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『まったく、どんな用件かと思ったら…」
“真是的,我还以为是什么事呢……”

「うるさい。聞かれた内容にだけ簡潔に答えろ」
“闭嘴。只回答我问的,简洁点。”

 アンジールは努めて笑み声を抑えたけれど、携帯電話の向こうで刻む彼の表情を想像することは、セフィロスにとって難しいことではなかった。電話越しの声は遠く、同輩であるソルジャークラス1stは、久々のオフをミッドガルの私邸で過ごすセフィロスとは違い、星の裏側で任務に就いている。その最中、珍しい親友からの来電を受けたアンジールは、険しく眉を寄せているだろう彼を想い、一層深い笑みに、口隅を持ち上げた。
安吉尔努力抑制住笑声,但对萨菲罗斯来说,想象他此刻在电话那头的表情并不难。电话那头的声音很远,他的同辈,特种兵一等兵,不像萨菲罗斯那样在米德加的私人宅邸里享受久违的假期,而是在星球的另一边执行任务。在这种情况下,接到这位不寻常的挚友的来电,安吉尔想必正紧皱着眉头,想到这里,他嘴角上扬,笑容更深了。

『教えてやらなくもないが、ミッションを中断してまでわざわざ答えてやろうという、寛大な友人に対する礼儀がなってないんじゃないのか?』
“也不是不能告诉你,但你这样打断我的任务,还想让我特意回答你,对你这位宽宏大量的友人来说,是不是有点失礼了?”

 アンジールは、普段とは違う挑戦的な発言に出た。反論しようかとも思ったけれど、事実そうなのだから仕方がない。薄い携帯の向こう側、ミッションに携わる相手のつかの間の休息を束縛している申し訳なさもあって、いつになく意地の悪い物言いをわざとらしいとは思えども、セフィロスはそれを咎めようとしなかった。
安吉尔说出了与平时不同的、带有挑战性的话语。塞菲罗斯想反驳,但事实确实如此,也无可奈何。手机那头,对方正在执行任务,塞菲罗斯觉得自己束缚了对方短暂的休息时间,感到很抱歉。虽然安吉尔的语气比平时更刻薄,显得有些做作,但塞菲罗斯并没有责怪他。

 電話での会話が寝室でやすむ少年に聞こえないようにと、英雄はその広い私邸の中、ユーティリティの片隅に腰を預け、電話の向こうの相手の言葉を待つ。薄い口唇を歪に曲げる彼に、反して楽しそうな声音で、アンジールは尋ねた。
为了不让卧室里休息的少年听到电话里的对话,英雄在宽敞的私宅里,靠在杂物间的角落里,等待着电话那头的人说话。安吉尔用与塞菲罗斯扭曲的薄唇相反的、愉快的语调问道。

『それで、容態は?』
“那么,情况怎么样?”

「熱が高い」
“高烧不退。”

『体温計くらい持ってないのか』
“你连个体温计都没有吗?”

「必要ないだろう」
“我用不着那玩意儿。”

 風邪や病などとは縁遠いセフィロスの家に、そのための備えなど皆無だった。救護室を訪れたことも、数えるほどしかない。如何ともしがたい現状に苛立ちすら覚えて、洗面台に預けた腰を浮かし、セフィロスは狭い室内を無意味に歩いた。
萨菲罗斯的家与感冒和疾病之类的东西相去甚远,因此家里根本没有这方面的储备。他去医务室的次数也屈指可数。萨菲罗斯甚至对这无可奈何的现状感到恼火,他从洗手台边直起身子,在狭小的房间里漫无目的地踱步。

『どこか特別痛んでいる様子は?』
“有没有哪个地方特别疼?”

「見当たらない」
“找不到。”

『咳もないのか』
“也不咳嗽吗?”

「熱だけだ」
“只有发烧。”

 僻地でミッションに従じることも多いソルジャーと、一般兵とが交わす時間は僅かしかない。今日はその中でも珍しく、丸一日を互いのために調整してあった。異変に気づいたのは、今朝方のことだった。愛しい人と迎えた半睡の時間、普段よりも大人しい相手の様子を不審に思うと、彼は気怠そうに、身を小さく丸めて震えていた。
在偏远地区执行任务的士兵与普通士兵之间,相处的时间很少。今天尤其难得,他们为彼此调整了一整天的时间。察觉到异样是在今天早上。与心爱之人共度的半梦半醒之间,他觉得对方比平时安静,感到可疑,而他则倦怠地蜷缩着身体,微微颤抖。

『単純に、疲れてるんだろう。もしくは冷えか。身に覚えはないのか?』
“单纯只是累了吧。或者着凉了。没有印象吗?”

 セフィロスは、眉間の皺を深くした。
萨菲罗斯的眉间皱得更深了。

 付き合い始めて間もない恋人たちは、僅かな時間も惜しまない。貴重なその瞬間を味わうためなら、多少の無理も躊躇わない。元々、あれは健気というには少々度が過ぎることを平気でやってのける性分だ。それを愛しく思っていたから、昨夜も慈しむ、と言っては少々乱暴なほどに愛でてやったものだけれど、互いの体温では補いきれないものも、もしかするとあったのかもしれない。
刚开始交往的恋人们,连一点点时间都不愿浪费。为了品尝那宝贵的瞬间,即使是稍微勉强自己也毫不犹豫。本来,那家伙的性子就是那种会毫不犹豫地做出一些用“健气”来形容都有些过分的事情。正因为觉得那很可爱,所以昨晚也用“爱抚”来形容都有些粗暴的方式疼爱了他,但或许有些东西是彼此的体温无法弥补的。

『その様子だと…』
“看你这样子……”

「どうしたらいい」
“我该怎么办?”

 それ以上の追求を拒むように、セフィロスは問い正した。洗面台に広がる大きな鏡に映るのは、寄せる眉間の皺に狼狽を隠す、自分の姿。大方の説明を終えたセフィロスは、まったく醜い姿だと呆れすら覚えて、嘆息を零した。
萨菲罗斯拒绝了进一步的追问,他质问道。洗手台前的大镜子里映出他自己的身影,眉间紧蹙,难掩狼狈。萨菲罗斯大致解释完后,甚至感到一丝厌烦,觉得这副样子实在丑陋,于是叹了口气。

 このような会話も珍しいと、アンジールは思う。元来、他人に弱みを見せることを厭うこの男が見せた稀有な言動は、任地での相次ぐ戦闘に緊迫した空気を思いもよらない手段でほぐしてくれた。それを感謝する想いもあって、アンジールはそれ以上、親友を苛めるのをやめた。
安吉尔觉得这样的对话实属罕见。这个男人向来不愿向他人示弱,他这次罕见的言行,以意想不到的方式缓解了驻地接连战斗带来的紧张气氛。出于感激,安吉尔不再继续为难他的挚友。

『安心しろ。体を温めて、安静にしていれば明日には治るだろう』
“放心吧。暖暖身子,好好休息,明天就会好的。”

 病という病を経験したこともないセフィロスにとって、彼の異変は動揺を呼んだ。この男なら現状を改善する何らかの救済を与えてくれるだろうと思っていたのに、なにをどうすれば治るという決定的な回答ではなく、セフィロスは期待外れだと、落胆すら覚えていた。
对从未经历过任何病痛的萨菲罗斯来说,他的异常令他感到不安。他本以为这个男人会提供某种补救措施来改善现状,但得到的却不是如何治愈的明确答案,萨菲罗斯感到失望,甚至沮丧。

 それすらも見通していたのだろうか、続けてアンジールは尋ねた。
安吉尔似乎也预料到了这一点,他接着问道。

『安静にするということがどういうことか、わかっているか?』
“你知道‘静养’是什么意思吗?”

 かえってくる沈黙に、やはりか、と、アンジールは思わず苦笑を零す。子供に言い聞かせる親の気分を、この男は度々独身者である自分に味合わせてくれる。それを咎めようとせずに、彼は続けた。
面对沉默,安吉尔不禁苦笑,果然如此。这个男人总是让他这个单身汉体会到对孩子循循善诱的父母的心情。他没有责备,而是继续说道。

『まずは、休息が一番だ。運動させるな、風呂には入れるな。湯上りが一番冷えやすい。ただし、体は拭いてやったほうがいい。汗をかいたままでは体に障る』
“首先,休息最重要。不要让他运动,不要让他洗澡。洗完澡最容易着凉。但是,身体最好还是擦一下。汗湿着对身体不好。”

 セフィロスは、人であれば、およそ通過してきただろうことを経験しておらず、また当然知っているだろうことを知らない。彼の身近にいるようになって、アンジールはそれを痛感していた。
萨菲罗斯没有经历过普通人都会经历的事情,也不知道那些理所当然的常识。安吉尔在他身边待久了,对此深有体会。

『体は温めて、額は冷やせ。水で濡らしたタオルを固く絞って、かけてやるといい。時々頃合を見て、交換してやるんだ』
“身体要保暖,额头要冰敷。把湿毛巾拧干,敷在他额头上。时不时地看情况,给他换一下。”

 こんなことさえ、誰も教えてやらなかったのだろうか。アンジールの脳裏を苛立ちが過ぎったけれど、彼はすぐにそれを払拭する。
难道连这种事,也没人教过他吗?安吉尔的脑海中闪过一丝烦躁,但他很快就将其驱散。

『それから、たっぷりの栄養だ。ただし、普通の食事はいただけない。高熱が出ているんだ。刺激物は避けた方がいい』
“然后,是充足的营养。不过,普通的饭菜可不行。你发着高烧呢。最好避免刺激性的食物。”

 こと戦闘に関しては、卓越した経験と知識に、流石なことだと舌を巻くほどであるのに、常識に関しては驚くほどに欠如している風がある。それは、彼の語ろうとしない生い立ちを思えば当然のことだと思う。普段であれば、自分の説教を、飽き飽きだと途中で阻むセフィロスが、大人しく話に耳を傾けている。その変化を愛しいものだと、アンジールは感じていた。
论及战斗,他拥有卓越的经验和知识,令人叹为观止,但在常识方面却惊人地有所欠缺。考虑到他那不愿提及的生平,这倒也情有可原。平时,萨菲罗斯总是会厌烦地打断安吉尔的训诫,但此刻却乖乖地听着。安吉尔觉得这种变化很可爱。

『お望みなら、田舎仕込の看護食を、教えてやろうか?』
“如果你愿意,我可以教你一些乡下特有的护理餐?”

 貸しを作ることは不本意ではあったけれど、戦地において右に出るものの居ない英雄は、今この時はまったくの無力だ。
虽然不情愿欠人情,但这位在战场上无人能及的英雄,此刻却完全无力。

「……報酬は?」
“……报酬呢?”

 何度か彼の私邸を訪れたことのあるアンジールは、厨房のつくり、貯蔵されているフリッジの在庫、そしてセフィロスの料理の腕も知り尽くしていた。現状、彼に勝る指南者はいない。
安吉尔曾数次造访他的私宅,对厨房的构造、冰箱里储存的食材,以及萨菲罗斯的厨艺都了如指掌。就目前而言,没有比他更优秀的指导者了。

 ため息混じりに尋ねるセフィロスに、笑みを含む回答が返ってきた。
萨菲罗斯叹了口气,问道,而他得到了一个带着笑意的回答。

『口止め料込みで、高くつくぞ』
“算上封口费,可不便宜。”


   ■   ■   ■


 背中が汗ばんで、心地が悪かった。ベッドから起き上がる気力さえもない。両手両足を大きく開いてもまだ余裕の残る大きな寝台に寝転がって、クラウドは熱のこもるため息を漏らした。
后背被汗水浸湿,感觉很不舒服。连从床上爬起来的力气都没有。克劳德躺在即使他张开四肢也仍有余地的巨大床上,发出一声带着热气的叹息。

 かけられたシーツは、少年の体温を吸って温まっている。なんでもないと否定したけれど、熱があることを知ったセフィロスの険しい表情が、クラウドの表情を曇らせていた。
盖在身上的床单吸饱了少年的体温,变得暖烘烘的。虽然他否认了什么事都没有,但萨菲罗斯得知他发烧后那严峻的表情,让克劳德的表情也变得阴沉。

 きっと、がっかりさせてしまったことだろう。せっかく会えたとしても、これじゃあまるで意味がない。自分自身、この日を心待ちにしていたこともあって、クラウドは一層、タイミングの悪さを嘆いた。まったく、とんだ失態だ。せっかくセフィロスが休みを合わせてくれたのに、既に半日を無駄にしてしまった。申し訳ない気持ちがなによりも勝って、クラウドは高熱の齎す倦怠感に体を蝕ませたまま、布団を鼻先までずり上げた。
他肯定让萨菲罗斯失望了。即使好不容易能见面,这样也完全没有意义。克劳德自己也一直期待着这一天,所以他更加感叹时机不凑巧。真是的,这可真是个大失误。萨菲罗斯好不容易才把假期凑到一起,结果已经浪费了半天时间。歉意胜过一切,克劳德任由高烧带来的倦怠感侵蚀着身体,把被子拉到鼻尖。

 昔、クラウドはよく熱を出した。特別病弱だったというわけでもないが、幼い頃の面白くも無い思い出というものは、忘れたいにも関わらずまざまざと記憶に刻まれている。二人暮らしの田舎の小さな家の寝台は狭く、窓の向こうに楽しそうに談笑する幼馴染たちの声を聞きながら、クラウドは歯がゆい思いを噛み締めていた。
以前,克劳德经常发烧。倒也不是特别体弱多病,但小时候那些无趣的回忆,即使想忘记也依然清晰地刻在记忆里。在乡下两人居住的小房子里,床铺很窄,克劳德听着窗外传来青梅竹马们欢声笑语的声音,心里感到焦躁不安。

 どうせ元気でいたところで、その輪の中に入ることもしないのだから、悔しがることもない。負け惜しみをため息に混ぜて吐き捨て、鼻先までをベッドに埋め、熱の引くまでひたすら、無味な時間を過ごしたものだ。
反正就算身体健康,也无法融入那个圈子,所以没什么好遗憾的。我把不甘的叹息混着吐出来,把鼻子埋进床里,直到退烧为止,只是一个劲儿地度过索然无味的时间。

 今一度こぼした深いため息が、クラウドの頬を包み込む。ぼうっと煙る半濁した意識の中、クラウドは扉の開く音を聞いた。
又一次深长的叹息,包裹住克劳德的脸颊。在朦胧而半浊的意识中,克劳德听到了门打开的声音。

 ああ、そうだ。あの時も、母さんがこうして時々様子を見に来てくれた。子供みたいに拗ねて、なんでもないと突っぱねたけれど、どうしても辛くて、心細くて、寂しくて。
啊,对了。那时候,妈妈也像这样时不时地来看我。我像个孩子一样闹别扭,嘴上说着没什么,但心里却无比痛苦、不安、寂寞。

 懐かしい香りがした。扉の向こうから流れてきた甘い風味に、シーツに隠れたクラウドの鼻がひくりと動いた。
闻到了熟悉的香味。从门外飘来的甜美气息,让藏在床单下的克劳德的鼻子抽动了一下。

 抱えてきた水を湛えた容器を傍らに置くと、瞳を閉じた額に掌で触れて、熱の高さを確かめる。そのまま指が頬へと滑り降りてきて、クラウドは心地よさそうに睫を揺らした。火照る肌に、柔い温もりがひんやりと伝わった。自然に、ふ、と漏らす呼吸を感じとって、部屋の中に笑みの吐息が生まれたのがわかった。
他把盛满水的容器放在一边,手掌触碰着闭着眼睛的额头,确认着热度。手指顺着额头滑到脸颊,克劳德舒服地颤动着睫毛。柔软的温暖传到发烫的皮肤上,带来一丝凉意。他自然地发出了一声叹息,感觉到房间里弥漫着微笑的气息。

「クラウド」
“克劳德。”

 優しい声が、記憶のそれに共鳴する。低い音程で響く呼びかけに、クラウドは薄目を開いた。似ても似つかない幻影が、やがてはっきりとした輪郭をつくりあげる。重い瞼を幾度か持ち上げて、幾度か瞬いたクラウドは、頬に触れている指の先、寝台に腰を下ろし相手の姿を捉えて、驚きの表情を浮かべた。
温柔的声音与记忆中的声音产生共鸣。在低沉的呼唤声中,克劳德微微睁开眼睛。一个与记忆中截然不同的幻影,渐渐形成了清晰的轮廓。克劳德几次抬起沉重的眼睑,几次眨眼,然后看到了坐在床边、手指正触碰着自己脸颊的人,露出了惊讶的表情。

「…セフィ…ロス…?」
“……萨菲……罗斯……?”

 夢と現の境目にたゆたっていたクラウドは、今漸くはっきりと自分の立場を思い出して、慌てたように躯を起こす。唐突な変化に驚いたのか、眼が眩んでパチパチと睫を鳴らす少年の頬を軽く叩いて、セフィロスは笑った。
在梦境与现实的边缘徘徊的克劳德,此刻终于清晰地回想起自己的处境,慌忙地撑起身子。萨菲罗斯轻拍着因突如其来的变化而惊讶、眼睛眩晕、睫毛颤动的少年脸颊,笑了。

「どうした。夢でも見ていたのか?」
“怎么了?做梦了吗?”

 その様子だと、アンジールの言うとおり、さほど重い症状ではないらしい。朝よりも熱の引いていることを確かめたセフィロスは、安堵に瞳を細め、口隅を緩めた。
看样子,正如安吉尔所说,症状似乎不那么严重。确认体温比早上有所下降后,萨菲罗斯安心地眯起眼睛,嘴角也放松下来。

 昨夜の情痕の残る肢体が、彼の羽織る大き目のシャツの隙間から覗いている。普段であれば、項から細い首まで頬を寄せて、浮き上がる首筋に歯を立てるくらいの狼藉には、躊躇うこともなかっただろう。しかし、この鳥籠の鍵を握る、誰でもない自分であったとしても、その中に捕らえた雛鳥の頼りなく弱々しい様子を見て尚、鳴かせてみようとするほどの野蛮人でもなかった。
他身上那件宽大的衬衫的缝隙中,隐约可见昨夜情事留下的痕迹。如果是平时,他大概会毫不犹豫地将脸颊贴上他的后颈,直到细长的脖颈,甚至会野蛮地咬上他凸起的颈部。然而,即使是掌握着这鸟笼钥匙的自己,在看到笼中雏鸟如此虚弱无力的样子后,也并非野蛮到仍想让它鸣叫。

 伸ばしたままの腕で首裏を支え、片腕に体重を乗せる少年を抱き起こすと、彼の額に口唇を寄せて、抱きしめる。背中に掌を滑らせると、彼の発した汗にじんわりとそこが湿っているのがわかる。成程、言った通りだ、と、セフィロスは納得して、思わず小さな笑みを深めた。
他伸出手臂支撑着少年的后颈,将重心放在一只手臂上,抱起少年,然后将嘴唇贴在他的额头上,紧紧抱住他。当他的手掌滑过少年的背部时,他感觉到那里被少年出的汗水浸湿了。萨菲罗斯心满意足地想,果然如他所说,不由得加深了嘴角那抹浅浅的笑意。

「あの…っ、セフィロス……?」
“那个……萨菲罗斯……?”

 緊張に身を震わせる。いつものように抱き締められているのに、いつもと違う温もりだった。
他紧张得浑身颤抖。虽然像往常一样被抱在怀里,但那份温暖却与往日不同。

「安心しろ。無理をさせようというんじゃない」
“放心吧。我不会强迫你。”

 休日ともなれば、互いの足りない時間を補いあうために、時間に束縛されることもなくその行為に没頭していた。それをふしだらだとは思えども、流されるだけでなく欲している自分自身があって、慣れ始めた情交の記憶を思いだし、クラウドの体が萎縮するのも当然のことだった。
每逢假日,为了弥补彼此不足的时间,他们便不受时间束缚地沉浸于那事之中。即便觉得那是不检点的行为,但克劳德自己却并非只是随波逐流,而是有所渴望,回想起逐渐习惯的交欢记忆,克劳德的身体会萎缩也是理所当然的。

 ボタンをひとつひとつほどいて、露になる背中を撫でたのは彼の細く美しい指先でなく、柔らかな繊維の感触だ。寝汗に濡れた背中を、乾いたタオルで躯を拭ってやる。洗濯されたばかりのそれが、弄ぶるでなく、クラウドをいたわっていて、驚きに瞠目するクラウドの口唇が、小さく震えた。
解开一颗颗纽扣,抚摸着他裸露的后背的不是他纤细美丽的手指,而是柔软的纤维的触感。他用干燥的毛巾擦拭着被汗水浸湿的后背。那条刚洗过的毛巾,不是在玩弄,而是在爱护克劳德,克劳德惊讶地睁大了眼睛,嘴唇微微颤抖。

「…っ、自分で、できますから…っ」
“……我自己,可以的……”

「大人しくしていろ」
“老实待着。”

 先程まで少年にまとわりついていた不快さが拭いとられていく。壮健な両肩に手を載せて、向かい合うセフィロスの顔を至近距離に凝視したクラウドは、予想していない事態に困惑し、俯き戦慄く口唇を噛み締めた。
刚才还缠绕在少年身上的不适感被拭去。克劳德把手放在健壮的双肩上,近距离凝视着赛菲罗斯的脸,对意想不到的情况感到困惑,他低下头,咬紧了颤抖的嘴唇。

 汗は拭いてやった。しかし、上体を剥いた少年をそのままにしておくわけにはいかない。
汗水已经擦干了。但是,不能让赤裸着上半身的少年就这样待着。

「着替えか…」
“换衣服吗……”

 呟き、立ち上がるセフィロスを視線で追いかけるクラウドは、自身の心臓の音が高く響いているのを感じていた。心配など、迷惑など、かけたく、なかったのに――。
克劳德低声自语,视线追随着起身离开的萨菲罗斯,感觉到自己的心跳声高亢地回响着。明明不想让他担心,不想给他添麻烦的——

「あの……」
“那个……”

 セフィロスの服は、すべていつも綺麗に洗われていて、整った状態が保たれていた。彼自身、私服に袖を通すことも稀だったし、彼の部屋にクラウドの持ち物は皆無だった。
萨菲罗斯的衣服总是洗得干干净净,保持着整洁的状态。他自己也很少穿便服,他的房间里也没有克劳德的任何私人物品。

「腕をよこせ」
“把胳膊伸过来。”

 クラウドの呼び掛けに答えず、新たに取り出した白いシャツを広げるセフィロスは、寝台の真ん中で縮こまる少年の傍らに膝をつく。それを汚してしまうのではないかと躊躇ったけれど、クラウドはセフィロスの無言の圧力に負けて、細い腕を差し出した。
萨菲罗斯没有回应克劳德的呼唤,他展开新拿出来的白色衬衫,跪在床中央蜷缩着的少年身旁。克劳德犹豫着,生怕弄脏了衬衫,但最终还是抵不过萨菲罗斯无声的压力,伸出了细瘦的胳膊。

 セフィロスの綺麗な指が、小さなボタンを下から順にとめていく。彼の輪郭を包む前髪が揺れ、薄碧色の魔晄の瞳が細められるのを、クラウドは熱に蕩けた瞳でぼうっと見つめていた。
萨菲罗斯修长的手指,从下往上,一颗一颗地扣着小小的纽扣。他额前垂下的发丝轻晃,淡碧色的魔晄之瞳微微眯起,克劳德则用因高烧而迷蒙的眼神呆呆地望着他。

 そもそも今日は、久しぶりのオフで、久しぶりの逢瀬で。別に何をしようと約束していたわけでもないけれど、二人でいる時間を無駄にはしたくない。それなのに、やはりこうして迷惑をかけてばかりいる自分が、どうにも居た堪れなかった。赤らんだ顔を伏せて、息を呑むクラウドの喉の少し下で、彼の指は止まった。
说起来,今天是他久违的休息日,也是久违的约会。虽然没有约定要做什么,但他不想浪费两人在一起的时间。然而,他却总是这样给萨菲罗斯添麻烦,这让他感到非常不安。克劳德红着脸低下头,屏住呼吸,萨菲罗斯的手指停在他喉咙下方一点点的位置。

 高熱に動作の緩慢な少年に、息苦しさを与えないためだった。細い喉元を広げて、襟を正して。納得したように、セフィロスは頷いた。
这是为了不让因高烧而行动迟缓的少年感到窒息。他拉开衣领,整理好。萨菲罗斯满意地点了点头。

「ぁ――」
“啊——”

 徐に立ち上がり、背を向けるセフィロスの長い銀髪が揺れるのを、クラウドの視線が追いかけて、シーツを掴む指先が跳ねた。何を言おうとしたのだろう。新しい服に包まれて、先ほどよりも重さの剥がれた幼い胸が、内側からざわつくのを感じ、少年は胸を押さえる。
克劳德的视线追随着萨菲罗斯,看他突然起身,背对着自己,长长的银发随之摆动,抓着床单的手指跳动了一下。他想说什么呢?被新衣服包裹着,比刚才轻盈了许多的幼小胸膛,感受到内心深处的骚动,少年按住了胸口。

 何故だか、泣きたい気持ちに駆られた。鼻先がツンと痛くなって、目の奥が熱くなった。皺の無いシャツに指が食い込んで、布の軋みが耳に届く。と、先ほどクラウドに郷愁を齎した薫が足音と共に近づいてくるのを感じて、少年は顔を上げた。
不知为何,他感到一阵想哭的冲动。鼻尖传来一阵刺痛,眼眶也变得灼热。手指深深地陷入没有一丝褶皱的衬衫中,布料摩擦的声音传入耳中。这时,少年感觉到刚才让他感到怀念的香气伴随着脚步声靠近,他抬起头。

「なにをしている」
“你在做什么?”

 彼の手に、底の浅い皿が盆ごと握られていた。今日、既に多くの驚愕を刻んできたクラウドの胸は新たな驚きに高鳴りを見せた。
他的手里端着一个托盘,上面放着一个浅底的盘子。今天已经经历了许多惊愕的克劳德,胸口因新的惊喜而剧烈跳动。

 片手で扉を閉めて、先ほどと同じ場所に腰を下ろすセフィロスと、湯気立つボウルとをまじまじと見比べて、クラウドは自分が不恰好にも口をあけていることにすら気づかないでいた。
萨菲罗斯单手关上门,坐回了刚才的位置。克劳德目不转睛地看着他,又看了看冒着热气的碗,甚至没意识到自己正笨拙地张着嘴。

「朝から何も、食べてなかっただろう」
“你早上什么都没吃吧。”

 風邪の時は、食べるのもつらいだろう。そう言って、彼女は柔らかく煮込んだライスに牛乳の彩りを添えて、運んできた。せめてもの見栄えにパセリを撒いて、溶けたバターが芳醇な薫の主役だった。今、同じものがセフィロスの膝に乗っていて、自分に差し出されている。熱でのぼせて、幻でも見ているのだろうか。クラウドはきょとんとそれを見上げるばかりで、訝しげに眉を寄せるセフィロスへと、ようやく、乾いた口唇を僅かに動かした。
生病的时候,吃东西也很难受吧。她这样说着,端来了用牛奶点缀的软糯米饭。为了好看,还撒了些欧芹,融化的黄油散发出浓郁的香气。现在,同样的东西正放在萨菲罗斯的膝上,递到了自己面前。是发烧烧糊涂了,看到幻觉了吗?克劳德只是呆呆地仰望着,直到萨菲罗斯疑惑地皱起眉,他才终于微微动了动干涩的嘴唇。

「セフィロスが…作ったんですか…?」
“萨菲罗斯……你做的吗……?”

 彼がキッチンに立ち、料理をする姿など、見たことが無い。滅多に帰らないこの家のフリッジには、薬品が何本かと新しく買っただろう果物が転がるばかりで、買い揃えられた食器がまともに使われることなどなかったからだ。
他站在厨房里做饭的样子,我从未见过。这房子里的冰箱,他很少回来,里面只有几瓶药和一些他新买的水果,而那些成套的餐具也从未被好好使用过。

「不満か」
“不满吗?”

「あ、いえ、そういうわけでは……」
“啊,不,不是那个意思……”

 クラウドは慌てて首を振った。
克劳德慌忙摇了摇头。

 つい先ほどまでは痛いほどだった胸が熱くなって、顔が火照る。膝の上に乗せられた盆の上に、懐かしいミルク粥が乗っている。手をつけられずにいるクラウドを見詰めていたけれど、いつまでも手を出すそぶりのない少年にやきもきして、セフィロスはふ、と息をついた。
直到刚才还疼痛不已的胸口变得灼热,脸颊也发烫。膝盖上的托盘里放着熟悉的牛奶粥。克劳德一直盯着它,却迟迟没有动手,塞菲罗斯焦躁地叹了口气。

 手を動かせずにいる少年の目の前で、食器に添えた底の広いスプーンを手にとって、柔らかに満ちる料理をかき混ぜると、それを覗き込む新しい湯気がクラウドの顔を撫でた。それを冷まそうと何度か息を吹くと、口に放り込んだ病人食は味気なく、それでも特別難があるわけではない。
在少年面前,他拿起餐具旁宽底的勺子,搅动着碗里柔软的食物,新的蒸汽抚过克劳德的脸庞。他吹了几口气试图让它冷却,然后把病号餐送进嘴里,虽然味道平淡,但也没有什么特别的缺点。

「悪くない」
“不赖。”

 喉に残る味が少々気になるけれど、病人にとってはこれくらいでちょうどいいのかもしれない。セフィロスはスプーンを相手の方へと転がして、促した。
喉咙里残留的味道让他有些在意,但对于病人来说,这样可能刚刚好。塞菲罗斯把勺子推向对方,示意他吃。

「食べてみろ」
“尝尝看。”

 クラウドの大きく開いた双眸が、セフィロスを見詰めていた。
克劳德睁大的双眼凝视着塞菲罗斯。

 そもそも今日は、久しぶりのオフで、久しぶりの逢瀬で。別に何をしようと約束していたわけでもないけれど、二人でいる時間を無駄にはしたくない。それなのに、やはりこうして自分は、迷惑をかけてばかりいる。にも関わらず、セフィロスは今まで知るどの彼よりも、優しくて、ただ、優しくて。
说到底,今天难得休息,难得约会。虽然没有约定要做什么,但也不想浪费两人在一起的时间。然而,自己却总是这样给人添麻烦。即便如此,萨菲罗斯却比他认识的任何人都温柔,只是,温柔。

 また、クラウドの胸を、あの気持ちがツン、と、痛みを伴い広がっていく。申し訳ない、後ろめたい、そんな想いを滲ませながら、スプーンを握って食事を口に運んだクラウドに、ミルクの甘みとバターの香ばしさと共に染みていったのは、熱に冒された身を溶かす、柔らかな喜びだった。
那种感觉又一次刺痛了克劳德的心,伴随着疼痛扩散开来。克劳德握着勺子,带着歉意和愧疚,把食物送进嘴里,牛奶的甜味和黄油的香气渗透进来,融化了他被热病侵袭的身体,带来的是柔和的喜悦。

 まったくもって、この命は、セフィロスの思う侭にならない。何度躯を重ねても、無理やりに時間を繋げても、恐れるもののない英雄は、この瑣末な命に翻弄される。
这条命,完全不受萨菲罗斯的控制。无论多少次身体交叠,无论如何强行维系时间,这位无所畏惧的英雄,却被这微不足道的生命所玩弄。

 食事を口に運ぶ様を眺めながら、セフィロスは自分がいつの間にか、微笑みを刻んでいることに気づかなかった。
萨菲罗斯看着他把食物送进嘴里的样子,没有注意到自己不知不觉间,嘴角已挂上了微笑。

 この少年は、神羅の英雄を、一人の人間にしてしまう。それが良いことなのか、悪いことなのか、セフィロス当人に判断はつかなかったけれど、弱った少年が大人しく出した料理を食べている、たったそれだけの当たり前のことに、彼自身の与えた苛立ちや不安が解きほぐされていくのだから、不思議なものだ。
这个少年,让神罗的英雄,变成了一个普通人。这究竟是好事还是坏事,萨菲罗斯本人无法判断,但当他看到虚弱的少年乖顺地吃着他端出的饭菜时,仅仅是这件再寻常不过的事情,就让他自己所给予的烦躁和不安烟消云散,真是不可思议。

 ごくごく自然な欲求から、セフィロスは彼の少し萎れた髪に指を伸ばそうとした。
出于极其自然的欲望,萨菲罗斯伸出手,想要触碰他那略显枯萎的头发。

「母さんが……」
“妈妈……”

 浅い皿をかき混ぜながら漏らす少年の呟きに、指が止まった。
少年一边搅动着浅盘里的食物,一边低声嘟囔着,他的手指停在了半空中。

「俺、昔よく、熱だして。そのたんびに、母さんが、お粥作ってくれて」
“我以前经常发烧。每次发烧,妈妈都会给我做粥。”

 昔の話をすることは、珍しい。ニブルヘイムの記憶はクラウドにとっては苦いものが多く、セフィロスのこれまでと同じように、不可侵なものだった。
他很少提及过去的事。尼布尔海姆的记忆对克劳德来说大多是痛苦的,就像萨菲罗斯的过去一样,是不可侵犯的。

「早く元気になれとか、早く治せとか、言わなかった。ただ、ゆっくり休めって…」
“她没有说‘快点好起来’或者‘快点治好’。她只是说‘好好休息’……”

 小食な少年に合わせて、分量はそう多くは無かった。懐かしい味と風味に思いのほか食が進んで、少年は喉を鳴らす。
为了配合食量小的少年,分量并不多。怀旧的味道和香气意外地让他胃口大开,少年喉咙里发出满足的声音。

「なんだか、すごく……懐かしい、気がする」
“总觉得,非常……怀念。”

 一粒も余さないように、何度も何度もスプーンで掬い取って、思わず零した呟きは我ながら要領を得ず、少年は小さく首を振った。
他用勺子一遍又一遍地舀着,不留下一粒米饭,不经意间溢出的低语连他自己都觉得语无伦次,少年轻轻摇了摇头。

「…すみません、変なこと言って」
“……对不起,说了奇怪的话。”

 苦笑は乾いた笑いになって、クラウドは話すのをやめた。残る粥をスプーンに掬い取り、出された食事を平らげて、ご馳走様です、と、小さく呟く。依然俯いたままの少年の、長い前髪の先に指を差し入れて、セフィロスは彼の額に触れた。
苦笑变成了干笑,克劳德停止了说话。他用勺子舀起剩下的粥,吃完了端上来的饭菜,小声地说了句“谢谢款待”。萨菲罗斯将手指伸进依然低着头的少年的长刘海中,触碰了他的额头。

「…まだ、熱いな」
“……还是有点烫。”

 重なる食器を乗せたトレイを片手に、セフィロスは立ち上がる。先ほど連れてきた小さな盥には水が張ってある。薄いタオルをそれに浸して強く絞ると、知ったばかりの看病を実践するため、彼はクラウドへと向き直った。
萨菲罗斯单手端着放有层叠餐具的托盘站起身。刚才他带来的小盆里盛着水。他把薄毛巾浸入水中用力拧干,然后转身面向克劳德,准备实践他刚学到的护理方法。

「横になれ」
“躺下。”

 クラウドの重みを引き受ける寝台には、彼の形に波が打たれていて、枕の窪みも彼のために仕上がっている。強がりの出ないのは、抵抗したところで無意味だと知っているからもあるのだろうし、もう少しだけ、この優しさに甘えていたいという我侭な欲求もあるのだろう。布団を再び、鼻先までずり上げたクラウドの額に、冷たいタオルが乗せられた。
承担着克劳德重量的床铺,因他的身形而起伏,枕头的凹陷也为他而形成。他之所以没有逞强,或许是因为他知道抵抗也毫无意义,也或许是因为他内心深处有那么一点点任性的欲望,想再多享受一下这份温柔。冰冷的毛巾被敷在克劳德的额头上,他再次把被子拉到鼻尖。

 セフィロスにとっては、どれもこれもが新鮮だった。看病したこともなければ、されたことなどあるはずもない。それなのに、クラウドの台詞にあった懐かしさは、何故かセフィロスの胸にも宿っていた。鮮烈でない柔らかな刺激が彼の胸を擽って、安穏とした心地よさを与えている。
对萨菲罗斯而言,一切都是新鲜的。他从未照料过他人,也从未被他人照料过。然而,克劳德话语中流露出的怀旧之情,不知为何也萦绕在萨菲罗斯心头。一股不甚强烈却柔和的刺激轻抚着他的胸膛,带给他安宁的舒适感。

 セフィロスの笑む気配を知って、まるで心が内側から引っかかれたような気持ちになって、少年は小さな身を震わせる。額に添えたタオルが落ちないようにと軽く押さえたまま、その位置を確かめるセフィロスが寝台に腰掛けるのを感じ、クラウドは呟いた。
感受到萨菲罗斯的笑意,少年仿佛心被从内侧抓挠了一下,小小的身躯颤抖起来。萨菲罗斯轻轻按住额头上的毛巾,以免它掉落,同时确认着毛巾的位置,然后坐到床边。感受到他的动作,克劳德低声说道:

「…すみません」
“……对不起。”

 これ以上、迷惑をかけられない。そんな声が聞こえた気がして、セフィロスは、タオルに覆われてその瞳が見えないのをいいことに、微かに笑んだ。
萨菲罗斯仿佛听到了“不能再给您添麻烦了”的声音,他趁着毛巾遮住了克劳德的眼睛,微微笑了笑。

「ああ」
“嗯。”

 額から指をそっと離しても、セフィロスが立ち上がる気配はない。同じ寝台に重なる重みを感じながら、クラウドは再び口を開いた。
即便他轻轻地将手指从额头上移开,萨菲罗斯也没有要站起来的迹象。感受到同一张床上叠加的重量,克劳德再次开口。

「寝てれば、治りますから。だから、大丈夫です」
“睡一觉,就会好的。所以,没事的。”

「ああ」
“啊。”

「久しぶりの休みなんだし、俺のことは、放っておいていいですから」
“难得的假期,你就别管我了。”

「ああ」
“嗯。”

 布団を握り締める指先に力が篭もる。セフィロスは、いっこうにその場を動こうとしない。何故だか心臓が高鳴って、クラウドは息を詰まらせていた。
他紧紧攥着被子的指尖收紧。萨菲罗斯丝毫没有要离开的意思。不知为何心跳加速,克劳德屏住了呼吸。

 決して、出て行けとは言えない。そこに彼がいるというだけで、緊張して、嬉しくて、たまらなかった。出て行く気など、毛頭無い。そこに彼がいるというだけで、安らいで、嬉しくて、たまらなかった。
我绝不能说出“出去”这样的话。仅仅是他在那里,就让我紧张、高兴得无以复加。我根本没有离开的打算。仅仅是他在那里,就让我感到安心、高兴得无以复加。

「クラウド」
“克劳德。”

 名前を呼ばれ、水を吸った重いタオルの下で、クラウドの瞼が小さく動いた。
被叫到名字,在吸饱了水的沉重毛巾下,克劳德的眼睑微微颤动了一下。

「そばにいる」
“我会在你身边。”

 なにをするというわけでもない。どれだけのものを共有できるともわからない。二つの世界はこれまで、それぞれまったくの別物で、こうしている今だけが、特別で、愛しくて。違和感を否めないのに、理由もわからない衝動に駆り立てられて、無様なほどに、繋がっていたい。
我们什么也不做。也不知道能分享多少东西。两个世界至今为止都截然不同,只有现在这一刻,是特别的,是珍贵的。尽管无法否认这种违和感,却被一种不明所以的冲动驱使着,即使狼狈不堪,也想紧密相连。

「ゆっくり、休め」
“好好休息吧。”

 クラウドは応えなかった。口元までを覆う布団と、かけられたタオルに表情を隠し、寝た振りをするのが精一杯だった。セフィロスの指先が刺激を与えぬように、布団を探って少年の固く握り締めた拳を包み込む。いつしか、五本の指が絡まりあって、広い掌が少年のそれをすっぽりと包み込んだ。
克劳德没有回应。他用被子盖住嘴巴,又用毛巾遮住脸,竭尽全力地假装睡着了。萨菲罗斯的手指在被子里摸索着,找到少年紧握的拳头,将其包裹起来,以免刺激到他。不知不觉间,五指交缠,宽大的手掌将少年的拳头完全包覆。

 結んだ場所から感じる温もりと、部屋の中に充満する、柔らかな風味に、強張る心がほどけていく。このまま時が、止まってしまえばいいのに。熱に浮かされた揺れる意識で、心も奮える静寂の中で、二人は同じ言葉を、胸に唱えた。
从交握之处传来的温暖,以及弥漫在房间里的柔和气息,让紧绷的心逐渐放松。要是时间能就此停滞该多好。在被热度灼烧的摇曳意识中,在内心也为之颤抖的寂静里,两人在心中默念着同样的话语。






【 END 
【 完 】