うしろの悪魔はだあれ? 背后的恶魔是谁?
「何も聞かずに今日から俺に付きまとわれてくれ!」 “什么都别问,从今天开始就缠着我吧!”
BM所属if BM 所属 if
悪魔に憑かれたカイザー×悪魔が見える世一 被恶魔附身的凯撒×能看见恶魔的世一
カイザーが死なないように一緒に過ごすことにした世一とやけに甲斐甲斐しいカイザーのイチャイチャ7割なんちゃってファンタジー3割のお話です
这是一个关于世一为了不让凯撒死去而决定与他共同生活,以及异常殷勤的凯撒之间甜腻互动的故事——七分打情骂俏,三分伪奇幻元素
- 1,616
- 2,112
- 21,210
身体に衝撃を喰らった直後、脹ら脛に燃えるような痛みが走った。蹲ってみっともない悲鳴をあげるのは堪えたものの、額には脂汗が滲む。
身体遭受冲击的瞬间,小腿肚传来火辣辣的剧痛。虽然强忍着没蹲下发出丢人的惨叫,但额头上已渗出黏腻的冷汗。
耳鳴りに紛れて世一の名を呼ぶ声が聞こえ、駆け寄ってくるチームメイトの様子がうっすら見えた。その中にはカイザーもいて、こんな時なのにどんな表情をしているんだろうと気になった。
耳鸣声中隐约听见有人呼喊世一的名字,模糊视野里看见队友们正飞奔而来。其中竟连凯撒都在,这种时候那家伙会露出什么表情呢——这个念头莫名在脑海闪现。
目を凝らして捉えたあいつは、予想に反し口元を引き攣らせてこちらを見ている。なんとなく視線が世一のやや後ろに注がれているような気がしてギクリと肩を強張らせた。
当我定睛看清那家伙时,意外发现他正嘴角抽搐地望过来。隐约感觉他的视线似乎落在世一斜后方,顿时吓得肩膀一僵。
背筋に寒気を感じながらおそるおそる振り返る。 脊背窜过恶寒的同时,我战战兢兢地转过头去。
嘘だろ――。 开什么玩笑——。
そこには、カイザーと同じ顔で不気味に笑う美しい悪魔が佇んでいた。
那里伫立着一个与凯撒面容相同、正诡异微笑着的美丽恶魔。
うしろの悪魔はだあれ? 身后的恶魔是谁?
ガラス窓から練習場を見下ろせるバスタード・ミュンヘン自慢のクラブハウス食堂。ドイツ強豪チームの選手たちは午前練習を終え、栄養満点のランチにありついていた。
从玻璃窗可以俯瞰训练场的拜仁慕尼黑俱乐部引以为豪的餐厅。这支德国劲旅的球员们刚结束上午的训练,正享用着营养丰富的午餐。
それぞれ雑談を挟みながら和やかな空気と言いたいところだが、壁際のデカいモニターは爽やかとは言い難いニュースを映している。ミュンヘン郊外の一軒家が轟々燃え、消防隊員が懸命の消火活動に励んでいるなんともショッキングな映像だ。キャスターは放火犯がまだ捕まっていないので十分気をつけてくださいと、気をつけようのない不穏な注意喚起をした。
本想说是夹杂着闲谈的和睦氛围,但墙边的大型显示器却播放着令人难以称之为愉快的新闻。慕尼黑郊外的一栋独户住宅正熊熊燃烧,消防队员正拼命灭火的震撼画面。主播提醒道纵火犯尚未落网请务必小心,这种让人无从防范的不安警告实在令人不适。
カイザーはモニターから視線を世一に移してもう一度言ってくれと言う。
凯撒将视线从显示器移向世一,要求他再说一遍。
「だぁかぁらぁ、何も聞かずに今日から俺に付きまとわれてくれ!」
"所~以~说~,什么都别问就从今天开始缠着我吧!"
するとブロンドの毛先をブルーに染めた男は聞き間違いじゃなかったのかと形の整った眉をしかめた。そこへカイザー大好きMFのネスが鬼の形相で割り込んでくる。
闻言,那个将金色发梢染成蓝色的男人皱起形状姣好的眉毛,确认自己没听错。这时最爱凯撒的 MF 成员内斯便面目狰狞地插了进来。
「何言ってんですかクソ世一! 白昼堂々カイザーのストーカー宣言とはどういう了見です。場合によっちゃチームに報告して永久追放ですよ!!」
“你在胡说什么啊混蛋世界第一!光天化日之下竟敢对凯撒进行跟踪宣言,到底安的什么心?信不信我向战队举报让你永久除名!!”
「うっせぇ腰巾着! ストーカーじゃねぇし! 俺だってンなことしたくねぇわ! けど、見張っとかねぇと大変なことになんの!」
“闭嘴跟屁虫!谁他妈在跟踪啊!老子也不想干这种破事!但不盯着点就要出大乱子!”
「意味わかんねぇです! そんなこと言ってカイザーの弱みでも握ろうって魂胆でしょうが。そうは問屋が卸さ、ぎゃあ!」
“完全听不懂!说这种话分明是想抓住凯撒的把柄吧。老娘可不会让你得逞,啊——!”
「ネス、クソうるさい」 “内斯,吵死了”
キャンキャン吠える番犬をカイザーが頭を掴んで静止させ、改めて世一の目をじっと見てきた。
凯撒一把按住狂吠不止的看门犬的脑袋,再次直直凝视着世一的眼睛。
「理由を聞きたい」 "我想知道理由"
「そ、れは、言えない。でもほっとくと大変なことになるのは本当だから信じてほしいとしか……」
"那、那个...不能说。但放着不管真的会出大事,所以只能请你相信..."
自分でも説得力がないし、逆の立場だったら怪しすぎるなと思うので語尾が小さくなる。けれど、カイザーの真後ろに視線をやって、やっぱり放っておけないと唇を結ぶ。
连自己都觉得缺乏说服力,换位思考的话实在太可疑了,声音不由得越来越小。但视线掠过凯撒背后时,还是抿紧嘴唇下定决心不能坐视不管。
どうしよう、どうしたら分かってもらえるだろう。言葉に迷っていると、カイザーはふぅと一つ溜息をついた。
怎么办,要怎么做才能让他明白呢。正当我因找不到合适的话语而犹豫时,凯撒轻轻叹了口气。
「分かった。そこまで言うならストーカーさせてやる」
"知道了。既然你都说到这个份上,我就当回跟踪狂好了"
「カ、カイザァ!」 "凯、凯撒!"
情けない声を出すネスから手を放してカイザーは食べ終えたランチプレートを持って立ち上がる。そして世一に向かってついてこいと顎をしゃくった。
凯撒松开抓着尼斯的手——后者正发出没出息的哀鸣,端起吃完的午餐托盘站起身来。随后对着世一扬了扬下巴示意跟上。
よく分からないけど了承してくれたことにホッと胸をなでおろし、世一はカイザーに続いて食堂をあとにした。
虽然不太明白原因,但看到对方答应下来,世一松了口气,跟着凯撒离开了食堂。
世一は物心ついたころから人ならざるモノが見えた。どれもが人に憑いていて、角やコウモリみたいな羽、ツルツルの細長い尻尾を持っている。すぐにこれは両親や他の人には見えておらず、悪いモノだってことにも気づいた。なぜならソレが憑いている人はしばらくすると必ず不運な目にあっていたから。
世一从记事起就能看见非人之物。那些东西都附在人身上,长着犄角、蝙蝠般的翅膀或是光滑细长的尾巴。他很快意识到这些是父母和其他人都看不见的坏东西——因为被附身的人过段时间必定会遭遇不幸。
観察しているうちに、イタズラの程度は憑いているものがどれだけ本人に近しい形かということが分かってきた。コウモリ大のものは軽いケガや忘れ物なんかで済むが、子供くらいのサイズになるとまぁまぁ痛そうなケガになってくる。そして本人サイズになると命に関わる事態が起こっていた。
经过观察,他发现作祟程度与附身物的拟人化程度相关:蝙蝠大小的只会造成轻伤或丢东西之类的小麻烦;孩童体型的就会导致相当严重的伤势;而当附身物与宿主等身大时,就会发生危及性命的事件。
色々調べたりスピリチュアルに精通した人にも聞いてみたけれど、それが見えたとて世一にはどうすることもできない。下手に関わると何が起こるか分からないため、友達や両親に憑いたら気をつけてと声をかけるに留まった。
尽管查阅了很多资料,也请教过通灵人士,但即便能看见这些,世一依然无能为力。由于贸然干涉后果难料,他只能提醒被附身的朋友和家人多加小心。
ここまで説明すると察しがつくと思うが、この厄介な『悪魔』が今回はチームメイトでライバルであるカイザーに憑いているというわけだ。しかも悪魔のコスプレかと見紛うほど本人に近しい姿のソレ。顔だけはいい男なのでミステリアスな要素が加わったそいつは息を飲むほど美しい。が、命に関わる最悪なやつなのは間違いない。
说到这里想必你也猜到了,这次这个棘手的"恶魔"正附身在既是队友又是对手的凯撒身上。而且那家伙的形态与本人相似到几乎让人误以为是恶魔 cosplay 的程度。单论那张脸确实是个帅哥,加上神秘要素加持后更是美得令人窒息。不过,这绝对是个会危及性命的糟糕存在。
カイザーは初対面のときこそマウント癖のあるいけすかない男だったが、ブルーロックで世一が飛躍的に進化するきっかけとなったライバルだ。
凯撒初次见面时虽然是个爱摆架子的讨厌鬼,但正是这个在蓝色监狱里促使世界第一实现飞跃性进化的劲敌。
世一がドイツの同じチームにやってきてからも友達とまではいかないが、互いをずっと意識しあっているし、私生活でも何かと助けてくれる。ある意味友達よりもずっと特別な関係かもしれない。
即便世界第一来到德国同队后,虽说还算不上朋友,但彼此始终互相在意,私生活里也经常出手相助。某种意义上或许是比朋友更特别的关系。
だから、そんな奴が危険な状態にあるのを放っておくなんてできなかった。
所以,我怎么可能对处于危险状态的家伙坐视不管。
どうすることもできないけど、そばで見張ることによって危ない目に合うリスクを減らすことはできるんじゃないかと考えたのだ。
虽然无能为力,但想着只要在旁边盯着,或许能降低遭遇危险的风险。
カイザーについていき、向かい合って座ったラウンジの端。
跟着凯撒来到休息区尽头,面对面坐下。
食後のコーヒーを飲みながらカイザーは「で?」と世一にこれからどうするのか問いかける。世一は少し悩んでからオカルトな部分を避けて状況を伝えることにした。
啜饮着餐后咖啡,凯撒"所以?"地向世一询问后续打算。世一稍作犹豫后决定避开灵异部分说明情况。
「ちょっとおかしなこと言うけど、なるべく一人にならないでほしい。それから道路とか人混み多いところとかは警戒しすぎなくらいに警戒してほしい」
"虽然这话有点怪,但希望你尽量不要独处。还有在马路或人群密集的地方,请保持过度警戒也没关系的警觉性。"
「あ? 俺に殺害予告でも出てんのか?」 “哈?有人给我发死亡威胁了?”
「あ~、まぁそれに近しい」 “啊~差不多就是那种东西”
「ふぅん。それで世一くんがSP代わりになってくれるってわけ? クソ献身的じゃないか」
“哼。所以世一君要给我当保镖?这也太无私奉献了吧”
「なんでお前そんな楽観的なの?」 “你怎么能这么心大?”
殺害予告まがいなことが出ていると言われたら、普通は驚いたり焦ったりするもんじゃないのか? 殺害予告なんてされたことがないので分からないが、少なくともびっくりはすると思う。ところが、カイザーが特別動揺した様子はないし、むしろ面白がっている。
听说有人发出近乎杀人预告的威胁时,正常人不是应该惊慌失措吗?虽然我没收到过死亡威胁不太清楚,但至少会吓一跳吧。可凯撒这家伙非但没表现出丝毫慌乱,反倒一副乐在其中的样子。
「いろんな方面から恨みを買っている自覚はあるからな。いまさらそんなことで驚かない。むしろ今までよく刺されなかったもんだ」
"我早就知道自己树敌无数。事到如今这种威胁根本吓不到我。倒不如说能活到现在才被盯上算走运了"
「うわー、絶対自信満々に言うことじゃねぇだろ」 "喂喂——这种话不该说得这么得意洋洋吧"
ドン引いているとカイザーは鼻で笑った。 看我满脸嫌弃的样子,凯撒从鼻子里哼出一声嗤笑。
なんだか一緒にいるとかえって危ないんじゃないかという気がするが、気づいてしまったのだから仕方がない。だけどSPになるつもりもない。
总觉得和你待在一起反而更危险,但既然已经发现了也没办法。不过我可不打算当什么保镖。
「別に盾になったりしないからな。あくまでリスクを軽減することしかできない。俺だって命は惜しい」
"我可不会当什么肉盾。最多只能帮忙降低风险,毕竟我也很惜命。"
「よく分からんが、犯人が分かっているならそいつを先に捕まえりゃいいんじゃないのか?」
"虽然不太明白,但如果知道犯人是谁的话,直接抓住他不就好了?"
「それができたらラクなんだけど……お前悪魔とか信じる?」
"要是能那么简单就好了......你相信恶魔的存在吗?"
ちらりと様子を伺ってみる。カイザーは一瞬面食らってから「オカルトには興味無い」と言い切った。
我偷偷观察了一下情况。凯撒愣了一下,随即斩钉截铁地说:"我对灵异事件没兴趣。"
「だよなぁ」 "就是嘛"
「悪魔のしわざとでも言いたいのか」 "你是想说这是恶魔干的好事吗"
「そうだと言ったら?」 "如果我说是呢?"
「まぁ、クソ天使よりクソ悪魔のほうが親近感が湧きそうだ」
"比起混蛋天使,还是混蛋恶魔更让人有亲近感呢"
「……そのへんの思想はどうぞご自由に」 "……这种思想观念请随意"
こちとら悪魔信仰なんてしていないし、できることなら見たくもない。ちらりとカイザーの肩越しに視線をやる。今もばっちりくっきり悪魔カイザーがいる。
我可没有什么恶魔信仰,可能的话连看都不想看。视线不经意掠过凯撒的肩膀,那个轮廓分明的恶魔凯撒依然清晰可见。
ここまで本人の姿をした悪魔を見たのも久しぶりだ。不気味に思っていると、妖しいブルーの瞳がきょろりと動いた。
已经很久没见过以本人形态出现的恶魔了。正觉得毛骨悚然时,那双诡异的蓝色眼珠突然骨碌转动起来。
(――え) (――诶)
これまでいくつもの悪魔を見てきたけれど、目が合ったのは初めてだ。途端に心臓が嫌な音を立て、背筋が凍りそうに震える。
虽然之前见过不少恶魔,但和它们四目相对还是头一回。心脏顿时发出令人不适的声响,脊背颤抖得仿佛要结冰。
カイザーが訝し気に首を傾げた。 凯撒疑惑地歪了歪头。
「世一?」 "世一?"
「……あ、とにかく! 少なくともシーズンオフまでの三週間はお前を見張ってやる」
"……啊,总之!至少在这赛季结束前的三周里我会盯着你的"
「あいあい」 "好好好"
まだ、ドキドキしている心臓をなんとか宥めて言えば、カイザーは面倒くさそうにしつつも頷いた。
我努力安抚着仍在怦怦直跳的心脏说道,凯撒虽然一脸不耐烦,但还是点了点头。
あまりにも素直だ。深堀りされないのはありがたいけれど、まったく疑わない姿勢に少々心配になったのかもしれない。
他答应得太过爽快。虽然很感激他没有继续追问,但这种完全不怀疑的态度反而让我隐隐有些担心。
「俺が言うのもなんだけど、理由もよく分かんねぇのに付きまとわれるの嫌じゃないの?」
"虽然由我来说有点奇怪,但你不会讨厌被人莫名其妙地纠缠着吧?"
「頭の九割サッカーの世一くんがわざわざリソースを割くってことはそれなりの理由があるんだろ。お前は無意味なことはしない」
"脑子里九成都是足球的世界第一君,既然特意分出精力来管这事,肯定有相当的理由。你从来不做无意义的事"
不意打ちに言葉が詰まる。まっすぐに世一を見る瞳から確かな信頼を感じ取ってしまい、不覚にも動揺してしまった。
突然语塞。从那双直视世一的眼睛里感受到确切的信任,不觉间竟有些动摇。
あのカイザーが世一のことをそんな風に思っていたなんて。先ほどの恐怖は完全に拭えたわけじゃないけれど、少しだけ気分が良くなった。
没想到那个凯撒居然是这样看待世一的。虽然先前的恐惧并未完全消散,但心情确实稍微好转了些。
何も起こらなければいい。悪魔はもう世一のことを見てはいなかった。あわよくば消えてくれることを祈りながら、カイザーと奇妙な生活が始まった。
但愿平安无事。恶魔已经不再盯着世一看了。抱着或许它会自行消失的期待,凯撒开始了这段诡异的生活。
◇
不本意なストーカー宣言から一週間。不運な出来事は立て続けに起こっていた。
自从那次不情愿的跟踪宣言过去一周后,不幸事件接二连三地发生。
クラブハウスの外壁修繕の足場が倒れてきたり、トレーニング器具のネジが緩んでいたり、試合後に観客席から謎の鈍器が飛んできたり。いずれも世一が事前に察知したため、カイザーがケガをすることはなかった。
俱乐部外墙修缮的脚手架突然倒塌,训练器材的螺丝莫名松动,比赛后观众席飞来不明钝器。多亏世一每次都提前察觉,凯撒才没有受伤。
偶然と言えば偶然だが、下手をすると大けがでは済まない出来事の連続にカイザーも気味の悪さを感じたらしい。『悪魔』の存在をなんとなく認めてくれたようだ。
说是巧合倒也像巧合,但这一连串稍有不慎就会造成重伤的事件,似乎让凯撒也感到毛骨悚然。他好像隐约承认了"恶魔"的存在。
行き帰りは自ら世一を呼ぶようになり、翌日にオフを控えたこの日も練習終わりにカイザーの家へと共に向かっていた。
往返路上世一已习惯主动呼唤对方,在次日休假前的这天训练结束后,他们又一同前往了凯撒家。
スポンサーから支給されたというハッチバックタイプのスポーツカーはメタリックブルーで、カイザーによく似合っている。初日は悪魔憑きな人間の運転に警戒していたが、法定速度と交通標識をきっちり守った丁寧な運転に少しだけ肩ひじの力を抜いた。けれど決して気は抜けない。歩行者、バイク、エトセトラ。危険はないか目を光らせる。
赞助商提供的掀背式跑车泛着金属蓝光泽,与凯撒极为相称。首日他还对恶魔附身者的驾驶技术心存戒备,但对方严格遵守限速与交通标识的谨慎驾驶让他略微放松了紧绷的肩膀。然而绝不能掉以轻心——行人、摩托、诸如此类。他始终警惕着潜在危险。
なんとか無事にカイザーの家に到着し、本日の任務は完了だ。
总算平安抵达凯撒家,今日任务就此完成。
「お疲れ。戸締りしっかりして火の元用心な。風呂場で足滑らせんなよ。じゃ、俺は帰るから」
"辛苦了。记得锁好门窗当心火烛。浴室里别滑倒啊。那我先回去了"
車内にいる悪魔に向かっておとなしくしてろよと睨みを効かせてからいつもどおりタクシーを呼び寄せようとした。ところが。
我朝车里的恶魔瞪了一眼示意它安分点,然后像往常一样准备叫辆出租车。然而。
「泊まっていけ」 "留下来过夜吧"
「え?」 "啊?"
「明日は何もないんだろう。泊まればいい。わざわざここまで来る手間も省けるだろ」
"明天不是没事吗。住下好了。也省得你特意跑这一趟"
「ええ……さすがに休みの日は家でのんびりしたいんだけど」
"唉...休息日果然还是想在家悠闲度过啊"
こっちだって疲れているし、これ以上カイザーの周辺を警戒していたら取れる疲れも取れない。それに明日は世界スーパーゴール特集の動画を一日中見るつもりだったのだ。
我也累得够呛,要是继续在凯撒家附近警戒,连这点休息时间都要泡汤。更何况明天还打算整天观看世界超级进球特辑视频呢。
渋っていると、カイザーはわざとらしい溜息をつく。
正犹豫着,凯撒故意夸张地叹了口气。
「クソ薄情者。俺が不審死したら全部世一のせいだからな。お前に憑いて一生ゴールできないよう呪ってやる」
"冷血混蛋。要是我离奇死亡全都是世一的错。我会附在你身上诅咒你一辈子都进不了球"
「なんでだよ! やることが地味にエグい! っつか休みなんだから家でじっとして死なねぇように自分で頑張れよ」
"搞什么啊!你做的事也太阴间了吧!再说了休息日就给我好好在家待着别死啊自己努力活下去啊混蛋"
「世一は拾った犬の面倒を最後まで見ないのか? クソ無責任クソ人非人クソ悪魔」
"世一你捡了狗都不负责到底吗?垃圾人渣败类恶魔"
「誰が悪魔だ! 拾ってねぇし! お前に犬のような可愛げがあるかぁ!」
"谁他妈是恶魔!我根本没捡!你这家伙哪有狗那么可爱啊!"
薄情だの無責任だの酷い言われようである。そもそも、悪魔が憑いていたとて見て見ぬフリもできたのだから、こうして気にかけて付き合っているだけでもかなり親切な部類だ。
被说成薄情寡义不负责任什么的实在过分。说到底就算真被恶魔附身了也大可以装作没看见,像这样操心陪着已经算是相当友善的类型了。
何を言われようと絶対に帰ってやる。問答無用でタクシーを呼ぼうとしたとき。
不管别人说什么我都一定要回去。就在我准备不由分说叫出租车的时候。
「BM非公式試合映像」 "BM 非正式比赛录像"
「え」 "诶"
「ノアの超ロングシュートがクソムカつくくらい綺麗に決まっていたなぁ」
"诺亚那记超远射门漂亮得让人火大啊"
「……」
「相手チームだがレオナルド・ルナのボレーシュートも針の穴を通すようだった」
「对方队伍里莱昂纳多·卢纳的凌空抽射简直像能穿过针眼般精准」
「…………」
「クソ出血大サービスだ。好きなだけ1on1に付き合ってやる」
「老子今天出血大放送。陪你们玩一对一玩到尽兴」
「……〜〜〜クソずりぃ!」 “……~~~可恶!”
じとりと不服さを隠さず見上げれば、カイザーは交渉成立だと勝ち誇ったように口端を上げた。
抬头瞪视时毫不掩饰自己的不满,凯撒却像谈判得逞般得意地扬起嘴角。
映像はもちろん見たいし、いつも自主練には付き合ってくれないカイザーが1on1の相手になってくれるなんて最高すぎる。己の意思の弱さは棚に上げて、全部ずるい提案をしたカイザーのせいにする。
当然想看录像,而且平时从不陪自己加练的凯撒居然愿意当一对一陪练,简直太棒了。把自己的意志薄弱抛到脑后,全都怪凯撒提了这么狡猾的建议。
そして、やっぱり可愛げなんてあったもんじゃないとげんなりしながら車を降りた。
最后,一边想着这家伙果然和可爱半点不沾边,一边烦躁地下了车。
カイザーの家はクラブハウスから車で二十分ほどの場所にある庭付きの一軒家だ。呼ぶ友達なんていなさそうなのにゲストルームがあってリビングも広々している。
凯撒的家是栋带庭院的独栋住宅,距离俱乐部会所约二十分钟车程。明明看起来不像会有朋友来访的样子,却设有客房,客厅也宽敞得很。
「おわっ、トレーニングルームもあるじゃん! マジでずりぃ!」
"哇靠,居然还有健身房!这也太奢侈了吧!"
「好きに使えばいい。バスルームはこっちだ。洗濯しちまうから服は全部出しておけ」
"随便用。浴室在这边。衣服全脱了我要洗。"
「え、お前洗濯とかするの」 "哈?你居然会洗衣服?"
「……普通にするが」 "……就普通地过啊"
そりゃ人間として生活しているだろうから当たり前なのだが、サッカーをしているところ以外はあまり想像つかないし、いつもはボールの駆け引きをしながらレスバの応酬をしているのでなんだか新鮮だ。そんなことを思っているのが伝わったのかカイザーは呆れたように目を細める。
虽说作为人类生活确实理所当然,但除了踢足球的场景外实在难以想象,毕竟平时总是边带球边斗嘴,这种日常反而让人觉得新鲜。凯撒似乎察觉到了我的想法,无奈地眯起眼睛。
「お前は俺をなんだと思っている」 "你把我想成什么了"
「うーんと、専属シェフとハウスメイドがいる皇帝さま? あ、飼ってるドーベルマンの名前はエリザベス!」
"唔...有专属厨师和女仆服侍的皇帝陛下?啊对了!养的杜宾犬叫伊丽莎白!"
「ふはっ、ンだそりゃ。完全に名前だけの安直なイメージだな。正解は自炊するし洗濯も掃除も人並みにやるカイザーさんだ。ペットはいない。クソ残念だったな」
"噗哈,才不是呢。这完全只是根据名字产生的肤浅印象啦。正确答案是会自己做饭、洗衣打扫样样精通的凯撒先生哦。没有养宠物。真是遗憾呢。"
見たことない顔で笑う男前に一瞬どきりとした。 看着那张从未见过的笑脸,心脏突然漏跳一拍。
セレブなフットボーラーらしからぬ生活をしているのは好感が持てたが、サッカーをしているときと違って隙のある雰囲気がなんだか落ち着かない。見てはいけないものを見てしまったような気分に動転して、気づけば思ったことが勝手に口を滑っていた。
这位看似与精英足球运动员身份不符的生活状态本应让人产生好感,但不同于踢球时的模样,此刻他毫无防备的氛围莫名令人心神不宁。就像不小心窥见了不该看的东西般慌乱不已,等回过神来,心里话已经脱口而出。
「俺、カイザーの笑った顔結構好きかも」 "我...可能还挺喜欢凯撒笑起来的样子"
「……世一くんはぁ、そういうところなんだよなぁ」 "……世一君啊,就是这种地方呢"
褒めたつもりなのにカイザーはやれやれと首を振る。しかし気分を害した様子はなさそうでリビングに向かってスタスタと歩きだした。カイザーにぴたりとくっついてフヨフヨ浮いている悪魔の少し後ろをついていこうとしたら、そいつとまた目が合う。驚いて声を出せずにいると、黒い唇がゆったりと弧を描いた。それはとても挑発的で世一が何をしようと無駄だと言っているかのようだ。
明明是想夸奖,凯撒却无奈地摇着头。不过看起来并没有不高兴的样子,他迈着轻快的步伐朝客厅走去。当我正想紧跟着凯撒身后那只飘飘忽忽的恶魔时,又和那家伙对上了眼。我吓得发不出声音,只见它黑色的嘴唇缓缓扬起一道弧线。那笑容充满挑衅,仿佛在说无论世一做什么都是徒劳。
(んにゃろ。ぜってぇカイザーは殺させねぇ) (开什么玩笑。我绝对...不会让你杀了凯撒)
変に闘志を燃やして悪魔を睨み返す。なかなかついてこない世一を不思議に思ったのか、リビングの入り口で本体が振り返った。
莫名燃起斗志的我瞪了回去。或许是觉得迟迟没跟上的世一很奇怪,走到客厅门口的本体转过了头。
「世一?」 "世一?"
「なんでもない。ちょっと負けられない戦いがあるだけ」
"没什么。只是有场不能输的战斗罢了。"
脈絡のない世一の発言に、カイザーは目を眇めて首をひねっていた。
对于世一这句没头没尾的话,凯撒眯起眼睛歪了歪头。
◇
いつもと違う寝心地にパチリと目が覚める。天井はペールブルーの落ち着いた色。世一の住む寮は褪せた生成りなのでカイザーの家に泊まったんだとすぐに思い出した。
身下不同以往的触感让眼皮倏然睁开。天花板是让人平静的淡蓝色。世一住的宿舍是褪色的米黄色,他立刻想起自己正借宿在凯撒家里。
窓の外は明るくなっているのですっかり朝のようだ。昨日の夜はカイザーと試合の動画を見ていたら楽しくてつい夜更かししてしまった。
窗外已经大亮,完全是一副清晨的模样。昨晚和凯撒一起看比赛视频太开心,一不小心就熬夜了。
リビングに行くと家主はまだ起きていないのか誰もいない。
走到客厅发现房东似乎还没起床,一个人影都没有。
(一応生きてるか見に行くかな) (姑且去看看他是不是还活着吧)
勝手に寝室に入るのはいかがなものかと思ったが、これはただの生存確認なのであって強引に課せられた責任の範疇だ。
虽然擅自进别人卧室不太妥当,但这只是单纯的生存确认,属于强行赋予我的责任范畴。
そう言い聞かせてそっと主寝室のドアを開く。 我这样告诫着自己,轻轻推开了主卧室的门。
こんもりと山になっているベッド傍に浮かぶ悪魔は目を瞑っている。悪魔も寝るんだなと不思議に思いながら掛布団に手をかけた。そっと捲ると綺麗な顔をボサボサ頭で囲んだ上半身裸の男。
床畔隆起如山的被褥旁,恶魔正闭目漂浮着。原来恶魔也需要睡觉啊,怀着这样的疑惑,我将手搭上了羽绒被。轻轻掀开,映入眼帘的是个用蓬乱头发圈着俊脸的半裸男人。
猫っ毛そうだもんなと妙に納得して、じっと胸のあたりを観察する。ゆっくり上下する盛り上がった筋肉がちゃんと生きていることを証明していた。
果然是猫毛般的发质啊,我莫名认同地点点头,凝神观察他的胸膛区域。缓缓起伏的饱满肌肉线条,分明昭示着鲜活的生命力。
腹も減ったしついでに起こしてしまおうと眺めていた胸を軽く押すがピクリともしない。
肚子也饿了,干脆顺便叫醒他吧——这么想着轻推了推方才凝视的胸膛,对方却纹丝不动。
「カイザー、起きろって。俺腹減ったんだけどぉ」 "凯撒,快起床。我肚子饿死了啦"
ゆさゆさと揺さぶっても反応はない。 摇了又摇,对方还是没反应。
(寝起き悪ぃタイプなのか。っつかこいつ見た目の割に筋肉すげぇな)
(这家伙起床气这么重吗。话说这肌肉量跟外表反差也太大了吧)
ぺたぺたと形を確認していると突然ベッドの中に引きずり込まれた。
正用手戳着确认体型时,突然被拽进了被窝里。
「は!? うわっ」 "啊!? 哇啊"
予想外に強い力で抱き込まれて起き上がろうにも身をよじることしかできない。
被意料之外的强劲力道搂住,想爬起来却只能徒劳扭动身子。
「カイザー! おいって、ひっ!?」 "凯撒!喂、等等...呜啊!?"
服の中に手が入り込んできて慌てて見上げれば、カイザーはなおも目を瞑っている。どうやら寝ぼけているらしい。
当那只手探入衣内时慌忙抬头,却见凯撒依然闭着眼睛。看来是睡迷糊了。
しかし身長に見合った大きな手は脇腹から背中をするりと這って、なんだか怪しい動きになる。
然而那双与身高相称的大手却从侧腹滑向后背,动作莫名显得鬼祟。
「ぁ、……っ、ちょい待て起きろカイザー! シャレになんねぇって!!」
"啊、……喂等等快醒醒凯撒!这可不是开玩笑的!!"
「あ……?」 "啊……?"
思い切り叫べばやっとブルーの瞳が現れて、不埒な手の動きも止まった。一方の世一は顔は熱いし心臓はバクバクと激しい音を立てている。
当世一放声大喊时,那双蓝眼睛才终于浮现,不规矩的手部动作也随之停止。而此刻的世一脸颊发烫,心脏正砰砰跳得厉害。
「世一?」 "世一?"
「目が覚めたかよエロ皇帝」 "醒了吗,色情皇帝"
「……あ~、クソ間違えた」 "……啊~,操,搞错了"
のそりと上体を起こしたカイザーは頭をぐしゃぐしゃと掻いてからこちらを気だるげに見下ろす。
凯撒慢吞吞地支起上半身,胡乱抓了抓头发后,慵懒地俯视着我。
「世一がなんで寝室にいる」 "世一你怎么在卧室里"
「生きてるか見にきたらお前に引きずり込まれたんだっつの!」
"我本来想看看你还活着没结果被你拽进来了啊!"
「まじか」 "真的假的"
引きずり込まれる前に好き勝手筋肉を触っていたのは世一だが、まさかそういう相手と間違われるなんて思わないだろう。
虽然在被拽进来之前世一确实随意摸了他的肌肉,但没想到会被误认为是那种关系吧。
てかやっぱカイザーは経験あるのか、とか恋人いんのかな、とかその人と間違ったのか、とか思うと言いようのないモヤモヤが胸に広がった。
话说凯撒果然是有经验的吧,是不是有恋人啊,难道把我错认成那个人了——想到这里,胸口就涌起难以名状的烦躁。
カイザーはといえば間違ったことがショックだったのか両手で顔を覆っていて、そのことにもムッとする。
再看凯撒这边,似乎因为认错人而大受打击,双手捂着脸的样子更让我火大。
「可愛い女の子じゃなくて悪かったな」 "不是可爱的女孩子真是抱歉啊"
「悪くないからマズいんだろうが」 "就是因为你不可爱才更糟糕吧"
「……?」
意味が分からず眉を顰めると、酷い寝癖とアンニュイな寝起きすらサマになる男はバカにするようなため息をつく。朝から感じの悪いヤツだ。そもそも手を出してきたカイザーが原因で訳が分からないことになっているというのに。
我困惑地皱起眉头,那个连糟糕的睡相和慵懒的起床姿态都显得很有型的男人,却发出嘲弄般的叹息。大清早就遇到这么讨厌的家伙。说到底都是因为凯撒先动手动脚才会变成这种莫名其妙的情况。
フンと悪態ついてベッドを降りたところで禍々しい刺すような気を感じ、ギクリとした。
我咂舌咒骂着下了床,突然感到一阵不祥的刺痛感,顿时浑身一僵。
めっちゃ見てる。角と羽の生えた方のカイザーが。本体が起きて一緒に目が覚めたんだろう。気のせいでは片付けられないくらい思い切り視線を感じる。これは絶対目を合わしちゃダメなヤツだ。
正被死死盯着。是那个长着角和翅膀的凯撒。大概是本体醒来后也跟着苏醒了吧。这视线强烈到根本无法用错觉来解释。这家伙绝对是不能与之对视的类型。
ゴクリと唾を飲み込んで、ぎこちなくベッドから離れて背を向ける。
咕噜一声咽下口水,僵硬地从床上挪开身子背对着他。
「俺、先にリビング行ってるからな!」 "我、我先去客厅了!"
寝室を飛び出して一階への階段を駆け降り、止めていた息を勢いよく吐き出した。
冲出卧室跑下通往一楼的楼梯,猛地吐出憋着的那口气。
こんなにも悪魔の意識を直に感じたのは初めてだ。おかげで鳥肌が止まらない。だいたい目が合うのだって多分おかしい。なぜなら経験則では悪魔が害を成したいのは本人なはずで、本人以外に興味をもつこと自体もはやイタズラの対象が変わってしまっているのだ。
还是第一次如此直接地感受到恶魔的意识。害得我鸡皮疙瘩到现在都没消停。说到底会四目相对本身就很不对劲——根据经验法则,恶魔想加害的应该是本人才对,会对本人以外的对象产生兴趣,这根本已经改变了恶作剧的目标对象。
もう嫌だ。この家はいろいろと身の危険を感じる。一刻も早く去ろう。
我受够了。这个家处处让我感到人身危险。必须尽快离开。
そう思っていたのに、カイザーの作るメシがうまかったのと、非公式戦の映像がヨダレものだったのと、カイザーとの1on1が楽しかったせいで帰宅の目論見は失敗に終わる。すべての誘惑に負けた世一はその日も泊まる羽目になったのだった。
虽然这么想着,但凯撒做的饭实在太美味,非正式比赛的录像看得人垂涎欲滴,和凯撒的 1 对 1 对决又太过有趣,导致回家的计划最终泡汤。败给所有诱惑的世一,那天又不得不留宿下来。
◇
もはや人外の視線にも慣れた。目さえ合わさなきゃなんてことはない。
如今连非人类的视线也习惯了。只要不对上眼睛就没什么大不了的。
世一は初めてカイザーの家に泊まってから丸々一週間カイザーに連れ帰られていた。まだまだ大なり小なり色々起こっているから警戒しないといけないものの、慣れればメシは勝手にでてくるし、トレーニングルームはあるし、ボールが蹴れる庭もある。おまけにとびきり上等な練習相手もいる。最高の環境だ。
自从第一次在凯撒家留宿以来,世一已经被他带回家整整一周了。虽然大大小小的意外仍时有发生必须保持警惕,但习惯后饭会自动做好,有训练室可用,还有能踢球的庭院。更棒的是还有个超一流的练习搭档。简直是绝佳的环境。
しかし、少々問題もでてきた。それは、カイザーがやけに甲斐甲斐しいというか甘いというか。そのせいでときどき落ち着かない気分になってしまうことだった。
然而,也出现了一些小问题。那就是凯撒表现得过分殷勤,或者说太过甜腻。这导致他时不时会感到心神不宁。
「世一、座れ」 "世一,坐下"
「またやんの?」 "又来?"
「やらねぇと辛いのは世一だろ」 "不这样做的话难受的可是世一吧"
風呂あがりにリビングで待っていたカイザーは、スウェットの下だけ履いた世一をラグに座らせた。そして背中に回ってオーガニックと書かれた容器からバームを掬い、手のひらの熱で溶かしたそれを世一の髪に優しく馴染ませる。
刚洗完澡的凯撒在客厅等着,让只穿着运动裤的世一坐在毛毯上。然后绕到他身后,从标着"有机"字样的容器里挖出一坨发蜡,用手心的温度融化后轻轻揉进世一的发丝里。
全体に伸ばしたあとはそのまま首筋を通って肩から背中にかけて滑らせていく。
全部涂抹均匀后,顺势沿着后颈滑向肩膀再到后背。
「ぅひ……擽ってぇ」 "呜嘻......好痒"
「我慢しろ。ったく、クソ軟弱な肌のくせに普段からケアしねぇからこうなる」
"忍着点。真是的,明明皮肤娇气得很,平时却从来不好好护理"
ドイツに来てからというもの、毎年乾季に突入するとごわついた髪とガサガサの肌に世一は泣きをみている。自分の家だったら乾燥するなぁってときに適当にワセリンでも塗るのだが、人の家で過ごしているのでまぁいいかと放置していた。ところが三日前とうとう肌が悲鳴をあげて、呆れたカイザーがケアをしてくれるようになったのだ。
自从来到德国后,每年一到旱季,世一就为毛躁的头发和皲裂的皮肤叫苦不迭。若是在自己家,他早就随便抹点凡士林应付了事,但寄人篱下便想着"算了就这样吧"。直到三天前皮肤终于发出抗议,看不下去的凯撒主动提出要帮他护理。
別に塗ってくれと頼んだわけじゃないが、自分でやると言っても背中のついでだと頭からやってくれる。さすがに前と下半身は自分でやるけど、カイザーの手つきが気持ちよくて変な気分になるので慣れないでいた。
虽然没开口求助,但凯撒连"顺便帮你涂后背"这种借口都用上了,甚至从头发开始打理。虽然前胸和下半身还是自己动手,但凯撒的手法舒服得让人心猿意马,这种陌生感让他无所适从。
「……ん、カイザァ、まだ?」 "......嗯、凯撒,还没好吗?"
「……それわざとじゃねぇだろうな」 "......你该不会是故意的吧"
「なにが? あっ、だからそこはダメだってぇ!」 "怎么了?啊,所以说那里不行啦!"
「……」 "……"
脇腹を撫でられて背中がゾクゾクする。抗議するも、カイザーは無言で腰骨のあたりまで仕事を済ませた。バームの容器をポイと投げられるとあとは自分でやれという合図だ。
被抚摸着侧腹让整个后背都酥酥麻麻的。虽然提出了抗议,但凯撒只是沉默地继续涂抹到髋骨附近。随着药膏罐被啪地扔过来,这动作俨然是在示意"剩下的自己搞定"。
ひととおり塗り終えTシャツを着てから振り向くと、カイザーは疲れたようにソファに身を投げ出していた。善意でやってくれているのにちょっと文句を言いすぎたかもしれない。それに毎日気を張っているのはカイザーも同じで、何も分からないのに不可解な目にあう本人が一番キツイに決まっている。
等我涂完药穿上 T 恤转身时,凯撒已经精疲力竭地瘫在沙发上了。明明是出于好意帮我,我可能抱怨得有点过分。更何况每天绷紧神经的不止是我,遭遇这些莫名其妙状况的当事人肯定才是最难受的。
「文句言ってごめんな? お前も疲れてんのにありがと。擽ったいけど気持ちいいよ」
"抱怨了对不起啊?你也累了还照顾我,谢谢。虽然有点痒但很舒服"
「……これで自覚ねぇんだからタチが悪い」 "......这样都还没自觉才最要命"
「なんの話?」 "在说什么?"
こっちの話だとカイザーはまた目を瞑って天井を仰いだ。たまによく分からないことを言うけど、それ以外は至れり尽くせりの生活で困ってしまう。
凯撒又闭上眼睛望着天花板,说的原来是这件事。虽然偶尔会说些莫名其妙的话,但除此之外无微不至的照顾反而让人困扰。
「なんかもうこの生活やめらんなくなりそう。上げ膳据え膳極楽すぎ」
"感觉已经离不开这种生活了。饭来张口衣来伸手,简直像天堂一样"
「ふぅん。そりゃクソ尽くした甲斐があったってもんだ」
"哼。看来把你伺候得舒舒服服的也算没白费功夫"
「でもお前の周りをずっと警戒しなきゃなんないのは疲れるから、早く帰りたい気持ちもある」
"不过要一直提防你身边的人实在太累,有时候也想早点回去"
そう告げると、カイザーはソファの背に預けていた頭をゆっくり起こした。
说完这句话,凯撒缓缓从沙发靠背上抬起头来。
「悪魔とやらはお前には見えてんのか?」 "你能看见那个所谓的恶魔吗?"
世一は目をパチパチと瞬く。カイザーから悪魔の存在を明確に聞かれたのは初めてだ。
世一眨了眨眼睛。这是凯撒第一次明确向他询问关于恶魔存在的事。
どこまで話すか迷って、多分もう全て信じてくれるだろうという確信はあった。訳が分からないはずの世一の助言を、二週間ずっとカイザーは守ってくれているから。
他犹豫着该透露多少信息,但内心确信对方应该会完全相信自己的话。毕竟这两周来,凯撒始终遵循着本该难以理解的世一的建议。
「見えてるよ。今もカイザーの後ろにいる」 "看得见哦。现在它就站在凯撒身后"
「他のやつにも憑いてんのか?」 "其他家伙也被附身了吗?"
「うん、今日チームで憑かれてたのはお前とゲスナーかな。ゲスナーはちっちゃいヤツだったから大したことないだろうし明日には消えてると思うけど」
"嗯,今天队里被附身的就是你和盖斯纳吧。盖斯纳身上是个小家伙应该问题不大,估计明天就会消失了"
「大きさが不幸の程度に関係するのか」 "大小和不幸程度有关联吗"
「というより、本人にどれだけ近い姿をしてるかだな。近ければ近いほど命に関わる。カイザーのはほんと最悪。本人だって言われたら信じるくらい」
"不如说是以多接近本人的形态出现。越接近本尊就越致命。凯撒那个真是糟透了,说是他本人都会信的程度"
近頃は見ないようにしていた悪魔をちらりと窺い見る。やっぱり、ばっちり目が合った。慌てて視線を本体に戻すと、カイザーも後ろを一瞥する。当たり前だが何も見えなかったらしく、眉をひそめていた。
最近一直刻意回避不去看的恶魔,此刻却忍不住偷瞄了一眼。果然,视线还是对了个正着。慌忙把目光转回本体身上时,凯撒也朝后方瞥了一眼。理所当然什么也没看见的他,不由得皱起了眉头。
「悪魔が消える条件は?」 "恶魔消失的条件是什么?"
「イタズラを終えるか、勝手に消えるか。詳しいことは分かんねぇ」
"要么恶作剧结束,要么自行消失。具体细节我也不清楚"
カイザーはそうか、と言ってからなぜかフッと口端をあげた。
凯撒说了句"这样啊",不知为何突然嘴角微微上扬。
「じゃあ、悪魔がいる限り世一は俺といなきゃいけないわけね」
"那只要恶魔还在,世一就必须和我在一起对吧?"
「はぁ? ヤだよ、最初に言ったけどシーズン終わりまでだからな! 一週間後には帰るから」
"哈?才不要呢,一开始就说好只到赛季结束的!一周后我就要回去了"
「この生活やめられねぇのに?」 "这种生活你舍得放弃?"
「それとこれとは別!」 "这是两码事!"
カイザーは俺が死んでもいいのかと唇を尖らせた。話を信じてくれたのは嬉しいが、悪魔とずっと一緒なんてごめんだ。調子にのるなとジト目で睨む。そんな世一を見て何がおかしいのかカイザーはゆるりと表情を緩めた。ふいうちに心臓が少しだけ跳ねる。
凯撒撅起嘴问我是不是死了也无所谓。虽然很高兴他相信了我的话,但永远和恶魔在一起还是免了吧。我用死鱼眼瞪着他让他别得意忘形。看着这样的世一,凯撒不知为何缓缓舒展了表情。心脏突然轻轻跳快了一拍。
(死なせたく、ねぇな) (其实,不想让你死啊)
挑発してくるから反抗するのであって、本当のところはうっすら気づいている。生活が捨てがたいだけじゃない。カイザーの傍は居心地がいい。
会反抗只是因为被他挑衅,其实心里隐约明白。不只是因为难以舍弃现在的生活。待在凯撒身边让人莫名安心。
仕方がないからもう少し居てやってもいいと言ってやるつもりだったのに。
本来打算勉强说句"没办法就再陪你一会儿好了",结果——
シーズン最後の試合前日、悪魔はこれまでのイタズラを嘲笑うかのように忽然と姿を消してしまった。
赛季最后一场比赛的前一天,恶魔仿佛在嘲笑至今为止的恶作剧般突然消失了踪影。
◇
興奮気味にそわそわしているエスコートキッズたち。そのうち一人だけが顔を青くして怯えているのがありあり分かる。
担任球童的孩子们兴奋得坐立不安。其中唯独一人脸色发青、明显在害怕的模样格外醒目。
原因は隣に立つチームで一、二を争う人気選手、ミヒャエル・カイザーだ。普段はペアになった子供はとても嬉しそうにするのだが、この日のカイザーは大人気なく機嫌が悪い。
原因在于站在隔壁队伍的人气选手——数一数二的米歇尔·凯撒。平时和他搭档的孩子都会欢天喜地,但这天的凯撒却孩子气地摆着臭脸。
「おい、カイザー、子供がビビってるだろ。普通にしろよ」
"喂凯撒,你把小孩都吓哆嗦了。正常点行不行"
「世一が帰らねぇなら普通にする」 "要是世一不回来就正常过日子"
「なにわがまま言ってんだ! いいじゃん、平和な日常に戻って」
"别任性了!回到平静的日常不好吗"
昨夜、世一が風呂から戻ってルーティンと化したケアをしてもらったあと、カイザーのうしろがスッキリしていることに気づいた。悪魔が居なくなっていたのだ。
昨晚,当世一洗完澡回来完成例行的护理后,凯撒发现自己的后背异常清爽。那个恶魔已经消失了。
ある程度イタズラをして満足したのか、はたまた飽きてしまったのか、真相は分からない。けれど、これでカイザーの命を脅かすものはなくなった。
不知是恶作剧够了感到满足,还是单纯觉得腻了,真相无从得知。但至少,威胁凯撒性命的东西已经不复存在。
そうなると世一がカイザーの家に泊まる理由はなくなるわけで。シーズン最終の試合が終われば、世一は家に戻ることにしたのだ。
这样一来,世一就没有理由继续住在凯撒家了。赛季最后一场比赛结束后,世一决定搬回家住。
カイザーとてやっと日常が戻ってくることに喜びこそすれ不機嫌になる必要なんてない。それなのに世一が帰る宣言をしてからずっとご機嫌ななめだ。
凯撒明明该为生活终于回归常态而高兴,根本没有闹别扭的理由。可自从世一宣布要搬走后,他就一直阴沉着脸。
「世一、ゴールの数で勝負だ。俺が勝ったら帰るな」 "世一,比进球数决胜负。要是我赢了就不准走"
「なんの勝負? それ俺が勝ったらなんかメリットあんのかよ」
"比什么赛?要是我赢了能有什么好处啊"
「お前が勝つことなんて万が一にもないが、もしそうなったら俺がお前の寮に行ってやる。狭くてもクソ我慢する」
"你赢的概率连万分之一都没有,但要是真赢了,我就搬去你宿舍住。再小再破我也忍了"
「キレていい?」 "我能发火吗?"
どうやら皇帝様は世一との生活に味をしめ、いなくなるのが寂しいらしい。悪魔に本来の性格でも持っていかれたのかというくらいキャラがぶっ壊れている。
看来皇帝陛下已经沉迷上和世一共同生活的滋味,舍不得分开了。简直像被恶魔夺走了本性似的,人设崩得稀碎。
意味が分からんので無視を決め込み、いまは目の前の試合に集中することにした。
完全搞不懂他在想什么,我决定无视这些,先集中精力应对眼前的比赛。
やっとのびのび試合ができるのだ。勝負の申し出がなかったとしてもカイザーには勝つつもりだ。
终于可以畅快地比赛了。即便对方没有提出挑战,凯撒也决心要赢下这场对决。
入場のBGMがかかり、サポーターの歓声と熱気に包まれるフィールドへ向かって世一は足を踏み出した。
入场 BGM 响起,世一迈步走向被支持者欢呼声与热烈氛围包围的球场。
試合は二対二の同点で拮抗したままアディショナルタイムに突入した。どちらのチームも焦りがでてきて動きも雑になる。
比赛以二比二的平局僵持不下,最终进入加时赛。双方队伍都开始焦躁,动作也变得粗糙起来。
ここで粘って丁寧にボールを運んだほうが勝ちだと誰もが分かっていた。その点、鋼のメンタルと名高い潔世一はこんな場面に強い。
此刻所有人都明白:唯有顽强坚持、稳扎稳打地运球才能获胜。而素有钢铁意志之称的洁世一,最擅长应对这种局面。
フィールドの状況を冷静に見極め緻密にパスを回していく。そしてゴールへ王手をかけたとき。
冷静观察场上局势,精准传递每一记传球。就在即将对球门形成致命威胁时。
「世一ぃ!!」 "世一!!"
カイザーの叫び声が聞こえた直後、身体に衝撃を受けた。シュート体勢に入っていたので、無理に踏ん張ろうとしてブチッと嫌な音がする。途端、脹ら脛には燃えるような痛みが走った。蹲ってみっともない悲鳴をあげるのは堪えたものの、額には脂汗が滲む。
凯撒的喊声刚传入耳中,身体就遭受了猛烈撞击。由于正处于射门姿势,强行稳住身形时听见"咔嚓"一声不祥脆响。霎时间,小腿传来火烧般的剧痛。虽然强忍着没蹲下发出丢人的惨叫,但额头已渗出黏腻的冷汗。
顔を動かせば、少し離れたところに顔面蒼白な相手チームの男が立っていた。おそらく世一を無理やり止めようとしてタックルしたのだろう。レッドカードを突きつけられ呆然とする表情はどっちが被害者か分かったもんじゃない。
转动视线,看见不远处站着个面如死灰的对方球员。八成是想用铲球强行阻止世一吧。裁判亮出红牌时他那茫然的表情,简直分不清谁才是受害者。
耳鳴りに紛れて世一の名を呼ぶ声が聞こえる。駆け寄ってくるチームメイト。その中にはカイザーもいて、こんな時なのにどんな表情をしているんだろうと気になった。
耳鸣声中隐约听见有人呼唤世一的名字。队友们纷纷跑来,其中竟有凯撒,这种时候他会是什么表情呢?我不禁在意起来。
目を凝らして捉えたあいつは、予想に反し口元を引き攣らせてこちらを見ている。なんとなく視線が世一のやや後ろに注がれているような気がしてギクリと肩を強張らせた。
定睛望去,那家伙出乎意料地嘴角抽搐着看向这边。隐约觉得他的视线似乎落在世一身后不远处,我顿时浑身僵硬。
背筋に寒気を感じながらおそるおそる振り返る。 脊背发凉地缓缓回头。
嘘だろ――。 开什么玩笑——。
そこには、カイザーと同じ顔で不気味に笑う美しい悪魔が佇んでいた。
眼前站着一个与凯撒面容相同、正诡异微笑着的美丽恶魔。
◇
他人の悪魔しか見た事のなかった世一は、自分に憑くなんて意識したことがなかった。もしかしたらこれまでも少しばかり不運な目にあったときは背後にいたのかもしれない。けれど、まさか他人の悪魔が憑くなんて。
从未见过自身恶魔的世一,根本没想到会被恶魔附身。或许过去遭遇不幸时,这家伙就一直在背后窥视。但万万没想到,竟会被他人的恶魔附体。
消えたと思っていたカイザーの悪魔は対象を完全に世一に移していた。
原以为已经消失的凯撒之恶魔,此刻已将目标完全转移到了世一身上。
「くっそ。もぉ、マジで最悪なんだけど。ゴールは逃すわ脚はイテェわ、なんでお前の悪魔が俺に」
「该死...简直糟透了。错过射门机会、腿又疼得要命,为什么偏偏是你的恶魔...」
診察が終わり、病院を出た頃にはすっかり陽が落ちていた。世一は中等症の肉離れと診断を受け、付き添ってくれたカイザーに連れ帰られている。
检查结束后走出医院时,夕阳已经完全西沉。世一被诊断为中度肌肉拉伤,由陪同的凯撒搀扶着回家。
ギプスで固定され動かせない脚。三週間ほどサッカーを禁止されてしまい、いきなり襲った不幸に口からは文句しかでない。オフシーズンに突入したことが不幸中の幸いだ。
打着石膏无法动弹的腿。被禁止踢球三周的不幸遭遇让他满嘴牢骚。唯一值得庆幸的是正好赶上休赛期。
元は自分の悪魔だったことに引け目でもあるのか、カイザーは車を運転しながら真面目な顔で前をじっと見つめている。そして時折世一のやや後ろを確認して眉間を寄せていた。
或许因为对方曾是自己的恶魔而心怀愧疚,驾驶中的凯撒始终绷着脸紧盯前方。偶尔还会通过后视镜确认世一略微靠后的位置,不自觉地皱起眉头。
何がきっかけか、世一が負傷してからカイザーも悪魔が見えるようになったらしい。自分の姿をした悪魔を見るってどういう気分なのだろう。理解者が増えたのは喜ばしいことだけれど。
不知从何时起,自从世一受伤后,凯撒似乎也能看见恶魔了。看着以自己形象出现的恶魔会是什么心情呢?虽然同伴增加是件值得高兴的事——
とはいえ、やっと面倒事から解放されたと思ったのに。怪我のサポートと悪魔のイタズラから身を守るため、世一は再びカイザーの家に転がり込むことになった。
虽说好不容易从麻烦事中解脱出来。但为了保护受伤的世一免受恶魔恶作剧的侵扰,他不得不再次寄宿在凯撒家中。
同居生活は悪くはないし、むしろ快適なのだが、命に関わる悪魔のオプション付きは心からノーセンキューである。
同居生活倒也不坏,甚至可以说相当舒适,只是附带性命威胁的恶魔选项实在让人发自内心地谢绝。
車が駐車場に到着し、玄関扉までの階段を一段ずつゆっくり昇る。数段しかなくても慣れない松葉杖では思うように身体を動かせずイライラは募るばかり。
当车辆抵达停车场,世一拄着不习惯的拐杖,一级一级缓慢地爬上通往玄关的台阶。即便只有短短几级,笨拙的身体动作仍让烦躁感不断累积。
カイザーはそんな世一を支えながらうーんと声を漏らした。
凯撒一边搀扶着这样的世一,一边发出"唔——"的沉吟声。
「もし悪魔が憑いた人間の思念体みたいなもんからできたんだとしたら、お前に目をつけて俺から乗り移っても別に不思議じゃないな」
"如果恶魔是由被附身者的思念体之类的东西构成的,那么盯上你从我身上转移过去也没什么好奇怪的"
「思念体……?」 "思念体……?"
「どういう意味かお分かり?」 "你明白这是什么意思吗?"
訳知り顔で怪しく口端をあげたカイザーにまったく分からんと返せば奴は呆れたように首を振った。被害者はこっちだってのにムカつく。
面对凯撒那副故作高深扬起诡异嘴角的模样,我回答完全不懂,他便一脸无奈地摇着头。明明我才是受害者,真让人火大。
「もったいぶらずに言えよ、おわっ」 “别卖关子了,快说啊,哇啊!”
振り返ったのがいけなかった。最後の一段を踏み外して血の気が引く。衝撃を覚悟したけれど、すぐ後ろにいたカイザーが抱き留めてくれたおかげでなんとか二次被害は免れた。
回头真是个错误。我踩空了最后一级台阶,瞬间血色尽失。虽然做好了承受冲击的准备,但幸好站在身后的凯撒一把抱住了我,这才避免了二次伤害。
階段を滑り落ちた松葉杖を見て心臓がバクバク音を立てる。さっそく命を狙われだしたというわけだ。実際悪魔憑きの立場になると恐怖に身震いする。
看着从楼梯上滑落的拐杖,我的心跳如擂鼓。看来立刻就被盯上性命了。真正身处被恶魔附体的立场时,恐惧让我浑身发抖。
「落ち着け。踏み外しただけだ」 “冷静点。只是踩空而已。”
耳元を低い声が掠めて思わず肩をすくめた。ハッとしてまだカイザーにくっついたままだったことを思い出す。
耳边传来低沉的声音,我不由自主地缩了缩肩膀。猛然惊觉自己还紧贴着凯撒。
「あ、悪ぃ……」 "啊,抱歉......"
「抱えるぞ」 "我抱你起来"
「え、あ、ちょっ、」 "等、等等,等一下......"
有無を言わせずふわりと感じる浮遊感。脚が当たらないように丁寧に抱き上げられ、あまりの恥ずかしさにワッと叫んだ。
不容分说便感受到轻飘飘的悬浮感。被小心翼翼地抱起以免碰到脚,过于羞耻而"哇"地叫出声来。
「カ、カイザー! 歩ける! 歩けるから!」 "凯、凯撒!我能走!我自己能走!"
「クソうるさい。ビビり散らかしてるネズミちゃんは黙って運ばれてろ」
"吵死了。吓得屁滚尿流的小老鼠就乖乖被搬运吧"
「ネズミじゃねぇ!!」 "我才不是老鼠!!"
身をよじろうとしたけれど、じっとしてろと再度諭され、なぜかそれ以上抵抗できなかった。
虽然想扭动身体挣脱,却被再次告诫不许乱动,不知为何再也无法反抗。
カイザーのつむじを見下ろす形になり、さっきより逸りだす心臓が痛い。頬も熱い。なんだこれ。
现在这个俯视凯撒发旋的姿势,让心跳比刚才更加剧烈得发疼。脸颊也发烫。这到底是怎么回事。
密着した身体に伝わる体温があったかいな、とか手をついた肩が思ったより逞しいな、とか同じシャンプーのはずなのにカイザーの方がいい匂いだな、とか。ついこの間まで全然気にしていなかったことをやたら意識して変な汗も吹き出てきた。
紧贴的身体传来体温好温暖啊、撑着肩膀的手比想象中更有力啊、明明用的是同款洗发水凯撒的味道却更好闻啊——诸如此类。明明直到刚才都完全没在意的事,现在却异常清晰地意识到,甚至冒出奇怪的冷汗。
玄関で降ろされるのかと思いきや、カイザーはそのままリビングへ向かっていく。おそらく振動を与えないようにゆったり歩いている様子が伝わってむず痒い。
本以为会在玄关被放下,凯撒却径直走向客厅。能感觉到他刻意放轻脚步避免颠簸的体贴,反而让人心痒难耐。
「カイザー、靴」 "凯撒,鞋子"
「あいあい。脱がしてやるからクソ安心しろ。お望みなら着替えも手伝ってやる」
"好好好。我帮你脱,放一百个心吧。要是你愿意,连衣服我都可以帮你换"
「そ、れは! 遠慮シマス……」 "那、那个!就不必了......"
ここで照れた方が怪しいだろうと時間を少し巻き戻したくなった。カイザーは世一のおかしな挙動にクスクス笑いながらソファへ降ろし、流れるような所作で片方だけの靴を脱がす。
此刻要是脸红反而更可疑,他恨不得能让时间倒流。凯撒看着世界第一手足无措的模样窃笑着,把人放到沙发上,行云流水般替他脱下一只鞋。
それがあまりにも王子様然としていて、腹立たしいのか恥ずかしいのか憎たらしいのか分からなくなった。
他那副王子做派实在太过自然,让人分不清究竟是该生气、害羞还是恼火。
「荷物を取ってくる。大人しく待ってろよ」 "我去拿行李。你给我老实等着"
「……うん」 "……嗯"
いま目を合わせたらどうにかなってしまいそうで、俯きがちに頷くことしかできない。余裕のない世一を知ってか知らずか、カイザーは頭をポンと一つ撫でていく。
此刻若对上视线恐怕会彻底失控,我只能低着头轻轻颔首。不知是否看穿了世一的窘迫,凯撒伸手揉了揉我的发顶。
ダメだ。冷静にならなければ。なんかおかしい。なんかが何か分からないけどおかしいものはおかしい。
不行。必须冷静下来。总觉得不对劲。虽然说不清哪里不对劲,但不对劲就是不对劲。
世一は現時点で最高に背筋を伸ばしてくれるアレを確認するため振り返った。
世一为了确认此刻最能让他挺直腰杆的那个存在,猛地回过头去。
スマホの契約かという気軽さで乗りかえてきやがった悪魔は世一と目が合ってうっそり微笑む。
那个以更换手机套餐般的随意态度就附身上来的恶魔,在与世一四目相对时露出了阴森的微笑。
(やっぱ怖ぇ) (果然好可怕)
おかげで幾分か冷静さを取り戻した。 多亏如此,我总算恢复了几分冷静。
そういえば、さっきカイザーとなんの話をしていたんだっけ。わりと重要な話だった気がするんだが。
说起来,刚才和凯撒在聊什么来着?感觉应该是挺重要的话题才对。
一日で色々なことがあったせいで脳みそが働かない。腹も減った。思い出すのはあとでもいい。疲れきった身体をソファに預け、世一は言いつけ通り大人しく待った。
一天之内发生了太多事,脑子已经转不动了。肚子也饿了。回忆的事情可以往后放放。世一把疲惫的身体陷进沙发,乖乖按照嘱咐安静等待。
寝る支度をしてベッドに潜り込んだまではよかった。
做好睡前准备钻进被窝时还好好的。
身体も脳みそもつかれているのにいざ眠ろうとしたら眠れない。原因は枕元に浮いているモノのせいだ。
明明身体和大脑都很疲惫,可一躺下却怎么也睡不着。原因就出在枕边飘浮的那个东西上。
寝てしまったらもう起きることは無いかもしれないと、言いようのない恐怖がもたげる。
要是就这么睡过去,可能再也醒不来了——这种难以名状的恐惧不断涌上心头。
多分見えているから余計に怖いのだろうけど、こんな恐怖の中、三週間近く過ごしていたカイザーに結構冷たくしちまったなと今更ながら反省した。
虽然大概是因为能看见才格外害怕,但想到凯撒在这种恐惧中熬过了近三周,我这才后知后觉地反省自己对他实在太冷淡了。
どうしよう。いったん起きて暖かい飲み物でも飲むか。
怎么办。要不先起来喝杯热饮吧。
壁伝いにひょこひょこと歩き、慎重に階段を降りてリビングに行くとまだ明かりがついていた。髪を団子に結って本を読んでいたカイザーが世一に気づいて顔を上げる。
我贴着墙蹑手蹑脚地走着,小心翼翼地下了楼梯来到客厅,发现灯还亮着。将头发扎成团子头正在看书的凯撒察觉到世一的存在,抬起了头。
「どうした」 "怎么了?"
「ええと、眠れなくて。コーヒーでも飲もうかなって」
"那个...睡不着。想着要不要喝杯咖啡什么的"
まさか寝たら死ぬかもしれないから怖いとも言えず、言葉を濁す。カイザーは読んでいた本を閉じてソファから立ち上がった。
终究不敢说出"因为害怕睡着可能会死掉"这样的话,只得含糊其辞。凯撒合上正在看的书,从沙发上站起身来。
「ココアにしておけ」 “给我来杯热可可吧”
そう言って世一をダイニングテーブルのほうに誘導して自らはキッチンへ向かう。ココアなんて飲むんだと意外に思っていたら、表情に出ていたのかカイザーが「睡眠の質が向上するのと、疲労回復にもいい」と教えてくれた。
说着就把世一带到餐桌旁,自己则转身进了厨房。正暗自惊讶这人居然会喝热可可时,或许表情泄露了心思,凯撒解释道:“这个能改善睡眠质量,对缓解疲劳也有好处。”
一緒に暮らして驚いたのは、見た目派手な男は思った以上に健康管理に余念が無いことだった。ヘルスケアアプリをこまめに確認しているし、美容も健康の一環だと言って肌のケアすら怠らない。さらにここ最近は身を守る対価とはいえ世一の健康管理までしている始末。おまけにこの怪我だ。
同居后最令人意外的,是这个外表浮夸的男人竟出乎意料地注重健康管理。他不仅频繁查看健康监测 APP,还坚持“美容也是健康的一部分”连皮肤护理都不懈怠。最近甚至以“保护身体的代价”为由,连世一的健康都要插手管理。更别提这次受伤的事了。
「悪魔のせいとはいえ、俺の面倒までみて疲れねえの?」
“虽说都是恶魔害的,但这样照顾我不会累吗?”
気づけばそんなことを聞いていた。カイザーはくるくる混ぜる動作を止めて、ダイニングテーブルにやってきた。
回过神来时,自己竟问出了这样的话。凯撒停下搅拌的动作,走向餐桌。
向かいに座って湯気の立つマグを差し出し、世一をじっと見つめながら口端を僅かに上げる。
他在对面坐下,将冒着热气的马克杯推过来,嘴角微微上扬地凝视着世一。
「下心があるからな」 "因为我别有用心啊"
「したごころ……」 "别有用心……"
「世一にゃ悪いが、俺は悪魔にクソ感謝している」 "对不起了世一,我可要好好感谢那个恶魔"
パチパチと瞬きを二つ。下心ってどういう意味だっけ。
眨了两下眼睛。私心到底是什么意思来着。
悪魔はカイザーから生まれて、生まれた悪魔は世一に移って、その悪魔は世一を殺そうとしている。
恶魔从凯撒体内诞生,诞生的恶魔转移到世一身上,现在这个恶魔正企图杀死世一。
感謝するポイントがまったくさっぱり分からない。 完全搞不懂有什么值得感谢的地方。
まさか下心って――。 难道是有私心——。
「お前、悪魔を使って俺を殺そうと……?」 "你,想用恶魔来杀我……?"
引き気味に言えば、途端にカイザーは瞼を半分閉じて呆れ顔。
略带退缩地说完,凯撒立刻半闭着眼露出无奈的表情。
「クッッッソ鈍感、グルントシューレのガキのほうがまだ察しがいい」
"靠——太迟钝了,格隆特舒勒的小鬼都比你会察言观色"
向かいの男は盛大なため息をついて結んでいた髪を下ろした。そして「寝る」とリビングを出ていこうとする。
对面的男人夸张地叹了口气,解开了束起的头发。"我去睡了"说着就要离开客厅。
「ま、待って!」 "等、等一下!"
「あ?」 "啊?"
「その、まだ話し足りないな〜って……」 "那个...感觉还没聊够呢......"
目を泳がせながらなんとか引き留めようとしてみる。こんなことをしてもいずれは眠らなければならないのだが藁にもすがる思いだ。
我游移着视线试图挽留。虽然明知这样做迟早还是要入睡,但此刻就像抓住救命稻草般不肯放手。
しかしさすがは元悪魔憑き。憑かれた人間のことなんてお見通しだと嗜虐心たっぷりの声を出す。
不过真不愧是前恶魔附身者。他用充满虐意的声音说道,对被附身者的心思简直了如指掌。
「はぁん? 世一ぃ、さてはお前怖いんだろ」 "哈啊?世一君~你该不会是害怕了吧?"
「……ぐっ」 "......唔"
「俺が帰るなと言っても帰るの一点張りだったのになぁ?」
"明明我都说了别回去,你还是一心要走?"
「それは、ほんとごめん」 "那个...真的很抱歉"
虫がいいのは分かっているが、こんなに恐怖を抱くなんて思わなかったのだ。でも、元はといえばカイザーのせいじゃないかとだんだん腹も立ってきた。
我明白自己很自私,但没想到会这么害怕。不过转念一想,归根结底不都是凯撒的错吗?越想越来气。
「そもそもっ、」 "说到底,"
「さっさと飲んでしまえ。寝るぞ」 “赶紧喝完。睡觉了。”
「えっ、寝るって……一緒に?」 “啊、睡觉……一起吗?”
「どうする? 俺はクソどっちでもいいが」 “随你便。我他妈都无所谓。”
そんなことを言いながらカイザーは再び椅子に腰を下ろして世一が頷くのを待つ。拒否するとは微塵も思ってなさそうなにやけ顔のせいで素直になれない。
凯撒边说边重新坐回椅子,等着世一点头。那张写满“你根本不会拒绝”的得意笑脸,让人没法坦率答应。
ギリギリと歯噛みしたあと、やけくそでココアを一気飲みしてじとりとカイザーを睨みつける。
咬牙切齿地咯吱作响后,自暴自弃地一口气灌下可可,湿漉漉地瞪着凯撒。
「歯磨きしてから行くから首洗って待ってろ」 "刷完牙再去 你给我洗好脖子等着"
カチコミでも行くのかという煽り言葉であとから寝室に行くことを伝え、今出せる最速のスピードで洗面所へ向かう。ややしてリビングから漏れ聞こえたのは吹き出すような笑い声。
用"是要去干架吗"这样的挑衅话语告知稍后会去卧室,并以当下能爆发的最快速度冲向洗漱台。稍顷从客厅漏进来的竟是噗嗤的笑声。
羞恥を押し殺しながらやっとのことでたどり着いた洗面所の鏡に映る顔は、ゆでタコのように赤くなっていた。
强忍着羞耻好不容易抵达洗漱台时,镜中映出的脸庞已红得像煮熟的章鱼。
◇
重みを感じて目を覚ます。腹の上には茨が刺々しい腕、太ももの上には自分のそれより一回りゴツイ太もも。
感受到重量而醒来。腹部上方是长满荆棘般尖锐的手臂,大腿上压着比自己粗壮一圈的结实大腿。
コアラよろしく抱きつかれるのは五日目なのでそろそろ慣れてきたが、重いもんは重い。
被像考拉般紧抱已是第五天,差不多该习惯了——但重的东西终究还是重。
「カイザー、起きろ。重い。どけって」 "凯撒,起来。好重。挪开啦"
芸術的な寝癖をしている男はこのくらいでは起きやしない。しかも馬鹿力すぎて腕もどかせない。仕方ないからもう少し待つか、と諦めてすやすや眠るカイザーを見上げる。
顶着艺术级睡相的男人可不会因为这点动静就醒来。况且那怪力让手臂根本推不动。无可奈何地想着"再等会儿吧",抬头望向发出安稳呼吸声的凯撒。
それからもう少し上に視線をやると隣の男とそっくりの悪魔も眠っていた。世一に憑いても睡眠はカイザーに依るみたいだ。
再往上瞥一眼,就能看见与身旁男人如出一辙的恶魔也在酣睡。看来即便附身于世一,睡眠状态仍由凯撒掌控。
初日こそ同じベッドでピッタリ寄り添って眠ることに緊張していたものの、不思議と安心して眠れることが分かってからはすぐに適応した。我ながら適応が早くて驚きである。
虽然第一夜紧贴着同床共枕时还紧张得不行,但发现意外能安心入睡后很快就适应了。连自己都惊讶于这份适应力。
寝起きにお綺麗な顔がドアップで映ることにも動じなくってきた。けれど一つだけどうしても慣れないことがある。
如今即便清晨醒来直面那张俊美脸庞的特写也不会慌乱了。唯有一件事始终无法习惯。
しばらく眺めていたらにわかに睫毛が震え、瞼の奥から鮮やかなブルーがお目見えした。そのまま数秒ぼんやりしてからまだとろんとしている表情で世一をとらえると、おもむろに顔を近づけてくる。
正凝视时,那睫毛突然轻颤,从眼睑深处浮现出澄澈的蓝。迷糊了几秒后,他用尚未清明的眼神锁定世一,缓缓凑近脸庞。
(うひぃ……!) (呜噫……!)
毎度心の中で叫んでいるうちに額に唇がくっつけられる。そして。
每次都在心里尖叫时,额头突然被贴上嘴唇。紧接着——
「ぐーてんもるげん、子ネズミちゃん」 "早安,小老鼠"
寝起きの甘めボイスで朝の挨拶を告げてくる。どうもこの男、寝起きは甘やかしたいモードになるらしい。いつかみたいに間違えて身体をまさぐられるよりはマシだけど、耐性のない世一はたまったもんじゃない。
带着刚睡醒的甜腻嗓音道出晨间问候。这个男人似乎起床后会切换成宠溺模式。虽然比某次不小心被摸遍全身要好些,但对这种攻势毫无抵抗力的世界第一实在招架不住。
だから照れ隠しに「クソおはよう、クソ皇帝」とぶっきらぼうに答えることしかできないでいた。まじで朝から心臓に悪い。快適な睡眠を得るために一緒に寝ることにしたけれど、寝起きの不整脈で利益はプラマイゼロなんじゃないかと思う。
所以只能别扭地用"早安个屁,狗屎皇帝"来掩饰害羞。大清早的真是对心脏不好。明明是为了睡个好觉才决定一起睡的,结果被起床时的心律不齐搞得睡眠质量正负抵消了吧。
なんとか心臓を落ち着かせ、げんなりしながら時計を見るとそろそろいい時間だ。
好不容易让心跳平静下来,瞥了眼时钟发现时间差不多了。
「カイザー、ほら起きて準備しろよ。今日はジュニアの特別コーチだろ」
"凯撒,赶紧起床准备。今天不是要当少年队的特聘教练吗"
「あ~クソ面倒。ネスに任せておけばいいだろ」 "啊——烦死了。交给内斯不就行了"
「ネス泣いちゃうぞ」 “再这样我要哭咯”
「世一も来い」 “世一也一起来”
「行きてぇけど、一応まだ安静期だし見てると蹴りたくなっちゃうからさぁ。午前中だけだろ。俺は蹴りたくても蹴れねぇんだから文句言わずに行ってこい」
“虽然很想去,但我现在还在静养期嘛,而且看着看着就会忍不住想踢人。反正就上午对吧?我想踢都踢不了,你就别抱怨快去快回”
そうハッパをかけると図体のでかい男は渋々のそりと起き上がった。やっと重たい腕から解放されたので世一もゆっくり上体を起こす。
这么一激将,那个大块头男人便不情不愿地慢吞吞爬起来。世一也终于能从沉重的臂弯里解脱,缓缓支起身子。
怪我をしてからは起きたらすぐに着替えて午前中のうちにクリニックに連れて行ってもらうのだが、今朝はそうもいかない。タクシーを呼ぼうか考えてちらりと後ろの悪魔を窺い見る。できれば他人に命を預ける行為はあまりしたくない。
受伤之后,每天早上醒来就得立刻换好衣服赶在中午前去诊所。但今早实在来不及了。我正犹豫要不要叫出租车,偷瞄了一眼身后的恶魔——毕竟把性命托付给陌生人终究不是上策。
うーんと悩む世一にカイザーはタイミングよく声をかけてきた。
正当世一苦恼沉吟时,凯撒适时地开了口。
「世一、クリニックは夕方でいいな?」 "世一,傍晚再去诊所也行吧?"
「へ、あ、うん。タクシー呼ぶか迷ってたトコ」 "哎、啊、嗯。我正纠结要不要叫车呢"
「何かあったらどうする」 "要是发生什么怎么办"
「……ん」 "……嗯"
当たり前のように却下され、カイザーも同じ考えでいてくれたことが嬉しいのに照れ臭い。半同居を始めてから存外面倒見がいいことは分かっていた。ここ数日で急激に過保護っぷりに磨きがかかっていることも。そしてそれを甘受して悪くないと思っている自分がいることも。
明明被理所当然地驳回是件值得高兴的事——凯撒和自己想法一致这点让人既欣喜又难为情。自从开始半同居后,就发现他意外地会照顾人。最近这几天更是把过度保护的倾向发挥到了极致。而自己居然也坦然接受着这份关怀,甚至觉得这样也不错。
どうしてこんな風に接するんだろうと考えなかったわけじゃない。考えてしまうと、もはや都合のいい解釈にしかならないから困るのだ。
并非没有思考过他为何如此对待自己。只是越想就越会陷入自我安慰的解读中,这实在令人困扰。
何か返事をしないといけないのに、口を開くと可愛げのないことしか出て来なさそうで目を逸らす。頬が熱い。
明明必须回应些什么,可一张嘴似乎只会说出不可爱的话,只好移开视线。脸颊发烫。
気づけばカイザーが信じられないくらい近くにいて。
回过神来才发现凯撒近得难以置信。
「世一」
「な、に……」 「干、干嘛……」
視界が一瞬覆われて、反応する前に離れたけれど確かにキスをされた。額ではなく唇に。寝起きの甘やかしモードはとっくに終わったはずなのに。
视野被瞬间遮蔽,在反应过来前对方已离开,但确实被吻了。不是额头而是嘴唇。明明晨起的温存模式早就该结束了。
「絶対に家から出るなよ。俺が帰ってくるまでその足でうろちょろ歩くな」
"绝对不要出门。在我回来之前不许用那双脚到处乱走。"
分かったなと念押しして支度を終えたカイザーは家を出ていった。
凯撒又叮嘱了句"明白了吗",整装完毕后便离开了家。
放心しながら朝食を済ませた世一はドサッとソファに寝転がる。リビングは梁と天井のクロスの色がネイビーと木目でバイカラーになっている。今更ながらおしゃれだなぁなんて感想を抱いて現実を見ろとセルフツッコミした。
世一恍惚地吃完早餐,重重倒在沙发上。客厅里房梁与天花板的壁纸采用藏青与木纹双色拼接。现在才注意到这么时髦啊,他自嘲地想着"快看清现实吧"。
いや、まて、なんださっきの。ぽやぽやカイザーじゃなかったよな?
等等,刚才那是什么?那可不是软乎乎的凯撒吧?
「いきなりキスっておかしくね!?」 "突然亲上来太奇怪了吧!?"
思わず誰もいない空間で叫んだ。いや一応いるな。頭上でフヨフヨ浮かぶやっかいものが。
我不由得在空无一人的地方喊了出来。不对,严格来说还是有人在的——头顶上飘着个麻烦的家伙。
相変わらず何を考えているのか分からない顔でじっと世一を見下ろしてくる。普段は怖くて直視できないが、カイザーにキスされた衝撃でいまはそんなに怖くない。
那家伙依旧用读不出情绪的表情俯视着世一。平时害怕得不敢直视,但被凯撒强吻的冲击让我现在没那么恐惧了。
だからつい喋りかけてしまった。 所以不知不觉就搭话了。
「なぁ、なんでお前俺に憑いたの?」 "喂,你为什么要附在我身上?"
ふと思い出したのは、思念体がどうとか言っていたカイザーの言葉だ。元々憑いた人間の不運が具現したとして、世一に移ったのは不思議じゃないと言う。世一に興味を示し、妖しく笑う悪魔とやたらと甘やかしてくるカイザー、まんざらでもない自分。
忽然想起凯撒说过什么思念体之类的话。据说原本是附身之人的不幸具现化,转移到世一身上也不足为奇。对世一表现出兴趣、露出诡异笑容的恶魔,以及过分溺爱自己的凯撒——这样的状况倒也不令人讨厌。
バラバラのピースを一つずつ合わせていく。 将零散的碎片一片片拼凑起来。
「俺のこと好きなの?」 “你喜欢我吗?”
ぽつりと呟いたことがとんでもないことに気づいた途端、急な眠気に襲われる。抵抗するも、身体が押しつぶされるみたいに重くて海に沈んでいくようだ。歪む視界に映るのは、ニタリと恍惚に笑う悪魔。
刚轻声嘀咕完就意识到说了不得了的话,突然一阵强烈的睡意袭来。虽然试图抵抗,但身体沉重得像是被压垮一般,仿佛正沉入海底。扭曲的视野中,映出恶魔正咧着嘴露出恍惚的笑容。
あ、やばいかも。 啊,这下糟了。
そう思ったときにはすっかり意識を手放していた。 刚产生这个念头时,意识就已经彻底消失了。
パチパチと何かが爆ぜる音が聞こえる。鼻につく匂いはやけに焦げ臭い。なんとなく感じる熱気が中学時代に行った林間学校のキャンプファイヤーを思い起こさせた。
耳边传来噼里啪啦的爆裂声。刺鼻的气味里带着异常的焦糊味。隐约感受到的热浪,让人不由想起初中时代参加林间学校的篝火晚会。
炎の周りを輪になって踊ったような気がする。思春期に差し掛かったあの時分は結構恥ずかしかったな。でもなんで今になってキャンプファイヤーなんか……。
恍惚间仿佛看见众人围着火堆跳圆圈舞。正值青春期的那些日子真是相当难为情啊。但为什么现在会突然想起篝火晚会呢……
ハッと目を覚ます。林間学校じゃない。今はカイザーの家にいるはずだ。
猛然惊醒。这里不是林间学校。现在应该是在凯撒的家里才对。
部屋にうっすら煙が漂っていることに気づいて飛び起きた。
发现房间里弥漫着淡淡烟雾的瞬间,我直接从床上弹了起来。
「火事!? なんで!」 "着火了!?怎么回事!"
カイザーが出て行ってから火なんて使っていない。カイザー自身も悪魔が現れてから火の元は充分すぎるほど気を付けていた。
自从凯撒离开后,我们根本没使用过火源。凯撒本人在恶魔出现后,对火源的管理更是谨慎到了极点。
ぱっと後ろを振り返ると変わらずヤツはそこにいる。こいつの仕業なのは十中八九間違いないが、どうやって。
猛地回头望去,那家伙依然站在原地。十有八九是它搞的鬼,但究竟怎么做到的?
大きく燃えている場所を確認するとまず火の手なんかあがりっこない玄関だ。
确认火势最猛的地方,发现竟然是根本不可能起火的玄关。
「放火……」 "纵火……"
思い出したのは轟々と燃える一軒家のニュース。随分前のことだというのに放火犯はまだ捕まっていなかったのか。いまは考えても仕方がない。助けを呼ぼうにもスマホは寝室に置きっぱなしだ。取りに行ってる暇はない。どうにか脱出しなければ。
脑海中浮现出那则关于一栋独户住宅熊熊燃烧的新闻。明明已是相当久远的事,纵火犯至今仍未落网吗?现在想这些也无济于事。想要求救,手机却一直搁在卧室。根本没时间去取。必须设法逃出去才行。
人が通れそうな窓は庭に面しているトレーニングルームのみ。身を低くして移動を試みるが、固定された左足を庇いながら進むのが難しい。煙はどんどん空間を満たしていく。
唯一能容人通过的窗户是朝向院子的健身房。我压低身子试图移动,但拖着被固定的左腿前进十分艰难。浓烟正不断填满整个空间。
(ンなとこで死んでたまるかよ……!) (开什么玩笑要死在这种地方……!)
あと少し。窓に触れようとしたとき。 还差一点。就在即将触碰到窗户的瞬间。
「――っ!?」 "——!?"
突然足を動かせなくなった。いつのまにか悪魔なカイザーの尻尾が世一の足首に絡みついていたのだ。
突然双腿动弹不得。不知何时恶魔凯撒的尾巴已缠上了世一的脚踝。
大昔に好奇心で触れようとしたときは触れられなかったから、基本的に悪魔に実体はないはず。しかし、現実問題、しっぽの絡みついた足は動かせそうにない。
远古时期因好奇尝试触碰时明明无法触及,按理说恶魔本应没有实体。然而现实情况是,被尾巴缠住的腿确实无法移动。
恐る恐る見上げた先で、黒い唇が弧を描く。 我战战兢兢地向上望去,看见黑色的嘴唇弯成一道弧线。
『死に半分足つっこんでんだよ。おかげでやっと触れられる。声も聞こえるだろ。悪魔に話しかけるなんてクソチョンボしたなぁ』
你半只脚已经踏进鬼门关了。托你的福,我终于能碰到你了。声音也听得见吧?敢跟恶魔搭话,你小子可真够倒霉的啊
「お、まえ……」 "你、你是......"
話し方は紛れもなくカイザーだ。しかし底知れない不気味さに心臓はうるさいくらい脈打っているし、冷や汗が背中を伝う。怖くてたまらない。
这说话方式毫无疑问是凯撒。但那股深不可测的诡异感让心脏吵嚷般剧烈跳动,冷汗顺着脊背往下淌。怕得要命。
『怯えた顔もクソいいな。安心しろ。カイザーと性質は一緒だ。死んでから嫌というほど愛してやる』
『害怕的表情也他妈的好看。放心吧。性质和凯撒一样。等你死后我会好好疼爱你的』
舌なめずりする様はまさに悪魔としか言いようがなくて。
那舔舐嘴唇的模样,简直只能用恶魔来形容。
違う。あいつは世一を殺そうとなんてしない。怖くないように一緒に寝てくれた。今朝だって絶対に家から出るなと言った真剣な顔は死ぬなと訴えていた。
不对。那家伙根本没想杀世一。他怕我害怕才陪我睡觉。今早那张严肃警告"绝对别出门"的脸,分明是在说"别去送死"。
それに、カイザーが世一に向ける感情と、自分の中で育ったものの答えにようやくたどりつけそうなんだ。
况且,我终于快要弄明白凯撒对世一怀揣的感情,以及自己心中滋长之物的答案了。
「いいところなのに邪魔すんじゃねぇよ、クソ悪魔」 “这么好的地方别来碍事啊,混账恶魔”
物理が効くならと、手元にあった可変ダンベルのプレートをぶん投げる。しかし、人外にただの物理攻撃は意味をなさなかった。確実に当たったものの、威力をなくしたプレートはあっけなく地に落ちる。
想着既然物理攻击有效,就把手边的可调哑铃片猛掷出去。然而对人类之外的生物,单纯的物理攻击毫无意义。虽然确实击中了,但失去力道的哑铃片轻易坠落在地。
そうこうしている間にリビングのほうに火が回り、トレーニングルームにも煙が侵入してきた。力任せに足を蹴っても拘束は外れそうにない。いよいよまずいと焦りが滲む。
在这期间火势已蔓延到客厅,训练室里也开始渗入浓烟。即使用尽全力踢腿,束缚也丝毫没有松动的迹象。情况越来越糟,焦躁感不断渗出。
「クソ……ッ、カイザァ……」 “可恶……凯、凯撒……”
咳き込みながら一番会いたい人物の名前を呼ぶ。なにも伝えていないし、伝えられていない。こっちの内側に土足で上がり込んで、やっかいな種を植え付けておいて、このままだなんてあんまりだ。
一边咳嗽一边呼唤着最想见之人的名字。什么都没能传达,也什么都传达不了。就这样擅自闯入我的内心,种下麻烦的种子后就想一走了之,未免太过分了。
悔しさと怒りに任せて最後のプレートを窓に向かって放り投げた。ガシャンとガラスの割れる音がして、新鮮な空気が入り込む。わずかに煙が排出され呼吸は幾分かマシになるが、代わりに勢いを増す炎。くそったれが。全部カイザーのせいにして死んでやる。そんで化けて出て、ゴールできないように呪ってやる。
任由懊恼与愤怒驱使,将最后一块板子砸向窗户。随着哗啦的玻璃碎裂声,新鲜空气涌入。虽然排出了些许烟雾让呼吸稍微顺畅了些,但火势却因此更猛。该死的混蛋。我要把一切都怪到凯撒头上然后去死。死后变成厉鬼诅咒你永远无法达阵得分。
「ざまぁみろカイザー!!」 "活该啊凯撒!!"
思い切り叫べば、やれやれと声が聞こえて幻聴かと思った。見上げれば布を頭から被ったカイザーが窓の淵にいて。
当我放声大喊时,竟听见了"真拿你没办法"的回应,还以为是幻听。抬头望去,只见头顶蒙着布的凯撒正蹲在窗框上。
「泣いて助けを乞うているのかと思えば、ざまぁみろってなんだ世一」
"刚才还在哭哭啼啼地求救,现在又得意洋洋地说'活该',世一你这是什么态度"
スモーク状の煙の中、水の滴る白い布を翻しながら降り立つ姿はまるで天使のよう。世一は一瞬自分が天に召されたんじゃないかと錯覚してしまった。
烟雾缭绕中,那道甩动着滴水白布翩然降落的身影宛如天使。世一瞬间恍惚以为自己被召往了天国。
「カイザー……」 "凯撒......"
「動けるか? 窓から出るぞ」 "还能动吗?我们从窗户出去"
「足が」 「腿...」
悪魔のしっぽは未だ絡みついており、天使に対抗するようにツヤのある黒い羽が威嚇気味に広げられた。
恶魔的尾巴仍缠绕着,为对抗天使而张开的漆黑羽翼泛着光泽,充满威慑地展开。
傍にしゃがんだカイザーは世一に布をかけ、目の前を鋭い目で睨め付ける。しかしすぐに口の片端をあげてどっちが悪魔だか分からない笑みを浮かべた。
蹲在一旁的凯撒给世一盖上毯子,用锐利的目光瞪视前方。但随即嘴角扬起一抹令人分不清谁才是恶魔的邪笑。
「お前が俺で好みが一緒なら苦手なもんも一緒だよなぁ」
「既然你喜欢的就是我这样的,那讨厌的东西也该一样吧」
と、どこに隠し持っていたのか、パックの牛乳をぶちまけた。
说着,不知从哪里掏出一盒牛奶泼了过去。
「おらクソゲロだ! ありがたく味わいやがれ!」 "看招!臭气弹!给我好好尝尝滋味吧!"
いわくクソゲロをモロに被り、鉄の塊がぶつかっても動じなかった悪魔がよろけて拘束が緩まった。その隙にカイザーが世一を抱き上げ、窓から外へ転げ出る。
据说被臭气弹正面击中后,连铁块砸中都不会动摇的恶魔竟然踉跄了一下,束缚也松动了。凯撒趁机抱起世一,从窗口翻滚出去。
勢いを殺さずそのまま庭の端、火と煙が届かない場所まで走って最後は二人とも倒れ込んだ。家の周りには野次馬が集っていて、消防車のサイレンが遠くから聞こえてくる。
借着这股势头一路冲到庭院边缘,直到火焰和浓烟波及不到的地方,最后两人都摔倒在地。房子周围已经聚集了看热闹的人群,远处传来消防车的警笛声。
カイザーと世一は荒い呼吸を繰り返しながら、徐々に燃え広がっていく様子を眺めることしかできなかった。
凯撒和世一只能一边喘着粗气,一边眼睁睁看着火势逐渐蔓延开来。
「カイザー、家が」 "凯撒,房子..."
「クソ燃えたな」 "烧得真他妈彻底啊"
「何なの、お前の悪魔怖すぎない?」 "搞什么啊,你召唤的恶魔也太吓人了吧?"
「それだけ世一を連れて行きたかったんだろ。我ながらクソ引いた」
"你就这么想把世一带走啊。连我自己都觉得恶心"
クソゲロが効いてよかったと息を吐いてカイザーは後ろにゴロンと寝転がった。なんだよ、それ。本人ですら引くほどの執着なんて。
凯撒吐出带着血腥味的叹息,仰面躺倒在地。搞什么啊,这种连本人都觉得恶心的执着。
「俺のことめっちゃ好きじゃん」 "你超喜欢我的吧"
「そうだな、好きだな」 "是啊,喜欢得很"
「お前も俺のこと好きだったり――ぇ、あ?……好き?」
"你该不会也喜欢我吧——诶,啊?……喜欢?"
ぽかんと口を開いてカイザーを見下ろす。寝そべる男はそろそろうんざりだと片眉をあげた。
我呆呆地张着嘴俯视凯撒。横躺着的男人不耐烦地挑起一边眉毛。
「やっと気づいたのか」 "终于发现了啊"
「うっすら、そうかなとは思い始めてた」 "隐约...是开始有这种感觉了"
「この俺が好きでもない、ましてや野郎を家に泊めてクソ甲斐甲斐しく世話するわきゃねぇだろ」
"老子怎么可能收留一个不喜欢的家伙,更别说还是个男人,还他妈殷勤伺候?"
「……いつから?」 "......从什么时候开始的?"
「さぁな」 "谁知道呢"
フンと鼻を鳴らしたカイザーの耳は気のせいじゃなきゃ淡く色づいている。それは決して僅かな期間ではないことを物語っていて。真相は闇の中だが、恐ろしい悪魔を生み出すほど世一への想いを膨らませていたんじゃないかと思ったらたまらなくなった。
凯撒哼着鼻子别过脸去,那对耳朵若不是错觉的话正微微泛红。这分明昭示着绝非短暂时日的情愫。真相虽仍扑朔迷离,但想到这份对世界第一的执念竟孕育出如此骇人的恶魔,便叫人按捺不住悸动。
「俺のうちくる? 狭いけど」 "要来我家吗?虽然有点小"
「行く」 "去"
あまりの即答っぷりに思わず吹き出す。落ち着いたら、ちゃんと互いの話をしよう。芽吹いたものの正体を。これからのことを。
这秒答的速度让我忍不住笑出声。等冷静下来,我们得好好谈谈。关于这份萌芽的感情究竟是什么。关于未来的打算。
今は正直早くシャワーをして横になって寝てしまいたい。ああ、クリニックも行けなかったな。そもそも警察とか事情聴取あんのかな。
说实话现在只想赶紧冲个澡躺下睡觉。啊,诊所也没去成。话说回来警察那边还需要做笔录吗。
そんなことをぐるぐる考えていたら消防活動が慌ただしく始まったのでカイザーを引っ張り起こした。刹那。
正想着这些乱七八糟的事情时,消防工作突然紧急展开,我赶紧把凯撒拽了起来。刹那间——
「世一、お前……」 "世一,你背后......"
「え?」 "啊?"
カイザーが顔を引き攣らせながら世一の後ろに視線を注ぐ。デジャブな顔色に嫌な予感がした。恐る恐る振り返ったそこには、世一そっくりな悪魔がいた。
凯撒扭曲着脸紧盯世一身后。那似曾相识的脸色让我涌起不祥预感。战战兢兢回头望去,只见一个和世一一模一样的恶魔站在那里。
挑発的に微笑む唇は黒く、頭には角が二本、ツヤのある小ぶりな羽と長いしっぽ。
挑衅般微笑的嘴唇漆黑如墨,头顶生着两根犄角,油亮的小巧羽翼搭配修长的尾巴。
なんで。やっと、ようやく解放されると思ったのに。もう勘弁してくれよと泣きたくなった。
为什么。明明以为终于、终于能获得解脱了。此刻却委屈得几乎要哭出来。
助けを求めるようにカイザーのシャツをぎゅっと握る。すると、世一の手の上から大丈夫だと言うように一回り大きい手が包み込んだ。
像是寻求庇护般紧紧攥住凯撒的衬衫。随即,一只更为宽大的手掌覆上世一的手背,安抚性地将他整个包裹。
「うってつけのヤツがいる」 「有个再合适不过的家伙」
ぽそりと言って聞き返す前にカイザーがどこともなしに話しかけた。
凯撒突然没头没尾地开口,在他反问前就说了出来。
「おいクソ悪魔。まだいるんだろ? テメェの好みドンピシャな同族がいるぞ」
"喂混蛋恶魔。你还在吧?这儿有个和你口味完全一致的同族哦"
ほどなくして、さきほど牛乳をぶっかけられたカイザーそっくりの悪魔が不機嫌そうに現れた。世一本体が死から遠ざかったせいか、もう声は聞こえないし身体も透けているので物理的にも触れなさそうだ。そのことにホッとして二体になった悪魔の動向を伺う。
没过多久,方才被泼了牛奶、与凯撒如出一辙的恶魔满脸不悦地现身了。或许因为现世本体已远离死亡,既听不见声音,身体也呈现半透明状,似乎连物理接触都做不到。我暗自松了口气,观察着两只恶魔的动向。
なんと悪魔世一を認めた悪魔カイザーは、瞳孔をきゅっと細くして悪魔世一へ距離を詰めていった。対して悪魔世一はものすごく嫌そうな顔をして後ずさる。なにやら言い合いをしているみたいだが本体二人には何を言っているのかさっぱりだ。やがて怒ったらしい悪魔世一が眉を吊り上げて逃げるように姿を消し、それを追いかけるように悪魔カイザーも姿を消した。
令人惊讶的是,认可了恶魔世一的恶魔凯撒竟眯细瞳孔向对方逼近。而恶魔世一则露出极度厌恶的表情连连后退。虽然看似在争吵,但现世的两人完全听不懂内容。最终暴怒的恶魔世一吊起眉毛逃也似地消失,恶魔凯撒也紧追其后没了踪影。
自分たちの姿をした二人の何かにあてられて、なんとも言えない気分になる。犬も食わないなんとやら、いや……もう考えるのはよそう。
被两个酷似自己模样的不明存在击中,心中涌起难以名状的情绪。说什么"连狗都不理"之类的,不……还是别想这些了。
「収まるとこに収まった、のか?」 "这算是尘埃落定了?"
「みたいだな」 "看起来是呢"
同時に脱力して再び座り込む。いつの間にか火は随分小さくなっていた。真っ黒になった家を見てどう思っているのだろうと隣の横顔を窺えば、視線に気づいたのかカイザーが「世一」と呼んだ。
两人同时瘫软下来重新坐回地上。不知不觉间火势已小了许多。偷瞄身旁之人的侧脸想看看他望着焦黑房屋作何感想时,凯撒似乎察觉到视线,轻唤了声"世一"。
「新居の庭はもう少し広くしようと思う」 "新家的院子我想再弄宽敞些"
「え、ああ、いいと思う」 "诶,啊,我觉得不错"
「和室とやらはいるか」 "要不要弄个和室什么的"
流し目で当然のように意見を聞かれて世一は目を丸くする。カイザーから好きと言われたばかりだというのに、一緒に住むことは決定事項のようだ。
被对方用眼角余光理所当然地征询意见时,世一惊讶得瞪大了眼睛。明明凯撒才刚说完喜欢他,同居却仿佛已成定局。
せっかちだなぁとおかしくなってしまったけれど、世一とて悪魔という存在がなくともカイザーなしの生活はもう考えられない。
真是个急性子啊——虽然觉得有些好笑,但即便是世一,如今没有恶魔凯撒的生活也已经无法想象了。
「……ハハッ。いいな、それ。和室にこたつ置いてモニタールームにしようぜ」
"……哈哈。不错嘛这个。在和室放个暖桌当监控室吧"
「Ja」 "Ja"(德语:好的)
「あと炊飯器置いてくれよ。たまには米食いたい。塩鮭と食べると最高なんだぜ」
"再放个电饭煲啊。偶尔也想吃米饭。配咸鲑鱼最棒了"
最悪な悪魔はもう現れないだろう。あっちはあっちできっとよろしくやってくれるような気がする。ちっさい悪魔が現れたらそのときは少しだけ気を付けて。カイザーがいるなら何も怖くない。
最恶劣的恶魔应该不会再出现了。那边有那边的活法,想必能过得不错。要是出现小恶魔的话,到时候稍微注意点就行。只要有凯撒在就没什么好怕的。
周囲から見えないところで絡められた手を世一はそっと握り返した。
在旁人看不见的地方,世一轻轻回握住了那只与自己十指相扣的手。
评论
- φ2024年11月16日回信 2024 年 11 月 16 日回信
pixiv
Sketch 草图
FANBOX
FANBOXプリント FANBOX 印刷品
pixivコミック pixiv 漫画
百科事典
BOOTH
FACTORY
pixivision
sensei 老师
VRoid
Pastela