱいで……ってもう走り出してる!?」
"哈!?不不不,正门那边全是记者......喂你怎么已经跑起来了!?"

 世一が待ったをかける間もなく全速力で走り出したカイザーに、世一はこのまま裏口から行こうかと悩みながらも、面倒なことになる予感を察知してすぐさま正門に向けて走り出した。
还没等世一喊出"等等",凯撒就全速冲了出去。世一犹豫着是否该从后门走,但预感到事情会变得麻烦,立刻朝着正门方向奔去。

 そして、遅れてたどり着くと、そこにはすでに、カイザーが「あの報道は出鱈目であり、自分には現在口説き中の本命がいるからクソみてぇな報道で俺の邪魔をするな」といった内容の情報を言い放った後だった。
 当他迟一步赶到时,凯撒已经发表完声明:"那篇报道纯属胡扯,我现在有正在追求的真命天子,别用这种垃圾报道来妨碍我。"

「うわぁ……」  "哇啊......"

 これは荒れるぞ。  这下要闹大了。
 間違いなく当たるであろう予想と共に呆然と立ち尽くしていた世一に、あたりにいた記者たちはようやく彼が「潔世一」であることに気付いたらしく、カイザーでは埒が明かないと思ったのか、今度は一斉に世一の元に向けて詰め寄ってくる。
与必定会应验的预感一同呆立当场的世一,终于被周围记者们认出是"洁世一"本人。或许是觉得在凯撒这边问不出什么,这次他们齐刷刷地朝世一围堵过来。

 しかし、そんな報道陣に囲まれる前に、世一はカイザーに肩を強引に抱かれるように引っ張られ、そのまま気付いた時には建物の中への避難を完了していた。
但在被记者群包围前,世一就被凯撒强行揽住肩膀拽走,等回过神来时已成功躲进建筑物内部。

 戸惑うような気持ちでカイザーに視線を向けると、そこにはどこかスッキリしたような様子で不適な笑みを浮かべる男の姿があって、少しだけ、この大胆さを羨ましいだなんて思ってしまった。
当世一带着困惑目光望向凯撒时,映入眼帘的是某个神情爽朗却挂着不合时宜笑容的男人,让他不由得稍稍羡慕起这份胆大妄为。



「おー、なんかすごいことになってんなぁ」  "哇哦,这下可闹大发了"
「あのカイザーの堂々とした片想い宣言だもんな。そりゃあ荒れるわ」
"那可是皇帝陛下堂堂正正的暗恋宣言啊。闹成这样也是理所当然的"

 これならまだ女優との熱愛報道の方がずっとマシだった。そう思われるくらいには、ニュースもSNSも何もかもがカイザーの話題で持ちきりだった。
比起和女演员的绯闻报道,现在这种情况反而要好得多。新闻也好社交媒体也罢,全都被皇帝的话题彻底占据了,以至于人们都开始怀念之前的绯闻了。

「ほら見ろよこれ。記者たちから庇うようにイサギのことを抱き寄せたせいで『本命はイサギ説』まで出ちまってるぜ。なんならこの説が一番濃厚なんじゃないかとまで言われてる」
"快看这个。因为护着伊佐木把他搂过来的动作,现在连'真命天子是伊佐木说'都冒出来了。甚至有人觉得这个说法最靠谱"

「うわ、まじで!? やっぱ裏口から行けば良かった」
"哇,真的假的!?早知道就该走后门进来的"

 ロッカールームで着替えながら、SNSの誰かの投稿を見せてきたチームメイトに、世一は顔を顰めた。
更衣室里,队友给正在换衣服的世一看社交媒体上某人的帖子,世一皱起了眉头。

 それらの投稿は、どれも「カイザーの本命は世一なんじゃないか」だとか「世一が好きすぎて否定せずにはいられなかったのね」だとか、そんな投稿ばかりだ。もちろん、そのほとんどは冗談のつもりだろうが、もしカイザーの本命がこんな冗談を本気にしてしまう人だったらどうするのだろうか。
那些帖子全是"凯撒的真命天子其实是世一吧"、"喜欢世一到无法否认了呢"之类的内容。虽然绝大多数人应该只是开玩笑,但如果凯撒的心上人是个会把这种玩笑当真的人该怎么办呢。

(…………失敗したな)  (…………搞砸了啊)
 こんなことなら、カイザーに言われた通り、あのまま裏口から行っておけばよかった。そうすれば、こんなバカな噂が出ることもなかったのに。
早知如此,就该听凯撒的话直接从后门离开。那样的话,就不会传出这种愚蠢的传闻了。

 カイザーと本命の邪魔になりかねないこの状況は、正直失敗としか言いようがなかった。
皇帝与正牌情敌之间这种可能引发误会的局面,老实说只能用失败来形容。

 すると、少しだけ落ち込んでいる世一の意識を再び引き戻すかのように、ロッカールームの扉が開かれる音がする。
就在这时,更衣室门被推开的声音响起,仿佛要把略显消沉的世一重新拉回现实。

 そこにはネスと、そんなネスに「もうこんな勝手なことはしないでください!」と叱られながら入ってきたカイザーの姿があった。最近はすっかりネスもカイザーに対して強く意見を言えるようになったらしく、カイザーの行動に対して強めに出るネスの構図も珍しいものではなかった。
门口站着内斯,以及被他训斥着"请不要再这样擅自行动了!"的皇帝。最近内斯似乎已经完全能对皇帝直言不讳,这种内斯强势约束皇帝行动的场景倒也并不罕见。

「あっ、カイザー! お前があんな行動したせいでイサギまで巻き込まれて可哀想なことになってんぞ!」
"啊,凯撒!都怪你擅自行动连累得洁也变得可怜兮兮的!"

「それはクソ僥倖」  "这真是狗屎运"
「おい!」  "喂!"
 チームメイトたちの囃し立てるような声に、カイザーはいつもの小馬鹿にするような笑みを浮かべながら答えた。世一からすると、本当に巻き込まれた以外の何者でもないのだが、カイザーと本命の邪魔者にもなってしまっているし、全くもって何一つ僥倖ではない。
面对队友们起哄般的声音,凯撒挂着惯常那种嘲弄般的笑容回应道。在世一看来,自己完全就是被卷进来的倒霉鬼,不仅成了凯撒和正主之间的电灯泡,根本半点好运都谈不上。

「カイザー」  "凯撒"
「なんだ?」  "怎么了?"
「このままだと拗れる一方だから、お前の本命にさっさと『貴方が本命です』って伝えた方がいいぞ」
"再这样下去只会越闹越大,你最好赶紧去跟你真正喜欢的人说'你才是我的真爱'"

「それはまだ早い」  "现在还为时过早"
「早いも何もねえんだって! SNS見てみろよ! いくら冗談でも本命は俺説まで出てる状況だぞ? さっさと訂正した方がいいって!」
"早个屁啊!你看看社交网络!现在连'真爱是我'这种玩笑都传开了好吗?赶紧去澄清啊!"

「全く問題ないな」  "完全没问题"
「はぁ?」  "哈?"
 こいつは、さっき世一と交わした会話を忘れてしまったのだろうか。鳥頭なのだろうか。いや、まあ確かに寝起きとかは鳥の巣のようになってはいるが。
这家伙难道已经忘记刚才和世一的对话了吗?是个榆木脑袋吗?不,虽然刚睡醒时确实头发乱得像鸟窝一样。

 そんな失礼なことを勝手に頭で考えながら、世一はカイザーでは埒があかないと、隣にいるネスに視線を送る。
世一一边在脑海里想着这些失礼的念头,一边意识到和凯撒沟通无果,便将视线转向身旁的涅斯。

 すると、先ほどまではカイザーに対して叱りつけていたわりに、カイザーの味方という立場は変わらないらしい。
看来尽管刚才还在训斥凯撒,但世一站在凯撒这边的立场似乎并未改变。

 世一の視線を見るや否や「訂正の必要はありません」と言い放ったのだ。
 一看到世一的眼神就立刻断言道:"没有修正的必要。"

「いやいやいや、このままだと今度はお前の大好きなカイザーが俺なんぞを本命にしてるとかいうアホみたいなデマが流れ続けるぞ!? いいのかよ!」
"喂喂喂,这样下去的话,接下来可是会继续流传你最喜欢的凯撒把我这种货色当真命天子之类的蠢谣言啊!?真的没关系吗!"

「問題ありません。カイザーの勝手な行動は流石にチームやマネージャーに一声かけてからやれとしか言いようありませんが、こうなってしまった以上は放置が一番です」
"没有问题。虽然凯撒擅自行动确实应该先和团队及经纪人打声招呼,但事已至此,冷处理才是上策"

「クソネス! 腰巾着卒業したと思ってたのに!」  "可恶!还以为终于能摆脱跟屁虫的身份了!"
「腰巾着は卒業しましたが、カイザーの幸せを願うことはやめてませんので」
"虽然已经不再是跟班了,但我依然会为凯撒的幸福祈祷"

「幸せ願ってるなら訂正させてやれよ!」  “要是真希望我幸福就让我改啊!”
 何を考えているのだ、そんな気持ちを込めながら声を上げるも、この場に世一の味方は存在しなかった。
他究竟在想些什么——怀着这样的心情发出声音,可这世上最理解我的人此刻并不在场。

 結局、カイザーは本命相手に個別で訂正したのかは分からないが、二人の関係性はファンたちの間で面白おかしく語られるようになり、訂正しないままネットの海に多くの情報が彷徨うこととなってしまった。
最终,凯撒是否向正主单独解释过已无从考证,但两人的关系在粉丝间被津津乐道地传播开来,未经澄清的诸多传闻就这样在网络的海洋中四处飘荡。



 カイザーの熱愛報道事件から二週間ほどが経ったが、あれから特別何か変わったことはなかった。
距离凯撒的绯闻事件已过去两周,但此后并未发生什么特别的变化。

 やはり予想通りと言うべきか、相手が世一ではないかという噂はただの冗談のように扱っている層の方が圧倒的に多く、最近ではまた別の相手なんじゃないかという説がホットになっている。だが、それでもやはり、元々カイザーと世一の二人組というのはかなり人気コンビだったらしく、様々なところで冷やかしのような声をかけられるようになっていた。まあ、最近ではそんな冷やかしを適当にいなせるくらいには、世一もこの状況に慣れてきていたが。
或许该说果然不出所料,认为"对方莫非是世界第一"的传言终究被绝大多数人当作玩笑看待,最近甚至流行起"说不定另有其人"的新说法。不过原本凯撒和世界第一这对组合就颇具人气,如今在各种场合都会听到调侃的声音。当然,最近世界第一已经能游刃有余地应付这些戏谑,渐渐适应了这种状况。

 ただ、もしあれから変わったことがあるかと問われたら、少しだけ、あの日からカイザーが世一に対しての距離が近くなったように見える。
但硬要说有什么变化的话,就是从那天起,凯撒似乎稍稍缩短了与世界第一之间的距离。

 元々距離は近かったのだが、それは世一の家に来ている時のみで、外では普通の距離感だったはずだ。それが、最近はことあるごとに世一の肩やら腰やらに手を回してきては、まるで抱き寄せるかのように体を密着させてくる。チーム内で日本人は世一のみだから、本命相手の前の練習相手として都合がいいことに気付いたのだろうか。
原本两人距离就很近,但那仅限于来世一家的时候,在外面本该保持正常距离才对。可最近凯撒动不动就把手搭在世一肩上或腰间,简直像要把他搂进怀里似的紧贴上来。大概是因为队里只有世一一个日本人,觉得作为正主面前的练习对象正合适吧。

 理由は分からないが、今までよりも近くなった距離感に、周りのチームメイトから冷やかされることも多々あった。
虽然不明白缘由,但两人明显缩短的距离感,经常招来队友们的起哄调侃。

(しっかし、結局カイザーの本命って誰なんだろうなぁ……)
(不过说到底...凯撒的正主到底是谁啊...)

 しみじみと心の中でそう思う。  他在心底幽幽地想着。
 あれからもカイザーには色々日本とドイツの文化の違いを教えてきてはいた。基本的に人と人である以上は変わらないものも多くあるが、やはり生まれ育った国の違いはそれだけで大きな差異を生むことになる。
自那以后,我也向皇帝陛下讲解了许多日本与德国文化的差异。虽说人与人之间本质上大多相通,但成长环境的不同终究会造就巨大差异。

 とりあえず日本では食べ物を粗末に扱うと大体の人間に白い目で見られるから気をつけろということは言い聞かせてあるが、カイザーに関してはこれは問題ないだろう。
 至少我已告诫过他:在日本若糟蹋食物,多半会遭人白眼,不过对皇帝陛下而言这应该不成问题。

 だが、そんな交流を通じても、世一はカイザーの本命を分からないままでいた。
 然而即便经过这些交流,世一仍未能参透皇帝陛下的意中人究竟是谁。

 しかし、あれだけ世一と共に過ごしているというのに気付かないレベルなんて、一体どんな相手なんだろうと思っていたが、相手が日本人と聞いてからは色々と納得出来た。つまり──。
 但转念又想,能与世一共度如此多时光却仍未被察觉,对方究竟是何方神圣?直到听闻对方是日本人时,诸多疑惑才豁然开朗。也就是说——

「遠距離ってことだよな?」  "是远距离恋爱对吧?"

 そう、遠距離ならば、今まで世一が気付かなかったのにも全て頷ける。
没错,如果是远距离的话,就能理解为什么世一至今都没能察觉了。

 日本とドイツ、時差は八時間、サマータイムでも七時間もある。正直、これだけの時差があれば通話ですらすれ違いかねない。
日本与德国之间有着八小时的时差,就算在夏令时也有七小时。说实话,这么大的时差连通话都容易错过。

 そういえば、一回世一がオフシーズンで日本に帰る時に、カイザーがついてきたことがあった。日本についてからは世一の実家を拠点にしつつもお互いに自由行動も多かったし、もしかするとあれは「本命」とやらに会いに行っていたのかもしれない。そう思うと、わざわざ日本についてくると言って聞かなかった理由が全て納得できた。
说起来,有一次世一在休赛期回日本时,凯撒曾跟着一起来过。到日本后虽然以世一老家为据点,但两人经常各自自由行动——说不定那时候他就是去见那个所谓的"正牌女友"。这么一想,就能明白他当初为什么执意要跟着来日本了。

 もしかして、一人で行くのは心細かったのだろうか。そう思うと少しだけあの図体の大きい男が可愛く感じてしまった。
莫非是因为独自前往会感到不安吗?这么一想,那个大块头男人竟让我觉得有几分可爱。

「けどまあ……相手が日本人で、遠距離なのに告白もしてなかったら、そりゃあただの友達だと思うよなぁ」
「不过嘛……对方是日本人,又隔着这么远距离,连告白都没有的话,那确实只能算是普通朋友吧」

 そして、こうなってくると問題なのは、カイザーの本命には「すでに相手がいるかもしれない」という悲しい現実が付き纏ってくる点だ。
 而发展到这个地步,问题就在于缠绕着凯撒本命对象的那个残酷现实——"或许对方早已心有所属"。

 正直、カイザーという男に対しては色々腹立つことも多い。だが、同時に世一にとっては重要な人間であることは間違いないのだ。そして、最近は昔よりも距離を縮めてきているし、ゴールの邪魔をしてこようと、相手の幸せを願えるくらいには世一も大人にもなった。むかつくことは変わらないが、カイザーの本命にすでに別の相手がいたらどうしよう、そう心配できるくらいには、カイザーの初恋を応援していたのだ。
 说实话,凯撒这个男人经常让人火冒三丈。但与此同时,对世一而言他无疑是重要之人。最近两人的距离比从前拉近了许多,即便他会成为通往终点的阻碍,世一也已然成长到能够衷心祝福对方幸福的程度。虽然恼火的感觉依旧,但此刻他竟能担忧起"要是凯撒的初恋对象已有伴侣该怎么办",可见他确实在默默支持着凯撒的这场初恋。

 だから、その日の練習終わり、世一は買い物を済ませてオムライスの準備をしながらカイザーを自宅に招くと、頭の中の疑問をそっと投げかけた。
于是那天训练结束后,世一买完食材准备做蛋包饭招待凯撒来家里时,悄悄抛出了心中的疑问。

「お前の本命ってさ、その……日本でかなりモテるタイプなんだよな?」
"你喜欢的那个本命...在日本可是相当受欢迎的类型吧?"

「あぁ、まあそうだな」  "啊,算是吧"
「じゃあさ、目を離した隙にすでに相手が出来てたりとか、そういう心配はないのかなって……」
"那...你会不会担心稍微不留神,对方就已经有交往对象了之类的..."

 もう少し言葉を濁して聞くつもりだったが、今回ばかりはある程度ストレートに聞かないと伝わらないだろう。そう思った世一の問いかけに、カイザーは「あー……」と短めに声を上げながらガシガシと頭を掻くと、ケロッとした様子って答え始めた。
我本打算用更委婉的方式询问,但这次若不直截了当恐怕无法得到答案。怀着这样的想法,世一直白提问后,凯撒"啊——"地短促应了一声,用力挠着头,突然摆出若无其事的样子开始回答。

「クソありえねえな」  "简直离谱"
「は?」  "哈?"
「本人からこの間相手はいないとはっきり聞いた」  "我前阵子亲口问过本人,他说根本没有交往对象"
「あっ、そうだったのか! で、でもさ……やっぱり離れてる間に相手が出来ちゃったりとか、心配にならないの?」
"啊,原来是这样!可、可是啊……分开期间万一对方有了新欢之类的,你不会担心吗?"

「常に見てるから問題ねえよ」  "我一直看着所以没问题"
「……はい?」  "……啊?"
 今、この男はなんと言ったのだろうか。常に見ている、そう言った気がするのだが、気のせいだろうか。
刚才这个男人说了什么?好像说了"一直看着"之类的话,是错觉吧。

「だから、常に見てるから、あいつに恋人が出来そうになったらすぐ分かる」
"所以我会一直看着,那家伙要是快有恋人了,我马上就能知道"

 やはり言っていた。間違いではなかった。  果然说了。没有听错。
 そんなあまりにも予想外な答えに、世一は困惑したように頭を抱えた。
面对这个完全出乎意料的回答,世一困惑地抱住了头。

(えっ、常に見てるって……日本にいる本命さんを常に見ることができる状況って、なんだそれ……も、もしかしてこっそり監視カメラや盗聴器ををつけたとか!?)
(诶、一直看着...在日本的本命能被一直看着的情况,这算什么啊...该、该不会是偷偷装了监控摄像头或窃听器吧!?)

 その考えに至った瞬間、世一は頭の中でカイザーのスキャンダルどころか逮捕記事が流れるシーンが映し出された。
想到这里时,世一脑海中浮现的已不仅是凯撒的丑闻,甚至闪过了他被捕新闻播报的画面。

 これはもしかすると、非常にまずいかもしれない。  这状况说不定会变得相当糟糕。

「……あのさ、カイザー」  "……那个,凯撒"
「なんだ」  "怎么?"
「えっと、その……あんま言いたくないんだけど、犯罪はダメだぞ?」
"那个...虽然不太想说,但犯罪可不行哦?"

「あぁ?」  "啊?"
「だから! 犯罪に手を出すのだけはやめとけよ? いいな?」
"所以说!唯独违法犯罪这事绝对不能干知道吗?答应我?"

 諭すようにそう言う世一に、カイザーは首を傾げながら「十分な資金がある今なら犯罪なんて犯す必要ねえだろ」と不思議そうな顔で答えた。
面对这样谆谆告诫的世一,凯撒歪着头露出困惑的表情回答道:"现在资金这么充裕,根本没必要犯罪吧。"

 日本では盗撮や盗聴も犯罪なのだと教えた方がいいのだろうか。いや、ドイツでも流石にこの辺りは犯罪なのではないだろうか。
或许该告诉他偷拍和窃听在日本也属于犯罪?不过德国应该不至于连这种基本法律都没有吧。

 流石にドイツの法律についてはそこまで分からないが、盗撮はダメ、盗聴もダメという同じ倫理観を持っていると思いたい。
虽然对德国法律了解不深,但至少偷拍和窃听这种违背基本伦理的行为,想必在哪里都是被禁止的。

 そんなことを思いながら、世一は核心に迫るような言葉は避けながら、再び口を開く。
怀着这样的思绪,世一避开触及核心的言辞,再次开口道。

「俺は、お前とのサッカーが楽しいから、あんまり危ない橋は渡ってほしくねえっていうか……」
"我就是觉得...和你踢球很开心,所以不想看你铤而走险......"

「なんだ? 世一くんは俺の心配をしてくれてるのか?」
“怎么?世一是在担心我吗?”

「そ、んなんじゃねえけど! でもチームメイトが盗撮で捕まるのは嫌だろ?」
“才、才不是!但队友因为偷拍被抓也很糟糕吧?”

「は? 盗撮? なんのことだ」  “哈?偷拍?你在说什么”
「常に見てるって言ってたじゃん! それってつまり監視カメラとか盗聴器とかしかけてるってことじゃ……」
“你不是说一直在看着吗!那不就是装了监控摄像头或窃听器之类的意思……”

「んなわけねえだろクソ世一!!」  "开什么玩笑啊混蛋世界第一!!"
 まさか自分が盗撮犯だと思われているとは考えもしなかったのだろう。世一の言葉に青筋を浮かべながら大きく怒りを露わにするカイザーに、世一は「あれ? 違ったの?」と首を傾げる。
凯撒完全没料到自己会被当成偷拍狂。面对暴怒到青筋暴起的世界第一,他只是歪着头反问:"咦?我搞错了吗?"

 そんな世一のポカンとした表情に、カイザーは大きくため息を吐くと、投げやりな口調で「違えよ」と答えた。
看着对方呆愣的表情,凯撒长叹一口气,用自暴自弃的语气答道:"搞错了。"

「そんなクソみてえなことしねえし、する気もねえよ」
"老子才不会干那种下三滥的勾当,想都没想过"

「でも常に見てるって……」  "但我一直都在看着啊……"
「近くにいるから常に見てんだよ!」  "因为就在身边所以才能一直看着啊!"
「近く? えっ、遠距離じゃなかったのか!」  "在身边?诶、原来不是异地恋吗!"
「ドイツ在住だ」  "我住在德国"
「えー! 思ってたより全然近いじゃん!」  "诶——!比想象中近多了嘛!"
 てっきり日本とドイツで遠距離してるのかと思った、そう語りながら世一はいつものような無害そうな笑みで微笑む。
还以为是在日本和德国谈远距离恋爱呢——说着这话的世一,露出了和往常一样人畜无害的微笑。

「ていうか! 聞きそびれてたけど出会いはブルーロックで来日してた時なんだよな? どうやって出会ったの?」
"话说!之前都没机会问,你们是在蓝色监狱时期他来日本的时候认识的吗?怎么遇上的?"

「別に……クソ普通に逢いに行った」  "没什么特别的……就普通地去见了面"
「お前あの時めちゃめちゃ尖ってたのに『普通』は無理だろ」
"你那时候明明浑身是刺,现在装什么'普通'啊"

「うるせぇ、俺にとってはクソ普通だ」  "闭嘴,对我来说这就是他妈最普通的状态"
 ブルーロックで初めて出逢ったカイザーと今のカイザーは、根っこのところは変わらない。しかし、やはり大人になるにつれて少しだけ心に余裕が出来たのか、無闇矢鱈にすぐ人を煽る癖は少しだけ鎮まってきているように感じていた。もっとも、相手が世一となると話は別なのだが。
在蓝色监狱初次相遇的凯撒与现在的凯撒,骨子里其实毫无改变。不过随着年岁增长,他心中似乎也生出了些许从容,那种不分青红皂白就挑衅他人的习性总算收敛了几分——当然,若对方是世一的话就另当别论了。

「俺にとっては『普通に』逢いに行って、数え切れねえくらい喧嘩して、そんで最近は少しだけ、まともに話せるようになってきた」
"对我来说就是'普通地'去见你,打上无数场架,然后最近终于能稍微...正常说几句话了"

「カイザー、お前……」  "皇帝,你这家伙……"
「なんだ」  "干嘛"
「本当に初恋童貞だったんだな」  "原来真是初恋处男啊"
「あぁ!?」  "啊!?"
 世一からの予想外の言葉にピキッとこめかみに怒りがのぼるのを感じながら、カイザーは腹の底からムカついていますとばかりの声を出す。
听到世一这句出乎意料的话,凯撒太阳穴突突直跳,怒火中烧,从牙缝里挤出带着十足嫌恶的声音。

 昔はその声に多少なりと「こわっ!」と思っていたが、今ではすっかり慣れてしまった世一は、怖気付くことなく言葉を続ける。
 若是从前,听到这种声音世一多少会有点"好可怕!"的反应,但如今早已习惯的他毫无惧色地继续说着。

「いや、だってさ! ブルーロックから何年経ってると思ってんだよ! 最近になってようやく普通に話せるようになってきたって……ぷっ、本当にお前本命相手に慣れてないんだな!」
"喂喂,开什么玩笑!你知道从蓝色监狱毕业都多少年了吗?最近才总算能正常交流......噗,你这家伙果然对正牌恋人完全没辙啊!"

「恋愛経験に関してはクソ世一も似たようなもんだろうが」
"论恋爱经验的话,该死的世一你也半斤八两吧"

「まあそうなんだけど、お前の方が意外性が強いだろ? ふっ、ハハハッ!」
"话是这么说,但你这家伙才更出人意料吧?呵,哈哈哈!"

 堪え切れない笑いが溢れる様子に、カイザーはいつも通りの不機嫌そうな顔のまま、世一の頭を掴むと、持ち前の握力でミシミシと音を立てるように力を込めてきた。そんな衝撃に、世一は「いでででで!」と痛みを訴えるが、どうやら男は解放する気はないらしい。
看着对方忍俊不禁的模样,皇帝依旧板着那张标志性的臭脸,一把扣住世一的脑袋,用他那引以为傲的握力咯吱作响地施加压力。世一被这突如其来的袭击疼得"哎哟哟哟"直叫唤,但男人显然没有松手的意思。

 だが、この男が本気で力を込めていたらもっと痛むのは間違いないだろう。だから、この行動は彼なりの照れ隠しなのかと思うと、カイザーという男が少しだけ可愛く感じた。
不过若这家伙真用全力的话,疼痛程度肯定不止于此。想到这里,忽然意识到这大概是他独特的害羞表现方式,竟觉得这个叫皇帝的男人有那么点可爱。



「なぁ、イサギも行こうぜ!!」  "喂,伊佐木也一起来啊!!"
「んー、まあ明日は休養日の予定だし、別にいいけど」
“嗯——反正明天是休息日,倒也无所谓啦。”

「本当!? よっしゃ! ゲスナーにもイサギ追加って伝えてくるわ!」
“真的!?太好啦!我这就去告诉格斯纳把伊佐木也加进来!”

 チームメイトの一人がそう言って走り去っていく姿を見ながら、世一はロッカーの中からドリンクを取り出す。ゴクリと水分が喉から身体に落ちていく感覚を覚えながらその場に立ち尽くしていると、再び扉の開かれる音が聞こえて、首を横に回す。
看着队友说完这句话就跑远的背影,世一从储物柜里取出饮料。他站在原地感受着液体咕嘟滑过喉咙落入身体的触感时,又听见门被推开的声响,便侧头望去。

 するとそこには、ネスの姿があった。  只见尼斯正站在那里。
「おー、ネスか。おつかれー」  "哟,是内斯啊。辛苦啦"
「さっきサムから聞きました。今日は世一も参加するみたいで。珍しいですね」
"刚刚听萨姆说了。今天好像世界第一也要参加呢。真少见啊"

「あぁ、今日はまだ約束してなかったし。あ、お前も参加すんの?」
"啊,今天本来还没约好呢。噢,你也要参加吗?"

「ええ。ところで、今日はまだ約束してなかったというのは、カイザーとの約束をってことですか?」
"是的。话说回来,您说'今天还没约好',是指和凯撒的约定吗?"

「んー、まあそうだな」  "嗯——嘛,确实是这样"
 普段だったらオフの前日は大体カイザーと共に過ごすことが多い。それは単純に、世一がドイツに来たばかりの頃から何かとカイザーに面倒をかけていたお礼をしたかったからだ。
平时休息日的前一天,世一多半会和凯撒一起度过。这单纯是因为世一刚来德国时经常给凯撒添麻烦,想表达谢意。

 しかし、流石に数年も経てば世一もドイツという国に適応してくるし、そうそうトラブルに巻き込まれることも無くなってくる。だから最近はお礼と言うよりは、単純に世一がご飯に誘ったから一緒にいるという状況になってきていた。
不过经过这么多年,世一也逐渐适应了德国这个国家,很少再遇到什么麻烦事了。所以最近与其说是感谢,不如说是世一单纯约他吃饭才在一起的状况变多了。

 そして今日は、カイザーのことを飲みに誘う前に世一に対してチームメイトのサムが飲みに誘ってきた。だから、カイザーではなく他のチームメイトたちと飲みに行く。何もおかしなことではないだろう。
而今天,在世一约凯撒喝酒之前,队友萨姆先约了世一去喝酒。所以这次不是和凯撒,而是和其他队友一起去喝酒。这也没什么奇怪的吧。

「……世一」  “……世一”
「ん?」  「嗯?」
「カイザーも今日の飲みに誘ってください」  「凯撒也请邀请我参加今天的酒会」
「は? なんで俺から? カイザーに来て欲しいならお前が誘えばいいじゃん」
「哈?为什么是我去邀请?你想让凯撒来的话自己去邀请不就好了」

「僕が誘うんじゃ意味がないんですよ! 世一が誘うことに意味があるんです!」
「我去邀请就没意义了啊!必须由世界第一来邀请才有意义!」

「い、意味わかんねぇ……結局来るところが同じなら誰が誘っても同じじゃん」
"搞、搞不懂啊...既然最后去的地方都一样,那谁邀请不都一样吗"

「カイザーは毎回オフの前日は世一に誘われるのを楽しみに待っています。なので、世一がこのまま誘わないと『今日は誘ってもらえなかった、グスン』と多分寂しい思いをしてします」
"凯撒每次休假前一天都满心期待等着世一邀请他。所以要是世一今天不主动约他,他肯定会'今天没被邀请,呜...'这样暗自伤心"

「んなわけねえだろ! 子供じゃねえんだから! お前あいつのこと五歳児か何かだと思ってんの?」
"开什么玩笑!又不是小孩子!你当那家伙是五岁小孩吗?"

「カイザーの情緒に関しては五歳児と近しいところがあるんです! だから世一が誘ってきてください! 今日はサシじゃないけどみんなでご飯に行こうって! いいですね!?」
"凯撒的情绪管理确实接近五岁儿童水平!所以请世一主动约他吧!就说今天虽然不是独处但大家一起去吃饭!这样总行了吧!?"

「えー……」  "呃……"
 これはおそらく何を言ってもダメだろう。そう思わされるくらいには、今のネスの意思は強そうに見えた。カイザーと仲良くしていられるだけあって、ネスも実はなかなかに頑固だ。一度言い出したら聞かないところがあるのは、チームメイトとして数年共に過ごしてきただけでなんとなく分かってはいた。
看来现在不管说什么都没用了。内斯此刻的决心如此坚定,让人不得不这么想。不愧是能和凯撒相处融洽的人,内斯骨子里其实相当固执。作为共同奋战数年的队友,世一早就隐约察觉到——这家伙一旦开口就听不进劝。

 だからこそ、世一は諦めるように「はぁ」と息を吐くと、再び「分かったよ」と口を開いた。
正因如此,世一放弃般地叹了口气,再次开口道:"知道了知道了。"

「カイザーも誘ってくりゃいいんだろ? その代わり、無理でも文句言うなよ」
"把凯撒也叫上总行了吧?不过先说好,到时候可别抱怨我强人所难"

「ええ、カイザーが誘いを自分の意思で断ったなら文句は言いませんよ」
"好吧,如果凯撒是凭自己意愿拒绝邀请,我不会有怨言"

 そう言って頷くネスに、世一は面倒くさそうに頭をかきながら、今も練習しているであろうカイザーを誘うべく、ロッカールームを後にした。
世一挠着头露出不耐烦的神情,对点头回应的内斯说完这句话后,便离开更衣室去邀请应该还在训练的凯撒。



 結果的に言うと、カイザーは世一の誘いに乗ってきた。それも二言返事で。
结果出乎意料,凯撒爽快地答应了世一的邀请。甚至没等他说完第二句话。

 実は、このような会の時にカイザーが来るのはかなり珍しく、ゲスナーや他のチームメイトたちもどこかソワソワしているように感じる。
其实凯撒会出席这类聚会相当罕见,连格策和其他队友们都隐约透着一股坐立不安的兴奋感。

 だが、皆アルコールが入ってしまえばそんなソワソワ感も消えていき、いつも通りの騒がしい雰囲気に戻っていった。もっとも、遺伝子的にアルコールに弱い人が多い日本人と違って、皆アルコールには強い体質のためそこまでベロンベロンに酔うタイプもいなかったが。
不过等大家都喝上酒后,那种坐立不安的感觉就渐渐消散了,又恢复了往常那种喧闹的氛围。毕竟和基因里普遍酒精耐受度差的日本人不同,这群人天生酒量都不错,倒也没谁喝得烂醉如泥。

 しかし、そんなほろ酔い空気の中でもやはり、せっかくカイザーがいるのだからと「あの話題」について触れたかったらしいチームメイトたちは、何かの拍子に、酔った雰囲気を作り上げて、とうとうその話題を口にし始めた。
然而在这微醺的气氛中,队友们似乎还是按捺不住想趁着皇帝在场的机会提起"那个话题"。他们借着酒劲营造氛围,终于把话题引到了这上面。

「なあ、カイザー! お前の好きなやつって結局誰なんだよ!」
"喂,凯撒!你喜欢的到底是谁啊!"

「それそれ、俺も気になってたんだよなぁ……あれだけ色んな奴らと噂されても誰にも靡かねえようなカイザーが一体誰に射止められちまったんだ?」
"对对对,我也超在意的......明明跟那么多人传过绯闻却从不为所动的凯撒,到底是被谁给拿下了?"

「ちょっと、こんな大衆の面前で大声で聞くんじゃありません! カイザーも答えなくていいですからね!」
“喂,别在这种公众场合大声问这种事!凯撒也不用回答!”

 確かにそれほど客が多いわけではないが、それでもそこそこ人はいるクナイペで、カイザーを筆頭としたバスタード・ミュンヘンの者たちはチラチラと周囲の者たちから視線を集めていた。そんな中でも「カイザーの本命」なんて言葉が聞こえたら、ただでさえゴシップに飢えている世間のいい噂の的になりかねない。
虽然店里客人不算特别多,但这家啤酒馆里确实有不少顾客。以凯撒为首的拜塔·慕尼黑成员们正吸引着周围人频频侧目。在这种场合下要是传出“凯撒的真命天子”这种话,本就渴求八卦的社会大众肯定会把这当成绝佳的谈资。

 だが、カイザーは本命がいて、今はその相手にアプローチ中であることを本人の口から宣言しているため、もはや隠すような行動には出なかった。それどころか、どこか乗り気な様子で語り始める。
但凯撒本人已经亲口承认心里有人,目前正在追求中,所以根本没必要遮遮掩掩。非但如此,他还带着几分兴致勃勃的神情开始讲述。

「……好きなやつじゃねえ、自分のものにしたいやつだ」
“……不是喜欢的人,是想占为己有的人”

「だからそれが本命ってことだろ? なあなあ、どんなやつなんだよ!」
"所以那就是你的真命天子咯?快说说,是个什么样的人啊!"

「やっぱ美人?」  "该不会是个大美人吧?"
「いや、どちらかと言うと可愛い系だ」  "不,要说的话更偏向可爱型"
「うわっ、あのカイザーから『可愛い』なんて単語を聞けるなんて!」
"哇哦!居然能从那个凯撒嘴里听到'可爱'这种词!"

「これガチなやつじゃねえか!」  "这该不会是来真的吧!"
 まだ一つしか情報は落とされていないのに大盛り上がりのチームメイトたちは、今度はそんなカイザーの隣にいた世一にまで質問を投げかけてくる。
虽然只透露了一条信息,但兴奋不已的队友们这次连站在凯撒身边的世界第一也不放过,纷纷抛出问题。

「あっ、イサギなら何か知らない? 最近お前らますます一緒にいんじゃん?」
"啊,伊佐木你知道吗?最近你们不是越来越形影不离了吗?"

「えー俺? 俺も詳しくは聞いてないんだけど……」  "诶——我?我也没听说具体细节啦……"
 あっでも、そう言って世一は続ける。  不过,世一还是继续说了下去。

「相手は日本人らしい!」  "对方好像是日本人!"

 ピシリと、辺りの空気が凍りつくように時間が止まるのを感じた。
啪地一声,周围的空气仿佛凝固了,时间也停滞了。

「だよな、カイザー?」  "对吧,凯撒?"
「人の情報ペラペラ喋んじゃねえクソ世一」  “别他妈随便泄露别人隐私啊混蛋世一”
「あっ、悪い! お前がもっと喋って欲しくなさそうだったら黙ってようと思ったけど、なんか別に嫌がってなかったから!」
“啊、抱歉!我看你好像不太想说话的样子本来打算保持沉默的,但感觉你也没特别抗拒嘛!”

 そう言ってテヘッという効果音が流れそうな表情で謝る世一に対して、カイザーは大して怒った様子もなく「まあこれくらいなら許してやる」とだけ返答する。
面对这样说着还露出仿佛自带“诶嘿”音效表情道歉的世一,凯撒并没有显得多生气,只是回了句“这种程度就饶了你吧”。

 しかし、そんな二人のいつも通りの何気ないやりとりとは対照的に、話を聞いていたチームメイトたちは、ネス以外の全員がジョッキを落とすような勢いで今も固まっていた。
然而与两人稀松平常的互动形成鲜明对比的是,旁听的队友们——除了内斯之外——至今仍保持着仿佛惊掉酒杯般的石化状态。

 それに気づいた世一は、少し火照った頬で、首をコテンと傾けた。
世一注意到这点,脸颊微微泛红,突然歪了歪脑袋。

「どうしたんだ? みんな、固まっちまって」  "怎么了?大家都僵住了"
「い、イサギ……その話は本当か?」  "伊、伊佐木...那件事是真的吗?"
「ん? あー、そうだよ。な、カイザー?」  "嗯?啊——是真的呀。对吧,凯撒?"
「ああ。日本人で黒髪、クソ童顔でクソ鈍感の人誑しクソ野郎だ」
"啊。是个日本来的黑发混蛋,长着张欠扁的娃娃脸还迟钝得要命,专门骗人感情的混账东西"

「相変わらず好きな相手に向けるとは思えないんだけど! 本人にそんなこと言ったらダメだぞ?」
"你对着喜欢的人还是这副德性啊!这种话可别当着本人面说"

「事実なんだから仕方ねえだろ」  "事实如此有什么办法"
 淡々と交わされていく二人の会話の途中で、ようやく我に戻ってきたらしいゲスナーが、恐る恐ると言った様子で隣のネスに視線を送った。
在两人平淡的对话间隙,似乎终于回过神来的格斯纳,战战兢兢地向身旁的涅斯投去试探的目光。

「……ネス、テメェは知ってたのか??」  “……内斯,你这家伙早就知道了吗??”
「ええ、まあ」  “嗯,算是吧”
「テメェ、こんな面白いことになってんのになんで誰にも言わなかったんだよ!」
“混账!事情变得这么有趣你居然谁都不告诉!”

「カイザーが言わないことを僕がわざわざ言いふらしたりしませんよ」
“皇帝陛下都没开口的事,我怎么会特意到处宣扬呢”

 二人の会話の意図が読めない世一は「どういうこと?」と聞くが、そんな世一の手にあったビールジョッキをカイザーが奪って飲み始めたことで、世一の視線がネスとゲスナーたちからカイザーに引き戻される。
读不懂两人对话深意的世一问"什么意思?",但凯撒突然夺过他手中的啤酒杯开始豪饮,让世一的视线从内斯和格斯纳那边重新聚焦回凯撒身上。

 そんな二人を見ながら、チームメイトの一人がポツリと口を開いた。
 队友们望着这样的两人,其中一人轻声嘀咕道。

「……カイザーって、本当に初恋なんだな」  "......凯撒这家伙,还真是初恋啊"
「みたいだな」  "看来是呢"
「俺も覚えあるぜ。初めて好きになった子の気を引きたくてついついちょっかいばっかりかけて嫌われた苦い思い出がさ」
"我也有过这种经历。为了吸引第一次喜欢上的女孩注意,结果总是去招惹人家,最后被讨厌的苦涩回忆啊"

「あー、あるある」  "啊——太真实了"
「しっかし日本人か。なるほどなぁ……言われてみりゃそれしかあり得ねえわな」
"不过居然是日本人啊。原来如此……听你这么一说确实只能是这么回事了"

「確かに、今まで誰なんだよと思ってたけど、言われたら全て納得だわ」
"确实,之前一直想不通是谁,但被你这么一说就完全明白了"

 代わる代わるにそんな言葉を交わし合う彼らの声が、カイザーにジョッキの中身を飲み干されたショックで聞こえていなかった世一は、彼の本命については依然として分からないままであった。
轮番交谈的他们声音,被凯撒一口气喝光杯中酒的冲击所掩盖,世一依然没能听清他真正的心意。



「ふぅ、飲みすぎた〜!」  "呼,喝太多了~!"
「相変わらずクソ雑魚肝臓してるな」  "你这破肝脏还是这么不经用啊"
「仕方ねえだろ! そういう遺伝子なんだから」  "有什么办法!天生的基因就这样"
 上機嫌な様子で世一の家に帰ってきた二人は、慣れた手つきで上着を脱ぐと、ソファに座り込んだ。
两人心情愉悦地回到世一家,动作娴熟地脱下外套后,便瘫坐在沙发上。

 本来なら今日はカイザーを自宅に呼ぶ予定はなかったのだが、世一の足があまりにもおぼつかなかったため、家まで送っていくと言って聞かず、家の前まで来てくれたからには「泊まってけよ」という流れになったのは決して不自然ではなかった。
原本今天并没打算邀请凯撒来家里,但世一走路实在踉踉跄跄,对方坚持要送他到家门口。既然都到这儿了,顺势说出"干脆住下吧"也显得水到渠成。

「風呂!」  "洗澡!"
「飲酒直後の風呂はやめろといつも言ってんだろ」  "不是总跟你说喝完酒别马上泡澡吗"
「えー、でもベタベタするし」  "啊——但是黏糊糊的好难受"
「少し酔いが覚めてからにしろ。ほら、この間の試合分析するぞ」
"等酒醒一点再说。来,先分析上次的比赛"

「する!!」  "要分析!!"
 目を輝かせながら飛びついてくる世一に、カイザーは少しだけ目を細めると、勝手知ったる他人の家でモニターの電源を入れる。
看着眼睛发亮扑过来的世一,凯撒微微眯起眼睛,在这个熟门熟路的别人家里按下了显示器电源。

 そして、先日の試合の映像を流しながら、二人でソファに座り込んだ。
两人并肩坐在沙发上,回放着前些日子的比赛录像。

 酔っ払っていても世一は世一らしく、目の前に流れる試合映像を吸収するかのような目つきで見ると、そのまま試合の記憶と共に語り始めた。それに呼応するかのようにカイザーもまた、世一と共に試合映像を観察する。
 即便醉意朦胧,世一依然是那个世一——他凝视着眼前流动的比赛画面,眼神仿佛要将影像尽数吞噬,随即伴着比赛记忆开始滔滔不绝。凯撒也默契地配合着,与世一同屏共赏那些影像。

 映像の中の世一は、カイザーから見ても勝利に貪欲な獣のように見えた。しかし、今隣にいるこの男は、そんな獣のような一面はなりをひそめ、どちらかというと穏やかな小動物にさえ見える。そっとまろい頬と頭に触れると触り心地が良くて、本人も威嚇することなく触れられる感触を受け入れている。その姿に、カイザーは面白そうにまなじりを下げた。
 录像中的世一在凯撒眼中犹如渴求胜利的猛兽。但此刻依偎在身旁的这个男人,却收敛了所有獠牙,温顺得近乎某种小型动物。指尖悄悄触碰他圆润的脸颊和发顶时,触感好得令人上瘾,而本人也毫无戒备地接纳着这些抚摸。望着这般情态,凯撒饶有兴味地眯起了眼睛。

「……なるほどな、これがギャップってやつか」   "……原来如此,这就是所谓的反差萌啊"
「ん? どうかした?」  "嗯?怎么了?"
「なんでもねえよ」  "没什么"
 先日世一から聞いた単語を思い出しながら、カイザーはそう呟く。すると、そんなカイザーの様子をボーッと眺めていた世一が、試合分析を一旦止めて、ゆっくりとした調子で問いかけた。
凯撒一边回忆着前几天从世一那里听来的词汇,一边这样低语。见状,原本正发呆望着凯撒的世一暂停了比赛分析,用慢悠悠的语调问道:

「なあ、カイザー。お前、本命と上手くいってる?」  "我说凯撒,你和本命处得还好吗?"
「あ? なんでそんなこと聞くんだ?」  “啊?你干嘛突然问这个?”
「いや、さ……俺てっきり遠距離だからそんな影も形も見せないのかと思ってたんだけど、遠距離じゃないんだろ?」
“不是,那个……我还以为因为是异地恋所以连人影都见不着呢,原来不是异地啊?”

「そうだな」  “确实不是”
「だったらさ、オフのたびに前日から俺の家に入り浸ってたら、本命のこと誘えないだろ? 二週間前からお前の本命は誰なんだっていまだに騒ぎになってるし」
“那你每次线下活动前都赖在我家不走,正主还怎么约你啊?从两周前开始大伙就都在猜你正主到底是谁了”

「別に、俺はそれで構わねえよ。今の関係でクソ満足してるしな」
"无所谓,我这样就挺好。现在的关系已经让我超级满足了"

「俺が構うんだって!」  "可我在乎啊!"
 食い気味にそう言って眉を釣り上げる世一に、カイザーは逆に困ったように眉を下げながら、彼と視線を合わせる。
面对突然凑近瞪圆眼睛的世一,凯撒反而困扰地垂下眉梢,与他四目相对。

「カイザーって本当に顔いいし、マウント癖さえ押さえてられたら、多分すぐ靡いてくれると思うんだよな」
"凯撒那张脸确实无可挑剔,要是能改掉爱压人一头的毛病,估计立刻就能让人神魂颠倒吧"

「……」
「お前のこと、嫌いだったけど、今は情っていうのかな、幸せになって欲しいなって気持ち、結構あって」
「虽然曾经讨厌过你,但现在或许该说是怜悯吧,我居然挺希望你能够幸福」

「世一……」
「俺一応、お前のこと応援してんだよ」  「我姑且还是在为你加油的」

 だから、今の関係で満足なんてしないで、頑張ってアプローチしよう。そもそもぬるま湯に浸かってる環境を「満足」なんてお前が使っていいような言葉じゃないだろ。
所以别满足于现在的关系,给我好好展开攻势啊。泡在温水环境里说什么"满足",这种词你也配用?

 奮い立たせるようにそう言い放った世一に、カイザーは作り物めいたガラスのような美しい瞳を大きく見開いた。
 听到世一这番激励的话语,凯撒那双如人造玻璃般美丽的瞳孔骤然放大。

 そして、数秒ほど固まったのちに、ゆっくりと指先を世一の頬をつつくように触れると、そっと声を紡ぎ始める。
 僵住数秒后,他缓缓用指尖轻戳世一的脸颊,开始低声细语。

「……アプローチしてもクソ気付かれねえ」  「……就算展开攻势也完全不被当回事啊」
「え?」  “啊?”
「日本人ってのはどいつもこいつもクソ鈍感なのか?」
“你们日本人个个都这么迟钝吗?”

「いや、そういうわけじゃないけど……俺は結構人の感情の機微には気付く方だし」
“不、不是这样的……我对他人情绪的微妙变化还是挺敏感的”

「…………」  “…………”
「なんだよその目!!」  "你那是什么眼神啊!!"
「自己分析がここまでクソ出来てないやつを見るのは初めてだ」
"我还是第一次见到自我认知这么差劲的家伙"

「はぁ!?」  "哈!?"
 何言ってんだお前、そう言いたい気持ちを抑え込みながら、世一はカイザーのジトッとした視線に居た堪れなくなって視線を逸らす。
世一强忍着想回怼"你胡说什么"的冲动,在凯撒充满鄙夷的注视下如坐针毡,最终别开了视线。

 アプローチした上で気付かれていなかったのか。その可能性はまるで考えてもいなかった。
难道主动接近却没被发现吗?这种可能性我压根没考虑过。

 そう思いながら、世一はふと、気になった言葉をカイザーに向けて問いかける。
怀着这样的想法,世一突然对凯撒提起他在意的那句话。

「なあ、相手はドイツのどこに住んでるんだ?」  "喂,对方住在德国哪里?"
「ミュンヘンだ。俺を追ってきた、と思っている」  "慕尼黑。他以为是自己追着我来的"
「ガチで近いとこに住んでるじゃん! っていうか日本からミュンヘンに追ってきたって……それほとんどプロポーズじゃね?」
"居然真的住得这么近!该不会是从日本追到慕尼黑来的吧……这跟求婚有什么区别?"

「まあな」  "差不多吧"
 どこまでが本当のことなのかは分からないが、しかし、思っていた以上に近しいところに住んでいることが分かり、余計に世一は今までのカイザーの行動に疑問を覚えた。
虽然不知道这番话有几分可信,但发现对方住得比想象中近得多后,世一越发对凯撒此前的种种行为感到困惑。

「ちゃんと会ってんの? オフは俺と会ってばっかじゃん?」
"你们真有好好见面吗?线下时间不都用来见我了?"

「毎日会ってる」  "天天见面"
「毎日?」  "天天?"
 そんな時間がどこにあるのだろうかと思ったが、今カイザーが世一の家にくるのはオフの前日からオフにかけてだ。つまり、それ以外の日は世一も練習が終わって別れてしまえば知らない。
虽然心里想着哪有这么多时间见面,但如今凯撒来世一家都是从休息日前一天待到休息日结束。也就是说,其他日子里世一训练完就分开,根本不知道对方行踪。

 ならば、練習終わりはいつも相手の家に行っていてもおかしくはなかった。だがしかし、オフのような丸一日遊べる日にこそ、デートをすべきなのではないだろうか。
既然如此,训练结束后经常去对方家里也不足为奇。但问题在于,明明应该趁着休息日这样能玩一整天的日子约会才对吧。

 ましてや、カイザーを追って日本からミュンヘンに来てくれるような子なのだから。
更何况,这可是个会为了追着凯撒从日本跑到慕尼黑来的孩子啊。

 しかし、ブルーロックで世一はカイザーに対してサッカーで負かすことしか考えられなかったと言うのに、そんな時にもカイザーは外で知らぬ間に運命の人と出逢ってアプローチしていたのだと思うと、なんだか腹の底から怒りが込み上げてくる。
然而在蓝色监狱时,世一只想着要在足球上击败凯撒,可那家伙居然趁人不备在外面邂逅了命中注定之人还主动出击——想到这里,无名怒火就从心底窜上来。

「クソ! 本当に嫌味なやつだなお前……」  "混蛋!你这家伙真是让人火大......"
「なんだ? 拗ねてるのか? 世一」  "怎么?闹别扭了?世一"
「拗ねてねえよ! 俺がブルーロックで人生変えるために必死だった中で、お前は外で遊んでミュンヘンにまでついてきてくれるような人と出逢ってたってのがムカつくだけで!」
“谁闹别扭了!我只是不爽自己在蓝色监狱拼命改变人生的时候,你小子居然在外面逍遥快活,还遇到愿意一路追到慕尼黑的人!”

「あ? 別に外でとは一言も言ってねえだろ」  “啊?我可从来没说过是在外面遇到的吧”
「は?」  “哈?”
 どういうことだ、そう問いかけようとして、世一はハッと思い出す。
正想问这是什么意思,洁突然反应过来。

 確かに、カイザーは今まで一度も「ブルーロックの合間に外に行って出逢った」だなんて一言も言っていなかった。彼が言っていたのは「ブルーロックで来日していた時に出逢った」という情報だけだ。
确实,凯撒从未说过"在蓝色监狱间隙外出时相遇"这种话。他透露的唯一信息是"在蓝色监狱来日期间相遇的"。

 だが、どうして世一が今までそう思い込んでいたのか。それは、簡単な話だ。
但为什么世一至今都深信不疑呢?原因很简单。

 つまり、ブルーロックには女性がほとんどいないからである。
因为蓝色监狱里几乎没有女性。

 だが、カイザーの性的嗜好なんて今まで一度も聞いたことはなかったし、勝手に熱愛報道が全て女性だったから女性だと思い込んでいただけで、そうとは限らなかったのだ。
但凯撒的性取向至今无人知晓,只是那些擅自报道的绯闻对象全是女性,才让人先入为主地认定他喜欢女性——事实未必如此。

「一応聞くけど、帝襟さん、ではないよな?」  "姑且问一句,不是帝襟同学吧?"
「んなわけねえだろうが」  "怎么可能啊"
「だよなぁ……えぇ……じゃあ、もしかして……」  "也是呢……呃……那该不会是……"

 ──お前の好きな人って男性?  ──你喜欢的人是男性?

 核心につくような言葉に、少しだけ二人の間に緊張が走る。そして、そんな緊張を裂くように、カイザーがゆっくりと口を開いた。
直击心底的话语让两人之间掠过一丝紧张。仿佛要划破这份紧张般,凯撒缓缓开口道。

「……そうだ」  "……是啊"

 その言葉に、世一はようやく今になって、カイザーの抱えていたものを知った。それは確かに、今の関係のままでいいと、言いたくなってしまうかもしれない。
听到这句话,世一终于在此刻明白了凯撒一直以来的顾虑。那确实会让人忍不住想说,保持现在这样的关系就好。

「なるほどなぁ……確かに、日本では同性同士だといまだに結婚出来ないし、お前も慎重になるよなぁ……」
"原来如此……确实在日本同性之间至今还不能结婚,你会这么谨慎也是理所当然……"

「……引かないのか?」  “……你不觉得反感吗?”
「え? なんで?」  “诶?为什么?”
「日本人は、同性同士だと気持ち悪いと思うやつが多いと聞いた」
“我听说很多日本人会觉得同性之间这样很恶心”

「普通に同性を好きになること自体を気持ち悪いとは思わないよ。それに、ブルーロックで知り合った同性ってことは相手もサッカーやるんだろ? 一緒に暮らしてたらサッカーの話たくさんできるし、ロードワークも一緒に行けるし、楽しそうじゃね?」
“我完全不觉得喜欢同性本身有什么恶心的。况且在蓝色监狱认识的话,对方也是踢足球的吧?要是同居的话就能聊很多足球话题,还能一起路跑训练,不是挺开心的吗?”

 あっけらかんとした調子でそう言う世一に対して、カイザーは先ほどまでのどこか怒られることを、拒絶されることを怯えている子供のような表情から一転して、安心したように頬を緩ませた。
面对世一那副满不在乎的语气,凯撒方才那副像是害怕被责备、害怕被拒绝的孩子般表情突然转变,如释重负地舒展了眉头。

 その顔が、なぜだかたまらなく世一の胸を高鳴らせる。
不知为何,那张脸让世一的心跳不受控制地加速。

「……世一。決めた」  "……世一。我决定了"
「なにを?」  "决定什么?"
「とりあえず、向こうに合わせて、日本式で告白とやらをしてやることにする。ここまで俺のアプローチにクソ気付かれないとなると、それ以外方法はない」
"总之,就按那边的规矩来,用日本人的方式搞什么告白好了。既然我之前的攻势完全没被察觉,那也没别的办法了"

「おっ、まじで!? 俺もそれが良いと思ってた!」  "哦,真的吗!?我也觉得这样最合适!"

 次のオフの日の前日に、そいつを食事に誘う。その時に薔薇の花束を渡す。
在下次休假的前一天,约那家伙出来吃饭。到时候送上一束玫瑰花。

 そう宣言したカイザーに対して、薔薇の花束はキザったらしいからやめとけと笑いながら、世一はカイザーの背中をポンポンと叩いた。
面对如此宣言的凯撒,世一笑嘻嘻地拍着他的后背说"送玫瑰花太老土了还是算了吧",还砰砰地轻捶了几下他的背。

 すると、そんな世一の身体に覆い被さるように、カイザーは彼の肩口に顎を置くと、そのままその身体をそっと抱きしめてくる。添い寝までした仲である以上、今更この程度の距離の近さでは驚かないが、やはりそれでもこの距離の近さは慣れない。
于是,凯撒将下巴抵在世一的肩头,整个人覆压上来,轻轻环抱住他的身躯。既然连同床共枕都经历过了,这种程度的亲密距离本不该让人惊讶,但如此贴近的接触仍令他心跳加速。

 世一がカイザーの背中にそっと手を回すと、そのすりすりとした摩擦の感触に彼は安心したように、少しだけ抱きしめる力を弱めた。
当世一的手悄悄环上凯撒后背时,对方似乎从肌肤相贴的摩挲中获得了安全感,环抱的力道略微放松了些。

 きっと、初めて好きになった相手に対する初めての告白で不安なのだろう。世一もきっと、同じ立場なら不安になると思う。
这想必是向初恋对象首次告白时特有的忐忑吧。世一想,若立场对调,自己肯定也会坐立不安。

 この告白が成功してしまったら、このカイザーの甘えたを享受するのも、これが最後になるかもしれない。
倘若这次告白成功,今后或许再没机会纵容凯撒这般撒娇了。

 そう思うと、ほんの少しだけ寂しさを覚えた。  想到这里,不由得感到一丝寂寞。



「うーん、やっぱりいないよなぁ……」  "嗯...果然还是不在啊......"
「どうかしたんですか、クソ世一」  "怎么了,狗屎世界第一?"
「うわっ、なんだよネスかよ! 急に話しかけんなって!」
"哇靠!原来是你啊尼斯!别突然跟我搭话啊!"

 突然背後から聞こえてきた声に、世一はビクンと大きく反応をする。
背后突然传来的声音让世一猛地打了个激灵。

 しかし、そんな世一の驚いた反応などどうでもいいとばかりに、ネスは世一の観ていたスマホ画面を覗き込んでくる。
 但尼斯根本不在乎世一惊吓的反应,径直凑过来窥视他手机屏幕上的内容。

「なんで1870ミュンヘンのメンバーを調べてるんですか? 別にミュンヘンダービーがあるわけでもないでしょう?」
"你为什么要查 1870 慕尼黑的队员名单?最近又没有慕尼黑德比。"

「いや、ミュンヘンにあるクラブって言ったら俺たちと1870ミュンヘンだろ?」
"不是,说到慕尼黑的俱乐部不就只有我们和 1870 慕尼黑吗?"

「そうですね」  “这样啊”
「カイザーの本命がさ、俺てっきり日本人って聞いたから日本に住んでるのかと思い込んでたんだけど、どうやらミュンヘンに住んでるらしいんだよ。そんで、多分向こうもサッカーやってるみたいで」
“听说凯撒的真命天子是日本人,我还以为他住在日本呢,结果好像住在慕尼黑。而且,估计那边也在踢足球吧。”

「…………」  “…………”
「でもここには俺しか日本人いねえし、そうなるとこっちのチームかと思ったけど、そっちにも日本人はいねえだろ? だから、本当に誰なんだろうって……」
“但这里只有我一个日本人,所以我还以为是咱们队的,可你们队也没有日本人吧?所以到底会是谁呢……”

 世一の言葉に、ネスは「そういえば今日ですもんね」と、小さく呟いた。
听到世一的话,涅斯小声嘀咕道:"说起来就是今天呢。"

「あ、お前もカイザーから聞いてんの?」  "啊,你也从凯撒那里听说了?"
「当然です。ところで世一、最近SNSとかは見てます?」
"当然。话说世一,最近有看社交媒体吗?"

「ん? あー……この間のカイザーとの件があって、あんま見ないようにしてたんだよなぁ。なんかああいうのって、メンタルやられるから本人はあんまり見ない方がいいって言うじゃん?」
"嗯?啊...因为之前和凯撒那件事,最近都不太看了。那种东西不是都说看了会影响心态,当事人最好少看吗?" %%

「そうですね。正しい選択です。そのまま今日が終わるまで見ないように」
"说得对。这是正确的选择。今天就当作没看见吧。"

 何故ネスにそんな指図をされなければならないのかは分からなかったが、まあ元々見る気はないので一旦頷いておいた。
虽然不明白为什么非要听从涅斯的指示,不过反正本来也没打算看,就先点头应下了。

 そして、話を元に戻すように、世一は再びカイザーの本命がどこにいるのか問題に思考を巡らせる。
为了把话题拉回正轨,世一再次开始思考凯撒的真命天子究竟身在何处的问题。

「バスタードにも1870ミュンヘンにもいないとなると、やっぱ別チームなのか?」
"既然既不在巴斯塔德也不在 1870 慕尼黑,果然是其他队伍的人吗?"

「えっ……」  "诶……"
 もしかしてカイザーと会いやすいようにミュンヘンに住んではいるけど、所属チームは別の街で、わざわざミュンヘンから通っているのだろうか。そんな考えに思い至る。
虽然为了能更容易见到凯撒而住在慕尼黑,但所属球队在另一个城市,该不会特意从慕尼黑通勤吧?想到这里。

「うーん、ここから割と近めの距離で日本人がいるとなるとシュトゥットガルトとか? いや、高速使わないと片道車で四時間かかんのかよ! これは無理だわ……」
"嗯~要说离这里比较近又有日本人的地方,难道是斯图加特?不对,不开高速的话单程开车要四小时啊!这根本不可能嘛……"

「よ、世一」  "喂,世一"
「もういっそ国境跨いでオーストリアまで行ってザルツブルクの方がまだ可能性ある? ザルツブルク、ブルーロックの誰かいたっけ?」
"干脆直接跨国境去奥地利,到萨尔茨堡说不定还有希望?萨尔茨堡,蓝色监狱里有谁在那儿来着?"

「クソ世一!!!」  "该死的世界第一!!!"
「うわっ、なんだ? 大声出して……」  "哇,怎么了?突然大喊大叫的......"
「カイザーの本命は、オーストリアにはいません」  "凯撒的真命天子,并不在奥地利"
「あっまじで? じゃあシュトゥットガルトに……」  "真的假的?那斯图加特那边……"
「シュトゥットガルトにもいません」  "斯图加特也没有"
「えー、まじかよ。もしかして飛行機通勤的な……」  "诶——不会吧。该不会是坐飞机通勤那种……"
「そんなわけないでしょう? ミュンヘンで生きて、ミュンヘンでプレイしてます」
"怎么可能啊?在慕尼黑生活,就在慕尼黑打球"

「…………まじ?」  "……真的假的?"
 この言い方からして、ネスはカイザーの本命が誰なのか、分かってるのだろう。しかし、どうやら世一に全てを教えるつもりはないようで、名前は決して上げたりしない。
从这种说法来看,涅斯应该已经明白皇帝的真命天子是谁了。但他似乎不打算向世一透露全部,始终不肯说出那个名字。

 ここまでヒントを出したなら教えてくれても良い気がするのだが。
明明都给出这么多提示了,说出来也无妨吧。

 そんな気持ちと共に、世一はブスッとした表情で再び問いかける。
怀着这样的心情,世一板着脸再次追问。

「日本人で、ミュンヘンでサッカーしてて、ブルーロックで出逢った相手だろ? そんなの……」
"你是个日本人,在慕尼黑踢足球,在蓝色监狱遇到的对手对吧?那种人……"

「そんなの?」  "那种人?"
「条件に合うやつ、いなくね??」  "符合条件的人,根本不存在吧??"
「……本当にあなたはクソ世一ですね」  "……你真是个该死的世界第一啊"
「あっ、もしかして他のアジア出身のやつを日本人と勘違いしてるとか? こっちの人にとってはみんな似たように見えるだろ? あっ、でもそれだとブルーロックで出逢ったというのが合わねえな。やっぱりシュトゥットガルトから片道四時間かけて……」
“啊,该不会是把其他亚洲人错认成日本人了吧?在你们眼里我们长得都差不多对吧?啊,不过这样的话就和‘在蓝色监狱相遇’对不上号了...果然还是该从斯图加特单程四小时...”

「もう良い加減シュトゥットガルトから離れなさい!!」
“快给我从斯图加特这个设定里毕业!!”

 まるで答えに辿りつかない世一に対して、ネスは呆れを通り越したとでも言いたいかのような表情で、大きく肩を下げる。
面对始终找不到答案的世界第一,内斯露出近乎绝望的表情,重重地垂下肩膀。

 そして、なぜだか少しだけ、いつもよりも柔らかい口調で、世一に向けて語りかけた。
接着不知为何,他用比平时稍显温柔的语气对世界第一说道。

「いいですか、世一。僕も詳しく事情を知るわけではありませんが、カイザーはああ見えてかなり臆病です。こと愛情というものにおいては、特に」
"听好了,世一。虽然我也不清楚具体缘由,但凯撒那家伙看似强势,其实在感情方面特别胆小。"

「まあ、それはなんとなく、俺もそう思ってた」  "嗯...这个嘛,我隐约也有这种感觉"
「だから、貴方がカイザーの想い人についてどんな風に感じたとしても、その感情を、否定だけはしないでください。間違いなのだとか、気持ち悪いものだとか、絶対に言わないでください」
"所以无论你对凯撒的恋慕之情作何感想,请不要否定这份感情。千万不要说这是错误的、或是令人作呕之类的话"

「……」  "……"
「お願いします」  “拜托了”
「……分かった。そもそも、俺もカイザーの恋は応援してるし、そんなことは言わねえよ」
“……知道了。本来我也支持凯撒的恋情,不会说那种话的”

 ネスがなぜこのような言葉を世一に向けたのかは分からない。しかし、世一もまた、カイザーから散々恋愛相談を受けてきた身なのだから、本当に応援しているのだ。
虽然不明白内斯为何要对世一说这样的话。但世一毕竟也经常被凯撒拉着商量恋爱问题,确实是真心支持他的。

 確かに、カイザーが本命とやらとくっついてしまったら、今までのように世一とばかり共に過ごすことはできなくなるのかもしれない。それはかなり寂しいと思うくらいには、ここ数年間、世一はカイザーと共に時間を過ごしすぎた。
确实,如果凯撒和所谓的真命天子在一起了,或许就不能像现在这样总和世一待在一块了。想到这点就相当寂寞——毕竟这几年里,世一和凯撒共度了太多时光。

 だが、それでも、あのカイザーが本命の話をする時にたまに見せる、まるで拒絶されることを恐れた子供のような表情が、少しでも無くなるのならば、それはきっと良い変化のはずなのだ。
但即便如此,若是能让那位皇帝在谈论正事时偶尔流露的、宛如害怕被拒绝的孩子般的神情能稍稍消散,这想必会是好的转变吧。

 そう自分に言い聞かせると、世一はそっとロッカーの扉を閉めて、その場を後にした。
  这样说服着自己,世一轻轻关上储物柜的门,离开了现场。



「ふぅ、今日は多分、食事は一人分だし、あんまり作りすぎるのもよくないよなぁ……やっぱ何か食べて帰ろうかな」
  "呼...今天大概只用准备一人份的餐食,做太多也不太好呢...果然还是在外面吃完再回去吧"

 独り言のように世一はそう呟き、スマホを見ながら、まだ普通に明るい道を歩いていた。なんとなく、今日は気分が乗らなかったため、自主練を早めに切り上げて帰途についていたのである。
  世一如同自言自语般呢喃着,一边看着手机,走在依然明亮的街道上。由于今天莫名提不起干劲,他提前结束了自主训练踏上归途。

 というのも、いつもならオフの前日はカイザーと共に遅くまで練習をして、シャワーを浴びたのちにカイザーをご飯に誘い、外食だったり世一の家だったりでご飯を食べるという過程を踏んでいるのだが、いかんせん今日はカイザーにとって「決戦の日」なのだ。
因为按照惯例,比赛前日总是会和凯撒一起训练到很晚,冲完澡后邀请凯撒吃饭,要么下馆子要么去世一家解决晚餐——但今天对凯撒而言毕竟是"决战之日"。

 あのままあそこにいたら、ソワソワしてしまった自信があるし、何よりも、あのカイザーが誰かを誘う瞬間は、何故だかそんなに見たくなかった。それどころか──。
要是继续待在那里,他确信自己会坐立难安。更重要的是,不知为何就是不想亲眼目睹那个凯撒主动邀请谁的瞬间。岂止如此——

「カイザーの俺しか知らない一面を、他の誰かが知るのは、なんか嫌だな……」
"想到凯撒不为人知的那一面会被其他人发现...总觉得很不爽啊..."

 きっと、カイザーがあんなにも誰かに甘えてくるタイプだなんて、ほとんどの人は知らないだろう。それに、意外に心を許したらスキンシップも多くなるし、距離が近くなる。そんな一面を、世一以外が知るのは、どうしてもモヤモヤした。
肯定没几个人知道凯撒其实是那种会向人撒娇的类型吧。而且意外地,当他敞开心扉后肢体接触就会变多,距离也会拉近。想到除自己以外的人见识到这一面,胸口就莫名发闷。

 そんなわけが分からない感情がどうしても理解できなくて、雑念を晴らす意味も込めてのんびり歩いていると、どこからか聞こえてきた「あの……」という低めの声に、世一は振り返る。
这种难以名状的情绪实在无法理解,为了驱散杂念正悠闲踱步时,身后突然传来"那个……"的低沉声音,世一闻声回头。

 するとそこには、世一よりも十センチほど背丈の高い、体格の良い男が立っていた。
 只见身后站着个比世一身高还高出十公分左右、体格健硕的男人。

「イサギ選手、ですよね?」  "是伊佐木选手对吧?"
「えっと、そうですけど……」  "呃,是的......"
「やっぱり! 自分、イサギ選手の大ファンで……サインしてくれませんか?」
"果然!我是伊佐木选手的超级粉丝……能给我签个名吗?"

 そう言って彼は世一に手帳を渡してくる。最近はあまり子供以外のサインは受け入れないように言われていたのだが、しかしかなり強引に押し付けてくるその姿に世一は押されるように手帳を受け取った。
说着他便将记事本递给世一。虽然最近被告知尽量不要给非儿童粉丝签名,但面对对方近乎强塞的架势,世一还是被动地接过了记事本。

 そして、ボールペンでそのページにペン先をつけようとしたその瞬間だった。
就在他准备用圆珠笔尖触碰纸页的瞬间。

 視界の端で何かが揺れた気がした。  余光里似乎有什么东西晃动了一下。



「もう本当に! あれほどファンとの交流には気をつけてくださいと言いましたよね!?」
"真是的!我都说过多少次了要注意和粉丝保持距离了吧!?"

「う……ごめんなさい」  "呜...对不起"
「全く! 電話もらってからここに来るまで本当に、どれだけ血の気が引いたことか!」
"真是的!从接到电话到赶来这里这段时间,我吓得脸都白了!"

「すみません……」  "真的很抱歉......"
「罰として今後は送迎係もつけます」  "作为惩罚,今后会给你配备接送专员"
「えぇ……それは流石に……徒歩三分の距離ですし、ちょっと大袈裟すぎないですか?」
"诶……这未免太……步行只要三分钟的路程,是不是有点太夸张了?"

「い、い、で、す、ね??」  "这、样、不、行、吗??"

 ドイツに来てからずっと世一の契約やらメディアやらの対応をしてくれていたマネージャーの、般若のように怒った顔に、世一は尻込みしながら小さく「はい」と頷いた。
面对自从来德国后就一直帮他处理与世一契约和媒体对接的经纪人那张般若般愤怒的脸,世一缩着脖子小声应了句"好的"。

 本来ならば今日はカイザーとの約束をしていないから早めに家に帰って、一人分の食事を楽しむ予定だったというのに、大きく予定が狂ってしまった。
本来今天和凯撒没有约定,我计划早点回家享受一人份的晚餐,结果计划完全被打乱了。

 何が起こったのか、それは──。  究竟发生了什么,事情是这样的——

 先ほど、世一のファンを自称する男にサインをねだられた際に、渡された手帳とペンに目を向けている間に突然殴られたのだ。
刚才有个自称是世界第一粉丝的男人来要签名,就在我低头看他递来的笔记本和钢笔时,突然挨了一拳。

 もっとも、視界の端で何かが揺れ動くのを感じて、咄嗟に拳の方向に飛んだため、それほど大きな怪我にはなっていなかったが。
不过好在眼角余光察觉到有东西晃动,我条件反射地朝拳头袭来的方向闪避,所以伤势并不算严重。

 だが、それでも殺しきれなかった突然の衝撃にぐわんぐわんと頭を揺らし、踏ん張りが効かずに思わずその場に倒れ込んでしまった瞬間、男は世一を俵のように抱え上げると、そのまま走り始めた。一体どこに連れて行く気だ、そう思いながら男の背中を叩くも、体勢が悪くて力が入らない。するとそのまま車に連れ込まれて、車の中で待機していたもう二人の男たちに手足を縛られ、そのまま発進してしまったのだ。彼を「潔世一」と知った上での行動である以上、これは行き過ぎたファンによる犯行か、身代金目的かのどちらかだろう。世一は他の選手たちよりも小柄だから誘拐もしやすいと判断されたのかもしれないが、状況は分からない。
然而,在那股未能完全消解的剧烈冲击下,他只觉得天旋地转,双腿发软不由自主栽倒在地的瞬间——男人竟像扛米袋般将世一拦腰抱起,拔腿就跑。究竟要把我带去哪里?世一虽拼命捶打对方后背,却因姿势别扭使不上力。转眼间他就被塞进车里,被车内待命的另外两名男子捆住手脚,车辆随即扬长而去。既然对方明确知晓"洁世一"的身份,这要么是狂热粉丝的过激行为,要么就是绑架勒索。或许是因为世一比其他选手体格娇小更容易得手,但真相尚不得而知。

 だが、世一とて身体を鍛えているアスリートだ。    但世一毕竟是经受过专业训练的运动员。
 あのまま大人しく誘拐されてやるつもりなど毛頭なく、車がカーブで減速する瞬間、後部座席に乗っていた他の男たちの頭を縛られた足で力一杯に蹴ったのちに、思い切って車の扉を開けて中から飛び降りたのだ。
  他岂会乖乖任人摆布?趁着车辆转弯减速的刹那,被捆住双脚的他用尽全力踹向后方两名绑匪的脑袋,随即果断拉开车门纵身跃出。

 幸い、着地もうまく行き、全身を軽く擦りむく程度で終わったため、それほど大きな怪我をすることもなく、人通りもそこそこ多かったために何人かがすぐに駆けつけてくれたおかげで、再び誘拐犯たちに連れ戻されることもなく保護された。
  所幸落地姿势得当,仅造成全身轻微擦伤。由于事发地点行人较多,立刻有群众赶来相助,使他免于再度落入绑匪之手,最终安全获救。

 そこからは世一がとりあえず警察とマネージャーに連絡をして、病院に連れて行かれ、精密検査をして、取り調べを受けてと、中々に大忙しだった。なお、誘拐犯たちは世一が飛び降りた際に車の写真を周囲の人々が撮ってくれていたらしく、すぐに特定出来るだろうとのことだった。
从那时起,世一先是联系了警察和经纪人,接着被送往医院做精密检查,又接受了审讯调查,简直忙得不可开交。据说绑架犯们因为世一跳车时被路人拍下了车辆照片,应该很快就能锁定身份。

 そしてようやく解放される頃には、すっかり空は暗くなっていたのである。
等到终于能离开时,天色已经完全暗了下来。

「はぁ、ついてねぇ……」  "哈啊...真是倒霉透了......"
「監督たちには一応連絡して、怪我が治るまでは大事を取って休むようにとのことです。また取り調べに呼ばれた際には私たちが送迎に行くので、誘拐犯が捕まるまでは絶対に一人で家を出ないでくださいね?」
"已经和教练组报备过了,他们嘱咐您养伤期间务必好好休息。另外如果后续需要配合调查,我们会负责接送,在绑匪落网前请绝对不要单独出门好吗?"

「はーい」  “好——”
 父と子くらいには歳の差のある二人のため、どうしても子供扱いされてる気分になるが、マネージャーも世一のことを心配してくれているのだろう。それが分かるだけに、世一は大人しく頷いた。
由于两人年龄差距堪比父子,世一总觉得自己被当成小孩对待。但想到经纪人也是出于关心,世一便乖乖点头应下。

 まあ、家にもランニングマシンやら筋トレ用の設備は整えてあるから、一日二日程度なら家から出なくても問題ないだろう。
反正家里跑步机健身器材一应俱全,一两天不出门应该没问题。

「……あっ、ご飯は!?」  “……啊!那吃饭怎么办!?”
「我々が買ってきますので言ってください。ウーバーもダメですよ? もう私たちやチームメイトのような顔見知り以外の相手からのインターホンは絶対に開けないでください!」
“您想要什么我们去买就行。连 Uber 也不行哦?记住绝对不要给任何陌生人开门,除了我们队员这些熟面孔!”

「それは流石に過保護すぎるんじゃ……」  “这保护过度了吧……”
「い、い、で、す、ね??」  “有、有、问、题、吗??”
 先ほどと全く同じ言葉と圧力に、世一は屈するように「はい……」と再び頷いた。
面对与方才完全相同的台词和压迫感,世一屈服般再次点头应道:“好……”

 やがて、マネージャーの車が世一の家の前に着くと、念を押すように「くれぐれも気をつけろ」と言われ、遅い時間まで付き添ってくれた彼に大きく感謝の意を述べたのちに、その後ろ姿を見送った。
终于,经纪人的车抵达世一家门口时,对方又叮嘱道"千万要小心",世一向这位陪自己到深夜的经纪人深深道谢后,目送着他的背影离去。

 本当に、日本にいた時もドイツに来てからも流石に初めての体験に、世一は長い一日だったとベッドに腰掛けて、そのまま寝転がった。
  无论是在日本还是来到德国后,这确实都是头一遭的体验,世一坐在床边感叹着"真是漫长的一天",随即仰面躺倒在床上。

 やがて、天井を見ている間に、ふと、カイザーのことが気になってスマホをポケットから取り出す。
  望着天花板发呆时,他突然想起凯撒的事,便从口袋里掏出手机。

(カイザーのやつ、上手くいったのか?)  (凯撒那家伙...事情办得顺利吗?)
 マネージャーを呼んでからずっと確認していなかったが、どうやら知らぬ間に充電が切れてしまっていたらしい。真っ暗な画面を明るくすべく、充電コードを差し込む。
自从叫来经理后就一直没确认过手机,看来不知何时已经没电了。为了点亮漆黑的屏幕,我插上了充电线。

 上手くいってもいかなくても、別に連絡は来ない可能性の方が高いのだが、もしも万が一何かが起こってカイザーが振られて慰めてほしいと言ってきていたら、それを無視するわけにはいかない。
无论顺利与否,大概率都不会有联络。但倘若万一发生什么状况,要是凯撒被甩了跑来求安慰的话,我总不能置之不理。

 そんな気持ちでスマホの充電を入れたその瞬間だった。
就在怀着这种心情给手机充电的瞬间。

 ものすごい量の通知が来ていて「何事!?」と思わず声が漏れる。
铺天盖地的通知涌来,我不禁失声惊呼:"什么情况!?"

 よく見ると、そのほとんどがカイザーからのもので、ちらほらとネスやゲスナーから「どこにいる?」といった内容のものも混ざってた。
仔细一看,大部分消息都来自凯撒,偶尔夹杂着内斯和格策发来的"你在哪?"之类的内容。

 日本では馴染みのないメッセージアプリを開き、カイザーからのかなりのメッセージ量に驚きながらそっとメッセージを確認する。すると、最初の方は「なんで先に帰った?」というメッセージから始まり、次第に「今どこにいる?」「家にも帰ってないだろ?」「見たらすぐに連絡しろ」「大丈夫か? 何かあったのか?」といった、世一を心配するようなメッセージの数々が送られていた。そして、メッセージを確認している間に、今度は再びカイザーから通話がかかってきて、世一は慌てた様子で通話ボタンを押した。
他打开这个在日本并不常见的通讯软件,惊讶于凯撒发来的大量消息,悄悄开始查看。最初只是"为什么先走了?"这样的质问,随后逐渐变成"现在在哪?""你根本没回家吧?""看到立刻联系我""没事吧?发生什么了?"等充满担忧的讯息。就在他查看消息时,凯撒的来电提示再次亮起,洁手忙脚乱地按下接听键。

 これだけ心配かけてしまっていたという事実に、どんな風に出ればいいのかが分からなくなる。それでも恐る恐ると言った様子でゆっくりと世一はスマホの奥にいるその人へ向けて喋りかけた。
意识到自己让对方如此担心,洁一时不知该如何开口。最终他还是战战兢兢地,对着手机那端的人缓慢发出声音。

「は、はろー……」  "哈、哈啰......"
『おい、クソ世一、今どこにいやがる』  喂,该死的世界第一,你现在在哪儿?
 世一の声に、いつも以上に不機嫌そうな声のカイザーが、怒りを隠すことない声色でそう尋ねてくる。
凯撒用比平时更加不悦的声音毫不掩饰怒意地质问道。

 その声に、世一は流石にビクビクしながら、今自分の置かれていた状況を軽く濁しつつ簡潔に説明し始めた。
听到这声音,世界第一也不由得战战兢兢起来,一边含糊其辞地描述着自己当前的处境,一边开始简洁地解释。

「えっと……ちょっと厄介なことがあって、たった今家に帰ってきたところで……」
"那个……遇到点麻烦事,刚刚才回到家……"

『あ゛ぁ?』  『啊?』
「ちょっと事件に巻き込まれちゃってさ……それで、さっきまでマネージャーと一緒にいたんだよ。で、今帰ってきた」
「就是被卷进了一点小麻烦……所以刚才一直和经理在一起。现在刚回来」

『っ……』  『……』
 まあ、もう問題ないから大丈夫、そう言って世一は明るい声色で説明する世一とは対照的に、カイザーは何故だか黙り込んだ。その沈黙が少し耐えられなくて、世一は「あー、そういえばお前告白はどうなったんだ?」と切り出そうとした。しかし、そんな世一の声を遮るように、カイザーは震える声で、ゆっくりと世一に問いかけてきた。
 世一用明快的声线说着"嘛,反正已经没事了",与之形成鲜明对比的是,凯撒不知为何陷入了沉默。这沉默让世一有些难以忍受,正想开口问"啊对了,你那告白后来怎么样了?"。但凯撒用颤抖的声音缓缓发问,打断了世一即将出口的话语。

『どんな、事件だ? 怪我は?』  发生什么案件了?受伤了吗?
「え? あぁ、なんか誘拐? みたいなのされかけてさ」
"诶?啊,好像是遭遇了绑架之类的..."

『……は?』  ...哈?
「まあ逃げる時にちょっと擦りむいたりはしたけど、大きな怪我はないから、すぐに練習にも復帰できると思う!」
"虽然逃跑时稍微擦伤了点,但没受什么大伤,应该很快就能恢复训练啦!"

 だから大丈夫、そう言おうとした時、世一の声に再び重ね合わせるようにカイザーの声が聞こえてきた。
就在他准备说出"所以没关系"时,凯撒的声音再次重叠在世一的声音里传来。

『……世一』  「……世一」
「ん?」  「嗯?」
『今からお前の家に行くから待ってろ』  「我现在就去你家,给我等着」
「は? いや、別に大丈夫だから、もう遅いしいいって!」
"哈?不用了,真的没事,已经很晚了就这样吧!"

『クソ黙れ! 良いから大人しく待ってろ!!』  给老子闭嘴!乖乖等着别废话!!
 荒々しい声と共にプツンと切られる通話に、世一は「なんだったんだあいつ」と呆然としながら、ふと鏡で自分の頬を見た。
随着粗暴的吼声和突然挂断的通话,世一茫然地想着"那家伙怎么回事",下意识瞥见镜中自己的脸颊。

 そこには、明らかに殴られたような痕がある。そしてそれは、カイザーにはあまり見せたくないものだった。
那里赫然残留着疑似殴打的淤痕。而这正是他最不愿让凯撒看见的痕迹。

 実を言うと世一は、なんとなくカイザーの過去を察していた。
说实话,世一隐约察觉到了凯撒的过去。

 きっと、過去のどこかで、誰か身近な大人から暴力を受けて過ごしたのだろうということを。
他猜想,凯撒肯定曾在过去的某个时期,遭受过身边亲近之人的暴力对待。

 何故察したかと言えば、あれだけ言葉遣いも荒い男が、身体的な暴力沙汰にだけは驚くほどに嫌悪を示していたからだ。悪質なファウルや、殴る蹴るといった暴行を心の底から嫌っていて、自身がそれを受ける分にはあまり反応しないのだが、近しいチームメイトの誰かがそういう被害に遭っていた時には、すぐさま憎らしそうな顔で上に報告していた。
之所以会有这种直觉,是因为那个满口粗话的男人,唯独对肢体暴力表现出令人惊讶的厌恶。他发自内心地憎恶恶意犯规和拳打脚踢这类暴行——虽然自己遭遇时反应不大,但每当亲近队友遭受这类伤害时,他总会立刻露出愤恨的表情向上级举报。

 だから、カイザーはきっと、人並み以上に身体的な暴力を憎むような環境にいたのだろうと、なんとなく察していたのだ。
正因如此,世一隐约明白,凯撒必定是在一个比常人更痛恨肢体暴力的环境中成长起来的。

 そして、だからこそ世一はあまりあの男にこういった暴行を受けたような痕を見せたくなかった。
正因如此,世一实在不愿让那个男人看到自己遭受暴行的痕迹。

 暴力を受けて育った人間には暴力という選択肢が生まれてしまう。だが、それでもカイザーは「言葉」以外で相手を傷つける方法を選んだことは無かった。それはつまり、カイザーという男の本質に「優しさ」が存在していることに他ならない。一見するとただのマウントクソ野郎で、世一も何度もあの男には嫌悪の情を催してきた。しかし、これだけ一緒にいる間にそれ以外の面も知り、幸せを願うくらいの情を抱くようにもなった。そんな相手に、あまりトラウマを刺激するような痕を見せたくはなかったのだ。
在暴力中成长的人往往会将暴力视为选项之一。但即便如此,凯撒从未选择过用"言语"以外的方式伤害他人。这恰恰证明名为凯撒的男人本质里存在着"温柔"。表面看来只是个爱逞强的混蛋,世一也曾多次对他产生厌恶之情。然而在朝夕相处中见识到他其他面貌后,竟也萌生了希望他幸福的心情。对这样的对象,实在不愿展示可能刺激创伤的伤痕。

 今からどうにか隠せないものか、そう思いながら部屋を見渡していると、そんな世一の行動など待つつもりはないとばかりにインターホンの音が鳴った。
正盘算着能否设法遮掩时,门铃声已不耐烦地响起,显然不打算给他拖延的时间。

 少しの間出ないでいると、インターホンの音は立て続けになり始めて、世一は諦めたように、仕方ないと着ていた服のフードを深く被ると、玄関に小走りで向かった。玄関先を映すモニターフォンには、ちゃんとカイザーの姿が映されていて、マネージャーに顔見知りなら良いと言われていたのを思い出しながら、そっと玄関の扉を開ける。
稍作迟疑的间隙,门铃已转为急促的连响。世一认命般叹了口气,将卫衣兜帽深深拉低,小跑着穿过走廊。监控屏幕上清晰映出凯撒的身影,想起经纪人说过"熟人看到脸也没关系",他轻轻推开了玄关大门。

 すると、次の瞬間、すぐさま玄関の扉が閉められたかと思うと、男の腕に引かれて、そのまま壁に押さえつけられていた。
就在下一秒,玄关门被猛地关上的瞬间,世一被男人拽着手腕,整个人被按在了墙上。

 いわゆる壁ドンと呼ばれる状況に困惑しながら、世一は自身を見下ろす男の顔をそっと眺める。その顔は、たまに彼が見せてきた、泣くのを堪えている子供のような顔だった。
陷入所谓"壁咚"的窘境中,世一悄悄抬眼望向俯视着自己的男人。那张脸偶尔会露出像强忍哭泣的孩子般的表情。

「カイ、ザー……?」  "凯、扎......?"
「クソ、クソ世一、クソが」  "该死的...该死的世一...混账东西"
「え?」  “啊?”
「メッセージも見ねえ、通話もクソ繋がらねえ、挙句にようやく繋がったと思ったら誘拐されかけただと? お前は、どれだけ俺を苛立たせたら気が済むんだ」
“消息也不看,电话也他妈打不通,好不容易接通了居然说差点被绑架?你小子,到底要把我惹火到什么程度才甘心?”

「し、仕方ねえだろ! 別に俺だって好きで誘拐されそうになったわけじゃねえし!」
“我、我有什么办法!又不是我自己想差点被绑架的!”

 あいかわらずの責めるような言い方に、世一は少しだけホッとした自分がいることに気付く。
面对一如既往的责备语气,世一发现自己竟莫名松了口气。

 しかし、その次の瞬間、カイザーから右頬にそっと手を伸ばされた。そして、気付いた時には深々と被っていたはずのフードを取られ、世一の傷痕を確認するようにするりと指先に触れられる。
然而下一秒,皇帝却轻轻抚上了他的右脸颊。待他反应过来时,原本深深戴着的兜帽已被摘下,修长的手指正滑过世一那道伤痕,仿佛要确认什么似的。

 その感触がくすぐったくて、少し避けたかったが、おそらく今避けたらこの男は拗ねるだろうということは容易に想像できたため、されるがままでいることを決めた。
那触感痒痒的,他本能地想躲开,但转念想到要是此刻闪避,这个男人八成会闹别扭,便决定乖乖任他摆布。

「……痛むか?」  "……还疼吗?"
「いや、ぶっちゃけそれほどじゃねえよ? 殴られるって気付いた瞬間に拳の方向に飛んだから、そんなに大きな衝撃は無かったし」
"没,说实话也没多疼啦?发现要被揍的瞬间我就顺着拳头方向躲了,所以冲击力其实没那么大"

「だが、腕や足も擦りむいてるだろ。これは……」  "可是,你的胳膊和腿都擦伤了吧。这是……"
「あー、車に押し込められたから、カーブの瞬間に飛び降りて……まあ、その時にちょっと怪我したくらい」
"啊——因为被塞进车里,在转弯的瞬间跳车……嗯,那时候受了点小伤而已"

「車に、押し込められた?」  "被塞进,车里?"
「あっ、でも全部軽い擦り傷だし、多分二、三日で治るレベルだから本当に大丈夫なんだって!」
"啊!不过都是轻微擦伤,大概两三天就能好的程度,真的没关系啦!"

 ──だから、そんな顔するな。  ──所以,别露出那种表情。

 そんな言葉と同時に、今度は世一がカイザーの頬にそっと手を伸ばすと、目の前の男は堰が切れたかのようにガバッと世一の身体を全身で抱きしめてきた。
 随着这句话,世一这次轻轻将手伸向凯撒的脸颊,眼前的男人顿时如决堤般猛地用全身抱紧了世一。

 その背中は本来ならとてつもなく力強いはずなのに、何故だか少し弱々しく感じて、世一もまた男の背中に向けて手を伸ばし、ポンポンと幼い頃に母がそうしてくれたような手つきであやすように撫でる。
 那后背本该无比强健有力,却不知为何显得有几分脆弱。世一也朝男人的后背伸出手,像儿时母亲安抚自己那样,用轻拍的姿势温柔抚摸。

 どれほどの時間、そうして過ごしていただろうか。   就这样相拥了多久呢。

 もはや一時間以上にも感じられるくらいに長い間、そうして抱き合っていた。
感觉已经拥抱了超过一小时那么漫长的时间。

 ぎゅうぎゅうと絶対に離すまいという意思を感じさせる力強さで。その姿形を確認し合うように。
用仿佛绝对不愿松开的力道紧紧相拥。仿佛要确认彼此的存在般。

 その間、二人は一言も会話を交わさなかった。だが、それでも世一は、カイザーの言いたいことははっきりと分かった。
期间两人没有交谈只言片语。但即便如此,世一也完全明白凯撒想表达什么。

 ブルーロックで出逢い、ドイツに来て、ともにプレーをしている間に、いつの間にかお互いがお互いになくてはならない存在になっていた。だからこそ、お互いに、失うことを怖いと思うようになった。それはきっと、サッカーという共通言語を抜きにしても、隣にいるのはこいつであってほしいと思ってしまうくらいに。
在蓝色监狱相遇,来到德国,共同踢球的日子里,不知不觉间已成为彼此不可或缺的存在。正因如此,才会害怕失去对方。这份羁绊甚至超越了足球这项共同语言——只想让身边永远是这个家伙。

 やがて、ようやくカイザーの震えが止まってきたあたりで、世一はそろそろかと思いながら「そういえば」と、沈黙を破った。
就在凯撒的颤抖终于渐渐平息之际,世一估摸着时机差不多了,便打破沉默开口道:"说起来..."

「そういえば、お前今日告白どうしたんだ?」  "说起来,你今天告白怎么样了?"

 あっけらかんとした声でかけられた問いに、カイザーはムスッと不機嫌そうに身体を離すと、ぶっきらぼうな調子で答え始める。
面对这直白到近乎天真的提问,凯撒绷着脸不高兴地挪开身子,用生硬的语气开始回答。

「……できるわけねえだろ。相手を呼び出すことにも失敗したってのに」
"......怎么可能成功。连把人约出来都失败了"

「えっ、そうだったの!? なんで!?」  "诶,真的吗!?为什么啊!?"
「お前が、先に帰りやがったからだ」  "因为你小子先溜回家了"
「へ?」  "啊?"
「気を遣ったのかなんだか知らねえが、よりにもよって今日この日に、俺よりもさっさと帰るとは思わなかった。クソ誤算だ」
"不知道是体贴还是怎么的,偏偏选在今天这个日子,没想到你比我还早退。真是失策"

「えっと……それって、どういう意味だ?」  “那个……这是什么意思?”
「どうもこうもねえ。ここまでクソ鈍感なのはわざとか? もしかして、俺の感情に気付いておきながら弄んでやがったのか?」
“还能有什么意思。迟钝到这种程度是故意的吗?该不会你早就察觉我的感情,一直在耍着我玩吧?”

 クソ世一、そう言って、いつもの調子が戻ってきたような口調で何度も咎める様に名前を呼んでくるカイザーに、世一は困惑しながらも、カイザーの言葉の意味を考える。
面对这个用“世一”反复喊他、语气里带着责备却又恢复往常腔调的混蛋皇帝,世一虽然困惑,却开始思考凯撒话语中的含义。

 カイザーの告白に、世一が早く帰ったのは関係ないはずだ。世一が早く帰ろうと居残りしていようと、カイザーからすると、練習終わりに本命に電話でもなんでもして呼び出せばいいのだから。
凯撒的告白与世一提前离场本无关联。无论世一是早早离开还是留下加练,对凯撒而言都无所谓——他大可在训练结束后直接打电话或用什么方式把正主叫出来。

 しかし、カイザーは今、世一が先に帰ったせいだと言った。つまり、カイザーの告白に、世一の帰宅が大きく関係していたということになる。
然而,皇帝现在却说是因为世一先回去了。也就是说,皇帝的告白与世一的回家有着重大关联。

(それって……)  (难道说……)

 一つだけ、彼の言葉の意味を理解できる状況が思いついた。
  唯有一种情形能让他理解这句话的含义。

 そしてそれは、世一にとって、今まで持っていた全ての疑問が解消できる答えだった。
  而这个答案,对世一而言足以解开迄今为止所有的疑问。

 ああ、なるほど。  啊,原来如此。
 これなら確かに、カイザーは常に見ていることができる。
这样的话,确实能让凯撒随时都能看见。

 本当に、毎日会っていたし、世一が邪魔になることもなければ、世一との仲を勝手にSNSで噂されても問題ないと言えるだろう。
真的,每天都能见面,既不会妨碍世一,就算和世一的关系在社交网络上被胡乱猜测也没问题吧。

 日本人で、わざわざ世一が日本に帰国した時について来たがったのも納得できる。
作为日本人,特意在世一回国时非要跟来也说得通了。

 ネスは「ミュンヘンで生きて、ミュンヘンでプレイしてます」と言っていたし、その通りだった。
内斯曾说"在慕尼黑生活,在慕尼黑踢球",事实也确实如此。

 これは確かにクソ鈍感と言われても仕方ないかもしれない。
这确实可以说是迟钝得无可救药了。

 パズルがハマるように、今までの全ての謎が明かされていく感覚に、世一は最後の答え合わせとばかりにゆっくりと彼の名前を紡いだ。
就像拼图终于严丝合缝般,当所有谜底渐次揭晓时,世一如同进行最终确认般,缓缓编织出他的名字。

「カイザー」  "凯撒"
「なんだ」  "怎么回事"
「お前が相手を呼び出すのに失敗したのは、俺が先に帰ったから?」
"你没能约到人,是因为我先回去了?"

 核心をつく言葉に、カイザーもまた、世一が全てを理解したことを悟ったのだろう。
这句直指核心的质问,让凯撒也意识到世一已经明白了一切。

 大きく舌打ちをしながら、掠れる声でゆっくりと世一の問いかけに答え始める。
他重重地咂了下舌,用沙哑的声音缓缓开始回应世一的疑问。

「呼び出すつもりのやつが、先に帰りやがった」  "我正要传唤的家伙,居然先溜了"
「……うん」  "……嗯"
「挙句に……誘拐事件なんぞに巻き込まれた」  "最后还……卷进了绑架案"
「まじか……」  "真的假的……"
「そのせいで連絡が取れなくなった。寿命がクソ縮まる気分だった」
"都怪这个才联系不上。感觉寿命都要折损大半"

 そう言って、収まっていたというのに再び震え始めるカイザーの声に、世一は瞳を閉じて、その心音を聞きながら口を開いた。
听着本已平静却再度颤抖的皇帝声音,世一阖上眼帘,在心跳声中轻启双唇。

「……ごめん」  "……对不起"
「……」  "……"
「今まで気付かなくて、ごめん。勝手に帰ってごめん。気を回したつもりだったんだけど、多分逆効果だった」
"一直没察觉到,对不起。擅自回去也对不起。本想着替你着想的,可能反而弄巧成拙了"

「……世一」  "……世一"
「ごめんな。怖かったな」  "对不起啊。我真是害怕极了"
 よしよしとその頭を幼い子供のように撫でると、カイザーは再び世一の身体を強く抱きしめてぐりぐりとおでこを首筋に擦り付けてくる。こんな姿、今となっては、カイザーが「本命」以外に向けるとは思えなかった。まあ、今の今まで気付けなかったのだが。
我像安抚孩童般轻揉着他的脑袋,凯撒再次用力搂紧世一的身体,把额头在他颈窝处来回磨蹭。这般情态,时至今日,实在难以想象凯撒会对"正主"以外的人展露。虽然我自己也是直到此刻才明白过来。

(俺の存在が、カイザーの中でこんなに大きくなっていたとは、思いもしなかったな)
(没想到我的存在,在凯撒心中竟有如此分量)

 これは自惚れではなく、事実だ。  这并非自负,而是事实。
 そう言い切れるほどには、今のカイザーは、世一がいないとダメな状態だったのだ。昔ならば考えられないようなカイザーの姿だが、しかし、何故だか今はそれを見られるのが自分であることに、とても嬉しく感じる。
如今的凯撒确实到了没有世一就寸步难行的地步——这种昔日难以想象的凯撒姿态,不知为何此刻能被自己亲眼见证,反倒让我满心欢喜。

「カイザー」  「凯撒」
「なんだ、クソ世一」  “搞什么啊,臭世一”
「俺、お前のこと好きだ」  “我喜欢你”
「……はぁ!?」  “……哈!?”

 まさか今この場で世一から告白されるとは思ってもいなかったのだろう。鳩が豆鉄砲を食ったような表情で、カイザーは大きく目を見開いた。いつ見てもビー玉に見える透き通った瞳に、世一はしてやったり顔で、悪戯に成功した子供のように笑うと、再び言葉を転がし始めた。
凯撒瞪圆了双眼,活像只被枪声惊呆的鸽子——显然没料到世一会在这个节骨眼上突然告白。望着那双永远如玻璃珠般剔透的眼眸里映出的错愕,世一露出恶作剧得逞的孩子般笑容,带着几分得意再度开口。

「今気づいた。でも間違いなくお前が好きだ。お前が俺でいっぱいになってるのが、正直嬉しくてたまらない」
「刚刚才意识到。但我确实喜欢上你了。看到你满脑子都是我的样子,说实话高兴得不得了」

「おい」  「喂」
「それに、お前の恋を応援するって言いながら、なんかもし成立したら寂しいなって、ずっと思ってた。これも多分、お前が好きだったから。そうだよな?」
「而且嘴上说着要支持你的恋情,其实一直想着要是真成了我会很寂寞。这大概也是因为喜欢着你吧。对吧?」

「クソ知るか」  「鬼知道啊」
「だから、付き合ってくれ。俺と恋人に……いや、別に無理に恋人って関係じゃなくてもいいんだけどさ」
"所以,和我交往吧。做我的恋人……不,就算不是恋人关系也可以的"

 ──俺のものになってくれ、カイザー。   ──成为我的人吧,凯撒。

 告白とは、こんなにも緊張するものだったのか。   原来告白,是这么令人紧张的事情啊。
 世一はそれを、指先の震えから深く感じる。   世一从指尖的颤抖中深切体会到了这一点。
 カイザーの想いは知っているし、お互いに憎からず想っていることも分かった上で、それでも緊張するのだ。
我明白凯撒的心意,也知道我们彼此都怀着好感,可即便如此还是紧张不已。

 きっとカイザーは今日、世一以上に覚悟を決めて告白してくれるつもりだったのだろう。
想必凯撒今天原本是打算比世一更坚定地表白心迹吧。

 そう思うと、目の前の男が更に愛おしく感じてくる。
这么一想,眼前这个男人愈发显得惹人怜爱。

 数秒ほど、静かな時間が流れた。  几秒钟的静谧时光悄然流逝。
 そして、その静かな時間の後には、彼の答えが舞い込んでくる。
在这段静谧时光过后,他的回答翩然而至。

「……クソ最悪だ」    "……糟糕透顶"
「え!?」    "诶!?"

 予想外の答えに、世一はビクッと肩を揺らしながら男の顔を見る。すると、そこには顔を真っ赤にして照れたような顔を片手で隠しながら、視線を逸らすように話す男の姿があった。
  面对这个出乎意料的答案,世一惊得肩膀一颤,抬眼望向男人。只见对方满脸通红,用单手遮掩着羞赧的面容,说话时目光游移不定。

「……俺は」  "……我"
「うん」  "嗯"
「俺から告白するつもりだった」  "本来打算由我来告白的"
「知ってるよ」  "我知道啊"
「薔薇の花束も買ってあった。お前から連絡貰ってすぐ慌てて駆けつけたから置いてきちまったが」
"我还买了束玫瑰来着。接到你消息就慌慌张张赶过来,结果给落下了"

「ふはっ、それはやめとけって言ったじゃん」  "噗哈,不是早跟你说别买这个嘛"
「プランも考えてた。お前は多分一番最初は『お前のことそんな目で見てなかった』とか言うと思ってたから、更に長期戦になることも想定してた」
"我连计划都考虑好了。原以为你第一反应肯定是'我从来没那样看待过你',所以早就做好了打持久战的准备。"

「うわ、ごめん……我ながら否定しきれない」  "哇,抱歉...我自己都没法完全否认这点"
 確かに、こんなことにならなければ、自身の奥底にあったこの想いになんて気付けなかっただろう。だから、カイザーから今日告白されてたとしても、世一は本当にそう答えていた気がする。
确实,若非发生这些事,自己恐怕永远不会察觉心底这份感情。所以即便今天凯撒真的告白了,世一觉得自己大概也会那样回答吧。

「……世一、いいのか」  "...世一,这样真的好吗"
「ん? 何が?」  “嗯?怎么了?”
「お前の『好き』は、俺を自分のものにしたいというだけの感情だろ?」
“你的‘喜欢’,不过是想占有我的感情吧?”

「まあ、そうだけど……お前もそうだろ?」  “是啊...你不也一样吗?”
「俺のは少し違う。お前を自分のものにしたいし、お前の向ける全ての感情は俺に向いてねぇと気が済まねぇ。だから──」
“我有点不同。既想占有你,又无法忍受你的感情不全部倾注于我。所以——”

 こういうこともしたい。  我也想这样。

 そう付け加えるように囁きかけた途端、カイザーはそっと世一の鼻先に自身の鼻先を合わせ、そして小さく触れるだけのキスを落とした。
 就在他像补充说明般轻声低语的瞬间,凯撒轻轻将自己的鼻尖抵上世一的鼻尖,落下了一个轻若鸿毛的吻。

 その感触は、世一にとって初めてのものだった。   这种触感对世一而言是前所未有的体验。

「……カイザー」  「……凯撒」
「こういうことだけじゃねえ。お前に噛みつきてえし、もっとえげつないキスもしてえ。もっと触れて、その身体を俺の知らねえ場所はなくなるくらいに、クソ暴きてぇと思ってる」
"不只是这样。我想咬你,还想做更过分的亲吻。想触碰更多,直到你身上再没有我不了解的地方,恨不得把你彻底剥开看个够。"

「……」  "……"
「怖気付いたか?」  "害怕了?"
 拒むなら今のうちだぞ。  要拒绝就趁现在。
 そんな言葉を落とすわりに、カイザーの表情は本当に不安げで、今も世一に「やっぱやめる」と言われることを心底恐れているような顔だった。
明明说着这样的话,皇帝的表情却显得异常不安,此刻仍是一副从心底害怕世一会说出"果然还是算了吧"的神情。

(あぁ……まただ)  (啊……又来了)
 また、この顔を作らせてしまった。  又一次让他露出了这种表情。
 本当なら、世一はこの男にこんな顔をさせたくないと思っている。不安に駆られた子供のようなこの顔を、少しでも減らしてやりたい、本気でそう思っていたのだ。
其实世一并不想让这个男人露出这样的神情。他是真心希望能减少对方这种如同受惊孩童般的不安表情,哪怕只有一点点也好。

 だから、世一はこの男の言葉に、真剣な表情で、それでいてふわりと笑いながら答える。
所以,世一用认真的表情,却又轻轻笑着回应了这个男人的话。

「……俺は、多分今はお前と全く同じ気持ちってわけじゃないと思う」
「……我想,现在的我大概和你怀着完全不同的心情」

「……世一」
「だって、自分の気持ちに気付いたのもついさっきだし、俺自身、この感情をどう処理したらいいのか分からない」
「毕竟,我也是刚刚才意识到自己的心意,连我自己都不知道该怎么处理这份感情」

 けど、そう言って彼は続ける。  然而,他这样说着继续道。
「今のキス、全然不快じゃなかった」  「刚才的吻,我一点都不觉得反感」
「は?」  「哈?」
「普通さ、俺は多分恋愛対象は女性だと思ってたから、男にキスされたら嫌だと思うはずなんだけど、今のそれは嫌じゃなかったんだよ」
「按理说,我一直以为自己恋爱对象应该是女性,被男人亲吻应该会感到厌恶才对,但刚才那个吻我完全不讨厌」

 それどころか、もっとしてほしいと思った。  不仅如此,甚至想要更多。

 爆弾のような言葉を残しながら、世一はあどけない顔で、子供のようにころころと笑う。
 扔下炸弹般的告白后,世一却露出天真无邪的笑容,像孩子般咯咯笑着。

 そんな笑顔を見せながら、男の身体を再び抱きしめた。目の前の男ほどではないが、世一とて鍛えているのだから、力強く離さないように。
 展露着这样的笑容,他再次紧紧抱住了男人的身躯。虽不及眼前男人那般健壮,但世一也是经过锻炼的,双臂有力得让人无法挣脱。

「世一」
「お前が俺にしてみたいこと、全部やってみろよ」  “你想对我做什么,尽管放马过来”
「は……?」  “哈……?”
「受け止めてやる。噛みつくくらいいくらでもすりゃいいし、もっとぐちゃぐちゃになるくらいのキスもしていい。お前が抱かれたいなら俺が抱いてやるし、お前が抱きたいなら俺が抱かれてやる」
“我全都接着。想咬就随便你咬,想接吻到天昏地暗也行。你想被抱我就抱你,你想抱我我就让你抱”

「っ……」  “……”
「だから、好きにぶつけろ」  "所以,尽管发泄吧"

 ──全部否定しないで受け止めてやるから。   ──我会全盘接受,不会否定你的一切。

 その言葉の直後、世一の身体はふわりと宙を浮いた。それが、目の前の男に横抱きにされていると気付くのに、そう時間はかからなかった。
 话音刚落,世一的身体便轻轻浮空。没等他反应过来,就已被眼前的男人打横抱起。

 そして、再び身体を下された時には、そこは見慣れたベッドの上だった。
 当身体再度被放下时,已然置身于熟悉的床榻之上。

 あの日二人で添い寝してから、人と寝る心地よさを少しだけ知ってしまったのは何も、カイザーだけではない。世一もまた、このベッドの中で一人で寝るたびに、彼が隣にいるあたたかさを求めてしまっていたのだから。
那天同床共枕后,体会到与人共眠之美好的并非只有凯撒一人。世一同样如此,每当独自躺在这张床上时,总会不由自主地渴望他躺在身旁的温暖。

 そんなベッドの上で、今度はもっと深く繋がろうとしている。
此刻在这张床上,他们正试图建立更深的羁绊。

 そしてそれは、自然と嫌悪感など一つもなかった。  而这一切发生得如此自然,没有半分厌恶。

「俺はお前をクソ抱きたい」  "老子他妈想死你了"

 ストレートに繰り出された言葉に、世一はフッと笑った。
面对这直白的话语,世一噗嗤笑了出来。

 自身を見下ろしてくる男の顔は、あいかわらず余裕のない表情ではあったが、もう先ほどまでの拒絶されることを恐れる子供のような感覚は感じられない。
俯视着自己的男人脸上虽然依旧带着紧绷的表情,但已经感受不到先前那种害怕被拒绝的孩子气情绪了。

 その事実に、世一は安心したように手を伸ばした。  察觉到这个事实,世一像是松了口气般伸出手。

「いいよ。でも」  "好啊。不过——"
「でも、なんだ?」  "不过,怎么了?"
「盛り上がってるところ悪いんだけど、ゴムとかローションって持ってる? ちなみにうちにはない」
"虽然打断你们兴致很抱歉...你们带安全套和润滑剂了吗?顺便说下我家没有"

「…………」  "…………"

 お互いに顔を見合わせた後に、カイザーはバツが悪そうに頭を掻きむしりながら世一を睨みつける。しかし、その睨みは決して怖いものなどではなく、むしろ照れ隠しであるということに気付いている世一からすると、なんだか実年齢以上に若く見えて、可愛らしく感じた。そして──。
两人面面相觑后,皇帝尴尬地抓乱头发瞪着世一。但那目光绝非令人畏惧,察觉到这不过是掩饰羞涩的世一看来,对方反而显得比实际年龄更年轻,透着几分可爱。紧接着——

「すぐ俺の家から持ってくるから寝ないで待ってろ」  “我这就从家里拿来,你可别睡着等我啊”

 そんな間抜けな言葉に、世一はフッと笑いながら「んじゃ、待ってる」と言って送り出した。
听到这般傻气的话语,世一噗嗤一笑,说了句“那好,我等着”便送他出门。



 朝になると聞こえてくる小鳥の鳴くような声はどこの国も共通なのだろうか。
清晨时分听到的鸟鸣声,无论在哪个国家都是一样的吧。

 そんなことを思いながら、外から聞こえてくる鳥の声と、カーテンから差し込む日差しの眩しさで、世一は目を覚ました。
怀揣着这样的念头,世一被窗外传来的鸟啼声与透过窗帘的刺眼阳光唤醒了。

 いつも通りの天井にいつも通りの布団の心地よさを堪能する。しかし、一つだけ、いつも通りではないことがあった。
一如既往的天花板,一如既往舒适的被褥。然而唯有一件事,与往常不同。

 それは──。  那就是──

「……カイザー」  「……凯撒」

 今はまだイレギュラーとも言えるその存在は、きっとこれからありふれたいつも通りになっていくのだろう。そんなことを思いながら、世一はふわりと、隣に眠る男の金糸のような髪にそっと手を触れる。毛先の青は染めているのだろうが、このキラキラした金は自前のもので、猫を撫でているときのような心地よさを感じる。
这个此刻尚可称作例外的存在,想必终将成为司空见惯的日常吧。怀着这般思绪,世一轻轻将手覆上身旁沉睡男子那金丝般的发梢。虽然发尾的蓝是染就的,但这闪耀的金色却是与生俱来,指尖传来如同抚摸猫咪般的惬意触感。

 そんな男の眠る姿に、世一はふっと笑うと、ゆっくりと上体を起こした。腰にはあいかわらず、彼の腕が絡みつくように回されている。
看着男人熟睡的模样,世一轻轻笑了笑,缓缓支起上半身。腰间依旧缠绕着他手臂般的禁锢。

「ふぅ」  "呼......"
 上体を起こすだけでも一仕事とばかりに、身体中が昨晩の行為に悲鳴をあげていた。
光是撑起上半身就费了九牛二虎之力,全身都在为昨晚的激烈行为发出哀鸣。

 ふと見ると、自身の目から見える範囲で夥しい数の痕跡が残されている。
不经意间瞥见,视线所及之处布满了密密麻麻的痕迹。

 世一は怪我をしているからと、何度か途中で止めようとする男に対して「こんなちょっと転んだだけレベルの擦り傷を怪我に数えるなら試合中にもっと酷い怪我散々してるだろ」と言いくるめて行為を再開させた。
面对多次试图以"你受伤了"为由中途叫停的男人,世一用"这种摔一跤程度的擦伤也算受伤的话,比赛时受的伤可比这严重多了"说服对方,让行为得以继续。

 お互いに男同士は初めてだし、なんなら世一は本当に初めてだから、かなり慣れないことでいっぱいだった。だが、それでも決して、途中で止めることなく進み続けた。ただでさえ怪我をしているのだからと出来る限り優しく、それでいて世一が快感を拾えるようにゆっくりと身体を拓かれる感覚に、世一は痛みはあれど、それ以上のふわふわとした不思議な感覚に落とされた。その感覚は、病みつきになりそうなほどに心地よいものだった。
 这对双方而言都是初次与男性体验,尤其对世一来说更是真正意义上的第一次,处处都充满生涩。但即便如此,他们也绝没有中途停下。考虑到对方本就带伤,动作尽可能温柔的同时,又让世一能充分感受身体被缓缓开拓的快感。虽然疼痛犹在,世一却陷入更为轻盈的奇妙感受中。那感觉舒适得几乎令人上瘾。

 そして、最後の方にはもう、カイザーのあの不安そうな色は一切なくなっていたのである。
 而到了最后阶段,凯撒脸上已全然不见先前的忐忑神色。

「ふぅ、そろそろロードワークに……は、行っちゃダメなんだっけか」
"呼...该去路跑训练了...啊,现在不能去对吧"

 マネージャーに昨日の誘拐犯が捕まるまで絶対に一人で外に出ないようにと言われていたのを思い出す。もしかして、カイザーと一緒なら問題ないだろうか。
想起经纪人叮嘱过在昨天的绑架犯落网前绝对不要单独外出。不过,若是和凯撒一起的话应该没问题吧?

 そう思い立つも、頼みの綱のカイザーはまだまだ夢の中だ。
虽然这么想着,但唯一的指望凯撒此刻仍在梦乡之中。

「……寝てると、なんか幼さ倍増だよな」  "......睡着的时候,总觉得稚气感翻倍呢"
 端正な男らしさのある顔なはずなのに、眠っていると少しだけ可愛らしく感じるのは一体何故なのだろうか。
明明该是张充满阳刚之气的端正脸庞,为何睡着时却会莫名觉得有几分可爱呢。

 そう思いながら世一は彼の頭をそっと撫で、もう片方の手でベッドの端に置いてあるスマホを手に取る。
一边这样想着,世一轻轻抚摸着他的头,另一只手拿起了放在床边的手机。

「…………そういえば、なんでネスはあの時俺にSNSは見るなとか言ったんだろう」
"…………说起来,为什么内斯那时候要跟我说别看社交媒体呢"

 今日が終わるまで、それはつまり、カイザーが世一に告白するまでという意味だったと思われる。
所谓"直到今天结束",想必就是指直到凯撒向世一告白为止的意思。

「じゃあ、もう見ていいのか?」  "那现在可以看了吗?"
 そう思って、世一は久しぶりにSNSアプリのアイコンをそっとタップした。ひゅっと開かれるその画面を見ると、もう早速昨日の世一の誘拐事件がネットニュースになっていた。
怀着这样的想法,世一久违地轻触了社交软件图标。屏幕刷地展开,昨日世一遭遇绑架的事件早已成为网络新闻。

「まあ、確かに目撃者もたくさんいたから、そりゃニュースになるよな」
"嘛,毕竟现场目击者那么多,上新闻也是理所当然的"

 その目撃者たちのおかげで犯人はすぐに捕まえられそうなのだから、今回ばかりは仕方なかったとしか言いようがない。
多亏那些目击者犯人才能迅速落网,这次也只能说是无可奈何了。

 日本でもドイツでも大きく取り上げられているらしいその事件のコメント欄には、基本的に世一を心配するような言葉と、犯人を早く捕まえろと言った言葉で埋め尽くされていた。
无论是日本还是德国,这起被大幅报道的事件评论区里,基本都充斥着对世一的关切之词与要求尽快缉拿凶犯的呼声。

 しかし、そんな中に一つ、ふと気になる単語が目に入ってくる。
然而在这片喧嚣中,有个词突然跃入眼帘。

「カイザーの告白計画が台無しに……?」  "凯撒的告白计划泡汤了……?"

 なんだこれ、そう思って今度は「カイザー 告白」で検索してみると、今度は昨夜のカイザーが、薔薇の花束を持ってさまざまなところを走り回っている姿が写真に撮られていた。
这是什么啊——怀着这样的疑惑,我试着搜索"凯撒 告白",结果跳出来的全是昨晚凯撒手捧玫瑰在街头狂奔的照片。

 それらの写真には皆「多分世一に告白すると思われる皇帝様」だとか「告白頑張れ、世一見つかるといいね」だとか、そんな内容の文章がドイツ語英語日本語問わず添えられている。
每张照片底下都标注着"八成是要向世一告白的皇帝大人"或是"告白加油啊,希望你能找到世一"之类的话,德语英语日语各种语言混杂着。

 それは、まさに昨日の彼が、世一を探していた姿に他ならない。
那分明就是昨天他四处寻找世一时的模样。

「カイザー、お前……」  "凯撒,你这家伙……"

 胸の奥底から込み上げてくるのは、今ここにいる男に対する、とんでもない愛おしさだった。
从心底涌上来的,是对眼前这个男人难以言喻的怜爱。

「やべ、顔がニヤける……」  "糟了,嘴角要翘起来了……"
 こんなのを見てしまったら仕方ないだろう。そう自分で言い訳したくなるくらいには、頬が緩んでしまって、元に戻せない。
看到这样的画面实在没办法保持冷静。脸颊已经不受控制地松弛下来,甚至想用这种借口为自己辩解的程度。

 やがて、もはや緩み切った頬を引き締めるのを諦めた世一は、再びカイザーに関する投稿を漁り始めた。
最终放弃绷紧彻底放松的脸颊,世一再次开始搜寻关于凯撒的帖子。

 すると、今度はカイザーが飲みの誘いに乗ってきた貴重なあの日に、同じクナイペにいたと思われる人たちの投稿があげられていた。
接着,这次出现了凯撒答应酒局邀约的那个珍贵日子,疑似同在现场的克奈佩成员们发布的帖子。

【か、カイザーの本命って日本人なんだって! 今包み隠さず言ってた】
【凯、凯撒的真命天子居然是日本人!刚才他亲口毫无保留地说出来了】

【は???】  【哈???】
【日本人で黒髪、クソ童顔でクソ鈍感の人誑しクソ野郎とのことです】
【据说是个日本人,黑发,长着张超级娃娃脸还迟钝得要死的骗子混蛋】

【一体どこの世一の話?】  【这到底是哪个世界第一的故事啊?】
【いやいやいや、まじで!?】  【不不不,真的假的!?】
【カイザーの片想いってそんなことある!?って思ってたけどやっぱり相手は世一かぁ】
【原来皇帝的单相思真的存在啊!?不过想想对象是世界第一倒也合理】

【やっぱ最初に出た世一説が正解だったんだ】  【果然最初出现的"世界第一说"才是正确答案】
【でも残念ながら、世一はその事実に気付いていない模様】
【但遗憾的是,世界第一似乎并未察觉这个事实】

【世一ぃ、クソ鈍感すぎるぞ世一ぃ……】  【世界第一啊,你这迟钝程度简直突破天际了世界第一……】

 そのあたりで、世一は居た堪れなくなって一旦スマホの画面を暗くした。そして、同時に今も目を覚まさずに自身の腰に巻き付いている男に、そっと視線を戻す。
就在那时,世一实在待不下去,暂时熄灭了手机屏幕。同时,他的目光悄悄回到此刻仍未醒来、依旧环抱着自己腰际的男人身上。

 ああ、そうか。   啊,原来如此。
 あの時から確かにチームメイトの目線がどこか生ぬるいものになっていたのだが、そういうことだったのか。
 从那时起队友们的视线确实变得微妙起来,原来是这个缘故啊。

 今ようやく全てに気付いた世一は、頭を抱えながら、自分がいかに鈍かったことを思い知らされる。そして同時に、どれだけこの青薔薇を刻んだ男に苦労をかけていたのかも、実感させられた。
 此刻终于察觉一切的世一抱头懊恼,痛感自己何其迟钝。与此同时,他也真切体会到这位镌刻青蔷薇的男人究竟为自己承受了多少。

 きっと、薔薇の花束も世一のために取り寄せたのだろう。昨夜、ゴムとかローションを取りに行ったのと同時に持ってきた花束は、今も世一の机の上に置いてある。花瓶などはこの家にないから、今日は花瓶を買いにいかなければならない。いや、世一はまだ家を出れないからマネージャーに買ってきてもらうように言うべきか。流石にマネージャーにこんな私的な買い物を頼むのは問題だろうか。あ、そうだカイザーに買いに行かせりゃいいんだ。
那束玫瑰想必也是特意为世一订购的吧。昨晚去取安全套和润滑剂时顺便带回来的花束,此刻仍摆在世一的书桌上。这间公寓没有花瓶,今天必须去买个花瓶才行。不,世一现在还不能出门,应该让经纪人帮忙买吗?不过拜托经纪人办这种私事果然不太合适吧。啊对了,让凯撒去买就行了。

 そんなことを思いながら、彼は腰に巻き付いていた腕をスライドさせるように、再び起こしていた上体を横にする。
他一边这么想着,一边让缠绕在腰际的手臂缓缓滑落,将撑起的上半身重新侧卧下来。

 今も夢の中でスヤスヤと眠る男の耳元を自身の胸に抱え込むように抱きしめ、見慣れた芸術的とも言える寝癖を梳かすように、その髪をゆっくりと撫で始める。
把仍在梦中酣睡的男人揽入怀中,让他的耳廓贴着自己胸膛,开始轻柔梳理那撮早已看惯的、堪称艺术品的睡翘头发。

 そして、耳元でゆっくりと「Ich liebe dich」と、今までほぼ使ったことのないドイツ語を囁きかけながら、世一は再び眠りについた。
在耳畔用几乎从未说过的德语缓缓道出"我爱你"的低语时,世一再度沉入了梦乡。

 この後、目が覚めたら世一の胸に抱き締められていたという状況に、朝から再び欲を爆発させたカイザーに襲われることになるのだが、それはまた別のお話である。
待到次日清晨醒来时,发现自己被世一紧紧搂在怀里的情景,又让凯撒的欲望彻底爆发——不过那又是另一个故事了。



 全ての欲を吐き出して、くたりと倒れ込んだ世一の姿を見ながら、カイザーは「やりすぎた」と呟いた。
 望着倾泻完所有欲望后瘫软倒地的世一,凯撒轻声呢喃道:"好像做得太过火了。"

 普段は恐ろしいほどに鋭くて、こちらの全てを見透かすような目で見てくるのに、こう言った方面だけは鈍いこの男を、ようやく手に入れた。そんな記念すべき夜だったのだから、タガが外れてしまったのも仕方ないだろう。
 这个平日里眼神锐利得可怕、仿佛能洞穿一切的男人,唯独在这种事上迟钝得令人发指。好不容易才将他弄到手,在如此值得纪念的夜晚,就算理智断线也情有可原吧。

 だが、軽傷で本人も望んでいたこととは言え、怪我人にここまで無理させたのは、流石に反省すべき点である。
 虽说只是轻伤且本人也心甘情愿,但让伤员勉强到这种程度,确实该好好反省。

 ふと見ると、頬にはまだ殴られたような痕があり、腹の底から怒りやら憎しみやらの黒い感情が上ってくる。本人は痛まないと言っていたが、やはり多少なりと痛むはずだ。
忽然注意到他脸颊上还残留着被殴打的痕迹,一股混杂着愤怒与憎恨的黑色情绪从胃底翻涌而上。虽然本人说过不觉得痛,但多少还是会疼的吧。

 ほんの数時間前からこの男は自分のものになったのだから、この感情にも正当性があるだろう。もっとも、それはつまりカイザーもこの男のものになったということなのだが。
 毕竟几小时前这个男人才正式成为自己的所有物,会产生这种情绪也是理所当然的。当然,这也意味着凯撒同样成为了这个男人的所有物。

「……世一」

 初めは、ほとんど憎悪のみの感情だった。   最初,这份感情几乎纯粹由憎恶构成。
 自分の人生を大きく狂わせたこの男を万全の状態で負かしてやりたい、だからこそ、こんなところで潰れられるわけにはいかない。
我定要以全盛之姿击败这个彻底颠覆我人生的男人,所以绝不能在这种地方倒下。

 そんな打算的な感情で、この男がドイツに来てから世話を焼くようになった。すると、意外なことに彼は簡単にカイザーに懐き、今度は「お礼にご飯に行こう」と誘ってくるようになったのだ。
 正是出于这番算计,自这男人来到德国后,我便开始处处关照他。谁知他竟意外地轻易对凯撒敞开心扉,后来甚至主动邀约"为表谢意一起去吃饭吧"。

 そうしてチームメイトとして付き合っている間に、カイザーは彼が自分の欲しかったものを全て持っている人間なのだと、なんとなく悟った。
 在作为队友相处的日子里,凯撒渐渐意识到,这个男人拥有着自己渴望的一切。

 たくさんの優しい人たちに囲まれて、愛されて生きてきた男。そこには別に羨望などない。生まれた環境を嘆いたところで何かが変わるわけでもないのだから、恵まれて生まれた存在を羨ましいと思うだけ時間の無駄だ。
 这个被众多温柔之人环绕、在爱意中成长的男人。对此我并无妒意。既然悲叹出身环境也改变不了什么,那么羡慕得天独厚之人不过是浪费时间罢了。

 ただ、ほんの少しだけ、愛されて育った男から送られるこの視線に、触れたくなってしまった。
只是,面对这个在爱意中长大的男人投来的目光,我竟不由自主地想要触碰。

 そして、気付いた時には視線だけでは満足できなくなり、もっと触れたいと、この全身が欲しいと、強く思うようになっていったのである。
 待到察觉时,目光交汇已无法令我满足,渴望更深入的接触,想要占有这副身躯的念头愈发强烈。

 ネスに聞いたら、この感情は大切にした方がいいと、そう言われた。カイザーはこと人間の感情においては、知識はあっても、実感として理解できていないものが多くある。
 询问内斯后,他告诉我应当珍视这份感情。凯撒虽通晓人类情感的理论,却有许多感受始终未能真正体会。

 だからこそ、ネスの「大切にした方がいい」という言葉を、信じることにした。
 正因如此,我决定相信内斯那句"应当珍视"的忠告。

 やがて、それが誰かを欲しいと願い、取られたくないと切望する独占欲であると気付いた時にはもう、彼は引き返せないところまで来ていた。
当他终于意识到这份渴望独占某人、不愿被他人夺走的情感时,早已深陷其中无法回头。

 何度も何度も、もっと早くに捨てておけばよかったと思いながらも捨てられなかったその感情は、いつしか苦しさを感じるくらいに膨れ上がって、やがて一方的では満足できないところまでいって、今ようやく、一方通行ではなくなったのである。
 无数次懊悔着"要是早点舍弃就好了",却始终无法割舍的这份感情,不知不觉已膨胀到令人痛苦的程度,最终连单方面的付出也无法满足,直到此刻才终于不再是单向通行。

 だが、手に入れて初めてわかる。   然而唯有真正得到后才明白。
 確かにこれは捨てなくてよかった、この感情を大切にしてよかった、と。
 原来真的不必舍弃,这份感情确实值得珍惜。

 それほどまでに心地よい感覚に酔いしれるように、カイザーは自身の下で眠る世一の額の髪をかき分けると、そっと口付けを落とす。
沉醉在这般令人愉悦的触感中,皇帝轻轻拨开身下世界第一额前的碎发,落下温柔一吻。

 同時に溢れ出るその感情を、今まで自分の得られなかったものなのだと深く感じて、彼はふわりと心地よさそうに笑った。
与此同时,他深切感受到这份满溢而出的情感是过往从未拥有过的,于是满足地漾开一抹轻盈笑意。

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