結婚が決まっている世一をモブからNTRカイザーの話
被路人横刀夺爱的凯撒与已订婚世界第一的故事
モブ男性との結婚を1ヶ月後に控えたアラサーの41のところに、元恋人のkisから「たまには昔話に付き合え」というメールが届く。kisのことが忘れられない41は飲みに出かけ…から始まるkiisのNTR話。モブisからのkiis。
距离与路人男性婚期仅剩一个月时,27 岁的凛收到了前男友凯撒"偶尔也该陪我叙叙旧"的邮件。始终无法忘记凯撒的凛应邀前往酒局...由此展开的凯撒横刀夺爱故事。来自路人洁的凯撒凛。
⚠️モブ男性は回想でちょこっと出てくる程度ですが肉体関係はあります(婚約者なので)。kiisは両思いではあるものの、倫理観はゼロです。最後はハピエンですが、途中で世一くんが逆境に立たされしんどい思いをしているので、苦手な方はご注意ください。キャラヘイトの意図はございません。
⚠️路人男性仅在回忆中短暂出场但存在肉体关系(毕竟是未婚夫)。凯撒凛虽两情相悦却毫无伦理观念。结局虽 HE 但过程中世一君会遭遇逆境承受痛苦,不擅此道者请注意。绝无角色恶意贬低意图。
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「5月末、そっちに行く。たまには昔話に付き合え」 “五月底,我会去你那边。偶尔也陪我聊聊往事吧。”
要件だけの、そっけないメールが届いたのは、バスタード・ミュンヘンの3年連続優勝を賭けた最終節を翌週末に控えた晩のことだった。こちらの都合など歯牙にも掛けない態度はいっそ清々しく、世一は小さく声を上げて笑った。
收到那封只有要事、不带任何寒暄的邮件时,正值赌上巴斯塔德·慕尼黑三连冠的最终决战前夕。对方全然不顾自己这边情况的态度反倒令人神清气爽,世一不禁轻笑出声。
何度こいつのわがままに振り回され、煮え湯を飲まされてきたことだろう。そんな相手の変わらぬ傍若無人ぶりを「懐かしい」とすら感じてしまうことに、自分たちの間を無為に流れていった時の長さを感じた。
不知多少次被这家伙的任性耍得团团转,吃尽苦头。当自己竟对这种一如既往的旁若无人感到"怀念"时,才惊觉彼此之间已虚度了多少光阴。
それから店を決めるやりとりが数回あり、正確な日時と時間が伝えられたのはバスタードがドイツの覇者として3年連続マイスターシャーレを掲げた翌日のことだった。
之后经过几次敲定店铺的往来,直到那个混蛋作为德国霸主连续三年捧起大师杯的次日,才收到具体日期与时间的通知。
◇ ◇ ◇
どうせ待ちぼうけを喰らうことになるのだから、と約束の時間ぴったりに店を訪れた世一は、誰も座っていないカウンターの端に陣取っている男の後ろ姿を見つけ、目を瞬かせた。一瞬、他人の空似かと思ったほどだ。
反正肯定会被放鸽子——抱着这种想法准时赴约的世界第一,在看到空荡荡吧台尽头那个男人的背影时,不禁眨了眨眼。那一瞬间,还以为是认错了人。
ロングヘアの毛先だけを鮮やかなブルーに染める髪型は、質実を好み時流に左右されないドイツの人たちにある種の熱狂を持って受け入れられ、今では当たり前のように街中で目にするようになった。とはいえ、あのけぶるような天然物のブロンドだけは見間違えようがない。
这种只将长发发梢染成鲜艳蓝色的发型,因其质朴务实又不随波逐流的特质,在德国人当中引发了某种狂热追捧,如今街头巷尾随处可见。不过,那烟雾般朦胧的天然金发却是绝不会认错的。
「そのダダ漏れの殺意を収めないことには、おまえは俺の寝首をかけないな? 世一ぃ」
"不收敛你这漏勺般的杀意的话,可没法趁我睡觉时下手啊?世一"
気配を殺し、足音を立てないように近づいたのに、およそ3メートルの距離を残してカイザーはくるりと頭を巡らせた。常日頃から、紫外線を浴びているとは思えないほど白い横顔は、数年前に会ったときのままだ。そのままニヤリ、と片目を眇めて、値踏みするように世一の頭のてっぺんからつま先までに視線を走らせる。
明明彻底消除了气息,连脚步声都不曾发出,凯撒却在相距三米处蓦然回首。那张常年不见日晒的苍白侧脸,与数年前相遇时毫无二致。他歪着嘴露出狞笑,独眼微眯,用估量商品般的眼神将世一从头到脚扫视了一遍。
「……ふうん?」 "……哦?"
「言いたいことがあんならハッキリ言えっての。つうか、そもそもおまえがドレスコード指定してきたんだろうが」
“有话就直说啊。再说了,这着装要求本来就是你定的吧?”
「俺のおかげで恥をかかなくて済んだな。しかしそのスーツ……七五三か?」
“多亏我才没让你出丑。不过那套西装……是七五三儿童礼服吗?”
「クソッ、変な日本語ばっかり覚えやがって。こちとらアラサーだわ」
“可恶,净学些奇怪的日语。老娘可是奔三的人了”
むくれながらカウンタースツールに腰掛けた世一は、二の腕をつかまれ、ぐるりとカイザーの方に半回転させられた。
世一嘟着嘴坐上吧台凳时,突然被抓住胳膊猛地一转,整个人半旋着面向了凯撒。
——え。 ——啊。
思いがけず隣に座る男の顔がすぐ近くにあり、世一は小さく心臓を跳ねさせる。カイザーは躊躇もなく手を伸ばし、わしゃわしゃと世一の髪をかき混ぜた。
没想到坐在旁边的男人突然把脸凑得这么近,世一的心脏不由得小小地悸动了一下。凯撒毫不犹豫地伸出手,胡乱揉乱了世一的头发。
「うわッ、おま、何すんだよ!」 "哇啊!你、你干什么啊!"
世一が声を上げると、男は何も言わずにくくっと笑った。
世一刚喊出声,男人就一言不发地勾起嘴角笑了。
ミュンヘンは老舗ホテルの最上階にある会員制のバー。それがカイザーから指定された場所だった。ドレスコードを伝えられた世一は、いくつになっても着慣れないスーツを身につけ(これに関してはもう少し企業努力があってもいいのではないだろうか。永遠の童顔が身に付けても似合うスーツが開発されるべきだと世一はいつも思っている)、ふだんは下ろしている前髪をオールバックにして少しでも年相応に見えるように整えてきたというのに。
慕尼黑老牌酒店的顶层会员制酒吧。这就是凯撒指定的地点。接到着装要求的世一,套上了永远穿不惯的西装(这方面企业就不能再努努力吗?世一总想着该开发些适合永恒童颜的西装款式),甚至把平时放下的刘海全梳成背头,就为了让自己看起来稍微符合年龄些——
ムカつく! こいつ、1時間かけてセットした俺の髪、ぐちゃぐちゃにしやがった!
可恶!这家伙把我花一小时打理好的头发全弄乱了!
「離せっつーの!」 "放开啊!"
いつまでも世一の髪を弄んでいる腕を両手でつかんだが、世一よりもすぐれた体幹を持つ男の腕を退けるのは容易ではなかった。うなりながらどうにか腕を押し退けると、「相変わらず世一くんはフィジカルが雑魚ねぇ?」という嘲笑。取ってつけたような煽りだと頭の片隅ではわかっているというのに腹が立って、同時に、何年経ってもこの男が望むリアクションしか返せない自分が情けなくなる。
虽然用双手抓住了那只一直在玩弄自己头发的手臂,但要撼动这个体魄远超自己的男人谈何容易。当世一终于闷哼着推开那条手臂时,耳边立刻响起"还是一如既往的弱鸡体质呢"的嘲笑。明明理智知道这是拙劣的挑衅,却依然气得发抖,同时更痛恨时隔多年仍只会对这家伙做出预期反应的自己。
「うるっせえよ! この筋肉ダルマが!」 “吵死了!你这个肌肉不倒翁!”
あっちこっちに跳ねて鳥の巣になっているであろう髪の毛をなんとか後ろに撫でつけるも、途中でバカらしくなって諦めた。なんか、もうどうでもいいや。中途半端に乱れた髪型がツボにハマったのか、カイザーは声も出さずにカウンターに両肘をついて笑っている。クソがよ。おまえはそこで死にかけの蝉みたいに笑ってろ。
他手忙脚乱地想把四处翘起、活像鸟窝的头发往后捋顺,中途又觉得太蠢而放弃了。反正已经无所谓了。或许是因为这半乱不乱的发型戳中了笑点,凯撒把双肘撑在吧台上闷声发笑。混蛋。你就继续像只垂死蝉鸣般傻笑吧。
「——ご注文はいかがいたしましょうか」 “——请问您要点些什么?”
会話の途切れたタイミングで、カウンターの内側で待機していたバーテンダーがさりげなく声を掛けてくる。束の間ではあるが、バーにいることを完全に失念していた世一は肩を竦めながら隣にいる男の脇腹をこそこそとつついた。
趁着对话间隙,一直在吧台内侧待命的调酒师适时出声。虽然只是片刻,但完全忘记身处酒吧的世一缩了缩肩膀,偷偷用手肘捅了捅身旁男人的侧腹。
「おまえは何飲んでんだよ」 “你喝的是什么鬼东西”
「……ウォッカ・ギブソン」 “……伏特加吉布森”
まだ声震えてんじゃねーか。いつまで笑ってんだよ失礼な男だな。
声音还在发抖呢。这没礼貌的家伙到底要笑到什么时候。
説明しろよ、という意図をこめてじっとりとした視線を向けると、二、三度わざとらしく咳払いをしたカイザーは小馬鹿にするように「おまえはやめとけ」と鼻を鳴らした。そんなことを言われると、心の中にある天邪鬼が騒ぎ出す。
当我用充满“快给我解释清楚”意味的湿漉眼神盯着他时,凯撒故意清了两三下嗓子,轻蔑地哼了声“你最好别碰”。越是被人这么说,心里那个叛逆鬼就越发躁动起来。
「じゃあ、俺もそのギブソンお願いします!」 “那我也要一杯吉布森!”
溌剌と注文を伝えると、バーテンダーはうなずいて準備に取り掛かった。
酒保点点头,精神抖擞地开始调制酒水。
「てめえ、話聞いてんのか」 “你小子有在听人说话吗?”
グラスを傾る隣の男が、呆れた声を出す。 身旁的男人晃着酒杯,发出无可奈何的声音。
「強い酒だからやめとけっつってんだよ」 “都说了这酒太烈别喝”
「だいじょーぶだって。この4、5年でだいぶ強くなったから」
“没问题的啦。这四五年我酒量见长不少”
「…………」 “…………”
怜悧な半眼は、どう見ても疑っているという顔だ。けれども世一だって来年で30になる。血液がビールでできている勇敢なゲルマンの子孫たちに鍛えられて、20歳そこそこのころに比べて酒には強くなったのだ。
那双精明的半睁眼眸里分明写满怀疑。但世一明年也要三十了。被血液里流淌着啤酒的勇猛日耳曼后裔们锻炼多年,比起二十出头时确实更能喝了。
「お待たせいたしました」 “让您久等了”
世一の目の前に、カイザーとそろいの逆三角形のグラスが差し出された。無色透明の液体の中に、親指の先ほどのパール状のものが沈められている。
世一面前,凯撒递来一对配套的倒三角杯。无色透明的液体里沉着一颗拇指尖大小的珍珠状物体。
「この丸いの、何?」 “这个圆球是什么?”
世一は顔を傾け、グラスの横から銀色のピックに刺さったそれを眺めた。「パールオニオン」とカイザーは答える。
世一歪头打量着插在银色签子上的圆球。凯撒答道:“珍珠洋葱”。
「ちっちゃいサイズの玉ねぎってこと?」 “这是迷你尺寸的洋葱吗?”
「の、ピクルスだが」 “不、是腌珍珠洋葱”
「へえ。確かに、真珠みたいだ」 “哇哦。确实像珍珠一样呢”
バーカウンターの真上からの照明を受けて輝く小粒のオニオンは、海の底に沈む真珠のようだった。クリアなカクテルとも相まって、まばゆく発光しているように見える。
在吧台正上方灯光的照射下,那些晶莹剔透的小洋葱粒宛如沉入海底的珍珠。搭配清澈的鸡尾酒,更显得熠熠生辉。
世一はおそるおそるグラスを傾け、カクテルを口に含んだ。舌の上の味蕾がざわめくような強いアルコールの刺激と、追いかけるようにほろ苦いハーブの香り。ウォッカベースということもあって、かなり辛口のカクテルだ。
世一小心翼翼地倾斜酒杯,将鸡尾酒含入口中。舌尖味蕾立刻被强烈的酒精刺激所唤醒,随后涌上的是略带苦涩的草本香气。以伏特加为基酒的这款鸡尾酒,确实属于相当辛辣的类型。
「ウォッカにドライベルモット。大人の味だろう?」 "伏特加配干苦艾酒。成年人的味道对吧?"
隣で世一の挙動を見守っていた男が笑いを忍ばせた声で言う。
身旁一直观察世一举动的男人憋着笑意说道。
「……飲めなくは、ない」 "......倒也不是不能喝"
「無理すんな。クソ甘党の癖に」 “别逞强了,明明是个甜食党”
「つうかこの味、どっかで飲んだことある気がすんだよなぁ……」
“话说这个味道,总觉得在哪儿喝过啊……”
ほろ酔いを飛び越え、大脳辺縁系に会心の一撃を与える度数の高いアルコールと、複雑なハーブの香り。どこかで世一は口にしたことがあった。いったいどこでだろう。いつのことだったっけ。
越过微醺直击大脑边缘系统的高度酒精,混合着复杂的草本香气。世一确实曾在某处品尝过这种味道。究竟是哪里呢?又是什么时候的事呢。
ふいに思い出したのは、キャンドルを灯したテーブルを吹き抜ける6月の風、頭上できらめく無数のランタン、新郎新婦たちの豪快な皿割りの儀式、それを笑いながら眺めているカイザーの横顔だった。
突然浮现在记忆里的,是六月微风拂过烛台的餐桌,头顶摇曳的无数灯笼,新郎新娘们豪迈的摔盘仪式,以及笑着旁观这一切的凯撒的侧脸。
「そうだ、これ——マルの結婚式だ!」 "对了,就是这个——马尔的婚礼!"
早押しクイズの回答者のように意気ごんで答えたというのに、カイザーは同じ記憶にたどり着いていないのか、「はあ?」という顔をしている。
明明像抢答节目选手般气势十足地回答了,凯撒却似乎没联想到相同的记忆,一脸"哈?"的困惑表情。
「うそうそ、覚えてねぇの?」 "骗人的吧,你不记得了?"
「ア? マルクスの結婚式だろ? それは覚えてる」 "啊?马克思的婚礼对吧?那个我记得"
「マルのおじさんが、結婚のお祝いに作ったオリジナルのシュナップスをみんなにふるまってくれたじゃん」
"马鲁大叔不是把他特制的结婚贺礼烧酒分给大家喝了嘛"
今から7年近くも前の話だ。バスタードの同僚であるDFのマルクス・クローゼ——身長2メートルを超える大男なのに、どこか愛嬌のある柴犬のような顔をした同僚を世一は親しみをこめて「マル」と呼んでいた——が結婚することになり、世一は他の選手たちといっしょに前夜祭と結婚式に招かれたのである。
这是将近七年前的事了。巴斯塔德俱乐部的后卫同事马库斯·克洛泽——这个身高超过两米却长着柴犬般憨厚面孔的大个子,被世一亲切地称作"马鲁"——即将结婚,世一和其他队员受邀参加了婚前派对和婚礼。
夕刻から始まったガーデンパーティには、たった数週間前にレ・アールから古巣のバスタードに戻ってきたばかりのカイザーも何食わぬ顔で参加していた。ユース時代からバスタード・ミュンヘン一筋のマルクスと、レ・アールでの充実した4シーズンを引っ提げて戻ってきた皇帝様は、下部組織時代からの腐れ縁であったらしい。
从傍晚开始的花园派对上,几周前刚从雷阿尔转会回老东家巴斯塔德的凯撒也若无其事地出席了。这位在青年队时期就效力于巴斯塔德·慕尼黑的马库斯,与带着雷阿尔四年辉煌战绩归来的"皇帝陛下",据说从青训时期就有段孽缘。
マルクスの親戚に蒸溜所の仕事をしている人がいて、彼が新郎新婦のために特別なシュナップス——じゃがいもを原材料とした蒸留酒のことだ——をオリジナルで作ってくれたのだ。夏の夜にぴったりな、ハーブを効かせたふくよかな香りは、ウォッカ・ギブソンに使われているドライベルモットとどこか似ている。
马库斯有位亲戚从事蒸馏酒酿造工作,特意为新人特制了这款以马铃薯为原料的烧酒。那适合夏夜的馥郁草本香气,与伏特加吉布森鸡尾酒中使用的干苦艾酒有几分相似。
新英雄大戦であれだけ激しく火花を散らし合ったというのに、〝青い監獄〟を出てからまったく接点のなかったカイザーと世一は、同僚の結婚式という場所で5年ぶりに顔を合わせることになった。
在新英雄大战中曾激烈交锋的凯撒与世一,离开"蓝色监狱"后便再无交集,却在同事的婚礼上时隔五年再度重逢。
完全に接点がなかったということはない。世一のスマートフォンにはカイザーの連絡先が入っていたし、当然カイザーも世一の連絡先を把握していた。
说完全没联系也不尽然。世一的手机里存着凯撒的联系方式,凯撒自然也知道世一的号码。
新英雄大戦が終幕し、各国リーグから訪れていた海外組が帰国の途に着く朝。涙ぐみながらノエル・ノアに最後の挨拶をしていた世一は、いきなり後ろから首根っこをつかまれた。
新英雄大战落幕的清晨,各国联赛的海外球员即将启程回国。正含着泪向诺埃尔·诺亚道别的世一,突然被人从背后揪住了后颈。
「おまえなあ! 俺は猫じゃねえんだよ!」 "喂!我可不是猫啊!"
世一はげほげほと咳きこみながら、自分を苦しめた張本人を睨みつけた。カイザーはスンとした顔のまま、ノアとツーショットを撮るために右手に握られていた世一のスマートフォンを素早く奪い取った。
世一咳得撕心裂肺,恶狠狠瞪着罪魁祸首。凯撒板着脸迅速夺走他右手里紧握的、原本准备和诺亚拍双人照的智能手机。
「ッ、あにすんだよ、返せよ!」 "混、混蛋还给我!"
「黙ってろ。つーか、ちょっとじっとしろ」 "闭嘴。还有,给我老实点"
そう言ってスマホの画面を世一の顔に向け、顔認証のロックを解除させる。あっと思ったときには見知らぬ番号を打ちこまれ、電話をかけられたあとだった。30秒にも満たない早技。あんぐりと口を開けたままの世一にポイ、と端末を放って寄越した皇帝は、小馬鹿にするようにヒラヒラと手を振ってバスに乗りこんだ。
话音未落就将手机屏幕对准世一脸部解锁。等世一回神时,陌生号码已被输入并拨出了电话。整套动作行云流水不到三十秒。皇帝把手机抛还给目瞪口呆的世一,像打发小孩似地挥了挥手便登上巴士。
「何、今の? 潔くん、皇帝サマの番号ゲットしたん?」
“刚才那是?洁同学,你拿到皇帝大人的联系方式了?”
「エッゴ。早技、早技」 “诶嘿。手速快,手速快”
「ちょっと潔くん、息してる?」 “喂喂洁同学,你还有在呼吸吗?”
雪宮につつかれ、世一はハッと我に返った。エンジンをかけて待機しているバスに駆け寄り、窓際に座った男を睨み上げる。
被雪宫戳了戳,世一猛然回过神来。他冲向那辆引擎轰鸣待命的巴士,怒视着靠窗而坐的男人。
「おいクソカイザー! 何のつもりだよ!」 "喂,混蛋凯撒!你什么意思?!"
カイザーは窓から世一を見下ろして意味ありげに微笑み——シャッとカーテンを閉めて世一を視界から消した。そのいかにもな人をおちょくった態度。BLTVの撮影が入っているのも忘れて世一は完全にブチギレた。
凯撒从窗口俯视着世一,意味深长地笑了笑——唰地拉上窗帘将世一隔绝在视线之外。那副明摆着戏弄人的态度。完全忘记 BLTV 正在拍摄的世一彻底暴怒了。
中指を立てた世一が「おまえだけは絶対に殺してやるからな!!!! 首洗って待ってろよ!!!!」と叫ぶのを、ドイツ棟の面々は「まーたベストカップルがなんかやってらぁ」「けどこれがもう見られへんと思うと、なんやさびしいね」「同意、同意」「南無阿弥陀部ア〜ップ!」とほのぼのとした目で見守ったのだった。
当中指朝天的世一怒吼"老子绝对要宰了你!!!!给我洗干净脖子等着!!!!"时,德国栋的众人用温馨的目光注视着这一幕:"哎呀最佳 CP 又在闹腾了""不过想到以后可能看不到这种场面,总觉得有点寂寞呢""同意同意""南无阿弥陀部 UP~!"
そういうわけで、お互いに連絡先は把握していた。5年待たなくても接点を持とうと思えば持てた。けれども、帰国前に強引に自分の番号を押しつけてきた男は連絡ひとつ寄越さなかった。カイザーはどうだか知らないが、世一は何度かショートメッセージを送ろうとしたことがある。結局、何を書いても既読スルーされるような気がして、送ることができなかった。
正因如此,双方其实都存着彼此的联系方式。就算不等五年,只要想联系随时都能联系上。但那个在回国前硬塞给自己号码的男人,却连条消息都没发过。世一不知道凯撒那边如何,他自己倒是好几次想发短信。可总觉得无论写什么都会被已读不回,最终都没能按下发送键。
サッカーを続けていれば、いつかまた会える。同じヨーロッパで戦っているんだ。きっと、すぐにでも。それまではあいつの息の根を止めるための己の武器を磨き続けよう。そう思ってめまぐるしい日々を過ごすうちに、あっという間に5年が過ぎていた。
只要继续踢足球,总有一天会再相见。毕竟我们都在欧洲赛场征战。肯定很快就能重逢。在那之前,我要继续打磨自己作为终结那家伙的武器。怀着这样的念头度过忙碌的日日夜夜,转眼间五年就过去了。
久しぶりに顔を合わせるカイザーは、落ち着きと余裕を兼ね備えた精悍なフットボーラーになっていて、ずいぶん人間らしかった。前は集団の中にあって決して混ざらず、何者にも靡かず、生まれる場所を間違えた異邦人のような顔をしていたのに。
久别重逢的凯撒,已然成长为兼具沉稳与从容的悍将,多了不少人情味。从前他即便身处人群也绝不融入,不向任何事物低头,总带着生错地方的异邦人般的神情。
ドイツの結婚式にはポルターアーベントという風習がある。みんなで持ち寄った大量の陶器を地面に叩きつけて割り、最後に新郎新婦が片づけることで初めての共同作業を行うというものだ。陶器が割れるにぎにぎしい音には悪魔を遠ざける力があるとされ、古くから魔除けと、新しい夫婦の門出を祝う儀式として続けられてきた。
德国婚礼有个叫 Polterabend 的传统习俗。大家带来大量陶器砸碎在地,最后由新人共同清扫完成首次协作。据说陶器碎裂的喧闹声能驱散恶魔,这个祈福新人婚姻美满的古老辟邪仪式一直延续至今。
世一も呼ばれて何枚か皿を割ってきた。世一の手を離れた白いディナープレートは、ガチャンと音を立てて粉々になった。
世一也被邀请来摔了几只盘子。从他手中坠落的白色餐盘哗啦一声碎成齑粉。
「おまえはやんねえの?」 “你不来试试吗?”
席に戻ってきて目の前に座る男に尋ねると、「見ているほうが面白いからいい」とカイザーはワインをあおりながら言った。
回到座位后,我向坐在对面的男人问道。凯撒啜饮着葡萄酒回答:“看你们玩更有意思。”
「見てみろ。さっきからマルクスが割ってる壺が全然割れねぇんだ」
“快看,马克斯砸了半天的陶罐一个都没碎。”
彼は面白そうに顎をしゃくった。 他饶有兴致地扬了扬下巴。
「そんなことある?」 “怎么可能有这种事?”
世一が視線を向ければ、マルクスが片手で持てるほどの小さな青い壺を地面に叩きつけるところだった。ゴトン、と音はするのに壺はまったくの無傷である。なんらかの理由でクッション性が高いのか、金属でも練りこまれているかビクともしない。
世一转头望去,只见马克斯正要将一个巴掌大的蓝色小壶往地上摔。虽然发出"咚"的声响,壶却完好无损。不知是因为特殊缓冲材质,还是混入了金属成分,壶身纹丝不动。
みなが持ち寄った陶器はすべて砕け散り、最後に残った陶器はその壺だけになってしまった。プロフットボーラーのパントキックをもって壁に蹴り上げても、マルクスがジャンプして飛び乗っても、星の明るい夜空の色をした壺は無傷だった。マルクスは結婚式だということも忘れて上着を脱ぎ捨てて半裸になり、ふうふう言いながら壺を割ろうとした。
众人带来的陶器全都摔得粉碎,最后只剩下这个壶。即便用职业足球运动员的凌空抽射踢向墙壁,或是马克斯跳起来重重踩踏,这个泛着星夜色彩的壶依然毫发无伤。马克斯连正在举行婚礼都忘了,甩掉外套半裸着身子,气喘吁吁地继续尝试砸碎它。
カイザーはそんなマルクスの姿を見て、口を大きく開けて笑いながら合いの手を入れていた。
凯撒看着马克斯这副模样,咧开大嘴笑着起哄。
——ああ、こいつも声を上げて笑うんだ。 ——啊,这家伙也会放声大笑啊。
なんだかホッとして、それから妙に胸のあたりがぎゅっと苦しくなった。世一は、この日のために特別にブレンドされたというシュナップスをあおった。20そこそこの世一にとっては辛口で、味わうというところまで到底辿り着けない大人の味だったが、夏の草いきれを封じこめたような濃いビリジアングリーンの風味は嫌いではなかった。
不知为何松了口气,随后胸口却莫名一阵发紧。世一仰头灌下那杯据说是为今天特别调制的烈性利口酒。对于二十出头的世一来说太过辛辣,根本谈不上品鉴的成人滋味,但那仿佛封存了夏日草木蒸腾气息的浓重碧绿色风味倒也不令人讨厌。
短夜のぬるい空気、陶器を割る賑やかな音、奮闘する新郎を囃し立てる歓声と指笛、声を上げて笑うカイザーの横顔。甘くてくすぐったい記憶が、ウォッカ・ギブソンの香りに紐づけられて馥郁と立ち昇る。
短夜温热的空气、瓷器碎裂的喧响、众人起哄新郎的欢呼与口哨、放声大笑的凯撒侧脸。甘甜又刺痒的记忆,随着伏特加吉普森的香气馥郁地升腾而起。
「——準備は、進んでんのか」 "——准备得怎么样了"
遠い結婚式の記憶に沈んでいた世一は、カイザーの言葉に現実に引き戻される。目的語のない言葉ではあったが、言わんとしていることはすぐにわかった。暗いトンネルから急に外に出た人のように目をパチパチとさせてからうなずく。
沉浸在遥远婚礼记忆中的世一,被凯撒的话语拉回现实。虽然对方的话没有明确宾语,但他立刻明白了言外之意。就像突然从黑暗隧道走到阳光下的人那样眨了眨眼,然后点了点头。
「まあ……ぼちぼち、ってとこ。ちょっとかしこまった食事会って感じだから、そこまですることもないし。向こうの希望で、家族と親戚だけでこじんまりやろうって。だから——その、おまえのこと、招待できなくてごめん」
"嗯......差不多吧。就是个稍微正式点的聚餐,所以也不用太隆重。按对方的意思,就只请家人亲戚简单办一下。所以——那个,没能邀请你,抱歉啊"
「おまえはバカか? 元恋人を結婚式に呼ぶやつがあるか」
"你是白痴吗?哪有邀请前任参加婚礼的"
カイザーは心底おかしそうに笑った。 凯撒打从心底觉得好笑似地笑了起来。
「はは、まぁそれもそうか」 "哈哈,也是啊"
心にずっと引っかかっていたことを消化できたような気がして、肩の力が抜ける。自分の結婚が決まったことを、世一はカイザーに直接伝えられなかった。かろうじてネスには伝えたが(「なんでそれを僕に言うんですか?」とネスは電話の向こうで怒り狂っていた)、ふたりの関係を完全にゼロにする言葉をカイザーに告げる勇気を世一は持てなかったのだ。別れてからすでに5年が経過し、フィールドの上で火花を散らす以外はプライベートで会ったこともないというのに。
心中长久以来的郁结似乎终于得以消解,肩膀的力道也随之松懈下来。世一始终没能亲口向凯撒告知自己即将结婚的消息。虽然勉强告诉了内斯("为什么要对我说这种事?"电话那头的德国人几乎暴跳如雷),但世一终究缺乏勇气向凯撒说出彻底斩断两人关系的决绝之词。明明分手已逾五年,除却在绿茵场上兵戎相见外,私下里再未有过交集。
世一とカイザーが恋人だった期間は、実はそれほど長くはない。カイザーがバスタードに戻って来て、世一のチームメイトになった2シーズンのうちの半分ほどだ。恋人になったら自分たちの間にあるサッカーが変容してしまうのではないかと世一は密かに恐れたが、驚くくらいサッカーはサッカーのままだった。
世一与凯撒相恋的时光,其实并不算长久。不过是凯撒回归拜塔,成为世一队友那两个赛季中的半数光阴。世一曾暗自担忧成为恋人后两人之间的足球会变质,但令人惊讶的是,足球依然只是足球。
恋人としてカイザーと睦み合うことと、ひとつのボールを奪い合ってピッチの上で刺し違えることは、彼らにとってはほとんど同質のものだったのである。何もなければ世一はそのままずっとヨーロッパにいて、カイザーと恋人を続けていたかもしれない。
以恋人身份与凯撒耳鬓厮磨,和在绿茵场上为争夺一粒皮球以命相搏,于他们而言几乎是同质的存在。若非意外,世一本该继续留在欧洲,与凯撒维持着恋人关系吧。
けれども岐路は唐突に訪れた。 然而转折来得猝不及防。
世一の父親が脳梗塞で倒れたのだ。なんとか一命は取り留めたものの、日常生活に戻るために長期のリハビリが必要となった。世一はすぐさまバスタードに掛け合い、日本の国内リーグに己の移籍先を探してもらった。
世一的父亲突发脑梗塞倒下。虽然勉强保住了性命,但需要长期康复治疗才能回归日常生活。世一立刻与巴斯塔德协商,请对方帮自己在日本国内联赛寻找转会下家。
——どこにいたってサッカーはできる。次のワールドカップで優勝するのは日本だし、バロンドールだって狙い続ける。おまえとのことだって、俺は諦めたつもりはないよ。
无论在哪儿都能踢足球。下届世界杯夺冠的会是日本队,金球奖我也会继续争取。至于和你的事——我从来没打算放弃。
日本に帰る日、カイザーの背中に手を回した世一は言った。
回国那天,世一搂着凯撒的后背这样说道。
幸いにも〝青い監獄〟の申し子の獲得に複数のクラブが名乗りを挙げ、埼玉の実家と病院に通いやすい東京のクラブに世一は2年契約で入団することになった。
幸运的是,多家俱乐部都向这位"蓝色监狱"的天之骄子抛出橄榄枝,最终世一与东京某支方便往返埼玉老家和医院的球队签下两年合约。
サッカー選手としてはまだまだこれからの年齢だったし、実力不足でバスタードを追い出されたわけではないから、想定していたよりも多く移籍金を積み上げることができた。初めての海外挑戦からずっと面倒を見てくれたクラブに恩を返す形で、世一はバスタード・ミュンヘンを退団した。
作为足球运动员他正值上升期,且并非因实力不济被慕尼黑 bastard 队放弃,因此转会费比预期高出不少。世一以报恩形式离开了曾扶持他完成首次海外挑战的 bastard 慕尼黑俱乐部。
週末は試合、平日は練習の合間を縫って父親の病院に付き添う。日本代表の活動期間には、W杯のアジア予選や親善試合に駆り出されるハードな日々。
周末比赛,平日则见缝插针往返于训练场与父亲病榻之间。日本国家队征召期间,更要在世界杯亚洲区预选赛和友谊赛中疲于奔命。
日本のサッカー界に〝青い監獄〟前と〝青い監獄〟後、という表現が定着しているくらいには、日本のサッカーを取り巻く環境は2018-2019年を境に大きく変わった。長らく欧州の所有物であったサッカーに日本は風穴を開け、新しいチャレンジャーとして名乗りを挙げたのである。
日本足坛已普遍使用"蓝色监狱前"与"蓝色监狱后"来划分时代——2018 至 2019 年确实彻底改变了日本足球的生态环境。这个长期被欧洲垄断的领域终于被日本撕开缺口,新兴挑战者正式登上历史舞台。
だが、必ずしも順風満帆というわけではなかった。安定した土壌のあるヨーロッパと違って日本のサッカーはまだ完全に育ちきっていなかった。アジアでは無双していても、対ヨーロッパとなると勝敗は五分五分という運頼み。ブルーロック世代とその上の世代とに隔絶があるのもまた頭の痛い問題だった。
然而,并非一帆风顺。与拥有稳定土壤的欧洲不同,日本足球尚未完全成熟。虽然在亚洲所向披靡,但面对欧洲球队时胜负只能听天由命。蓝锁世代与更早世代之间的断层同样令人头疼。
そんな折、世一は日本代表のキャプテンマークを託されることになる。30歳以上のベテラン勢を差し置いての英断を行ったのは、もちろん監督の絵心甚八だった。若干24歳の新キャプテンに対する風当たりは当然のことながら強いものだった。
就在此时,世一被委以日本代表队队长重任。越过三十岁以上的老将们做出这番英明决断的,自然是主教练绘心甚八。年仅二十四岁的新任队长,理所当然地面临着强烈反对声浪。
チームは世一以下若手とベテラン勢との二極化が進み、ギクシャクとした雰囲気だった。当然、チーム内の不和はピッチ上に現れる。世一がキャプテンになってからも日本代表は振るわず、白星を逃し続けた。スタジアムはブーイングの嵐で、罵声やヤジも日常茶飯事だった。『〝青い監獄〟は絵に描いた餅』『チームは空中分解寸前』といった扇情的な見出しがスポーツ紙を連日飾った。
球队逐渐分裂为以世一为首的年轻派与老将派两大阵营,氛围日益紧张。队内不和自然反映在赛场表现上。自世一担任队长以来,日本代表队持续低迷,屡屡错失胜利。体育场里嘘声四起,辱骂与倒彩已成家常便饭。"蓝色监狱不过是画饼充饥""球队濒临分崩离析"等煽动性标题连日占据体育报纸头版。
それでも世一は重いキャプテンマークを左腕に巻き、毅然と前を向いた。試合終了後のキャプテンインタビューをかき消すほどのブーイングが起こっても、胸を張ってインタビュアーの質問にひとつひとつ丁寧に答え、言い訳めいたことは一切口にしなかった。
即便如此,世一仍将沉重的队长袖标牢牢系在左臂,毅然昂首前行。即便赛后队长采访被震耳欲聋的嘘声淹没,他依然挺直腰杆逐一认真回答记者提问,从未吐露半句推诿之词。
「チームの雰囲気は悪くありません。みんな監督を信じています」
"球队氛围很好,大家都信任教练"
「決めきれなかったのは、俺が力不足だったせいです」
"没能拿下比赛,是因为我实力不足"
「サポーターの信頼は、プレーで勝ち取りたいと思っています」
"我想用表现来赢得球迷们的信任"
そう言って、スタジアムのサポーターたちに深々と頭を下げた。
说完这番话,他向球场看台的球迷们深深鞠了一躬。
離れていてもカイザーとの関係は変わらないと思っていた。会えなくてもビデオ通話をして、ささやかな日常の出来事をメッセージで送り合った。だが、身体も心も悲鳴を上げるような日々に、世一の中で何かが少しずつ調子を崩し軋んでいった。
即使分隔两地,我也以为和凯撒的关系不会改变。就算无法见面,我们也会视频通话,通过消息分享彼此的日常琐事。但在身心都发出悲鸣的日子里,世一内心有什么东西正逐渐失衡崩坏。
以前だったら、取り損ねた電話は気づいたときにすぐに掛け直していたのに「ごめん、疲れてるからまた明日連絡する」というメッセージにとって代わられ、ひとりごとのようなカイザーからのメッセージに返信する頻度もどんどん減っていった。カイザーはそれを責めたり咎めたりしなかった。そうして完璧な形をしているように見えた愛は静かに脆く消え去った。
若是从前,错过未接来电时总会立刻回拨,如今却被"抱歉太累了明天再联系"的讯息取代,回复凯撒那些自言自语般消息的频率也越来越低。凯撒从未责备或怪罪过什么。就这样,看似完美的爱情在寂静中脆弱地消散了。
嫌いになって別れたわけじゃなかった。いろいろなものにがんじがらめにされて動けなくなった世一が、関係を支えられなくなったというだけ。
并非因为厌倦而分手。只是被各种现实枷锁束缚得动弹不得的世一,再也维系不了这段关系。
父親が長く苦しいリハビリを終えて仕事に復帰し、潔家に日常が戻って来たのはおよそ3年後。再びの海外挑戦を受け入れてくれたのは、世一を快く送り出してくれた古巣のバスタード・ミュンヘンだった。
父亲结束漫长痛苦的复健重返职场,洁家重拾日常生活已是三年后的事。愿意再次接纳海外挑战的世一,是昔日母队拜仁慕尼黑欣然送他踏上新征程。
世一と入れ違いでカイザーはイタリアのチームへと移籍しており、彼とは会わずじまいのまま時間だけが過ぎた。その間に世一は一人のドイツ人男性と出会い、彼からの熱烈なラブコールに応える形で恋人となった。
世一前脚刚走,凯撒就转会去了意大利球队,两人再未谋面,时光就这样悄然流逝。在此期间,世一邂逅了一位德国男性,在对方热烈的求爱攻势下,两人确立了恋爱关系。
恋人は5歳年上の広告プランナーで、世一とはWEB広告の仕事で知り合った。穏やかで誠実で、どんなときも世一のことを気にかけてくれる。ピッチ外ではあまり主張のない世一に「もっとわがままを言ってくれないと僕がすることがない」と嘆くくらいには、大切にしてもらっている。
这位年长五岁的恋人是广告策划师,与世一因网络广告项目结缘。他性格温和诚恳,无时无刻不惦记着世一。连在球场外鲜少提要求的世一都被他抱怨"你不多撒撒娇的话,我就没事可为你做了",可见其珍视程度。
——ヨイチ、君のことを家族に紹介したい。 世一,我想把你介绍给我的家人。
そう言われるまま向こうの家族に引き合わされ、気がついたときには結婚する流れになっていた。サッカーをすること以外にこれといって取り柄のない自分には、もったいないくらいの相手だと思う。離れて暮らす世一の両親をいつも気にかけてくれて、いずれはこっちに呼び寄せたらいい、家族は近くで暮らすものだから、と言うような人だった。
就这样顺其自然见了对方家长,回过神来婚事已提上日程。世一总觉得对于除了踢球外别无所长的自己来说,这段姻缘实在太过奢侈。对方总惦记着与世一分居两地的父母,常说"早晚该把二老接来,家人就该住得近些"。
もちろん、遊びで付き合っているわけではなかった。ちゃんとそこに気持ちはあるし、身体の相性だって悪くない。世一は、彼の腕の中に幸福を見つけることができる。それなのにどうしてか、たまらなく胸が苦しくなることがあった。
当然,这绝非逢场作戏。他确实怀揣着真心,身体也无比契合。世一明明能在他臂弯里寻得幸福,可为何胸口总会不时涌起难以忍受的绞痛?
だから、長い間止まっていた時計の針が動き出すように、こうしてカイザーと会話をできるのはとても不思議で、同時におかしかった。だって、お互いの髪の毛を引っこ抜く勢いでいがみあっていた自分たちが、こうして静かなホテルのバーで酒を酌み交わしあっているのだ。時間は人間を待っていてはくれない。
所以当停滞多年的时针突然转动,像这样与凯撒对酌才显得如此荒诞又奇妙。毕竟当年互相揪着头发厮杀的两人,此刻竟在静谧的酒店酒吧推杯换盏。时光从不为任何人驻足。
カイザーと世一は何倍も杯を重ね、とりとめもない雑談で昔を懐かしんだ。監獄で出会ってからは12年、十分な〝昔話〟だ。話しながら世一は気づいてしまう。どんなささいな思い出の中にも、この男の姿があることに。——カイザーの恋人として過ごした4つの季節を、世一は今でも忘れられないでいる。
交错的酒杯映出十二载光阴,从监狱初遇算起,他们已有足够多的"往事"可供追忆。闲谈间世一蓦然惊觉——每个琐碎回忆里都烙着这个男人的身影。作为凯撒恋人度过的那四季轮回,至今仍在心底灼烧。
「それで? いつまで経ってもクソ未成年の世一くんは、何色のタキシードにしたんだ?」
"所以呢?永远长不大的臭小鬼世一,最后选了什么颜色的燕尾服?"
「ふつーに、白……だけど」 "普通的...白色就好"
アルコールのせいか、いつになくわかりやすく上機嫌を滲ませたカイザーの問いに、世一はしぶしぶと答える。
或许是酒精的作用,面对难得明显表露出愉悦情绪的凯撒的询问,世一不情不愿地回答道。
世一としては少しでも大人っぽく見える、ブラックかダークグレーのタキシードがいいと思ったのだが、いつもは世一の意見を何よりも尊重してくれる婚約者はなぜかそこだけは頑として譲らなかった
世一本想选择看起来更成熟的黑色或深灰色燕尾服,但平时最尊重他意见的未婚夫唯独在这个问题上异常固执。
「まっさらな白にすべきだよ。ヨイチ、いくつになっても純粋でピュアな君にぴったりの色だ」
"就该选纯白。无论多少岁,这颜色都最适合纯粹无瑕的你啊"
何度もそう説得されて、反論するのが億劫になってしまった。押し切られるように色とデザインが決まり、世一はベルトコンベアーに乗せられた流れ作業の商品のように身体のあちこちをメジャーで測られることになった。
被这样反复劝说后,世一已经懒得反驳了。他就像被流水线传送带运送的商品般,任由对方用卷尺测量身体的各个部位,最终在强势主导下确定了颜色和款式。
白か、とカイザーは短く言ってフッと笑った。 "白色。"凯撒简短地说完,轻蔑地笑了一声。
「なんだよ。またガキくさいって言うんだろ、どうせおまえは——」
"干嘛啊。反正你又要说我幼稚对吧——"
言葉を続けようとした世一は、焼けつくような視線を頬に感じ、グラスに伸ばしかけた手を止めた。
正要继续说话的世一突然感到脸颊烧灼般的视线,伸向玻璃杯的手顿时僵在半空。
「何色にも染まるつもりなんてないくせに。おまえはそんな御しやすい男じゃないだろう? 潔世一」
"明明没打算被任何人染指。你可不是那种好摆布的男人吧?洁世一"
カイザーは厳しい目でひたりと世一を見据えていた。美しい形をした薄い唇は弧を描いていたが、瞳の奥には怒りにも似た烈しい色の炎が燃えていた。
凯撒用锐利的目光紧紧盯着世一。形状优美的薄唇勾勒出弧度,但眼眸深处却燃烧着近似愤怒的炽烈火焰。
おまえのことをいちばん理解しているのはこの俺だ。
最了解你的人就是本大爷。
神経に直で電流を流されたようにカイザーの声が流れこんできて、世一はぶるりと全身を震わせた。パチ、と熾火が爆ぜるように肌が燃え、身体の奥がにわかに熱を持つ。
凯撒的声音如同电流直击神经般传来,世一浑身剧烈颤抖。啪地一声,肌肤如同炽火迸裂般燃烧起来,身体深处突然涌起热流。
凍りついた世一の頭に手を伸ばし、カイザーは乱れたままだった髪の毛を整えた。手櫛で毛流れを整え、道具もワックスも使わずに仕上げていく。「あそこを見ろ」とカウンター奥に鎮座するワインセラーのほうに顔を向けさせられれば、黒い鏡状のガラスには、等身大の、それでいて垢抜けた髪型にスタイリングされた己の姿があった。
凯撒伸手抚平世一僵硬的发丝,不用发梳也不用任何造型产品,仅凭手指就将凌乱的发型梳理服帖。"看那边"——当他的脸被转向柜台深处的恒温酒柜时,黑镜般的玻璃映出身着正装的自己,那精心打理的发型与平日判若两人。
隣に寄り添うカイザーの姿に胸が締め付けられ、喉が詰まったように息が苦しくなる。
身旁凯撒的身影让胸口阵阵发紧,喉头仿佛被什么堵住般呼吸困难。
「——この髪型なら、白のタキシードにも似合うだろ」
"——这发型配白色燕尾服正合适吧"
自らの手で花婿の髪を整えてやった男の言葉がどうにもやるせなく、世一は弾かれたように席を立った。
亲手为新郎整理头发的男人说出这句话时,世一像触电般猛然从座位上弹了起来。
「っ、いきなりごめん。俺、そろそろ帰らないと——」
“啊、突然说这个抱歉。我差不多该回去了——”
札入れから二、三枚の札を取り出してカウンターに置き、逃げるように踵を返す。追いかけるように近づいてきた男に背後から腕を取られた。世一はうなだれて、首を振った。こんな顔をこいつに見られたくない。苦しくて苦しくて、鼻の奥が塩辛くなる。
从钱包里抽出两三张钞票放在柜台上,转身就要逃走。身后那个追赶般靠近的男人抓住了他的手臂。世一低着头,不住地摇头。不想让这家伙看到自己这副表情。胸口闷得发疼,鼻腔深处泛起咸涩。
「……せっかく誘ってくれたのに、こんな別れ方になってごめん」
“……难得你邀请我,却以这种方式告别,对不起”
ワインセラーの扉に映って見えたのは、自分たちが迎えられなかった別の世界のハッピーエンドに思えて仕方がなかった。何度も唾を飲みこんで、奥歯を噛み締めたけれどダメだった。瞳を覆い尽くした涙がぽろり、とこぼれ落ちる。
酒柜玻璃门上倒映的景象,怎么看都像是他们未能抵达的另一个世界的幸福结局。反复吞咽着唾液,咬紧后槽牙也无济于事。淹没眼眶的泪珠扑簌簌地滚落下来。
「おまえのことが、ずっと忘れられなかった」 "我一直没能忘记你"
絞り出すように言えば、腕をつかむ手がいっそう強くなる。
当这句话艰难地挤出喉咙时,抓住我手腕的力道又加重了几分。
言ってしまった。こんなこと、口にするべきじゃなかった。婚約者を傷つけ、ふたりの結婚を祝福してくれている人たちを裏切ることになる。何より、無関係なカイザーを巻きこんでしまう。
说出口了。这种话本不该说出来的。这会伤害我的未婚妻,背叛所有祝福我们婚姻的人。最重要的是,还会把无辜的凯撒卷入其中。
それなのにこの5年間誰にも見せたことのない弱さを、世一はこの男だけに無防備に晒してしまった。情けない。どうしようもない。ここから消えてしまいたい。
可这五年来从未向任何人展示过的脆弱,世一却唯独在这个男人面前毫无防备地暴露无遗。太丢人了。无可救药。真想就此消失。
「——ウォッカ・ギブソンのカクテル言葉は『隠しきれない気持ち』だ」
“——伏特加吉布森鸡尾酒的花语是‘藏不住的心意’”
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら手のひらで涙を拭っていた世一は、思わずすべてを忘れて振り返った。いつもは水を打ったように静かなカイザーの顔の上で、さまざまな感情が雲のように流れては消えて行く。
世一抽抽搭搭地用掌心擦着眼泪,闻言不禁忘了一切,转头望去。凯撒向来如止水般平静的脸上,此刻正有万千情绪如流云般浮现又消散。
「……俺の部屋に来るか?」 “……要来我房间吗?”
切羽詰まった声には、いつもの余裕はまるでなかった。
那紧绷的声音里,已寻不见半分往日的游刃有余。
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