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ャラ
角色

テキスト
文本

【キヨネ視点】
【清音视角】

黒いモヤ
黑色迷雾

貴方は人を殺した。大事な人だったはずなのに、貴方は殺してしまった。
你杀了人。明明应该是重要的人,你却杀了。

その事実があなたの心を苛み、後悔の思いが消えない。
这个事实折磨着你的心,后悔之情无法消散。

そして悔恨は今も貴方の心を締め付けては離さない。
悔恨至今仍紧紧束缚着你的心灵,不肯离去。

失ったものへの悔いを抱く貴方へ、小さくささやく声が聞こえた。
对于怀有对失去之物的悔恨的你,隐约听到了微小的声音。

それは、「サヨ(彼女)」に似て非なる《何か》。
那是、「萨ヨ(她)」既相似又不同的《某种东西》。

焦点の定まらない瞳でじっと貴方を見据え、その口がゆっくりと開いた。
用无法聚焦的目光凝视着你,她的嘴慢慢张开。

「壊れた《もの》を《治し》たくありませんか?」
「想《修复》《破损》的东西吗?」

「失った大事なものを取り戻したくはありませんか?」
「想找回失去的重要东西吗?」

洋館
洋馆

青白く華奢な人形の腕にそっと触れると、つるつるとした陶器のような滑らかさが指先に伝わり、
轻轻触摸那青白色、纤薄的人偶手臂,陶器般光滑的触感传到指尖、

豆状骨の輪郭や薄い貝殻のように整えられた爪の半月がかすかに覗いた。
豆状骨的轮廓和薄如贝壳的半月形指甲隐约可见。

なのに、肘と思しきところから見える丸い関節から、それは明らかに人形のパーツだとわかる。
然而,从看似肘部的位置露出的圆形关节,明显可以看出那是人偶的部件。

いや…私は知っている。だって、この暖かなで柔らかな手に引っ張られ、どこかに連れていかれた記憶がある。
不…我知道。因为,我有过被这双温暖柔软的手拉走,被带到某个地方的记忆。

青白く繊細な人形の両脚に指を這わせると、ひんやりとした感触がしっとりと指先を包み、
当手指滑过青白色精致的人偶双腿时,冰凉的触感温柔地包裹着指尖,

細く優雅なラインが象牙のように精緻で、わずかに透けた血色を隠しきれない。
纤细优雅的线条如同象牙般精致,几乎无法隐藏那微微透出的血色。

なのに、足首の球体関節がそれが人ではなく、人形のパーツであると告げている。
然而,脚踝的球形关节却告诉了我,这并非人类,而是人偶的部件。

いや…私は知っている。だって、しなやかさをまといながらも、きっぱりとした足取りに導かれ、どこまでも歩み続けた記憶がある。
不…我知道。因为,虽然被柔美所掩盖,但记忆中始终被坚定的步伐引导,不断前行。

薄く透けるような光沢を纏った人形の胴体に目を留めると、なだらかな曲線が引き締まった形を包み、
当目光停留在裹着薄薄光泽的人偶躯体上时,平滑的曲线勾勒出紧致的轮廓,

肋骨の微かな起伏が薄い紙を重ねたかのように脆く、少し力を入れるだけで簡単に壊れてしまいそうに見える。
肋骨的微弱起伏如同重叠的薄纸般脆弱,似乎稍加用力就会轻易破碎。

なのに、異常なほど粒ひとつ感じられない肌と触れた瞬間に伝わる冷たさから、生きていないパーツであることを淡々と物語っている。
然而,在触摸到异常平滑、毫无颗粒感的肌肤,感受到瞬间传来的冰冷时,它却淡淡地诉说着自己并非活物。

いや…私は知っている。だって、この無言の温もりを感じながら、どこまでも寄り添いたくなるような気持ちが湧き上がる記憶がある。
不…我知道。因为,我还有这样的记忆,在感受到这份无言的温暖时,总会涌起想要无限贴近的心情。

穏やかな表情を浮かべた人形の顔に目を向けると、滑らかな額から顎に至るまでの輪郭は磨き抜かれた瑠璃を彷彿とさせ、
当目光投向表情平静的人偶脸庞时,从光滑额头到下颌的轮廓,仿佛打磨过的琉璃般光滑,

つややかな黒髪や色あせた肌、微かに開いた口元には温もりを感じさせる柔らかさがある。
闪亮的黑发和略显褪色的肌肤,微微张开的唇边透出让人感到温暖的柔和。

なのに、鼻筋や頬の曲線が見事な調和を成している様子から、その不自然さはどこか現実離れした存在感を放っている。
然而,从鼻梁和脸颊曲线的完美和谐来看,这种不自然感反而散发出一种超脱现实的气息。

いや…私は知っている。だって、その美しい顔立ちと儚さを帯びた表情に、かつて心を奪われた記憶がある。
不…我知道。因为,我曾在那美丽面容与带着脆弱表情的瞬间,夺走了我的心。

灰みがかった神秘的な海松色の瞳に目を落とすと、シャンデリアの光を受けて微かに煌めき、
当目光落在那灰蒙蒙的神秘海松色眼眸上时,在水晶灯的光芒下微微闪耀,

ぬめりを帯びた瞳の奥には深い湖のような静寂と、デマントイドのような透明感が息を呑むほど美しい。
那双带着光泽的眼眸深处,有着如深湖般的静谧,以及如珍珠母贝般的透明感,美得令人窒息。

なのに、瞼の淵に見える精巧な縁取りから、それが人のものではないと、思わず背筋が凍るような不安に襲われる。
然而,眼睑深处那精巧的轮廓,让我不由自主地感到一种仿佛背脊冻结的不安,心想这绝非人类所有。

いや…私は知っている。だって、この温かで優しい目に、見つめられた記憶がある。
不…我知道。因为,有被这双温暖而温柔的眼睛注视过的记忆。

キヨネ
清音

「あれ?なに、これ……」
“咦?什么,这个……”

手術台に眠るパーツたちのそばに、黄色みのかかる紙らしきものが一枚置いてある。
手术台上躺着的零件旁边,放着一页泛黄的东西。

手に取ってみると、カサカサ言う音はやはり紙らしく、表面は脂分を感じてどことなく油紙っぽく、
拿到手后,沙沙作响的声音果然像纸一样,表面能感觉到油脂,有点像油纸,

それでいてツルツルというわけでもなく不思議な感じがする。
但同时又不是滑溜溜的,感觉有些奇妙。

これはもしや、中世マストアイテムーー「羊皮紙」というものなのではないか。
这莫非是中世纪必备物品——「羊皮纸」?

ファンタジー系のゲームと小説とかでしか知ることも、現代にほぼ見かけるもできなかったが、
只在奇幻类的游戏和小说中听说过的东西,在现代几乎看不到。

この異空間で触れられる機会が訪れるとは。
在这个异空间中能被触碰的机会真是难得。

どこかに安らぎを求む心が、少し癒されたような気がする。
感觉内心寻求安宁的念头,似乎得到了些许治愈。

キヨネ
清音

「なんか、書いてある」
「好像写着什么」

よく目を凝らしめると、羊皮紙には堅苦しい日本語が記されている。
仔细凝视之下,羊皮纸上写满了生硬的日语。

キヨネ
清音

「これはこわれたひとのたましいを吹き込む呪文、
「这是注入破碎灵魂的咒文、

鍵を直す呪文、あなたの価値観ががらりと変わる呪文…」
修复钥匙的咒语,让你价值观彻底改变的咒语…」

文章を口にした瞬間、目の前に異変が突然始まった。
文章入口的瞬间,眼前突然发生了异变。

体中におかしなしびれを感じるとともに、ひどい眩暈と脱力感に襲い掛かかる。
全身感到奇怪的发麻,同时被严重的眩晕和无力感袭击。

キヨネ
清音

「うっ…きもち、悪い…」
「唔…感觉,不好…」

居ても立っても居られず、反射的に後ろの棚角を掴み、なんとか体のバランスを保とうとする。
坐立不安,下意识地抓住背后的架子角落,努力维持身体的平衡。

しばらくして、胃の中にひりひりとする燃えるような息苦しさがだんだん消えていて、肺臓一杯の呼吸をむさぼる。
过了一会儿,胃里灼烧般的窒息感逐渐消失,贪婪地呼吸着肺部全部的空气。

キヨネ
清音

「はぁ…っはぁ…っ
“啊……咳咳……啊……”

し、死ぬかと思った…」
啊,我还以为要死了…」

一難が去って安心したのか、足が思わず一気に脱力し、床に座り込む。
刚摆脱一个难关,便安心下来,脚下一软,不由自主地瘫坐在地上。

くるくるとする視界を直そうと何回か力強く首を振って、朦朧とする不快な感覚を必死に振り払う。
试图转动模糊的视线,用力摇晃了几下脖子,拼命甩去那令人不适的昏沉感。

ーーその時だった。
——就在那时。

キヨネ
清音

「…え」
「…啊」

手術台の方向に違和感を覚えて、恐る恐る顔を上げる。
感到手术台方向有些不对劲,战战兢兢地抬起脸。

キヨネ
清音

「ーーっ」
「一一」

目の前に、奇跡が起きてしまっている。
眼前,奇迹正在发生。

キヨネ
清音

「ぱ、パーツとパーツが…つながってる…」
「咦、部件和部件正在…连接着…」

動くはずのない人形のパーツの断面から赤い糸がぐにゃぐにゃと蠢いては互いをつながり、「彼女(サヨ)」となっていく。
本该无法动弹的人偶零件断面处,红色的线虫扭动着蠕动,彼此连接,逐渐形成“她(萨ヨ)”。

キヨネ
清音

「う、うそ…そんなはずが…」
“啊,不对……不可能……”

間違いなく、サヨだ。
毫无疑问,是萨ヨ。

しかも、現実世界で太い鉄筋に貫かれた部分も、いやとなっては跡形もなく消えている。
而且,现实世界中被粗钢筋贯穿的部分,也早已消失得无影无踪。

サヨが…生き返った…?
沙也…复活了…?

キヨネ
清音

「でも、これで…」
「但是,这样…」

これで、友達の死を取り戻せたのだろうか。
这下,能挽回朋友的死亡了吗。

自らやってしまったことを巻き戻せたのか。
能撤销自己做过的事吗。

こんなにも得体の知れない館で、奇妙な出来事が起きるのは、もはや当然のことに思えてくる。
在这样的不知所云的馆中,发生奇怪的事,似乎已变得理所当然。

だったら――死んだはずの友達が、何事もなかったように戻ってくることだって、不思議と受け入れられてしまう気がした。
那么——原本已死的朋友,若无其事般回来,也让人不可思议地开始接受了。

なににせよ。サヨが、戻ってきた。
无论如何。沙夜,回来了。

それでいい、それだけでいい。本当に、それだけでよかったんだ。
这就够了,真的就足够了。真的,这样就很好。

ほかのことを思い悩む余裕なんて、もう残っていなかった。
已经没有余力去思考其他事情了。

これで、私の罪も許されるのだろうか。
这样,我的罪过也会被原谅吧。

いままでしてきたことだって、サヨは許してくれるのだろうか。
到目前为止所做的一切,佐由会原谅我吗。

キヨネ
清音

「……」

選択肢
选项

①.向き合う ②.やっぱり怖い
①.面对 ②.果然害怕

選択肢分岐
选项分支

①.向き合う
①.面对

キヨネ
清音

「ダメだ。ここで逃げてはダメだ……。」
「不行。在这里逃跑是不行的……。」

深く、深く、息を吸い、吐き出す。
深深地、深深地、吸气、呼气。

よし、覚悟はできた。
好,已经做好了觉悟。

キヨネ
清音

「サヨ…サヨなの?私の声聞こえてる?キヨネだよ!
「小夜…小夜吗?能听到我的声音吗?我是小夜啊!

ねぇ、起きて……お願い……一緒に戻ろう……」
呐,醒来……求你了……一起回去吧……」

感情へのコントロールが吐き出す言葉につられ、声がだんだん震え始める。
被对情绪的控制所驱使,话语中带着颤抖的声音开始颤抖。

キヨネ
清音

「サヨ、起きてって……お願いだよ」
「小夜,快起来……拜托了」

キヨネ
清音

「あなたが生きていてくれるのなら、私は……」
「如果你能活下来,我……」

ダメだ。泣かないって、決めたのに。
不行。明明决定了不哭的。

サヨが目覚めたら、ちゃんと笑顔で、向き合おうと思ったのに。
当萨ヨ醒来时,本想带着微笑面对她。

涙はぽろぽろと滴り落ち、彼女の顔に伝う。
泪水一滴一滴地滑落,浸湿了她的脸庞。

小さな丸と丸がだんだんと溜まっていき、繋がる。
小小的圆点逐渐聚集,彼此相连。

泣くことをさとられないように、小刻みに震える手をゆっくりと液体たちをぬぐい取る。
为了不让眼泪夺眶而出,她颤抖着小手,慢慢地擦去液体。

サヨ
沙耶

「……」

気のせいだったんだろうか。
是错觉吧。

一瞬、彼女の眉毛がびくっと動いた気がする。
一瞬间,感觉她的眉毛动了一下。

キヨネ
清音

「サヨ……?サヨっ!?」
「沙…?沙!?」

サヨ
沙耶

「うん……」
「嗯…」

彼女は、目を覚ました。
她醒了。

視界を取り戻そうと、まぶたをぱちぱちさせる。
试图恢复视野,眼皮啪啪作响。

サヨ
沙耶

「キヨ、ネ……?」
“晴、呢……?”

選択肢分岐
选项分支

②.やっぱり怖い
②.果然还是害怕

それでも、こわい。
即便如此,还是害怕。

もし、いまこの空間に起きていること自体が夢で、触った瞬間にサヨが消えてしまっていたらーー
如果,现在这个空间发生的事情本身就是梦,一旦触碰的瞬间萨ヨ就消失了——

いや、そんなことより、彼女は覚えているのだろうか。
不,比起那件事,她应该还记得吧。

意識が戻って、目の前に立ってる人ーーこの手でビルから突き落とした加害者(私)を見て、何を思うのだろう。
意识恢复后,站在我面前的这个人——看着用这双手从楼上推下去的加害者(我),会想些什么。

あの夜、あの屋上、あの風の音。
那个夜晚,那个屋顶,那阵风声。

私の手が、彼女の体を押した瞬間の、息を呑むような沈黙。
我手压在她身体瞬间的、令人窒息的沉默。

そして、落ちていく最中に交わした、最後の視線までもーーもし、ひとつ残らず覚えていたとしたら。
然后,在坠落的过程中,我们交换的最后一眼——如果全部记得的话。

サヨ
沙耶

「……あれ、キヨネ?」
"……啊,小夜?"

キヨネ
清音

「!」

自分の思考に思い深けるばかりに、サヨがすでに目覚めていることにすら気付かなかった。
只顾着深入思考自己的思绪,连纱代已经醒着这件事都没察觉到。

キヨネ
清音

「さ、サヨ!サヨなの?そ、そうだよ。私だよ?キヨネだよ!」
「来,纱代!是纱代吗?对,没错。是我吗?是清音啊!」

選択肢収束
选项收敛

目の前に彼女が喋っている。この事実に、さっきまでの不安と恐怖は一気に吹き飛んだ。
眼前是她正在说话。这个事实让之前的不安和恐惧瞬间烟消云散。

こみ上げる涙を必死にこらえ、私はサヨをきゅっと抱き着いた。
我拼命忍住涌上眼眶的泪水,紧紧抱住了沙夜。

キヨネ
清音

「目が覚めたんだね……よかった、本当によかった……!」
「你醒啦……太好了,真的太好了……!」

確かめるように彼女の肌に触れ、じんわりとする。
她轻轻触摸着她的肌肤,感受到一丝温暖。

すり抜けずに直に感じられるサヨの体は、温かい。まったく、冷たくもない。
无法穿透地直接感受到的沙耶的身体,是温暖的。完全,也不冷。

サヨ
沙耶

「……どうしたの?キヨネ」
「……怎么了?千代子」

彼女のやさしい声が耳元に小さく響く。
她温柔的声音在小耳边轻轻响起。

いつでものサヨだ。
千代子。

キヨネ
清音

「うう……っ、本当に……生きてて、よかった……」
「呜呜……真的……活着,真好……」

嗚咽が止まらない。せっかくの再会だというのに。
哭泣不止。明明是难得的重逢。

私はまた、彼女に自分のみっともなさをまんまとさらけ出してしまった。
我又把我的缺点全都暴露给了她。

それなのに、彼女はお構いなしに、私を受け入れる。
然而,她却满不在乎地接纳了我。

落ち着かせるために、そっと私の背中を軽く摩ってくれた。
为了让我平静下来,她轻轻地摩挲着我的后背。

サヨ
沙耶

「大丈夫だよ、キヨネ。……もう、大丈夫だからね」
“没关系啦,キヨネ……已经没事了哦”

彼女は見つめる。私を見て、目を細める。
她凝视着。看着我,眯起了眼睛。

そして、ゆっくりと口を開いた。
然后,慢慢地张开了嘴。

サヨ
沙耶

「キヨネ。私……」
“千代子。我……”

彼女は、私の目をーーいや。
她看着我——不,算了。

それより下に位置する喉を見つめて、まるで獲物を狙い定める豹のように目を光らせる。
看着下方位置的那张喉咙,目光如同瞄准猎物的豹一般闪耀着光芒。

サヨ
沙耶

お腹が、すごく空いてるの。
"肚子,好饿啊。"

キヨネ
清音

「え……?」
"诶……?"

視界の端、彼女は口を大きく開いたのを見た。
视野的边缘,她看到了她张大嘴巴的样子。

先ほどの安心さで全身から力が抜けたせいで、反射的に後ろに避けようにも、すでに遅かった。
先前因全身放松而卸下重负,想要反射性地往后躲避时,已经太迟了。

瞬く時間すえ与えられず、彼女は無造作に鋭い歯を一面の皮膚にねじり込んだ。
在转瞬即逝的时间里,她随意地将尖锐的牙齿深深嵌入一片皮肤中。

強い衝撃で体は傾き、手術台か転がり落ちて、床に背を向いたまま叩きつけられた。
强烈的冲击使身体倾斜,手术台翻滚着掉落,背对地面被猛力击打。

恐る恐る視線を下に向けると、激しい痛みとともに、あっという間に襟元は赤色に染まった。
她颤抖着将视线向下移,剧烈的疼痛中,衣领很快染上了红色。

キヨネ
清音

「どぅ……ぢ……」
「咦……嗯……」

うまく発音ができない。
发不出声音。

喉首のあたりに熱感がわだかまって、舌も喉の奥で石のように固まったままだ。
喉咙处感到灼热感,舌头也像石头一样在喉咙深处凝固。

気管は今では隙間なく塞がれ、空気は一切入ってこない。
气管现在完全被堵塞,空气完全无法进入。

キヨネ
清音

「がっ……ぁ」
「呃……啊」

苦しい。身体と意識がだんだん分割されていく感覚があった。
痛苦。感觉身体和意识正逐渐被分割开来。

眼の前に唐突に起きてしまったことに反応できず、きょとんとする表情で地面にへばりつく。
无法对眼前突然醒来的事情做出反应,僵硬地表情贴在地面上。

死んでしまう。このままだと、絶対にーー。
会死掉。如果这样下去,绝对——。

まだ、何かできることはないのか。きっとあるはずだ。
还没有什么能做的吗。一定有办法的。

そう。私は彼女に、言わなければならない。
对。我必须告诉她。

謝って許されなくても、私はそれを口にしないといけない。
即使道歉得不到原谅,我也必须说出来。

サヨに、彼女に、伝わらないと。
必须让纱依知道,必须让她明白。

キヨネ
清音

「ぁ……がぁ……
「啊……好难受……

 ごっめ……ごめん、なさぃ……」
对不起……请原谅……」

体が重い。割かれた傷口から大量の血液が吹き出し、
身体沉重。从撕裂的伤口中喷出大量血液、

地面に、天井に、手術台に。
溅到地上、天花板上、手术台上。

彼女の顔に、体に、赤一面で染まり、広がっていく。
她的脸上、身上,被鲜血染红,不断蔓延开来。

だが、彼女はなにも言わない。
但是,她什么也没说。

口元には、まだ人の体の組織としての肉塊と血が付いている。
嘴角还残留着作为人体组织的肉块和血迹。

その姿は、明らかに人間離れである。
她的样子明显非人。

キーンと、耳鳴りがする中ーー
突然,耳边嗡嗡作响——

彼女は無表情のまま、私を見つめているような気がした。
她似乎面无表情地看着我。

まるで、私の言葉を拒絶しているように。
仿佛在拒绝我的话语。

しかし、意識はすでに深い闇の中へ沈み込みそうでーー
然而,意识正逐渐沉入深深的黑暗之中——

そうして、視界が真っ暗になって、音も聞こえなくなっていった。
于是,视野变得一片漆黑,声音也渐渐听不见了。

黒いモヤ
黑色迷雾

なにも見えない。
什么也看不见。

視界という概念すら曖昧になるほど、濃密な暗黒に包まれている。
被浓密的黑暗包裹,连“视野”这个概念都变得模糊不清。

息を吸うたび、胸の奥が鈍く軋む。
每次呼吸,胸口深处都钝钝地摩擦作响。

冷たさが皮膚を越えて内側へ染み込み、感覚が少しずつ麻痺していく。
寒意穿透皮肤渗入内部,感觉逐渐麻木。

周囲は沈黙に満たされ、存在の輪郭が溶けていくようだった。
周围充满寂静,存在轮廓仿佛在消融。

思考はゆるやかに沈下し、言葉は意味を失い、心だけが重みを増していく。
思考缓缓下沉,语言失去意义,只有心灵逐渐沉重。

抗う手は空を切り、支えもなく落下が続く。
反抗的手划破天空,毫无支撑地持续坠落。

どこへ向かっているのか、終点があるのか、それすら確かめる術もない。
往哪里去,终点是否存在,连这都无法确定。

ただひたすら、深く、静かに、沈んでいく感覚だけが確かだった。
唯一能确定的,只是自己正不断、深深地、沉沦下去的感觉。

その時だった。
就在那时。

黒いモヤ 別ver.
黑雾 別版

??(ロウ)
??(楼)

「……ネ?」
“……呢?”

遠くから、誰かの声がした。
从远处,传来了某个人的声音。

耳ではなく、胸の奥に響くような呼びかけ。
不是通过耳朵,而是像在胸口深处回响的呼唤。

朽ちかけた意識の隙間に、かすかな音が染み込んでくる。
在逐渐消散的意识缝隙中,隐约的声音渗透进来。

??(ロウ)
??(罗)

「……、ヨネっ」
“……、由音啊”

キヨネ
清音

「……っ」
“……啊”

名前を呼ばれている気がした。
感觉有人在叫我。

その声を追うように、闇の裂け目から淡い光が差し込んだ。
仿佛追寻那声音般,从黑暗的裂缝中透进微弱的光。

??(ロウ)
??(罗)

「……ぉい、……キ、ヨネっ」
“……哦,……基、夜音”

重たいまぶたが、ようやく少しだけ開く。
沉重的眼皮,终于稍微睁开。

視界の端に、白い光が揺らめいた。
视野的边缘,白色光芒摇曳。

ぼやけた世界が滲んで広がり、光と影の境目が曖昧に溶けていく。
模糊的世界逐渐渗透开来,光与影的界限变得模糊而融化。

??(ロウ)
??(罗)

「……キヨネ!」 

研修室

キヨネ
清音

「!」 

何回か瞬きを繰り返し、ようやく焦点が合った。 
天井のひび割れの先に、白い蛍光灯の光が無機質に滲んでいる。 

匂いがした。薬品と金属と、わずかに冷え切ってる空気。
闻到了气味。药品和金属,还有一丝冰冷刺骨的空气。

この空間を知っている。
我知道这个空间。

ーーいつもの研究室だ。
ーー还是那个实验室。

キヨネ
清音

「はぁ……はぁ……っ」
「哈……哈……っ」

大きく息を吸い込んだ。 
乾ききった肺に酸素をいれるために、全力で周りに漂うすべての空気を貪る。 

さっきまでいた場所。 
暗くて、何も見えなくて、落ち続けていた。 
その感触が、まだ肌の裏にまとわりついて離れない。 

首に手を当てていた。 
確認してみると、血なんて付いていなかった。 
喉も当然の如く割かれてなんかいない。 

??(ロウ) 

「……大丈夫か?」 

耳元で、男の声が呼びかける。 
焦りと心配を湛えたその声に、ようやく現実が押し寄せてくる。 

キヨネ
清音

「……ロウ……くん?」 

男の名前を呼ぶと、彼の手が、肩を優しく揺さぶりながら繰り返す。 

ロウ

「落ち着けよ、…な?」 

なんとか意識を男の方にいけたが、震えが止まらない。 

ロウ

「もう、大丈夫だから。しっかりして。」 

そうか、あれは夢だったのか。 
あまりのリアルさに、現実世界との区別がつかないほどだった。 

そう、きっと夢だったのだ。 
小夜はそんなことをしない。するはずがない。 

彼女はずっと私の味方でいてくれる唯一の親友。 
私のことを傷づけるなんてありえない。 

キヨネ
清音

「……うん。」 

わずかに首を動かして、ようやく返事をする。 

それを見たロウは、目に見えて肩の力を抜いた。 
安堵の息が、すぐそばで小さく漏れる。 

ロウ

「…マジで、よかった……」 

呟いた声が、低かった。 
普段の彼があまりにも元気に溢れているせいか、 
その声にすこし慣れない自分がいる。 

けれど、次の瞬間には「あっ」と情けない声をあげて、 
私の肩から慌てて手を引っ込めた。 

ロウ

「ご、ごめん! 勝手に触って……!」 

ロウは目を逸らすように顔をそむけ、 
よく見たら、耳にかすかな桜色に染まる。 

その仕草が少し可笑しくて、 
胸の奥に張りついていた不安が、ほんの少しだけほどけた。 

ロウ

「別に変な意味じゃなくて! 
キヨネが全然起きなくて、だから… 
あとそのぅ、声かけても反応ないし……!」 

あたふたと手を振りながら、必死に言葉を続けようとするロウ。 
話はうまくまとまってないし、テンポもバラバラなのに、私のために焦ってくれているのがわかる。 

キヨネ
清音

「ふふっ、ごめんなさい……心配かけてしまって」 

思わず笑みをこぼす。 
喉はまだ痛むけれど、ちゃんと声になっていた。 
胸の奥に溜まっていた重たいものが、すこしだけ軽くなる。 

キヨネ
清音

「ありがとう、ロウくん」 

ロウは一瞬きょとんとした顔をして、また目をそらした。 
桜色は耳から顔にまで満開した様子で、今度ははっきりわかる。 

ロウ

「お、おう」 

ロウは私の方を見ようとせず、机の隅に視線を泳がせながら、 
落ち着きなく髪をかいた。 

その照れ隠しの返事に、さらに笑いそうになったけれど、 
今はロウの顔を立てて、こらえておくことにした。 

ロウ

「なんか、もう無事そうだし……そろそろ出よっか?」 

彼の声がなんとなく気を使っているように響いた。 
私の顔をちらっと見て、少しだけ緊張したような表情を浮かべている。 

キヨネ
清音

「あ……うん、そうだね」 

目を外にやると、窓の外がすっかり暗くなっていることに気づいた。 
昼間の明るさがとっくにどこかに消え、もう空は深い青色に変わった。 

急いでポケットからスマホを取り出し、画面を確認した。 
ーー時は、すでに9時を回っている。 

キヨネ
清音

「え、もうそんな時間?」 

ロウ

「うん、遅くなっちゃったな。 
帰ろっか。」 

大学

研究室のドアを開けると、途端に強い熱気が押し寄せてきた。 
クーラーで冷え切った室内とは真逆の、暑さがまとわりつく。 

ああ、夏だなーと思った。まだ8月だもの。 
外の温度が体に染み込んで、冷たさを感じていた肌がすぐに温かくなった。 

ロウ

「うわぁ、やっぱり暑いな……」 

ロウが一歩外に踏み出すと、目を細めながらつぶやいた。 

足元のアスファルトは、陽が落ちた後でもまだジリジリと熱を残していて、 
踏みしめるたびに、足の裏にじんわりとした熱が伝わってくる。 

キヨネ
清音

「ほんと、いつまでたってもこの暑さに慣れないね。 
でも、嫌いじゃないかも」 

深呼吸をして、夏の匂いを胸いっぱいに吸い込む。 

少し湿り気を感じるその空気は、 
まだ完全に夜を迎えていない街の雰囲気に溶け込んでいた。 

気づけば、校内の広い敷地をゆっくり歩き抜けていて、 
見慣れた大学の門が目の前に現れる。 

鉄製の大きな門は夜の灯りにうっすらと照らされていて、 
昼間とは違う静けさをまとっていた。 

ロウがふと足を止めて、私の方へ顔を向けた。 

ロウ

「なあ、今日は……家まで送っても、いいだろ?」 

その声は、どこか慎重で、それでいて緊張混じりであった。 
はじかむ姿に、以前ロウから似たようなお誘いを断ったことを思い出す。 

キヨネ
清音

「……えっ」 

なんだいまの。お、おかしいぞ。 
この後輩、今日はやけに優しくしてくれてる。 
(普段も優しいのだが。) 

いままで耳に胼胝ができるくらい「ロウはイケメン」だの、「校内ではモテる」だの。 
噂を散々聞いても、気にも留めなかったのに。 

遅ればせながら、「なにロウのさりげない一言で動揺して、男女関係を連想してんだこの恋愛脳がぁ!」と、 
シンプルな顔の良さに動揺してしまった自分が恥ずかしくてしょうがない。 

というか…普通に返事に迷う。 
研究室のみんなと飲み会は、流れのように何回かおうちまで送ってもらったことがあるが、 

男女ふたりきりで夜の街にぶらつき、男が女の家までお付き添いだなんて、 
まるでデートみたいなのではないか。 

小さい頃から恋沙汰などに縁のない私にとっては、「家まで送る」という言葉に耐性なんて持ち合わせていない。 
だが、しかしーー 

ロウに限って、私と恋仲に発展するだなんて、あるわけないのだ。 
長い間、友達として付き合ってきたからわかる。 

ロウは誰に対しても優しいのである。 
いつも気配りが上手で、相手のことを真っ先に考慮してから行動する。 

いまの言葉もきっとそうだ。 
むしろ、友達を思うロウのことを勝手に勘違いして、 
ピンク色の妄想に浸る自分が甚だしいくらいだ。失礼にもほどがある。 

そうだ。平常心で行こう。 
ステイクールだ、キヨネ。 

ここは乙女ゲームでも、漫画の世界でもない。 
ちゃんとした現実なんだ。 

キヨネ
清音

「うーん、…そうだね」 

先ほど、研究室で悪夢に飲まれそうになる私を起こしてくれたロウを思い出す。 
あんな風に心配された後に、提案を突っぱねるほど、私は鬼ではない。 

キヨネ
清音

「じゃあ…お願いしても、いい?」 

申し訳無さで苦笑いをしながら頷くと、ロウの顔がぱっと明るくなった。 

ロウ

「よしっ、任せとけ!」 

元気な声が夜道に響いて、思わずくすりと笑ってしまう。 
門をくぐり、大学を背にして、ロウと並んで歩き出す。 

石炭色で固めた路面の照り返しにうだるような暑さを感じていたのに、いまは不思議と心地いい。 
頬をかすめた夜風が、クーラーとは違う自然の涼しさを連れてきて、心をやさしく撫でた。 

キヨネ
清音

(……この時間が、もう少しだけ続いてくれたらなぁ) 

私は、心の中でそっと思った。 

住宅街1

コンクリート塀の上を、野良猫がゆっくりと歩いていく。 
こちらに一瞥をくれたが、すぐに関心を失って消えていった。 

私たちは住宅街の舗道を歩く。 
静まり返った夜の空気の中で、足音だけが一定のリズムを刻んでいる。 

ときおりすれ違う車のヘッドライトが、街の片隅を一瞬だけ明るく染め、またすぐに闇へと戻していく。 
その光の断片が、ロウの横顔をかすかに照らした。 

ロウ

「あの、さ……本当に、なんもないのか」 

キヨネ
清音

「なんもないって?」 

ロウ

「勘違いならごめんけど、なんかさ。 
最近元気なさそうだなぁって」 

キヨネ
清音

「……」

どう返事すればいいのかわからず、少し口をつぐんだ。 

暗幕

小夜とあの奇妙な洋館を脱出してから、一週間があっという間に過ぎた。 
けれど、時間の感覚がどうにも掴めない。 

あの夜、屋上で交わした言葉の応酬。 
口論というにはあまりに激しく。 

咄嗟に伸ばした手が、小夜に触れた。 
崩れるように落ちていった彼女の身体。 

あのときの表情と、なにかが砕かれ、 
貫かれる不快な音が、まだ耳の奥に残っている。 

次に目を覚ましたのは、あの洋館のソファの上。 
導かれるようにして館を彷徨い、ばらばらになった人形のパーツを拾い集めた。 

そして── 
あのおかしな部屋で、<復活の呪文>を使った。 

次の瞬間、小夜が現れた。 
体に傷ひとつのなく、手術台の上で静かに眠っていた。 

それが現実だったのか、ただの長く歪んだ夢だったのか。 
説明しようとすると、たちまちすべてが馬鹿げた妄想に変わっていく。 

「親友の命を自らの手で奪ったのに、生き返らせた。」と? 
なんて滑稽的で、甚だしいほどおかしな空想的な夢なのだろう。 

そうだ。私は自分でさえ、夢だと思っている。 
だって、小夜は死んでいなかった。 

いまでは、それが事実で、現実であるのだから。 

ロウ

「…もしかして、俺にも言えないこと?」 

寂しげな声色に、思考の海に沈んでいた私をゆっくりと現実へ引き戻す。 

キヨネ
清音

「……ううん、そうじゃないよ。 
ただ、悪い夢を見ただけだよ」 

小さく首を振って、そっと顔を上げる。 

風に撫でられて、ロウの髪が静かにそよぐ。 
晴れた昼空を映したような明るい青が、ゆっくりと揺れる。 

街灯の光が彼の睫毛をすべり、頬に落ちた影は、一瞬だけ淡い翳りを落とす。 

キヨネ
清音

「……仲のいい友達が、最近帰国してきて。 
なんだかんだで連れまわされちゃって、ちょっと疲れてるだけ。」 

ロウの眼差しに飲まれそうになって、私は小さく息を呑んだ。 
少しでも彼の不安を薄めたくて、笑みのかたちだけは整えてみせた。 

うう、どうしよう。ロウの視線が痛い。 
このままじゃ、見透かされてしまう。 

何か言わなきゃ。別の話題を、早く—— 

そのときだった。 

──ピリリリッ。 

ポケットから震えるようにスマホが鳴った。 
音が耳に届くと同時に、私はその音に救われたような気がした。 

ロウもその音に一瞬反応し、視線が私の手元に向かう。 
その間に、私はすぐにスマホを取り出した。 

スマホ(着信) 

画面に表示された名前を見て、胸の中でほっと息をつく。 
ーー小夜からの電話だ。 

「はぁー助かった~!」と心の中で、こっそりため息を吐いた。 
普段ならただの電話の音も、今はまるで命の恩人のように感じられた。 

電話を取ると、向こうからいつもの小夜の声が聞こえてきた。 

キヨネ
清音

「もしもし、小夜?」 

サヨ
沙耶

「…いまどこ?もう10時半だけど…… 
いつ帰って来るの?」 

彼女の声に、心配と少しの苛立ちが滲んでいた。 
腕時計を見れば、確かに遅い時間だった。 

キヨネ
清音

「あぁ…ごめんね。研究室で寝ちゃっててさ 
もうすぐ着くから、待ってて!」 

数秒の沈黙の後、向こう側から柔らかく、静かな声が耳元に響く。 

サヨ
沙耶

「そう……。次からはちゃんと言ってね。 
心配、するから」 

キヨネ
清音

「うん、ほんっとごめん! 
ありがとうね、小夜」 

短めの通話を終えると、静かにスマホをポケットに戻す。 
小夜の声が、ささくれだった胸の内を少しだけ落ち着かせてくれた気がした。 

ふと顔を上げると、ロウがこちらを見ていた。 
さっきまでの硬い表情が少しだけやわらいで、小さな微笑を浮かべている。 

ロウ

「……大丈夫だった?」 

キヨネ
清音

「うん、さっき言ってた帰国した友達から」 

曖昧に答えると、ロウはそれ以上深く聞くこともせず、 
ただ「そっか」とひとことだけ返した。 

足元には街灯の光がぽつぽつと落ちて、二人分の影を淡く浮かび上がらせていた。 
その影は細く、長く、ゆるやかに揺れながら道をのびていく。 

それから、私たちは雑談を始めた。 
言葉のやり取りは取りとめがなくて、たわいもない内容ばかり。 

最近見た映画の話や、 
次のレポートが面倒だっていう愚痴、 
誰かのちょっとした噂話ーー。 

ロウ

「そういえばさ……最近、大学の掲示板でちょっとバズってた思考実験の話、見た?」 

普段からこうした哲学的な話に興味を持っている自分に、ロウが気づいていたのだろう。 
好奇心に抗えず、私は首をかしげて聞き返す。 

キヨネ
清音

「思考実験?」

ロウ

「うん、スワンプマンってやつ。聞いたことある?」 

キヨネ
清音

「すわんぷ……?ないね……どういうお話なの?」 

聞き慣れない響きに、私は小さく眉をひそめる。 

ロウ

「じゃあ……そうね。 
キヨネは習慣になっていることって、何かない?」 

キヨネ
清音

「習慣?うーん 
特別のなにかはしてないんだけれど…」 

不意に向けられた問いに、私は少し考え込む。 
自分という存在を形作っている「いつものこと」。何かあっただろうか。 

キヨネ
清音

「朝起きたら、好きな曲かけたり、それを聞きながら朝ご飯を作ったりとか… 
朝のルーティンみたいな?」 

ロウ

「そう。俺だったら、朝のジョギングとかね 
例えば、キヨネは何かしらの理由で、近所の公園に足を運んだとしよう」 

キヨネ
清音

「うんうん」 

私が頷いたのを見て、ロウは口元だけで小さく笑い、話を続ける。 

ロウ

「そこは大きな沼のある公園で、あなたはその沼のすぐ傍で、 
雷に打たれて死んでしまいます」 

キヨネ
清音

「ええ……し、死んだ……?」 

冗談とはわかっていても、死という単語に身体が軽くこわばる。 

ロウ

「例え話だからね!」 

キヨネ
清音

「あっ、うん…… 
そうよね」 

無意識に腕を抱くと、ロウは慌てた様子で言い直した。 

ロウ

「ああ、じゃあ…… 
キヨネじゃなくて、俺が!……俺がね?」 

その反応が少し可笑しくて、私はつい口元を押さえて笑いそうになる。 

キヨネ
清音

「うん、うん…大丈夫だよ 続けて?」 

笑いを堪えていると、ロウも少し恥ずかしそうに視線を外して、続けた。 

ロウ

「コホンッ……そして続けざまに、もう一つの雷が沼に落ちるんです 
そのときにものすごい偶然が重なって…」 

ロウ

「帯電した汚泥に化学反応が起きてさ 死んでしまったはずの俺と 
原子レベルで同一の個体が、沼から生まれたんです」 

キヨネ
清音

「ええ?そんなことが……」
「嗯?那样的事情……」

ロウ

「そういうことになってしまったんだよ。
「结果变成那样了。

で、あの沼から生まれた生き物のことを、「スワンプマン」と呼ぶことにします」
那么,把从那个沼泽中诞生的生物称作「沼泽人」」

ロウ

「この生き物は元の俺が死んだ瞬間の姿と瓜二つで、
「这个生物和原本的我死去的瞬间时的样子几乎一模一样,

服が一緒で、脳の状態まで全く一緒にで、知識も記憶も経験もすべて
衣服相同,大脑状态也完全相同,知识、记忆、经验全都

元の俺、生前と一緒」
和原来的我,生前一样”

キヨネ
清音

「全部一緒だなんて、不思議な話ね……
“全都一样什么的,真不可思议……

じゃあ、なにも変わってない…って言っても、おかしくはないのかな」
就算说没什么变化……但这样也不奇怪吧”

ロウ

「スワンプマンはその後、自分に何が起こったかわからず、
「沼人之后,自己不知道发生了什么,

何事もなかったかのように。
就像什么都没发生一样。

このあと、元の俺がとろうとしていた行動を再開するんだよ」
之后,就会重新开始原本我要采取的行动」

キヨネ
清音

「へぇ……スワンプマン自体は、なにも感じないの?」
「哦……沼人本身,没有感觉到什么?」

ロウ

「ああ。スワンプマンも 自分自身が俺のコピーだなんてことには
「啊。沼泽人也,竟然认为自己是我的复制品啊。」

全く気づいていない」
完全没有意识到

ロウ

「で、スワンプマンはその日、家に帰って、
「那么,那天,斯瓦普曼回到家,

食事をして、お風呂に入って、明日の準備をして、眠りにつく。
吃完饭、洗个澡、准备明天的东西、就睡觉了。

ロウ

次の日もいつもどおり、研究室に行って、
第二天和往常一样,去研究室,

キヨネと一緒に作業して、運動して、いつもどおり過ごします」
和千代一起工作、运动,和平时一样度过。」

キヨネ
清音

「つまり……元のロウは死んでしまったけれど、ロウと一切相違のないコピーができあがり……
「也就是说……原来的罗已经死了,但一个与罗完全不同的复制体已经制作完成……

そしてコピーに自分がコピーだという自覚は無い……ということだよね」
而且复制体没有意识到自己是复制体……对吧」

いままでの話聞いて、いったん頭にある情報をまとめるため、言葉にしてみる。
听了到目前为止的话,为了整理头脑中的信息,试着用语言表达出来。

不思議な話であったも、口に出すと、妙に寒気を感じる。
这是一件不可思议的事情,但一说到它,就感到一阵寒意。

ロウ

「さっすがキヨネ先輩、理解が早いね
“果然是键奈前辈,理解得真快

で、キヨネ的にどう思うんだ?」
那么,键奈前辈怎么看?”

ロウがそう尋ねると、私は彼に視線を向ける。
罗这么问的时候,我看着他。

彼は、興味津々とこちらに目を据えている。
他正津津有味地盯着这边看。

キヨネ
清音

「え?……ええっと」
“嗯?……嗯,那个”

話の余韻に思考を攫われたままで、つられるように立ち止まった。
余韵中仍被思考攫住,不由自主地停下了脚步。

そうだった、これはあくまでも思考実験の話だった。
是的,这终究只是思考实验的话题。

物語の選択は、結末の先は、自分で考えて、
故事的选择,结局的前方,要自己思考,

答えに導かないと、思考実験として成り立たなくなってしまう。
不导向答案,作为思考实验就无法成立。

ロウ

「ほら、思考実験ってさ。
“你看,思考实验嘛。

人に考えさせられる状況を作って、相手に『さあ、どうする?』って迫るもんだろ?
创造一个让人思考的情境,然后逼迫对方‘来吧,该怎么办?’对吧?

ロウ

その答えに、答え次第で、その人の本音とか、性格の裏側が見えてきたりするっていう……」
那个答案啊,根据答案的不同,能让人看到那人的真心话啊,性格的另一方面什么的……”

キヨネ先輩はどんな返しがくるんだろと言わんばかりな期待にあふれる口調で、ロウは質問をする。
键奈前辈好像满怀期待地问着“会得到怎样的回答呢”,罗就开始提问。

ロウ

「で、キヨネ的に、俺のスワンプマンは、”俺”だと思う?」
“那么,以键奈前辈的风格来说,我的沼泽人,是‘我’吗?”

キヨネ
清音

「……」

(暗転)

目を伏せ、ロウの問いを反芻する。
低着头,反复思考着罗的问题。

これは、ただの哲学の話。
这不过是哲学的空谈。

そして、彼はただ問いかけただけ。
然后,他只是问了问。

それだけなのに、胸の奥が妙にざわついている。
明明只是那样,胸口却莫名地悸动。

言葉を返すには、どこかで覚悟がいる。
要回应的话,需要有些觉悟。

下手なことを言えば、彼を傷つけてしまうかもしれない。
如果说得不好,可能会伤害到他。

でも、だからといって、適当に流したくもい。
但是,即便如此,我也不想随便放弃。

私はーー。
我——。

選択肢
选项

①.そっくりでも……やっぱり”別人”なんじゃないかな
①. 即使一模一样……果然还是“不同的人”吧

②.見た目も中身も同じなら、それはもう”ロウそのもの”なんじゃないかな
②.如果外表和内涵都相同,那恐怕已经是“罗本身”了吧」

選択肢分岐
选项分支

①.そっくりでも……やっぱり”別人”なんじゃないかな
①. 即使一模一样……果然还是“不同的人”吧

人は”自己”をどうやって認識しているのだろう。
人究竟是如何认识“自我”的呢

記憶の積み重ね?身体の一貫性?あるいは、社会的な関係性?
记忆的积累?身体的连续性?抑或是社会关系?

けれどそれらはすべて、『ロウという存在を証明する外殻』にすぎない気がする。
但我觉得这些都不过是『证明存在的外壳』罢了。

科学的・還元主義的な見方からすれば、記憶は情報であり、細胞は物質似すぎない。
从科学和还原主义的观点来看,记忆是信息,细胞并非物质。

もし、それらすべてを原子レベルで複製できるのなら、機能的には同一の存在が作られてもおかしくないがーー。
如果能够将所有这些在原子层面复制,即使制造出功能上相同的存在也毫不奇怪——。

そこに「連続性」はあるんだろうか。
那里有所谓的"连续性"吗。

たとえば、私が今こうして考えている「私」は、昨日の私とつながっているという確信がある。
比如,我现在这样思考的"我",确信与昨天的自己是相连的。

それは記憶があるからでも、体が同じだからでもなく、
这既不是因为记忆,也不是因为身体相同,

「自分という意識が、連続してこの世界を見ている」という直感によるものだ。
而是源于"自己的意识在连续地观察这个世界"的直觉。

でもスワンプマンは、昨日の世界を見ていない。
但是斯瓦普曼并没有看到昨天的世界。

ただ、昨日の記録を持っているだけだ。そこには「繋がり」がない。
只是他只有昨天的记录。那里没有"连接"。

だから、どれだけ同じように話し、笑い、触れても、私の知っている”ロウ”の現在地がそこにあるとは、どうしても思えなかった。
所以,无论多么相似地交谈、欢笑、触摸,我始终无法确定我所知道的"洛"的现所在地就在那里。

魂とは何かと問われたら、私はうまく答えられない。
如果被问到灵魂是什么,我无法给出很好的答案。

けれど、「今ここにいるという実感」こそが魂だとするなら、スワンプマンにはその証明がない。
但是,如果“现在身处此地的实感”才是灵魂,那么沼泽人就没有证据证明这一点。

だから私は、やっぱりそれを”ロウ”とは呼べない、と思った。
所以我认为,果然不能称之为“罗”。

よし、考えがまとまった。
好了,思路已经清晰了。

私は息を整えるように、静かに息を吐いてから、思い切って口を開く。
我像调整呼吸一样,静静地吐出一口气,然后果断地张开了嘴。

キヨネ
清音

「記憶や見た目が同じでも、魂が……違う気がする
「即使记忆和长相相同,但感觉灵魂……是不同的

……うまく言えないけど、なんか、そう感じた」
……虽然说不出口,但感觉就是这样」

ロウ

「……どうして、そう思ったの?」
「……为什么会这么想?」

問いかけは静かだった。責めるでも、試すでもなく。
提问很安静。不是责备,也不是试探。

ーーただ純粋に、知りたいというだけの声。
ーー只是单纯地,只想知道的声音。

そうだ、ちゃんと言葉にしなきゃ。
对,得好好说出口才行。

ゆっくりとロウのほうを見て、私は覚悟を決めた。
我慢慢看向罗,我下定了决心。

キヨネ
清音

「……そうね。例えばだけれど、今こうして考えてる”私”って、いままでの私が見て、感じてきたこととちゃんと繋がってるよね。
“……是啊。比如吧,现在这样思考着的‘我’,和迄今为止我所看到、感受到的东西确实紧密相连呢。

その中に、絶対的な”続き”」が存在すると思うんだ。……あくまでも、感覚的な話だけど」
我想,其中存在着绝对的‘延续’……不过,这终究只是感性的话罢了」

「でも、スワンプマンは、その…
「但是,沼泽人并不是真的…

「昨日」を本当に見てきたわけじゃないから記憶があるだけで、実際体験は……してないでしょ?
「昨天」只是记忆,并不是真正看到,实际体验……应该没有吧?

それって、ただの……”履歴”だけなんじゃないかなって思ったの。」
我觉得那可能只是……”经历”而已。」

言ってる途中で、自分でも不安になる。
话到嘴边时,我自己也开始感到不安。

ふわふわしてるし、証明なんてできない。
轻飘飘的,也无法证明。

でも、思ったままを伝えるって決めたんだ。
但是,我决定了要传达所想之事。

逃げずに、私だけの答えを出そう。
不逃避,我要给出属于我的答案。

キヨネ
清音

「だから私は、どれだけ見た目が、記憶が……
「所以,无论外表如何,记忆如何……

行動が同じでも、そこに魂ーー”今ここにいるという実感”がなければ、ロウとは思えないんだ。」
行为相同,但如果没有“在此处存在的实感”这一灵魂,那就不是罗。」

選択肢分岐
选项分支

②.見た目も中身も同じなら、それはもう”ロウそのもの”なんじゃないかな
②.如果外表和内涵都相同,那恐怕已经是“罗本身”了吧」

正直なところ、わからない。
说实话,不知道。

「同じ見た目で、同じ記憶を持ってるなら、それはもう”ロウ”だ」って、
"如果拥有相同的外貌和相同的记忆,那它已经是'罗'了"这样、

そう言い切ってしまうのは、ちょっと雑なのかもしれない。
断言这种事情,或许有点粗鲁。

しかし、考えれば考えるほど、矛盾はある。
但是,越想越觉得矛盾很多。

もしロウの言う通り、雷で一度死んで、そのあとまったく同じ記憶と体を持つ”スワンプマン”が生まれたのだとしたら……
如果罗所说的是真的,雷击让他死了一次,之后又诞生了一个拥有完全相同记忆和身体的“沼泽人”的话……

それはきっと、本当の意味では”ロウ”じゃないのかもしれない。
那或许,他真的不是真正的“罗”。

でも……私にとってはどうだろう?
但是……对我来说会怎样呢?

昨日までのロウは、たぶん、もうこの世界にはいない。
直到昨天为止的罗,大概已经不在这个世界上了。

この世界にいるのは、「ロウだった記録を持つ存在」。
这个世界存在的,是“持有罗记录的存在”。

それって、冷静に言えば、すごく空しいことなんだと思う。
冷静地说,这其实挺空虚的。

目の前にいるロウは、いつも通りに私の言葉に笑って、私のために怒って、
眼前的罗,总是像往常一样对我话语报以微笑,为我生气、

心配したり冗談を言ったり、昔からそうだったみたいに並んで歩いてくれてる。
担心或讲笑话,像从前一样并排走着。

少なくとも私の知る限り、その眼差しも、声の温度も、私を呼ぶ時の距離感も、全部ロウそのものだ。
至少在我所知范围内,那眼神、声音的温度、以及呼唤我时的距离感,全都只是罗。

それを「違う」と思い続けるのは、なんだか、自分の大事な時間まで嘘だったって否定するみたいで……苦しい。
持续认为“不一样”的话,总觉得像是连我珍视的时间也成了谎言而否定……很痛苦。

たとえそれが理屈としてどこか破綻していても、それが私にとっての”現実”なんだと思う。
即使这在道理上有些破绽,但在我眼中,这就是我的“现实”。

なぜなら、もしその全部が、今日のロウにとって”他人の記録”でしかないのだとしたら——そんなの、あんまりにも酷すぎる。
因为如果这一切,对今天的罗来说都只是“他人的记录”——那实在太残酷了。

矛盾していても、矛盾してるからこそ、私はこの人を”ロウ”だと思いたい。
虽然存在矛盾,正因为有矛盾,我才想将这个人称为“罗”。

よし、考えがまとまった。
好了,思路已经清晰了。

私は息を整えるように、静かに息を吐いてから、思い切って口を開く。
我像调整呼吸一样,静静地吐出一口气,然后果断地张开了嘴。

キヨネ
清音

「もし…ロウの魂も記憶も全部引き継いでるなら、それは”同じ”だと思っても、いいんじゃないかな……
「如果…也继承了罗的灵魂和所有记忆,那么,就算觉得是“相同”的,应该也没问题吧……

……うまく言えないけど、なんか、そう感じた」
……虽然说不出口,但感觉就是这样」

ロウ

「……どうして、そう思ったの?」
「……为什么会这么想?」

問いかけは静かだった。責めるでも、試すでもなく
问句很安静。不是责备,也不是试探

——ただ純粋に、知りたいというだけの声。
——只是单纯地,只想知道的声音。

そうだ、ちゃんと言葉にしなきゃ。ゆっくりとロウのほうを見て、私は覚悟を決めた。
对,得好好说出口。我慢慢看向罗,下定决心。

キヨネ
清音

「……だって、記憶も、声も、表情も、全部ちゃんと”ロウ”なんだよ」
「……因为,记忆、声音、表情,全部都是真正的“罗”啊」

キヨネ
清音

「たしかに、雷で”元のロウ”がいなくなったって言われたら、頭ではそれを受け入れなきゃって思うけど……
「确实,如果被告知因为雷击“原本的罗”消失了,理智上我会认为必须接受这个事实……

でも、目の前にいるロウだけが知ってる言葉とか、冗談とか、笑い方とか……」
但是,眼前这个罗所知道的那些词语、玩笑、笑的方式……」

キヨネ
清音

「……そういうのまで全部、ちゃんと覚えていてくれる”誰か”が、私の前にいるのならばーー
“……如果有个‘某人’能记住所有这些事情,那对我来说就足够了——

私にとっては、それだけで十分なんじゃないかって」
对我来说,这就已经足够了”

言ってる途中で、自分でも不安になる。
话到嘴边时,我自己也开始感到不安。

ふわふわしてるし、証明なんてできない。
轻飘飘的,也无法证明。

でも、思ったままを伝えるって決めたんだ。
但是,我决定了要传达所想之事。

逃げずに、私だけの答えを出そう。
不逃避,我要给出属于我的答案。

キヨネ
清音

「だから私は、たとえ一度死んでいたとしても……
「所以,即使我曾经死过……

記憶も想いも、ロウのすべてが引き継かれているとしたら、それはもう、”ロウ”そのものだよ。」
如果记忆和思念,以及洛的一切都能被继承,那那已经就是“洛”本身了。」

選択肢収束
选项收敛

ロウ

「……」

声が静かに夜の空気へ溶けていくのを、ロウはただ黙って聞いていた。
罗只是静静地听着声音渐渐消散在夜空之中。

彼の横顔は、いつものように気まぐれな笑みを浮かべるわけでもなく、
他的侧脸,既没有浮现出平日的顽皮笑容,

難しげに眉を寄せるでもなく……ただまっすぐ、私を見つめている。
也没有皱起眉头显得为难……只是直直地注视着我。

話し合ってから随分と長い時間が経ったように感じる。
感觉自从商量过后已经过了相当长的时间。

人気のない住宅街は、まるで時間ごと眠りに落ちたかのように静まり返っていた。
没有人的住宅区,宛如随着时间陷入沉睡一般,寂静无声。

遠くで犬の鳴き声が一度だけして、それもすぐに止んだ。
远处传来狗叫声,仅此一次,而且很快便停止了。

街灯の明かりは淡くて、路地の端まで届かず、私たちの足元にやわらかな影を落としている。
路灯的光线昏暗,未能照到巷子尽头,在我们的脚下投下柔和的影子。

空には雲がなく、星がいくつか、じっと瞬いていた。
空中没有云,只有几颗星星静静地闪烁着。

私はそっとロウの横顔を見つめた。
我悄悄地凝视着罗的侧脸。

選択肢分岐
选项分支

「①.そっくりでも……やっぱり”別人”なんじゃないかな」を選んだ場合
如果选择了「①.虽然很像……但果然是“陌生人”吧」

頭上で微かに揺れる街灯の光は淡くて、触れれば消えてしまいそうなほどに儚い。
头顶上微微摇曳的街灯光芒淡得几乎触之即逝,显得如此虚幻。

その光が、彼の肩や髪の輪郭だけをかすかに浮かび上がらせている。
那光芒只微微勾勒出他的肩膀和发丝的轮廓。

顔までは、よく見えなかった。
脸部却看不太清楚。

それでも、沈黙の中にあるわずかな気配で、彼の心がどこか遠くをさまよっているような気がした。
即便如此,在沉默中那微妙的气息,让人感觉他的心正飘向遥远的地方。

その空白には、言葉にできないものがあった。
在那片空白中,存在着无法用言语表达的东西。

哀しみとも、諦めとも違う――けれど、ほんの少しだけ、胸を締めつけるような寂しさが滲んでいた。
那既不是悲伤,也不是放弃——不过,只是稍稍渗出一种让胸口感到窒息的寂寞。

選択肢分岐
选项分支

「②.見た目も中身も同じなら、それはもう”ロウそのもの”なんじゃないかな」を選んだ場合
如果选择了「②.如果外表和内涵都相同,那或许已经是“罗本身了」

風すらが止む中、街灯の光だけが、まるで水面に落ちる月の光のように揺れていた。
在风都停下的地方,只有路灯的光芒,宛如落入水面中的月光般摇曳。

曖昧で、やさしくて、現実をぼかすような灯りの中、ロウの輪郭がほのかに浮かび上がっている。
在模糊而温柔、仿佛模糊了现实的光芒中,洛的轮廓若隐若现。

ふと、口元にわずかに浮かぶ影に気づいた。
忽然,注意到嘴角浮现的淡淡阴影。

どこか照れたような、見せるつもりもないような、そんなかすかな口角のゆらぎ。
像是被晒到一般,又好像没打算展示一般,那种微妙的嘴角晃动。

それはたぶん、笑みだった。
那大概是,微笑吧。

選択肢収束
选项收敛

……さすがに、この沈黙は長すぎた。
……果然,这个沉默太长了。

ずっとロウの顔を見ていたせいで、なんだか気まずくなって、思わず視線をそらす。
因为一直盯着罗的脸看,感觉有些尴尬,不由自主地移开了视线。

キヨネ
清音

「……ロウは、どう思ってるの?」
“……罗,你觉得呢?”

ロウ

「えっ」
“欸”

たぶん、同じ質問を返すとは思ってなかったんだろう。
大概没想到会收到同样的提问吧。

ロウは一瞬、目を見開いて固まった。
罗一瞬间睁大了眼睛,愣住了。

キヨネ
清音

「ほら、スワンプマン!私に聞いたということは、
“看,沼泽人!既然你问我,

ロウなりにも答えがあるんでしょ?」
罗应该也有他的答案吧?”

ロウは何も言わずに、ふいに歩き出した。
罗没有说话,突然开始走了。

黙ったまま、ポケットに手を突っ込んで、舗装された道をゆっくりと進んでいく。
沉默着,把手伸进口袋,在铺好的路上慢慢走着。

ロウ

「俺はな……」
“我啊……”

その声はどこか遠く、誰に向けたでもない独白のように聞こえた。
那声音仿佛来自遥远之处,像是对谁都没有说出口的独白。

その時だったーー。
就在那时——。

遅れまいと一歩を踏み出したとたん、左足に冷たい刃が突き立つような痛みが走った。
为了不迟到,刚迈出一步,左脚就传来如被冰冷刀刺穿的剧痛。

キヨネ
清音

「っ……!」
「呃……!」

息を呑み、反射的に足を止める。
我屏住呼吸,下意识地停下了脚步。

足をひねったわけでもない。何かを踏んだわけでもない。
我既没有扭到脚,也没有踩到什么。

この痛みは、知っている。
这个疼痛,我知道。

足を止めたのに気づいたのか、それとも私の小さな息づかいを聞いたのか、ロウはすぐに振り返った。
是停下了脚步才察觉到,还是听到了我微弱的呼吸声,罗立刻回头。

そして、私が片足をかばうように立ち止まっているのを見るなり、
看到我单脚支撑着停下,

一言も発さず、小走りで戻ってきた。
一句话也没说,小跑着回来了。

ロウ

「おい、大丈夫か?」
「喂,没事吧?」

その声には、隠しきれない焦りが滲んでいた。
那声音中,透露着无法掩饰的焦急。

キヨネ
清音

「……なんでもない。ちょっと、古傷が……」
「……没事。只是,旧伤有点……」

ロウは私の足元に視線を落としながら、言葉を探すように少し黙った。
罗将视线落在我的脚边,像是在寻找合适的词语,沉默了一会儿。

そして、ぽつりと――
然后,突然——

ロウ

「……せ、背負おうか?」
“……背吧?”

唐突に落ちたその提案に、思わず耳を疑う。
面对这突如其来的提议,我不禁怀疑自己的耳朵。

キヨネ
清音

「え?」
“诶?”

まぬけな声が出たのは自分でもわかった。
自己也意识到了声音有些失控。

ロウのほうに視線をむけると、彼はすぐに顔をそむけ、言葉を続ける。
将视线转向罗时,他立刻转过头去,继续说道。

ロウ

「ぃやほら、無理して歩くことないだろ……?痛いなら、無理すんなよ」
「哎呀,不用勉强走吧……?如果疼的话,就别勉强了」

キヨネ
清音

「……ありがたいけど、大丈夫だから」
「……谢谢,但我没事」

その言葉が口から出た瞬間、心の中で強烈にツッコミを入れる。
那句话从口中说出的一瞬间,心里强烈地吐槽起来。

「なんでこんなときに、どこぞのギャルゲーのツンデレヒロインみたいに『大丈夫』って言っちゃってんだよ、私!」
"为什么在这种时候,偏偏要像哪里哪里偶像剧的傲娇女主角一样说'没关系'啊,我!"

こういうときに限って、どうしてこうもプライドだけが先走るんだろう。
偏偏在这种时候,为什么总是自尊心先跑了一步。

こうなったら、もう大丈夫なフリをするしかない。
既然这样,只能假装没关系了。

心の中でそう決めて、思い切り強がってみる。
在心中下定了决心,试着逞强。

そして、もう一歩踏み出す。
然后,再迈出一步。

キヨネ
清音

「うっ」
「唔」

けれど、その決意はあっさりと踏みにじられるかのように、足元がふらついて、体が完全に進まなくなった。
然而,那决心仿佛被轻易踩碎一般,脚下一阵摇晃,身体完全动弹不得。

キヨネ
清音

「……」

その時、ロウが少し肩を震わせるのが見えた。どうやら、私の必死な強がりを笑いこらえているらしい。
那时,能看出罗稍微有些肩膀发抖。看来,他是在强忍着笑我的拼命逞强。

それに気づくと、ますます自分が滑稽に思えてきて、胸の奥がちょっとだけ痛くなる。
注意到这一点后,我越发觉得自己滑稽,胸口深处微微有些疼痛。

ロウはしばらく私の様子を見ていたが、やがて大きく息をついた。
罗观察了我一会儿,接着长长地叹了口气。

ロウ

「はぁ……友達が待ってんだろ?こんなとこで立ち止まってる暇はないよな」
“哈……朋友还在等着我呢?哪有时间站在这里闲逛啊”

そう言いながら、ロウは私の前に屈み込んで背を向け、少し戸惑いながらも、無言で背中を向ける。
虽然这么说,罗向我弯腰转身,背对着我,虽然有些困惑,却无言地转过身去。

キヨネ
清音

「本当に……?私、重いよ?」
"真的……?我、很重吗?"

言いながらも、痛みがひどくて、もうそのまま楽になりたかった。
虽然这么说,但疼痛难忍,我只想就这样放松下来。

悩んだ末、私は背中に身を預けた。
犹豫之后,我将身体交给了他的背。

キヨネ
清音

「……じゃあ、お願い、します。」
「……那么,拜托了。」

ロウ

「おう」
「好。」

ロウは、私の腕が自然に肩へまわるのを感じ取ったのか、しばらく無言で重みを確かめたあと、ふっと息をついた。
罗感觉到了我的手臂自然地转向肩膀,沉默地确认了重量一段时间后,突然呼出一口气。

ロウ

「……よし。立つぞ。しっかり掴まってろよ。」
「……好了。站起来吧。好好抓紧啊。」

背中越しに聞こえるその声は、さっきまでの気恥ずかしさを脱ぎ捨てたように落ち着いていた。
从背后传来的那个声音,已经脱去了刚才的羞涩,显得很平静。

彼の脚にぐっと力が入ったのがわかり、そのまま私の体がふわっと浮き上がる。
我能感觉到他的脚用力,我的身体就这样轻轻浮了起来。

その瞬間、思わずぎゅっと彼にしがみついた私に、ロウはふと笑った。
就在那一瞬间,洛突然笑了,因为我忍不住紧紧抓住了他。

ロウ

「なーんだ、余裕。思ってたよりずっと軽いじゃん。」
“嗯——,真有把握。比我想的轻多了。”

キヨネ
清音

「うるさい」
「吵闹」

バカにされたような気がして、ムッとして肩にかけていた腕に少しだけ力をこめる。
感觉被轻视了,气愤地稍微用力握紧了搭在肩上的手臂。

ロウの首のあたりに意図せずぎゅっと圧がかかった。
不小心用力掐住了罗的脖子附近。

ロウ

「う、うっ!おい、俺の首絞めてどうすんだよ!死ぬって!」
「唔,唔!喂,你掐我脖子干什么!要死了!」

キヨネ
清音

「……ごめん。」
「……对不起。」

被さる腕を緩めてる。しかし、なんだかロウの首に触れたままで、手のひらがしっとりと熱を持っている。
被遮住的胳膊渐渐放松。但是,似乎还保持着与罗的脖子的接触,手掌微微发热。

自分でもどうしてこんなに動揺しているのか、分からないけれど、なんだかその熱さに、息が詰まりそうだった。
自己也不知道为什么如此激动,但似乎那股热度让呼吸都有些困难。

周囲が、少しずつ夏の夜の空気を背中で押し返している。湿気と蒸し暑さに囲まれて、汗が髪の毛の間に滲む。
周围渐渐推回夏夜般的空气。被湿气和闷热包围,汗水从发间渗出。

どこからともなく虫の鳴き声が響いてくるけれど、その音すら、どこか遠くて薄れていくように感じる。
不知从何处传来虫鸣声,但那声音似乎又遥远而模糊。

無言が続く道に、ロウの足音だけが規則正しく響く。
在寂静延伸的路上,只有罗的足音规律地回响。

私たちの足元を照らす街灯も、すぐ近くにあるだけで、あまりにも静かな空間が広がっている。
照亮我们脚下的路灯虽然就在附近,但空间显得异常安静。

そんな中、私はただロウに頼るように体重を預けている。
在这之中,我只是将体重全然托付给罗。

足音だけが続き、時折聞こえるロウの呼吸の音が、私の耳にわずかに触れる。
脚步声持续不断,偶尔能听到罗的呼吸声,轻轻触动着我的耳朵。

その音がだんだんと遠く感じられ、まるで時間がゆくりと流れているかのような錯覚にとらわれる。
那声音渐渐变得遥远,仿佛被时间缓慢流逝的错觉所俘获。

気づくと、なんだか眠気が襲ってきていた。
不知不觉,我感到一阵困意袭来。

疲れが一気に体に染み込んで、まぶたが重く感じる。
疲惫感瞬间浸透全身,眼皮变得沉重。

やがて足音のリズムにだんだんと引き寄せられるように、意識が薄れていった。
渐渐地,随着脚步的节奏,意识逐渐变得模糊。

【ロウ視点】
【罗的视角】

俺は背中に感じるキヨネの体温を頼りに、ゆっくりと歩みを進めていた。
我依靠着背上传来的由耶音的体温,慢慢地向前走着。

彼女の体重がかかるたび、少しずつその重みを感じるが、それでも意外と軽い。
每当她体重压过来时,会逐渐感受到那份重量,但即便如此,也意外地轻。

最初は驚いたが、今はもう慣れてしまった。
最初是惊讶,但现在已经习惯了。

背負っている彼女が、何度も無意識に顔を寄せてきて、腕の力が少しずつ抜けていく。
她背着的我,不知不觉中一次次把脸凑过来,手臂的力量渐渐减弱。

暫くして、彼女の呼吸が静かになっていくのが、背中越しにも伝わる。
过了一会儿,我能从背部感受到她的呼吸渐渐变得安静。

眠りかけてるな、とすぐに分かった。
快睡着了呢,我立刻明白了。

緊張していたのか、それとも痛みのせいか、最初はキヨネの体がこわばっているのを感じた。
是紧张的关系,还是因为疼痛,最初感觉到了清音的身体变得僵硬。

けれど今は、背中に預けられた重みがじわりと柔らかくなっていく。
但现在,交到我背上的重量渐渐变得柔和起来。

ときどき、寄せられた顔から漏れた息が俺の耳にふっとかかる。
偶尔,从我耳边轻轻飘过的气息泄露了她的脸庞。

くすぐったいような、でもそれ以上に、妙に意識を掻き乱される。
有点痒痒的,但更重要的是,它奇妙地扰乱了我的意识。

気にしないふりをしてるつもりなのに、全然誤魔化せてないのが自分でもわかる。
假装不在乎,结果完全没能掩饰住,我自己也清楚。

……ったく。こんなふうに無防備でいられると、こっちのほうが困るってのに。
……真是的。明明可以这么毫无防备,反而让我更困扰。

キヨネ
清音

「ロゥ……」
「罗……」

不意に背中からかすかな声が漏れて、思わず足が止まりかける。
突然从背后漏出一丝声音,不自觉地脚步都停了下来。

心臓がひとつ跳ねる。寝言だったんかよ……ビビった。
心脏猛地一跳。是梦话吗……吓死了。

ロウ

「……寝言とか、反則だろ……」
“……梦话什么的,是犯规吧……”

誰にも聞こえないように小さくぼやいて、俺は邪念を振り払うように首を振った。
小声嘟囔着,以免被人听见,我摇了摇头,试图驱散邪念。

住宅街の静けさが、少しだけ戻ってきた心拍に重なって、ようやく落ち着きを取り戻す。
住宅区的宁静与逐渐平复的心跳相呼应,我总算重新找回平静。

誰もいない夜道。俺の足音だけが、薄闇にひっそりと響いていた。
空无一人的夜道。只有我的脚步声,在薄暗中悄然回响。

少しだけ、足取りをゆるめて歩いた。
稍稍放慢了脚步。

起こしたくない。こんな時間が、少しでも続けばいいと思う自分がいた。
不想醒来。总觉得自己曾有过这样的想法,希望这样的时间能持续片刻。

マンション
公寓

ロウ

「ええっと……304室……」
「嗯……304 室……」

鉄骨造りの外廊下は、足を踏み出すたびにわずかに軋んだ。
铁骨结构的外廊下,每踩出一步都会发出轻微的嘎吱声。

廊下には蛍光灯が等間隔で灯っていたが、どれもわずかに明滅している。
廊下里等间隔地亮着荧光灯,但它们都在微弱地闪烁。

ぼんやりとした黄白色の光が、床にかすかな輪郭を落としているだけだった。
朦胧的黄白色光线,只在地板上投下微弱的轮廓。

ロウ

「お、ここか」
「哦,这里吗」

時間を遡ること、ほんの十分前ーー。
回到过去,仅仅十分钟前ーー。

俺は立ち止まったまま、背中で感じる重みとぬくもりに意識を向けていた。
我停下脚步,将意识转向背上传来的重量和温暖。

すやすやと寝息を立てるキヨネは、まるで何の不安も知らない子どものようで、
熟睡中发出均匀呼吸声的千代,就像一个完全不知道任何不安的孩子。

やけに静かなその呼吸に、彼女を起こすのは心苦しいとさえ思った。
那异常安静的呼吸,让她醒来时甚至感到心疼。

でも、困った。住所がわからない。
但是,很麻烦。不知道住址。

女の子を家まで送るなんて、自分から言い出したのはこれが初めてだった。
送女孩子回家这种事,自己主动提出还是第一次。

このまま連れ回すわけにもいかないし、何より足をケガしているんだ、早く休ませてやりたい。
不能就这样带着她到处走,更重要的是脚受伤了,想快点让她休息。

気持ちよさそうに眠っていることを申し訳ないと思いつつ、お眠り姫を起こすことにした。
虽然觉得让她这么舒服地睡着很过意不去,但还是决定叫醒睡美人。

彼女はうとうとしながらも、家への案内をしてくれた。
她虽然打着哈欠,但还是为我指了回家的路。

その姿は、研究室で真面目に作業を取り組むかっこいい彼女と真逆で、なんだか無性に愛おしかった。
那样子,与她平时在研究室认真工作的帅气形象完全相反,莫名地让人觉得好可爱。

なぜか重さを感じることもなく、気づけばキヨネの住むマンションの3階にたどり着いていた。
不知为何没有感觉到重量,不知不觉就来到了キヨネ住的那栋公寓的三楼。

エレベーターはなく、俺は階段を一気に駆け上がり、息を整える。
没有电梯,我一口气跑上楼梯,调整呼吸。

しばらくして、ふと視線を落とすと、彼女がまた眠っているのがわかった。
过了一会儿,忽然低头一看,发现她又在睡觉了。

そしてーー今に至る。
然后——直至今日。

ロウ

「おい、キヨネ……キヨネ?ついたぞ」
"喂,千代……千代?你跟来了"

首をひねる余裕もなくて、俺は腕の中の彼女をそっと揺らした。
脖子动弹不得,我在怀里轻轻摇晃着她。

キヨネ
清音

「ううっ……」
「呜……」

呼びかけに反応して、キヨネの体が小さく震える。
她回应着呼唤,身体微微颤抖。

まぶたを重たげに持ち上げながら、夢の続きでも見ているような声でぽつりと答えた。
她沉重地抬起眼皮,用仿佛在继续梦境般的声音轻声回答。

ロウ

「ご、ごめん。痛かったか?」
「对、对不起。疼吗?」

キヨネ
清音

「いいや……、だいじょうぶ、だよ
「不……、没事,没事

もうついた?」
伤口愈合了吗?」

ロウ

「うん。あそう、鍵は…」
「嗯。啊,钥匙是……」

キヨネ
清音

「家に友達いるから…チャイムを鳴らしてもらえるかな? 
それで、出てくれると思う…」 

ロウ

「わかった」 

チャイムを押した指をすぐに引っ込める。 
間を置かずに足音が扉の向こうから近づいてきて、俺は無意識に姿勢を正した。 

?? 

「キヨネ、おかーー」 

扉が勢いよく開いたかと思うと、目の前に見覚えのない、美しくて小柄な女性が立っていた。 
その勢いに押されるように、思わず一歩だけ後ろに下がってしまう。 

ーー友達って、この人のことだよな。キヨネの友達なら、ちゃんと挨拶しないと。 

ロウ

「は、はじめまして、僕はキヨネ先輩と同じ研究室の者です!」 

女性は無言のまま、驚いたような表情で僕を見つめていた。 

ロウ

「……あ、こっ子守ロウで…って言います!」 

名乗るのを忘れていたことに気づき、慌てて口を開く。 
しかし、女性は口を閉ざしたままで、まるで僕を無視しているかのようだった。 

だが、いまはそれを気にしている場合ではない。 
早くキヨネを部屋まで運ばないと。 
その一心で、俺は言葉を続けた。 

ロウ

「ええっと…キヨネ、先輩が、急に歩けないくらい足がいたいって言ってて…… 
せ、僭越ながら、僕が運ばせていただく形になりまして……」 

?? 

「……とりあえずおろしていただけませんか」 

俺の言葉を遮るように、冷たくつぶやくその声には、なんとなく苛立ちが滲んでいた。 

しゃ、しゃべった。 
さっきまで「あ」の一音すら出していなかったのに、急にしゃべったよ……。 

キヨネ
清音

「うっ……」 

背後から微かな苦しげな呻きが漏れ、キヨネの腕が首に回ると、 
そこにほんの少し力がこもったように感じた。 

ロウ

「で、でもその……やっぱり僕が中までお運びしますよ。力くらいはあるので……!」 

?? 

「…………。」 

少し戸惑ったように見えたが、やがて彼女は口を開いた。 
その瞬間、俺は語気が一層冷たくなったように感じた。 

?? 

「……どうぞ。」 

ロウ

「は、はい…失礼いたします!」 

リビング 

柔らかな灯りが部屋の片隅を静かに照らしている。
柔和的灯光静静地照亮着房间的角落。

天井からではなく、フロアランプのぬくもりある光が、壁に優しい影を落としていた。
不是来自天花板,而是地板灯温暖的光芒,在墙上投下柔和的影子。

ブラインドの向こうには夜が広がっている。
窗帘的另一边是夜晚的广阔。

街の喧騒はここまで届かず、ただ時計の針の音と、キヨネの浅い息の根だけが、この空間を満たしている。
街市的喧嚣没有传到这里,只有时钟指针的滴答声和清音浅浅的呼吸声,充满了这个空间。

キヨネ
清音

「…………」

ソファーで体をせぐくまる彼女は、普段と違って、とても脆弱に見えた。
蜷缩在沙发上的她,与平时不同,显得非常脆弱。

俺はそっと近づいて、おしぼりにしたタオルを彼女の額に置いた。
我悄悄靠近,将叠好的毛巾放在她的额头上。

キヨネ
清音

「………うぅ」
「………嗯」

タオルの冷たさを感じたのだろうか。
感受到了毛巾的冰冷吗。

触れた瞬間、彼女の体はぶるぶると震え、苦しそうな呻きをあげた。
接触的瞬间,她的身体剧烈颤抖,发出了痛苦的呻吟。

ロウ

「き、キヨネ…平気か…?」
「 kiyo ne...还好吗...?」

話しかけても返しは来ない。
尽管呼唤她,却得不到回应。

その姿はどうにもつらそうで、汗で額にぴったりとつく彼女の髪を掻き分けるようと
她的样子看起来很难受,伸手想要拨开额头上被汗水浸湿的头发。

手を伸ばした時、背中からぞっとするものを感じた。
伸手的时候,感觉背后突然一凉。

ロウ

「……!」

振り返ると、キヨネの友達である女性は後ろに立っていた。
回头一看,키ヨ네的朋友站在后面。

「邪魔だ、そこをどけ」とでも言いたげそうな目線に、俺は思わず動きを止めた。
「真っ向から突っ立たせて、そこからはどけ」とか言いかけそうな目線に、私は思わず動きを止めた。

キヨネ
清音

「あれ、ロウ……?」

その時、弱々しい声がソファーの方向からした。

ロウ

「よかった!目ぇ覚まし……」

??
???

「キヨネ、これを飲んで」
“千代子,喝这个”

俺の声を遮って、女性は急いでキヨネの傍に腰をおろし、
她打断我的话,急忙在千代子旁边坐下,

水が入ったガラスと薬らしきものを出した。
拿出了一个装着水和某种药水的玻璃杯。

キヨネ
清音

「ありがとう…さよ」
「谢谢…再见」

キヨネは薬を受け取り、一気に飲み干した。
清音接过药,一口气喝干了。

キヨネ
清音

「ふぅ…ロウ、ごめんね。
「呼…罗,对不起。

お見苦しいところを…」
让你受苦了…」

ロウ

「いいや、ぜんぜんすよ。
「不,完全没问题。

これくらいどうってことないさ」
这点小事没什么大不了的」

キヨネはいつも周りのことを、気遣っていることはわかっている。
我知道清音总是关心周围的人,体贴入微。

俺は安心させるように、明るく答えてみた。
我为了让她安心,试着用开朗的语气回答。

??

「キヨネは寝てていいよ」
「千代子可以睡着的」

キヨネ
清音

「え、でも……」
「咦,但是……」

??

「あとは、私に任せて」
「剩下的,就交给我吧」

キヨネ
清音

「わかった…」
「明白了…」

キヨネは申し訳無さそうに笑った。
清音一脸歉意地笑了。

キヨネ
清音

「ロウもごめんね。
「罗也对不起。」

助けてくれたのに、お礼もできなくて…」
竟然帮了我,却连声道谢都做不到…」

ロウ

「ううん。なんか手伝ってほしいことあったら、いつでも言ってください!」
“不,有事需要帮忙的话,随时都可以说!”

??

「では、そろそろ時間ですし。」
「那么,差不多时间了。」

女性はそう言って、俺のほうに向けた。
女性说着,望向了我。

??
???

「玄関まで送りますね。」
「送到门口吧。」

玄関

??
???

「ええっと…こ……」
「嗯……我……」

ロウ

「あっ 子守ロウです!」
「啊,我是子守罗!」

??
???

「こもりさん、ですね…」
「是小森先生,对吧…」

リビングを出て、俺たちは玄関の前で、もう一度挨拶を交わす。
我们走出客厅,在玄关前再次互相问候。

久遠寺

「ご挨拶が遅れました。 はじめまして、久遠寺サヨです」
「抱歉来得晚了。初次见面,我是久远寺沙也」

目の前の女性ーー久遠寺は、ようやく自ら名を明かした。
眼前的女性——久远寺,终于报出了自己的名字。

というか…。クオンジ…久遠寺…?
话说……。克温……久远寺……?

妙に耳に残る発音だった。……聞いたことがあるような。
这发音奇妙地留在耳中。……好像在哪里听过。

僕は、その名前を思い出そうとした。
我试着回想那个名字。

ロウ

「クオンジって…えっ、あの『久遠寺』、ですか!??」
“那个…久远寺…啊!是那个‘久远寺’吗!??”

あっ、思い出した。
啊,我想起来了。

名が脳裏を駆け抜けると同時に、気づけば僕は叫んでいた。
名字从脑中飞驰而过时,我猛地发现自己在叫喊。

テレビの経済番組。週刊誌の見出し。ネットニュースの片隅。
电视的经济节目。周刊杂志的标题。网络新闻的一角。

最初はただの、ちょっと古風な名字だと思ったが。
起初我仅仅觉得是个有点古风的姓氏。

やけに耳に馴染んでしまい、無意識に思考が立ち止まった。
却莫名地在耳中扎根,无意识地让思维停顿下来。

金融からエネルギー、IT、医薬、重工業まで、多岐にわたる分野で巨大な影響力を持つ、日本最大の財閥。
从金融到能源、IT、医药、重工业,在众多领域拥有巨大影响力的日本最大财团。

国内どころか、もはや世界を相手にしているグローバル企業群。
不仅在国内,如今已成为全球企业的对手。

その名前を、目の前の彼女が何気なく名乗ったときーー
当眼前的她不经意间提起这个名字时—

世界の重心がほんの少し、傾いた気がした。
感觉世界的中心微微倾斜了。

久遠寺

「……ええ、そうです
「……好,是的

ご存知でしたか」
您知道吗?

ロウ

「そりゃあもう!日本の財閥って聞いたら、
「那可真是!一提到日本的财阀,

真っ先に”久遠寺”って苗字が浮かびますよ!」
最先浮现脑海的就是“久远寺”这个姓氏啊!」

まさか、自分がそんな名前の持ち主と、
没想到自己会跟拥有这样姓氏的人,

こんなふうに言葉を交わす日が来るなんて。
以这种方式交谈的日子会到来。

場違いだって思いながらも、
想到这太奇怪了,

どこか胸の奥がそわそわしていた。
不知怎的胸口有点发痒。

ロウ

「そっかぁ…キヨネってすごいな
「哦…千代子真厉害啊

まさか久遠寺家のお嬢様と友達だなんて」
哪想到久远寺家的千金竟然是朋友"

久遠寺

「友達というか…キヨネとは、もう10年以上の付き合いになりますね」
"与其说是朋友…和千代子,我们已经认识超过十年了"

彼女は淡々と話していたが、その語り口の端々から、
她平静地讲述着,但从她说话的语气中,

どこか懐かしむような響きが滲んでいた。
译文: 似乎渗出某种怀念的声响。

ロウ

「へぇーじゃあ、幼馴染みたいな関係っすね」
“哦——那么,是像幼时玩伴那样的关系呢”

久遠寺

「ええ、まぁ……そういうことになりますね」
「好吧……总而言之,就是这样了」

一瞬、彼女がわずかに笑ったように見えた。
她似乎一瞬间微微笑了。

さきほどまで感情の起伏を見せないのに、
明明刚才一直没什么表情,

キヨネの話になると、その冷えた雰囲気が少しだけ和らぐ気がする。
但一提到千代的话题,感觉她那冰冷的态度稍稍缓和了些。

その後の数分間は、他愛もない話をしつつ、
接下来的几分钟里,我们闲聊着无关紧要的话题,

気づけば話題はキヨネのことになっていた。
不知不觉间话题转到了千代子身上。

どうやら彼女は、キヨネが大学にいた頃のことは
看来她对千代子大学时期的事情

あまり詳しく知らないらしい。
似乎并不太了解。

ロウ

「で、では俺はここらへんで。
“那么,我就先到这儿了。

改めて、急に押しかけて本当にごめんなさい。」
再次突然打扰,真的非常抱歉。”

久遠寺

「…いいえ。こちらこそ、なにも用意できず申し訳ないです。」
「…不,我也什么都没准备好,非常抱歉。」

ロウ

「いーやいや、ぜんぜん平気っすよ。
「哎呀呀,完全没关系哦。

久遠寺家の人間と話せるなんて、思いもしないことっすよ!」
能和久远寺家的人说话,这可是想都没想过的事哦!」

ロウ

「これも、キヨネ先輩のおかげっすね!」
“这也多亏了千代前辈!”

久遠寺

「……」

調子を乗ってしまったのだろうか。
情绪是不是上来了。

それを言い出したとたん、久遠寺は眉をぴくりと動かした。
一说到那件事,久远寺的眉毛就微微动了一下。

言葉にはしなかったが、わずかに不満を覚えたのが伝わってきて、
虽然没有说出口,但能感受到他微微的不满,

俺は思わず口をつぐんだ。
我不由得闭上了嘴。

ロウ

「では、また機会があれば!
“那么,有机会再见!

あぁ、キヨネにお大事にとお伝え下さい!」
啊,请告诉京子要好好照顾自己!”

久遠寺

「ええ、しっかり伝えておきます。」
「好的,我会好好传达的。」

…どうにも、距離の詰め方が難しい相手だ。
…无论如何,对方都很难拉近距离。

キヨネの友達なんだから、変な印象を持たれたくない。
毕竟她是千音的朋友,不想给人留下奇怪印象。

これから先は長いんだ。
今后路还很长。

今日ダメだったら、また次で挽回すればいい。
如果今天失败了,下次再挽回就好。

玄関外

俺は玄関を出て、久遠寺に軽く会釈をし、
我走出玄关,向久远寺轻轻点头致意,

そのまま背を向こうとしたときだった。
就在这时,我转过身去。

久遠寺

「ああそうだ……。一つ、質問してもいいかしら」
「啊,是吗……。可以问一个问题吗?」

声をかけられるなんて、まったく予想していなかった。
没想到会被人叫住。

後ろから、久遠寺の静かな声が響いた。
从后面,传来了久远寺的安静声音。

ロウ

「 ええ?ああ、はい!」
「嗯?对,是的!」

久遠寺

「こもりさんってもしかして、キヨネのこと…
「难道您是在说小森小姐……是千代子吗……

少し間を置いてから、彼女は平然とした顔のまま、
过了一会儿,她依然面不改色地」

声だけがわずかに探るように続けた。
声只有微弱地继续探询着。

久遠寺

……好きですか?」
……喜欢吗?”

ロウ

「え。」
「嗯。」

唐突な質問に、言葉が詰まった。
面对突然的问题,我一时语塞。

今日はじめて久遠寺さんと話したばかりなのに、なんで気づかれてるんだ?
明明今天才和久远寺第一次说话,为什么她会察觉到?

名前を聞きに来た感じで、前から俺のこと知ってる様子はなかったはずなのに…。
她看起来是来问名字的,但我明明觉得她之前并不了解我……。

まじで、なんでバレたんだぁ!?
真的,为什么会暴露了啊!?

えっ俺そんなにわかりやすかったか……?
咦,我那么容易被看穿吗……?

頭の中で思考が激しく渦巻く。
脑海中思绪激烈翻涌。

やばい、なんか、なにか喋んないと…。
糟了,好像,得说点什么……。

ロウ

「そ、そそそそんな、ことないっすよ!?ぜ、ぜんっぜん!?」
“不、不是的!完全不是!”

思わず声が裏返ってしまった。
不由自主地转过身去。

顔から熱がじわりと広がっていくのを感じる。
能感觉到脸上一阵阵发烫。

焦りで頭が真っ白になりかけながらも、
在焦躁中,头脑几乎变得一片空白,

なんとか言葉を繋ごうとする。
还是努力想要把话说连贯。

ロウ

「キヨネとはただの友達で、先輩として尊敬してるだけで……」
“千代奈只是个朋友,我只是把她当作前辈来尊敬……”

ロウ

「けっ、けっしてやましい…いや、違う!
“可、绝对没有可疑的地方…不,不是!

狙ってるなんて、ぜったいにないっすから!」
绝对没有故意瞄准!”

心臓が暴走してるのが自分でもわかった。
自己也感觉心脏在狂跳。

俺は必死に言い訳しながら、その場をやり過ごそうとしていた。
我拼命找借口,试图蒙混过关。

久遠寺

「……」

狼狽する俺とは対照的に、彼女はドアの前で悠然と腕を組み、無言でこちらを見つめていた。
与狼狈的我形成鲜明对比的是,她悠闲地抱臂站在门前,默默注视着我。

間に、微妙な空気が漂う。
其间,弥漫着微妙的气氛。

まるで人生でいちばん長い数秒を過ごしているような気がした。
感觉像是度过了人生中最漫长的几秒钟。

お、おちつけ、俺。
嘿,冷静点,我。

まだ疑われてるだけだ。絶対、けっして、バレてるわけじゃない。
只是还在被怀疑而已。绝对、绝对、还没有暴露。

そうだ。ぜったい、そうに決まってる。
是啊。一定,已经决定了。

久遠寺

「ふーん、……そう。」
「嗯,……是吗。」

彼女は、まるで答えを知ったかのように冷然と口を開いて、
她仿佛知道答案一般,冷冷地开口道,

ドアノブにそっと手を置く。
将手轻轻放在门把手上。

久遠寺

「まぁ、頑張ってください。」
“嗯,请加油。”

そして、重い扉がパンと音を立てて閉まると、その音だけが廊下に響いた。
然后,沉重的门发出砰的一声关上,只有那声音在走廊里回响。

ロウ

「え……?」
“诶……?”

な、なんだったんだ……。
呐,那是什么……。

扉の外。置き去りにされた俺は、
门外。被遗弃的我,

ただただ冷たい風に吹かれながら、胸の奥でざわめく感情に翻弄されていた。
只是任由冰冷的风吹拂,同时被内心翻涌的情感所戏弄。

【サヨ視点】
【小夜视点】

リビング
客厅

あの子守という騒がしくてたまらない男が去ったあと、
那个吵闹得让人无法忍受的小混混离开之后,

私はリビングに戻り、キヨネの様子を見ることにした。
我回到客厅,决定看看キヨネ的情况。

起こさないようにそっとソファーにーーキヨネのそばに近づいて、
悄悄地靠近沙发——在キヨネ身边,

彼女の顔を覗き込む。
偷偷地窥视她的脸。

キヨネ
清音

「すーすー」
「呼——」

案の定、ぐっすりと熟睡している様子。
果然,正熟睡的样子。

手が、何回もブリーチされた長い髪をなでる。
手在抚摸那被多次染过的长发。

やわらかいな。
好柔软啊。

指に毛先をぐるぐると円を描き、
手指画着毛尖转圈圈,

先ほどの出来事が頭に浮かぶ。
刚才发生的事情浮现在脑海。

サヨ
沙耶

「こもり、ろう…」
「小森,小罗…」

口からその名前が出た瞬間、喉の奥が何かに締め付けられるような気がした。
当那个名字从口中说出时,感觉喉咙深处被什么东西扼住。

あいつ、私がいない間に、
那家伙,在我不在的时候,

よくもキヨネのことをたぶらかしてくれたな。
还真把千代的事情给撒谎了啊。

見るからに、誰にでも優しいお人好しで、
一看就是那种对谁都温柔的好人,

キヨネが惹かれるような性格をしている。
有着让千代会心动的性格。

浅はかにも、厄介だ。
浅薄,也很麻烦。

いままで、私がキヨネのそばにいる限り、
到目前为止,只要我在清苗身边,

絶対に誰にも間を入らないように仕込んでいた。
我一直在确保绝对不让任何人插手。

キヨネは人のことを信じやすい。
清苗很容易相信别人。

ほいほいとすぐ誰かについて行ってしまうので、困ってたんだ。
总是不由自主地跟在别人后面,所以很困扰。

サヨ
沙耶

「どうしたもんかな…」
「怎么了…」

さっきの質問から思うに、あいつにはまだ告白する勇気もない。
从刚才的问题来看,那家伙还没有勇气告白。

しばらくは、明らかな行動を取らないのだろう。
暂时,大概不会采取明显的行动吧。

髪の毛は、指の間からすり抜ける。
头发从指缝间滑落。

イライラする気持ちが抑えられず、
无法抑制烦躁的心情,

私は再び立ち上がり、ベランダで一服することにした。
我再次起身,决定到阳台透透气。

ベランダ
阳台

ベランダに出て、背中を壁に預ける。風なんてほとんどない。
走到阳台上,背靠着墙。几乎没什么风。

蝉の声すら止んで、世界が少しだけ止まったみたいだった。
连蝉鸣都停了,世界仿佛稍稍静止了。

ぼんやりと空を見上げる。月は出ていない。
茫然地仰望着天空。月亮没有出来。

雲がのしかかるように漂っていて、星のひとつも見えない。
云像要压下来一样漂浮着,连一颗星星也看不见。

落ち着こうとして、何も考えたくないのに、思考だけが勝手に泳いでいく。
试着平静下来,明明什么都不想思考,思维却还是不由自主地飘荡。

ため息をひとつこぼして、ポケットからタバコとライターを取り出す。
叹了口气,从口袋里掏出香烟和打火机。

銀色のジッポ。指で軽くスナップして、火をつけようとした。
银色的拉链。用手指轻轻一按,准备点火。

カチ。──火花だけ。つかない。
咔。──只有火花。没点着。

もう一度。カチッ。
再试一次。咔哒。

──今度は、ついた。
──这次,粘住了。

でもその瞬間、親指の先に熱が走った。
但就在那一瞬间,拇指尖传来了热度。

サヨ
沙耶

「……っつ」
「……粘住了」

別に、やけどなんて初めてじゃない。
别提了,烫伤这种事我可是头一回经历。

なのに、思ったより痛かった。
可偏偏,比想象中疼得多。

舌打ちするほどでもないが、じわりと熱を引かない感触が鬱陶しい。
虽然不至于龇牙咧嘴,但那种微微发热的感觉实在令人烦躁。

視線を落とし、親指の先を眺める。
视线垂下,凝视着拇指的尖端。

サヨ
沙耶

「ーー」
「——」

なんだ、これは。
这是什么。

やけどした指先を確かめる。
检查被烫伤的指尖。

てっきり、熱で皮膚が赤くなっているものだと思っていた。
我明明以为是因为发烧导致皮肤变红。

ところが、そこにあったのは……明らかにそれとは違う。
然而,那里有的……显然不是那个。

赤くも、腫れてもいない。
既不红,也不肿。

代わりに、皮膚の表面から、どろりとした黒い液体がにじみ出ていた。
相反,皮肤表面正渗出黏稠的黑色液体。

血じゃない。
不是血。

そんなことは見ればすぐにわかる。
那一看就明白了。

それはあまりにも濁っていて、まるで濡れた土か、油の塊のようだった。
那浑浊得厉害,就像湿土一样,或者像一滩油。

重く、鈍く、ゆっくりとした動きで、指先からぽたぽたと垂れていく。
沉重、迟钝、缓慢地移动,从指尖滴答滴答地垂落下来。

床に落ちたそれは、波紋も広がらないまま、ぬるりと染みていく。
掉到地上的它,连波纹都不扩散,就慢慢地渗入其中。

じっと見つめながら、瞬きすら忘れていた。
凝视着,甚至忘记了眨眼。

痛みは、もうない。
疼痛已经消失了。

けれど、寒気のようなものが背筋を這い上がってくる。
但是,有一种像寒气一样的感觉沿着背脊蔓延上来。

感覚がどこかおかしい。異様でしかない。
感觉有些不对劲。就是这种感觉。

じわじわと皮膚の奥から冷えが這い上がってくるのに、
丝丝缕缕地,从皮肤深处传来寒意,

手足はどこか遠くのもののようだった。
手脚仿佛成了遥远的事物。

理解が追いつかないまま、私は指先を見つめ続けた。
我无法理解这一切,继续凝视着指尖。

その異様な液体を視界の端に置いたまま、脳裏に、ひとつの記憶がよみがえる。
将那异常的液体放在视野边缘,脑海中浮现起一段记忆。

ーーあれは、一週間ほど前のことだ。 
唐突に途切れた時間の隙間に、ぽっかりと浮かんだ奇妙な出来事。 

あの、摩訶不思議な洋館。 
私はそこで、目を覚ました。 

だがーーそこまでの数日の記憶は、すっぽりと抜け落ちていた。
但是——前几天的记忆完全消失了。

目を開けると、傍らにはキヨネがいて、
睁开眼时,旁边坐着清苗,

ひどく緊張した面持ちで私を見つめていた。
她正以极度紧张的表情看着我。

極端的な怯えと困惑。
极度的恐惧和困惑。

そんな顔、これまで一度も見たことがなかった。 

そして、彼女は言葉もなく、 
強く、強く私を抱きしめた。 

あの時、一体何があったのだろうか。 
どうして私には、記憶がないのか。 

いや、正確に言えば、思い出そうとするとどこかで引っかかる。 
何かが、わざと封じられているような、そんな感覚。 

そして、何よりも引っかかっているのは最近のキヨネの態度だ。 
あの冷静で、他人に踏み込みすぎることのなかった彼女がーー今は妙に過保護すぎる。 

外出しようものなら、すぐについてくると言うし、 
夜になると必ず、明日は何が食べたいかと念入りに聞いてくる。 

しかも、それを当たり前のように、自然な顔でやってのける。 

干渉というより、監視に近い。 
ーーと、ここ数日の私は、そんなふうに見えてならなかった。 

されど、そのひとつひとつの行動が、あまりにも丁寧で、どこか不器用で、 
可愛くてーー、愛おしく感じてしまっていた。 

だからこそ、何も言えなかった。 
彼女のその過剰な優しさを、拒む理由がなかった。 

必死な様がまるで何かに怯える小動物のような行動。 
たまに、そわそわとこっちに目線を向いたり、そらしたりする様子。 

不快に感じるどころか、 
むしろどこか甘く、それに満たされていくような心地を伴っていた。 

サヨ
沙耶

「さすがに、夢ってわけじゃないよね…」 

くだらなかった日常。いつも通りの生活。 
全く一つ、面白くなかった。 

いままで生きてた時間、すべてはあの子がいたから成り立ったものだ。 

だから、私自身のためにもーー。 

サヨ
沙耶

「もう少しだけ、様子を見てみようか」 

洗面所

黒い泥を洗い流す。 
ぬるりとした感触が、皮膚から剥がれていく。 

温度はない。 
泥なのか何なのか、今はわからないまま。 

排水口のまわりで、黒が渦を巻いている。 
その色が、どうしても自然のものに思えなかった。 

完全に落ちたのを確認してから、蛇口を止めた。 
濡れた指先を見つめる。もう何も残っていない。 

少しだけ息を吐き、タオルで手を拭う。 

台に置きっぱなしにした先端だけが焦げたタバコに視線を向く。 
違和感が蘇ったーー。 

さっきまで火傷に気を取られていて、気づかなかった。
刚才因为被烫伤的事分了心,所以没注意到。

けれど今になって、はっきりとわかる。
但事到如今,我清楚地意识到了。

煙の香りが……変わっていた。
烟味……变了。

タバコを手に取り、先端をゆっくりと鼻先に近づける。
我拿起香烟,慢慢地将前端凑到鼻尖前。

軽く息を吸い込んだ。
轻轻吸了口气。

鼻腔に広がるのは、まるで別物だった。
鼻腔中弥漫的,仿佛完全是另一回事。

あの、わずかに甘く、乾いた香りがない。
那种,微微甘甜、干燥的香气不见了。

代わりに残ったのは、ひどく刺々しく、薬品じみた焦げ臭さだけ。
剩下的只有,极其刺鼻、带着化学品味道的焦糊味。

ツンとした刺激が奥まで突き刺さり、思わず顔をしかめる。
尖锐的刺激直刺深处,不禁皱起脸。

このタバコは、本当にいつものやつだったか?
这支香烟,真的是平时的那支吗?

いや、見た目は同じだ。
不,看起来是相同的。

変わったのは、きっとーー自分の方。
改变的一定是——我这边。

謎めいたことばかりが起きる。
总是发生些神秘的事情。

だがいまはしばし、心の隅に置いておこう。
但是现在,暂时放在心的一角吧。

そう思いながら、指先でそれをゴミ箱に捨てた。
想着那样,我伸出手指把它扔进了垃圾桶。

だた、灰が潰れる音が、やけに耳に残った。
但是,灰烬被碾碎的声音,格外地留在耳中。

【キヨネ視点】
【清音视角】

寝室

キヨネ
清音

「……うーん」
「……嗯」

いつの間にか眠ってしまったのだろうか。
不知何时已睡着。

気がつくと、いつの間にか自室のベッドで横になっていた。
醒来时,发现自己不知何时已躺在自己的床上。

天井を見上げたまま、しばらく動けずにいた。
仰头看着天花板,一动不动地停顿了一会儿。

カーテンの隙間から、わずかに月の光が差し込んでいた。
窗帘的缝隙中,只有微弱月光透进来。

青白く、やけに冷たい光。
青白色的、异常冰冷的光。

ぼんやりとした時間の中、
在朦胧的时间里、

ふいに、足音が聞こえた。
突然,听到了脚步声。

軽い、床を滑るような足取り。
轻快的、如同在地板上滑行般的脚步声。

その直後、カーテン越しの月明かりが一瞬、ゆるやかに遮られる。
紧接着,窗帘外的月光一瞬间被温柔地遮挡。

影が差し込んできた。
阴影投了进来。

サヨ
沙耶

「あら、起きた?」
“啊,起床了?”

柔らかな声だった。
柔和的声音。

夜の空気に沈むように、すっと入り込んでくる。
像夜空沉入一样,缓缓融入其中。

静けさを破るのではなく、ただそこに溶け込むような響きだった。
不是打破宁静,而是像融入其中一样的回响。

影の中から、彼女の姿。
从影子里,她的身影。

光と影の境目に立つその顔は、どこか現実感を欠いていて、
站在光与影交界处的那个脸庞,似乎缺少了一些现实感、

視線を向けているのに焦点が合わなかった。
尽管视线朝向这边,却无法聚焦。

ここから見上げる彼女が、少し、こわく感じる。
从这儿抬头望向她的我,感到有些不安。

何度もそう思っていたのかもしれない。
或许是因为我早已多次这样想过。

届きそうで、届かないまま、少しずつ遠ざかっていく。
似乎快要到了,却始终未能到达,渐渐远去。

それが寂しいと、やっと気づいたのはーー今だった。
直到这时我才意识到,那有多么寂寞。

キヨネ
清音

「さよが、面倒を見てくれたの…?」
「小夜,你一直照顾我…?」

サヨ
沙耶

「私がじゃなかったら、誰がやるのよ」
「要不是我,谁会做呢」

そう言って、水の入ったグラスを差し出してくる。
说着,他递来一杯水。

サヨ
沙耶

「ほら、お水。ゆっくり飲んで」
“喏,水。慢慢喝。”

キヨネ
清音

「うふふ…ありがとうね。」
“呵呵……谢谢呢。”

唇を濡らし、そっと一口、喉に流し込む。
润湿嘴唇,轻轻喝了一口,流入喉咙。

透明な液体が、乾いた喉を静かに通り抜けていく。
透明的液体,静静地流过干渴的喉咙。

身体の奥に、少しだけ水の重さが落ちた気がした。
在身体深处,感觉到了一丝水的重量。

それだけのことなのに、どうしようもなく、生き返ったような気分だった。
尽管只是这样,却无法抑制地,感觉像是复活了一般。

静かにグラスを置いて、隣に腰掛けたサヨに目をやる。
轻轻放下杯子,看向旁边坐着的沙夜。

マットレスがほんの少し沈み、肩のあたりに柔らかな引きがかかる。
床垫微微下沉,肩膀处传来柔软的牵引。

静かな夜の中で、それだけが確かに“誰かがそばにいる”という証だった。
在寂静的夜晚中,只有这一点确实证明了“有人在身边”。

サヨ
沙耶

「……ねえ、キヨネ」
“……呐,清音”

不意にかけられた声は、囁くように静かで、
突然响起的声,轻柔得如同耳语,

けれど少しだけ躊躇いが混じっていた。
但其中夹杂着一丝犹豫。

サヨ
沙耶

「ここ数日気になってたけど、
「这几天我一直惦记着、

その足、どうしたの?」
那双脚,怎么了?」

キヨネ
清音

「ああ、そっか。
「啊,原来如此。

サヨに、まだ説明していなかったか…」
还没向沙由说明吗…」

それから、私は彼女に足の怪我について話し始めた。
然后,我开始跟她谈论她的脚伤。

元々は動物全般の研究に携わっていたこと。
原本是从事动物整体研究工作。

けれど、北アメリカでの調査隊に参加していた時、事故に遭った。
但是,在参加北美调查队的时候,遭遇了事故。

あの時、私以外の隊員は全員、亡くなったか失踪扱いになっている。
那时候,除了我以外的所有队员,要么死了,要么失踪了。

生き残ったのは、私だけだった。
活下来的只有我一个人。

「事故の記憶はほとんどない」ことも伝えた。
我也说了“对事故的记忆几乎没有了”。

何かが抜け落ちているようで、思い出せない。
感觉好像有什么遗漏了,想不起来。

足の怪我のことも、空白のままだ。
脚伤的事情,也还是空白一片。

またそのあと、研究の専門を変えたことや、ロウに出会ったことにも少し触れた。
%% 之后还稍微提到了更换研究领域以及遇到罗的情况。

サヨは何も言わず、ただ静かに私を見つめていた。
沙由什么也没说,只是静静地看着我。

そのまま言葉少なに、静かに耳を傾けてくれていた。
她一直沉默着,静静地听着。

サヨ
沙耶

「…なるほどね。
“……原来如此啊。”

私がいない間に、そんなことが…」
我不在的时候,发生了那种事……」

言葉の端々に、言いようのない寂しさが混じっていた気がした。
感觉那些话语的边缘,混杂着无法言说的寂寞。

気のせいかもしれないけれど。
也许是错觉吧。

サヨ
沙耶

「…ごめんなさい。
「…对不起。

そばにいてあげられなくて。」
不能在你身边陪伴你。」

キヨネ
清音

「えっ?」
「什么?」

ーーはじめて、彼女のそんな声色を耳にする気がした。
ーー第一次听到她那样的声音时,我感到有些意外。

弱さを含んだ響きに驚き、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
被其中蕴含的脆弱感所震撼,胸口深处不由自主地紧缩起来。

サヨがこんな風に感情を表に出すなんて、想像もしていなかった。
没想到沙夜会以这种方式表露情感,我完全没想过。

キヨネ
清音

「そんなこと、ないよ」
「那种事、没有啊」

サヨ
沙耶

「……」

キヨネ
清音

「私はーー」
「我——」

そっと、彼女の手を触れる。
轻轻地,触摸她的手。

キヨネ
清音

「サヨがいたからこそ、頑張れたんだ。」
「正因为有纱绪在,我才能坚持下来。」

あの日に、言えなかった言葉を。
在那个日子,没能说出口的话语。

キヨネ
清音

「だから、ごめんってなんて言わないで」
"所以,别说什么对不起"

ちゃんと、いま。
现在,好好地

ここで。
这里。

彼女に伝えよう。
我要告诉她。

【サヨ視点】
【小夜视点】

寝室

不思議な感覚だった。
感觉很奇妙。

彼女の言葉ひとつだけで、まるで身体が宙に浮くような気がした。
她的一句话,让我感觉身体仿佛漂浮在空中。

離れ離れになってからの三年間、
分开后的三年间、

私は彼女の影だけを追い続けた。
我一直在追寻她的影子。

何度も、すべてを投げ捨ててしまいたいと思った。
无数次,我都想将一切抛之脑后。

それでも、諦められなかったのは、
尽管如此,我无法放弃,

彼女がいなければ私という存在が意味を失うと信じていたからだ。
因为我相信,如果没有她,我的存在就失去了意义。

彼女の気配が消え、声が途切れ、
她的气息消失,声音中断,

言葉も触れ合いも絶たれた世界は、私にとって地獄だった。
一个没有她、没有言语、没有接触的世界,对我来说就是地狱。

私にとって彼女は「唯一」だ。
对我来说她是“唯一”。

私にとって彼女がすべてであるように、
就像对我来说她是全部一样,

彼女にとっても私だけであってほしいと願わずにはいられなかった。
我也无法不希望对她而言只有我。

それが狂気じみていると気づいても、止められなかった。
即使意识到这很疯狂,也无法停止。

だが。今、確かに感じた。
但是。现在确实感受到了。

積もり積もった壁の一枚が、静かに崩れ落ちる音を。
层层堆积的墙壁中,有一片静静地崩塌的声音。

彼女は、私以外に視線を向けていない。
她没有将视线投向除我以外的其他人。

私を恐れることも、拒絶することもない。
她既不害怕我,也不拒绝我。

彼女は、私をーー。
她对我ーー。

見上げようとはしない。
不愿抬头。

サヨ
沙耶

「キヨネは…」
“千代子是…”

キヨネ
清音

「ん?」
“嗯?”

私は、軽く彼女の手を握り返す。
我轻轻握回她的手。

サヨ
沙耶

「なにがあったも、私と一緒にいてくれる?」
「发生了什么,能和我在一起吗?」

キヨネ
清音

「なにそれ。当たり前だよ。」
「什么啊。那当然啊。」

サヨ
沙耶

「……」

迷うこともなく、キヨネは微笑んだ。
迷うこともなく、清音は微笑んだ。

そのきれいな目はゆっくりと細められ、慈愛に満ちた温かさを帯びていた。

深く漆黒の闇をたたえた瞳は、静かな湖のように澄みわたり、
まるで小さな銀河を閉じ込めたかのように、微かな星屑が瞬いていた。
仿佛将小小的银河囚禁其中,微小的星屑闪烁着。

その闇の奥底には、私だけが映し出されている。
在那黑暗的深处,只有我映照出来。

彼女の瞳にすべてが吸い込まれ、ほかの世界は霞んでいくようだった。
她的眼中吞噬了一切,其他世界仿佛变得模糊起来。

サヨ
沙耶

「本当に?
「真的吗?

何があっても、だよ」
无论发生什么,都这样啊」

明るさ(60%)
亮度(60%)

キヨネ
清音

「うん…。絶対に、何があっても」
「嗯……。无论如何,绝对……」

明るさ(30%)
亮度(30%)

キヨネ
清音

「私たちは、ずっと」
「我们,一直……」

明るさ(0%)
亮度(0%)

キヨネ
清音

「最後まで、一緒にいよう」
「一起到最后」