覚悟の足りない男たち 觉悟不足的男人们
誰にも言わずに秘密で交際をしていた潔と凛。付き合い始めてから5年が経ち、順調だと思っていた潔だったが、それを知らない冴の一言によって凛と潔の関係は悪化してしまい……
秘密交往着却未向任何人透露的洁与凛。交往五年以来,洁本以为一切顺利,却因不知情的冴一句话导致凛与洁的关系急转直下……
リレー小説をやりたい‼️ 想尝试接力小说‼️
という企画にて、祥さん(users/3724072) と合作させていただきました。
在这个企划中,有幸与祥桑(users/3724072)进行了合作创作。
前半1ページ目をゆくえが担当し、後半2ページ目を祥さんに描いていただきました。
前半部分第 1 页由ゆくえ负责,后半部分第 2 页由祥桑绘制完成。
丸投げするのが本当に楽しかったです。 这种全权委托的创作方式真的非常愉快。
お付き合いくださり本当にありがとうございました😭🙏
衷心感谢您一直以来的支持与陪伴😭🙏
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五年という歳月は長いようで短くもあり、凛と交際を始めてからの月日はあっという間だった。
五年时光说长不长说短不短,自从和凛开始交往的日子转眼即逝。
十代の頃に付き合い始めて、早五年。ふたりとももうすぐ二十代半ばに差し掛かる頃だ。
从十几岁开始交往,转眼已过五年。两人都即将步入二十五岁。
プロのフットボーラーとして脂が乗ってきた時期で、それぞれが別の国でリーグ争いに精を出している。
正值职业足球运动员的黄金时期,各自在不同国家为联赛拼搏。
潔はドイツで、凛はフランスで。 洁在德国,凛在法国。
離れた国同士の遠距離恋愛だったけれど、思春期を過ぎた凛はだいぶ丸くなったし、お互いサッカーが第一ということで、価値観が同じだったのも良い方向に影響した。
虽是相隔两国的远距离恋爱,但度过青春期的凛已变得圆融许多,加上两人都以足球为第一要务,价值观的契合也产生了积极影响。
はじめの頃はくだらないことでよくケンカしたものだが、今ではかなり穏やかな関係だ。
最初那会儿我们常为些鸡毛蒜皮的小事吵架,如今倒是处得相当平和了。
二十代も半ばとくれば、人生の節目に『結婚』という二文字が見え隠れする時期だ。故郷の同級生たちは結婚している者も少なくないようだし、チームメイトにも既婚者はいる。
人到了二十五六岁,人生的岔路口总隐约浮现"结婚"这两个字。老家同学里成家的似乎不少,队里也有已婚的队友。
女の子のように結婚を夢見ているわけではないけれど、潔だってそれを考えたことがないわけじゃない。
倒不是像小姑娘那样成天幻想着结婚,但洁世一确实也考虑过这事。
十七の頃、自分に鮮烈な印象を植え付けた稲妻のような年下の男と、もう五年間恋人でいる。
和十七岁时那个闪电般闯进自己生命的年下男子,竟已做了五年恋人。
潔は他に恋を知らないし、他所で味見をしたいという思いだってこれっぽっちもなかった。潔世一の人生は、糸師凛さえいればそれで良いのだ。
洁从未体验过其他恋情,也丝毫没有想要尝试的念头。洁世一的人生,只要有糸师凛就足够了。
そんな折、潔に移籍のチャンスが来た。フランスのPXGからのオファーだった。
就在此时,洁收到了转会机会。那是来自法国 PXG 俱乐部的邀约。
以前からリーグ・アンには興味があったし、今のチームよりも好条件を提示してくれている。
他本就对法甲联赛颇感兴趣,对方开出的条件也比现东家优厚许多。
心機一転、新しいチームで新しいライバルたちと対戦して成長するチャンスなのかもしれない。
或许这是个改头换面的契机,能在新球队与新对手交锋中实现成长。
チームの兼ね合いとフットボーラーとしての将来を考えた結果、潔はフランスチームへ移籍した。
考虑到团队配合和作为足球运动员的未来发展,洁最终选择转会至法国球队。
PXGには、糸師凛も在籍している。潔は勿論、自己の成長のため、理想とするプレーの実現のためにこのチームを選んだ。
PXG 队中,糸师凛同样效力于此。洁当然是为了自身成长,以及实现理想中的踢球方式才选择了这支队伍。
凛と鎬を削り、エースを奪い合うことが楽しみである。
他期待着与凛激烈交锋、争夺王牌位置的较量。
しかしそれと同時に、凛とより長く過ごせることも期待していた。別の国と同じチームとでは、過ごせる時間がまるで違うのだ。
但与此同时,他也暗自期待着能与凛共处更长时间。毕竟同在异国与效力同一支球队,能相伴的时光天差地别。
渡仏予定直前にして、潔はあるトラブルに見舞われた。潔はP X Gの寮に入る予定となっていたのが、入寮する直前にボヤ騒ぎが起きたらしい。潔が使うはずの部屋は煙の匂いが染み付いてしまい、とても住めるような状態ではないと言う。
就在即将赴法的前夕,洁遭遇了一场意外。原本预定入住 P X G 宿舍的他,在入住前夕遭遇了一场小型火灾。据说分配给洁的房间已被烟味彻底渗透,根本达不到入住标准。
直前でのトラブルに困っていると、凛が同居を申し出た。
正当洁为这突如其来的变故发愁时,凛主动提出了同居邀请。
「行く当てねぇんだろうが」 "你现在没地方可去吧"
潔は渡りに船とばかりに、凛の提案に即座に乗った。まさか渡仏直後に同棲に漕ぎ着けられるとは思ってもいなかったが、まさに渡りに船だった。
洁如遇救星般立刻接受了凛的提议。虽然从未想过刚到法国就要开始同居生活,但这确实是雪中送炭的及时雨。
付き合って長いのだし、そのうちいつかはと思っていた夢が、早々に叶ってしまった。凛の家には通いなれているし、下見した寮よりもずっと快適に過ごせそうだ。
交往这么久,心里总想着"迟早会有这一天"的梦想,竟这么快就实现了。凛的家我已经熟门熟路,比起之前看过的宿舍要舒适得多。
日本の実家、ドイツで暮らした家に次いで、潔にとって第二の我が家みたいなものである。
这里对洁来说,就像是继日本老家和德国住所之后的第二个家。
「りーん、夕飯はチキンステーキでいい?」 "凛,晚饭吃鸡排可以吗?"
「ああ。スープは昨日の残りでいいだろ」 "嗯。汤就用昨天剩下的吧"
「サラダは帰りに買えばいっか」 "沙拉等回来再买吧"
「アボカドのやつ」 "要牛油果那种"
「了解」 "明白"
勝手知ったる家で、潔はのびのびと暮らしていた。今更説明されずとも、調味料の位置も洗剤のストックの収納場所も知っている。
在自己熟悉的家里,洁过着悠然自得的生活。即使现在没人说明,他也清楚调味料的位置和洗涤剂备品的收纳处。
凛のスケジュールは把握しているし、何より帰る家が同じだということが、こんなにも安心を生むとは思わなかった。
我从未想过,掌握凛的行程安排,尤其是知道我们回的是同一个家这件事,竟能带来如此强烈的安心感。
潔にとって、プレーも私生活も順調そのものだ。 对洁而言,无论是比赛还是私人生活都一帆风顺。
「俺、来月入籍なんだ」 "我下个月要登记结婚了"
ある日のロッカールームでの会話である。 这是某天更衣室里的对话。
今年二十七歳になるカルダンは、恋人と入籍するらしい。チームメイトたちは口笛を吹いて喜んだ。
今年二十七岁的卡尔丹似乎要和恋人登记结婚了。队友们吹着口哨为他高兴。
「えーまじ?おめでとう!例の、5年付き合ってるって彼女?」
"诶——真的吗?恭喜!就是那个交往了五年的女朋友?"
「ああ。半年後には式も挙げる予定だ」 "啊。半年后我们准备举行婚礼。"
「おめでとう!」 “恭喜!”
「イサギも来てくれるよな?」 "蜂乐也会来的吧?"
「もちろん!」 "当然啦!"
潔は素直に祝福をした。同じチームになってまだ日は浅いが、カルダンが良い男だというのは十分に伝わっている。
洁坦率地送上了祝福。虽然成为队友的日子尚短,但他完全能感受到卡丹是个好男人。
ヒゲを生やした大柄な男が、幸せそうにはにかんでいるのは、なんだか微笑ましい。
看着这个蓄着胡须的高大男人露出幸福又腼腆的笑容,总让人觉得心头一暖。
その場には凛もいたが、聞いているのか聞いていないのかわからないような適当な反応だった。とことん他人のプライベートには関心がないらしい。潔はその背中を見てため息をついた。
凛当时也在场,却只是敷衍地应和着,让人摸不清他到底有没有在听。看来他对别人的私事完全提不起兴趣。洁望着他的背影叹了口气。
相変わらず協調性はゼロだな。 这家伙还是一如既往地毫无团队精神啊。
その日の帰り、潔は凛とパリ市内のモノプリへ寄ることにした。今夜のサラダと、明日の朝食にするパンを購入する予定だ。
当天回去的路上,洁决定和凛顺道去巴黎市内的 Monoprix 超市。他们打算买些晚餐要吃的沙拉和明天的早餐面包。
潔はフランス語の勉強中なので、会話の練習のためにも注文するのは毎回潔の役割だ。凛は毎回後ろで腕組みをしているが、潔が困ったときいつも助け船を出してくれるのは凛だった。
由于洁正在学习法语,每次点单都交由他来练习会话。虽然凛总在身后抱着胳膊,但每当洁遇到困难时,伸出援手的永远都是凛。
悔しいけれど、英語もフランス語も、語学は凛の方がずっと上だ。
虽然不甘心,但在英语和法语这些外语方面,凛的水平确实比我高出一大截。
「アボカドのサラダを80グラムと……、」 "牛油果沙拉要 80 克......"
店員は潔の欲しいものを袋につめてくれた。どうやら注文は成功したようだ。
店员将洁想要的东西装进了袋子。看来点单很顺利。
潔は買い物が成功した袋を渡され、嬉しくなって凛の方を振り返った。今回は凛の力を借りなかったぞ、潔は得意気な顔をする。
接过购物成功的袋子,洁开心地转头看向凛。这次可没靠凛帮忙呢——洁脸上写满了得意。
「ガキかよ」 "你是小孩子吗"
凛はそう言って、少しだけ口元を上げてふっと笑った。滅多にお目にかかれない表情を目の当たりにし、潔はどきりとして買い物袋を落としかけた。
凛这么说着,微微扬起嘴角轻笑了一下。目睹这难得一见的表情,洁心头一跳,差点把购物袋掉在地上。
歳を重ねた凛は、時々こんな風に柔らかく笑うことがある。付き合ってもう五年が経つのに、潔は未だに凛の挙動ひとつにドキドキしてしまうのだ。潔は新婚気分に浸りながら、凛と共に帰路についた。
年岁渐长的凛,偶尔会像这样露出柔和的笑容。明明交往已经五年了,洁至今仍会为凛的一举一动心跳加速。洁沉浸在新婚般的甜蜜里,和凛一起踏上归途。
そんな平凡な生活が、半年続いた。フィールド上で火花を散らし、お互いを喰らい合うふたりだが、その日々は穏やかなものだった。
这样平凡的生活,持续了半年。虽然在赛场上火花四溅互相厮杀,但他们的日常却平静而安稳。
結婚出来なくたって、こんな日々がずっと続けばいいと思えるほどに。
即便无法结婚,只要这样的日子能一直持续下去就好。
✴︎
その日はチームメイトであるカルダンの結婚式だった。
那天是队友卡尔丹的婚礼。
凛と潔はチームメイトとして出席した。 凛和洁以队友的身份出席了婚礼。
カルダンも、その隣の花嫁も、親族も皆幸せそうに笑っていた。
卡尔丹、他身旁的新娘,还有所有亲友们都露出了幸福的笑容。
「いい式だったよ」 "真是场美好的婚礼啊"
「イサギ、ありがとう。リンは来てくれないかと思ったぜ」
"伊佐木,谢谢你。我还以为凛不会来呢"
「まさか。絶対連れてくるに決まってるだろ」 "怎么会。我肯定会把她带来的啊"
「うるせーよ」 “吵死了”
「じゃあまた、練習で」 “那回头训练场见”
「ああ、気をつけて」 “嗯,路上小心”
会場には冴の姿もあった。カルダンは以前スペインのチームに所属していたこともあり、その頃冴と上手くやっていたようだ。
会场里还能看见冴的身影。由于卡尔丹曾效力于西班牙球队,似乎和冴保持着不错的交情。
冴が祝いに駆けつけるなんてすごいなぁ、と思いながら、潔はこっそりと冴の席を見つめていたのだ。
"冴居然专程来祝贺,真是太难得了",洁一边这么想着,一边偷偷注视着冴的座位。
式が終わり、潔が冴に挨拶しに向かうと、意外にも冴は潔と凛を飲みに誘った。
仪式结束后,当洁前去向冴打招呼时,出乎意料的是,冴竟然邀请洁和凛一起去喝酒。
「え?俺もいていいの?兄弟水入らずなのに」 "诶?我也可以去吗?明明是你们兄弟独处的场合"
「凛と唯一コミュニケーションをとれるやつだからな」
"因为你是唯一能和凛正常沟通的家伙啊"
冴からの誘いに驚きつつも、潔は嫌がる凛を宥め、バーへ向かった。
面对冴的邀请,洁虽然惊讶,但还是安抚着不情愿的凛,朝酒吧走去。
あの気難しい冴から、身内のようにカウントされるのは悪い気分じゃなかった。
被那个难相处的冴当作自己人看待,这种感觉并不坏。
むしろ誇らしいとさえ思ってしまう。 甚至让人感到有些自豪。
席へ着くと、それぞれが近況を報告しあう流れになった。凛は下戸だが、冴はどうなのだろう。
落座后,三人自然而然地开始互相汇报近况。凛酒量很差,但冴会是什么情况呢。
冴は一杯目のギムレットを飲み干すと、次にマンハッタンを注文した。どれも度数が高いが、冴の顔色は少しも変わらなかった。
冴将第一杯琴蕾一饮而尽后,又点了杯曼哈顿。虽然都是高度数酒,他的脸色却丝毫未变。
透き通った赤が注がれたグラスを傾ける姿は、どこかの国の王子のようにも見える。
他倾斜着倒入透明红色酒液的玻璃杯时,那姿态宛如某国王子般优雅。
ドイツでビールに慣れた潔は、飲み慣れた味を求めてシャンディガフを注文した。この場で酔い過ぎないように、と度数は抑えめで。
在德国喝惯啤酒的洁,为了寻求熟悉的口味点了香蒂啤酒。为了不在这种场合喝醉,特意选了低酒精度的。
一方で凛は、ほぼジュースで薄められたオーガスタセブンを、半分ほど飲み干したところでぼんやりとしていた。完全に酔っている。
而凛这边,才喝完半杯几乎被果汁稀释殆尽的奥古斯塔七号,就已经眼神迷离了。完全喝醉了。
披露宴ではアルコールを摂っていなかったようだが、冴の手前ということもあって、プライドの高い凛はノンアルコールというわけにもいかなかったのだろう。
婚宴上他明明滴酒未沾,但在冴的面前,心高气傲的凛终究无法用无酒精饮料搪塞过去。
薄めとはいえアルコールを摂取した凛は、身内しかこの場にいないとあってか、なんだか無防備な様子だった。
虽然只是浅酌了几杯,但或许因为在场都是自家人的缘故,凛罕见地卸下了防备。
「お前らは結婚の予定はないのか?」 "你们俩没打算结婚吗?"
サッカーの話が一区切りつくと、冴はふたりに結婚の話題を放り投げた。
当足球话题告一段落时,冴突然向两人抛出了婚姻话题。
潔はむせ返りそうになるのを抑え、そっとグラスを置いてから凛の方をちらりと見た。
洁强忍住快要呛到的冲动,轻轻放下酒杯后偷偷瞥了凛一眼。
「お、俺らは、まだ……なぁ?」 "我、我们还......对吧?"
一緒に暮らしているとは言え、まだなんの約束もしていないのだし。
虽说已经同居了,但彼此之间还没有任何正式的约定。
冴には直接、凛との交際を報告したことはない。ないけれど、弟のことはなんでもお見通しということだろうか。
他从未直接向冴汇报过和凛交往的事。虽然没有明说,但哥哥对弟弟的一切应该都了如指掌吧。
もしも凛と婚約みたいなことをしたら、冴に「弟さんをください」とお願いするシチュエーションなんかが実現することになるのだろうか。
要是和凛订了婚,会不会出现向冴请求"请把弟弟交给我"这样的场景呢。
少しばかり酔いが回った頭で、そんな妄想をしながら潔はへらりと笑った。
带着几分醉意的脑袋里想着这些妄想,洁不由得咧嘴笑了。
潔と凛に予定がないらしいとわかると、冴は大袈裟にため息をついた。
得知洁和凛似乎没有安排后,冴夸张地叹了口气。
「いくつになってもサッカー小僧だな」 "不管多大都是足球小子啊"
「冴だって似たようなものだろ」 "冴不也半斤八两嘛"
潔は不満げに唇を尖らせた。冴の方がプロとして長いのに、スキャンダルなどひとつもない潔癖ぶりだ。
洁不满地撅起嘴唇。明明冴作为职业选手资历更深,却保持着零绯闻的洁癖作风。
「まぁな。でもこの年になって、野郎同士でルームシェアしようとは思わないぜ。お前、結婚願望はあんのか」
"这倒没错。不过到了这个年纪,我可不想和男人合租。你小子有结婚打算吗?"
「えっ、な、なくは、ないけど」 "啊、那、那个...也不是...完全没有"
潔はどきりとして、しぱしぱと目を瞬かせた。 洁猛地一惊,眼睛快速眨动了几下。
いくら酔っているとは言え、本人の目の前でそれを言うのは少し恥ずかしい。
虽说喝醉了,但在本人面前说这种话还是有点难为情。
「じゃあこんなアホと同居すんのはやめとけよ。金には困ってないんだろ」
"那还是别跟这种白痴同居了。反正你又不缺钱"
「……え?」 "……啊?"
だんだん雲行きが怪しくなってきた。 天色渐渐变得不对劲起来。
冴は淡々と続ける。 冴继续淡淡地说道。
「結婚してぇなら、凛なんかとつるんでる場合じゃねえだろ。凛は性格に難しかねぇが、お前は違うだろ。お前には、可能性がある」
"要是真想结婚,就不该再跟凛那家伙混在一起。凛那性格是没救了,但你不一样。你还有机会。"
「さ、え……」 "哥、哥哥……"
頭をがつんと殴られたような衝撃がして、潔の目の前は真っ白になった。冴は自分と凛の関係を知っていて、こんな提案をしてきたのだろうか。
脑袋仿佛被狠狠敲了一记闷棍,洁的眼前顿时一片空白。冴是知道自己和凛的关系,才提出这种建议的吗?
いや、きっと知らないーーはずだ。 不,他肯定不知道——应该不知道。
なんでもキッパリと口にする冴が、こんなに意地の悪い方法で、凛と別れろと言うはずがないから。
向来直言不讳的冴,不可能用这么恶劣的方式命令自己和凛分手。
凛の身内に、凛と五年間も付き合いながら、報告を怠っていた。
作为凛的家人,明明和凛交往了五年却始终没有报备。
聡い冴のことだからもしかしたら察しているかもしれない、なんて思いながら、わざわざ説明も報告もすることはなく。
以冴的聪慧,说不定已经察觉到了——虽然这么想着,却始终没有特意去解释或汇报。
もしも冴に報告するならば、凛から提案されたときだと潔は思っていた。
如果要向冴汇报的话,洁觉得应该是在凛提出建议的时候。
しかし凛は五年経っても一向にその気配を見せない。だからここまでずるずると引き伸ばされてしまった。
但五年过去了,凛丝毫没有要行动的意思。所以事情就这样拖拖拉拉地拖延至今。
この数年間を粗末に扱ってきわけではないけれど、何のアクションも起こさなかったのは事実だ。
虽然这些年并非虚度,但确实没有采取任何行动。
人生というものは、ひとりだけで決定出来るものではない。二十代ともなれば、交際している相手の身内が口出ししてくるのは当然とも言えた。
人生这件事,从来不是一个人能决定的。到了二十多岁的年纪,交往对象的家人插手指点也是理所当然的事。
二十代の恋愛は、ふたりだけでは出来ないことを、潔は今まで知らなかった。
二十多岁的恋爱,从来不是两个人就能完成的事——洁直到现在才明白这个道理。
今の流れから、胸を張って「実は凛と付き合っています」と、冴に言えるわけがなくて、潔は逃げるように視線を落とした。
按照现在的气氛,根本不可能挺起胸膛对冴说出"其实我在和凛交往"这种话,洁只能逃避般地垂下视线。
どれだけ海外でジェンダーの問題が進んでいようと、身内となると話は別ということか。
无论国外在性别议题上取得多少进步,涉及家人时情况就完全不同了。
冴は弟が潔と交際しているという可能性を、これっぽっちも考えてはくれなかったようだ。
冴似乎压根没考虑过弟弟和洁交往的可能性。
思い返せば、自分と凛は他人から恋人扱いをされたことがない。誰にも言っていないのだから、友人たちにはもちろん、世間からも凛と潔は終生のライバルコンビと呼ばれている。蜂楽はその関係に対して「腐れ縁だねぇ」なんて笑っていた。
回想起来,自己和凛从未被旁人当作恋人看待。既然从未对外公开,在朋友乃至世人眼中,凛与洁始终是终身劲敌组合。蜂乐曾笑着评价这种关系"真是孽缘呢"。
腐れ縁だったら良かったのに、サッカーを抜いたら呆気なく壊れてしまうような関係を、そっと続けてきただけだ。
若真是孽缘倒好了,可这段抽离足球就会轻易瓦解的关系,不过是小心翼翼地维系至今罢了。
どこへ行っても友人扱い。夜には同じベッドで眠ろうとも、昼のふたりを見た人物はみなそれを友人関係だと片付けた。
无论走到哪里都被视作朋友。即便夜晚同床共枕,白天见过他们的人都会将其归类为友谊。
カフェの店員にも、ホテルのフロントにも、税関の職員にも、チームメイトたちにも、凛と潔の関係は恋人のようには映らなかったらしい。
咖啡馆店员也好,酒店前台也罢,海关工作人员或是队友们,似乎都没把凛和洁的关系看作恋人。
しかし今まではそれで良かった。 但迄今为止这样就好。
人気が勝負のスポーツ選手なのだし、わざわざ開示して世間のつまみになるようなニュースにはなりたくない、それがふたりの意見だった。
作为靠人气决胜负的运动员,他们都不想主动公开关系成为街头巷尾的谈资——这是两人共同的默契。
だから誰にどう見られようとも構わない。 所以无论被谁如何看待都无所谓。
恋人だと知っているのは俺たちだけでいい。 只要我们知道彼此是恋人就够了。
そんな風に潔は凛と、この五年間を生きてきた。 这五年来,洁一直和凛过着这样的生活。
それなのに、相手の身内に、当たり前のように他の人間との結婚を訊ねられて、潔は自分のしてきたことの愚かしさをようやく痛感したのだった。
然而当被对方家人理所当然地问起和其他人的婚事时,洁才终于痛切意识到自己所作所为的愚蠢。
「おい、お前もどうせ予定ないんだろ」 "喂,反正你也没安排吧"
冴はほとんど眠っているような状態の凛を、革靴の爪先で蹴飛ばした。凛はむずがるように不機嫌に身体を捻って、カウンターに突っ伏し、本格的に寝ようと大勢を整えている。
冴用皮鞋尖踢了踢几乎处于昏睡状态的凛。凛烦躁地扭动着身体,像在闹别扭似的,整个人趴在吧台上,摆出准备彻底睡死的架势。
「おい、凛」 "喂,凛"
このままでは帰れなくなることを案じて、潔が凛に手を伸ばす。
担心这样下去就回不了家,洁向凛伸出手。
「うるせーよ」 "吵死了"
潔の手は、凛の乱雑な手に払い落とされた。 洁的手被凛胡乱挥开打落。
「結婚なんかするわけねぇだろ」 "结什么婚啊怎么可能"
そう言うと、凛は気を失うように寝こけてしまった。
说完这句话,凛就像昏过去般沉沉睡去。
呆気にとられた。潔はワンテンポ遅れて、冴からの質問の返事だということを理解した。
愣怔片刻。洁慢了半拍才意识到,这竟是对冴那个问题的回答。
急に言われるものだから、心臓を握り潰された心地がして、数秒遅れて動悸に襲われる。
突然被这么一说,心脏仿佛被攥紧般难受,几秒后心悸猛然袭来。
凛に払いのけられた指先は、緊張で冷え切ってきた。
被凛甩开的手指,因紧张而彻底冰凉。
「そうか」 "这样啊"
冴は相変わらずの無表情だった。冴から訊いたくせに、凛の答えには関心がないような素振りだ。
冴依旧面无表情。明明是他先问的,却对凛的回答摆出毫不关心的态度。
心臓がばくばくと身体の内側から鳴り響いている。 心脏在胸腔内剧烈跳动着,发出咚咚的声响。
結婚なんてするわけがないーー。 怎么可能结婚——。
それが凛の答えなのだろう。この先ふたりで向かうはずだった未来を否定され、潔は顔色を失った。
这大概就是凛的答案吧。当两人本该共同奔赴的未来被全盘否定时,洁的脸色瞬间变得惨白。
長年連れ添ったチームメイトに、試合中に突然裏切られたような、そんな大きな衝撃だった。
就像被并肩作战多年的队友在比赛中突然背叛那般,带来巨大的冲击。
気づけば、冴が会計を済ませてタクシーを呼んだあとだった。
回过神来时,冴已经结完账叫好了出租车。
「潔、顔色が悪い。もう帰って休め。このバカは床に放っておいていいから」
"洁,你脸色很差。先回去休息吧。这个白痴扔地上就行"
「え、あ、飲み過ぎたかな」 "诶、啊、可能是喝多了"
潔の顔色の悪さにはすぐに気がつくくせに、理由を察することは出来ないらしい。それもそうだ。ライバル関係である同性同士が恋人だなんて、誰が思うだろう。
明明能立刻察觉洁的脸色异常,却似乎无法理解其中缘由。这也难怪。谁会想到互为竞争对手的同性之间竟是恋人关系。
十代から欧州で過ごした冴には、きっと同性愛に対する偏見はないのだろう。
从小在欧洲长大的冴,对同性恋肯定没有偏见吧。
しかし実の弟とその友人が当事者だとは思いもよらないに違いない。
但他绝对想不到当事人会是自己的亲弟弟和他的朋友。
これを冴の失言と片付けることは出来なかった。理解を得ようとしなかったのは自分たちであり、今夜冴にパスを出されたにも関わらず、決定打を打てなかったのは潔自身である。
这不能简单归咎为冴的口误。没能获得理解的是我们自己,即便今晚冴传出了那记传球,最终没能完成致命一击的正是洁自己。
凛と潔はタクシーに押し込められ、冴に別れを告げた。
凛和洁被塞进出租车,向冴道别。
翌朝、凛は昨夜の発言を忘れたように、けろりとした顔をしていた。
第二天早晨,凛仿佛忘记了昨晚的发言,一脸若无其事的样子。
恋人にきっぱりと「将来はない」と断言された方は、どうしたら良いのだろう。
被恋人斩钉截铁告知"没有未来"的人,究竟该如何是好。
凛が出かけている間、潔はひとり悶々と考え込んだ。
凛出门期间,洁独自陷入了苦闷的沉思。
「結婚」という形に囚われないだけで、この先もパートナーとして一緒にいる気があるのか、それとも……。
只要不被"结婚"的形式所束缚,他是否还愿意作为伴侣继续走下去,还是说......。
五年という月日は長く、思い返せば血気盛んなふたりは何度もケンカした。
五年的光阴漫长,回想起来血气方刚的两人曾多次争吵。
腹を立てた潔が勢いのまま着信拒否をして、凛が慌ててフランスからドイツに飛んできたこともあったし、逆に潔がフランスに殴り込みに行くこともあった。
气头上的洁曾冲动地拒接来电,害得凛慌忙从法国飞到德国;也有过洁直接冲去法国兴师问罪的时候。
若くて未熟な者同士の恋愛は激しく苛烈で、それと同時に素朴でもあり真剣でもあった。
两个年轻不成熟之人的恋爱既激烈又残酷,同时却也纯粹而认真。
いくつかの諍いを乗り越え、不器用ながらにも共にあろうとした相手だ。これから先の未来を約束してもらえないというのは、さすがの潔でも堪えた。
这是跨越数次争执,笨拙却仍选择相守的伴侣。连向来坚强的洁也难以承受"无法许诺未来"这句话。
同棲を始めてから頻繁にしていたセックスも、そういえば最近では回数が減ったし、元々長く付き合っていたこともあって目新しい身体ではない。
自从开始同居后频繁进行的性爱,说起来最近次数也减少了,原本就因为交往时间很长,彼此的身体早已不再新鲜。
もうつまらなくなったのかも。 或许已经变得索然无味了吧。
普段なら考えもしなかったことまでが、嫌なイメージとして頭に浮かび上がって消えてくれない。
连平时根本不会去想的事情,此刻都化作令人不快的念头在脑海中浮现,挥之不去。
実は数ヶ月前からチームの寮は復旧しており、いつでも入居できるという知らせが入っている。
其实几个月前就接到通知,战队的宿舍已经修缮完毕,随时可以入住。
それを断って今日まで凛と暮らしてきた。しかし今となっては、この選択が正しいのかわからない。
我拒绝了那个提议,和凛一起生活至今。但时至今日,已无法判断这个选择是否正确。
この先結婚しなくても、潔は凛と一緒にいたいと思う。どちらも好きでいる者同士であるならば、別れるという選択を取りたくなかった。
即便今后不结婚,洁也想和凛在一起。既然彼此相爱,就不愿选择分离。
祝福はされなくても、自分たちだけで完結する関係でいいから。
就算得不到祝福,只要这段关系能维系下去就好。
そう思い込もうとしていた矢先だった。 就在我试图说服自己时——
「お前とは別れる」 "我要和你分手"
六年目の記念日となるはずだった夜。 本该是六周年纪念日的夜晚。
潔は唐突に凛に別れを切り出されたのだった。 洁突然被凛提出了分手。
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