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神を失った日
神陨之日


バッドエンド後if設定。メテオによって一度崩壊した世界のその後、神となったセフィロスとその従者であるクラウドの話。
Bad End 后 if 设定。陨石导致世界一度崩坏,之后成为神的萨菲罗斯和他的从者克劳德的故事。


?残酷な描写があります。暗めです。
※含有残酷描写。基调灰暗。

?クラウドはセフィロスに黒マテリアを渡した後、元の人格を取り戻せていない人形のまま
※克劳德在交出黑魔晶石后,未能恢复原有人格,仍是个人偶。

?2人ともジェノバ細胞のおかげで不老
?两人都因杰诺瓦细胞而不老

?終始モブ視点で、地の文が多いです
?全程以路人视角叙述,旁白较多

お楽しみいただけたら嬉しいです!
希望您能喜欢!



 数百年、あるいは数千年前、この星には大きな隕石が降ったのだという。嘘か本当かは分からない。当時を生き延びた人間はとうに命を終えており、語り継がれた伝承や、遺された書物からしか歴史を知ることが叶わないからである。
据说,数百年前,亦或是数千年前,这颗星球曾坠落过一颗巨大的陨石。是真是假已无从考证。因为当时幸存下来的人类早已逝去,历史只能通过口耳相传的传说和遗留下来的书籍来了解。


 伝承曰く、世界中に降り注いだ隕石は、人間や家畜、モンスターを区別せず、そこで暮らしていた生物を一瞬で星に還した。海に落ちた隕石は大津波を引き起こし、陸に落ちたそれは植物を焼いた。
传说,降临到世界各地的陨石不分人类、牲畜和怪物,瞬间将居住在那里的生物送回了星辰。落入海中的陨石引发了大海啸,落到陆地上的陨石则烧毁了植物。

 隕石の衝突により生じたチリは空を覆い、生物から太陽の恵みを奪い、世界中に明けぬ冬をもたらした。世界に滅亡を与えたらしいその出来事は、メテオの災禍と呼称されている。
陨石撞击产生的尘埃覆盖了天空,剥夺了生物的阳光恩赐,给世界带来了永不结束的冬天。据说给世界带来灭亡的事件被称为“陨石灾祸”。


 かつての人類の一部は、如何なる手段によってかその災禍をくぐりぬけた。今よりも発展していたらしい機械文明を用いたという説もあれば、炎や雷をはじめとする自然現象を操る魔法によって身を守ったのだとする夢物語のような説もある。災禍によって破壊し尽され、大きく後退した文明に生きる現在からは想像することしかできない。
过去的一部分人类,不知通过何种手段度过了那场灾祸。有说法称他们使用了比现在更发达的机械文明,也有像梦境般的故事称他们通过操纵火焰、雷电等自然现象的魔法保护了自己。对于被灾祸彻底摧毁、文明大幅倒退的现在来说,这只能是想象。


 災禍を生き延びた一部の人類は、他の生き物から隠れ住むように生きるさなか、さらに病によるふるいをかけられたのだという。隕石が降り注いだ日からしばらく、青とも緑ともつかぬ不思議な輝きの雨が大地に降り注ぎ、人類に奇病を運んだ。
据说,幸存下来的一部分人类在躲避其他生物生活的同时,又被疾病筛选了一番。陨石降落后的那段时间,一种说不清是蓝色还是绿色的奇特光芒的雨水降临大地,给人类带来了怪病。

 黒い痕が肌に浮き出ることから始まる奇病は、打ち勝てば過酷な環境にも耐えられる優れた身体能力を生存者に与え、病に負ければ無情な死をもたらした。今生きている人類は、そんな数少ない進化した人類の子孫であると考えられている。
一种以皮肤上浮现黑斑为开端的怪病,如果战胜它,幸存者将获得能够承受严酷环境的卓越身体能力;如果被疾病击败,则会带来无情的死亡。现在活着的人类,被认为是那些少数进化人类的后代。


 また、大きな破壊力を持った隕石は、生物だけでなくこの星自体にも形を変えるほどの大きな傷を与えたらしい。
此外,具有巨大破坏力的陨石,不仅对生物,似乎也对这个星球本身造成了足以改变其形态的巨大创伤。

 らしい、と伝聞調でしか語ることができないのは、腕の立つものでない限り国の外に出ることはまだまだ危険が大きいからだ。
之所以只能用“似乎”这种传闻的语气来讲述,是因为除非是身手不凡之人,否则走出国家仍然存在很大的危险。


 変化した環境に合わせて進化した人類だけが生き残ったのと同じように、植物や動物、モンスターも新たな世界に適応できたものだけが災禍を生き残った。かつて食物連鎖の頂点に立っていた人間が身を潜めざるを得なかった長い時の間に、自然界に生きるもの達は新たな食物連鎖を築いた。強く獰猛なモンスターが徘徊する外界の調査は、身を守る火器類が発明された数十年前になってようやくまともに始まったばかりである。
就像只有适应了变化环境而进化的人类才得以幸存一样,植物、动物和怪物也只有那些能够适应新世界的才在灾祸中幸存下来。在曾经站在食物链顶端的人类不得不隐匿身形的漫长岁月中,自然界的生物们建立了新的食物链。对徘徊着强大凶猛怪物的外部世界的调查,直到几十年前发明了用于自卫的火器之后,才刚刚正式开始。


 そんな環境でも人間が暮らしていけるのは、この国が神の加護を受けた土地であるからだ。災禍からしばらくして、進化を果たしたモンスター達の台頭によって人間は絶滅の危機に追い込まれた。そのとき、人ならざる壮麗な翼を背負った神が降臨したのだという。
即便在这样的环境下人类也能生存,是因为这个国家是受到神明庇佑的土地。据说在灾祸发生后不久,随着完成进化的怪物们崛起,人类被逼入灭绝的危机。那时,背负着非人般壮丽翅膀的神明降临了。


 地上に降り立った神とその御使いは、自然を操る絶対的な力をもって害悪を退け、空を覆う雲を晴らし、世界に再度太陽をもたらした。その奇跡に感謝した人類は神を崇め奉った。人間たちは、持てる全てを捧げ、神に仕えることをお許しいただき、神はその地に留まり加護を与えることを約束した。神を畏れる外界の獣たちは、その存在の周囲に決して近づいてこない。そうして神の住まう神殿を中心として出来上がった集落が、この国の前身であったらしい。
降临到地上的神明及其使者,以操纵自然的绝对力量驱逐了灾祸,驱散了覆盖天空的乌云,再次为世界带来了太阳。感谢这份奇迹的人类崇拜并供奉神明。人类奉献出自己所拥有的一切,请求侍奉神明,而神明则承诺留在那片土地上并赐予庇佑。敬畏神明的外界野兽们,绝不会靠近神明存在的周围。就这样,以神明居住的神殿为中心形成的聚落,似乎就是这个国家的前身。


 時を経て人口が増え、いくつかの街ができ、やがて国になった。人が多くなればまとめる存在が必要になる。人々を取りまとめる一族はやがて王族と呼称されるようになった。絶対的な存在である神とその御使いを頂点に戴きつつも、実質的な政治を王族が執り行う仕組みが出来上がっていった。
随着时间的推移,人口增加,建立了一些城镇,最终形成了一个国家。人口增多就需要一个统领者。统领民众的家族最终被称为王族。在以绝对存在的神明及其使者为最高统治者的同时,也形成了由王族实际执掌政治的体系。

 国の中心にある神殿で神に仕える神官、とりわけ直接神に拝謁できる高位の神官と、政治を行う王族が上に立ち、国をまとめるのがここ何百年かの伝統的なシステムだそうだ。
据说,由在国家中心神殿侍奉神明的神官,特别是能够直接觐见神明的高级神官,以及执掌政治的王族居于上位,共同治理国家,是近几百年来的传统体系。




「(この国の外にも、人間はいるのかなあ)」
“(这个国家之外,也有人类吗?)”


 メテオの災禍から神の降臨までを象徴的に描いた壁画を眺め、授業で習った歴史を思い起こしながら、イヴは想いを巡らせた。
伊芙凝视着象征性描绘了从陨石灾祸到神明降临的壁画,回想着课堂上学到的历史,陷入了沉思。


 イヴは13歳になる神官見習いの少女だった。生まれた時からこの国で育ち、外界を見たこともないイヴは、空想にひたるのが好きだった。伝え聞く歴史に思いを馳せ、かつてあったという文明を想像し、まだ見ぬ外界を想う。日課の掃除が終わってから、こっそりと神殿の廊下に飾られているその巨大な壁画を眺めては、思いを巡らせるのが習慣になっていた。
伊芙是个 13 岁的神官见习少女。她自出生起就在这个国家长大,从未见过外界,因此喜欢沉浸在幻想中。她会根据听闻的历史展开联想,想象曾经存在的文明,并思考尚未见过的外界。每天的例行清扫结束后,她都会偷偷地凝视着神殿走廊上那幅巨大的壁画,沉思冥想,这已成了她的习惯。


 神に仕えているからといって信心深いかと聞かれると、正直分からない。両親が神官だったし、他にやりたいこともなかったから、自然と神官を目指すようになっただけだった。この国を守ってくださる神様と御使い様に感謝する気持ちはある。
如果问她是否因为侍奉神明就虔诚,老实说,她自己也不清楚。父母都是神官,她也没有其他想做的事情,所以自然而然地就走上了神官这条路。她对守护这个国家的众神和使者心怀感激。

 だが、高位の神官や、政治を取り仕切る王族でもない限り拝謁する機会はないから、御伽噺の中の存在のように思えてしまうのだ。見習い神官のイヴでさえこのようなものなのだから、神殿の外の人達にとっては神様はもっと遠い存在なのかもしれない。
然而,除非是高级神官或掌管政务的王族,否则没有机会觐见,所以神明就像童话故事里的存在一样。就连见习神官伊芙都是如此,对于神殿外的人们来说,神明或许是更遥远的存在。


 神様も御使い様も像や絵に姿や名を残されることを好まないので、こうして数少ない壁画に残された姿から想像するしかできない。分かるのは、お二方ともに人の姿を取っていること、神様は色素の薄い長い髪を持ち、黒い片翼を背負っていらっしゃること、御使い様は趣の異なる色素の薄い短髪であることくらいだろうか。翼を持つ神様はともかく、そうではない御使い様なら、まかり間違って廊下ですれ違うことがあっても自分は気づかないと思う。
神明和御使都不喜欢将自己的形象和名字留在雕像或画作中,所以我们只能从这些为数不多的壁画中留下的形象来想象。我们所知道的,大概就是两位都以人形出现,神明拥有一头浅色长发,背负着一只黑色的翅膀,而御使则拥有一头风格迥异的浅色短发。拥有翅膀的神明姑且不论,如果是没有翅膀的御使,即使万一在走廊上擦肩而过,我也觉得自己不会察觉到。


「(むかしむかし、魔法は本当にあったんだろうか)」
“(很久很久以前,魔法真的存在吗?)”


 つい先日、外界に長期探索に出ていた調査隊が帰ってきたと聞いた。かつて人類が住んでいたと思わしき遺跡が、この国から山を隔てた地に発見されたのだという。奇跡的に形を残していた遺物も採掘されたらしく、研究所に運び込まれた瞬間学者たちが狂喜乱舞していた、と研究所勤めの知り合いが笑って話していた。神の加護のもと順調に発展した技術は、その偉大な存在の庇護下を離れても、人類に身を守れるだけの力を与え、外界を探索することを可能にしていた。
就在前几天,我听说一支长期在外探索的调查队回来了。据说,在这个国家隔着一座山的地方,发现了一处被认为是人类曾经居住过的遗迹。据说还奇迹般地挖掘出了保存完好的遗物,我认识的一位在研究所工作的朋友笑着说,当这些遗物被运进研究所时,学者们都欣喜若狂。在神明庇佑下顺利发展的技术,即使离开了那位伟大存在的庇护,也赋予了人类足以自保的力量,并使他们能够探索外界。


「(遺跡があるなら、その周囲に子孫の集落があったりしないんだろうか)」
“(如果这里有遗迹,那周围会不会有后代的聚落呢?)”


 神様はこの国にしかいらっしゃらないけれど、自分たちの力で身を守ることができるならば。たとえば、かつての技術や魔法を語り継ぐ人類は生き残っていないのだろうか?偶然安全な地帯で生き延び、自分達のように技術を発展させた人類は?この国の外に広がる世界を想像すると胸がどきどきした。
神明大人虽然只存在于这个国家,但如果人类能够凭借自己的力量保护自己呢?比如说,传承了过去技术和魔法的人类,难道就没有幸存下来吗?偶然在安全地带幸存下来,并像他们一样发展了技术的人类呢?一想到这个国家之外的广阔世界,伊芙就心潮澎湃。




――今日のお勤めは終わったし、研究所の友人を訪ねて、何か解析されたことがないか聞いてみよう。
——今天的工作已经结束了,去拜访一下研究所的朋友,问问有没有什么新的解析结果吧。


 そう決めて、イヴは壁画から離れて出口に向かって回廊を歩き始めた。途中、窓から眺めた中庭に日光を反射してきらめく見覚えのある金髪を見つけた。イヴは顔をパッと輝かせ、窓枠から身を乗り出して声をかけた。
下定决心后,伊芙离开了壁画,沿着回廊走向出口。途中,她从窗户望向庭院,看到了一头在阳光下闪闪发光的熟悉金发。伊芙的脸上立刻绽放出光芒,她探出身子,从窗框里向外喊道。


「クラウドさん!今日、お仕事の日だったんですね」
“克劳德先生!您今天上班啊。”


 その声に反応して、中庭の小屋のすぐ横でチョコボの毛並みの手入れをしていた青年が顔を上げた。チョコボによく似た跳ねた金髪と、日焼けしたところを見たことがない白く透き通った肌。片方にだけ袖のついた独特な形状の黒衣に身を包んだ二十代半ばの青年だった。
听到这个声音,在庭院小屋旁给陆行鸟梳理毛发的青年抬起头。他有着和陆行鸟很像的蓬松金发,皮肤白皙透明,从未见过他被晒黑。他身着只有一边袖子的独特黑色服装,是个二十多岁的青年。


 一見すると中性的な印象を与えるが、腕を見ればしなやかな筋肉がしっかり着いていて、鍛えられていることが分かる。いつも色の濃い眼鏡をかけているので目の色は見たことがない。本人は眼が光に弱いのだと言っていた。イヴの姿を目に留めると、チョコボと一緒に窓枠の方へ近付いてきてくれた。
他乍一看给人一种中性的印象,但看他的手臂,就能发现上面附着着结实的肌肉,一看就是经过锻炼的。他总是戴着深色眼镜,所以从未见过他的眼睛颜色。他本人说他的眼睛对光敏感。当他看到伊芙的身影时,便和陆行鸟一起走近窗框。


「イヴ。久しぶりな気がするな。元気にしていたか」
“伊芙。感觉好久不见了。你过得好吗?”

「2週間ぶりでしょうか。元気です!調査隊が帰ってきたって話、聞きましたか?外界のこと、歴史のこと、何か分かるのかなって…私、楽しみでしょうがなくて――」
“大概有两周没见了吧。我很好!你听说调查队回来的事了吗?我好期待他们能带回一些关于外界和历史的发现——”


 興奮して喋り続けるイヴのお喋りに時折相槌を打ち、穏やかに聞いてくれるこの青年は、イヴが子供のころから神殿で働いていた。
伊芙兴奋地滔滔不绝,而这位青年则时不时地应和着,平静地倾听着。他从伊芙小时候起就在神殿工作了。


 イヴは5歳のとき、両親に連れられて初めて神殿に来た。そのとき親とはぐれてこの中庭に迷い込んで泣いていたところをあやしてもらったのをきっかけに、神殿に来るたびによく遊んでもらっていた。彼は口数が多くないので、彼についてイヴの知っていることは実はあまり多くはない。不定期にチョコボの世話にやってくるということ、神殿に住みこみで働いていること、チョコボをカップリングさせて新種を生み出すことに情熱を捧げているということくらいだろうか。それでも、小さい頃はイヴと辛抱強く遊んでくれて、成長してからもこうして話を聞いてくれる彼のことを、イヴは兄のように慕っていた。
伊芙五岁时,第一次被父母带到神殿。那时她和父母走散,迷失在这座庭院里哭泣,是他哄好了她。从那以后,每次来神殿,他都会陪她玩。他话不多,所以伊芙对他了解其实不多。大概只知道他会不定期地来照顾陆行鸟,住在神殿里工作,并且对陆行鸟配种以培育新品种充满热情。即便如此,小时候他耐心地陪伊芙玩耍,长大后也这样倾听她说话,伊芙一直把他当作哥哥一样敬爱。


「イヴは本当に歴史が好きだな」
“伊芙真是喜欢历史啊。”


 そういって口角をわずかにあげるクラウドに、どきりとする。子どもの時は分からなかったけれど、この青年は目元が隠されていても分かるくらい、ひどく整った容貌を持っているのだ。特別な感情は持っていないけれど、不意に笑顔を見せられると心臓に悪い、とイヴは落ち着かない気持ちになる。
克劳德嘴角微扬,伊芙心头一颤。小时候不觉得,但现在她才明白,即使被刘海遮住眼睛,这个青年也拥有着极其俊美的容貌。虽然没有特别的情感,但伊芙还是感到不安,因为他突如其来的笑容让她心跳加速。


「神様や御使い様のお姿やお名前も、もっと詳細に残っていたらいいんですけどね」
“要是能更详细地记录下神明和天使大人的容貌和名字就好了。”

「知りたいのか」
“你想知道吗?”

「お仕えする方々のことですから。分からないのはそれはそれで神秘的だけど」
“毕竟是侍奉的对象嘛。虽然不知道也挺神秘的。”

「……あの方は人々に偶像化されるのを好まれない。この地に留まっているのだって気まぐれなのだろうから、気分良く過ごしていただきたいだろう?」
“……那位大人不喜欢被人们偶像化。他能留在这片土地上,想必也是一时兴起,所以希望他能过得舒心吧?”


 クラウドは僅かに頬を紅潮させ、どこか陶然とした口調でそう零した。彼が信心深いのはよく知っていたし、神様の話題にはほんの少しだけど口数が多くなるから、イヴはときどきわざとこうやって神様の話題を出すようにしていた。
克劳德脸颊微红,用一种略带陶醉的语气低声说道。伊芙知道他很虔诚,而且一提到神明的话题,他就会稍微多说几句,所以伊芙有时会故意这样提起神明的话题。


「クラウドさんは、本当に信心深いですね。チョコボのお世話も熱心ですし」
“克劳德先生,您真是虔诚啊。对陆行鸟的照料也很热心。”


 クラウドの連れた人懐こいチョコボの頭を撫でさせてもらいながら、イヴはそう言って笑った。チョコボはメテオの災禍をも生き残り、人間と常に寄り添って生きてきた聖なる動物として人々に愛されている。
伊芙一边抚摸着克劳德带来的那只亲人的陆行鸟的头,一边笑着说道。陆行鸟在陨石灾难中幸存下来,作为一种始终与人类相伴而生的神圣动物,深受人们喜爱。


「私、昔はチョコボのことがちょっと苦手でした。嘴が大きいから頭から食べられちゃうんじゃないかって怖くて。ふかふかだし、優しいって分かってるから今は大好きですけど!クラウドさんは昔からこんなにチョコボ、好きだったんですか?」
“我以前有点怕陆行鸟。它嘴巴那么大,我怕它会一口把我吞掉。不过现在我很喜欢它,因为它毛茸茸的,而且我知道它很温柔!克劳德先生以前也这么喜欢陆行鸟吗?”


「嫌いではなかった。今みたいに好きになったのはしばらく経ってからだな」
“倒也不是讨厌。像现在这样喜欢,是过了一段时间才开始的。”


「へえ!何かきっかけでもあったんですか?」
“哦!是有什么契机吗?”


 好奇心の赴くままにイヴが質問すると、クラウドは少し口ごもってから答えた。
伊芙好奇地问道,克劳德犹豫了一下才回答。


「……ある方に、お前とチョコボは似ているな、と言われて。何となく愛着が湧くようになった」
“……有人说你和陆行鸟很像。不知不觉就对它产生了感情。”


 それを聞いて、イヴは思わず吹き出した。目の前に並ぶ青年とチョコボを見比べて、にっこり微笑む。
听到这话,伊芙忍不住笑出了声。她看着眼前并排站着的青年和陆行鸟,微笑着。


「あははっ!髪型ですか?クラウドさんもふわふわですもんね!」
“哈哈哈!是发型吗?克劳德先生的头发也很蓬松呢!”


 居心地の悪さを誤魔化すようにクラウドはチョコボを撫でながら、先程まで少女が熱心に語っていた話題に話を戻す。
克劳德抚摸着陆行鸟,掩饰着自己的不自在,把话题转回到刚才少女热情讲述的话题上。


「それにしても、遺跡か。たとえば古代の魔法や武器が見つかったら、イヴはどうするんだ?」
“话说回来,遗迹啊。比如说,如果发现了古代魔法或者武器,伊芙会怎么做?”

「どうする……ですか?」
“怎么做……吗?”

「遺物を解析して技術が発展すれば、外界にも自由に行けるようになるかもしれない。さらに有益な遺跡が見つかるかもしれない。……やがて、もっと自由に生きたい、神など必要ないと思うようになるかもしれない」
“如果解析遗物,技术得到发展,或许就能自由前往外界了。或许还能发现更多有益的遗迹。……总有一天,你或许会想更自由地生活,觉得神明根本不需要。”


 感情の読めない声音で淡々と問いかけるクラウドの、不敬とも言えるその言葉に驚いて、焦ったようにイヴは言葉を返す。
克劳德用听不出感情的平淡声音,问出了这番近乎不敬的话语,伊芙惊讶之余,焦急地回应道。


「まさか!神様と御使い様はずっと私たちを守ってきてくださいました。神様のいない国なんて想像できません」
“怎么会!神明大人和御使大人一直都在守护着我们。我无法想象一个没有神明的国家。”


 それから、もしも今よりさらに技術が発展したらどんな世界になるのだろうか、どんな未来になってほしいのだろうかと少し考えて、こう続けた。
接着,她又稍微思考了一下,如果科技比现在更加发达,世界会变成什么样子,她希望未来会变成什么样子,然后继续说道。


「古代の技術を再現して、外界の探索が自由にできるようになったら――うーん、海の向こう側にだって行けるようになるのかも。ここ以外にも他の国があるかもしれません。食べ物も習慣もきっと違うんでしょうね。持ってる技術も違うのかも。色んな人とお喋りして、仲良くなれたらすてきですね」
“如果能重现古代的技术,可以自由探索外界的话——嗯,也许就能去到大海的另一边了。这里以外可能还有其他的国家。食物和习俗肯定也不同吧。拥有的技术可能也不同。能和各种各样的人聊天,成为朋友的话,那真是太棒了。”


――神様と御使い様にも、そうして学んだ色々な歌や踊り、食べ物を捧げて楽しんで頂けるかもしれないし!
——也许还能将学到的各种歌曲、舞蹈和食物献给神明大人和御使大人,让他们也能享受其中!


 そう目を輝かせながら興奮に頬を染めて語るイヴの様子に、困ったようにクラウドが笑みを浮かべ、ぽつりと言葉をこぼした。
伊芙双眼闪闪发光,兴奋得脸颊泛红,滔滔不绝地讲述着,克劳德困扰地笑了笑,轻声说了一句。


「……みんながみんな、イヴみたいであってくれればいいけどな」
“……要是大家都能像伊芙你这样就好了。”

「え?」
“嗯?”

「何でもない。それより、友達のところに行かなくていいのか?研究所、もうすぐ閉まる時間だぞ」
“没什么。话说回来,你不用去朋友那里吗?研究所快要关门了。”


 そう指摘されて、イヴは慌てて腕時計を見る。研究所の入り口が閉まるまであと30分もなかった。急ぎではないが、興味があるし、行こうと思っていたのだから今日訪ねたい。
被他这么一提醒,伊芙赶紧看了看手表。离研究所大门关闭只剩下不到 30 分钟了。虽然不急,但她很感兴趣,既然打算去,今天就想拜访一下。


「本当だ!ありがとうございます。またお喋りしてくださいね、クラウドさん。それじゃあ、失礼します」
“真的!谢谢您。下次再聊吧,克劳德先生。那么,告辞了。”


 慌ただしく挨拶をして、イヴは急ぎ足でその場を去った。
伊芙匆忙打了个招呼,便急匆匆地离开了。






――あれから一年ほど経っただろうか。
——从那时起,大概过了一年了吧。


 イヴは物資の運搬を上司に言いつけられ、神様のいらっしゃる場所に近い神殿奥の倉庫を目指しながら、ぼんやりと歩いていた。
伊芙被上司吩咐运送物资,她一边漫无目的地走着,一边朝着神明所在之地附近的神殿深处的仓库走去。


 機会を見つけては友人を訪ねて話をせがんだところによれば、調査と解析を繰り返した結果、一年前に見つかったその遺跡には、発達した機械文明が眠っていたそうだ。
我找了个机会去拜访了朋友,缠着他给我讲了讲,据他说,经过反复的调查和分析,一年前发现的那个遗迹中,沉睡着一个发达的机械文明。


 現代で開発されたものよりも遥かに性能の良い銃火器や、恐らく施設の防衛に使われていたのであろう自動迎撃を行う機械、移動に使われていたのだろう車輪のついた機械。科学者達は休みも取らずに、運良く地下に埋まっていた遺物の解析に熱中したそうだ。
那里有性能远超现代开发的枪械,有可能是用于设施防御的自动拦截机械,还有可能是用于移动的带轮子的机械。科学家们不眠不休地沉迷于解析这些幸运地埋藏在地下的遗物。


 身を削るほどの情熱をつぎ込んだ研究が実り、いくつかの銃火器類や、移動用の機械――自動車、と呼ぶそうだ――が再現された。それが半年ほど前のことだった。それらの道具が調査隊の生存率と探索効率を引き上げたことで、さらに遠距離への調査隊の派遣を可能とした。
他们倾注了巨大的热情进行研究,并成功地复制出了一些枪械和移动机械——据说那叫汽车。那大约是半年前的事了。这些工具提高了调查队的生存率和探索效率,使得他们能够派遣调查队前往更远的距离。




 人類は自分たちで外敵から身を守ることができるようになり、外界を探索し、古代の技術の一端をも再現できるようになった。数十年の時をつぎ込んで達成されたその進歩はただただ喜ばしいことであるはずなのに、何か言いようもない気持ちの悪い熱気がこの頃から人々の間に流れ始めていた。
人类开始能够自己抵御外敌,探索外界,甚至能够重现古代技术的一部分。耗费数十年才取得的这些进步本应是令人欣喜的,但从那时起,一种难以言喻的令人不适的热潮开始在人们之间蔓延。


――歴史を、古代技術をもっと知りたい。
——想要了解更多历史,更多古代技术。

――かつての人類が持っていた文明を取り戻したい。
——想要取回人类曾经拥有的文明。

――自分たちにはそれができるはずだ。
——我们应该能做到。




 敢行された幾つかの長距離遠征のうちの一つで、さらに遺跡が発見された。損壊と風化が激しく機械や魔法などの遺物は見つからなかったそうだが、地下に建築された建物の中から蔵書や日記、論文が見つかったらしい。解読された日記から、その遺跡はミッドガルという名であったことが報告された。遺跡の規模の大きさから、研究施設を有する古代の大都市だったのではと推測されている。
在几次长距离远征中的一次,又发现了新的遗迹。据说损毁和风化严重,没有找到机械或魔法等遗物,但在地下建筑中发现了藏书、日记和论文。根据被解读的日记,报告称该遗迹名为米德加尔。从遗迹的规模来看,推测它可能是一个拥有研究设施的古代大都市。


 解析された蔵書には、地中には魔晄と呼ばれるエネルギーが存在し、そのエネルギーこそが古代文明の立役者であった旨が記されていた。幸か不幸か、そのエネルギーを取り出す方法とともに。飛び上がらんばかりに喜んだ科学者達は、国の一画にそれらの技術を再現した工場を建てることを王に提案した。
被解析的藏书中记载着,地底存在着一种名为魔晄的能量,正是这种能量造就了古代文明。也不知是幸还是不幸,书中还记载了提取这种能量的方法。科学家们欣喜若狂,向国王提议在国家的一隅建造一座工厂,以重现这些技术。




 王は、技術の発展は国をさらに豊かにするだろうと諸手を挙げて賛成した。
国王举双手赞成,认为技术的发展将使国家更加富裕。

 神は、それを認めなかった。
神明不认可。

 そのエネルギーは神のみが触れていいものであり、人類が手を出すことは許されない、と神は仰せられた。
神明谕示,那种能量只有神明才能触碰,人类不被允许染指。




「(神様がそう仰せられたならば、それは絶対であるべきだ。今までも、これからだってそうであるはずだった)」
“(如果神明如此谕示,那便是绝对的。过去如此,未来也理应如此)”


 技術の発達も国の繁栄も、すべて数百年間の神様の加護があったから可能だったのに、とイヴは泣き出したい気持ちになりながら思う。
伊芙想哭,她觉得技术的发展和国家的繁荣,都是因为几百年来神明的庇佑才得以实现。


 時を経て人々は神への畏怖を忘れかけている。国に蔓延する気味の悪い熱気は、傲慢さを帯びてきた。魔晄と呼ばれるエネルギーを利用する技術の再現を禁じられ、国民の間に不満が広がっていた。
时光流逝,人们渐渐忘记了对神的敬畏。弥漫在国家中的诡异热潮,带着傲慢的气息。利用魔晄能源的技术被禁止重现,国民间的不满情绪蔓延开来。

 

――自分たちの身は自分たちで守れる。
——我们能保护自己。

――神は技術の発展を妨げようとする。
——神明试图阻碍技术发展。

――神は必要なのか。
——神明是必要的吗?


 イヴは、その何かが弾けてしまいそうな空気が、神様への感謝を忘れてしまったような考え方が恐ろしかった。だけど、ただの見習い神官に何ができるわけでもなく、取り返しのつかないことになるのではないかという予感と恐怖だけを抱えて鬱々と過ごしていた。
伊芙对这种仿佛随时会爆发的氛围,以及这种忘却了对神明感恩的想法感到恐惧。然而,她只是个见习神官,什么也做不了,只能怀揣着一种不可挽回的预感和恐惧,郁郁寡欢地度日。




 思考に沈んでいたイヴは、目的地まであともう一つ角を曲がるだけ、という段階になって、ふと違和感を覚えた。
沉浸在思绪中的伊芙,在距离目的地只剩一个转角的时候,忽然感到一丝异样。


「(警備員さん達、いない……?)」
“(警卫们,不在……?)”


 普段なら回廊を巡回している警備と今日は一度もすれ違っていない。各部屋の前に立っているはずの警備員がいない。奥に向かうほど警備は厳しくなるはずなのに、と怪訝に思いながら、イヴは目的地の倉庫の扉を開けた。
平时走廊里巡逻的警卫今天一个也没遇到。本该站在各个房间门口的警卫也不在。明明越往里走警卫应该越森严,伊芙一边感到奇怪,一边打开了目的地仓库的门。


「ひっ――!いやあああ!!」
“啊——!不要啊啊啊!!”


 開けた瞬間、血の匂いがむわっと押し寄せてきた。腹部から血を流した死体、首のない身体、ありえない方向に首がねじ曲がった死体――。警備員だったはずのモノの山を目にして、イヴは悲鳴を上げた。
门一打开,血腥味就扑面而来。腹部流血的尸体、无头的身体、脖子扭曲成不可能角度的尸体——。看到堆积如山的、本该是警卫的东西,伊芙尖叫起来。


「何、なんで、何が起こって……、誰か!誰か来てください!!」
“什么,为什么,发生了什么……!谁来人啊!!”


 パニック状態で叫ぶが、人が来る気配はない。イヴは恐怖と混乱に泣きじゃくりながら、周囲の部屋の扉を開けていくが、空っぽか、事切れた死体しかそこにはなかった。ここにいると自分も殺されるかもしれない、と死の予感にゾッとした。そこにいるのが怖くて、逃げ出したくて、イヴは錯乱したまま闇雲に走った。
她陷入恐慌,大声尖叫,却没有人过来的迹象。伊芙在恐惧和混乱中哭泣着,打开周围房间的门,但里面要么空无一人,要么只有冰冷的尸体。她感到一阵死亡的预感,如果留在这里,自己也可能会被杀。她害怕待在那里,想要逃跑,伊芙在错乱中盲目地奔跑。


 はっと僅かながら正気に返って足を止めたときには、出口と真逆、神殿の奥の奥、神の間に続く道に辿り着いていた。くらくらするほどの血の匂いに、吐きそうになる。廊下にはそこら中に血が飛び散っていた。先程の回廊よりも酷い光景に、はっと気づいた。
当她猛然清醒过来,停下脚步时,发现自己已经来到了与出口完全相反的方向,神殿的最深处,通往神之室的道路上。浓烈的血腥味让她头晕目眩,几乎要吐出来。走廊上到处都是飞溅的鲜血。比刚才的回廊更糟糕的景象让她猛然意识到。


「(まさか……神様を害しに来た……?)」
“(难道……是来伤害神的……?)”


――なんて愚かな!
——何等愚蠢!


 神様は絶対的な力をお持ちで、人類はそれに縋って今まで生きてきたというのに。イヴは、絶望と怒りに眩暈を覚えながら、震える手で神の間に続く扉を開いた。
神明拥有绝对的力量,人类至今为止都依附着神明而活。伊芙在绝望与愤怒中感到眩晕,她颤抖着手打开了通往神殿的门。


 剣と銃で武装した男たちがいた。彼らの前に、代表者と思しき男が肩を怒らせながら立ち、階段の上、玉座に足を組んで座る男を睨みつけていた。
里面有手持刀剑和枪械的男人们。在他们面前,一个看似代表的男人怒气冲冲地站着,瞪视着坐在阶梯上、翘着腿坐在王座上的男人。


 ああ――あれが、神様。イヴはひゅっと息をのみ、瞬きも忘れて己の仕えてきた神の姿を見つめた。
啊——那就是神明。伊芙倒吸一口气,忘记了眨眼,凝视着自己所侍奉的神明的身影。

 

 美しく流れる銀色に輝く長い髪。彫刻のような筋肉に包まれた大きな身体。見るものに畏怖を抱かせる冷たい美貌。内から光り輝くような不思議な色合いの瞳は、よく見ると人ならざる形の瞳孔を囲んでいた。切れ長の目が、侮蔑するように人間たちを睥睨していた。
他那头银色的长发如瀑布般倾泻而下,闪耀着光芒。高大的身躯被雕塑般的肌肉包裹着。冷峻的容貌令见者心生敬畏。他那双仿佛由内而外散发着光芒的奇特瞳孔,仔细看去,会发现其瞳仁并非人类的形状。狭长的眼睛轻蔑地俯视着人类。


「――それで?」
“——所以呢?”


 初めて聞いた神様の声は、その場で膝を折りたくなるような甘い重低音だった。あの方は偶像化されるのを好まないから、と言ったいつかのクラウドの言葉に今更納得がいった。畏ろしくてたまらないのに、一瞬たりとも目をそらすことができない存在感と、それにふさわしい完璧な造形美。姿を残すことを許せば、絵画に彫刻、詩歌に歌唱、あらゆる手段でこの存在を表現し、想わずにはいられなくなるだろう。
第一次听到神明的声音,是那种令人忍不住当场跪下的甜美低音。此刻,我才终于明白克劳德曾说过的那句话——“那位大人不喜欢被偶像化”。他令人敬畏不已,却又拥有着让人一刻也无法移开视线的存在感,以及与之相称的完美造型美。如果允许他留下影像,人们一定会用绘画、雕塑、诗歌、歌唱,用尽一切手段来表现他的存在,并情不自禁地为之倾倒。


「……っ、我々は、人類は、もはや神を必要としない!自らの足で歩いて行ける!」
“……呃,我们,人类,已经不再需要神明了!我们可以靠自己的双脚走下去!”

「なんてことを!私たちが今まで生きてこられたのは、神様のご加護があったからではないですか!!」
“你这是什么话!我们之所以能活到现在,不正是因为有神的庇佑吗?!”


 男が吐いたあまりにも愚かな言葉を聞き、血の気が一気にひいた。神様は絶対だ。その怒りを買えばどうなるか想像もつかない。イヴは半ば裏返った声で叫んだ。男たちはたった今その存在に気付いたと言うようにイヴのほうを向いた。イヴの言葉を受けて、血走った目で男が叫んだ。
听到男人说出如此愚蠢的话语,我瞬间血气上涌。神是绝对的。惹怒了神会有什么后果,我简直无法想象。伊芙的声音几乎变了调,尖叫起来。男人们像是刚刚才注意到她的存在一般,齐刷刷地看向伊芙。伊芙的话音刚落,那个男人便红着眼睛吼道:


「ガキでも立派な狂信者か!!神に神官ども、お前らがいるせいで自由が妨げられる。技術を発展させることの何が問題だ。もともと持ってた文明を取り戻そうとすることの何が悪い。王は俺たちに賛同した。自由を制限するだけの神なら消えてくれ!!」
“连个小鬼都是个狂信徒吗?!神也好,神官也罢,都是因为你们,我们的自由才被妨碍。发展技术有什么问题?夺回我们原本拥有的文明有什么错?国王都赞同我们了。如果神只会限制我们的自由,那就请消失吧!!”


「……ほう?やってみるといい」
“……哦?你大可以试试。”


 唇に嘲笑を浮かべて、神様はただそう言った。こんなことが起きてはならない、と焦燥感に急き立てられ、イヴは神様を庇うように背を向け、男たちの前に身を投じた。通せんぼをするように両腕を広げ、懸命に叫ぶ。
神明唇边浮现嘲讽的笑容,只是如此说道。伊芙被“绝不能让这种事发生”的焦躁感驱使,背过身去护住神明,将自己投向男人们面前。她张开双臂,像是在阻拦一般,拼命地大喊。


「やめてください!」
“住手!”

「かかれ!!」
“拿下她!!”


 イヴが叫ぶのと同時、男が号令をかけた瞬間。神の間の天井から壁、男たちの足を巻き込み、部屋の床全体に至るまで冷たい氷に覆われ、世界が凍りついた。イヴは伝承を思い起こした。神様と御使い様は、自然現象を自由に操るのだという。男たちは魔法のようなその光景にうろたえ、叫ぶ。
伊芙大喊的同时,男人下达号令的瞬间。神之殿堂的天花板、墙壁,乃至男人们的脚下,整个房间的地板都被冰冷的寒冰覆盖,世界冻结了。伊芙回想起传承。据说神明和御使大人,能够自由操控自然现象。男人们被这魔法般的光景吓得惊慌失措,大声尖叫。


「なっ!何をした!」
“你、你做了什么!”


 廊下から、カツリ、カツリと不気味にゆったりと響く足音が聞こえる。部屋の入口を見ると、壮絶な美しさを持つ黒衣の男が血まみれで立っていた。手には青く透き通った刀身を持つ、身の丈ほどもある大剣をごくごく自然にぶらさげていた。赤く染まった髪の色は分からない。けれどイヴはそれが優しい金色なのだと知っていた。普段着用している色眼鏡はどこかに消えていた。目を伏せ、憂いを帯びた表情を浮かべている。
走廊里传来“咔嚓、咔嚓”的脚步声,不祥而缓慢。伊芙望向房间入口,只见一个身着黑衣的男人站在那里,他美得惊心动魄,浑身是血。他手里自然地垂着一把与他身高相仿的巨剑,刀身呈半透明的蓝色。他那被染红的头发,伊芙不知道它原本是什么颜色,但她知道那是温柔的金色。他平时戴的墨镜不知去向。他垂着眼,脸上带着忧郁的表情。


「……クラウド、さん?」
“……克劳德,先生?”


 イヴは口の中だけで呟いた。いつも見かけていた、チョコボとたわむれている穏やかな雰囲気の青年とは別人のようだ。血にまみれているというのに目を惹きつけてやまない美しさ。死神のように見る者の恐怖をかきたてる雰囲気。まるで、つい先ほど初めて目にした神様のようではないか。
伊芙只是在嘴里低声念叨着。他看起来就像是另一个人,与她平时见到的那个与陆行鸟嬉戏的温和青年判若两人。尽管浑身是血,他的美丽却依然令人着迷。他散发出的气息如同死神一般,令人心生恐惧。这不就像是她刚才第一次见到的神明吗?


 黒衣の青年は伏せていた目を上げ、男たちを睥睨する。何にも隠されていないその目は、人ならざる瞳孔を持ち、うっすらと緑とも青ともつかない光を発していた。神様と、まったく同じ瞳――。彼がどんな存在であるのかを悟ったイヴは戦慄に息をのみ、胸を押さえた。
黑衣青年抬起低垂的眼,睥睨着那些男人。那双毫无遮掩的眼睛,有着非人的瞳孔,散发出微弱的、介于绿与蓝之间的光芒。和神明一模一样的眼睛——伊芙领悟到他的存在,因战栗而屏住呼吸,捂住了胸口。


「ぁ、あ……御使い、様」
“啊,啊……神使大人。”

 

 クラウドが剣を振るった瞬間に男たちの首が一斉に飛び、血が噴き出るのを呆然と目に映しながら、イヴは震える声で呟いた。剣をぶら下げたまま、クラウドが玉座へと続く階段へ近付いてくる。恐怖に腰が抜け、イヴはその場に崩れ落ちた。
克劳德挥剑的瞬间,男人们的头颅齐刷刷地飞起,鲜血喷涌而出。伊芙呆滞地看着眼前的一切,颤抖着声音喃喃道。克劳德垂着剑,走向通往王座的阶梯。伊芙吓得腿软,瘫倒在地。

 クラウドはそんなイヴが見えないかのように玉座のすぐ傍まで進み、神の前で敬虔な仕草で膝をついた。
克劳德仿佛没有看见伊芙一般,径直走到王座旁,在神明面前虔诚地跪下。


「遅くなって、すみません。セフィロス」
“抱歉,我来晚了,萨菲罗斯。”

「クラウド、何をしていた」
“克劳德,你刚才在做什么?”


 どこか面白がるような声音で、神は御使いに語り掛ける。膝をついたままの姿勢で、上目遣いに視線を合わせながら御使いが答える。
神明以一种仿佛在寻开心的语气,向他的使者问道。使者仍旧跪在地上,他抬眼与神明对视,然后回答道:


「王族を、片付けてきました。神に従わない王は、存在する価値がありません」
“我把王族处理掉了。不顺从神的王,没有存在的价值。”

「私は、そうしろと命令したか?」
“我命令你这么做了吗?”


 淡々と神が問う。ピクリ、とクラウドの肩が揺れた。
神明冷淡地问道。克劳德的肩膀颤抖了一下。


「っ、いいえ……。すみません」
“唔,没有……对不起。”


 落ち込んでいることが聞いた瞬間に察せられる、力のない声音でクラウドは返答する。
克劳德用无力的声音回答道,一听就知道他很沮丧。


「構わない」
“无妨。”

「……これから、どうしますか?」
“……接下来,您打算怎么做?”

「ライフストリームに手を出されると煩わしい。この国を潰して、また世界を巡ろうか?」
“生命之流要是被动了手脚,会很麻烦。要不把这个国家毁了,再周游世界?”


 そう神が冷淡にこぼす言葉を耳にして、イヴはただ震えることしかできなかった。私たちは、神の怒りを買ったのだ。
听到神明冷淡地吐出这些话语,伊芙除了颤抖什么也做不了。我们,惹怒了神明。


 その時、神は何かを思い出したかのように唇を歪めて、優しげに御使いに語り掛けた。
那时,神明像是想起了什么,嘴角勾起一抹弧度,温柔地对天使说道。


「ああ、だがお前は時々好んで外に出ていたな。そこの娘も知り合いなのだろう?ここで人と共に生きたいというなら止めはしない」
“啊,但你有时也喜欢外出。那里的女孩你也认识吧?如果你想在这里与人一同生活,我不会阻止你。”


「っ、俺にとってはあなたが全てです!きっとあなたの役に立ちます、セフィロス。置いて行かないでください…」
“唔,对我来说您就是一切!我一定会对您有用的,萨菲罗斯。请不要抛下我……”


 顔を白くさせ、怯えたようにクラウドが返した。彼は御使い様だったのだから、神様の部下として忠義を尽くそうとするのは理解できる。けれど、イヴの知っている、いつだって穏やかな落ち着いた大人であったクラウドからは、そんな風に誰かに縋る態度は想像できなかった。まるで、知らない人になってしまったようだった。
克劳德脸色发白,像是受了惊吓般回应道。他曾是天使大人,所以想要作为神明的部下尽忠,这可以理解。然而,在伊芙的印象中,克劳德一直是个沉稳冷静的成年人,她无法想象他会以那种方式去依赖某人。他仿佛变成了另一个人。


「クックック……良い子だ、クラウド。共に行こうか」
“咯咯咯……好孩子,克劳德。我们一起走吧。”


 跪いて縋るように己を見つめるクラウドの姿を見て、神は満足そうに笑いながらそう言った。
神明看着跪在地上,仿佛在乞求般凝视着自己的克劳德,满意地笑着说道。


「っはい!」
“是、是的!”


 喜びと安堵を隠さず、クラウドはほっとしたように僅かに口角を上げ、そのままゆっくりと顔を伏せて神の足に口付けた。状況を忘れて見惚れてしまうほどに、背徳的な、美しい絵画のような光景であった。その様子を静かに見つめてから、神は御使いの腕を引っ張って起こし、自らが汚れるのを全く気にする様子なく、背と膝の裏に腕を回して彼を丁寧に抱えあげた。クラウドは、頬に朱を上らせて、照れと喜びが混じり合ったような表情ではにかむ。
克劳德毫不掩饰自己的喜悦与安心,他松了口气般地微微扬起嘴角,随即慢慢低下头,亲吻了神明的脚。那是一幅背德而美丽的画面,美得让人忘记了身处的境况,沉醉其中。神明静静地凝视着他,随后拉起使者的手臂,将他扶起,丝毫不在意自己会弄脏,将手臂环绕在他的背部和膝弯处,小心翼翼地将他抱了起来。克劳德的脸颊泛起红晕,带着羞涩与喜悦交织的表情,腼腆地笑了。


「まずはその返り血を洗い落とした方が良さそうだ」
“你最好先把你身上的血迹洗掉。”

「はい、分かりました」
“好的,我知道了。”


 そのまま神と御使いは膝をついたイヴを通り過ぎ、ゆっくりと部屋を出て行った。神の腕の中で、心を奪われたかのように神だけを見つめるクラウドの瞳に、最後までイヴが映されることはなかった。
神明和御使就这样越过跪在地上的伊芙,慢慢地走出了房间。在神明的怀抱中,克劳德的眼中只有神明,仿佛被夺走了心智一般,直到最后,伊芙也未能映入他的眼帘。




 ただ1人血まみれの部屋に残されたイヴは、いつもそうしていたように祈りの形に手を組んだ。けれど、その祈りを捧げるべき神を私たちは失ってしまったのだ。少女は、ただこれから襲い来るであろう未来の絶望を想い、静かに涙を流した。 
伊芙独自一人留在血迹斑斑的房间里,像往常一样双手合十,摆出祈祷的姿势。然而,我们已经失去了那个应该献上祈祷的神明。少女只是静静地流着泪,想着即将降临的绝望未来。






バッドエンドif 主従SC #2
巴德结局 if 主从 SC #2

神を失った日 おまけ
失去神明之日 附赠

5,092 文字
5,092 字

セフィロス視点で主従の会話。
以萨菲罗斯视角展开的主从对话。

神を失った日(novel/13207474)のおまけです。モブ視点だとあまり2人のことが書けなかったので、いちゃいちゃさせたくて書きました。
这是《失去神明之日》(novel/13207474)的番外。因为以路人的视角写不出太多关于他们两人的内容,所以想写一些他们亲昵的互动。




 抱きかかえたクラウドの髪のひと房から赤黒い液体がぽたり、と滴り落ち、廊下に血痕を残す。髪が色を変え、体中が血に染まるほどの返り血。一体どれだけの血を浴びてきたのかといっそ愉快な気持ちになりながら、私室から繋がる浴場へと向かう。セフィロスは脱衣所を抜けてそのまま浴室へと進み、腕の中に行儀よく収まっていた体をゆっくりと洗い場の椅子に座らせた。
抱在怀里的克劳德的一缕头发上,滴落着一滴滴红黑色的液体,在走廊上留下血迹。头发变了颜色,全身都被血染透,沾满了飞溅的血。我甚至有些愉快地想着,他到底沾染了多少血,然后走向连接着私人房间的浴室。萨菲罗斯穿过更衣室,直接走进浴室,将乖巧地待在他怀里的身体慢慢地放在洗浴区的椅子上。


「ありがとうございます」
“谢谢您。”


 照れたように目を伏せて礼を言うクラウドの声を聞きながら、湯の張られていない空っぽの風呂場に適当にブリザガとファイガを打って水を張り、湯の温度を調整する機能の電源を入れた。長く暮らしたこの国で、いつの間にか人類が築いていた湯につかる文化は、メテオ前の世界では馴染みのないものであったが、悪くなかった。神様と御使い様に楽しんで頂けるように、と言って神官が用意した無駄に広い風呂だから、適温になるまで多少時間がかかるかもしれない。まあ、のんびり体を洗っているうちに温まるだろう――。そこまで用意を済ませると、セフィロスはクラウドの前にすっと膝をつき、片足ずつ自分の膝に乗せるように持ち上げて恭しく靴を脱がせ、浴室の隅に放り出した。靴も服も酷く血に汚れているから、廃棄して新しいものを使う方がいいだろう。
听着克劳德有些害羞地垂下眼睛道谢的声音,我在没有放水的空浴缸里随意地施放了冰封和烈火魔法,然后打开了调节水温的功能。在这个生活了很久的国家里,人类不知不觉中建立起来的泡澡文化,在陨石坠落前的世界里是陌生的,但也不坏。神官们为了让神明和使者大人享受而准备的这个宽敞得有些过分的浴室,可能需要一些时间才能达到合适的温度。嘛,在悠闲地洗澡的时候,水应该就会变热了吧——。准备好这些后,萨菲罗斯在克劳德面前轻轻跪下,恭敬地将他的双脚逐一放在自己的膝盖上,脱下他的鞋子,然后扔到浴室的角落里。鞋子和衣服都沾满了血,最好是丢弃掉,换上新的。


「……!?セ、セフィロス!俺、自分でしますから……」
“……!?萨、萨菲罗斯!我自己来就行了……”


 唖然として素直に靴を脱がされていたクラウドは、正気に返ったのか、焦ったように止めようとするが、セフィロスは取り合わずに作業を続けた。両足を裸足にさせた後は、トップスのジッパーに手をかけ、慣れた手つきで服を脱がせていく。黒なので色こそ変わらないが、血を吸って重みを増していたそれらを、靴と同じあたりに放っておいた。落ち着かないように体を固くするクラウドに構わず、手際よくボトムスと下着も剥ぎ取り、生まれたままの姿にさせた。
克劳德目瞪口呆地顺从地脱下鞋子,回过神来后,焦急地试图阻止,但萨菲罗斯不予理会,继续着手上的动作。让克劳德双脚赤裸后,他将手伸向克劳德上衣的拉链,熟练地将衣服脱下。虽然衣服是黑色的,颜色没有变化,但它们吸饱了血,变得沉重,萨菲罗斯将它们和鞋子一起扔在旁边。克劳德不安地僵硬着身体,萨菲罗斯却不顾他,麻利地剥下他的裤子和内衣,让他一丝不挂。


「座っていろ」
“坐着。”


 一声かけて浴室の外に出ると、セフィロスは自分の靴と服をさっさと脱ぎ、脱衣所に置いた。髪は邪魔になるので紐でまとめて上にあげておく。一枚タオルを取って浴室に戻ると、シャワーの栓をひねり、出てくる湯の温度を確かめた。人肌より少し温かい温度であることを確認すると、セフィロスは再度クラウドのそばに膝立ちになる。
萨菲罗斯说了一声,走出浴室,迅速脱下自己的鞋子和衣服,放在更衣室里。他用绳子把头发扎起来,盘到头顶,以免碍事。他拿了一条毛巾回到浴室,拧开淋浴水龙头,确认水温。确认水温比体温稍高后,萨菲罗斯再次跪在克劳德身边。


「えっ?あの……!」
“诶?那个……!”

「目を瞑らないと、水が入るぞ」
“不闭上眼睛的话,水会流进去的。”


 狼狽するクラウドの額を軽く押すようにして頭を気持ち後ろに倒させて、髪をシャワーで濡らしていく。流れ落ちる水が毒々しい赤茶色から透明になり、地毛の金色が戻ってくるまで根気よくシャワーを当ててゆすぎ続けた。その引き締まった身体を汚す赤色も、同様にしておおまかに流しておいた。顔に付着した血は、湯で濡らしたタオルで軽く拭う。クラウドは目を閉じ、体を強張らせながらそれらを受け入れていた。セフィロスに世話されるがままの状態なのが恥ずかしいのか、せっかく血を落としたというのに耳まで赤く染まっているのが愛らしかった。
轻轻按住慌乱的克劳德的额头,让他的头稍稍向后仰,然后用花洒打湿他的头发。耐心持续地用花洒冲洗,直到流下的水从刺眼的红褐色变得透明,他原本的金发也恢复了颜色。同样地,他那健壮身体上沾染的红色也被大致冲洗干净。脸上附着的血迹,则用热水浸湿的毛巾轻轻擦拭。克劳德闭着眼睛,身体僵硬地接受着这一切。也许是因为被萨菲罗斯照顾得无地自容,他那好不容易洗净血迹的耳朵又染上了红色,显得格外可爱。


 一通り血を流し終わった後、クラウドの後ろに回り、手にシャンプーをのせて髪を洗ってやる。湯で流すといつもの明るい髪色に戻っているのを確認して、満足した。クラウドの癖の強い髪に対してどれだけの意味があるのかは分からないが、一応トリートメントもつけておく。
彻底冲洗完血迹后,萨菲罗斯绕到克劳德身后,将洗发水倒在手上,为他洗头。用热水冲洗后,确认头发恢复了往常的亮丽发色,萨菲罗斯感到很满意。虽然不知道对于克劳德那顽固的发质有多大作用,但还是给他涂上了护发素。


「……ありがとう、ございます。後は自分で――っ」
“……谢谢您。剩下的我自己来——!”

「今更恥ずかしがることはないだろう」
“事到如今,你也没必要害羞了吧。”


 裸は見慣れているし、情事で汚れた体を清めてやることも少なくない。言葉が見つからない様子のクラウドを横目にボディーソープを手に取り、セフィロスはてきぱきとクラウドの全身を清めていく。
他早已看惯了赤裸的身体,也曾多次为情事后污秽不堪的身体进行清洁。萨菲罗斯瞥了一眼似乎找不到词语的克劳德,拿起沐浴露,麻利地为克劳德清洗全身。


「うわっ!そんなところ、自分で洗いますから!」
“哇!那种地方,我自己会洗的!”

「動くな。洗いにくい」
“别动。不好洗。”


 控えめに身じろぐ体を押さえながら、首の裏から足の指の一本一本まで、クラウドの全身に手を這わせて泡で覆いつくし、シャワーで流す。引き締まった体、白く抜けるような肌に水が流れ落ちていく様が美しかった。
他轻轻地按住克劳德挣扎的身体,从脖颈后方到脚趾的每一寸,用手抚遍克劳德全身,用泡沫覆盖,再用淋浴冲洗。水流淌过他紧致的身体和苍白的肌肤,那景象美不胜收。


「顔は自分で洗え」
“脸自己洗。”

「……っ、……はい」
“……嗯、……好。”


 顔を真っ赤にしつつ言われた通りに顔を洗い始めるクラウドを見ながら、セフィロスは自身の身体を手早く洗い、クラウドを抱き上げたときに体に付着した血を落とした。髪は一度濡らすと乾かすのが面倒なので、後でいいだろう、とまとめ上げたままにしておく。
看着克劳德涨红着脸,听话地开始洗脸,萨菲罗斯则迅速洗净自己的身体,洗去抱起克劳德时沾染的血迹。头发一旦弄湿,吹干就很麻烦,所以他让头发保持盘起的状态,想着之后再处理。


 身体を洗い終えたところでシャワーの栓を締める。風呂に片手を入れて温度を確かめてみると、若干ぬるいが浸かるのに支障はなさそうだ。座ったまま戸惑ったようにセフィロスを見上げるクラウドを、風呂場に来た時と同様に横抱きにして共に湯舟へと移動した。
洗完身体后,他关上淋浴器。将一只手伸进浴缸试了试水温,虽然有点凉,但泡澡应该没问题。他像来浴室时一样,横抱着坐在那里不知所措地仰望着他的克劳德,一起进入了浴缸。


 セフィロスは足を広げて壁にもたれるようにして座り、自身の足の間にクラウドを下ろして後ろから抱きしめるような体勢を取った。大剣を振り回す筋力を秘めているとは思えないクラウドの細い腰に両腕をまわし、密着するように抱き寄せる。なめらかなその肌の感触と、湯に包まれる心地よい感覚を目を閉じて楽しんでいると、不意にクラウドがぽつりと呟いた。
萨菲罗斯岔开腿,靠着墙坐下,让克劳德坐在自己的双腿之间,摆出从身后抱住他的姿势。他用双臂环住克劳德纤细的腰肢,那腰肢看起来完全不像能挥舞大剑的样子,然后将他紧紧抱在怀里。他闭上眼睛,享受着那光滑肌肤的触感和被热水包围的舒适感,突然,克劳德轻声地嘟囔了一句。


「……さっきはすみませんでした、セフィロス。勝手に王族を殺して」
“……萨菲罗斯,刚才对不起。我擅自杀了王族。”


 目を開けると、自分の肩越しに振り返ったクラウドが、怯えたような、叱られるのを待つような顔でこちらを見ていた。
我睁开眼睛,看到克劳德从我肩头回过头来,用一种受惊又像在等待责骂的表情看着我。


「構わない、と言ったはずだ。私のためにそうしたのだろう?血に塗れたお前も悪くなかった」
“我不是说了没关系吗?你是为了我才那么做的吧?浑身是血的你也不赖。”

「だけど、俺のこと、置いて行くって……」
“可是,你却说要抛下我……”


 何を気にしているのかと思えば、先程のやり取りが引っかかっているらしい。メテオを落とす際に、手間と時間をかけて自我を砕いてやったこの青年は、アイデンティティも信じられる記憶も人間関係も全てを見失い、自身がセフィロスコピー?インコンプリートであるという事実だけに縋って生きてきた。
我还在想他在担心什么,原来是刚才的对话让他耿耿于怀。这个青年在陨石坠落时,我费尽心力地粉碎了他的自我,他因此失去了所有的身份认同、可信的记忆和人际关系,仅仅依靠着自己是萨菲罗斯的复制品(不完全)这一事实而活。


 セフィロスの役に立てないのならば生きる価値がないとでも思っているかのように、クラウドは哀れなほどに必死で尽くした。セフィロスに歯向かう敵に対しては冷酷に対処し、憎悪さえ感じる苛烈さで排除した。クラウドは忘れているだろうが、彼は元々はソルジャーになれなかったただの一般兵であった。クラウドの捨て身の献身は、人一倍自己肯定感が低く、誰かに認められたい気持ちが強いせいもあるのだろう。セフィロスに縋るように依存しきって生きる、健気で儚い人形は可愛らしかった。
克劳德拼命地奉献着自己,可怜到仿佛在说,如果不能帮助萨菲罗斯,他便没有活着的价值。他冷酷地对待那些反抗萨菲罗斯的敌人,以一种甚至能感受到憎恨的激烈方式将其清除。克劳德可能已经忘记了,他原本只是一个未能成为战士的普通士兵。克劳德这种不顾一切的奉献,或许也源于他比常人更低的自我肯定感和渴望被认可的强烈愿望。他像依附萨菲罗斯般完全依赖地活着,这个坚强而脆弱的人偶是如此可爱。


 この国に住むようになり、セフィロス以外の他人とも関わるようになると、クラウドは表面的には自我を砕かれる前と似た振る舞いをするようになった。確固とした記憶がなくとも、生来の性格、本質的な性質というものはどこかに刻まれているのかもしれない。あるいはただ、かつての経験を元に、対人用の人格を演じているだけなのかもしれないが。年を経たためか、以前よりも僅かに人当たりは良くなったようだ。ここ十年くらいは、先程絶望の眼差しで見上げてきた少女を筆頭に、少数の親しい人間と穏やかな表情を浮かべて話している姿をよく目にした。人との関わりと時の流れが精神状態を改善させたのかとも思ったが、セフィロスに関わることになると自我を砕いた直後と変わらぬ状態に戻るので、根本的なところは壊れたままなのだろう。
自从住在这个国家,并开始与萨菲罗斯以外的人接触后,克劳德表面上的行为举止变得与自我被摧毁之前相似。即使没有确凿的记忆,与生俱来的性格和本质或许也刻在了某个地方。又或者,他只是根据过去的经验,扮演着一个用于人际交往的人格。也许是因为年龄增长,他比以前稍微和蔼了一些。近十年来,人们经常看到他与少数亲近的人,尤其是刚才用绝望眼神仰望他的少女,平静地交谈。我曾以为人际交往和时间的流逝改善了他的精神状态,但一旦涉及到萨菲罗斯,他就会回到自我被摧毁后的状态,所以根本上他还是破碎的。


 ここに残っても構わない、と言ったのは、半分はクラウドの反応が見たいがための嗜虐心からであったが、もう半分は本心だった。人と関わることでクラウドの精神的な安定が得られるのならば、それもいいかと思っただけだ。どうせ自分もクラウドも寿命の枠組みからは外れている。ひと時離れたところで、最終的にはセフィロスの元以外にクラウドが帰るところはないのだから。
我说“留在这里也可以”,一半是出于虐待欲,想看看克劳德的反应,另一半则是真心话。如果与人交往能让克劳德获得精神上的稳定,那也无妨。反正我和克劳德都超出了寿命的范畴。即使暂时分开,克劳德最终除了萨菲罗斯身边,也没有其他归宿。


「怒って言ったわけではない。お前にとっては、今の国は居心地が良いだろうと思っただけだ。あの少女も、チョコボも、随分と世話を焼いてやっていただろう」
“我不是生气才这么说的。我只是觉得,对你来说,现在的国家会很舒适。你不是也对那个少女和陆行鸟照顾有加吗?”

「あの子は――酷く怖がらせてしまったから。きっと、俺を見るのも嫌でしょう……。それに、居心地が良いというなら、あなただってそうだったのではないですか」
“那孩子——被我吓得不轻。他肯定不想再见到我了……而且,如果你觉得这里很舒服,你难道不也是这样吗?”

「文明が発達すれば、いつかはこんな日が来ると思っていた。愛着がないわけではないが、また別の国に行けばいい」
“文明发展到一定程度,我早就料到会有这么一天。虽然并非毫无留恋,但再去别的国家就好了。”

「……置いていかないでください。あなたの役に立てないなら、俺は――」
“……请不要抛下我。如果我帮不上你的忙,我——”


 セフィロスの胸に自分の頬と手を寄せるように身体を傾け、クラウドが哀願する。セフィロスが投げかけた言葉は、予想以上にこの青年に動揺をもたらしていたようだ。セフィロスがいなければ生きていけないと言う、その重い依存が心地よかった。胸に寄せられたクラウドの柔らかな髪を片手でゆっくりと梳き、真下に見えるつむじに口付ける。縋るようにセフィロスの身体に置かれたクラウドの手を取って、指を一本一本絡めて握り合う。クラウドは元々童顔だが、チョコボのような髪が水に濡れて大人しく流れていると、より幼く中性的に見える。憂いを帯びた表情は神秘的な印象さえ与えるだろう。御使い様、と呼称されるのも納得だった。
克劳德将身体倾向萨菲罗斯,脸颊和手都贴在他的胸口,哀求着。萨菲罗斯说出的话,似乎比预想中更让这个年轻人感到不安。那种“没有萨菲罗斯就活不下去”的沉重依赖感,让萨菲罗斯感到很舒服。他用一只手慢慢梳理着贴在胸口的克劳德柔软的头发,亲吻着正下方能看到的头旋。他握住克劳德紧抓着自己身体的手,一根一根地缠绕着手指,紧紧相握。克劳德原本就长着一张娃娃脸,当他那像陆行鸟一样的头发被水打湿,乖顺地垂下时,显得更加稚嫩和中性。他那带着忧郁的表情,甚至会给人一种神秘的印象。被称作“御使大人”,也就不难理解了。


「共に行こうと言っただろう。あまり本気に取るな。お前は反応が素直だから、虐めたくなるだけだ」
“我说过要与你同行。别太当真。你反应太老实了,我只是想欺负你。”

「……はい。俺を、捨てないでください、セフィロス。あなたのためなら、何でもしますから」
“……是。请不要抛弃我,萨菲罗斯。为了你,我什么都愿意做。”

 

 クラウドのそんないじらしい言葉に思わず笑みが浮かぶ。どれだけの時を2人で共に過ごしたと思っているのだろうか。世界の滅亡を引き起こし、世界を巡って生物の進化を目撃し、人類が新たに文明を築いていくのを見守った。それでもなおひとかけらの自信も持てない哀れな青年が愛おしかった。セフィロスが抱く執着をクラウドは知らない。セフィロスは死ぬまで、あるいは死んだとしてもクラウドを手放す気はなかった。
克劳德如此惹人怜爱的话语,让萨菲罗斯不禁露出了笑容。他以为他们两人共同度过了多少时光呢?他们曾一起引发世界毁灭,周游世界目睹生物进化,并见证人类建立新的文明。即便如此,这个可怜的青年仍然没有一丝自信,这让他感到心疼。克劳德并不知道萨菲罗斯对他的执着。萨菲罗斯直到死,甚至即使死了,也从未想过要放开克劳德。

 セフィロスは、クラウドの脇に手を入れて彼の身体を浮かせると、顔が向き合う形になるように自分の膝の上にのせた。背に手をあてて軽く抱き寄せて、視線を合わせて語り掛ける。
萨菲罗斯将手伸到克劳德的腋下,将他抱起,然后放在自己的膝上,让两人的脸相对。他用手轻抚克劳德的背,将他轻轻抱入怀中,然后与他对视着说道。


「いつだったか、ここを抜け出して外を飛んでいたとき、海岸のそばに集落を見つけた。昔コスタ?デル?ソルがあったあたりだ。魔晄に関する資料と、解読に関わった科学者を処分したら、この国を発つ。随分長く陸に居たから、次は海の傍も悪くないだろう」
“不知什么时候,我从这里溜出去,在外面飞的时候,在海岸边发现了一个村落。就在以前哥斯达黎加太阳海岸的附近。等处理完魔晄相关的资料和参与解读的科学家,我就会离开这个国家。我已经很久没有待在陆地上了,下次在海边也不错。”


「そうですね。海は随分と懐かしいです」
“是啊。大海真是令人怀念。”


 これからの大まかな予定をセフィロスが語ると、嬉しそうにクラウドは無防備な笑みを浮かべた。そして逡巡するように目線を一瞬ななめに落とした後、伸びあがってするりと両腕をセフィロスの首にまわして抱き着いてくる。クラウドが自分から甘えるような行動を取るのは珍しい。セフィロスは少し驚きながらも、応えるようにクラウドの背に腕を回し、お互いの身体を密着させた。
萨菲罗斯说出大致的未来计划后,克劳德高兴地露出了毫无防备的笑容。然后他犹豫地将视线短暂地斜向下,接着伸长身体,轻巧地将双臂环绕在萨菲罗斯的脖子上,抱住了他。克劳德主动撒娇的行为很少见。萨菲罗斯虽然有些惊讶,但还是回应般地将手臂环绕在克劳德的背上,让彼此的身体紧密相贴。


「……セフィロス」
“……萨菲罗斯。”

「どうした、クラウド」
“怎么了,克劳德?”


 唐突に甘えた声で名を呼ぶクラウドにわずかに当惑していると、首筋に熱く湿った柔らかな感触があてられる。耳に口付けられ、首筋を舐めあげられた。誘うようにセフィロスに向けられる濡れたような瞳と、その官能的な仕草に背筋がぞくりとする。
克劳德突然用撒娇的声音呼唤着他的名字,让他有些困惑,这时,他感到脖颈处传来一阵湿热柔软的触感。他被亲吻了耳朵,脖颈也被舔舐着。那双湿润的眼睛诱惑地望向萨菲罗斯,那感性的举止让他脊背发凉。


「血にあてられたか?」
“是被血刺激到了吗?”


 クラウドはセフィロスの問いに答える代わりに肩に手をかけ、僅かに顔を傾けてそっと唇を塞いできた。したいようにさせていると、唇を割ってするりと入り込んできた舌が、柔らかく歯列をなぞり、セフィロスの舌を絡めとる。昔の物慣れない姿の面影のすっかり消えた技巧で、官能と興奮を引きずり出す濃厚なキスを与えられた。
克劳德没有回答萨菲罗斯的问题,而是把手搭在他的肩上,微微倾斜着头,轻轻地堵住了他的嘴唇。任由他为所欲为,舌头便滑过唇缝,轻柔地描摹着齿列,缠住了萨菲罗斯的舌头。他以一种完全没有了过去生涩影子的技巧,给予了他一个浓烈而充满感官刺激的吻,从中汲取着情欲与兴奋。

 銀糸を渡しながら惜しむように吐息を残して唇を離すと、クラウドは自分の体を押し付けるようにセフィロスにしなだれかかった。情欲を隠そうとしないとろりとした目でこちらを見上げる。
当唇瓣离开时,银丝在彼此之间牵扯,留下不舍的叹息,克劳德像要将自己压上去一般,软倒在萨菲罗斯身上。他用不加掩饰情欲的迷离眼神望着萨菲罗斯。


「続きが、したいです。……嫌ですか?」
“想、想继续……您讨厌吗?”

「お前に誘われて、嫌なはずがあるまい」
“被你引诱,我怎么会讨厌呢?”

 

 艶やかな声音に煽られ、クラウドの顎を上向けて再度口付けた。クラウドの息が上がり、縋りつくようになるまで、熱い口内を探り、舌を絡めて吸い上げる。唇を離すと、クラウドは顔を真っ赤に染めて息を弾ませた。
被那充满魅惑的声音煽动,萨菲罗斯抬起克劳德的下巴,再次吻了上去。他探索着克劳德炽热的口腔,舌头缠绕着吸吮,直到克劳德喘息不止,仿佛要依附上来。当唇瓣分开时,克劳德的脸颊涨得通红,呼吸急促。

 リンゴのように赤く染まったその顔を見て、セフィロスは苦笑しながらクラウドを腕に座らせるようにして抱き上げ、湯から上がる。
看到克劳德的脸红得像苹果一样,萨菲罗斯苦笑着将他抱起来,让他坐在自己的手臂上,然后从浴池中起身。


「のぼせてしまいそうだな。続きは、部屋でな」
“你快要泡晕了。剩下的,回房间再说吧。”

「――はい、セフィロス……」
“——好的,萨菲罗斯……”


 抱き上げられている間も離れたくないと言わんばかりに、セフィロスの首にクラウドの腕が絡められる。哀れで愛しい、世界でただ1人だけのセフィロスの半身。その存在の身も心も自らの手の内にある幸福に酔いながら、セフィロスはゆっくりと足を進めた。
即使被抱起来,克劳德的胳膊也缠绕在萨菲罗斯的脖子上,仿佛在说他不想分开。萨菲罗斯怜爱着他,这个世界上唯一属于萨菲罗斯的另一半。萨菲罗斯沉醉于将克劳德的身心都掌握在自己手中的幸福之中,缓缓地迈开了脚步。





バッドエンドif 主従SC #3
坏结局 if 主仆 SC #3

世界が終わった日
世界末日

12,287 文字
12,287 字

バッドエンドifでメテオが落ちる日の話です。残酷な表現、本編中の人が死ぬ場面がありますので、苦手な方はご注意ください。
这是坏结局 if 中陨石坠落那天的故事。有残酷描写,以及正篇中人物死亡的场景,不适者请注意。

インコンプリート状態のクラウドの話を書きたくて書きました。神を失った日(novel/13207474)につながる設定ですが、単体で問題なくお読みいただけると思います。全体的に暗いですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
这篇是想写写处于不完整状态的克劳德的故事。设定上与《失去神明之日》(novel/13207474)相连,但单独阅读也完全没有问题。整体基调比较阴暗,但如果能让您喜欢就太好了。


こういう形で出してしまったけれど、FF7のキャラクター達はみんな個性豊かで好きです。リメイクでより性格や特徴の解像度の高くなった全員を操作できるのが待ち遠しいです。
虽然以这种形式呈现了,但我真的很喜欢 FF7 里的所有角色,他们都个性十足。我迫不及待地想在重制版中操作所有角色,他们的性格和特点都变得更加鲜明了。






自分は自分ではなかったと知ったときから、誰でもいいから存在を肯定してほしかった。自分という存在を定義してほしくて、ここにいてもいいのだと認めてほしかった。
自从知道自己并非真正的自己后,我便渴望得到任何人的肯定。我希望有人能定义我的存在,承认我可以在这里。


***
***


 セフィロスを追って辿り着いた竜巻の迷宮の奥地で、クラウド達は5年前のニブルヘイムの悪夢を見せられていた。あの日、共同任務をこなすため、クラウドはセフィロスと共に自らの故郷の門をくぐった。狂気に堕ちた英雄の手で炎に包まれた故郷を駆け回り、生存者を探した。それらの出来事は確かにクラウドの記憶の中には鮮明に残っているのに、セフィロスの見せる幻の中にクラウドの姿はない。
克劳德一行人追着萨菲罗斯来到龙卷迷宫深处,却被萨菲罗斯强行展示了五年前尼布尔海姆的噩梦。那天,为了执行共同任务,克劳德和萨菲罗斯一同踏入了故乡的门。他跑遍了被堕入疯狂的英雄之手点燃的故乡,寻找幸存者。这些事情明明在克劳德的记忆中清晰地留存着,但在萨菲罗斯展示的幻象中却没有克劳德的身影。


 クラウドは動揺を隠し、意識して普段と変わらない声音を作りながら、セフィロスが幻覚を見せてこちらを混乱させようとしているだけ、自分はなんとも思っていない、と仲間に言い聞かせるように繰り返し口に出した。考えてはいけない。気遣わし気な視線を送る仲間たちを宥めなくてはいけない。だけど、もしも幻ではなく真実であったら?と、ぞろりとした絶望が背筋に這いよる気配には気づかないふりをした。
克劳德掩饰住内心的动摇,刻意用和平时一样的声音,反复告诉同伴,萨菲罗斯只是在用幻觉迷惑他们,自己什么都没想。不能去想。必须安抚那些投来担忧目光的同伴们。但是,如果那不是幻觉而是事实呢?他假装没有注意到那股令人毛骨悚然的绝望爬上脊背的感觉。


 幻の合間合間に現れるセフィロスが嘲笑を浮かべて言葉を発するたび、幼馴染であるはずの少女が何かに怯えるように顔色を悪くしていく。その様子を見ると、言いようのない不安に胸を引き絞られるようだった。足元の土台がひとつひとつ抜かれていくような、処刑台への道を一歩一歩丁寧にエスコートされているような、自分の中の何かが決定的に壊れてしまいそうな嫌な予感がどんどんと膨れ上がっていった。
每当萨菲罗斯在幻象的间隙中出现,带着嘲讽的笑容开口时,那个本应是青梅竹马的少女脸色就会变得苍白,仿佛被什么吓到了。看到她的样子,克劳德的心脏仿佛被一种难以言喻的不安紧紧揪住。脚下的基石一块块被抽走,仿佛被一步步小心翼翼地护送上断头台,他心中某种东西即将彻底崩坏的不好预感不断膨胀。


「俺は……ティファの幼馴染のクラウドじゃないのか?」
“我……难道不是蒂法的青梅竹马克劳德吗?”


 不安が溢れて言葉になり、それを聞いたティファが泣きそうな、苦しそうな顔をする。ああ、そんな顔をさせたいのではないのに。2人のそんな様子を眺めながら、わざとらしく優しげな微笑を浮かべたセフィロスが、愉しくてたまらないとでも言いたげな声音でジェノバの擬態能力について語った。ティファの記憶に存在する『クラウド』を読み取り、体内のジェノバ細胞の力で擬態してできたのが“彼”なのだとセフィロスが唄うように言う。
不安满溢而出,化作言语,蒂法闻言,脸上露出泫然欲泣又痛苦的神情。啊,我不想让她露出那样的表情。萨菲罗斯看着两人的样子,故意露出温柔的微笑,用仿佛在说“开心得不得了”的语气,讲述了杰诺瓦的拟态能力。萨菲罗斯像唱歌一样说,他读取了蒂法记忆中存在的“克劳德”,并利用体内杰诺瓦细胞的力量拟态成了“他”。

 それ以上聞いてはいけない、耳を貸してはいけないと分かっていたけれど、耳を塞ぐことも目を閉じることもできなかった。悪魔のような男に促されるままに目にした写真の中には、ティファとセフィロス、そしてどこか懐かしさを覚える黒髪の青年が映っていた。記憶通りならばそこに映っているはずのクラウドは、どこにもいない。その事実にがつん、と脳天を殴られるような衝撃を受けたのをきっかけに、クラウドは自分の心がぼろぼろと音を立てて崩れ始めたことを自覚した。
我知道不能再听下去了,不能再听信了,但我无法捂住耳朵,也无法闭上眼睛。在恶魔般的男人催促下,我看到的照片里,映着蒂法、萨菲罗斯,以及一个令人感到怀念的黑发青年。如果记忆没错的话,本该出现在那里的克劳德,却无处可寻。这个事实像一记重拳,狠狠地砸在我的头顶,从那一刻起,克劳德意识到自己的内心开始发出轰鸣声,支离破碎地崩塌了。


 突きつけられた真実を否定したくて、自分の存在を底からひっくり返される絶望を振り払いたくて、クラウドは自らの記憶を探り、覚えている限りのことを口に出して羅列していく。
克劳德想要否定被强加的真相,想要摆脱那种从根基上被颠覆的绝望,他探寻着自己的记忆,将能记住的一切都脱口而出,一一列举。

 だけど、そうしているうちに気付いてしまった。自分の記憶には整合性がない。記憶が真実ならば知っていて然るべきことを知らない。過去の記憶さえあやふやで、ティファの語った給水塔での思い出以外に思い出せる記憶すらない。記憶を他者から読み取って『クラウド』のふりをしているだけなのだと、セフィロスの語ったことこそが事実なのだと悟って、心がばらばらに引き裂かれるようだった。
然而,就在他这样做的时候,他却发现了一个事实。自己的记忆没有连贯性。如果记忆是真实的,那么他应该知道的事情,他却一无所知。过去的记忆甚至模糊不清,除了蒂法讲述的在水塔边的回忆之外,他甚至没有其他能回忆起来的记忆。他意识到,萨菲罗斯所说的一切才是事实,他只是从他人那里读取了记忆,假扮成“克劳德”,那一刻,他的心仿佛被撕裂成了碎片。


――自分は『クラウド』ではない。名前も、姿も、記憶も、心も、すべて紛いものだった。セフィロスに与えられた感情に従って、呼ばれるがまま、本能に従って彼の元を目指しただけの、ただの実験体。
——自己并非“克劳德”。名字、样貌、记忆、内心,一切都是虚假的。只是一个按照萨菲罗斯赋予的感情,被呼唤着,遵循本能前往他身边的实验体。


 ずっと騙していたことになる『クラウド』の仲間達のところには戻れない。セフィロスと敵対する理由も意味もない。自分はなにで、ここにいるのは何のためなのか分からない。虚無感と絶望に目の前が真っ暗になりかけて、直後にぱっと目の前が明るく開ける心地がした。
无法回到那些一直被自己欺骗的“克劳德”的同伴身边。也没有理由和意义与萨菲罗斯为敌。不知道自己是什么,也不知道自己在这里是为了什么。虚无感和绝望让眼前一片漆黑,紧接着,眼前豁然开朗。


――ああ、けれど、その問いの答えをセフィロスが与えてくれたではないか。
——啊,但是,萨菲罗斯不是已经给了我那个问题的答案了吗?


「……悩むことはなかったな。なぜなら俺は――」
“……没必要烦恼啊。因为我——”

(セフィロス?コピー?インコンプリート。セフィロスに黒マテリアを届けることが、ここに呼ばれた自分の役目)
(萨菲罗斯?复制品?不完整。将黑魔晶石送达萨菲罗斯,是自己被召唤到此处的使命。)


***
***


 『クラウド』の仲間達が“彼”に制止を呼びかける声が響く中、“彼”は巨大なマテリア塊の中に眠るセフィロスに、そっと黒マテリアを捧げた。直後、セフィロスを中心として強大な魔力が荒れ狂い、恐ろしい音を轟かせながら地面が揺れ始める。『クラウド』の仲間達や宝条博士達が走って逃げ出していく様子が視界に映った。
在“克劳德”的同伴们呼唤着制止“他”的声音中,“他”轻轻地将黑魔晶石献给了沉睡在巨大魔晶石块中的萨菲罗斯。紧接着,以萨菲罗斯为中心,强大的魔力狂暴肆虐,地面伴随着可怕的轰鸣声开始震动。“克劳德”的同伴们和宝条博士等人奔跑逃离的景象映入眼帘。

 黒マテリアに封じられていた禁忌の魔法は発動された。あとはただその時が訪れれば、この星は巨大な隕石によって砕かれるのだろう。メテオを起動した余波か、空気を震わせるエネルギーの奔流が無差別に辺りを破壊し、クレーターを粉々に砕いていく。その非現実的な光景を、“彼”は虚ろな目で眺めていた。
被封印在黑魔晶石中的禁忌魔法已被发动。接下来,只要时机一到,这颗星球就会被巨大的陨石粉碎吧。或许是启动陨石的余波,震荡空气的能量洪流无差别地摧毁着周围的一切,将陨石坑粉碎殆尽。“他”眼神空洞地望着那不真实的景象。


「(これで、俺が存在する意味もなくなってしまった)」
“(这样一来,我存在的意义也消失了)”


 セフィロスがくれた、人形としての自分の役目も終わってしまった。底抜けの虚無感と、役目を終えたほんの少しの達成感を抱えながら、“彼”はゆっくりと目を閉じて、重力に身を任せた。砕けた岩々に混じって落下していく最中、氾濫するライフストリームにその身がさらわれる直前に、何かに強く腕を掴まれ、暖かな場所に引き込まれたのを感じた。心は空っぽで寒くてたまらないのに、その暖かな場所は安心感を与え、慰めてくれているような気がして、“彼”はほうっと息を吐いた。体全体をその暖かい液体のようなものに包まれる心地よさに、“彼”は眠るようにして意識を手放した。
萨菲罗斯赋予他的人偶使命也已终结。怀抱着无底的虚无感和使命完成后的些许成就感,“他”缓缓闭上眼睛,任由身体坠落。在与碎石一同下坠的过程中,就在即将被泛滥的生命之流吞噬的前一刻,他感到自己的手臂被什么东西紧紧抓住,并被拉入一个温暖的地方。尽管内心空虚而冰冷,但那温暖的地方却给予他安心感,仿佛在安慰他,“他”轻轻地叹了口气。在被那温暖的液体般的东西包裹全身的舒适感中,“他”像睡着了一样,放开了意识。




 どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。“彼”は一時自分が誰なのかを忘れ、どこにいるのかも知らぬまま、揺蕩うような心地で微睡んでいた。とても強い存在が自分のすぐ側に眠っていることがなんとなく分かっていたから、何も怖くなかった。意識が時折浮上しては、心地の良い暖かさに再度引きずり込まれることをただただ繰り返していた。あるとき、隣にあったもう1つの存在がその暖かい場所から失われた。ぽっかりと穴が空いたような喪失感に身を震わせていると、突如外部から音が聞こえてきた。聞き覚えのある冷めた低い声が意識を揺らし、“彼”に覚醒を促してくる。
不知过了多久。“他”一时忘记了自己是谁,也不知道身在何处,只是在摇曳般的舒适中打着盹。他隐约感觉到一个非常强大的存在就在自己身边沉睡,所以什么都不害怕。意识时而浮现,时而又被舒适的温暖再次拉回,如此反复。有一次,旁边另一个存在从那温暖的地方消失了。当他因空虚的失落感而颤抖时,突然从外部传来了声音。熟悉而冰冷的低沉声音摇晃着他的意识,促使“他”清醒过来。


「起きろ」
“醒来。”


 その声に引っ張られるように意識が体に戻り、“彼”はゆっくりと目を開けて何回か瞬いた。なぜか随分と久しぶりにその動作をしたような気がした。声をかけられた先に視線を向けると、黒い戦闘服に身を包んだ、長い銀の髪を持ったその人が、冷たい切れ長の目をこちらに向けて立っていた。
意识仿佛被那声音牵引着回到了身体,“他”慢慢睁开眼睛,眨了几下。不知为何,他感觉自己很久没有做这个动作了。他循声望去,只见一个身穿黑色战斗服、留着银色长发的人,正用冰冷的细长眼睛看着他,站在那里。

――セフィロス?
——萨菲罗斯?

 “彼”はぼんやりとその視線を受け止めながら、何があったのかを思い出そうとした。起き抜けだからか思考がまとまらない。視線を合わせたまま反応しない“彼”に業を煮やしたのか、眉根を寄せて小さく舌打ちしたセフィロスは、“彼”の腕を乱暴に掴み、居心地の良いその場所から強引に引きずり出した。
“他”茫然地接受着那道视线,试图回想起发生了什么。也许是因为刚醒,思绪有些混乱。萨菲罗斯似乎对“他”不回应的眼神感到不耐烦,皱起眉头,轻轻地咂了下舌,粗暴地抓住“他”的胳膊,强行将他从那个舒适的地方拽了出来。

 腕を離され、地面に放り出されると、だんだんと意識が覚醒してくる。先程まで自身が眠っていた場所に目をやると、それは前にクレーターで見た、セフィロスが眠っていたのと同じマテリアの塊だった。ライフストリームへと落ちていく最中に腕を掴まれた気がしたのは、セフィロスが自分を拾ったということなのだろう。温かな液体に包まれていたと思ったけれど、体はどこも濡れていない。マテリア塊の中で感じていたあの暖かさはなんだったのだろうか。辺りを見渡すと、セフィロスと“彼”のいる場所の周囲は岩壁に囲まれており、すぐそばに波打つライフストリームの海が見えた。様相は多少変わったが、眠りに落ちる前にはクレーターがあった場所にそのまま留まっているようだった。
胳膊被松开,身体被扔到地上,意识渐渐清醒过来。当他看向自己刚才睡觉的地方时,发现那是一块魔晄石,和之前在陨石坑里看到的萨菲罗斯睡觉的魔晄石一模一样。在坠入生命之流的过程中,他感觉自己的胳膊被抓住了,这大概是萨菲罗斯把他捡起来了吧。他以为自己被温暖的液体包裹着,但身体却一点也没有湿。在魔晄石中感受到的那种温暖到底是什么呢?环顾四周,萨菲罗斯和“他”所在的地方被岩壁环绕,不远处就能看到波涛汹涌的生命之流的海洋。虽然景象有所变化,但他似乎仍然停留在睡着前陨石坑所在的地方。


「(……還れなかったのか)」
“(……没能回去吗)”


 セフィロスがくれた役目を終わらせてしまって、どうしたらいいのか分からなかった。マテリア塊の中のセフィロスに還りたかったけれど、あの時セフィロスは眠っていた。ならば、ライフストリームに落ちてそのまま星に還ってしまえばいいと思った。星を巡るエネルギーになれば、自分が何者かすら分からない絶望を忘れられるし、やがてセフィロスの力になれるから。けれど、今は目の前に本物のセフィロスが目を覚まして立っている。地面から身を起こしながら、“彼”は目の前に悠然と立つセフィロスに懇願するようにゆるゆると手を伸ばした。
萨菲罗斯赋予他的使命已经完成,他不知道该怎么办。他想回到魔晄石中的萨菲罗斯身边,但那时萨菲罗斯正在沉睡。于是,他想,如果能坠入生命之流,就这样回归星球就好了。如果能成为环绕星球的能量,他就能忘记自己是谁的绝望,最终也能成为萨菲罗斯的力量。然而,现在真正的萨菲罗斯就在眼前,醒着站着。从地上爬起来,“他”缓缓地伸出手,仿佛在恳求般地伸向眼前悠然站立的萨菲罗斯。


「リユニオン、してください。セフィロス……あなたの中に還りたい」
“请您,与我重逢吧。萨菲罗斯……我想回到您的体内。”

「ほう?殊勝なことだ。――生憎だが、今はまだそうするつもりはない」
“哦?真是难得的忠心。——可惜,我现在还没这个打算。”

「なら、どうして俺を拾ったのですか?」
“那,您为什么要把我捡回来?”

「ただの気まぐれだ。死にたがっていたのなら、残念だったな。……だが、悪くない判断だったようだ」
“只是一时兴起罢了。如果你想死,那可真是遗憾了。……不过,这似乎是个不错的决定。”


 そう言って背筋をぞっとさせるような嗜虐的な笑みを浮かべると、セフィロスは“彼”の視線を誘導するかのように岩壁の上を顎で指し示した。セフィロスが示した方向に彼が目を向けたそのとき、何人かの人影が次々と岩壁の上から降ってきて、軽やかに着地した。ティファ、バレット、ナナキ、ケット?シー、シド、ユフィ、ヴィンセント。『クラウド』と共に旅をしてきた仲間達が、驚愕と困惑を隠さずこちらを凝視していた。
说着,萨菲罗斯露出了令人毛骨悚然的虐待狂笑容,用下巴指了指岩壁上方,仿佛在引导“他”的视线。当“他”的目光转向萨菲罗斯所指的方向时,几个人影接二连三地从岩壁上方跳下,轻盈地落地。蒂法、巴雷特、赤红 XIII、凯特西、希德、尤菲、文森特。与“克劳德”一同旅行的伙伴们,掩饰不住惊愕与困惑,凝视着这边。


「私の人形。お前に生きる理由を与えてやろう」
“我的玩偶。我将赐予你活下去的理由。”


  くつくつと喉の奥で含むように笑いながら、セフィロスは“彼”の肩に手をかける。軽く膝を折って身をかがめながら、セフィロスは耳に絡みつくような愉悦の込もった声音で、“彼”の耳に囁くようにその毒を吹き込んだ。
萨菲罗斯喉咙里发出咯咯的笑声,将手搭在“他”的肩上。他微微屈膝,俯下身,用一种缠绕耳畔、充满愉悦的声音,在“他”耳边低语,将那毒素吹入“他”的耳中。


「私の敵を、排除しろ」
“排除我的敌人。”





肩を軽く押され、“彼”はかつての仲間達とセフィロスをちょうど遮るような位置に送り出された。仲間達はセフィロスに対する戦闘態勢を崩さぬまま、幽霊がそこにいるかのような、信じられないものを見る目で“彼”を見つめていた。
“他”被轻轻推了一下,被送到了正好能将萨菲罗斯和昔日同伴们隔开的位置。同伴们对萨菲罗斯的战斗姿态丝毫未变,却用仿佛在看幽灵一般、难以置信的眼神凝视着“他”。


「クラウド……無事、だったのね。良かった」
“克劳德……你平安无事,真是太好了。”


 恐る恐る、といった体でそうティファが声をかけてくれた。笑みを浮かべようとして失敗したのだろう、泣きそうな、複雑な表情だった。再会したとき――実際には初めて会ったとき、だったのだろう――から彼女はいつでも親切にしてくれた。親愛を向ける相手が、彼女の記憶を盗んで擬態した偽物だと知らずに。自分のものではなかった名前を呼ばれると、叫びだしたいほどの罪悪感と、“彼”の存在を否定されるような恐怖に体が満たされる。
蒂法小心翼翼地开了口。她大概是想露出笑容却失败了,脸上是泫然欲泣的复杂表情。从重逢之时——实际上,那应该是初次见面之时——起,她就一直对他很亲切。她并不知道,自己倾注爱意的对象,是窃取了她记忆并伪装起来的冒牌货。每当被叫到那个不属于自己的名字时,他都会感到一种想尖叫的罪恶感,以及被否定存在的恐惧,身体被这些情绪填满。

「……俺は、『クラウド』ではないんです。本当に、すみません」
“……我不是‘克劳德’。真的,非常抱歉。”


 その言葉を聞いたティファは、ショックを受けたように、苦しそうに表情を歪めた。現実を否定するように力なく首を振り、項垂れる様子を見ると、“彼”の罪悪感は更に膨れ上がった。
听到那句话,蒂法痛苦地扭曲了表情,仿佛受到了巨大的打击。她无力地摇着头,似乎在否认现实,垂头丧气的样子让“他”的罪恶感更加膨胀。


「ならば、お前は『誰』だ。どうして、セフィロスと?」
“那么,你又是‘谁’?为什么会和萨菲罗斯在一起?”


 言葉を失ってしまったティファと交代するように、ヴィンセントが静かに口を開く。短い間共に旅をした期間も、彼はいつもそうやって理性的で、感情的になりがちなパーティーメンバーの中にあって冷静さを忘れなかった。
文森特平静地开口,接替了失语的蒂法。在他们短暂的旅程中,他总是如此理性,在容易情绪化的队伍成员中,他从未忘记保持冷静。


「……」
“……”


 答えようにも、それは彼自身にも分からないことだった。自分は誰で、どうしてここにいるのか分からない。星に還れず、セフィロスにも還らせてもらえない、役目を終えたはずの出来損ないの人形。返す言葉を持たず、ただ虚ろにかつての仲間達を目に映して立ち尽くす彼を見て、セフィロスが優しげに言葉をかける。
即使想回答,他自己也不知道。他不知道自己是谁,也不知道为什么会在这里。无法回归星球,也无法被萨菲罗斯允许回归,一个本该结束使命的残次品人偶。他没有话语可以回应,只是空洞地看着曾经的同伴们,呆立在那里。萨菲罗斯看着他,温柔地开口。


「お前はセフィロス?コピー?インコンプリート。私の助けとなるために生み出されて、今ここにいる。そうだろう?彼女たちを騙して、裏切ったことに罪悪感を覚える必要はない。お前は自分が為すべきことを為しただけなのだから」
“你是萨菲罗斯?复制品?不完全体。你被创造出来是为了帮助我,现在就在这里。不是吗?你不需要为欺骗和背叛她们感到内疚。你只是做了你该做的事。”

「……はい、セフィロス」
“……是,萨菲罗斯。”


 セフィロスのくれた言葉に、胸がふっと軽くなった。自分はインコンプリートではあるけれどセフィロスのコピーで、セフィロスの役に立つことが存在意義なのだ。自分がセフィロスにとって有益である限り、セフィロスの気まぐれが続く限り、セフィロスは彼を必要としてくれる。『クラウド』でなくても、自分が何か分からなくても、ここにいることを許してくれる。
萨菲罗斯的话语让他的胸口顿时轻松了许多。他虽然是不完全体,但却是萨菲罗斯的复制品,为萨菲罗斯服务就是他存在的意义。只要他对萨菲罗斯有用,只要萨菲罗斯的心血来潮持续下去,萨菲罗斯就会需要他。即使不是“克劳德”,即使他不知道自己是什么,萨菲罗斯也会允许他留在这里。

 ならば自分は、やるべきことをやらなければ。ゆっくりと“彼”の腕が背中のホルダーにかけられた大剣の柄へと伸びる。“彼”自身の意思か、セフィロスの意思によるものなのかは分からない。どちらでもよかった。自分がセフィロスのものだというのなら、セフィロスの意思は“彼”の意思なのだから。
那么自己就必须做该做的事了。他的手慢慢伸向背部剑鞘中大剑的剑柄。不知道这是他自己的意愿,还是萨菲罗斯的意愿。无论是哪个都无所谓。如果他属于萨菲罗斯,那么萨菲罗斯的意愿就是他的意愿。


「……クラウド、嘘だよね?」
“……克劳德,你骗我的吧?”

「……」
“……”


 悲しそうに尻尾を下げ、消えるような声でナナキが言う。“彼”と同じように実験体であったけれど、“彼”とは違って体にナンバーを授けられていたナナキ。大人ぶっていたけれど、中身は少年のように純粋だったナナキは、いつも仲間達を和ませていた。“彼”は問いかけに答えず、ホルダーから外したバスターソードを静かに正面に構えた。
娜娜奇悲伤地垂下尾巴,用几近消失的声音说道。虽然和“他”一样是实验体,但与“他”不同的是,娜娜奇身上被赋予了编号。娜娜奇虽然装作大人,但内心却像少年一样纯真,总是能让同伴们感到放松。“他”没有回答娜娜奇的提问,而是将从剑鞘中取出的破坏剑静静地架在身前。


 その瞬間、引きつるような嫌な緊張感を増す空気を引き裂くかのように、連続した銃声が響いた。セフィロスを狙って打たれたそのガトリングの銃弾は、発砲の直前に瞬時に反応して射線に割り込んだ“彼”のバスターソードの腹ですべて弾かれ、カラカラと音を立てて地面に転がった。
就在那一瞬间,连续的枪声响起,仿佛要撕裂那令人不适的、愈发紧张的空气。瞄准萨菲罗斯射出的加特林子弹,在开火前一刻被瞬间反应过来、冲入射线的“他”用破坏剑的剑身全部弹开,发出咔哒咔哒的声音滚落在地。


「冗談だって言えよ!その野郎がいるからお前、おかしくなっちまってるんだろ!?」
“开玩笑的吧!就是因为那家伙在,你才变得不正常了吧?!”

「そうだぜ、星が壊れてもいいってのかよ!」 
“是啊,难道星球毁灭也无所谓吗!”


 チームの父親役で、怒りっぽいけれど人間味に溢れていたバレット。口は悪いけれど、情が厚くなんだかんだで面倒見の良かったシド。2人の責めるような叫びを受けても、 “彼” は表情を変えなかった。
巴雷特,团队中父亲一般的角色,虽然脾气暴躁但充满人情味。希德,嘴巴很坏但重情重义,总会照顾人。即使面对两人的责骂,“他”也面不改色。

 星が壊れたって構わない。世界が壊れても、セフィロスが生きているのなら自分は彼の人形でいられる。だけど、もしもセフィロスを失って自分だけが残されたら、“彼”は本当に1人になってしまう。考えるだけで背筋が冷たくなるような恐怖をもたらす危険因子は、目の前の敵達の存在だ。“彼”は、セフィロスを背に庇うように立って剣を構えた。
就算星星毁灭也无所谓。就算世界毁灭,只要萨菲罗斯还活着,他就能做他的人偶。但是,如果他失去了萨菲罗斯,只剩下自己,“他”就真的会孤身一人。光是想想就令人脊背发凉的恐怖危险因素,就是眼前的敌人们。“他”站在萨菲罗斯身后,摆出保护的姿态,举起了剑。


「……クックック、いい子だ。それでいい」
“……呵呵呵,好孩子。这样就好。”


 背後から聞こえる嬉しそうなセフィロスの声に、“彼”は自分の胸が熱くなるのを感じた。これでいいのだ。自分は間違っていないのだとセフィロスが認めてくれる。仲間達と助け合い、世界中を共に旅した日々は楽しかったけれど、その感情すら偽物だった。今となっては、本の中の物語のようにしか感じられない。どんな相手であろうと、セフィロスの敵になるのなら排除しなければいけない。“彼”は殺気を込めて、かつての仲間達を睨みつけた。
听到身后萨菲罗斯开心的声音,“他”感到自己的胸口发热。这样就好。萨菲罗斯认可他没有错。和同伴们互相帮助,一起环游世界的日子虽然很快乐,但那种感情也是虚假的。现在,那些日子只感觉像是书中的故事。无论对手是谁,只要是萨菲罗斯的敌人,就必须清除。“他”带着杀气,瞪视着曾经的同伴们。


「……自分が何をしとるか分かっとりますか?」
“……你知道自己在做什么吗?”

「エアリスは命を懸けてホーリーを唱えてくれたんだよ。なのに…!どうすんのさ!」
“爱丽丝她可是拼上性命咏唱了神圣魔法啊。可是……!现在该怎么办啊!”


 彼らしくない真面目な声音でケット?シーが問いかけ、悲鳴を上げるような悲痛な声でユフィが言う。神羅のスパイではあったけれど、調子の良い振る舞いが憎めなかったケット?シー。どんなときでも明るくムードメーカーとしてパーティーメンバーを盛り上げてくれたユフィ。彼らの言葉に、“彼”は静かに目を閉じた。いつでもしなやかで明るく、たおやかな見かけとは裏腹に強靭な意志と心を持っていたエアリス。ひとり祭壇で祈りを捧げる、侵しがたい神聖さを感じさせた後ろ姿と、体の中心に赤い花を咲かせながらゆっくりと崩れる彼女の姿が瞼の裏に浮かぶ。ずきり、と胸に痛みが走った気がして、泣きだしてしまいたくなるけれど、きっと錯覚だろう。確かにこの目で見た情景で、そのとき感じた自らの激情も記憶しているけれど、今の“彼”にとってはそれら全ての記憶がまるで映画のように感じられて、現実味がなかった。浮かぶのはただ、罪悪感だけ。
凯特西用不像他会有的认真语气问道,尤菲则发出像尖叫般悲痛的声音。凯特西虽然是神罗的间谍,但他那随和的举止却让人恨不起来。尤菲无论何时都开朗地活跃气氛,鼓舞着队伍成员。听到他们的话,“他”静静地闭上了眼睛。爱丽丝总是那么柔韧、开朗,与她柔弱的外表相反,她有着坚韧的意志和内心。她独自在祭坛祈祷时,那不可侵犯的神圣背影,以及她身体中央绽放着红色花朵,慢慢倒下的身影,都浮现在他的眼前。他感觉胸口一阵刺痛,想哭出来,但这大概只是错觉吧。他确实亲眼目睹了那情景,也记得当时自己感受到的激情,但对现在的“他”来说,所有这些记忆都像电影一样,缺乏真实感。浮现在脑海中的,只有罪恶感。


「……ごめんなさい。だけど、セフィロスを殺そうとするなら、俺はあなた達を排除しないといけません」
“……对不起。但是,如果你们想杀萨菲罗斯,我就必须排除你们。”


 脳裏をよぎる思い出を振り切って、やめろ、と自分の深く奥で悲痛に叫ぶ声に耳を塞いで、“彼”はかつての仲間達に襲い掛かった。
他甩开脑海中闪过的回忆,堵住内心深处那声嘶力竭的“住手”的呼喊,“他”向昔日的同伴们发起了攻击。


***


 見渡す限りの辺り一面が赤黒く染まり、周囲を囲む岩壁は、激しい戦闘を象徴するように、魔法と銃弾、剣戟の跡ですっかり形を変えていた。濃い血の匂いの漂うその場所の中央で、“彼”は肩で息をつきながら、バスターソードを支えにして血の海の上に立っていた。そこに立っていたのは、もう“彼”とセフィロスの2人だけだった。
放眼望去,目之所及皆被染成赤黑色,四周的岩壁因激烈的战斗而面目全非,遍布魔法、枪弹和剑戟的痕迹。在弥漫着浓重血腥味的这片区域中央,“他”拄着破坏剑,喘着粗气,立于血海之上。那里只剩下“他”和萨菲罗斯两人。


 戦いが始まって幾ばくもしないうち、覚悟を決めて本気で応戦してきたティファ達との人数差に押されて“彼”は追い込まれた。劣勢になった“彼”を助けるように途中からセフィロスも戦闘に加わり、そこからは長く激しい戦闘へと発展した。ここまで少数でたどり着けるほどの手練れの集団を相手に無傷でいられるわけがなく、“彼”もセフィロスも、致命傷は避けたとはいえ、決して少なくはない負傷を与えられていた。
战斗开始没多久,“他”就被蒂法等人豁出性命的猛烈反击逼入绝境,寡不敌众。萨菲罗斯中途加入战斗,帮助处于劣势的“他”,此后战况演变为一场漫长而激烈的战斗。面对这群能以少数人抵达此地的精锐,他们不可能毫发无伤,“他”和萨菲罗斯虽然避开了致命伤,但也受了不轻的伤。


「う……ぅ……」
“呜……呜……”


 血で濡れた大地に伏せた体が身じろぎする。か細い呻き声を上げながら、長い黒髪を持つ、全身を血で赤く染めた女性が立ち上がろうと身を起こしていた。
血染的大地上,俯卧的身体动了一下。一个全身被血染红、留着黑色长发的女人,一边发出微弱的呻吟,一边挣扎着想要站起来。


「全員仕留めたと思ったが、まだ息があったか。大したものだ」
“我以为所有人都被解决了,没想到还有活口。真了不起。”


 本気の称賛が含まれていることが察せられる声音で、セフィロスはそう呟いた。セフィロスも小さくはない負傷を受けているはずだが、息も絶え絶えな“彼”と異なり、まだまだ余裕が感じられた。地に伏し、死に瀕した状態で、ティファは尚も気丈に憎しみを込めた目でセフィロスをきつく睨みつける。そんな彼女の姿を目にして、セフィロスは唇の端をゆっくりと持ち上げ、静かに“彼”に命じた。
萨菲罗斯用一种能让人察觉到其中包含着真心赞叹的语气低声说道。萨菲罗斯应该也受了不小的伤,但与气息奄奄的“他”不同,他依然显得游刃有余。蒂法倒在地上,濒临死亡,却依然坚强地用充满憎恨的眼神紧紧盯着萨菲罗斯。看到她的样子,萨菲罗斯的嘴角慢慢上扬,然后平静地对“他”下达了命令。


「彼女を楽にしてやれ」
“让她解脱吧。”

「……っ……は、い……」
「……っ……好、的……」


 足を引きずるように動かし、“彼”はティファの近くに向かおうとする。一歩一歩足を前に踏み出すたびに、重りが増えていくようにどんどんと足が動かなくなる。頭の中に響く制止を呼びかける悲鳴のような声がわんわんと反響するように大きくなっていく。
“他”拖着步子,朝蒂法走去。每向前迈出一步,双腿就仿佛被加上了重物一般,变得越来越难以移动。脑海中回荡的阻止他的尖叫声也越来越响,嗡嗡作响。


「……クラウド……」
“……克劳德……”

「……っ!」
“……!”


 拷問のように思える程長い時間をかけて、何とかティファの近くに移動した“彼”は、手に持つ大剣を逆手に握り、持ち上げた。けれど、腕が固まったように動かせない。ティファが静かに『クラウド』を呼ぶ声が耳に届くと、手が震えて止まらなかった。頭の中でやめろと泣き喚く声がうるさくて、頭が割れそうだ。なぜか涙が目から溢れてきて、目の前の景色がゆらゆらと揺れる。
“他”花了仿佛拷问般漫长的时间,才终于挪到蒂法身边,反手握住手中的大剑,将其举起。然而,手臂却像僵住了一般,无法动弹。当蒂法轻声呼唤“克劳德”的声音传入耳中时,他的手便止不住地颤抖起来。脑海中那声嘶力竭地叫嚣着“住手”的声音吵得他头痛欲裂。不知为何,泪水夺眶而出,眼前的景象也随之摇晃起来。


「……どうした?できないのか」
“……怎么了?做不到吗?”


 落胆したようなため息とともにセフィロスにかけられた言葉に、身が竦む。やらなければ、できなければ、セフィロスの役に立てないならば、“彼”はセフィロスの人形でさえいられなくなってしまう。ここにいていい理由がなくなってしまう。『クラウド』でなかった“彼”を認めてくれる人は、セフィロス以外にいないのだから。
伴随着一声仿佛失望的叹息,萨菲罗斯的话语让他的身体僵住了。如果他做不到,如果他无法帮助萨菲罗斯,“他”甚至连萨菲罗斯的傀儡都无法继续当下去。他将失去留在这里的理由。因为除了萨菲罗斯,没有人会承认那个并非“克劳德”的“他”。


「――あああああぁっ!!」
“——啊啊啊啊啊啊啊!!”


 優しかった人の美しい赤茶色の瞳が諦めたように瞼の裏に隠されていく。“彼”は脳裏に響く喚き声をかき消すように絶叫しながら、動かない腕を無理やり振り下ろした。剣を突きたてたのと同時に、頭の中で喚いていた酷く馴染み深い声もふっと静かになった。自分の中で壊れかけていた大切なものが、今度こそ二度と戻しようもないほど粉々に、自分自身の手で砕かれたことを感じた。
那位温柔之人的美丽赤褐色眼眸,仿佛认命般地在眼睑后隐去。“他”一边发出尖叫,试图盖过脑海中回荡的喧嚣,一边强行挥下那条不听使唤的胳膊。就在剑刺入的同时,脑海中那熟悉得令人厌恶的叫喊声也戛然而止。他感觉到,自己内心深处那件濒临破碎的珍贵之物,这一次,被他亲手彻底粉碎,再也无法复原。


「はっ、はぁ、は……う、うぅ……」
“哈、哈啊、哈……呜、呜……”


 不気味なほど静かな空間に、“彼”の荒い息とすすり泣く声だけが響く。なぜ、自分は泣いているのだろう。自分は、セフィロスの命を狙う敵を排除しただけだ。やるべきことをしただけだ。悲しむ理由はないはずなのに。そんな思考を遮るように、くつくつと、次第に大きくなる笑い声が空洞に響きわたった。“彼”の方へ向かってゆっくりと歩を進めながら、恍惚とセフィロスが言葉を吐く。
在寂静得令人毛骨悚然的空间里,只有“他”粗重的喘息声和抽泣声回荡着。为什么,自己会哭泣呢?自己只是排除了企图夺取萨菲罗斯性命的敌人。只是做了该做的事情而已。应该没有悲伤的理由才对。仿佛要打断这样的思绪一般,咯咯的、逐渐变大的笑声在空洞中回响。“他”慢慢地走向“他”,萨菲罗斯陶醉地吐出话语。


「よくやった。守りたかった女を手にかけた気分はどうだ?ああ、お前は覚えていないのか?……これでお前はもう戻れない。一生真実を知ることもない」
“干得好。亲手杀死了想守护的女人,感觉如何?啊,你已经不记得了吗?……这样一来,你再也回不去了。一生都不会知道真相。”


 セフィロスの言葉の意味はよく分からない。“彼”はただ虚ろにセフィロスを見返すしかできなかった。けれど、上機嫌に笑い続けるセフィロスに、1つだけ確かめたいことがあった。そっと引き抜いた剣を振って血を落とし、背中のホルダーに戻す。セフィロスに向き直って、ぽつりと“彼”は呟いた。
萨菲罗斯的话语意义不明。“他”只能空洞地回望着萨菲罗斯。然而,对于心情愉悦地持续笑着的萨菲罗斯,“他”有一件事想确认。轻轻拔出剑,甩掉血迹,放回背后的剑鞘。转过身面对萨菲罗斯,“他”喃喃地低语道。


「俺は、あなたの役に立てましたか」
“我,对您有帮助吗?”

「ああ、もちろんだ。お前を拾って正解だった」
“啊,当然。捡到你真是太对了。”


 うっとりとそう言って、セフィロスは優しく微笑みながら手を伸ばして“彼”の頬の涙と返り血を拭ってくれた。褒められているかのようなその言葉に喜びが込み上げる。胸に湧き上がってくる感情のまま、“彼”は顔をほころばせた。
萨菲罗斯陶醉地这样说着,温柔地微笑着伸出手,擦去了“他”脸颊上的泪水和溅上的血迹。那话语仿佛在夸奖他,喜悦涌上心头。顺着胸中涌起的感情,“他”露出了笑容。


「間もなくメテオが降る。この星は壊れ、星の力はすべて私の力となるだろう。世界の終焉の日だ。見届けようか、クラウド」
“陨石很快就会降落。这颗星球会毁灭,星球的力量都会成为我的力量。这是世界终结之日。要不要来见证一下,克劳德?”

「はい、セフィロス。……」
“好的,萨菲罗斯。……”


 口ごもるように視線を泳がせた“彼”を見て、怪訝そうにセフィロスが問いかける。
看到“他”支支吾吾地眼神游移,萨菲罗斯疑惑地问道。


「何だ?」
“怎么了?”

「……俺は、『クラウド』ではないです……」
“……我不是‘克劳德’……”

「お前は、クラウドさ。――仮に別の『クラウド』がいたとしても、すべて滅ぶ。呼び名がないと不便だ。もらっておけ」
“你就是克劳德。——就算有别的‘克劳德’,也都会毁灭。没有称呼不方便。收下吧。”


 “彼”は『クラウド』ではなかったけれど、セフィロスが“彼”のことをクラウドと呼ぶのなら、クラウドでいいのだろう。名前を認めてもらえた高揚に背中を押され、否定されるのが怖くて聞けなかった問いがぽろりと口からこぼれ出る。
“他”并不是“克劳德”,但如果萨菲罗斯称呼“他”为克劳德,那叫克劳德也无妨吧。被获得名字的喜悦所鼓舞,害怕被否定而不敢问的问题,不经意间脱口而出。


「今はまだリユニオンしてくれないというなら、その時まであなたと一緒にいてもいいですか」
“如果现在还不愿意重聚,那在那之前我可以一直和你在一起吗?”

 クラウドは緊張にごくりと音を立てて唾を飲み込む。セフィロスが答えるまでの一瞬の空白が永遠のように感じられた。セフィロスだけが、自分自身が何なのかも分からないクラウドの存在を認めて、生きる理由をくれる。1人になったら、どうすればいいのか分からない。クラウドの言葉に目を軽く見開いたセフィロスは、どこか戸惑っているような不思議な顔をして、静かに言葉を紡いだ。
克劳德紧张地咽了口唾沫。萨菲罗斯回答前那一瞬间的空白,感觉像永恒一样漫长。只有萨菲罗斯,承认了连自己是什么都不知道的克劳德的存在,并给予了他活下去的理由。如果只剩下一个人,他不知道该怎么办。萨菲罗斯对克劳德的话语轻微睁大了眼睛,脸上带着一丝困惑的奇妙表情,静静地吐出了话语。


「……好きにしろ」
“……随你。”




 勇敢に戦い抜いた戦士達の遺体をライフストリームに還し、それぞれで自分達の傷の治療を済ませると、その後は特に会話もせずに、ただ静かにその時を待っていた。激しい戦いで身も心も疲弊していたクラウドは、大剣を壁に立てかけてその横に片膝を立てて座り込み、大空洞から見える空と、そこに静止したように浮かぶ赤い隕石をぼんやり見上げていた。セフィロスもまた、クラウドからやや距離を取った位置に座り込み、目を閉じて体を休めているようだった。
将英勇奋战的战士们的遗体归还生命之流后,他们各自处理了伤势,之后便没有再多说什么,只是静静地等待着那一刻的到来。身心俱疲的克劳德将大剑靠在墙边,单膝跪坐在一旁,茫然地望着大空洞外面的天空,以及悬停在空中的红色陨石。萨菲罗斯也坐在离克劳德稍远的地方,闭着眼睛,似乎在休息。


 空が青から深い藍色に姿を変える頃、はじめは目の錯覚かと思うほどにゆっくりと、やがて速度を増しながらどんどんと隕石が近づいてくるのを目にした。空気が音をごうごうと音を立てて、夜を煌々と照らす赤い隕石は、周囲の空気を焼きながらどんどんと大きくなる。――ああ、とうとう落ちるのか。
当天空从蓝色变为深靛色时,陨石开始缓慢地靠近,起初慢得让人以为是错觉,随后速度逐渐加快。空气发出轰鸣声,红色陨石在夜空中熠熠生辉,燃烧着周围的空气,变得越来越大。——啊,终于要坠落了吗?


「セフィロス、メテオが……」
“萨菲罗斯,陨石……”

「ああ」
“啊。”


 クラウドは立ち上がって剣を背中に戻すと、ライフストリームの海の近くに佇むセフィロスの隣にひっそりと立った。セフィロスの顔を見上げると、彼は数分前までのクラウドと同じように、感情の浮かばない目で瞬きもせずにじっと空を眺めていた。空気が鳴らす悲鳴のような音がどんどんと大きくなってくる。そのとき、クラウドの視線に気づいたセフィロスがこちらを向いた。
克劳德站起身,将剑背回身后,悄无声息地站在生命之流海边伫立的萨菲罗斯身旁。他抬头看向萨菲罗斯的脸,只见对方像几分钟前的克劳德一样,用毫无感情的眼神一眨不眨地凝视着天空。空气中尖啸般的声音越来越大。就在这时,萨菲罗斯察觉到克劳德的视线,转过头来。

 隕石が落ちる瞬間、クラウドとセフィロスは鏡写しのような色のない表情で、ただじっと視線を交わしていた。クラウドは、世界が終わる瞬間、自分は1人ではないのだとそうして確かめたかった。あるいはセフィロスも何らかの感傷を抱いていたのかもしれない。時間にすればほんの一瞬だっただろう。ごうごうと鳴る風の音。衝突した瞬間の風の悲鳴が止まった不気味な静寂。天地が入れ替わるほどの衝撃波と、爆音と、地面の揺れ。直後に吹き上がり、クラウドとセフィロスを飲み込むライフストリーム。それらを肌で感じながら、永遠にも思えたその瞬間、2人は互いの瞳だけを静かに見つめていた。
陨石坠落的瞬间,克劳德和萨菲罗斯以镜像般毫无色彩的表情,只是静静地对视着。克劳德想以此确认,在世界末日来临的时刻,自己并非孤身一人。或许萨菲罗斯也怀着某种感伤。那大概只是短短一瞬。风声呼啸。撞击瞬间风的悲鸣停止后,诡异的寂静。天翻地覆般的冲击波、爆炸声和地面的震动。紧接着喷涌而上,吞噬克劳德和萨菲罗斯的生命之流。在亲身感受着这一切的同时,在那仿佛永恒的瞬间,两人只是静静地凝视着彼此的眼睛。


――その日、天から降り注いだ赤い隕石は、世界を無慈悲に破壊した。
——那一天,从天而降的红色陨石,无情地摧毁了世界。



 

 ライフストリームに飲まれた直後の刹那、自分が溶けだし、相手が入ってくる、奇妙だけれど心地の良い感覚があった。セフィロスの考えていることと、クラウドの考えていることが混ざり合い、意識が繋がる一体感と幸福感に酩酊する。
被生命之流吞噬的刹那,有一种奇妙却又舒适的感觉,仿佛自己正在融化,而对方正在融入。萨菲罗斯的想法和克劳德的想法交织在一起,意识相连的合一感和幸福感令人陶醉。

 孤独と絶望。憤怒と傲慢。執着と歓喜。クラウドは自分の存在意義を失うこと、何者にもなれない独りぼっちの失敗作になることが怖くてたまらない。それと同じように、弱いところなどないように見えたセフィロスにも、幾重ものの感情が複雑に絡み合ってはいるけれど、その奥底に孤独を疎む心が密かに押し込められていることを理解した。絶対的な存在だと思っていたセフィロスが、自分とどこか似た感情を抱えているのだと分かってしまったから、クラウドはセフィロスに伝えたくてたまらなくなった。
孤独与绝望。愤怒与傲慢。执着与欢喜。克劳德害怕失去自己存在的意义,害怕成为一无是处的孤独失败品。同样地,他理解到,看似毫无弱点的萨菲罗斯,内心深处也复杂地交织着各种情感,而那深处,则悄悄地压抑着一颗厌恶孤独的心。当他意识到自己曾以为是绝对存在的萨菲罗斯,竟然怀抱着与自己相似的情感时,克劳德便迫不及待地想要告诉萨菲罗斯。


 ――自分達は、世界を滅ぼす共犯者。世界が終わった後に2人だけ残る、ジェノバ細胞を持つ化け物じみた同種。セフィロスが俺を自分の人形、インコンプリートと呼んで生きる理由をくれたから、たとえ自分が何なのかさえ分からなくても俺は生きていられる。けれど、俺があなたの人形なら、あなたは俺の主人だ。あなたがあなたの存在をもって俺の存在を定義してくれたように、俺もあなたに何かを返したい。
——我们是毁灭世界的共犯。世界终结后,只剩下我们两人,拥有杰诺瓦细胞的怪物般的同类。萨菲罗斯称我为他的人偶,不完全体,并给了我活下去的理由,所以即使我不知道自己究竟是什么,我也能活下去。但是,如果我是你的人偶,你就是我的主人。就像你用你的存在定义了我的存在一样,我也想回报你一些什么。


「……俺とあなたは同じイキモノです。あなたが俺を飲み込むか、捨てるときまで、どうか傍に――」
“……我和你是同一种生物。在你吞噬我,或是抛弃我之前,请务必待在我身边——”

 

 メテオが落ちる前、セフィロスと一緒にいたいと言ったのは自分だけのためだった。セフィロスがいなければクラウドはどうしたらいいか分からなかったから。だけど、今はそれだけじゃないのだと伝えたかった。声は出なかったけれど、混ざり合った意識はクラウドの思考を正しくセフィロスに運んだのだと分かっていた。そうして繋がり、ひとつになる気持ちよさは瞬く間に終わり、結ばれていた意識が元の形にほどけていく。
陨石坠落前,他之所以说想和萨菲罗斯在一起,仅仅是为了自己。因为如果没有萨菲罗斯,克劳德不知道该怎么办。但是,他现在想表达的不仅仅是这些。虽然没有发出声音,但他知道,交织在一起的意识准确无误地将克劳德的思想传达给了萨菲罗斯。就这样,连接并合二为一的快感转瞬即逝,结合在一起的意识也随之解开,恢复了原来的形态。




 ゆっくりと夢から覚めるような気分で目を開けると、クラウドはセフィロスと2人、緑色に輝くライフストリームの中に浮かんでいた。先程意識を共有した影響か、これからセフィロスが何をするのかは分かっていた。メテオで奪われた生物の命はライフストリームに還り、そうして嵩を増したライフストリームはメテオが星に与えた傷を癒そうと収束している。そのエネルギーをセフィロスが横取りすればいい。
当克劳德缓缓睁开眼,感觉像是从梦中醒来时,他发现自己和萨菲罗斯两人正漂浮在闪耀着绿光的生命之流中。也许是刚才意识共享的影响,他知道萨菲罗斯接下来要做什么。被陨石夺走的生命回归生命之流,生命之流因此增多,并汇聚起来试图治愈陨石给星球造成的创伤。萨菲罗斯要做的就是趁机夺取这份能量。


 そこまで思考していたとき、クラウドは自らの身体に異変を感じた。腕を動かそうとしたが、身体が自由に動かせない。――セフィロスに操られている。
当克劳德思考到这里时,他感到自己的身体发生了异变。他试图移动手臂,但身体却无法自由活动。——他被萨菲罗斯操控了。

 外からじわじわと暖かなものが体内に侵入してきて、クラウドの体の奥を熱く満たしていく。次第に、その暖かなものを使って自分が何かに変えられていくのが分かった。身体の主導権を奪われている不快感と、体を作り変えられていく違和感に必死でクラウドが耐えている間に、セフィロスはエネルギーを吸収し終えたのだろう。周囲のライフストリームがどんどんと薄くなり、やがて姿を消していた。
一股温暖的东西从外部缓缓侵入体内,逐渐充满克劳德身体的深处,让他感到一阵灼热。渐渐地,他意识到自己正在被这股温暖的东西改变成某种形态。在克劳德拼命忍受着身体主导权被剥夺的不适感和身体被改造的异样感时,萨菲罗斯大概已经吸收完了能量。周围的生命之流渐渐变淡,最终消失了。



 ライフストリームが消えると、周りの景色が戻ってくる。自分達が浮いていたのは空中であった。大地から噴出するライフストリームがクラウド達の体を支えてくれていたのだろう。それが消えた今、支えとなるものは何もない。自然、クラウド達の体は重力に従って自由落下を始めた。
生命之流消失后,周围的景色恢复了原样。他们原来是漂浮在空中。也许是大地喷涌出的生命之流支撑着克劳德他们的身体。现在生命之流消失了,没有任何支撑。自然而然地,克劳德他们的身体开始随着重力自由下落。


「え?うわああああっ――」
“欸?啊啊啊啊啊——”


 地面までの距離が分からないほどの高さから落ち、悲鳴を上げることしかできずに落下していくクラウドを、ばさりと音を立てて翼を顕現させたセフィロスが荷物でも抱えるかのように回収する。
赛菲罗斯猛地展开双翼,发出哗啦一声,将从高得无法判断离地面有多高的地方坠落、只能发出悲鸣的克劳德像抱起行李一样接住。


「あ、ありがとうございます」
“啊,谢谢您。”

「別にいい。……もっとも、今の身体なら落ちたところで死なないだろうが」
“没什么。……不过,以你现在的身体,就算摔下去也死不了吧。”


 抱えるのに邪魔だったのか、セフィロスはクラウドの背から大剣を外して手に持たせてきた。腹に腕を回されて脇に抱えられているので、クラウドはセフィロスの顔を見ることはできない。だが、その言い方と、先程身体を作り替えられたような感覚が気にかかって、つい疑問が口をつく。声を出すには苦しい体勢だったが気にしている余裕がなかった。
也许是抱着他不方便,萨菲罗斯把大剑从克劳德背上取下来,让他拿在手里。克劳德的腰被手臂环住,被他抱在腋下,所以看不到萨菲罗斯的脸。但是,他的语气,以及刚才身体被改造的感觉,让克劳德很在意,忍不住开口提问。虽然这个姿势让他很难发出声音,但他已经顾不上了。


「エネルギーを取り込むのは、セフィロスだけではなかったのですか」
“吸收能量的,不是只有萨菲罗斯一个人吗?”

「……お前に与えたのはただの一部だ。我々が同じモノだと言ったのはお前だろう。必要になればリユニオンすればいいだけだ」
“……我给你的只是一部分。说我们是同一种东西的,是你吧。需要的时候再重聚就好了。”


 セフィロスが何を思ってクラウドにも力を与えたのかは分からなかった。表情も見えないし、どうやら感情が高ぶっていないときの彼は感情を込めずに淡々と話すようなので声音からも感情が読めない。それでも、セフィロスがそうしたのは、2人の意識が混ざり合っていたときのクラウドの望みを叶えようとしての行動なのだと察せられて、幸福感に胸が締め付けられた。
克劳德不明白萨菲罗斯是出于什么想法把力量也给了他。他看不到萨菲罗斯的表情,而且萨菲罗斯在情绪不激动的时候似乎会平淡地说话,所以也无法从他的声音中读出感情。即便如此,克劳德还是察觉到萨菲罗斯这样做是为了实现两人意识融合时自己的愿望,幸福感紧紧地攫住了他的心。


「……はい。ありがとうございます」
“……好的。谢谢您。”


 空の上から見渡せる景色は土埃と炎に染まった地獄のような様相だった。星が狙い通り壊れたのか生きているのか、生き延びた生き物がいるのかどうかも分からない。自分たちは、世界を終わらせ、真実星の敵となったのだろう。それでもクラウドは、これからこのまっさらになった世界や、得たエネルギーを使って何かを為すだろうセフィロスを隣で見ることが楽しみだった。セフィロスの心に触れて知った、決して絶対的ではないと分かった彼自身にも興味があった。
从空中俯瞰的景色,是一片被尘土和火焰染红的地狱般的景象。不知道星球是否如预料般被摧毁,是否还有生命存在,是否还有幸存的生物。他们,大概是终结了世界,成为了真实星球的敌人吧。即便如此,克劳德还是很期待能在一旁看着萨菲罗斯,看着他将如何利用这片全新的世界和所获得的能量来做些什么。他对萨菲罗斯本人也产生了兴趣,因为他触碰到了萨菲罗斯的内心,知道了萨菲罗斯并非绝对。


 セフィロスは自分を拾ってくれた。存在を認めてくれた。セフィロスの役に立つことが自分の存在意義だと決めた。だけど、存在していい理由が欲しいという自分のためだけにセフィロスに従うのではなくて、心の奥底に繊細な感情を隠すセフィロスのために何かをしたいと思ったからそうするのだ。
萨菲罗斯收留了他。认可了他的存在。他决定,为萨菲罗斯效力就是他存在的意义。但是,他追随萨菲罗斯,并非仅仅是为了自己想要一个存在的理由,而是因为他想为萨菲罗斯做些什么,为那个内心深处隐藏着细腻情感的萨菲罗斯。

 ――いつかセフィロスが自分を捨てるその日まで、彼の力になろう。
——直到萨菲罗斯抛弃他的那一天,他都会成为他的力量。

セフィロスに抱えられてゆっくりと降下しながら、クラウドはひっそりと心に誓った。
被萨菲罗斯抱着缓缓降落时,克劳德在心中悄悄发誓。






バッドエンドif 主従SC #4
Bad End if 主仆 SC #4

ふたりぼっちの日
两人独处的日子

18,814 文字
18,814 字

メテオ後の生物の消えた静かな星でゆっくり距離を縮めていくふたりぼっちのセフィクラの話。世界が終わった日(novel/13252237)に続く話です。
这是一个关于萨菲罗斯和克劳德在陨石撞击后生物消失的寂静星球上,两人独处,慢慢拉近距离的故事。是《世界末日》(novel/13252237)的后续。

初めて体を重ねるところと、セフィロスの体液を取り込むと気持ちよくなるインコンプリートさんが見たくて書きました。
我想看他们第一次发生关系,以及不完全体(Incomplete)的克劳德在吸收萨菲罗斯的体液后感到愉悦的场景,所以写下了这个故事。






 メテオが落ちた後、津波や火災など一通りの二次災害が収まった頃から、セフィロスとクラウドは二人連れ立ち、あてどもなく各地を放浪していた。手慰みに毎日のように手合わせをし、荒れた大地を足で歩き、海を越える必要があればセフィロスの翼や召喚獣で空を渡りながら、かつて街であった廃墟と傷ついた大地を見て回った。今のところ、生き延びた人間は見かけていない。
陨石坠落后,当海啸和火灾等一系列次生灾害平息下来时,萨菲罗斯和克劳德两人结伴而行,漫无目的地在各地流浪。他们每天都会切磋武艺以消遣,徒步穿越荒芜的大地,如果需要跨越海洋,萨菲罗斯会用翅膀或召唤兽带着克劳德飞过天空,他们就这样走遍了曾经是城市如今已成废墟的地方,以及满目疮痍的大地。到目前为止,他们还没有遇到幸存的人类。


 日数を数えていないから正確には分からないが、大空洞を出てそろそろ一年ほどになるだろうか。冬が近いのか、随分と空気も冷え込んできた。記憶にある地図が正しければ、今は、ウータイ大陸にいるはずだ。多くの生物の消え失せた大地は驚くほどに静かで、蟻が地面から這い出る音や、風が土埃を舞い立てる音、時折降る雨が岩から滴り落ちる音さえ聞き分けられるほどであった。
虽然没有数日子,所以不确定具体时间,但从大空洞出来大概有一年了吧。也许是冬天临近了,空气也变得相当寒冷。如果记忆中的地图没错,他们现在应该在五台大陆。许多生物都已消失的大地出奇地寂静,甚至能清晰地听到蚂蚁从地里爬出来的声音,风吹起尘土的声音,以及偶尔下雨时雨水从岩石上滴落的声音。


 あの日、メテオで傷ついた星からライフストリームを奪い取りはしたものの、結論から言えば星はメテオを受けても壊れてはいなかった。それが発動されかけたホーリーの影響だったのか、元々メテオという魔法が星を壊すのに不十分であったのかは分からない。セフィロスは吸収したライフストリームから力と様々な知識を得たが、星と同化したわけではないらしい。メテオが直撃した幾つかの地を淡々と巡り、星は生きていると結論付けたセフィロスが無感情にそう言っていた。
那天,他虽然从被陨石击伤的星球上夺走了生命之流,但从结果来看,星球即使遭受了陨石的袭击也并未被摧毁。这究竟是即将发动的神圣魔法的影响,还是陨石这种魔法本身就不足以摧毁星球,他无从得知。萨菲罗斯从吸收的生命之流中获得了力量和各种知识,但似乎并未与星球同化。他只是平静地巡视了几个被陨石直接击中的地方,然后毫无感情地得出结论说,星球还活着。

 セフィロスの本来の目的を考えれば、結果は失敗に終わったと言ってもいいはずだ。しかし、彼は不自然なほどそれに対する苛立ちや驚きを感じていないようだった。クラウドにはセフィロスの心を推し量ることはできないが、世界を滅ぼした時点で、ある程度の目的は果たせたということなのかもしれない。
考虑到萨菲罗斯的本来目的,可以说结果是以失败告终的。然而,他却异常地没有表现出对此的恼怒或惊讶。克劳德无法揣测萨菲罗斯的心思,但也许在他毁灭世界的那一刻,某种程度上的目的就已经达成了。


「クラウド」
“克劳德。”


 だんだんと辺りが暗くなってきたとき、数歩前を歩いていたセフィロスが足を止め、クラウドの名を呼んでいた。クラウドと同じ、シンプルな白いシャツと黒のスラックス姿に、防寒として上からローブをまとった姿だった。元々身に着けていた戦闘服はメテオ前の戦闘とその後の放浪でぼろぼろになっていたので、いつだったか廃墟で見つけたそれらの服と取り換えたのだ。
当周围渐渐暗下来的时候,走在前面几步的萨菲罗斯停下了脚步,呼唤着克劳德的名字。他穿着和克劳德一样的简单白衬衫和黑色西裤,外面披着一件长袍御寒。他原本的战斗服在陨石降落前的战斗和之后的流浪中已经破烂不堪,所以不知何时在废墟中找到了这些衣服并换上了。


 そろそろ暗くなってきたから、野営するのだろう。昼と夜は光度の差で分かるが、メテオで生じた厚い土埃が消えることなく空を覆っているので、太陽も月も星も見えない。外敵がいないとはいえ真っ暗闇の中を進むのは神経を使うし、急ぐ旅でもないので、クラウド達は専ら昼にのみ活動するようにしていた。
天色渐暗,他们应该要扎营了。虽然可以通过光线强弱来区分白天和黑夜,但陨石造成的厚重尘埃一直覆盖着天空,太阳、月亮和星星都看不见。尽管没有外敌,但在漆黑一片中赶路还是会让人精神紧张,而且他们也不是急着赶路,所以克劳德他们通常只在白天活动。


「今夜はこの辺りでいいだろう」
“今晚就在这附近扎营吧。”


 セフィロスの視線を追うと、でこぼことした岩場の間に、雨を避けるのに適しそうな小さな洞窟があった。それが目に入った瞬間、クラウドは思わず小さな笑みをこぼす。
顺着萨菲罗斯的视线望去,在崎岖不平的岩石之间,有一个似乎适合避雨的小洞穴。看到它的那一刻,克劳德不禁露出了一个浅浅的笑容。


「今日はついてますね。野ざらしにならずに済みそうです」
“今天运气真好。看来不用露宿野外了。”


 一晩中雨風に打たれ続けたところで体調を崩すわけでもないので支障はないが、体を休めるならやはり少しでも快適な方がいい。ライフストリームを奪って体を作り替えてから――セフィロスはマテリア塊での眠りから目覚めた時点で元々そうであったのかもしれないが――クラウド達の体は人間離れしたものになっていた。マテリアがなくとも魔法が使え、召喚獣が呼べる。寒さも暑さも感覚はあるが、煩わしい程度で活動には影響しない。体は時を止め、髪も爪も髭も伸びない。食事も排泄も必要なく、睡眠さえただ持て余す夜の時間を埋めるために惰性で取っているに過ぎない。汗も出なければ、垢も出ないようで、時折土埃を落とすためだけに水を浴び、廃墟に残る服を拝借して擦切れた服を取り換えれば事足りた。
即使被风雨侵袭一整夜,身体也不会垮掉,所以没什么大碍,但如果能休息得更舒服一点,那当然更好。自从夺取生命之流并重塑身体后——萨菲罗斯可能在从魔晶石块的沉睡中醒来时就已经如此了——克劳德他们的身体变得超乎常人。即使没有魔晶石也能使用魔法,召唤召唤兽。虽然对寒冷和炎热仍有感觉,但只是令人烦恼的程度,不影响活动。身体停止了时间,头发、指甲和胡须都不会生长。不需要进食和排泄,甚至连睡眠也只是为了打发漫漫长夜而惰性地进行。似乎也不会出汗,也不会有污垢,偶尔只需要用水冲洗掉灰尘,然后借用废墟中剩下的衣服替换掉磨损的衣服就足够了。


 そんなどこか無機物じみた体になったというのに、傷の治りだけは異常に早い。放浪する以前、北の大空洞に留まっていたとき、ウェポンという巨大な存在がクラウド達に襲い掛かってきた。その戦闘で腕を落とされた際、切り口から一瞬でみるみる新しい腕が再生したのを目にしたときは、我ながら不気味な体になったと思ったものだ。余談だが、倒したウェポンは、セフィロスの正宗の如く空間から自由に出し入れできる青く透き通る大剣へと形を変えた。それ以来、自らが手にかけた戦士達の墓標代わりに大空洞に残してきたバスターソードの代わりとして愛用している。
尽管身体变得如此无机质,但伤口的愈合速度却异常快。在流浪之前,当他们还留在北方大空洞时,巨大的兵器向克劳德他们袭来。在那场战斗中,当他的手臂被砍断时,他亲眼看到新的手臂从切口处瞬间再生,当时他心想自己的身体变得真够诡异的。顺便一提,被击败的兵器,像萨菲罗斯的正宗一样,变成了一把可以自由地从空间中取出和放入的蓝色透明大剑。从那时起,他就一直爱用这把剑,作为他亲手了结的战士们的墓碑,代替了留在北方大空洞的破坏剑。


「翼で雨はしのげているだろう」
“翅膀应该能挡雨。”

「それは、そうですが……」
“话是这么说没错……”


 少し憮然とした声で言うセフィロスの言葉にクラウドは苦笑を浮かべた。いつからか、雨の日、空の開けた地で野営するときには、二人で肩を寄せ合うようにしてセフィロスの大きな翼に包まれて休むようになっていた。撥水性の良い暖かい翼に包まれ、途切れ途切れに会話しながら隣にセフィロスの体温を感じて眠るのは好きだった。だが、それはそれとして屋根があるのはいいことだ。クラウドはセフィロスの隣に歩み寄り、洞窟の中をのぞいて奥行を確かめる。
克劳德对萨菲罗斯略带不悦的声音苦笑了一下。不知从何时起,下雨天在空旷的地方野营时,他们会依偎在一起,被萨菲罗斯巨大的翅膀包裹着休息。他喜欢被温暖的、防水性好的翅膀包裹着,断断续续地聊着天,感受着萨菲罗斯的体温在身旁入睡。但话虽如此,有屋顶还是件好事。克劳德走到萨菲罗斯身边,探头看了看洞穴内部,确认了深度。


「これなら横になれそうですね」
“这样的话应该能躺下了。”


 クラウドは、抱えていた数少ない荷物から大きめの布を取り出した。立ち寄った廃墟の中でも比較的形をとどめていた街で見つけて拾ってきたものだった。クラウドはグラビデを使ってでこぼことした洞窟の床を簡単にならし、小石を避けたところにふわりと布を敷いた。上等な寝床の完成だ。自分の仕事に満足し、一つ頷いたクラウドはセフィロスを招き、共に寝床に横になった。
克劳德从他为数不多的行李中取出一块大布。这是他在路过的一座废墟中,一个相对保存完好的城镇里找到并捡来的。克劳德用重力魔法轻松地平整了崎岖不平的洞穴地面,然后避开小石子,轻轻地铺上布。一张上等的床铺就完成了。克劳德对自己的工作很满意,他点点头,示意萨菲罗斯过来,两人一起躺在了床铺上。


 洞窟の外からは大地を吹き抜ける風の音だけが聞こえてくる。見張りは置かない。外にいるのはせいぜい小さな虫くらいで、クラウドたちの脅威になるような生物には未だ出会っていない。そもそも深い眠りについているわけではないので、万が一何かあっても即座に対応できる。
洞穴外只有风吹过大地的声音。没有设置守卫。外面最多只有些小虫子,克劳德他们至今还没有遇到过能构成威胁的生物。而且他们本来就不是在深度睡眠,万一有什么事也能立刻应对。


「悪くないな」
“还不错。”

「下が柔らかければ最高ですね。どこかでロープを見つけたらハンモックでも作りますか?」
“要是下面再软和点就更好了。要是找到绳子,要不要做个吊床?”

「木がなければ使えない」
“没有树就没法用。”

「芽は出ていましたよ。そのうち育った頃には使えるようになります」
“已经发芽了。等它们长大了就能用了。”

「気の長い話だ。作るならテントの方が実用的だ」
“那可真是个漫长的过程。如果真要搭,帐篷会更实用。”

「荷物が増えます。チョコボでもいれば別でしょうけど」
“那样行李会增加。除非有陆行鸟之类的。”

「チョコボは臆病で聡い。生き延びている可能性は十分にある」
“陆行鸟胆小又聪明。它们很有可能活下来了。”

「探してみましょうか――」
“要去找找看吗——”


 目を閉じ、セフィロスの低く耳に心地よい声の響きに耳を傾けながら、そんなとりとめもない会話をぽつりぽつりと交わしているうちに、気付くとクラウドは眠りにいざなわれていた。
克劳德闭上眼睛,倾听着萨菲罗斯低沉悦耳的声音,在这样有一搭没一搭的对话中,不知不觉地被带入了梦乡。


***
***


 薄らと世界が明るさを増してきた頃、隣の温度が外へ抜け出す気配と、ほんの少しの肌寒さでクラウドは目を覚ました。移動を開始するにはまだ暗いので、もう少し眠っていようかとも思ったが、外に出たセフィロスが気になって起き上がることにした。髪を適当に撫でつけながらのそのそと洞窟の外に出て、見知った姿を探す。
当世界逐渐泛白,光线渐亮时,克劳德被身旁温度的流失和一丝寒意惊醒。虽然天色尚暗,不适合赶路,他本想再睡一会儿,但想到塞菲罗斯已经出去了,便决定起身。他随意地捋了捋头发,慢吞吞地走出洞穴,寻找那熟悉的身影。


「セフィロス……?」
“塞菲罗斯……?”


 洞窟の外の景色を目にして、クラウドは目を見開いた。空は一様な灰色に覆われ、辺り一面は白く染められていた。ただでさえ静かな地が、しんしんと雪が降り積もる静かな音だけが響く静寂に包まれていた。道理で肌寒いわけだ、と思いながらクラウドは歩を進める。
看到洞穴外的景象,克劳德睁大了眼睛。天空被一片均匀的灰色覆盖,四周一片雪白。这片本就寂静的土地,此刻被雪花簌簌落下的声音所带来的寂静笼罩着。怪不得会感到寒冷,克劳德一边想着,一边向前走去。


 探していた姿は洞窟のすぐ近くにあった。セフィロスはぼんやりとした様子で空を見上げて、天から降る雪に手の平を向けて佇んでいる。すぐに戻ってくるつもりだったのか、グローブは外したままのようで、珍しく何にも覆われていない手が見えた。白いシャツから除くアルビノの真っ白な肌と、長くツヤのある白銀の髪を持つ男。もう見慣れた姿であるはずなのに、その色合いと雪との親和性もあって、まるで雪を象徴する芸術品のようだった。クラウドは無意識のうちに感嘆の吐息をもらす。
他要找的身影就在洞穴附近。塞菲罗斯茫然地仰望着天空,手掌朝向从天而降的雪花,伫立在那里。他似乎是打算很快回来,手套没有戴上,露出了那双罕见的、没有任何遮蔽的手。这个男人有着从白色衬衫中露出的白皙如雪的白化病皮肤,以及一头长而有光泽的银发。这本该是早已习惯的身影,但其色彩与雪的亲和力,让他仿佛是象征着雪的艺术品。克劳德不自觉地发出一声赞叹。


 その静寂に包まれた幻想的な光景を崩すのが憚られて、クラウドは声をかけずに息をひそめるようにしてそっとセフィロスの隣に立った。セフィロスの見ている景色が知りたくて、真似るように空を見上げて雪の結晶を手にのせる。手に落ちては溶ける、その儚く冷たい感触を束の間楽しんだ。
那片被寂静笼罩的梦幻光景令人不忍打破,克劳德没有出声,而是屏住呼吸,悄悄地站在萨菲罗斯身旁。他想知道萨菲罗斯在看些什么,便也学着他抬头望向天空,将一片雪花接在手中。雪花落在手上随即融化,他短暂地享受着那转瞬即逝的冰冷触感。


「冬が明けなくなるかもしれんな」
“冬天也许不会结束了。”

「え?」
“嗯?”


 ぽつりと平坦な声で呟いたセフィロスを見る。彼は空を見上げたまま言葉を重ねた。
克劳德看向萨菲罗斯,他用平淡的语气轻声说道。萨菲罗斯仍旧仰望着天空,继续说着:


「メテオの産んだ土埃は空を覆いつくし、大地は温度を下げ続けている。今はまだ季節が巡っているが、何年か、何十年か、この景色が続くようになるかもしれない」
“陨石带来的尘埃遮蔽了天空,大地持续降温。现在季节还在更替,但也许几年、几十年后,这番景象会一直持续下去。”

「……野営は少し面倒になるかもしれませんね」
“……野外露营可能会有点麻烦。”


 そうぼんやりと返しながら、クラウドは再度雪の精と言われても信じてしまいそうなセフィロスの姿をじっと眺めた。吐息が白い形を作るのが不思議に思えるほど、セフィロスの姿は温度を感じさせず、マテリア塊の中で眠っていた姿を思い起こさせる。彼にも温かな体温があることを理性では理解しているのに、その連想はクラウドにかきたてるような不安な気持ちをもたらした。
克劳德心不在焉地回应着,再次凝视着萨菲罗斯的身影,他看起来就像雪之精灵,让人深信不疑。萨菲罗斯的身影感受不到一丝温度,连呼出的气息都能形成白雾,这让克劳德感到不可思议,这让他回想起萨菲罗斯在魔晄炉中沉睡的样子。尽管理智上他明白萨菲罗斯也有温暖的体温,但这种联想却给克劳德带来了不安。


「……何だ」
“……怎么了?”


 凝視しすぎたのか、セフィロスの視線がクラウドに向けられる。きまりの悪い気持ちになりながら、おずおずとクラウドは胸に浮かんだ自らの願いを口に出した。
也许是克劳德的凝视太过强烈,萨菲罗斯的目光转向了他。克劳德感到有些尴尬,但他还是怯生生地说出了自己心中的愿望。


「手を……触ってみたいなと思って」
“我……想摸摸你的手。”


 体温があると、生きていると確かめたかった。
他想确认那份体温,确认那份鲜活。


「おかしなやつだ」
“真是个怪人。”


 怪訝そうな表情を浮かべたセフィロスが、左手をクラウドに向けて無造作に差し出した。セフィロスが刀を振るう手。それに触れることを許されたと思うと胸が震えるようだった。
萨菲罗斯脸上带着不解的神情,随意地将左手伸向克劳德。那是萨菲罗斯挥舞刀剑的手。一想到自己被允许触碰它,克劳德的心脏就颤抖起来。


「ありがとう、ございます……」
“谢谢……您。”


 クラウドは自分の両手を重ね、その上に恭しくセフィロスの手をのせるようにしてそっとその手を取った。大きく、節ばった戦士の手。普段自由自在にその手が刀を操る様を思い出すと、酷く神聖なものに触れている気分だった。吸い寄せられるように、クラウドはその手の甲に触れるか触れないかのキスを落とす。触れたセフィロスの手が、冷たい雪景色の中でも変わらぬ温かさを保っていることに酷く安堵した。
克劳德将自己的双手交叠,恭敬地将萨菲罗斯的手轻轻放在自己的手上。那是一双宽大、骨节分明的战士之手。回想起这双手平时自如地挥舞刀剑的样子,克劳德觉得自己仿佛触碰到了某种神圣之物。他情不自禁地,几乎是若即若离地,在萨菲罗斯的手背上落下了一个吻。萨菲罗斯的手即使在寒冷的雪景中也保持着不变的温暖,这让克劳德感到无比安心。


「良かった。温かい」
“太好了。是温暖的。”


 クラウドは確かめるように口の中だけで小さく呟いた。
克劳德仿佛在确认一般,小声地自言自语道。


「……お前だって同じだろう」
“……你还不是一样。”


 独り言が聞こえていたのか、訝し気にそう言いながら、差し出しているのと逆の手でクラウドの髪をかき混ぜるようにしてセフィロスがクラウドの頭に触れる。
是听到了自言自语吗,萨菲罗斯一边狐疑地这么说着,一边用没有伸出的那只手像揉乱克劳德的头发一样触碰着克劳德的头。


「……柔らかいな。濡れているときくらいしか形が変わらないから、もっと硬いのだと思っていた」
“……很柔软啊。我还以为会更硬,毕竟只有湿的时候才会改变形状。”


 無造作な触れ方と感心するかのようなその口ぶりにおかしくなり、クラウドは苦笑を浮かべながら顔を上げる。瞬間、セフィロスと視線が合った。思っていたよりもずっと近い距離にお互いの顔がある。驚くより先に頭を過ぎる考えがあった。
克劳德被他随意地触碰和仿佛在感叹的语气逗乐了,苦笑着抬起头。瞬间,他和萨菲罗斯的视线对上了。两人的脸比想象中要近得多。在惊讶之前,一个念头闪过脑海。


 魔が差した、と言うべきなのだろうか。連日続いていた寒さと、荒廃した大地を彷徨う日々に人恋しくなっていたのかもしれない。ただもう少しだけセフィロスの熱に触れてみたい、という自らの思考を自覚したときには、瞼を下ろし、どちらからともなく唇を重ねていた。
该说是鬼迷心窍了吗?也许是连日以来的寒冷,以及在荒废的大地上徘徊的日子,让他渴望起了人情味。当他意识到自己只是想再多感受一下萨菲罗斯的温度时,他已经闭上了眼睛,两人不约而同地唇齿相依。




――温かくて、柔らかい。
——温暖而柔软。

 自らの唇で触れているそれが、色合いも雰囲気も硬質な印象の強いセフィロスの一部だとクラウドは一瞬信じられなかった。ただお互いの体の一部を重ね合わせているだけなのに、その温かさが心地よくてたまらない。嫌悪感や抵抗はかけらも湧かず、気分の良さと安心感だけがあった。唇が離れるときに感じた吐息さえも、心をじんわりと暖めてくれる気がした。目を開けると、セフィロスはクラウドをじっと見ていた。
克劳德一时间无法相信,自己唇上所触碰到的,竟是萨菲罗斯的一部分,那个无论色彩还是气质都给人以坚硬印象的萨菲罗斯。仅仅是彼此身体的一部分相贴,那份温暖却令人无比舒适。没有丝毫的厌恶或抗拒,只有愉悦和安心。即使是唇瓣分离时感受到的气息,也仿佛能将内心缓缓温暖。睁开眼,萨菲罗斯正凝视着克劳德。


 もっとその熱を感じてみたくて、目の前にあるセフィロスの肩にそろそろと手をかける。すると、応えるようにクラウドの腰にもセフィロスの腕が回され、ぐいと体を引き寄せられた。触れている場所も、触れられた場所も安心する人肌の温かさを伝えてくる。肩を寄せて眠るときにも分け合う体温を、より広い範囲で感じられることにクラウドは幸福感をおぼえた。うっとりとその温かさを楽しんでいると、後頭部に手を回され、ゆるゆると柔らかな口付けを落とされる。角度を変えながら何度か唇を触れ合わせると、下唇を軽く吸ってセフィロスは顔を離した。
想要更深切地感受那份温度,克劳德缓缓地将手搭上萨菲罗斯的肩。随即,萨菲罗斯的手臂也环上克劳德的腰,将他猛地拉近。无论是触碰的地方,还是被触碰的地方,都传递着令人安心的体温。克劳德感到幸福,因为他能以更广阔的范围感受到那份在依偎而眠时共享的体温。当他沉醉于那份温暖时,萨菲罗斯的手环上他的后脑勺,轻柔地落下吻。唇瓣变换着角度,几次相触后,萨菲罗斯轻吸了一下他的下唇,然后移开了脸。


 ――どうして? やめないでくれ。もっと深く繋がりたい。
——为什么?别停下。我想更深地与你相连。

 離れていく唇を無意識に追いかけようとして、クラウドは自分の思考に気付いてはっとする。もっとって何だ。歯止めが利かなくなりそうな自分の欲求に動揺しているうちに、セフィロスはするりと抱擁を解いてしまう。
克劳德无意识地想追逐那渐渐远离的唇,猛然意识到自己的想法,不禁一惊。什么叫“更深”?在他为自己那仿佛要失控的欲望而动摇时,萨菲罗斯已然轻巧地解开了拥抱。


「ぁ……」
“啊……”

「……もう明るい。問題なく進めるだろう。準備が済んだら出発するぞ」
“……天已经亮了。应该能顺利进行。准备好了就出发。”


 名残惜しそうなクラウドを見て意地悪く口角を釣り上げたかと思うと、次の瞬間にはいつも通りの無表情に戻ったセフィロスが淡々とそう言った。見間違いだったのかもしれない。何もなかったかのようにさっさと洞窟に戻って用意をするセフィロスを見て、慌ててクラウドも後を追う。
萨菲罗斯看着似乎有些恋恋不舍的克劳德,嘴角恶劣地勾起,下一秒又恢复了往常的面无表情,淡淡地说道。也许是看错了。萨菲罗斯若无其事地迅速回到洞穴准备,克劳德也慌忙跟了上去。


「ウータイの辺りまで、あとどれくらいでしょうか」
“到五台附近还有多远?”

「さあな。ここまで地形が変わってしまっては、以前の知識も役に立たん。北の海岸近くをしらみつぶしに見て回るしかなかろう」
“谁知道呢。地形都变了这么多,以前的知识也派不上用场了。只能把北边的海岸附近都仔细找一遍了。”

「街に何か、残っているといいですね」
“希望城里还能剩下些什么。”

「どうだろうな」
“谁知道呢。”


 いつも通りに言葉少なに会話しながら、クラウドとセフィロスは準備を済ませると、北に向かって歩を進めた。
克劳德和萨菲罗斯像往常一样话不多地交谈着,准备完毕后,便向北走去。






「どうですか」
“怎么样?”


 髪を風になびかせ、翼をはためかせながら天からふわりと降りてくるセフィロスを見上げながら、クラウドは声をかける。片足ずつ爪先からゆるやかに着地したセフィロスは、乱れた髪を適当に整えながらその問いに答えた。
克劳德仰望着萨菲罗斯,他头发随风飘扬,翅膀扇动着,轻盈地从天而降,克劳德向他搭话。萨菲罗斯双脚脚尖依次缓缓落地,随意整理了一下凌乱的头发,回答了这个问题。


「北西10 kmあたりのところに集落らしきものが見える」
“西北方向 10 公里左右的地方,能看到像是村落的东西。”


 ウータイ大陸を放浪し始めてからしばらく経つ。時間はそれこそ無限にあるので、暇つぶしの意味も兼ねて、クラウド達は大陸を移動するときには基本的に徒歩のみで進むようにしていた。道中、あえて入り組んだ地を歩いて生き延びた動物がいないか探してみたり、焼け落ちた森や岩々の隙間にひっそりと芽吹く次の世代の植物を眺めたりと気の赴くままに進む。そして時折、見当違いの方向に進みすぎるのを防ぐため、このようにセフィロスが空から目的地の場所を確かめる。この一年でできあがったクラウド達の旅のスタイルだった。
在乌泰大陆流浪已经有一段时间了。时间是无限的,所以为了打发时间,克劳德他们在大路上移动时,基本上都只靠步行。途中,他们会随意地走过崎岖的地形,寻找是否有幸存的动物,或者观察烧毁的森林和岩石缝隙中悄然萌芽的下一代植物。偶尔,为了防止走错方向,萨菲罗斯会像这样从空中确认目的地的位置。这是克劳德他们这一年来形成的旅行方式。


「集落の形が残っているんですか。メテオはウータイには直撃しなかったんですね」
“村落的形状还保留着吗?陨石没有直接击中乌泰啊。”


「あくまで『集落らしきもの』だ。近くには細かなクレーターが見えた。直撃は免れたにしても、破片は降り注いでいるだろう」
“那只是‘像是村落的东西’。附近看到了细小的陨石坑。即使没有直接击中,碎片也应该坠落了。”


「この辺りの海も確認しましたし、そろそろ向かいますか?」
“这附近的海域也确认过了,差不多该出发了吧?”


「そうだな。この距離なら明日には着くだろう」
“嗯。这个距离的话明天就能到了。”


「砂ともまたしばらくお別れですね」
“又要和沙子告别一段时间了呢。”


 若干の未練を込めてクラウドは呟いた。
克劳德带着些许不舍地低声说道。

 数日前、北に向けて進むうち、クラウド達は海岸に辿り着いた。そこからは、付近で見つけた岩場の陰を拠点に、海岸と海を見て回っていた。潮でべたつく体は不快だったが、ファイアとブリザドを調整して生み出した湯で洗い流し、仕上げにエアロで乾かせば問題はない。
几天前,克劳德一行人向北行进,抵达了海岸。他们以附近找到的岩石阴影为据点,观察着海岸和大海。虽然被潮水弄得黏糊糊的身体很不舒服,但只要用调整了火焰和暴雪魔法制造出的热水冲洗,再用疾风魔法吹干,就没问题了。

 津波の影響か、海岸は木材や瓶といった様々な物体で埋め尽くされていた。役立ちそうなものがないかそれらを見分した後は、人間の枠を外れた体を活かし、凍りそうに冷たい冬の海に素潜りした。海の中を泳いで回り、貝や海藻などの海洋に生きるもの達の姿を目に映し、時に手で触れてみる。見つけた数こそ多くはなかったが、陸と比べると海に生きる生物はややメテオの影響が薄いようだった。 
也许是海啸的影响,海岸上堆满了木材、瓶子等各种物品。在辨认出其中是否有可用之物后,他们利用超越人类极限的身体,潜入了冰冷刺骨的冬日大海。他们在海中游弋,看到了贝类和海藻等海洋生物,有时还会用手触摸它们。虽然发现的数量不多,但与陆地相比,海洋生物似乎受陨石的影响较小。

 クラウドが気に入っていたのは、砂だ。夜、静かに打ち寄せる波の音を聞きながら、体の重みに合わせて柔らかく形を変える砂の上で眠るのは思いのほか快適だった。
克劳德最喜欢的是沙子。夜晚,听着海浪轻柔拍打海岸的声音,躺在随着身体重量柔软变形的沙子上睡觉,出乎意料地舒适。


「……出発は明日でいいだろう。せいぜい堪能しておけ」
“……明天出发就行了。好好享受吧。”


 素っ気ない口ぶりで言うが、まだ暗くなりきっていないうちから設置した寝床にさっさと向かっているところを見ると、案外セフィロスも気に入っていたのかもしれない。
他嘴上说着冷淡的话,但看他天还没完全黑就迅速走向搭好的床铺,说不定萨菲罗斯也挺喜欢这个的。




 しばらく一人で気の向くままに海岸を散策していたクラウドは、夜の帳が降りる頃に寝床へと戻った。セフィロスは既に体を横たえているようだ。起きているのか眠っているのか判断が付かなかったので、クラウドはできるだけ静かに隣に体を潜り込ませた。
克劳德独自一人在海岸边随意散步了一会儿,直到夜幕降临才回到床铺。萨菲罗斯似乎已经躺下了。克劳德无法判断他是醒着还是睡着了,于是他尽可能安静地钻进了他身旁。


「うわっ」
“哇!”


 体を横たえた途端、背中の後ろに手のひらを回され、抱え込むように引き寄せられる。夜でも薄く光る猫のようなセフィロスの瞳がクラウドに向けられていた。口元には薄く笑みがたたえられている。
刚一躺下,他的后背就被一只手掌环住,然后他被抱住并拉近。萨菲罗斯的眼睛像猫一样,即使在夜晚也闪烁着微光,正注视着克劳德。他的嘴角带着一丝浅笑。


「起きていたんですか」
“您醒着呢?”

「……」
“……”


 吐息が白くなるほど冷えた夜の空気につつまれた中で、体の半分、セフィロスに触れている部分だけは温かくてほっとする。初めて雪が降った日から、二人は横になって眠るときにも体を寄せ合い、暖を分け合うようになっていた。
夜晚的空气冷得连呼吸都变成了白雾,而我身体的一半,也就是与萨菲罗斯接触的部分,却温暖得令人安心。自从初雪降临的那天起,我们两人在躺下睡觉时,便会紧紧相依,分享彼此的温暖。

 身を嬲る冷たい潮風が岩間から忍び込んでくる。もっと暖が欲しくて、クラウドも自分の腕をセフィロスの背中に回し、体の間にあった隙間をさらに埋めた。温かい。ほうっと満足のため息をもらしてセフィロスを見ると、瞼は既に下ろされていた。
冰冷的潮风从岩石缝隙中渗透进来,侵袭着身体。为了获得更多的温暖,克劳德也把自己的手臂环绕在萨菲罗斯的背上,进一步填补了两人身体之间的缝隙。真暖和。他满足地叹了口气,看向萨菲罗斯,发现他的眼睑已经合上了。

 クラウドは、伸びあがるようにしてすぐ側にあるセフィロスの唇に一瞬だけ自らの唇を触れさせた。特に理由はなかった。ただ近くにあったから、そうしただけだ。セフィロスの目がうっすらと開かれ、またすぐに閉じられる。
克劳德伸长身体,让自己的嘴唇轻轻触碰了一下近在咫尺的萨菲罗斯的嘴唇,只是一瞬间。没有什么特别的原因,只是因为就在旁边,所以就这么做了。萨菲罗斯的眼睛微微睁开,又很快闭上了。


「……おやすみなさい」
“……晚安。”

「…………おやすみ」
“…………晚安。”


 ぎこちなく言い慣れない夜の挨拶を交わして、クラウドもまた目を閉じた。規則的に響く静かな渚の音と、隣から微かに聞こえる寝息に耳を傾けているうちに、眠りに落ちていた。
两人笨拙地交换着不习惯的夜间问候,克劳德也闭上了眼睛。在有规律地回响的平静海浪声和身旁微弱的呼吸声中,他渐渐睡着了。


***


 翌日、世界が明らんできた頃に海岸を発ち、明るいうちに予定通りウータイ跡地に到着した。生物の気配の消えた息苦しいほどの静寂の中で、打ち捨てられた地を吹き抜ける風が悲しげな音を立てている。小規模のクレーターと倒壊した建物、焼け落ちた家屋の跡、まれに形を保っている建造物。それらの合間を縫うように、かつて人であっただろう白い骨が点々と落ちている。死の気配と寂寥に満ちた地だった。クラウドは罪悪感に胸を引き絞られる気持ちになりながら、街を見渡す。
第二天,天刚蒙蒙亮,一行人便离开了海岸,在天黑前如期抵达了五台遗址。在生物气息尽数消散的令人窒息的寂静中,风吹过这片被遗弃的土地,发出悲伤的声响。小规模的陨石坑和倒塌的建筑,被烧毁的房屋遗迹,偶尔还能看到保存完好的建筑物。在这些之间,散落着曾经是人类的白色骨骸。这是一片充满了死亡气息和寂寥的土地。克劳德心如刀绞,内疚地环顾着这座城市。


「人や、動物は……いなさそうですね」
“人类和动物……好像都不在了。”

「……損壊は今まで訪れた場所よりは少ないようだ」
“……这里的损毁程度似乎比我们之前去过的地方要轻。”


 簡単に街を見て回った後、クラウド達は街の端にある損壊の少ない塔を拠点とすることにした。クレーターや崩れた建造物の様子を見るというセフィロスと別れて、クラウドは外を歩いて回る。地面に落ちている骨を拾って、ウータイ跡のはずれに運び集めては、魔法で地を掘って埋葬することを繰り返した。メテオを落として、恐ろしいほどたくさんの命を奪っておいて、とんだ偽善だとは理解していたが、そうせずにいられなかった。
简单地巡视了一番城市后,克劳德一行人决定以城市边缘一座损毁较轻的塔楼为据点。与去查看陨石坑和倒塌建筑的萨菲罗斯分开后,克劳德在外面四处走动。他捡起地上的骨头,运到五台遗址的边缘,然后用魔法挖地进行埋葬,如此反复。他明白,在降下陨石,夺走了如此多可怕的生命之后,这简直是伪善,但他却无法不这样做。


 見つけられた限りの遺骨を埋葬し終えると、黙祷を捧げてその場を離れ、拠点と決めた建物に入る。セフィロスはまだ戻って来ていなかった。中を見て回るうち、階段を登った先に畳とその上に敷かれた寝具を見つけた。かつての旅で一度だけウータイを訪れたときにも、仲間だった人の家で畳を見たことがあった。その顔を思い出しかけて、記憶を振り払うように首を振る。自分には悼む資格などありはしない。
埋葬完所有能找到的遗骨后,我默祷片刻,然后离开那里,走进我们选定的据点。萨菲罗斯还没回来。我在里面四处查看,上楼后发现了一间铺着榻榻米和寝具的房间。我以前只去过一次五台,那时也在一个同伴家里见过榻榻米。我差点想起那个人的脸,但又摇了摇头,试图甩开记忆。我没有资格去悼念。


 寝具で寝られるのは随分と久しぶりだから、セフィロスも喜ぶかもしれない、と無理やり思考を切り替える。布団に降り積もったほこりをはたいて落とし、使えるように整える。街の損壊が比較的少ないのは喜ばしかった。だが、かつての姿を知っている分、荒廃した街を見て回ったことで普段以上に心が寂寥感に埋め尽くされていた。一人でいたくない、早く戻ってきてくれ、と自らの主人を思い浮かべながら声に出さずに呟き、クラウドは部屋の片隅に片膝を立てて座り込んだ。
我强迫自己转换思路,心想萨菲罗斯也许会很高兴,因为他很久没睡过寝具了。我拍掉被褥上的灰尘,把它们整理好,以便使用。城镇的损坏程度相对较轻,这让我感到欣慰。但是,正因为我知道它曾经的样子,所以当我在荒废的城镇中穿梭时,我的内心比平时更加充满了寂寥感。我不想一个人待着,快点回来吧,克劳德在心里默默地念叨着自己的主人,然后单膝跪地坐在房间的一角。




 外が暗くなってきた頃に、遠くで扉が開けられる音がした。セフィロスが戻ってきたのだろう。座り込んだまま部屋の入口に顔を向けて待っていると、階段を登る音がだんだんと近くなり、やがてセフィロスが姿を現した。見慣れた姿にほっとしながら、セフィロスが手に抱えているものに興味をひかれて問いかける。
天色渐暗时,远处传来开门的声音。萨菲罗斯应该回来了。我坐在原地,面向房间入口等待着,上楼的脚步声越来越近,萨菲罗斯终于出现了。我松了口气,看着他熟悉的身影,又被他手里抱着的东西吸引了注意力,于是问道:


「何か見つけたんですか」
“你找到什么了吗?”

「着られそうな服と、本だ」
“能穿的衣服,还有书。”

「本? 持っていくんですか?」
“书?您要带走吗?”

「ここを発つときには元の場所に戻すさ。急ぐ旅ではないし、しばらく滞在するのも悪くないだろう」 
“离开这里的时候会放回原处。反正也不是急着赶路,在这里多待一阵子也不错。”

「……そうですね。屋根に布団もありますし」
“……说得也是。屋顶上也有被褥。”


 ――本が好きなのだろうか。珍しく上機嫌な様子のセフィロスに少し驚きつつ、クラウドは提案に賛成した。反対する理由もない。寒さと雨風をしのげる場所があるのだから、たまにはそれを満喫したかった。
——他喜欢书吗?克劳德对萨菲罗斯难得心情不错的样子有些惊讶,但还是同意了他的提议。他也没有反对的理由。既然有可以避寒避雨的地方,偶尔也想好好享受一下。

 セフィロスの顔を見て、ほんの少しだけ人恋しさが落ち着いた。夜に差し掛かっているし、今日はもう眠ってしまおうかと思い、クラウドは座っていた場所から立ち上がって移動し、布団の上に仰向けになった。
看到萨菲罗斯的脸,克劳德内心对人际的渴望稍稍平复了一些。夜幕降临,他想着今天就睡了吧,于是从坐着的地方站起来,走到被褥上仰面躺下。

 ああ、柔らかい。多少ほこりっぽさはあるが、これまで地べたに寝ていたことを考えれば、何も文句はなかった。クラウドは目を閉じ、気を抜ききって手足を投げ出していた。
啊,真软。虽然有些灰尘,但考虑到之前一直睡在地上,他没有任何抱怨。克劳德闭上眼睛,彻底放松地伸展着手脚。

 ふと、自分の上にかかる影に気づき、目を開ける。
忽然,他注意到自己身上投下的阴影,睁开了眼睛。


「――セフィロス? どうしたんですか」
“——萨菲罗斯?怎么了?”

「……」
“……”


 クラウドの顔の横に両手をつき、覆い被さるような姿勢でセフィロスが見下ろしていた。セフィロスが戻って来て多少和らいだとはいえ、人恋しい気持ちが消えたわけではない。近くに来てくれたのなら、いつもしていたように、セフィロスの温度を感じたかった。顔の横に落ちる銀の髪の合間をくぐらせるように両腕を通し、クラウドはセフィロスを抱き寄せようとする。
萨菲罗斯双手撑在克劳德脸庞两侧,以一种俯身覆盖的姿势俯视着他。尽管萨菲罗斯的归来让他的心情多少有所缓和,但对人际的渴望并未消失。既然他靠得这么近,克劳德便想感受萨菲罗斯的温度,就像他们往常那样。他将双臂穿过萨菲罗斯银发间隙,试图将他拥入怀中。


 けれど、セフィロスがクラウドにくれたものは抱擁ではなく、唇への触れるだけのキスだった。ゆっくりと感触を楽しむように重ねられた後、二度、三度と柔らかく啄むように触れては離れていく。望んだものではなかったが、温かさを感じられるならどちらでも構わない。クラウドは目を閉じ、落とされる唇の柔らかさと温度を楽しんだ。
然而,萨菲罗斯给予克劳德的并非拥抱,而是一个仅仅触碰嘴唇的吻。在缓慢而享受地贴合之后,他又轻轻地啄吻了两三次,然后又离开。虽然这不是他所期望的,但只要能感受到温暖,他便无所谓。克劳德闭上眼睛,享受着落在唇上的柔软与温度。


――ああ、もっと深く繋がりたい。
——啊,想更深地结合。


 セフィロスと唇を重ねると、いつもおかしな欲求が湧き上がってくる。もっとセフィロスの温かさを感じたいという精神的な欲求に混ざるようにして浮かぶ、性欲とよく似た本能的な欲求。
每当与萨菲罗斯唇齿相依,总会涌起奇怪的欲望。那是一种与性欲极其相似的本能欲望,混杂在想感受更多萨菲罗斯温暖的精神欲望之中。

 不意に、セフィロスが唇を離して顔を上げる。やめないでほしい。もっとしてほしい。――けれど、何を? クラウドが目を開くと、上から見下ろすセフィロスが楽しそうに微笑んでいた。
萨菲罗斯突然离开他的唇,抬起头。别停。想要更多。——可是,要什么?克劳德睁开眼,看到萨菲罗斯从上方俯视着他,愉快地微笑着。


「随分と、物欲しそうな顔だ」
“你这副表情,可真够欲求不满的。”

「っ……」


 心を読まれたかのようで、羞恥に頬が熱くなるのが分かった。
他感觉自己的心思被看穿了,羞耻地感到脸颊发烫。


「セフィロス……」
“萨菲罗斯……”


 自分でも何をしてほしいのか分からないまま、クラウドはただ縋るようにセフィロスを見て、欲求を伝えるように片手でゆるりと彼の髪を握る。笑みを深くしたセフィロスの顔が近づいてきたと思ったときには、再び優しい口付けを与えられていた。
克劳德自己也不知道想要什么,只是乞求般地看着萨菲罗斯,用一只手轻轻握住他的头发,仿佛在传达自己的渴望。当他以为萨菲罗斯带着更深的笑容靠近时,又一次得到了温柔的亲吻。


「……っん、ぅ?」
“……嗯,啊?”


 今度はしっかり唇を合わせたまま離れていかず、代わりのようにぬるりとしたものに唇の合わせを辿られた。促されるままに薄く口を開くと、唇を合わせるだけだったキスが、深いものへと変わる。飴のように甘く感じられる蜜を纏ったセフィロスの舌が唇の合わせ目から潜り込み、クラウドの口内を探っていた。ゆるゆると歯列を辿り、上顎を舌で辿られる。くすぐったいような、じわじわとした痺れが腰の奥にたまっていくような、不思議な感覚だった。
这次,双唇紧密相贴,不再分离,取而代之的是一种滑腻的感觉,沿着唇缝蔓延。在催促下,他微微张开嘴,原本只是双唇相接的吻,变得更加深入。赛菲罗斯的舌头带着蜜糖般的甜味,从唇缝潜入,探索着克劳德的口腔。它缓缓地沿着齿列移动,舌尖在上颚游走。那是一种奇妙的感觉,既有些痒,又像是有种麻痹感,一点点地积聚在腰部深处。


「……ふ、ぁ……」
“……呼,啊……”


 思わず鼻先から抜けるような声が漏れ出る。厚いセフィロスの舌に柔らかく舌を絡めとられ、すり合わされると、鈍くゆるやかな気持ちよさに頭がくらくらするようだった。口内にたまったどちらのものか分からない甘い唾液をこくりと飲み下すと、体がぞくりと熱くなる。与えられている快感とは別に、体の奥で燻るように生じた熱を訝しく思いながらも、考える余裕はクラウドにはなかった。深い口付けに翻弄される中、飲み込み切れなかった唾液が口の端を濡らしながら零れていく。クラウドはその深いキスの応え方も分からず、ただされるがままに舌を吸われ、絡められ、与えられるがままに頭が痺れるような快感を享受していた。
不自觉地,一声从鼻尖逸出的呻吟漏了出来。赛菲罗斯厚实的舌头温柔地缠绕住他的舌头,相互摩擦,迟钝而缓慢的快感让他头晕目眩。他咕咚一声咽下口中不知是谁的甜美唾液,身体顿时一阵灼热。除了被给予的快感,身体深处还燃起一股莫名的热意,尽管感到疑惑,克劳德却无暇思考。在深吻的摆布下,未能吞咽的唾液顺着嘴角溢出,打湿了脸颊。克劳德不知道如何回应这个深吻,只是任由舌头被吸吮、缠绕,享受着被给予的、令他头脑麻痹的快感。


 ライフストリームの中で、一時セフィロスと意識を共有したときの快感を思い出す。一つに繋がり、思いを分かち合う幸福感。セフィロスと体内の柔らかな部位を重ね合っているのだと思うと、そのときと近い幸福感を感じられるような気がした。ああ、だけど、もっと深く、もっと近く、あなたに触れたい。ひとつになりたい。
他回想起在生命之流中,曾与赛菲罗斯短暂共享意识时的快感。那种融为一体、分享思想的幸福感。当他想到赛菲罗斯的身体柔软部位与自己重叠时,他感觉自己仿佛能感受到与那时相似的幸福感。啊,但是,我想要更深、更近地触碰你。我想要与你合二为一。

 

ようやく唇が解放されたとき、クラウドの息は上がりきっていた。涙に潤んだ視界でセフィロスを見つめながら、荒い息を整える。
当唇终于被解放时,克劳德已然气喘吁吁。他泪眼朦胧地望着萨菲罗斯,调整着急促的呼吸。


「はっ、はぁっ、ぁ、あ……セフィロス、おれのからだ、おかしいです。あつい」
“哈、哈啊、啊、啊……萨菲罗斯,我的身体,好奇怪。好热。”


 熱に浮かされたように呂律まで怪しくなっていた。キスで与えられた快感に加えて、甘い蜜のようだったセフィロスの唾液を飲み込んでから体が疼いてたまらない。訳の分からない自分の体の状態に混乱し、セフィロスに首の後ろにまわした手の力を縋りつくように強める。
他仿佛被热意冲昏了头脑,连说话都变得含糊不清。除了亲吻带来的快感,自从吞下萨菲罗斯那如蜜般甘甜的唾液后,他的身体便止不住地悸动。他被自己身体这莫名其妙的状态搞得一头雾水,于是紧紧抓住萨菲罗斯环在他颈后的手,仿佛在寻求依靠。


「怖がらなくていい。お前は私のコピー?インコンプリートだ。私の体液を取り込んで、疑似的なリユニオンの快感を得ているのだろう。そのうち慣れる」
“不必害怕。你是我的复制品?不完整。你摄入了我的体液,正在体验拟态的重聚快感吧。很快就会习惯的。”


 セフィロスは宥めるようにクラウドの頬を撫でながら、そう教えてくれる。優しげなその仕草でさえ刺激となり、クラウドはピクリと体を震わせた。
萨菲罗斯抚摸着克劳德的脸颊,仿佛在安抚他,同时告诉他这些。即使是他温柔的举动也成了刺激,克劳德的身体颤抖了一下。


「どうしてほしい、クラウド」
“你想要我怎么做,克劳德?”

「え……?」
“呃……?”


 薄らと発光するその瞳を見上げていると、理性が溶け、頭の中にもやがかかるようだった。意図せず先程まで自分が思い浮かべていた言葉が口から滑り落ちる。
仰望着那双微微发光的眼睛,理智仿佛融化了,脑海中也蒙上了一层薄雾。刚才自己脑海中浮现的词语,不自觉地从口中滑落。


「――もっと、深くつながりたい。あなたと、ひとつになりたいです、セフィロス」 
“——我想更深地与你连结。我想与你合二为一,萨菲罗斯。”


 呂律の怪しいそれが自分の声だと気づいた瞬間、クラウドは羞恥で顔に血が上るのを感じた。この状況でその言い回しは誤解を招く。
当克劳德意识到那含糊不清的声音是自己的时,他感到羞愧得脸颊发热。在这种情况下,这种说法会引起误解。


「違うんです、そういう意味ではなくて!」
“不是的,我不是那个意思!”


 慌てて否定するが、もう遅いのだろう。背筋がぞくりとするような、嗜虐的で艶やかな笑みが目の前にあった。
他急忙否认,但可能已经太迟了。眼前是令人毛骨悚然的、虐待狂般艳丽的笑容。


「お望みとあらばそうしよう」
“如你所愿。”

「違うんです、俺はただ……!」
“不是的,我只是……!”

「クラウド」
“克劳德。”


 クラウドは何とか言葉を紡ごうとするが、低く甘い、有無を言わせない声でセフィロスに遮られる。
克劳德试图说些什么,却被萨菲罗斯低沉而甜腻、不容置疑的声音打断了。


「私はな、クラウド。お前が嫌がることほどしてやりたくなる」
“克劳德,我啊。你越是讨厌什么,我就越是想做。”


 うっとりと囁かれた言葉に肌が粟立ち、逃げられないのだと悟る。そういうつもりではなかったけれど、セフィロスの体温を感じることも、唇を合わせることも好きだから、肌を合わせることにそこまで抵抗はない。おかしな具合に興奮してしまっている自分の体も一人ではどうすればいいか分からない。覚悟を決め、クラウドは体から力を抜いて、セフィロスの頭を引き寄せながら言った。
被那甜腻的低语激得皮肤起了鸡皮疙瘩,克劳德明白自己已无处可逃。虽然本意并非如此,但他喜欢感受萨菲罗斯的体温,也喜欢与他唇齿相依,所以对肌肤相亲并没有那么抗拒。他不知道自己这副异常兴奋的身体该如何是好。克劳德下定决心,放松身体,一边将萨菲罗斯的头拉向自己,一边说道。


「……お手柔らかに、お願いします」
“……请您温柔一点。”




柔らかく湿った舌を絡ませ、熱い口内を探り合い、吐息を交わす。荒い呼吸に絡む鼻にかかった自分の声と、密やかなセフィロスの吐息、そして時折舌の交わりが生む粘度のある水音。瞼を下ろした暗闇で、自分の中に響く音に脳を犯されるようでぞくぞくする。セフィロスの甘い唾液を啜るたびに疼きを増していく体を持て余しながら、クラウドはつい先程知ったばかりの深い口付けに夢中になっていた。
柔软湿润的舌头交缠,在炽热的口腔中探索彼此,交换着呼吸。粗重的呼吸中夹杂着自己鼻音浓重的声音,萨菲罗斯低沉的喘息,以及舌头交缠时偶尔发出的黏腻水声。在闭上眼睛的黑暗中,脑海中回荡着的声音让他感到一阵阵的颤栗,仿佛被侵犯了一般。克劳德一边任由身体因吸吮萨菲罗斯甜美的唾液而愈发酥麻,一边沉浸在刚刚才学会的深吻之中。


「はぁ……んっ……」
“哈啊……嗯……”


 両手でセフィロスの頭を抱え込み、隙間なく唇を合わせる。もっと深く繋がりたい。どうすればいいかも分からずただ自分の舌でセフィロスの舌を怖々となぞれば、導くように絡めとられて欲しかったものを与えられた。途中、角度を変える度に食まれて擦れる唇さえ、鈍い快感を訴えてくる。セフィロスの息に合わせるようにして必死で息継ぎしながら、クラウドは過去に感じたことのない酩酊するような心地よさを味わっていた。
他双手抱住萨菲罗斯的头,唇瓣紧密相贴。他想更深地结合。他不知道该怎么做,只是小心翼翼地用自己的舌尖描摹着萨菲罗斯的舌头,然后就被引导着缠绕在一起,得到了他想要的东西。途中,每当改变角度时,被啃噬摩擦的嘴唇甚至都诉说着迟钝的快感。克劳德拼命地配合着萨菲罗斯的呼吸换气,体验着前所未有的酩酊般的舒适感。


 キスを続けたままセフィロスの手がクラウドのシャツにかかり、片手で器用にボタンを外していく。火照った肌が空気にさらされて気持ちがいい。唇が離れる頃には、腹までむき出しにされていた。片手で背中を持ち上げられ、シャツを腕から抜き取られる。布団に体を下ろされるついでに、性感を煽るいたずらな手つきで背骨の線を辿られ、反るようにクラウドの体がしなった。
吻着吻着,萨菲罗斯的手搭上克劳德的衬衫,单手熟练地解开纽扣。发烫的皮肤暴露在空气中,感觉很好。唇瓣分开时,他的腹部已经完全裸露。他被单手托起背部,衬衫从手臂上被脱下。身体被放到被褥上时,萨菲罗斯的手指调皮地沿着脊椎线抚摸,煽动着性感,克劳德的身体随之弓起。


 ふとそこで、何かを企んでいるような薄い笑みを浮かべたセフィロスがクラウドの腹を撫でるように触れる。覚えのある妙な感覚が一瞬だけ体の中を走った。まるで、ライフストリームの中で体を作り替えられたときのような違和感。
就在这时,萨菲罗斯脸上带着一丝仿佛在密谋着什么的浅笑,抚摸着克劳德的腹部。一种熟悉的奇怪感觉瞬间流遍全身。就像在生命之流中身体被重塑时的那种违和感。


「セフィ、ロス……? なにを……」
“萨菲、罗斯……?你、你做什么……”

「気にするな。お前は快楽だけ感じていたらいい」
“别在意。你只要感受快乐就好。”


 そう言うと、セフィロスはそっと顔を伏せ、血管を辿っていくようにクラウドの首筋に舌を這わせた。その温かくぬめった感触にぞくぞくとしながら、クラウドはセフィロスの背中に手を回し、二人の体の間の距離を埋めようとした。瞬間、不満をおぼえる。その肌を、体温を感じたいのに、二人を隔てる服が酷く邪魔だった。
说着,萨菲罗斯轻轻低下头,舌尖沿着克劳德的颈动脉游走。克劳德在那种温暖而湿滑的触感中颤栗着,他伸出手臂环住萨菲罗斯的背,试图缩短两人身体间的距离。瞬间,他感到不满。他想感受他的肌肤,他的体温,但隔开两人的衣服却碍事极了。


 欲求に従い、クラウドは両手でセフィロスの肩を軽く押して距離を開け、シャツのボタンを外していく。疼くような熱を持った体は力が入らず、手が震えて思うように動かない。もどかしさに苛立ちながらも、時間をかけてクラウドが全てのボタンを外し終えると、セフィロスは自らシャツを脱ぎ落としてくれた。
顺从欲望,克劳德用双手轻轻推开萨菲罗斯的肩膀,拉开距离,然后解开他的衬衫纽扣。他那因情欲而发热的身体使不上力气,双手颤抖着,无法随心所欲地动作。尽管被焦躁感折磨着,但当克劳德花时间解开所有纽扣后,萨菲罗斯便主动脱下了衬衫。


「ぜんぶ……」
“全部……”

「うん?」
“嗯?”

「ぜんぶ、とってください。あなたを、直に感じたい」
“把它们都拿掉吧。我想直接感受你。”


 そんな舌足らずに紡がれた願いを叶えるように、セフィロスはクラウドのボトムスと下着を手早く脱がせ、自らの衣服も全て取り去った。そうして覆い被さるように、一糸纏わぬ体をクラウドに与えてくれる。クラウドは喜びに口角を上げ、セフィロスの首筋にすり寄るようにしながらその分厚い筋肉質の体を抱き寄せた。むき出しの肌はなめらかで、あたたかい。触れあった瞬間、満足感に思わず吐息がもれた。接している部分からぴりぴりとした微かな快感が走り、全身が総毛立つ。
为了满足这稚嫩的愿望,萨菲罗斯迅速脱掉了克劳德的裤子和内衣,也脱去了自己所有的衣物。然后,他赤身裸体地覆上克劳德的身体。克劳德喜悦地扬起嘴角,像依偎着萨菲罗斯的脖颈一样,抱紧了他那厚实而充满肌肉的身体。裸露的肌肤光滑而温暖。触碰的瞬间,满足感让他不禁叹息。接触的部分传来一丝微弱的酥麻快感,全身的汗毛都竖了起来。


「……あたたかい」
“……好温暖。”


 抱擁を堪能するクラウドに微かな苦笑をこぼすと、セフィロスは体を離し、クラウドの体を撫でるように手を這わせ始めた。その小さな刺激にさえ、クラウドの体はぴくりと反応する。やがて胸の突起に辿り着くと、セフィロスは指で円を描くように刺激を与え始めた。
萨菲罗斯对沉浸在拥抱中的克劳德露出一丝苦笑,然后离开了他的身体,开始用手抚摸克劳德的身体。即使是这微小的刺激,克劳德的身体也颤抖着做出反应。当手最终来到胸前的突起时,萨菲罗斯开始用手指打圈刺激它。

 それまで触れたこともない部位なのに、あつく燻る熱に満たされたクラウドの体は、セフィロスの与えるそれらの刺激を快感として受け取ってしまう。思わず妙な声が出そうになり、堪えるようにクラウドは眉根を寄せて、はぁ、と熱く震える息を吐いた。
明明是此前从未触碰过的部位,克劳德被灼热的烟熏般的热意填满的身体,却将萨菲罗斯给予的那些刺激当作快感来接受。他差点发出奇怪的声音,克劳德皱起眉头忍耐着,呼地吐出热烈颤抖的气息。


「堪えるな。好きなだけ啼けばいい」
“别忍着。想怎么叫就怎么叫。”


 その言葉に恥じるように目線を彷徨わせるクラウドに構わず、片方の胸の飾りを指で刺激しながら、セフィロスはもう片方の頂きに顔を寄せ、くすぐるように舐めあげてくる。
克劳德的目光因这句话而羞耻地游移着,萨菲罗斯却毫不在意,他用手指刺激着一边的胸饰,同时将脸凑到另一边的顶端,像挠痒痒般地舔舐着。


「……んっ」
“……嗯!”


 熱く濡れた感触は、指よりも柔らかく淫らに動き、もどかしくなるような快感を与えてくる。湧き上がってくる熱を逃がそうとクラウドは身じろぎするが、セフィロスは舌を離してはくれなかった。
湿热的触感比手指更柔软、更淫靡地蠕动着,带来令人焦躁的快感。克劳德扭动身体,想要摆脱涌上来的热意,但萨菲罗斯的舌头却不肯离开。


「あ、……んん、や……いた、い」
“啊,……嗯嗯,不……疼,疼”

「嫌じゃないだろう」
“你不是不情愿吧。”


 意地悪く噛むようにして与えられた痛みさえ、快感を煽るだけだった。時折左右を交代しながら胸の飾りが色を変えるまで指と舌でしつこく嬲られ、クラウドはとっくに勃ち上がっていた自身がじわりと濡れていくのを自覚した。
就连被恶意地啃咬所带来的疼痛,也只是煽动着快感。胸前的装饰被手指和舌头交替地反复玩弄,直到变了颜色,克劳德意识到自己早已勃起的性器正渐渐湿润。


 次第に胸から腹を伝い下へと降りていく舌が、臍のくぼみに差し入れられる。視力に優れた魔晄眼は、夜の帳が降りた中でも、濡れた舌がいやらしくひらめく様子を鮮明に教えてくれた。セフィロスに、自らの主人に全身を触れられている。そう思うだけで頭がくらくらする。もどかしい刺激と、より直接的な快感の元へと愛撫が近付いていく期待で、全身がふるりと震えた。
舌头逐渐从胸口向下,滑过腹部,探入肚脐的凹陷处。魔晄眼视力极佳,即使在夜幕降临后,也能清晰地看到湿润的舌头不怀好意地闪动着。被萨菲罗斯,被自己的主人全身触碰着。仅仅是这样想,就让头脑发昏。焦躁的刺激,以及爱抚逐渐接近更直接的快感源头的期待,让全身颤抖起来。


「……あ、ぁっ……セフィロス……」
“……啊,啊……萨菲罗斯……”


 焦らされるようにじわじわと体を刺激されるのに耐えられず、自分でも分かるほど欲に塗れた声音で、ねだるようにクラウドはセフィロスの名を呼んだ。
无法忍受身体被一点点地、焦灼地刺激着,克劳德用连自己都能听出的充满欲望的声音,乞求般地呼唤着萨菲罗斯的名字。


「言葉にされないと分からないな」
“你不说出来,我可不知道。”


 妖艶に微笑みながら、セフィロスはすげなくそう言ってクラウドの熱の中心に息を吹きかける。主張するそこを避けるようにして太腿に舌を這わせていき、足の付け根を吸うように唇を落とした。その刺激に、クラウドの高ぶりからまた一筋涙が溢れる。
萨菲罗斯妖艳地微笑着,冷淡地说着,同时向克劳德炽热的中心吹气。他避开那挺立之处,舌头沿着大腿向上舔舐,然后嘴唇吸吮着大腿根部。受到这刺激,克劳德的兴奋中又溢出一行泪水。


「うぁ……っ、んっ……」
“呜啊……嗯……”


 クラウドは目を見開いて、焦らすようなその刺激に腰をくねらせた。意地の悪いセフィロスの返答にもどかしくなるのと同時に、自ら求める言葉を口にさせられる羞恥に被虐的な興奮を覚える。
克劳德睁大眼睛,因那焦灼的刺激而扭动腰肢。萨菲罗斯恶意的回应让他感到焦躁,同时,被迫说出自己渴望的话语的羞耻感,让他感受到一种受虐的兴奋。


「……さわって、ください。きもちよくなりたい……っ」
“……请、请碰我。我想要……舒服……”


 縋るように欲望を口にしながら、体を這っていたセフィロスの手を自分の手で絡み取るようにして、だらだらと涎を零す自らの中心へと導いた。
他一边喘息着说出自己的欲望,一边用自己的手缠住萨菲罗斯在他身上游走的手,引导着它来到自己流着涎液的性器上。


「いいだろう」
“好啊。”


 薄く笑ったセフィロスは、長い髪を耳にかけ、その手でするりとクラウドの屹立を撫で上げながら先端に軽く口付けた。
萨菲罗斯浅笑着将长发别到耳后,用那只手轻轻抚摸着克劳德勃起的性器,然后轻柔地吻了吻顶端。


「ひっ――ああっ!」
“嘶——啊!”


 焦らされていた分、直接そこに触れられるのは刺激があまりに強く、それだけで達しそうになる。セフィロスは見せつけるように裏筋を舐めあげ、零れる蜜を塗り広げるように指で亀頭をやわやわと刺激する。指と舌が触れる度にクラウドはびくびくと体を跳ねさせ、切羽詰まった声を上げることしかできなかった。達しそうになると引いていく、弄ぶような触れ方に息を荒くして悶えていたとき、突然ぬるりとした温かい感触に下腹部を覆われた。
被吊足了胃口,直接被触碰到的刺激过于强烈,光是这样就快要达到高潮。萨菲罗斯像是炫耀一般舔舐着冠状沟,用手指轻柔地刺激着龟头,将溢出的蜜液涂抹开来。每当手指和舌头触碰到一起,克劳德的身体就会颤抖着弹跳起来,只能发出急促的声音。当他快要达到高潮时,萨菲罗斯又会抽离,这种玩弄般的触碰让他呼吸急促地呻吟着,突然间,下腹部被一种湿滑温暖的感觉覆盖。

 初めて感じる感触に驚いてそこを見ると、整った顔がクラウドの性器を咥えていた。直接の刺激に加えて、その情景が何より衝撃的だった。美しい存在を汚しているような背徳感と、支配者たる人が這うようにして自分に奉仕している倒錯的な光景。目にした瞬間、頭が真っ白になり、世界からセフィロス以外の一切が目に映らなくなる。暗い興奮で頭が焼き切れるようだった。セフィロスの喉が何かを飲み下すように上下するのを見て、ようやく自分が達していたことに気が付いた。
克劳德惊讶地看向那从未感受过的触感,只见一张俊美的脸正含着他的性器。除了直接的刺激,眼前的景象更是令人震惊。那种玷污了美丽存在的背德感,以及身为支配者的人像匍匐般为自己服务的倒错景象。看到的那一瞬间,他的大脑一片空白,世界中除了萨菲罗斯,一切都从眼中消失了。黑暗的兴奋仿佛要烧毁他的大脑。当他看到萨菲罗斯的喉咙像吞咽着什么一样上下蠕动时,才终于意识到自己已经达到了高潮。

 冷めやらぬ興奮にその身を支配されたまま、クラウドはふらふらと身を起こす。唇を指で拭うセフィロスの前に誘われるように近づき、上目にその目を見つめながら甘い声で懇願した。
身体被尚未平息的兴奋所支配,克劳德摇摇晃晃地起身。他像是被吸引一般走向用手指擦拭嘴唇的萨菲罗斯,仰视着他的眼睛,用甜腻的声音恳求道:


「おれも、したいです。セフィロス……させてください」
“我也想……萨菲罗斯……请让我来。”

「好きにしろ」
“随你。”


 そう言うとセフィロスは壁に背を預け、クラウドがやりやすいように足を開いてくれた。クラウドはその足の間にうずくまり、既に形を変えているそれに引き寄せられるように舌を触れさせた。両手で支え、形を確かめるように舐めていると、先端からぷくりと雫が生まれる。味のないそれを反射的に舐めとって飲み込んだ瞬間、ざわざわとした体の疼きがさらに増し、頭の先から指先まで痺れるような快感が襲った。気持ちいい。もっと舐めたい。――オリジナルの体液を取り込むことによる疑似的なリユニオンの感覚、とセフィロスが言っていた。これもそうなのだろうか?
萨菲罗斯说着,背靠墙壁,双腿分开,方便克劳德行动。克劳德蜷缩在他的双腿之间,舌尖触碰到那已经变形的部位,仿佛被吸引一般。他用双手托住,像是在确认形状般舔舐着,前端冒出一滴水珠。他反射性地舔掉那无味的水珠并吞下,瞬间,身体的骚动感更加强烈,从头到脚趾都传来麻痹般的快感。好舒服。还想再舔。——萨菲罗斯曾说,这是通过摄取原始体液而产生的模拟重聚感。这也是吗?


 雫がもっと溢れてくるように夢中になって舌を這わせ、セフィロスがしてくれたようにそれを頬張ると、かすかな吐息が上から聞こえ、頭にのせられた手に力がこもる。その反応が嬉しくて、もっと奉仕したいと思うのに、どうすればいいのか分からない。困って咥えたままセフィロスを見上げると、僅かに色を増した声でクラウドを導くように教えてくれた。
他沉迷地用舌头舔舐着,希望水珠能溢出更多,像萨菲罗斯之前做的那样,将它含入口中。上方传来一声轻微的叹息,放在他头上的手也加重了力道。他为这种反应感到高兴,想要更进一步地侍奉,却不知该如何是好。他困惑地含着它,抬头看向萨菲罗斯,萨菲罗斯用略带沙哑的声音引导着他,教他该怎么做。


「吸うようにして口を窄めて、そのまま頭を上下させればいい。口に入らないところは手で……っ、そう……いい子だ」
“像吸吮一样收紧嘴巴,然后上下摆动头部就行了。嘴巴够不到的地方就用手……嗯,对了……好孩子。”


 いつもよりもほんの僅かに掠れ、吐息の混ざるセフィロスの声と、言われた通りに刺激すると素直に反応を返すそれがどうしようもなくクラウドを煽る。クラウドの中心もまた熱を持ち、痛いくらいに張り詰めていた。自分がセフィロスを悦ばせているのだと思うと喜びで頭の芯が痺れるようだった。
萨菲罗斯的声音比平时沙哑了一点点,还带着喘息,而那东西也如他所言,乖顺地回应着刺激,这让克劳德无可奈何地被撩拨起来。克劳德的中心也变得灼热,紧绷得生疼。一想到自己正在取悦萨菲罗斯,喜悦就让他头皮发麻。

 恍惚としながらセフィロスの雄に愛撫を続け、溢れる蜜を啜る。しばらくすると、頭を固定されて何度か激しく喉を突くように動かされた。
克劳德恍惚地继续爱抚着萨菲罗斯的性器,啜饮着溢出的蜜液。过了一会儿,他的头被固定住,然后被猛烈地顶了几次喉咙。


「む、ぐっ……んん――!」
“唔、咕……嗯——!”

「……出すぞ」
“……我要射了。”


 喉を突かれる痛みや苦しみさえ、セフィロスに与えられていると思うと興奮した。艶のある抑えた声が聞こえたと感じたときには、口の中に粘度のある液体が叩きつけられていた。甘くて、おいしい。舌は確かに苦味を認識しているのに、クラウドには甘露のようにしか感じられなかった。一滴たりとも零したくない。喉を鳴らして口内の液体を飲み下すと、体の内側から自分がばらばらになりそうな快感が走り、目の前が白く弾けた。射精が終わった後に残る最後の一滴まで吸い出して味わうと、半ば放心した状態でクラウドはへたり込んだ。自らの体を抱くようにして、電流のように体を流れる狂いそうなほどの快感に耐える。
喉咙被刺穿的疼痛和痛苦,只要想到是萨菲罗斯给予的,就让克劳德兴奋不已。当他感觉听到一个富有光泽的低沉声音时,口中已经被灌入了粘稠的液体。甜美,美味。舌头明明尝到了苦味,克劳德却只觉得那是甘露。他不想浪费哪怕一滴。喉咙发出咕嘟声,将口中的液体咽下,一股仿佛要将自己从内部分解的快感从体内奔涌而出,眼前一片白光炸裂。直到射精结束后,他吸吮并品尝了最后一滴,然后半失神地瘫软下来。他抱住自己的身体,忍受着电流般流遍全身的疯狂快感。


「あああぁ――!ぁ……っふ……うあ、あぁ……!」
“啊啊啊啊——!啊……嘶……呜啊,啊啊……!”


 力の抜けた体を押されるようにして再度布団に組み敷かれた。セフィロスが焦点の合わないクラウドの表情を覗き込み、揶揄するように言葉を投げかける。
失去力气的身体被推着,再次被按倒在被褥上。萨菲罗斯凑近克劳德失焦的表情,嘲讽般地抛出话语。


「咥えただけでイったのか。いやらしい身体だな」
“只是含着就高潮了。真是淫荡的身体啊。”


 形のいい唇が孤を描く様子が視界に映っているけれど、頭が快楽に焼き切れていて、セフィロスの言葉が理解できない。もっと飲みたい、欲しい、ひとつになりたい。けれど、溶けてしまいそうなほどの快楽が怖い。抗いがたい欲求と、無理だと訴える理性が代わる代わる脳に語り掛けてくる。絶頂の余韻に体を震わせながら、クラウドは救いを求めるようにセフィロスに縋りついた。
他形状优美的双唇勾勒出弧度,映入眼帘,但他的大脑已被快感烧坏,无法理解萨菲罗斯的话语。他想喝更多,想要更多,想融为一体。然而,他害怕那几乎能将他融化的快感。难以抗拒的欲望和声称不可能的理智轮番在他脑中低语。身体因高潮的余韵而颤抖,克劳德仿佛寻求救赎般紧紧抓住萨菲罗斯。


「セフィロス……たすけて、ください。おれ……こわれてしまう」
“萨菲罗斯……请帮帮我。我……要坏掉了。”

「安心しろ、壊れない。初めてだから過敏に反応しているのだろう。回数を重ねればそのうち慣れる」
“放心,你不会坏掉的。第一次所以反应过度了吧。多几次就会习惯的。”


 そう言うと、セフィロスは弛緩したクラウドの体を四つん這いにさせて、秘所に手を伸ばした。慎ましやかな蕾を撫でると、指をそこに埋め込んでいった。
说着,萨菲罗斯让瘫软的克劳德呈四肢着地状,手伸向了秘处。他抚摸着那含苞待放的花蕾,然后将手指埋了进去。


「あ、あっ……なん、で?」
“啊,啊……为、为什么?”


 自分で触ったことはないし、セフィロスが何かを使った様子もないのに、引きつるような感覚もなくそこは指を受け入れている。まるで潤滑剤でもつけているかのように抵抗がない。違和感に混乱してセフィロスを振り返ると、薄らと微笑んでいた。
他从未自己触碰过那里,萨菲罗斯也没有使用任何工具,但那里却毫无抽搐感地接纳了他的手指。仿佛涂了润滑剂一般,毫无阻力。他因这异样而感到困惑,回头望向萨菲罗斯,只见对方微微笑着。


「お前を濡らす道具がない。ならばお前の体が濡れていればいいだろう?」
“我没有能让你湿润的工具。那么,只要你的身体湿润了不就好了吗?”


 腹を撫でられたときの体の違和感を思い出す。
他回想起腹部被抚摸时身体的异样感。


「さっきの……? おれの、からだ、かえたんですか」
“刚才那个……?您、您是改变了我的身体吗?”

「中が多少濡れるようにしただけだ。痛い思いはしたくないだろう」
“我只是让里面稍微湿润了一些。你不会想受伤的吧。”


 話している間にも指が奥へと潜り込んでくる。体内を探られる違和感はあるが、ゆっくりと広げるように抜き差しされる感覚は、火照ったクラウドの体にとってはむしろ快感に近かった。
说话间,手指已经探入更深处。虽然体内被探索的感觉有些异样,但那种缓慢扩张、抽插的感觉,对于燥热的克劳德来说,反而更接近于快感。

 理性を保てる程度の穏やかな快感に安心し、気を抜いたときだった。セフィロスの指が、何かを狙うようにクラウドの中を押し上げる。
就在他因这种能保持理智的温和快感而感到安心,放松警惕的时候。萨菲罗斯的手指,仿佛瞄准了什么一般,在克劳德体内向上顶去。


「っあァ! な、に……? あ、やっ、あぁ! んッ――!」
“啊啊!什、什么……?啊,不、啊啊!嗯——!”


 快楽の神経を直接撫で上げられるような強烈な快感がクラウドを襲っていた。訳も分からず、ただセフィロスの指の動きに合わせて体が跳ね、嬌声が漏れる。
一股仿佛直接抚摸着快乐神经的强烈快感袭向克劳德。他不明所以,身体只是随着萨菲罗斯手指的动作而颤抖,娇声溢出。


「前立腺、というらしい。感度は人によるらしいが、初めてでこれなら、お前は淫乱の素質があるのだろう」
“这叫前列腺。据说敏感度因人而异,但你第一次就这样,看来你很有淫乱的潜质。”


「そん、な……ああァ! ひ、んっ、やめっ……うぁっ」
“怎、怎么会……啊啊!不、嗯,住手……啊!”


 執拗にそこを責められ、言葉をまともに発せられない。腕で体を支えていられず、尻だけをかかげるような体勢でクラウドはびくびくと身悶えていた。気まぐれに背中を舐めあげられると中の指を締め付けてしまい、予想がつかない刺激にさらに喘ぎをもらす。
那里被执拗地攻击着,让他无法正常地发出声音。克劳德无法用手臂支撑身体,只能抬高臀部,颤抖着扭动身体。当后背被随意地舔舐时,他会夹紧体内的手指,无法预料的刺激让他发出更多的喘息。

 ゆっくりと指の本数が増やされているのか、次第に感じる圧迫感が増していた。埋め込まれた指をばらばらに動かし、前立腺を擦られると、快感に視界が潤むのが分かる。
手指的数量似乎在慢慢增加,压迫感也逐渐增强。当插入的手指分开活动,摩擦到前列腺时,他能感觉到视线因快感而变得模糊。


「さ、わって……セフィ、ロス……あ、ぁっ……おれの、さわってください。……イきたいっ」
“摸……萨菲罗斯……啊,啊……摸摸我……我想……我想高潮!”

「触らなくても、イけただろう?」
“就算不碰,你也能高潮,不是吗?”


 後ろの刺激を受け、固く立ち上がった自身が涙を零していた。前立腺を押し上げられるたびに射精感に襲われるが、味わったことのない強すぎる快感では達することができない。直接そこを触って解放させてほしいとねだっても、セフィロスは願いを聞き入れてはくれなかった。
后方传来的刺激让坚硬挺立的自身流下了眼泪。每当前列腺被顶起,射精感便会袭来,但这种前所未有的强烈快感却无法让他达到高潮。即使他乞求塞菲罗斯直接触碰那里以获得解放,塞菲罗斯也未曾听从他的愿望。




 指を抜かれてひくりと震えるそこに、後ろから熱く湿った感触が突きつけられた。それだけの接触でも、体が悦びにぞくりと粟立つのが分かる。怖かった。セフィロスの体液を取り込む痺れるような快感と、後ろを刺激される強烈な快感。どちらか一方でも理性が飛びかけるのに、同時にそれらの快感に襲われたら今度こそ自分がばらばらになってしまいそうな気がした。
当手指被抽出,那里抽搐着颤抖时,身后传来湿热的触感。仅仅是这样的接触,身体便因愉悦而颤栗。他感到害怕。吸入塞菲罗斯体液的麻痹快感,以及后方被刺激的强烈快感。两者中任何一个都能让他失去理智,而如果同时被这些快感袭击,他觉得自己这次真的会四分五裂。


「――セフィロス」
“——塞菲罗斯。”


 快楽に狂うのが怖い。肩越しにセフィロスと視線を合わせて不安を訴えると、脇に手を回され、くるりと体の向きを変えられた。仰向きに横たえられ、大きく足を割り開かれる。ああ、これなら抱き着ける。クラウドはほっとして、体から力を抜いた。
他害怕因快感而发狂。当他越过肩膀与塞菲罗斯对视,表达出不安时,塞菲罗斯的手臂环过他的腰,将他的身体转了过来。他仰面躺下,双腿被大大地分开。啊,这样就能抱住了。克劳德松了口气,放松了身体。


「怖がるな。楽しめばいい」
“别害怕。享受就好。”

「……はい」
“……是。”


 覆い被さってきた背に腕を回すと同時に、熱い楔がゆっくりと秘所を押し開きながら侵入してくるのを感じた。痛みはないが、酷い圧迫感に息が一瞬止まる。意識して息を吐き出し、中にあるものを締め付ける力を緩めるように努めた。
双臂环上覆压而来的后背,与此同时,她感到炙热的楔子缓慢地推开秘处,侵入其中。没有疼痛,但强烈的压迫感让她瞬间屏住了呼吸。她刻意呼出气息,努力放松体内紧绷的力量。

 自分の中にセフィロスがいる。肌を合わせて、ひとつに繋がっている。そう思った瞬間、陶然とする幸福感が頭を満たし、身体中に染み渡るような快感が走った。
萨菲罗斯在她的体内。肌肤相亲,合为一体。就在她这样想的瞬间,一种陶然的幸福感充盈了她的头脑,一股快感渗透全身。


「――んっ」
“——嗯!”


 ぶるり、とクラウドが身震いしたのをきっかけに、セフィロスはゆっくりと律動を始めた。圧迫感のあるセフィロスの雄が密やかな水音を立てながら出入りするたび、クラウドを狂わせる部分が擦り上げられる。クラウドは、セフィロスの背中にまわした手に力を込めて、下半身が溶けてしまいそうなその快感に耐えていた。
克劳德猛地颤抖了一下,以此为契机,萨菲罗斯缓慢地律动起来。萨菲罗斯那充满压迫感的雄器每次进出时都发出细微的水声,同时摩擦着克劳德体内令他疯狂的部位。克劳德紧紧抓住萨菲罗斯的背,忍受着那仿佛要将他下半身融化的快感。


「ああ、良い顔だな、クラウド」
“啊,这表情真不错,克劳德。”

「――あぁ、んっ……あっ、ァ! きもち、いい……」
“——啊啊,嗯……啊,啊!好舒服……”


 全身がびりびり気持ちよくて、奥まで突かれると溶けてしまいそうに善くて、頭がぼうっとする。クラウドは恍惚の表情を浮かべながら、必死でセフィロスに縋りついて揺さぶられていた。快感に閉じていられなくなった唇から唾液が零れ、顎へと伝っていく。
全身酥麻,舒服得要命,被顶到最深处时,舒服得仿佛要融化,脑子也变得昏昏沉沉。克劳德脸上带着恍惚的表情,拼命地攀附着萨菲罗斯,被他摇晃着。口水从无法合拢的嘴唇溢出,流到下巴。


 抽挿は次第に激しさを増していく。腰を打ち付けられるたびに電流が走るような快感が全身を襲い、射精感を増していった。けれど、与えられる快感が強すぎて登り詰めることができない。焦れたクラウドは自らの昂ぶりを慰めようと手を伸ばすが、その手はセフィロスに咎められるように捕まえられてしまう。
抽插的动作渐渐变得激烈。每当腰部被撞击时,电流般的快感便会袭遍全身,射精感也随之增强。然而,被给予的快感太过强烈,以至于无法达到高潮。焦躁的克劳德伸出手,想要抚慰自己的兴奋,但那只手却被萨菲罗斯像是责备般地抓住。


「後ろだけで達してみせろ」
“只靠后面就给我高潮。”

「く、んっ……やっ、セフィロス……さわって、くださ……」
“唔,嗯……不要,萨菲罗斯……请、请摸我……”


 涙を流して身悶えるクラウドを宥めるように、セフィロスはクラウドに口付けた。激しい律動はそのまま、舌を絡ませ甘い唾液を与えられると、脊髄を這いあがるような快楽に全身が戦慄く。その瞬間、嬌声をセフィロスの唇に封じられたままびくびくと体を震わせ、クラウドの昂ぶりから細く精が吹き出していた。突き上げられる度にこぽり、と白濁がゆるやかに押し出され、息のとまりそうな絶頂が長く続く。
为了安抚流着泪挣扎的克劳德,萨菲罗斯吻住了他。激烈的律动依旧,舌头交缠,被给予甜美的唾液后,全身因快感而颤抖,仿佛有电流爬上脊髓。那一瞬间,克劳德的娇喘被萨菲罗斯的唇堵住,身体止不住地颤抖,细细的精液从克劳德的昂扬处喷涌而出。每被顶弄一次,白浊的液体便缓缓溢出,令人窒息的快感持续了很久。


「やぁっ、くっ、まって、くださ……、おれ、いって……ああァあっ―――!!」
“呀啊、唔、请、请等一下……我、我要……啊啊啊啊——!!!”


 クラウドが絶頂を迎えても、嗜虐的な笑みを浮かべたセフィロスは追い打ちをかけるように腰を穿ち続ける。終わらぬ絶頂に悲鳴を上げることもできず、クラウドはただ目を見開いて体を震わせた。気持ちいい、壊れる、壊される――そんな思考をかき消すように内側に熱い精が注ぎ込まれる。オリジナルの細胞を与えられ、全身の細胞が歓喜する暴力的な快感に、今度こそクラウドは理性を焼き切られた。
即使克劳德达到了高潮,萨菲罗斯仍带着虐待般的笑容,继续猛烈地撞击着他的腰部,仿佛要乘胜追击。克劳德无法发出悲鸣,只能睁大眼睛,身体颤抖着,高潮迟迟不肯结束。好舒服,要坏掉了,要被弄坏了——这些念头被体内注入的灼热精液冲散。被给予了原始细胞,全身细胞因暴力般的快感而欢呼,这一次,克劳德的理智彻底被烧断了。




 束の間、意識を飛ばしていたのだろう。体内からセフィロスが抜け出ようとする感触にはっと正気づいた。引き留めるように後ろを締め付けて、クラウドはセフィロスに懇願する。
意识短暂地飞走了吧。当他感觉到萨菲罗斯要从体内抽离时,猛地清醒过来。克劳德收紧身后,试图挽留,向萨菲罗斯恳求道。


「セフィロス――。もっと、してください……あなたと、もっと繋がっていたい」
“萨菲罗斯——。再多一些……想和你,更紧密地结合在一起。”


 溶けて一つになってしまうまで、ずっと繋がっていたい。
直到融为一体,直到彻底消弭,都想一直紧密相连。


「……後悔するなよ」
“……别后悔。”


 不敵な笑みを浮かべたセフィロスを抱き寄せて、その夜、互いの存在を確かめるように何度も繰り返し肌を合わせた。
我抱紧了露出无畏笑容的萨菲罗斯,那个夜晚,我们一次又一次地肌肤相亲,仿佛要以此来确认彼此的存在。


***


 明け方、セフィロスよりも先に目を覚ましたクラウドは、布団を出て自分が着ていた服を探した。――そういえば、セフィロスが着られそうな服を見つけたと言って、新しい服を持って帰ってきていたはずだ。まだ見ていなかったな、と思い出し、入り口の方へ足音を殺して歩いていく。その途中、鈍い光が見えた気がして横を見ると、かろうじて全身が入る大きさの姿見が置かれていた。布団があるということは住居だったのだろうから、それ自体は不思議ではない。
拂晓时分,比萨菲罗斯先醒来的克劳德走出被窝,寻找自己穿的衣服。——对了,萨菲罗斯说他找到了适合自己穿的衣服,应该带了新衣服回来。他想起来自己还没看过,便放轻脚步走向门口。途中,他似乎看到了一道微弱的光芒,侧头一看,发现那里放着一面勉强能照到全身的穿衣镜。既然有被褥,这里应该曾是住处,所以这本身并不奇怪。


 クラウドの足を止めさせたのは、緑色に薄く発光する猫のような目だった。セフィロスが持っているその特徴的な瞳が、なぜか自分の顔にある。思わず瞼に手を伸ばすと、鏡の中の自分も全く同じ動作を返してきた。どうやら夢ではないらしい。不思議に思いながら鏡をじっと見つめていると、いつの間にか後方にセフィロスが立っていた。後ろから抱きこまれるように顎を掴まれ、上を向かされると、特徴的な猫目と視線が合う。クラウドの色形の変わった魔晄眼を確かめて、セフィロスはうっそりと微笑んだ。
让克劳德停下脚步的是一双泛着微弱绿光的猫眼。萨菲罗斯拥有的那双独特的眼睛,不知为何出现在了自己的脸上。他情不自禁地伸手摸向眼睑,镜中的自己也做出了完全相同的动作。看来这不是梦。他疑惑地盯着镜子,不知何时萨菲罗斯已经站在了他的身后。他被从后面抱住,下巴被抬起,被迫向上看,与那双独特的猫眼对上了视线。萨菲罗斯确认了克劳德那双改变了颜色和形状的魔晄眼,然后露出了一个意味深长的微笑。


「セフィロス、俺の目も作り替えていたんですか?」
“萨菲罗斯,您也改造了我的眼睛吗?”

「私は何もしていない。お前が私の細胞を取り込んで、より私に近くなっただけだ」
“我什么都没做。是你吸收了我的细胞,变得更像我了而已。”


 昨晩抱き合ったせいだということだろうか。連想して詳しい内容まで思い出しかけて、慌てて首を振る。詳しいことはよくわからないが、セフィロスと共通するものが増えるのはクラウドにとっては望ましいこと以外の何物でもない。
难道是因为昨晚拥抱的缘故吗?他联想到更详细的内容,连忙摇了摇头。虽然不清楚具体原因,但对克劳德来说,能和萨菲罗斯有更多共通之处,无疑是求之不得的好事。


「あなたと同じになれたなら、嬉しいです」
“如果能变得和您一样,我很高兴。”


 そうして二対の同じ瞳を持つ生き物たちは、明け方の薄暗闇の中で寄り添うように温度を分け合い、言葉と笑顔を交わし合っていた。
于是,两对拥有相同眼眸的生物,在黎明前的微暗中依偎着分享温暖,交换着言语和笑容。




バッドエンドif 主従SC #5
坏结局 if 主仆 SC #5

祈りを捧げた日
祈祷之日

10,906 文字
10,906 字

バッドエンド後設定のモブ視点の短編です。残酷な描写と、僅かですが性描写があります。
坏结局后的设定,路人视角的短篇。有残酷描写,以及少量性描写。

二人きりの旅が終わって、人と暮らし始めた二人は、互いに互いが必要とされなくなって離れていくことを怖れている、という話です。
这是一个关于两人独处的旅行结束后,开始与人一同生活的他们,害怕彼此不再被需要而渐行渐远的故事。

ふたりぼっちの日(novel/13289098)からしばらく後の時系列の話です。
这是在两人独处的日子(novel/13289098)之后一段时间的故事。





「これでよし、と」
“这样就行了。”

 

 カートに茶葉と茶器、ポッドを忘れず載せたのを確認して、一人で頷く。最後に今の時期が旬の果物を容器に少量盛り、カートの一番上に載せて、男は歩き出した。神もその御使いも食事は必要ないらしいが、取れないわけではないそうだ。そこで、いつからか感謝の気持ちとして、この地で育った茶の香りや、旬の作物の風味を楽しんで頂こうと毎朝こうして献上し始めたらしい。
确认茶壶、茶叶和茶具都已妥善地放在推车上后,他独自点了点头。最后,他将当季的水果少量地装入容器中,放在推车的最上面,然后便迈步向前。据说神明和祂的使者都不需要进食,但并非不能进食。因此,不知从何时起,作为一种感谢,人们开始每天早上献上这片土地生长的茶的香气和当季作物的风味,以供他们享用。


 いつも通りにカートを押して、神殿の奥に向かう長い廊下を進んでいく。
他像往常一样推着推车,沿着通往神殿深处的长廊前进。

――この入り組んだ道にもだいぶ慣れたものだ。
——我已经很习惯这条错综复杂的道路了。

 青年は半年前に上級神官に昇進したばかりだった。尊き方々と直接会うことを許される立場、といえば聞こえはいいが、仕事はこうした細々とした身の回りの世話が中心だ。
青年半年前才刚晋升为上级神官。说是能直接面见尊贵的大人们,听起来很不错,但工作内容主要还是这些琐碎的日常照料。

 同じ神官が何十年も世話役を務めることもあれば、数か月で辞めることもある。神サマ方の気まぐれだろう。任期はともかくとしても、簡単な仕事の割には給料が良いのが魅力的、と心の中で呟く。『信心深い』を通り越して『狂信的』な者ばかりの同僚達にはとても言えない。のんびりとした足取りで目的の部屋へと辿り着くと、男は扉を数回ノックしてから中の住人へ声をかけた。
有的神官会担任几十年的照料者,也有的几个月就辞职了。这大概是神明大人们的心血来潮吧。抛开任期不谈,这份工作虽然简单,但薪水丰厚,这一点很有吸引力,他在心里嘀咕着。这话可不能对那些“虔诚”到近乎“狂热”的同事们说。他慢悠悠地走到目的地房间,敲了几下门,然后对里面的住户说道。


「おはようございます、御使いサマ。お茶をお持ちしました」
“早上好,神使大人。我给您送茶来了。”

「……入ってくれ」
“……进来吧。”


 扉越しの返答を聞いてから、カートを押して入室する。マナーとして、僅かに扉は開けたままにしておく。奥まった場所にあるこの部屋には、世話役以外の人間が近づくことはほとんどないので、開いていても閉まっていても関係はないけれど。
听到门后的回应后,我推着推车进了房间。出于礼仪,我让门稍微开着。这个房间位置很深,除了看护人员,几乎没有人会靠近,所以开着还是关着都无所谓。


「おはよう。いつも悪いな」
“早上好。总是麻烦你了。”

「とんでもない。毎日御使いサマの顔が見られて眼福ですよ」
“哪里的话。每天能见到御使大人,真是我的眼福。”

「御使い様はやめてくれと言っただろう。クラウドでいい」
“我不是说了让你别叫我御使大人了吗?叫我克劳德就好。”


 眉をひそめて抗議を示す目の前の存在は、いつ見ても確かに御使いという呼び名にふさわしく美しかった。癖の強いきらめく金色の髪、透き通った白い肌、細身ながら無駄なく鍛え上げられた筋肉。そして人ではないことを示す縦に裂けた瞳孔と、それ自体が微かに光を放つエメラルドブルーの瞳。伝承通りならば男よりもずっと年上で、何十年か何百年、もしかしたら何千年と生きているのだろうが、瞳さえ隠せば同年代の人間にしか見えない。
眼前这个皱着眉表示抗议的存在,无论何时看来都确实美得配得上“御使”这个称呼。他有着一头闪耀的金色碎发,晶莹剔透的白皙皮肤,以及虽然纤细却锻炼得恰到好处的肌肉。还有那并非人类的竖瞳,以及本身就微微发光的祖母绿色的眼睛。如果按照传说,他比男人要年长得多,可能已经活了几十年、几百年,甚至几千年,但只要遮住眼睛,他看起来就像是同龄人。


 初めて会った時は無表情で気難しい印象を受けたが、言葉を交わし始めると、口数は少なくとも案外親しみやすいのだと分かった。長く生きているだけあって物知りだが、時々抜けていて天然じみたところがある。そんなどこかちぐはぐとした面を持つクラウドに、男はほのかな好意を抱くようになっていた。毎日こうしてクラウドと会話を交わす時間は、男にとって一日の楽しみである。
初次见面时,他给人的印象是面无表情且难以相处,但开始交谈后,男人才发现他虽然话不多,却意外地平易近人。他活得久,知识渊博,但有时也会有些迷糊,显得有些天然。对于克劳德这种有些不协调的特质,男人渐渐产生了淡淡的好感。每天能像这样与克劳德交谈的时光,是男人一天中最期待的事情。


「そうは言ってもなかなか慣れないんですって。……クラウド、今朝のお茶は今の時期の花を使ったもので、少し酸味があるけど香りがすごくいいですよ。どうぞ」
“话是这么说,但还是很难习惯啊。……克劳德,今早的茶是用这个时节的花泡的,虽然有点酸味,但香气非常好闻哦。请用。”

 

 男は椅子に座るクラウドの横にカートを固定すると、その場で独特な赤色の茶を淹れる。簡単な説明をしてクラウドに差し出すと、彼は一口、二口と茶を含み、香りを楽しむように目を閉じた。
男人把推车固定在坐在椅子上的克劳德旁边,当场泡起了独特的红色茶水。他简单地说明了一下,然后递给克劳德,克劳德喝了一口又一口,闭上眼睛享受着茶的香气。


「ああ、以前飲んだことがある。もうそんな季節か。……悪くない」
“啊,以前喝过。已经到这个季节了吗?……还不错。”

「それはよかったです」
“那就好。”

「茶を淹れるのがうまくなったな」
“你泡茶的手艺进步了。”

「毎日淹れてればそりゃあ多少は上達しますよ」
“每天都泡的话,多少会有些进步的。”

 

 過度に敬われることを嫌うらしいクラウドは、言葉を交わす頻度が増えてきた頃、男に言葉を崩すことを求めてきた。神殿で教育を受けたとはいえ、元々は親に捨てられスラムで育った身である。願ってもないことだった。そうはいっても荒すぎるのもどうかと思うので、一応は形だけ敬語にしている。
克劳德似乎不喜欢被过度尊敬,在两人交流频率增加后,他便要求男人说话随意些。虽然在神殿接受过教育,但他原本是被父母抛弃,在贫民窟长大的。这正是他求之不得的。即便如此,他觉得过于随意也不太好,所以姑且还是形式上用了敬语。


「あんたも座ってくれ。話しづらい」
“你也坐下吧。这样说话不方便。”

「どうも。あ、果物もどうぞ。取れたての旬のマスカットですよ。……俺もひとつもらっていいですか?」
“你好。啊,水果也请用。这是刚摘下来的应季麝香葡萄。……我也可以拿一个吗?”


 クラウドの言葉に甘えて、遠慮なく対面に座りつつ、持ってきた果物を差し出す。男が食べたこともない高級なマスカット。つい欲が出て、クラウドにねだってしまった。目の前の存在が、親しくなった相手に甘いことは既に気づいている。
我听从克劳德的话,毫不客气地坐在他对面,递上带来的水果。这是男人从未吃过的高级麝香葡萄。我忍不住起了贪念,向克劳德讨要。我已经知道眼前这个人对亲近的人很宽容。


「好きにしろ。……そうしてほしいと言ったのはこっちだけど、あんたは本当に遠慮がないな」
“随你便。……虽然是我让你这么做的,但你还真是不客气啊。”


 呆れたように言うクラウドを横目に、一粒分けてもらったフルーツを口に運ぶ。噛んだ瞬間、弾けるような瑞々しさと、濃厚な果汁の味が口に広がった。さすが尊い方々への献上品。
我瞥了一眼无奈的克劳德,把分到的一粒水果送入口中。咬下去的瞬间,清新的汁水迸发,浓郁的果汁味道在口中蔓延开来。不愧是献给尊贵之人的贡品。


「クラウドだって知ってるでしょう。俺は元々信心深いほうじゃないんですって」
“克劳德你也知道吧,我本来就不是什么虔诚的人。”

「孤児のスラム育ちだと言っていたな。なんで神官に?」
“你说你是在贫民窟长大的孤儿。为什么会成为神官?”

「神殿って、孤児の保護活動をしているんですよ。拾われて、なんとなくずるずると勉強してるうちに、気付いたら神官になってました。……他の人には言わないでくださいよ。クビになる」
“神殿会收养孤儿。我被捡回去后,稀里糊涂地学习着,等回过神来,就已经成了神官了。……你可别告诉别人啊,不然我会被开除的。”


 茶化して言うと、クラウドの口角が僅かに上がり、それを目にした男の胸に喜びが湧き上がる。もっと色々な表情を引き出してみたいものだ。
他开玩笑地说着,克劳德的嘴角微微上扬,男人看到后,心中涌起一阵喜悦。真想让他露出更多不同的表情啊。


 周囲には取り繕っているが、この立場ならば妄信的に持っているはずの信心や神への忠誠心というものは、男の中にはほとんど存在しない。絶対的な神がいるというのなら、なぜ男は凄惨な子供時代を過ごさなければならなかったのか、と八つ当たりのように恨む気持ちが強いからかもしれない。
虽然在周围人面前有所掩饰,但以他的立场,本应盲目拥有的信仰和对神的忠诚心,在男人心中几乎不存在。也许是因为他强烈地怀恨在心,像是在迁怒一般,如果真有绝对的神,那他为什么必须度过凄惨的童年呢?


「信心がどうこうはともかく、俺が怖くないのか」
“信仰什么的暂且不论,你难道不怕我吗?”

「別に。子どもの頃クラウドが戦ってるところを見たことあるから、無茶苦茶強いのは知ってますけど、瞳以外の見た目は人間ですし、こうして話すと普通に楽しいし」
“没什么。我小时候见过克劳德战斗,知道你强得离谱,但除了眼睛,你的外表和人类没什么区别,这样聊起来也很开心。”


 男が神殿に拾われる前、巨大なモンスターが神の気配を無視して街に侵入してきたことがあった。外壁に穴を開けられ、人々が恐慌に陥った瞬間、モンスターは前触れなく炎に包まれていた。直後、今と姿形の変わらぬ目の前の男が空から降ってきたと思ったら、身の丈ほどある大剣を振って一瞬でモンスターの首を落とした。人々がパニックになってあげる悲鳴、炎が弾ける音、首が地面に落ちた時の重たい音。すべて今でもありありと思い出せる。そんな光景を、当時少年だった男はスラムの陰から目を輝かせて眺めていた。
在男人被神殿收留之前,曾有巨大的怪物无视神的气息入侵城镇。当外墙被破开,人们陷入恐慌的瞬间,怪物毫无预兆地被火焰吞噬了。紧接着,眼前这个容貌与现在无异的男人从天而降,挥舞着与他身高相仿的巨剑,瞬间斩下了怪物的头颅。人们恐慌的尖叫声、火焰爆裂的声音、头颅落地时的沉重声。所有这些至今仍历历在目。当时还是少年的男人,从贫民窟的阴影中,双眼闪烁着光芒,注视着那样的景象。

 二十年近く前の話だが、今でも憧れと共に記憶に焼き付いている。現在神官としてここにいるのは成り行きには違いないが、もしかしたらそんな少年時代の想いが源にあったのかもしれない。偶然とはいえ、憧れた相手に仕えることができているのだから喜ぶべきなのだろう。
这事发生在将近二十年前,但至今仍带着憧憬深深烙印在我的记忆中。我现在能成为神官,无疑是顺其自然的结果,但或许少年时代的那份憧憬才是最初的源头。尽管是偶然,但能侍奉自己所敬仰的人,这应该值得高兴吧。


「ああ、でも神サマは……怖いっちゃあ怖いかもしれないです。見たことがあるだけで話したことはないですけど、何考えているか全然読めないし、雰囲気が威圧的なんですよね」
“啊,不过神明大人……要说可怕,可能确实有点可怕。我只见过他,没和他说过话,但他完全让人捉摸不透在想什么,而且气场很有压迫感。”


 若干声を落として、内緒話をするようにそう零しながら、男は神の姿を脳裏に描いた。クラウドと同じ人ならざる瞳に、彼と対になるような銀色の長く硬質な髪、威圧感のある長身と分厚い体躯。人を寄せ付けない冷たい雰囲気。街を守護していると言われても違和感があるが、戦の神と言われたら納得する。神とクラウドが並び立つ光景を思い浮かべて、好奇心からふと疑問が湧いてきた。
男人稍微压低了声音,像是在说悄悄话般嘀咕着,脑海中浮现出神明的形象。那双与克劳德一样非人的眼睛,与他相对的银色长而硬质的头发,以及充满压迫感的高大身躯和厚实的体格。周身散发着拒人于千里之外的冰冷气息。即便说他是守护城市的,也让人觉得有些违和,但如果说是战神,那倒能让人信服。想象着神明与克劳德并肩而立的景象,好奇心驱使下,一个疑问油然而生。


「そういえば、いつから、っていうかどうしてクラウドは神サマと一緒にいるんですか? 生まれた時からそういうものだったんですか?」
“说起来,克劳德是从什么时候开始,或者说为什么会和神明大人在一起的呢?他生来就是如此吗?”

「……」
“……”


 軽い気持ちで問いかけたら、クラウドは無表情に黙り込んでしまった。慌てて男は言葉を付け足す。
随口一问,克劳德却面无表情地沉默下来。男人连忙补充道。


「あ、いや、言いにくかったり、言ったらまずいことだったりするならいいんです。ちょっと興味があっただけですから」
“啊,不,如果是不方便说,或者说了不好的话,那就算了。我只是有点好奇而已。”

「いや……。いつから、と言われると、もうだいぶ前からだ。一緒にいる理由は、俺が側にいることをあの方が許してくれているから、としか……」
“不……要说从什么时候开始,那已经是很久以前的事了。至于在一起的理由,只能说是因为那位大人允许我待在她身边……”


 そうぽつりと言ってクラウドは目を伏せる。憂いを帯びた顔は、クラウドの静的な雰囲気に良く似合っていた。一瞬見惚れそうになるが、それよりも頭に入ってきた言葉の内容が気にかかった。 
克劳德低声说着,垂下眼帘。他那忧郁的脸庞与他沉静的气质十分相配。我差点被迷住,但更让我担心的是他话语中的内容。


「へえ、じゃあクラウドの方が従者になりたいって志願した感じなんですか?」
“哦?那克劳德是自己主动请缨想成为从者的吗?”

「……そういうわけじゃない。だけど、俺はただ、あの方の役に立ちたいんだ。こうして人に囲まれるようになった今は、俺にできることはとても少ないし、もう必要だと思ってもらえていないのかもしれないけど……捨てられないように」
“……不是那样。但是,我只是想帮上那位大人的忙。现在我身边围满了人,我能做的事情很少,也许他已经不再需要我了……为了不被抛弃。”


 その言い回しを聞いて、胸が痛んだ。クラウドが神に抱く感情が忠誠なのか敬愛なのかは分からない。けれど、役に立たなければ捨てられる?いくら主従にしたって、随分と一方的な関係のように聞こえる。
听到他这样说,我心里一阵刺痛。我不知道克劳德对神明抱持的感情是忠诚还是敬爱。但是,如果没用就会被抛弃?即便是在主仆关系中,这听起来也像是一种极其不平等的单方面关系。

 もし自分だったら、と男は夢想する。クラウドが男と一緒にいたいと望んでくれたなら。街の一画で静かに、こうやって毎日他愛もない会話をしながら穏やかに暮らせたら幸せだろうと思う。あるいは、神の不興を買わないように外の世界に出て、二人きりで世界を冒険するのだってクラウドとだったら楽しいだろう。
如果换作是自己,男人不禁幻想。如果克劳德也希望和自己在一起。他想,如果能像这样,在城镇的一角安静地、每天聊着些无关紧要的话题,平静地生活,那该多幸福啊。又或者,为了不触怒神明而走出这个世界,两个人一起去冒险,只要是和克劳德在一起,那也一定会很有趣吧。

 男がクラウドに抱く好意が友情なのか、憧れ混じりの恋心なのかは自分でも分からない。それでも、毎日話して親しくなった相手が、そんな言葉を吐くことが悲しかった。
男人自己也分不清,他对克劳德的好感是友情,还是掺杂着憧憬的爱恋。即便如此,当每天聊天变得亲密的对方说出那样的话时,他还是感到悲伤。


「……クラウドは、それでいいんですか? そういう考え方は、つらくないですか。クラウドくらい強かったら、街でも引く手数多だし、外の世界だって冒険できるでしょう。瞳だけ隠して、人に混ざって生きたらいいじゃないですか。クラウドと一緒にいたいって人はたくさんいると思います。話してて、楽しいしさ。神サマにこだわらなくたって――」
“……克劳德,你这样真的好吗?这种想法,不痛苦吗?像克劳德你这么强,在城里肯定很受欢迎,也能去外面世界冒险吧。你只要把眼睛藏起来,混在人群里生活不就好了吗?我想肯定有很多人想和克劳德你在一起。和你聊天也很开心。就算不执着于神——”


「クラウド」
“克劳德。”



 その瞬間、男の言葉を遮るように部屋に響いた支配者の低い声に背筋が凍りついた。
就在那一瞬间,支配者低沉的声音响彻房间,打断了男人的话语,令他脊背发凉。


 部屋に入ってきた気配など感じなかった。正面のクラウドの視線を恐る恐る辿ると、声の主は男の背中側にある部屋の入口のあたりにいるらしい。自らの目で確かめる度胸はなかった。慌てて床に両膝を着いて頭を下げる。――いつからそこにいたのだろう。聞かれただろうか。男は冷や汗を滲ませながら、自らの存在を小さく目立たなくするように身を竦ませる。
他没有感觉到有人进入房间。他小心翼翼地顺着克劳德的视线望去,声音的主人似乎在男人背后的房间入口处。他没有勇气亲眼确认。他慌忙双膝跪地,低下头。——他是什么时候在那里的?他听到了吗?男人冷汗直流,蜷缩着身体,试图让自己变得渺小而不引人注目。


 だが、神は膝をつく男など目に映らぬかのようにクラウドに向けて淡々と言葉を紡ぐだけであった。
然而,神却仿佛没有看到跪在地上的男人一般,只是平静地对着克劳德说出话语。


「お前に用事がある。来い」
“我有事找你。过来。”

「……? はい、分かりました。セフィロス」
“……?好的,我知道了。萨菲罗斯。”


 呼ばれるがまま席を立ったクラウドが、通り過ぎざま男の肩を叩いて小さな声で囁く。
克劳德应声起身,经过男人身边时拍了拍他的肩膀,小声耳语道。


「悪い。またな」
“抱歉。回头见。”


 男はクラウドの顔を見たくて、慎重に目線だけを上にあげた。目に入ったのは、クラウドの背に手を置くようにして誘導する神と、扉をくぐるクラウドの後ろ姿。部屋を出る一瞬、凍るように冷たい神の視線が男に向けられた気がして、身が竦んだ。
男人想看克劳德的脸,便小心翼翼地只把视线往上抬。映入眼帘的是神将手放在克劳德的背上引导着他,以及克劳德穿过门时的背影。在走出房间的一瞬间,男人感觉神冰冷的视线投向了他,身体不由得瑟缩了一下。


 扉が閉じられたことを確かめると、バクバクと音を立てる自分の心臓の音を聞きながら男はゆっくりと立ち上がる。頭を上げて初めて、目の前に一人の老人がひっそりと立っていることに気が付いた。神の世話役である神官だ。若い頃から数十年間神に仕えていると聞いている。先程一瞬だけここにいた神と共に来たのだろう。けれど、主人が退室した今、なぜまだここに留まっているのかと不思議に思いながらじっと見ると、老人は重々しく口を開いた。
确认门已关上后,男人听着自己怦怦直跳的心脏声,慢慢地站了起来。他抬起头,才第一次注意到眼前悄无声息地站着一位老人。那是神的侍从,一位神官。听说他从年轻时起就侍奉神几十年了。他应该是和刚才短暂在此的神一起来的吧。然而,当他疑惑主人已经离开,为何他仍留在此地时,老人沉重地开口了。


「……一つ、忠告しておく。たとえ御使い様がそう望まれたとしても、過度に親しくするな。あの方は神と同じ存在であり、神のものだ。不用意に手をのばせば、逆鱗に触れる。――そのことを、よく弁えておけ」
“……我警告你一件事。即使是御使大人所期望的,也不要过度亲近。那位大人与神同在,是神的所有物。若不慎伸出手,会触怒逆鳞。——这一点,你最好牢记在心。”

「え……」
“呃……”


 どこか諦めを含んだ表情でそう告げると、年齢から想像されるイメージを裏切ったきびきびとした動きで身を翻し、老人は静かに部屋から出ていった。
他带着几分认命的神情说完,便以与年龄不符的利落动作转身,老人静静地离开了房间。






 ――親しくしすぎるな、かあ。
——别太亲近,是吗。

 確かに男は崩れた言葉を使うし、クラウドのことを友人のように親しく感じている。けれど、あくまで世話役としての域は脱していないはずだ。
男人确实用着粗俗的语言,也把克劳德当成朋友般亲近。但是,他应该还没有脱离照料者的范畴。

 それに、逆鱗とは?クラウドと親しくすることが、なぜあの神の逆鱗に触れるというのか。主従であっても別々の存在なのだから、誰とどんな関係を築くのも自由だろう。尊い方々への敬意が足りないと怒るのか?それとも神とクラウドは愛情で結ばれていて、嫉妬するとでもいうのだろうか。役に立たなければ捨てられるかもしれないというクラウドの言葉を信じるなら、そこまで深い情がある関係とも思えなかったが。
而且,逆鳞又是什么?和克劳德亲近,为什么会触怒那位神的逆鳞呢?即使是主仆,也是独立的个体,和谁建立怎样的关系都应该是自由的吧。难道会因为对尊贵者不够尊敬而生气吗?还是说神和克劳德之间有爱情,所以会嫉妒?如果相信克劳德所说的“如果没用可能会被抛弃”的话,那他们之间的感情似乎也并没有那么深厚。


 年配の世話役から受けた忠告の意味を悶々と考えながら、男は静かに廊下を歩いていた。湯浴みの用意のため、クラウドの部屋に向かっている途中だった。警備だけを残してすっかり寝静まった神殿は音がよく響くので、足音ひとつ立てないようにと気を遣う。
男人一边在走廊里安静地走着,一边苦恼地思考着年迈的看护人给他的忠告的含义。他正要去克劳德的房间,为他准备洗澡水。神殿里除了警卫,其他人都已经睡熟了,所以声音传得很远,他小心翼翼地不发出一点脚步声。


 角を曲がり、クラウドの部屋に続く廊下に差し掛かった時、薄い光が扉から漏れていることに気が付いた。――部屋が開いている? 何か用事でもあってクラウドが神官を呼んだのだろうか。基本的に閉じているはずの扉が僅かに開けられたままになっていることを訝しみながら扉に近づき、ノックしようと手を上げる。瞬間、耳に飛び込んできた音と、扉の隙間から垣間見えた情景に、男はそのままの姿勢で固まり、息を呑んだ。
当他转过拐角,来到通往克劳德房间的走廊时,他注意到门缝里透出微弱的光。——房间开着?是克劳德有什么事叫了神官吗?他疑惑地走近门,因为门本该是关着的,却微微开着,他抬手准备敲门。瞬间,传入耳中的声音,以及从门缝中瞥见的景象,让男人保持着原来的姿势僵住了,倒吸了一口凉气。




 密やかな水音と、時折混ざる艶を含んだ呻き声。
隐秘的水声,以及偶尔夹杂着的带着情欲的呻吟声。

 男の仕える金の髪を持つ存在は、白く均整の取れた体を薄闇に浮かび上がらせ、地面に座り込んでいた。伏せられた頭が小さな水音を立てながらゆるゆると上下している。視線を上にずらすと、あの威圧感のある銀色の男神が、片手でクラウドの髪を撫でながら、足の間にクラウドを迎え入れる体勢でベッドに腰かけていた。こちらは着衣のままだ。片足がクラウドの体に隠れる不自然な体勢。神がその足を妖しげに動かすたび、かすかな水音が生じ、その音と連動してクラウドの背中がぴくりと揺れては艶めいた呻き声が漏れる。男から死角になる位置でクラウドが何をされているのか察するには十分だった。
男人所侍奉的那个金发的存在,白皙匀称的身体在微暗中浮现,正坐在地上。低垂的头颅随着细小的水声缓慢地上下摆动。当他向上看去时,那位威严的银发男神正坐在床上,一只手抚摸着克劳德的头发,克劳德则坐在他的双腿之间。男神穿着衣服。他的一条腿以一种不自然的姿势藏在克劳德的身体后面。每当神妖异地移动那条腿时,就会发出微弱的水声,与那声音同步,克劳德的背部就会颤抖一下,发出娇媚的呻吟声。这足以让男人猜到克劳德在死角处正在经历什么。


「は、ぁ……セフィロス、きもち、いいですか」
“哈啊……萨菲罗斯,舒服吗?”


 顔を起こしたクラウドは、普段の清廉で落ち着いた姿からは想像できない淫蕩な声で、神の名を呼ぶ。友人のように思っている相手の、見てはいけない姿を目にしてしまったという強い罪悪感に襲われた。それと同時に、舌足らずで別人のように甘い声を耳にした瞬間、男の体がかっと熱くなり、中心に熱が集まっていくのを感じた。
克劳德抬起头,用淫荡的声音呼唤着神的名字,这声音与他平时清廉沉稳的形象判若两人。他被强烈的罪恶感所侵袭,觉得自己看到了不该看的朋友的模样。与此同时,在听到那含糊不清、甜得判若两人的声音的瞬间,他感到身体骤然发热,热量向中心汇聚。


「ああ。……上手くなったな」
“嗯。……你进步了。”


 口角を上げた神が優しく囁くと、男の位置からは背中しか見えないクラウドが、嬉しそうに笑みをこぼした気配がした。
嘴角上扬的神明温柔地低语着,在男人所处的角度,只能看到克劳德的背影,却能感受到他喜悦的笑容。


「どこに欲しい、クラウド」
“想要在哪里,克劳德?”

「……中に、ください」
“……请给我,在里面。”


 そう言うと、クラウドはするりと神の膝を跨ぐように乗りあがる。神の腿に後ろ手をつき、伸びるように背を反らしながらゆっくりと腰を下ろして剛直を足の間に受け入れていく。薄闇でも分かる暴力的な大きさのものが、その持ち主よりも一回り小さな体躯の中に飲み込まれていく様子は痛々しさを感じさせたが、クラウドは恍惚とした息を漏らしていた。
说着,克劳德轻巧地跨坐在神明的膝上。他将手撑在神明的大腿后方,身体向后仰伸,缓慢地坐下,将那根坚挺纳入双腿之间。即使在微弱的光线中,也能看出那惊人的尺寸,它被吞噬进比其主人小一圈的身体里,这景象令人感到一丝疼痛,但克劳德却发出了销魂的喘息。


「ほら、好きに動け」
“好了,随你动。”

「……は、っあ……ん……ぁ、あっ」
“……哈,啊……嗯……啊,啊。”


 吐息の混ざる淫らな声を控えめに零しながら、神の足の上でなまめかしくその背中が揺らめき始める。自分の知っているクラウドからは考えられない従順で淫靡なその様子は、酷く背徳的だった。
混杂着喘息的淫靡声音被小心翼翼地吐出,在神的脚上,那具身体开始妖娆地摇曳。这副顺从又淫荡的模样,是自己所认识的克劳德身上无法想象的,充满了强烈的背德感。

 その状況に至るまで瞬きもせずに部屋の中を凝視していた男は、これ以上見てはいけないとようやく理性を取り戻し、動かない足を無理やり扉の前から引き離そうとする。
一直目不转睛地凝视着房间里发生的一切的男人,终于恢复了理智,意识到不能再看下去了,于是强行将僵硬的双腿从门前拉开。


 そのとき、クラウドの肩越しに、銀色の男と目が合った。神はこちらを見つめ、男に向かって口角を上げると、見せつけるようにクラウドの腰に腕を回し、腰を突き上げ始めた。その瞬間、怒りとも嫌悪ともつかない感情が男の心を駆け巡った。――ああ、こいつ、わざとだ。扉が開いていたのも、自分がこの時間に来ると分かっていてのこと。
就在那时,克劳德越过肩膀,与银发男人四目相对。神明凝视着他,嘴角向男人扬起,然后炫耀般地搂住克劳德的腰,开始挺动腰肢。那一瞬间,愤怒与厌恶交织的情绪涌上男人的心头。——啊,这家伙,是故意的。门开着,也是因为他知道自己会在这个时间过来。


 自らの感情の奔流と、激しさを増したクラウドのあえかな声に急き立てられるように、男はその場から逃げ出した。
仿佛被自己情感的洪流和克劳德愈发激烈的喘息声所催促,男人逃离了现场。


***
***


 翌朝、男はいつも通りに茶と果物を用意してクラウドの部屋に向かっていた。結局昨夜は目が冴えて眠れなかった。クラウドは、随分とあの行為に慣れているようだった。神とクラウドは、ずっとあんな関係を結んできたのだろうか。
第二天早上,男人像往常一样准备好茶和水果,走向克劳德的房间。结果昨晚他彻夜未眠。克劳德似乎对那种行为已经习以为常了。神明和克劳德,一直以来都是那种关系吗?

 寝具の交換は別の神官の担当だから、今まで気付かなかった。時折朝の勤めを休むようにと男に指示が下ることがあったのは、神と共に朝を迎えていたからなのかもしれない。正直に言うとクラウドと顔を合わせたい気分ではなかったが、職務である以上は放棄できない。
更换寝具是其他神官负责的,所以我之前没有注意到。有时男人会指示我休息早上的工作,也许是因为他与神明一起迎接早晨。老实说,我不想见到克劳德,但既然是我的职责,我就不能放弃。


 男同士ということは気にかからなかった。そもそも彼らは人間ではないし、男本人も相手の性別にこだわる性格ではない。ただ、潔癖そうなクラウドのイメージとは大きく違うベッドでの振る舞いに驚き、一瞬でもその姿に欲情したことが申し訳なくて気まずいだけだ。それに、主従にしても一方的過ぎる力関係だと思っていた神とクラウドが、まるで愛し合っているかのように見えたことも気にかかった。見えたのは神の表情だけだったが、何も思っていない相手にあんな顔を向けるだろうか。
我并不在意他们是男人。他们本来就不是人类,而且男人本人也不是那种拘泥于对方性别的人。只是,克劳德在床上的举止与他洁癖的形象大相径庭,这让我感到惊讶,而且我为自己一瞬间对他的样子产生了欲望而感到抱歉和尴尬。此外,我一直认为神和克劳德之间的主仆关系过于单方面,但他们看起来就像是相爱一样,这也让我很在意。虽然我只看到了神的表情,但他会对着一个毫无感情的人露出那样的表情吗?


「(お互いに情がありそうに見えるのに、なぜクラウドは捨てられないように役に立ちたいだなんて自信のないことを言うのだろう)」
“(明明看起来彼此都有感情,为什么克劳德会说出‘想变得有用,这样就不会被抛弃’这种没有自信的话呢?)”


 神が部屋の中にいたらどうしようかと思い、冷や冷やしつつ扉をノックすると、普段通りのクラウドの返答で中へと招かれた。部屋の中にいたのはクラウド一人だった。よかった。思わずその声や顔、服からのぞく肌に情事の痕跡を探してしまうが、昨夜の媚態を想起させるものはどこにも残っていなかった。努力して平静にふるまい、茶を出した後はテーブルに着いて会話する。夢でも見たのではないかと思いたかったが、用意した湯浴み用の道具が自室に残っていたことからして、間違いなく現実のはずだ。
我担心神明在房间里,于是忐忑不安地敲了敲门,克劳德像往常一样回应,邀请我进去。房间里只有克劳德一个人。太好了。我不由自主地在他的声音、脸和衣服下露出的皮肤上寻找情事的痕迹,但昨晚的媚态没有留下任何痕迹。我努力保持平静,上完茶后坐在桌边交谈。我真希望那只是一个梦,但准备好的洗浴用品还在我的房间里,这无疑是现实。

 クラウドの顔を見ているうちに、先程まで頭を占拠していたぐるぐると渦巻く感情を抑えきれず、男はクラウドに問いかけてしまった。
在看到克劳德的脸时,男人再也无法抑制住刚才还盘旋在脑海中的复杂情感,他向克劳德问道。


「クラウドは、神サマの恋人なんですか」
“克劳德,你是神的恋人吗?”

「恋人……? まさか」
“恋人……?怎么可能。”


 男の唐突な問いに、クラウドは目を見開き、聞き慣れない言葉だと言いたげに単語を繰り返した後、即座に否定した。
面对男人突如其来的问题,克劳德睁大了眼睛,重复着这个他似乎从未听过的词语,然后立刻否认了。


「じゃあ、愛している、とか? 好き、とか」
「那,‘我爱你’,之类的?‘喜欢’,之类的」

「好きか嫌いかで言えば好き、だろうが……愛、というのは……。セフィロスがいなければ生きていけないとは思うし、許される限り一緒にいたいとは思う」
“要说喜欢还是不喜欢,那应该是喜欢……但是爱……。我想如果没有萨菲罗斯我活不下去,只要允许,我就想和他在一起。”

 

 苦虫を噛み潰したような顔で返答するクラウドを見ながら男は考える。愛していなくとも体を重ねることはできるが、神とクラウドはそういった関係とは何かが違う、互いに感情を向け合う強い結びつきがあるように見えたけれど。
男人看着克劳德那张像是吃了苦瓜的脸回答,陷入沉思。即使没有爱,身体也可以交叠,但神和克劳德之间的关系似乎有所不同,他们之间似乎有一种强烈的纽带,彼此倾注着感情。


「愛でないなら、依存や執着、ですか」
“如果不是爱,那是依赖还是执着呢?”

「――さっきから、なんだ。あんたらしくない」
“——你从刚才开始就怎么了。不像你。”


不機嫌そうに眉をひそめたクラウドが質問を断ち切るように低い声で言う。
克劳德不悦地皱起眉,用低沉的声音打断了提问。


「昨夜、見ちゃったんです。すみません。……俺はただ、情がある関係でないのなら――クラウドがそんなに献身的になるなら、それを返してくれる相手と一緒にいたほうがいいんじゃないかって、思っただけなんです。片方が片方に依存する関係だとしたら、健康的じゃない」
“昨晚,我看到了。对不起。……我只是觉得,如果不是有感情的关系——如果克劳德你那么投入,那是不是和能回报你的人在一起会更好呢?如果一方依赖另一方,那就不健康了。”


 男はクラウドのことを大切に思っている。自分の気持ちが友情でも恋でも構わない。あのいけ好かない神とクラウドが健全な情で繋がっているわけではなさそうなのがただ心配だった。何か、できないだろうか。そう思った瞬間ひらめいたことがあった。
男人很珍视克劳德。他自己的感情是友情还是爱情都无所谓。他只是担心那个可恶的神和克劳德之间似乎没有健康的感情联系。他能做些什么呢?就在他这么想的时候,一个念头突然闪现。

 情事を覗かれた羞恥からか、頬を僅かに赤く染めたクラウドが口を開こうとするのを遮って、男は提案する。
也许是因为被窥见了私情而感到羞耻,克劳德的脸颊微微泛红,正要开口,男人却打断了他,提出了建议。


「あ、そうだ! 今度街に行きませんか。クラウド、しばらく外に出てないでしょう。たまには出かけると楽しいですよ!瞳を隠せば御使いサマだとは分からないし、遊びましょうよ。友達にも紹介します」
“啊,对了!下次一起去城里吧。克劳德,你很久没出门了吧。偶尔出去玩玩会很开心的!只要把眼睛藏起来,就没人会知道你是神使大人了,我们一起玩吧。我也会把你介绍给我的朋友们。”


 人ではなくても、人と変わらぬ心があるのだ。ならば、様々な人と関係を築いていけば、たったひとつの存在に生死を委ねるほどの依存は軽くなるかもしれない。思い付きで言ったことだが、案外悪くないアイデアなのではないかと男は思った。
即使不是人类,也有着与人类无异的心。那么,如果能与各种各样的人建立关系,对唯一存在的生死相托的依赖或许会减轻。男人心想,这虽然是突发奇想,但说不定是个不错的点子。


「おい……!」
“喂……!”

「お願いです、クラウド。神殿長に許可をもらっておきますから。楽しみにしててくださいよ!」
“拜托了,克劳德。我会向神殿长申请许可的。敬请期待吧!”


 困った顔をするクラウドは見なかったことにする。自分でも強引すぎるとは思ったものの、危うい依存心を抱えるクラウドに、何かをしてあげたかった。調子よく言葉を発して、男は部屋から退出した。
克劳德困扰的表情就当没看见。虽然自己也觉得有些过于强硬了,但还是想为怀揣着危险依赖心的克劳德做些什么。男人流畅地说完话,便离开了房间。




 神殿長に許可をもらうとは言ったものの、街の代表者とのやり取りや孤児院の運営、学校の建設など広く手掛けている神殿のトップがすぐに捉まるわけがない。男は神殿への訪問者が途絶える夜まで待ち、神殿長の執務室を目指して歩いていた。いつものことではあるが、昼と打って変わった静けさに包まれる神殿を歩くのは、少し落ち着かない。交代の時間なのだろうか、たまたま警備が見当たらないのもその不気味さに拍車をかけていた。
虽说要得到神殿长的许可,但神殿的最高负责人,负责与城市代表的交流、孤儿院的运营、学校的建设等广泛事务,不可能轻易见到。男人等到神殿访客稀少的夜晚,才走向神殿长的办公室。一如既往,漫步在与白天截然不同的寂静神殿中,总让人有些不安。或许是换班时间,恰好没有看到警卫,这更增添了诡异的气氛。


「(クラウド、どこに連れて行ったら喜ぶだろう)」
“(克劳德,带你去哪里会开心呢?)”


 無理やり話を切ってしまったことへの罪悪感はあるが、困らせてしまった分まで楽しんでほしかった。ゆっくりと関わり合う人を増やして、居場所が増えていけば、きっとクラウドはもっと生きやすくなるはずだ。そんなことをつらつらと考えながら軽い足取りで進んでいく途中、後ろからコツリ、と足音が聞こえた。普段聞かない音に胸騒ぎがして、足を止めて男は振り向く。
虽然强行打断对话有些内疚,但还是希望他能尽情享受,弥补被自己困扰的部分。如果能慢慢增加与他接触的人,增加他的归属感,克劳德一定会活得更轻松。男人一边漫不经心地想着这些,一边轻快地向前走着,突然,身后传来“咔嗒”一声脚步声。不常听到的声音让他心头一紧,他停下脚步,转身望去。




 体を捻ったその瞬間、胸に焼けそうな熱さを感じた。
身体扭转的那一瞬间,胸口传来一阵灼热。

 経験したことのない熱さに訳が分からず自分の体を見下ろすと、細長い刀が胸から生えていた。
从未体验过的热度让我不知所措,低头看向自己的身体,只见一把细长的刀从胸口刺出。


「え……」
“呃……”


 状況が理解できず、ただ目を見開いてそれを見下ろしていると、急に熱いものが口からせり上がってきて、咄嗟に手で押さえる。
我无法理解眼前的情况,只是瞪大眼睛低头看着,突然,一股热流从口中涌出,我连忙用手捂住。


「ぐっ、ごほっ……!?」
“唔,咳咳……!?”


 男の手は真っ赤に染まっていた。
男人的手被染得一片鲜红。

――血? なぜ。刀。胸。ああ、刺されたのか。
——血?为什么。刀。胸口。啊,是被刺了吗。

 そこまで理解した途端、灼けつくような痛みと眩暈が急に襲い掛かってきて、男は膝から崩れ落ちるようにして地面に倒れ込んだ。再度強い痛みと熱さが胸に生じたことで、地面に落ちる直前に刀を抜かれたのだと悟る。
刚理解到这里,灼烧般的疼痛和眩晕突然袭来,男人双膝一软,倒在了地上。胸口再次传来剧痛和灼热感,他这才明白,原来是在倒地前刀就被拔了出来。

――誰が?なぜ?
——谁?为什么?

 力を振り絞って首を上げ、後ろを見る。そこに立っていた存在を目にして、ああ、と納得した。
我拼尽全力抬起头,向后看去。看到站在那里的存在,我恍然大悟。


「神……サマ……? な、ぜ……」
“神……大人……?为、为什么……”

「クラウドには友人も居場所も必要ない。人に混ざって生きる必要もない」
“克劳德不需要朋友,也不需要容身之处。他没必要混在人群中生活。”


 無表情の中で剣呑に光る瞳だけが、神の感情を男に教えてくれた。男に向ける憎しみ、嫌悪、侮蔑。ああ、こいつは俺を――俺がしようとしたことを怖がっているのだ、と直感的に理解した。
面无表情中,唯有那双闪烁着危险光芒的眼睛,向男人揭示了神的感情。那是对男人倾泻的憎恨、厌恶、蔑视。啊,他直觉地明白,这家伙是在害怕他——害怕他想要做的事情。

 何が神だ。体が人じゃなくても中身は人と何も変わらないではないか。いけ好かない男だと感じるわけだ。
算什么神啊。身体就算不是人,内在也和人没什么两样嘛。难怪会觉得他是个令人讨厌的男人。


 歪な執着を、依存を相手に向けていたのはクラウドだけではなかった。 
对对方抱有扭曲的执着和依赖的,不只有克劳德。

 こんな風に陰でクラウドと周囲の繋がりを絶って、クラウドには神しかいないのだと依存させて。
像这样在暗中切断克劳德与周围的联系,让克劳德依赖于“只有神明”的存在。


 捨てられるのを怖れているのはどっちだ。クラウドか、それとも目の前の銀色の男か。
害怕被抛弃的究竟是谁?是克劳德,还是眼前这个银发男人?


「ひどい……独占、欲だ。あんな、依存……させ、るんじゃなくて……愛、して、やれば……いい……ものを」
“好过分……独占欲。不是要、依赖……而是……爱、着……就好了……”

「あれは、私のものだ」
“那是,我的东西。”

「……クラ、ウド……」
“……克劳、德……”

「死出の土産に、見せてやっただろう」
“临死前的礼物,不是让你看到了吗?”


 寝室で覗き見た別人のように従順なクラウドの姿を思い出す。確かに眼福だったよ、ちくしょうが。連想するように、半年の間に次第に和らいできたクラウドの表情が次々と浮かび、最後に今朝の困ったような表情を思い出した。あれが最後だったなら、強引に決めるんじゃなくて、もっとちゃんと言葉を交わして、頼み込めばよかった。もっと早くに歪んだ依存に気が付いて、何かをしてあげられたらよかった。
他回想起在卧室里偷窥到的克劳德那副顺从得判若两人的模样。那确实是赏心悦目啊,可恶。联想到此,克劳德在半年间逐渐柔和下来的表情一个接一个地浮现在脑海中,最后他想起了今早那困扰的表情。如果那是最后一次,他就不该强行决定,而是应该好好地多说些话,多恳求一下。如果能更早地察觉到那扭曲的依赖,并为他做些什么就好了。


「遊んで……みた、かった……な……ごめ、ん、な……」
“想……玩玩看……啊……对不……起……”


 体がどんどん寒くなって、目が見えなくなって、そうして男の意識はゆっくりと闇に飲まれて消えていった。
身体越来越冷,眼睛也看不见了,就这样,男人的意识慢慢地被黑暗吞噬,消失了。





「……片付けておけ」
“……处理掉。”

「かしこまりました」
“遵命。”

「ああ、分かっていると思うが、あれにはこの男が死んだと言うなよ」
“啊,我想你明白,别告诉他这个男人死了。”

「承知しております」
“我明白了。”

 

 影のように神に付き従っていた老人は、言葉少なに主人の命令に答える。廊下の暗闇へと姿を消した主を見送って、彼は遺体の処理に取り掛かった。まだ温かい遺体の、瞳孔の開いた虚ろな瞳を閉じさせながら、しわがれた声でぽつりと老人が呟く。
像影子一样追随神的那个老人,用简短的话语回应着主人的命令。目送着消失在走廊黑暗中的主人,他开始处理尸体。在合上那具尚有余温的尸体空洞的瞳孔时,老人沙哑地低语道。


「だから弁えろと言ったのだ」
“所以我才说要你知分寸。”


 老人は何十年と銀色の神に仕えてきた。だからよく知っていた。御使いにつけられた世話役は、長く続くこともあれば数か月で代わることもある。その多くは御使いに情を移し、神の逆鱗に触れた結果、こうして命の幕を閉じることによって。
老人侍奉银色的神明几十年了。所以他很清楚。被指派给神使的侍从,有的能长久,有的几个月就换了。其中大多数都是因为对神使动了情,触怒了神明,最终以这种方式结束了生命。

 その度、遺体を弔うのは老人の仕事であった。
每当这时,为遗体超度便是老人的工作。


「人ならざるもの達がそれでいいと納得している関係に、触れるべきではない。人と人ならざるものが心を通わせようなどと思うのが間違っている。……馬鹿なことを」
“不应触碰非人之物们都认可的关系。人与非人之物想要心意相通,这本身就是错误的。……真是愚蠢。”


 黙祷を捧げた老人は、翌朝の仕事を憂鬱に思いながら、暗闇の中で自らの職務を淡々と全うした。
默祷完毕的老人,一边为第二天的工作感到郁闷,一边在黑暗中平淡地履行着自己的职责。


***


「あいつは、どうしたんだ?」
“那家伙,怎么了?”


 朝、新しい世話役を伴って部屋を訪れた老人に、憂いた顔の御使いが問う。
早上,忧心忡忡的御使い向带着新侍从前来房间的老人问道。


「個人的な事情で、昨夜急に神殿を辞しました」
“因为个人原因,我昨晚突然辞去了神殿的职务。”

「何か、言っていたか」
“他说了什么吗?”

「いいえ、何も聞いておりません」
“不,我什么都没听到。”

「そうか……。また、か」
“是吗……又来了。”


 表情を取り繕ってはいるが、御使いは気落ちした様子を隠せていない。人が入れ替わる度、自罰的な傾向の強い彼は、自らに落ち度があったのだと信じて疑わないことを老人は知っていた。その度、彼を受け入れ、側に居続けてくれるのは神だけだという依存心を強めていくことも。
他竭力掩饰,却藏不住失落。老人知道,每当有人离去,这个自罚倾向极强的御使い都会毫不怀疑地认为是自己的过错。而每一次,他都会加深对神的依赖,认为只有神才会接纳他,并永远陪伴在他身边。




 神から空恐ろしいほどの執着を向けられた結果、仲を深めた人を排除され、それを教えられることなく自責に追い込まれる御使いを哀れに思う。
神明对御使怀有可怕的执念,其结果是,与御使交好的人被排除,而御使却毫不知情,为此深陷自责,这令我为御使感到悲哀。


 御使いに情を移して彼の世界を広げようと行動した結果、命を落とし、最期の言葉さえ届けてもらえぬまま星に還った前任の世話役たちもまた、気の毒だ。
那些对御使倾注感情,试图拓展他世界的前任照护者们,最终却因此丧命,甚至连临终遗言都未能传达便回归星辰,他们同样令人惋惜。


 けれど、老人が最も哀れに思うのは、自らが長く仕えてきた神その人だ。
然而,老人最感到悲哀的,却是他长久侍奉的神明本人。

 人ならざるもの達の間に決して人は割り込めない。生きる時の長さが違う。生きていける環境が違う。ただ待つだけで、あっという間に周囲の人間は星を巡り、神と御使いだけが時に置いてきぼりにされるのだ。そんな当たり前のことに気付かず、必死で御使いを囲おうとする姿が痛々しかった。
人类绝无法融入非人之物的世界。生命的长度不同。能够生存的环境不同。仅仅是等待,周围的人类便会迅速地经历星辰流转,唯有神明和御使被时间抛弃。神明没有察觉到这理所当然的事实,拼命地想要将御使圈禁起来,那副模样令人心痛。



 自分の寿命はもうすぐ尽きるだろう。けれど神はこれからも永い永い時を生きるのだ。人に囲まれ、言葉を交わし、長い時を過ごす中で、いつか自分の主人がその真理を悟ることを――心安らかに過ごせる日々が来ることを、老人はひっそりと祈った。
自己的寿命想必很快就要走到尽头了吧。但神明大人今后仍将度过漫长而永恒的岁月。在被人类环绕、与人类交谈、度过漫长时光的过程中,老人悄然祈祷着,希望有朝一日自己的主人能领悟到那个真理——希望她能迎来平静安宁的日子。





バッドエンドif 主従SC #6
Bad End if 主仆 SC #6

友を見送った日
送别友人那天

16,842 文字
16,842 字

バッドエンド後設定シリーズの最後のお話です。これまでお付き合いいただいてありがとうございました。
这是坏结局 if 系列故事的最后一篇。感谢大家一直以来的陪伴。

人との関わりを通じて歪んだ愛を自覚する話。
一个通过与人交往而意识到扭曲的爱的故事。

?時系列は祈りを捧げた日(novel/13303039)の後で、神を失った日(novel/13207474)に繋がります
?时间线在献上祈祷之日(novel/13303039)之后,并与失去神明之日(novel/13207474)相连。

?オリジナルのキャラクターが出ます
?会有原创角色出现。

?最初の二ページはクラウド視点、残りはセフィロス視点
?前两页是克劳德视角,其余是萨菲罗斯视角

?ページを切り替えるごとに結構な時間が飛びます
?每次翻页都会跳过相当长的时间





祭りと邂逅
祭典与邂逅

 その日は、雲一つない晴天だった。街中に賑やかな呼び込みと陽気な歌が響き、普段見たことがないほどのたくさんの人々が楽しそうに話す声が聞こえてくる。
那天,万里无云,晴空万里。街上回荡着热闹的叫卖声和欢快的歌声,传来许多平时从未见过的、人们愉快交谈的声音。

 家族や友人、恋人と連れ立ち、笑顔を交わす祭りの日。神の加護と土地の豊饒への感謝の気持ちを込めて、年に一度、街全体で催されている。
这是一个与家人、朋友和恋人一同欢声笑语的节日。为了表达对神明庇佑和土地丰饶的感谢,每年举行一次,全城同庆。


 独特なのは、道行く人々の服装だった。骨で作った仮面をつけている者、物語に出てくる魔女の衣装をまとった者、チョコボの抜け羽で作った翼を背負っている者。住民全員が、思い思いに何らかの仮装をしている。セフィロスが翼を出して歩いていても風景に溶け込むだろうと思えるほど、個性的な恰好の者で溢れていた。
独特之处在于街上行人的穿着。有人戴着骨头制成的面具,有人穿着故事中女巫的服装,还有人背着陆行鸟羽毛制成的翅膀。所有居民都随心所欲地进行着某种装扮。个性十足的装扮者随处可见,甚至让人觉得即使萨菲罗斯张开翅膀走在路上,也会融入这片风景之中。


 クラウドとセフィロスもまた、紛れるようにその人混みの中にいた。セフィロスは長い髪を三つ編みにして横に垂らし、クラウドは特に手を加えぬまま、普段神官たちが纏っている襟の詰められた白いローブにその身を包んでいた。祭りで使えるようにと言って、神殿の者たちが今日のために用意してくれたものだ。神官の仮装をしていると言っていいだろう。
克劳德和萨菲罗斯也混迹于这人群之中。萨菲罗斯将长发编成辫子垂在一侧,而克劳德则没有特别打扮,只是穿着平时神官们穿的领口紧束的白色长袍。这是神殿的人为了节日特意为他们准备的。可以说,他们是装扮成了神官。


「今年は晴れてよかったですね」
“今年天气晴朗真是太好了。”

「うるさくて敵わん」
“吵死了,受不了。”

「たまにはいいじゃないですか。瞳を隠さないで街を歩けるのはこの日くらいですよ」
“偶尔这样不是也挺好吗?不遮掩眼睛走在街上的日子,也就只有今天了吧。”

「興味がない」
“没兴趣。”

「俺は楽しいです。あなたと一緒に街に出かけられる機会はあまりないですから」
“我倒是挺开心的。毕竟能和您一起出门逛街的机会可不多。”


 憮然とした表情のセフィロスと連れたち、辺りを歩いて回る。神様と御使い様がこっそり祭りに遊びに来られるように、との名目で始まった仮装の風習は目に楽しい。必要でないのに食事をするのも気がひけるので食べ物は買わないが、普段目にしない品が並ぶ屋台を覗いて回るだけでも気分が上がった。
萨菲罗斯和同伴们面带不悦地在周围走动。以“神明和使者大人能悄悄来祭典玩耍”为名义开始的变装习俗,看起来赏心悦目。虽然没有必要,但吃饭也让人感到不自在,所以没有买食物,但光是看看那些平时不常见的摊位,心情就变好了。


「セフィロス、小魚がいますよ。道具で掬えた分だけ連れて帰れるらしいです。去年は見たことがない出し物ですね」
“萨菲罗斯,有小鱼。据说能用工具捞多少就带走多少。这是去年没见过的节目呢。”

「そんなもの、取ってどうする」
“那种东西,捞来做什么?”

「さあ、観賞するのでは?子どもは好きそうですね」
“嗯,用来观赏吧?小孩子好像会喜欢。”


 ゆっくりと歩きながら目に入る面白いものを見つけては、ぽつりぽつりとセフィロスと言葉を交わす。毎年手を変え品を変えギルを落とさせようとする商売人たちのアイデアは底なしで、商魂の逞しさに感心する。
他们一边慢慢走着,一边寻找着眼中那些有趣的东西,和萨菲罗斯有一搭没一搭地聊着。每年,那些商人都会变着法子,想出各种新奇的点子来吸引吉尔,他们的商业头脑真是深不可测,令人佩服。


 動物をかたどった飾り飴に目を惹かれ、クラウドが足を止めている間に、気付くとセフィロスの姿が隣から消えていた。目立つ長身を探して辺りを見渡すと、装飾品の出店の前にその姿がある。何かを買っているようだ。普段は本以外に興味を示すことは少ないのに、珍しいな、と驚きながら、クラウドはそちらへ向かった。
克劳德被一个动物造型的糖果吸引住了目光,停下脚步,等他回过神来,发现萨菲罗斯的身影已经从身边消失了。他环顾四周,寻找着那个显眼的高大身影,发现他正站在一家饰品店前。他好像在买什么东西。平时他对书以外的东西很少表现出兴趣,这真是稀奇啊,克劳德惊讶地想着,朝他走了过去。


「何を買ったんですか?」
“你买了什么?”

「ピアス」
“耳环。”


 そう言ってセフィロスは手の平に乗せているものをクラウドに見せる。黄色のチョコボの羽に、クラウドやセフィロスの瞳と同じエメラルドブルーの天然石をあしらったもの。祭り用の安価で派手な作りのものだ。聖獣とされるチョコボの羽に、神の瞳と同色の石を使った飾り物は、縁起が良いとして街でよく売られている。
萨菲罗斯说着,将手掌上的东西展示给克劳德看。那是一根黄色的陆行鸟羽毛,上面镶嵌着与克劳德和萨菲罗斯眼睛颜色相同的祖母绿蓝色天然石。这是祭典上用的廉价而华丽的饰品。据说陆行鸟是圣兽,用陆行鸟羽毛和与神之眼同色的石头制成的饰品,因寓意吉祥而在街上很畅销。


「『幸運のお守り』じゃないですか。でもセフィロス、穴開いていませんよね?」
“这不是‘幸运符’吗?但是萨菲罗斯,这上面没有孔吧?”

「私じゃない。お前の物だ」
“不是我的。是你的。”

「えっ、俺ですか」
“哎,是我的吗?”


 そう言って、セフィロスはクラウドの左耳に手をのばすと、その場で手早くピアスを付け替えてしまった。元々着けていたものを丁寧に箱に入れて懐に仕舞うあたり、行動は強引なのに妙な気遣いはある。顔の横にぶら下がる大きな羽をクラウドが手でもてあそんでいると、それを見たセフィロスが珍しく毒気のない笑みを薄く浮かべた。
说着,萨菲罗斯伸手到克劳德的左耳边,当场迅速地给他换了耳坠。他把克劳德原本戴着的耳坠小心翼翼地放进盒子里,然后揣进怀里,这种行为虽然强硬,却又带着一丝奇怪的体贴。克劳德用手把脸旁垂着的大羽毛拨弄着,萨菲罗斯看到后,难得地露出了一个不带毒气的浅笑。


「ほら、似合うだろう。チョコボがチョコボの羽をつけている」
“看,很适合你吧。陆行鸟戴着陆行鸟的羽毛。”

「……ありがとうございます」
“……谢谢您。”


 その言い草に怒ればいいのか、それとも楽しそうなセフィロスの様子に喜べばいいのか分からなかったクラウドは、シンプルに贈り物への礼のみを述べることを選んだ。人混みに疲れた顔よりは機嫌の良い顔の方がずっと良い、と心の中で呟いて、自分を納得させる。人混みから連想して、ふとクラウドは出発前に神官にかけられた言葉を思い出した。
克劳德不知道该为萨菲罗斯的这番话生气,还是该为他开心的样子而高兴,最终他选择简单地表达对礼物的感谢。他在心里嘀咕着,心情好的脸总比在人群中疲惫的脸要好得多,以此说服自己。从人群联想到,克劳德忽然想起了出发前神官对他说的话。


「そういえば、人混みに疲れたら、街のはずれの岩場に行ってみてほしいと神官たちが言っていましたけど……行きますか?」
“说起来,神官们说要是厌倦了人潮,可以去城郊的岩石区看看……要去吗?”

「ああ」
“啊。”


 即答だった。思わず吹き出しそうになるのをかろうじて堪える。
他立刻就回答了。我勉强忍住了差点要笑出来的冲动。


「それじゃあ、行きましょう。あっちです」
“那我们走吧。往那边。”




 街はずれの高地にある岩場には、武骨で大きな岩々が並び、その上に小さく可憐な白い花が咲き誇っていた。鳥のさえずりと木々のざわめきが響くその空間に、時折遠くから祭りの喧騒の気配が運ばれてくる。風が吹き抜ける度に花が揺れては時折花弁が舞い、目を楽しませてくれた。
在城郊高地的岩石区,粗犷巨大的岩石林立,其上盛开着娇小可爱的白色花朵。鸟儿的鸣叫和树木的沙沙声回荡在这片空间中,偶尔远处传来节日的喧嚣声。每当风吹过,花朵便随风摇曳,花瓣偶尔飞舞,令人赏心悦目。


「見事だな」
“真了不起啊。”

「そうですね。教えてくれた神官には、礼を言わないと」
“是啊。得好好谢谢教导我的神官。”


 一度言葉を切る。静かにその光景を眺め、頬をくすぐるチョコボの羽飾りを手で触りながら、クラウドは心に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。
他顿了顿。克劳德静静地望着那片光景,用手触碰着轻抚脸颊的陆行鸟羽饰,将心中浮现的话语直接说了出来。


「こういう場所に来ると、セフィロスと二人で旅をしていたときを思い出します」
“来到这种地方,就会让我想起和萨菲罗斯两人一起旅行的时候。”


 灰色の空の下で、何もない荒んだ大地に見つけた草木の芽に喜び、次にその地を訪れたときには見たことのない新種の木が茂っていることに驚く、そんな静かで長かったかつての旅を、クラウドは気に入っていた。
在灰蒙蒙的天空下,为贫瘠荒芜的大地上发现的草木新芽而欣喜,下次再到访时,又会惊讶于从未见过的新树木已然茂盛,克劳德喜欢这样安静而漫长的旅途。


「…………そうだな」
“…………说得也是。”


 ぽつりと小さな返事が聞こえた後は、互いに無言のまま、目の前の穏やかで美しい風景を楽しんだ。
听到这句小小的回应后,两人便陷入沉默,一同欣赏眼前平静而美丽的风景。


 しばらくそうしていた時、だんだんと岩場に近づいてくる子どもの声をクラウドの耳が捉えた。誰でも登ってこられる場所であるのでそれ自体は問題ないが、保護者の気配がなく、子どもの声しかしないことが気にかかった。この場所の入口付近は比較的なだらかに開けているが、端に向かうほど高低差が激しく、二十メートルを超える崖になっている部分もある。決して子どもにとって安全な場所ではない。
这样过了一会儿,克劳德的耳朵捕捉到逐渐靠近岩石区域的孩子们的说话声。这里是任何人都可以爬上来的地方,所以这本身没什么问题,但他担心的是没有监护人的气息,只有孩子的声音。这个地方的入口附近相对平坦开阔,但越往边缘走,高低差就越大,有些地方甚至形成了超过二十米的悬崖。这绝不是对孩子来说安全的地方。


 姿を現したのは、三人組の子ども達だった。七、八歳くらいの男女と、どちらかのきょうだいと思われるそれよりも小さな男の子。嫌な予感を抱えながら、走り回って遊ぶ子どもたちを眺めていると、年上の方の少年が傾斜の激しい部分を見つけてしまったようだ。肝試しをするように崖のすぐ側に立ち、他の子どもたちを呼ぶ。
出现的是三个孩子。一个七八岁的男孩和一个女孩,以及一个看起来是他们其中一个的弟弟的更小的男孩。克劳德怀着不好的预感,看着跑来跑去玩耍的孩子们,那个年龄较大的男孩似乎发现了一处坡度很陡的地方。他像是在玩胆量游戏一样,站在悬崖边上,呼唤着其他孩子。


「おーい!こっち、来てみてよ!!すごいぞ!」
“喂——!你过来看看啊!!超厉害的!”

「アンガス、やめなよ。端の方には行っちゃダメって言われてるじゃん」
“安格斯,别这样。不是说了不准去边缘吗?”

「ヘラのビビり!こんなの平気だって、ほら」
“赫拉你个胆小鬼!这有什么好怕的,你看。”


 制止しようとした少女にムッとした顔を返し、少年は淵ぎりぎりの際に片足で立って見せる。さすがに止めたほうが良いとクラウドが声をかけようとした瞬間、岩地を突風が吹き抜けた。風に煽られ、少年の体がぐらりと崖の方へ傾く。何が起こっているのか分かっていないのであろう、ぽかんとした顔のまま、少年は頭から落ちていこうとする。
少年对试图阻止他的少女回以不悦的表情,然后单脚站在了悬崖的边缘。就在克劳德准备开口提醒他最好停下的时候,一阵狂风吹过岩地。少年被风吹得身体一晃,向悬崖倾斜。他似乎还没搞清楚发生了什么,呆呆地张着嘴,眼看就要头朝下栽下去。


「っ、セフィロス」
「っ、萨菲罗斯」


 クラウド達のいる場所からでは、跳んでも最悪腕を掴めないかもしれない。だが、崖から落ちればあの子どもは助からない。咄嗟にセフィロスの名を呼ぶと、小さなため息を一つ零して翼を顕現したセフィロスが一瞬で崖に向かう。崖下に姿が消したと思ったら、目を丸く見開いた少年の片足を掴んでゆっくり浮上してきた。セフィロスはふわりと地面に足をつけると、無造作に少年の体を地に降ろす。
从克劳德他们所在的位置,即使跳起来,最坏的情况也可能抓不住手臂。但是,如果从悬崖上掉下去,那个孩子就没救了。他下意识地叫出萨菲罗斯的名字,萨菲罗斯轻轻叹了口气,显现出翅膀,瞬间飞向悬崖。刚以为他消失在悬崖下,就见他抓着那个睁大眼睛的男孩的一条腿,慢慢浮了上来。萨菲罗斯轻柔地落在地上,随意地将男孩的身体放了下来。


「アンガス!ばかっ!」
“安格斯!笨蛋!”


 少女が叫びながら少年に駆け寄るのと同時に、クラウドも子どもたちに近付いた。呆然としている少年の前で膝を折って目を合わせて、低い声で叱る。
少女一边尖叫着跑向男孩,克劳德也同时走近孩子们。他跪在呆若木鸡的男孩面前,与他平视,用低沉的声音训斥道:


「岩場は危ない。近寄るなと言われなかったか」
“岩石区很危险。难道没人告诉过你不要靠近吗?”

「……ごめんなさい」
“……对不起。”

「落ちていたら死んでいたんだぞ、親や友達とも、もう会えなくなるところだった。分かったら、二度とするな」
“要是掉下去就死了,再也见不到父母和朋友了。知道了就不要再做第二次。”

「うん……ひぐっ、ごめんなさいっ」
“嗯……呜,对不起!”


 わんわん泣き出した少年を困った顔で見ながらクラウドが頭を撫でてやっていると、少女の方がおずおずと声をかけてきた。視線はセフィロスの翼に向かっている。
克劳德看着嚎啕大哭的少年,一脸为难地抚摸着他的头,这时少女怯生生地开了口。她的视线投向了萨菲罗斯的翅膀。


「あの、アンガスを助けてくれて、ありがとう。さっき、空を飛んでたよね。おじさんは、神様?」
“那个,谢谢你救了安格斯。你刚才在天上飞吧。叔叔是神明吗?”

「ああ」
“啊。”


 その答えに驚いてセフィロスを見上げる少女の影から、突然小さな子どもが弾丸のように飛び出し、セフィロスの足にしがみついた。
听到这个回答,女孩惊讶地抬头看着萨菲罗斯,突然,一个小孩从她的影子里像子弹一样冲出来,抱住了萨菲罗斯的腿。


「ぼくも飛びたい!おじちゃん、だっこして!」
“我也想飞!叔叔,抱抱我!”

「こら、何やってるの!だめだよ」
“喂,你在干什么!不行!”

「やだ!」
“不要!”


 少女の弟なのだろう。少女が怒って止めようとするが、怖いもの知らずな小さな男の子はセフィロスにしがみついたまま離れない。クラウド自身も子どもの相手が得意なほうではないが、セフィロスが子どもと関わっているところなど見たことがない。慌てて助け舟を出そうとしたとき、足に纏わりつく小さな子を無表情で見ていたセフィロスは、腰を折り、意外なほど丁寧な手つきでその子どもを抱えあげた。
他大概是那女孩的弟弟。女孩气恼地想阻止他,但那无所畏惧的小男孩却紧紧抱住萨菲罗斯不放。克劳德自己也不擅长应付小孩子,但他从未见过萨菲罗斯与孩子打交道。正当他慌忙想去帮忙时,萨菲罗斯面无表情地看着缠在他腿边的小孩,然后弯下腰,以出乎意料的温柔姿态抱起了那个孩子。


「わああ!高い!高い!」
“哇啊!好高!好高!”

「しっかり捉まれ」
“抓稳了。”


 きゃあきゃあと嬉しそうな声を上げる子にそう言い、セフィロスは翼をはためかせる。五メートルほど上空をゆっくりと旋回すると、元の位置に降り立って子どもを地面にそっと降ろした。子どもに優しいセフィロスという、想像したこともない光景を目にしたクラウドは衝撃に目を見開いて固まることしかできなかった。先程まで顔を真っ赤にして泣いていた少年も、空を飛ぶセフィロスの姿を見ていつの間にか泣き止んだようだ。
萨菲罗斯对那个发出开心的尖叫声的孩子说了那样的话,然后扇动翅膀。他在五米左右的空中缓慢盘旋,然后回到原位,轻轻地把孩子放回地面。克劳德目睹了萨菲罗斯对孩子温柔相待的景象,这是他从未想象过的,他震惊得目瞪口呆,一动不动。刚才还哭得满脸通红的少年,看到萨菲罗斯在空中飞翔的样子,不知不觉也停止了哭泣。


「ありがとう、おじちゃん」
“谢谢你,大叔。”

「ああ」
“啊。”


 ご満悦で礼を告げる小さな子に、淡々とセフィロスが返す。それを見た少女は、ごくりと唾を飲み込んで一歩前へ出た。続くように、クラウドの側にいた少年もセフィロスの前に飛び出る。
萨菲罗斯平淡地回应着那个心满意足地道谢的小孩子。看到这一幕的少女,咕咚一声咽了口唾沫,向前迈了一步。紧接着,站在克劳德身边的少年也跳到了萨菲罗斯面前。


「おじさん……私も、飛んでみたい」
“大叔……我也想飞飞看。”

「ヘラだけずるいぞ!僕も飛びたい!」
“只有赫拉太狡猾了!我也想飞!”


 きらきらと輝く二対の瞳に見つめられたセフィロスは、疲れたようにため息を吐き、片腕に一人ずつ座らせるようにして二人の子供を抱き上げる。
萨菲罗斯被两双闪闪发光的眼睛盯着,疲惫地叹了口气,将两个孩子一人一个地抱到自己的一只手臂上坐好。


「一度だけだ」
“只有一次。”




 空からセフィロスと子どもたちが帰ってくる頃、彼らの保護者らしき女性が岩間に姿を現した。空を飛ぶ姿を目にして驚愕する女性にクラウドが事情を一通り説明すると、しきりに恐縮してセフィロスとクラウドに礼を言う。
当萨菲罗斯和孩子们从空中回来时,一个像是他们监护人的女人出现在岩石间。克劳德向看到他们在空中飞翔而震惊的女人解释了事情的来龙去脉,女人连连表示歉意,并向萨菲罗斯和克劳德道谢。


「神様、御使い様、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません。ですが、この子達にとって一生の思い出になると思います」
“神明大人,使者大人,给你们添麻烦了,真是非常抱歉。但是,这会成为这些孩子们一生难忘的回忆的。”

「うん!おじさん、ありがとう」
“嗯!谢谢叔叔!”

「兄ちゃんも、撫でてくれてありがとう」
“哥哥也,谢谢你摸我。”


 機嫌の良さそうな子供たちと、さあっと顔を青くした女性の対比に、クラウドは苦笑しながら言葉をかける。
克劳德苦笑着对心情愉快的孩子们和脸色瞬间发青的女性之间的对比说道。


「気にするな。……俺達が祭りに来ていることは、内緒にしておいてくれるか」
“别在意。……我们来参加祭典的事,能替我保密吗?”

「かしこまりました」
“遵命。”


 頭を下げ、子ども達を連れてその場を辞そうとする女性の手をすり抜け、アンガス、と呼ばれていた少年がセフィロスに声をかけた。
那女性低下头,牵着孩子们的手正要离开,却被一个名为安格斯的少年挣脱了手,他向萨菲罗斯搭话。


「ねえ、いつもはどこにいるの?遊びに行っていい?」
“喂,你平时都在哪里啊?我可以去找你玩吗?”

「……神殿だ。神官になれば中に入れる」
“……神殿。成为神官就能进去。”

「ふうん。じゃあ、僕それになるよ。また空を飛ばせてね」
“嗯。那我就当那个吧。再让我飞一次哦。”


 そう言って大きく手を振ると、女性に頭をはたかれた少年が、腕を引っ張られるように岩間を下って行く。あの少年もそうだが、威圧感のあるセフィロスを相手に恐れを覚えない、度胸のある子どもたちだったな、と感嘆する。セフィロスとクラウドは横向きに並び、彼らの姿が消えるのを見送った。
少年说着,用力挥了挥手,结果被女人拍了一下头,然后被拉着胳膊,顺着岩石间的小路走了下去。感叹着,那个少年也是,面对着气势逼人的萨菲罗斯,却毫不畏惧,真是群有胆量的孩子啊。萨菲罗斯和克劳德并肩站着,目送着他们的身影消失。


「……意外です。セフィロス、子どもが好きだったんですか」
“……真意外。萨菲罗斯,你喜欢孩子吗?”

「好きなわけがなかろう。そもそも怖がって大抵近寄ってこない。迎えが来るまで纏わりつかれるよりは、ああした方がまだましだと判断しただけだ」
“怎么可能喜欢。本来他们就害怕,大多不会靠近。我只是觉得,与其被他们缠着直到有人来接,还不如那样做。”


 うんざりしたような低い声でそうぼやいたセフィロスは、後ろからクラウドを抱き込むと、クラウドの髪をかき混ぜてからそこに顔を埋め、ついでのように耳に揺れるチョコボの羽に触れた。
萨菲罗斯低声抱怨着,听起来有些厌烦。他从身后抱住克劳德,揉乱他的头发,然后把脸埋进去,顺便碰了碰克劳德耳边晃动的陆行鸟羽毛。


「うわっ、何するんですか」
“哇,你干什么?”

「……疲れた、帰るぞ。腕に抱えるのはお前だけで十分だ」
“……累了,回家。我怀里有你一个就够了。”





対話と愛
对话与爱

 本日付で新しく世話役に着任する神官として、二十代前後の若い男女を紹介された。アンガスと名乗った男性はセフィロス、ヘラと名乗った女性はクラウドに仕えてくれるそうだ。同時に人が入れ替わるのは珍しい。
今天,我被介绍认识了两位二十岁上下的年轻男女,他们将作为新任神官,负责照料我们的生活。自称安格斯的男性将侍奉萨菲罗斯,而自称赫拉的女性则会侍奉克劳德。同时更换侍从的情况并不常见。


「お二方は覚えていらっしゃらないと思いますが、僕が子どもの頃、神様と御使い様に命を助けて頂いたことがあるのです」 
“两位可能不记得了,但我小时候,曾被神明和神使大人救过一命。”

「私もそのとき弟とアンガスと共にいて、神様に空を飛ばせて頂きました」
“当时我也和弟弟安格斯在一起,神明大人让我飞上了天空。”


 照れくさそうにそう言って微笑む男女の顔をクラウドはじっと見つめる。
克劳德凝视着这对男女,他们有些不好意思地笑着说出这些话。

――十数年前に岩間で出会った、あの怖れ知らずの子どもたちか。顔や名前は覚えていなかったが、その度胸は印象に残っていた。
——是十多年前在岩浆地带遇到的那群无所畏惧的孩子吗?虽然不记得他们的长相和名字,但他们的胆量却给他留下了深刻的印象。


「覚えているさ。セフィロスを相手に怖がらない子どもなんて初めて見たから。……大きくなったな」
“当然记得。我还是第一次见到面对萨菲罗斯却不害怕的孩子呢。……你长大了啊。”

「もう飛ばんぞ」
“我不会再飞了。”


 顔をしかめたセフィロスの言葉に、アンガスが顔を真っ赤に染めていたのが微笑ましかった。
萨菲罗斯皱着眉说出这句话,安格斯涨红了脸,这画面令人忍俊不禁。


***


 子どもの頃に会っていたせいもあるが、お喋り上手なヘラは、一か月も経たないうちにすっかりクラウドと打ち解けた。毎朝お茶を淹れてくれる間に、ヘラは好奇心の赴くままにクラウドに何かを尋ねては、自分の一日について賑やかにお喋りをする。その日は、彼女の好奇心はセフィロスとクラウドの関係に向いていた。恋や愛の話が大好きなのだというヘラは、目を輝かせて次々と質問を重ねる。
赫拉是个健谈的人,也许是因为小时候见过,不到一个月,她就和克劳德熟络起来。每天早上,赫拉在为克劳德泡茶的时候,都会好奇地问他一些问题,然后兴高采烈地讲述自己一天的经历。那天,她的好奇心转向了萨菲罗斯和克劳德的关系。赫拉说她最喜欢听爱情故事,她眼睛闪闪发光,一个接一个地问着问题。


「ね、クラウドは、神様のこと、愛してる?」
“呐,克劳德,你爱神明大人吗?”

「……分からない。違うと思う」
“……不知道。我想不是爱。”

「どうして? 前に神様がいないと生きていけない、役に立ちたいって言っていたじゃない」
“为什么?你之前不是说没有神明大人就活不下去,想为他效力吗?”

「それは、そうだが……」
“话是这么说没错……”

「……私、クラウドが神様と寝てるの、知ってるよ。私がクラウドとお喋りしていたり、他の人達のところに連れていったりすると、神様がこわ~い目で私を睨んでることもね」
“……我啊,知道克劳德和神明大人睡在一起哦。我也知道,当我和克劳德聊天,或者带他去见其他人时,神明大人会用很可怕的眼神瞪我。”


 茶化すような口調とは裏腹に、酷く真面目な顔でヘラはクラウドの目をじっと見つめる。セフィロスがヘラを怖い目で睨む?心当たりを考えようとしたが、思考に耽る前にヘラは次の疑問をぶつけてきた。
赫拉的语气听起来像是在开玩笑,但她却用异常认真的表情凝视着克劳德的眼睛。萨菲罗斯用可怕的眼神瞪赫拉?克劳德试图回想是否有过这样的情况,但还没等他陷入沉思,赫拉就抛出了下一个问题。

 

「クラウドは、どうして神様に捨てられるかもしれないって思うの?」
“克劳德,你为什么会觉得神明大人可能会抛弃你呢?”


 クラウドは話の内容に困惑し、この場を逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。誤魔化すように茶を口に含み、間を取る。だが、怖いぐらいに真剣なヘラは、話を切ることを許してはくれなさそうだ。仕方なく、苦々しく思いながらも自分の心情をそのまま吐露した。
克劳德对谈话内容感到困惑,恨不得立刻逃离这里。他含了一口茶,试图蒙混过去,以此争取时间。然而,赫拉那认真得有些吓人的眼神,似乎不打算让他打断谈话。无奈之下,他只好苦涩地将自己的真实想法和盘托出。


「二人きりで、他に選択肢がなかった頃とは違う。周りにはいくらでも人がいる。……それに、俺は一人じゃ生きられる気がしないけど、セフィロスは一人でも生きていける、と思う」
“和只有我们两个人,别无选择的时候不一样了。周围有的是人。……而且,我觉得我一个人活不下去,但萨菲罗斯一个人也能活下去。”

「ふうん。私の目には、神様は周りなんてどうでもよくて、クラウドさえいればいいって風に見えるけど……。こういうのは、周りが言っても仕方がないのかな。でも神様、性格歪んでそうだし、そうやってクラウドが悩んで縋るの、嬉しいと思うよ」
“嗯。在我看来,神明大人根本不在乎周围的人,只要有克劳德就够了……这种事,就算周围的人说了也没用吧。不过神明大人性格好像很扭曲,看到克劳德这样烦恼、依赖他,他会很高兴的。”


 大人びた諭すような口調と、思わず黙ってしまう迫力のある強い瞳でヘラはそう言った。ヘラは肘をテーブルに乗せて両手を顎の下に組むと、さらに詰問のような会話を続ける。
赫拉用成熟而劝诫的语气,以及令人不禁沉默的、充满魄力的眼神这样说道。赫拉将手肘撑在桌上,双手托腮,继续着拷问般的对话。


「じゃあ、神様の役に立ちたいと思うのは、どうして?捨てられたくないからってだけじゃないんでしょう?」
“那么,你为什么会想为神明大人效力呢?不只是因为不想被抛弃吧?”

「……何かをしてあげたいから」
“……因为我想为他做些什么。”

「どうして?神様は一人で生きられるって今言ったじゃない。他人の助けなんて要らないんじゃないの?」
“为什么?你刚才不是说神可以独自生活吗?不是不需要别人的帮助吗?”

「セフィロスの心には柔らかい部分もある。だから、それを……」
“萨菲罗斯的心里也有柔软的部分。所以,那个……”


 うまい表現が見つからずに黙り込むクラウドに、真剣な顔をしたヘラが言葉を助けるように続ける。
克劳德找不到合适的表达方式,沉默了下来,赫拉则一脸认真地继续说道,仿佛在帮助他找到词语。


「それを、守りたい?」
“你想保护它?”

「……そうだな」
“……是啊。”


 答えを聞いたヘラは、安心したとでも言いたげににっこりと歯を見せて笑顔を浮かべた。
听到回答的赫拉露出牙齿,开心地笑了,仿佛在说她放心了。


「よかった。相手のために何かをしたいって思っているなら、依存以外の気持ちもあるじゃない。重たい依存が乗っかっていても、それは愛だよ」
“太好了。如果你想为对方做些什么,那不就是除了依赖之外的感情吗?即使沉重的依赖压在上面,那也是爱啊。”

「仮にそうだとして、セフィロスはそんなもの求めない」
“就算真是那样,萨菲罗斯也不会想要那种东西。”


 陰鬱な声音でクラウドが呟けば、目の前の強い女性にからからと明るく笑い飛ばされた。クラウドより何百歳も年下のはずなのに、ヘラは姉が弟を見るような優しい目を向けながらクラウドに語り掛ける。
克劳德阴郁地低语着,却被眼前强大的女性爽朗地大笑驳回。赫拉明明比克劳德年轻几百岁,却像姐姐看弟弟一样,用温柔的眼神对克劳德说道。


「神様の心の内はともかく、クラウドは神様と一緒に居たくて、守ってあげたいんでしょう。じゃあ、それでいいじゃない。愛は無償のものっていうもの」
“不管神明大人心里怎么想,克劳德是想和神明大人在一起,想保护他吧。那不就行了。爱是无偿的。”


 そして、悪戯な光を目に灯し、茶目っ気たっぷりに付け加えた。
然后,他眼中闪烁着顽皮的光芒,调皮地补充道。


「教えてあげる。『捨てないで』とか『あなたがいないと生きていけない』ってクラウドがそう思う度に言ってあげたら、そういう重いの、絶対神様は喜ぶよ。そうしたら、居心地がよくて神様だって離れられないよ」
“我告诉你,克劳德每次觉得‘不要抛弃我’或者‘没有你我活不下去’的时候,如果都对神明大人说出来,神明大人一定会很高兴这种沉重的爱。这样一来,神明大人会觉得很舒服,根本离不开你。”


 ――クラウドから離れないように、依存させてやるの。まあ、クラウド達の場合はそんなの今更だろうけど、と悪巧みをするような顔でヘラはそう言って笑い、部屋から出ていった。
——让克劳德离不开自己,让他依赖自己。嘛,虽然对克劳德他们来说,现在说这些已经太晚了,赫拉却带着一副像是要使坏的表情,笑着说完,走出了房间。


 クラウドとセフィロスは、よほど歪な関係に見えるのだろう。今までも似たような質問をしてきた世話役は何人もいた。クラウドが自分の気持ちを話すと、それは依存だと言い、心配そうに、憐れむような目を向けることが多かったように思う。それは依存でもあるけれど愛なのだと言い切り、その気持ちを利用しろと言ってのけるヘラは、セフィロスをおじさんと呼んで甘えた子どもの頃と変わらず、型破りで怖いもの知らずだった。
克劳德和萨菲罗斯的关系,想必在旁人看来是扭曲的吧。至今为止,已经有好几位照料者问过类似的问题了。我记得当克劳德说出自己的感受时,他们大多会说那是依赖,然后用担忧又怜悯的眼神看着他。而赫拉则斩钉截铁地说,那既是依赖也是爱,并让他利用这份感情。她一如既往地称呼萨菲罗斯为叔叔,像个撒娇的孩子一样,特立独行,无所畏惧。





「――どこに行かれるんですか、セフィロスさん」
“——您要去哪里,萨菲罗斯先生?”


 深夜、音を立てずにそっと寝台を離れたセフィロスに向けて、扉越しに穏やかな声がかけられた。
深夜,萨菲罗斯悄无声息地离开了床铺,门外传来一个平静的声音。


「またか。いつ寝ているんだ、お前は」
“又来了。你到底什么时候睡觉,你这家伙?”

「後で寝ていますよ。僕は夜型なんです」
“我之后会睡的。我是夜猫子。”

「これで何回目だ。……言いたいことがあるなら言え」
“这是第几次了。……有什么话就直说。”


 ここ最近、クラウドと共に過ごすときを除き、夜の間アンガスはセフィロスの私室の扉に常に張り付いている。セフィロスが外出しようとすると必ず扉越しに声をかけられ、同行されることが片手では足りないほど続いていた。時間帯を変えても効果がない。強引に押し通っても構わなかったが、事を荒立ててクラウドに勘付かれるのは避けたかった。
最近,除了和克劳德在一起的时候,安格斯在夜间总是紧贴着萨菲罗斯的私人房间的门。每当萨菲罗斯想要出门时,他都会从门外搭话,并坚持要同行,这样的次数已经多到一只手都数不过来了。即使改变时间段也毫无效果。虽然强行通过也无妨,但他想避免把事情闹大,引起克劳德的察觉。

 普通の人間なら睡眠を取らずにいられる時間には限りがある。アンガスが根を上げるのを待っていたが、いつまで経っても諦める気配のない様子に、セフィロスはいい加減うんざりしていた。
普通人能不睡觉的时间是有限的。萨菲罗斯一直在等着安格斯放弃,但眼见他丝毫没有放弃的迹象,萨菲罗斯终于感到厌烦了。


「中に、入っても?」
“能、能进去吗?”

「ああ」
“啊。”


 部屋にアンガスを迎え入れ、椅子に座るように言う。セフィロスは寝台に浅く腰かけ、緊張に体を強張らせるアンガスを眺めた。これまでの世話役はセフィロスを怖れ、必要以上に干渉しようとしなかった。行動を妨害されることも、部屋で向き合って話すことも、この年若い世話役が初めてだった。
安格斯被请进房间,赛菲罗斯让他坐下。赛菲罗斯浅浅地坐在床榻上,看着身体因紧张而僵硬的安格斯。之前的侍从都害怕赛菲罗斯,不会过度干涉他。而这个年轻的侍从是第一个会妨碍他的行动,或是与他在房间里面对面交谈的人。


「言いたいこと、でしたよね。ヘラを――御使い様の世話役を、殺さないでほしいんです」
“您想说的话,是这个吧。请不要杀海拉——那位天使大人的侍从。”


 セフィロスの外出の目的は、アンガスが言った通りクラウドの世話役を消すことだった。だが、なぜセフィロスがクラウドの世話役を殺すとそんなにも確信しているのか不可解だった。以前のクラウドの世話役は距離を弁えた年配の男であったから、彼の任期であった二、三十年間は神官を手にかけていない。興味が湧き、まっすぐこちらを見つめるアンガスに問いかけた。
赛菲罗斯外出的目的,正如安格斯所说,是为了除掉克劳德的侍从。然而,赛菲罗斯为何如此确信他会杀死克劳德的侍从,这令人费解。克劳德之前的侍从是一位懂得保持距离的年长男性,因此在他任职的二三十年间,赛菲罗斯从未对神官下手。他产生了兴趣,于是向直视着他的安格斯问道。


「なぜそう思う」
“你为何会这么想?”

「ヘラは、人の視線に敏感なんです。あなたが事あるごとに御使い様を眺めていることも、ヘラが御使い様と喋っていると、必ず刺すような視線を送ることも、ヘラは気付いています」
“赫拉对别人的视线很敏感。你每次都盯着御使い大人看,还有赫拉每次和御使い大人说话时,你都会投去刺人的视线,这些赫拉都注意到了。”

「ほう?」
“哦?”


 一息にそういって、アンガスは一度間を置いた。
安格斯一口气说完,停顿了一下。

 クラウドに視線を送るとき、特に気配は消していない。そのため察知しやすくはあるだろうが、それを加味してもクラウドの隣に常に控える女は面倒な体質の持ち主だったらしい。言い淀むように目線を彷徨わせて、アンガスは続ける。
他看向克劳德时,并没有刻意隐藏气息。因此,虽然很容易被察觉,但即便如此,克劳德身边那个一直待命的女人似乎也拥有着麻烦的体质。安格斯眼神游移,欲言又止地继续说道。


「僕、神官になりたくて、子どもの頃から毎日神殿に通いつめていたんです。交友関係は広い自信があります。セフィロスさんの世話役になりたいって言ったら、ご年配の方に『死が付きまとうからやめておけ』って諭されたことがあって――」
“我从小就想当神官,每天都往神殿跑。我人缘很好,很有自信。我跟一位老人家说我想当萨菲罗斯先生的侍从,他劝我‘那会招来死亡,别去’——”

「それで?」
“然后呢?”

「セフィロスさん、何もないときはいつも本を読むか、御使い様と出かけるか、そうじゃなければ飽きずに延々と御使い様を眺めているじゃないですか。異常な執着だって、さすがに分かります」
“萨菲罗斯先生,你没事的时候不是总在看书,就是和御使大人出去,不然就是没完没了地盯着御使大人看,一点都不觉得腻。这种异常的执着,我当然明白。”

「だから、私があの女を殺すと?」
“所以,我就要杀了那个女人?”


 事実ではあるが、他人の口から自分の行動パターンを告げられ、異常だと言い切られるのは気分が悪い。言いにくそうにセフィロスの行動を言い連ねたアンガスに、言葉の先を促すように聞いてやると、肯定を示す頷きが返ってきた。
虽然是事实,但从别人嘴里听到自己的行为模式,还被断定为异常,这让人很不舒服。安格斯似乎很难启齿地列举着萨菲罗斯的行为,我催促他继续说下去,他回以肯定的点头。


「セフィロスさんほど過激ではないですけど、ヘラもかなり嫉妬深いので、分かるんです。他人と仲良くなって自分を見てくれなくなるのが嫌なんですよね。だからこっそり周囲の人間を排除しようとする」
“虽然没有萨菲罗斯先生那么极端,但赫拉也相当嫉妒,所以我能理解。她不喜欢别人和自己亲近,然后就不再关注自己了。所以她会偷偷地排除周围的人。”

「……嫉妬……?」
“……嫉妒……?”


 ――嫉妬。自分が?
——嫉妒。我?

 困った顔をして、気持ちは分かっていますから大丈夫ですよと優しく語り掛けてくる青年の言葉が胸に引っかかった。響きを確かめるようにその単語を舌に乗せると、眉をひそめたアンガスが怪訝そうに問いかけてきた。
青年那副困扰的表情,以及他温柔地说着“我明白你的感受,没关系”的话语,都深深地印在了我的心头。我将那个词语在舌尖反复咀嚼,仿佛要确认它的回响,安格斯则皱着眉,疑惑地向我发问。


「僕とヘラは恋人同士なんです。セフィロスさんと御使い様も、恋人、というか伴侶?半身?ではないんですか?……だって、夜もよく共に過ごしていらっしゃいますよね」
“我和赫拉是恋人。萨菲罗斯先生和御使大人不也是恋人,或者说是伴侣?半身?难道不是吗?……毕竟,你们晚上也经常待在一起吧。”


 ――恋人、伴侶、半身。どれも意味としては知っているが、セフィロスとクラウドの関係にそれを当てはめようとすると、途端に理解できなくなった。クラウドはインコンプリートとはいえセフィロスのコピーであるから、半身という単語はある意味では適しているのかもしれないが。視線を前方に固定したまま黙り込むと、困惑したアンガスがおそるおそるセフィロスに問いかける。
——恋人、伴侣、半身。这些词语的含义我都知道,但当试图将它们套用到萨菲罗斯和克劳德的关系上时,我却突然无法理解了。克劳德虽然是不完全的,但毕竟是萨菲罗斯的复制品,所以“半身”这个词在某种意义上或许是合适的。我将视线固定在前方,沉默不语,困惑的安格斯小心翼翼地向萨菲罗斯发问。


「えっと……セフィロスさんにとって、御使い様はどんな存在なんですか?」
“那个……对萨菲罗斯先生来说,御使大人是怎样的存在呢?”

「あれは、私のものだ。どこにもやらない」
“那是我的东西。哪儿也不去。”

「……なるほど、独占したい気持ちがあるんですね」
“……原来如此,您有想要独占的心情啊。”


 アンガスはセフィロスの返答に一瞬面食らった表情を見せたが、すぐに平静に戻る。考え込んだかと思うと、さらに質問を重ねた。
安格斯对萨菲罗斯的回答一瞬间露出了吃惊的表情,但很快又恢复了平静。他似乎陷入了沉思,然后又继续追问。


「いつも観察しているのは?」
“总是在观察的是?”

「見ていると飽きない」
“看着就看不够。”

「……好きな、というか興味を惹くものにはそうしたくなりますよね」
“……喜欢,或者说对感兴趣的东西,都会想这么做吧。”


 簡潔に答えると、アンガスは一つ頷き、さらに難しい顔になる。
安格斯简洁地回答,点点头,脸色变得更加凝重。


「どうしてセフィロスさんと御使い様は体を重ねるんですか?結構頻度が高いし、合意ですよね」
“为什么萨菲罗斯大人和御使大人会发生关系?频率相当高,而且是双方同意的吧?”

「普段見られない表情が見られて、愛らしい。クラウドは……与えられる限りの快楽を与えているから、体がそれに依存しているだけだろう」
“能看到平时看不到的表情,真可爱。克劳德……我给了他所能给的一切快乐,所以他的身体只是依赖着那些快乐吧。”

「……そうは思えませんけどね。ヘラ曰く御使い様は寂しがりの尽くしたがりって話ですから、精神的にも行為を好んでらっしゃいそうですけど……。まあ、こんなこと、他人が言うことじゃないですね……」
“……我可不这么认为。赫拉说御使大人是个怕寂寞又喜欢奉献的人,所以精神上应该也喜欢这种行为吧……算了,这种事,不是别人该说的……”


 何かを言いたそうな顔をしながら、疲れたようにアンガスは独りごちた。
安格斯一脸疲惫地自言自语,脸上似乎想说些什么。


「最後の質問です。僕がまだ生きているってことは、ヘラを殺したとして、それを御使い様には知られたくないんですよね。それは、なぜですか?」
“最后一个问题。我还活着,这意味着你杀了赫拉,却不想让御使大人知道,对吧。这是为什么?”

「なぜ人が離れていくのかと自分の落ち度を探し、傷つくクラウドの顔を見ると気分が高ぶる。依存を深めて縋ってくるのも心地いい」
“看到克劳德因为寻找自己为何被抛弃的过失而受伤的脸,我就兴奋不已。他对我越来越依赖,对我苦苦哀求的样子也让我很舒服。”

「……うーん」
“……嗯。”


 表情を変えず淡々と答えるセフィロスの顔をしげしげと眺め、アンガスは大きなため息をついた。どうしようもない兄を諭そうとするかのように、困りはてた声でセフィロスに語り掛けてくる。
安格斯凝视着面无表情、语气平淡地回答的萨菲罗斯,长长地叹了口气。他用困惑的声音对萨菲罗斯说,仿佛想劝说这个无可救药的哥哥。


「無茶苦茶怖いし、歪みまくってますけど、セフィロスさんは御使い様のことが好きで好きでたまらないんですよ、それ。愛しているからどんな表情も見たいし、絶対に離れていかないように身も心も交友関係も支配しようとする」
“虽然这非常可怕,而且扭曲到了极致,但萨菲罗斯大人您就是喜欢得不得了,喜欢得不得了。正因为爱着,所以想看到他所有的表情,想支配他的身心和人际关系,让他永远无法离开。”

「……愛?私が、クラウドを?」
“……爱?我,爱克劳德?”

「僕にはそうとしか聞こえません。……普段、御使い様を眺めていらっしゃるときの顔を鏡で見せて差し上げたい」
“我听起来就是这样。……真想让您照照镜子,看看您平时注视着天使大人时的表情。”


 長く生きてきて、愛という単語を知ってはいてもこの身で実感したことはない。セフィロスがクラウドに抱く執着は一種の歪な愛なのだと説かれても、よく分からなかった。そもそも、そんな感情をクラウドに抱くことなどありえるはずがない。セフィロスは嘲笑を浮かべて世話役に問うた。
活了这么久,虽然知道“爱”这个词,却从未亲身体验过。即便有人告诉我,萨菲罗斯对克劳德的执着是一种扭曲的爱,我也无法理解。况且,我根本不可能对克劳德产生那种感情。萨菲罗斯带着嘲讽的笑容,质问着侍从。


「私はかつて、クラウドの大切な者をこの手で奪い、唆してあれ自身にも周囲の命を奪わせた。クラウドを苦しめることに快感を見出していた。今だって似たようなものだ。それでもお前はそれが愛とやらだと?」
“我曾亲手夺走克劳德的挚爱,并唆使他亲手夺走周围人的生命。我从折磨克劳德中找到了快感。现在也差不多。即便如此,你还认为那是所谓的爱吗?”

「苦しめたいっていいますけど、何でもいいから自分だけを見てほしくて、相手の色々な顔も見たいってことでしょう?愛の形は人それぞれと言いますし、過ぎた執着から愛が生まれることもあるのでは?」
“您说想让对方痛苦,但其实是想让对方只看着您,想看到对方的各种表情,对吧?人们常说爱的形式因人而异,过度的执着有时也能产生爱,不是吗?”

 

 アンガスは考え込むこともなく、まっすぐにセフィロスの目を見つめて即答した。文面だけを聞くと適当に言っているようにも思えるが、表情は至って真剣だった。
安格斯没有多想,直视着萨菲罗斯的眼睛,立刻回答道。如果只听文字,可能会觉得他是在敷衍,但他的表情却异常认真。


「……仮にそうだとして、それとお前の望みに何の関係がある」
“……就算如此,这和你的愿望有什么关系?”

「陰で御使い様の周囲を排除するよりも、もっと効率的な方法を教えて差し上げます。本当は、セフィロスさんが御使い様と気持ちを通わせて、あまり周囲と仲が良いと嫉妬するって直接伝えてくださるのが理想的ですけど……」
“比起在暗中排除御使大人身边的人,我来告诉您一个更有效率的方法。其实,最理想的情况是萨菲罗斯先生能直接告诉御使大人,您因为御使大人和周围的人关系太好而感到嫉妒……”

「私が?冗談だろう」
“我?开玩笑吧。”


 クラウドに愛を囁き縋る自分を想像して一瞬で怖気が走った。苦笑したアンガスは、代替案を示す。
想象着自己对克劳德低语爱意并苦苦哀求的样子,她瞬间不寒而栗。安格斯苦笑着,提出了替代方案。


「言いたくないなら、奪うんじゃなくて与えることで愛情を示せばいいんです。御使い様が熱中できるものを贈って、外に出る頻度が自然と減るようにするとか。……御使い様は、何か好きなものはないんですか」
“如果你不想说,那就通过给予而不是夺取来表达爱意。送给御使大人一些他能沉迷的东西,让他自然而然地减少外出的频率。……御使大人,难道没有什么喜欢的东西吗?”

「部屋の中より、外を好む」
“他喜欢外面,胜过房间里。”

「……なるほど。そうだ、昔、お祭りのときにチョコボの羽飾りをつけていましたよね。――チョコボはどうですか。聖獣だからって名目で神殿の中庭に繁殖小屋でも作れば、御使い様の時間つぶしになるのでは?セフィロスさんの部屋からも見えますし」
“……原来如此。对了,以前过节的时候,您戴过陆行鸟的羽毛饰品吧。——陆行鸟怎么样?就以圣兽的名义,在神殿的庭院里建个繁殖小屋,这样不就能打发御使大人的时间了吗?从萨菲罗斯先生的房间也能看到。”


 チョコボ。クラウド本人もチョコボのような髪型だが、メテオ後に初めて生き残りのチョコボと遭遇したときは、随分と喜んでいた。自我が壊れる前も、確か好んでよく牧場に行っていたのではなかったか。 
陆行鸟。克劳德本人也是陆行鸟般的发型,但在陨石事件后第一次遇到幸存的陆行鸟时,他高兴极了。在自我崩溃之前,他不是也经常喜欢去牧场吗?


「悪くない」
“不坏。”

「じゃあ、手配しておきます。傷つく顔ばかりじゃなくて、御使い様の幸せそうな顔を見るのだって、きっとあなたは好きですよ。……僕たちがお二方の関係をサポートしますから、ヘラは殺さないでくださいね」
“那我就去安排了。您肯定也喜欢看御使大人幸福的表情,而不是总是一副受伤的模样。……我们会支持你们两位的关系,所以请不要杀赫拉。”


 アンガスは我が事のように晴れやかな笑顔を見せたかと思えば、一転して釘をさすように睨みつけてくる。クラウドの世話役の女は随分とお喋りで、クラウドをあちこちに連れ出すので気に入らない。けれど、殺すのはいつでもできる。必要ならばこの世話役ごと排除すればいい。ならば、少し猶予を与えてみよう。
安格斯先是露出了仿佛事不关己的开朗笑容,转而又像是在警告般地瞪着他。照顾克劳德的那个女人话太多了,还老是带着克劳德到处跑,这让他很不爽。不过,要杀她随时都可以。如果需要的话,连同这个照护者一起除掉就行。那么,就给她一点宽限吧。


「いいだろう」
“好吧。”

「信じますよ、セフィロスさん。……そうだ、良いことを教えて差し上げます。その重苦しい執着は、なるべく本人には隠した方がいいですよ。怖がらせる。言葉で伝える気がないのなら、せめて行動で愛情を伝えてあげてください」
“我相信你,萨菲罗斯先生。……对了,我告诉你一个好消息。你那沉重的执念,最好还是尽量瞒着本人。会吓到他的。如果你不打算用言语表达,至少也要用行动来传达爱意。”


――真綿でくるむように居心地よくしてあげて、優しい愛情で縛れば、絶対に離れません。まあ、あなた方の場合はもうそういう次元ではない気がしますけど、と疲れた顔でアンガスはそう言って苦く笑い、静かに部屋から出ていった。
——像用棉絮包裹般让他感到舒适,再用温柔的爱意束缚住他,他就绝对不会离开了。嘛,不过你们的情况好像已经不是那个层面了,安格斯疲惫地笑着说,然后默默地离开了房间。


 怖れるのでも戦うのでも逃げるのでもなく、対話によってセフィロスと向き合うことを選び、諭すようにアドバイスまでしてきた人間など初めてだ。セフィロスをまっすぐ見上げて甘え、図々しくまた飛ばせてとまで言ってきた幼少期から変わらず、アンガスは怖れ知らずの変わり者だった。
无论是恐惧、战斗还是逃跑,选择通过对话来面对萨菲罗斯,甚至像劝导一样给出建议的人,安格斯是第一个。从幼年时期就一直没有变过,他直视着萨菲罗斯,撒娇,甚至厚颜无耻地要求再飞一次,安格斯一直是个不知畏惧的怪人。




団欒と幸福
团圆与幸福

「セフィロスのおじさん、僕また飛びたい!」
“萨菲罗斯叔叔,我又要飞高高!”


 子どもの頃のアンガスに瓜二つの少年が、中庭に姿を現したセフィロスを見るなり足に突進してきた。腿に感じた衝撃に思わず顔をしかめたセフィロスを見て、隣に立つクラウドが吹き出している。
一个和安格斯小时候长得一模一样的少年,一看到出现在庭院里的萨菲罗斯,就猛地冲了过来。萨菲罗斯感到大腿被撞了一下,不由得皱起眉,站在他旁边的克劳德则噗嗤一声笑了出来。


「勘弁しろ……。私はいつからお前の叔父になった。――おい、アンガス。お前の息子を何とかしろ」
“饶了我吧……我什么时候成了你叔叔了。——喂,安格斯。管好你儿子。”

「許してください。この子も昨夜からずっと楽しみにしていたんです。早く神殿に行く、セフィロスさんとまた遊ぶってうるさくって」
“请您原谅。这孩子从昨晚开始就一直很期待。吵着要快点去神殿,说要再和萨菲罗斯先生一起玩。”

「遊んだ覚えはないぞ」
“我可不记得有玩过。”

「まあまあ」
“哎呀哎呀。”


 柔和な笑みを浮かべたアンガスが、眉間に皺を寄せるセフィロスを宥めるようにそう言った。そろそろ三十代の半ばに差し掛かる頃だっただろうか。見た目はセフィロスと同年代か、僅かに年上に見えるくらいになっていた。顔つきは落ち着きを増し、最近は腹に肉がついてきたことをよく嘆いている。
安格斯露出柔和的笑容,像是在安抚眉间紧锁的萨菲罗斯般说道。他大概快三十五岁了吧。从外表看,他现在和萨菲罗斯同龄,或者看起来稍微年长一些。他的面容变得更加沉稳,最近经常抱怨肚子上长肉了。


「ヘラ、その子が新しく生まれた子か?」
“赫拉,那个孩子是新生的孩子吗?”


 セフィロスの隣を離れ、クラウドは小屋の外に放されているチョコボ達の側に佇む女性に声をかける。クラウドの世話係であったヘラだ。二人目の子どもの出産のためにしばらく神殿を離れていたようで、ここ最近姿を見ていなかった。産休前よりもやや体つきはふっくらとしているが、いつも通りきっちりと施された化粧のためか、年齢をあまり感じさせない。クラウドの声に振り返ったヘラは、腕に抱える赤ん坊を見せる。
克劳德离开萨菲罗斯身边,向小屋外那些散养的陆行鸟旁边的女人搭话。她是赫拉,曾是克劳德的照料者。她似乎为了生第二个孩子而离开神殿一段时间,最近都没有见到她。虽然产后身体比产前稍微丰腴了一些,但也许是因为她一如既往地精心打扮,所以不太显年龄。赫拉听到克劳德的声音后转过身来,给他看了看她抱在怀里的婴儿。


「クラウド、久しぶり!うん、女の子だよ。抱いてあげて」
“克劳德,好久不见!嗯,是个女孩。抱抱她吧。”


 おそるおそる赤ん坊をヘラから受け取ったクラウドは、緊張のせいか顔が固まっていた。他人と接しているときのクラウドは、セフィロスに見せるものとは異なる話し方と表情を見せるので、見ていると面白い。慣れない仕草でほんのわずかな間だけ赤ん坊を抱き上げて、クラウドはすぐに赤ん坊をヘラの腕に返した。
克劳德小心翼翼地从赫拉手中接过婴儿,紧张得脸都僵硬了。克劳德在与他人接触时,会展现出与面对萨菲罗斯时不同的说话方式和表情,这很有趣。他用不熟练的姿势抱了婴儿片刻,然后很快就把婴儿还给了赫拉。


「小さいな」
“好小啊。”

「それはそうだよ。――セフィロスも、抱っこしてあげてよ!」
“那是当然了。——萨菲罗斯,你也抱抱他吧!”


 クラウドがぽつりと零した言葉ににっこりと笑うと、ヘラはセフィロスの方に歩いてきた。
赫拉对克劳德不经意间说出的话语报以微笑,然后走向萨菲罗斯。


「いい、泣かれる」
“不行,他会哭的。”

「大丈夫。ご機嫌のときは全然泣かないから。それに、私とアンガスの子だよ!」
“没关系。他心情好的时候一点都不会哭的。而且,他是我和安格斯的孩子啊!”


 断るが、ヘラは笑顔でそう言った。ヘラにアンガス、そして二人の間に生まれた長男の物怖じしない性格を思うと、どことなくその言葉には説得力があった。根負けして慎重に赤ん坊を受け取る。全く泣く気配を見せない赤ん坊は、くりくりとした目でセフィロスを凝視してくるので居心地が悪かった。すぐにヘラの腕に戻す。
“我拒绝。”赫拉笑着说。想到赫拉和安格斯,以及他们之间出生的长子那无所畏惧的性格,这句话不知为何显得很有说服力。塞菲罗斯最终还是妥协了,小心翼翼地接过婴儿。婴儿完全没有要哭的迹象,只是用圆溜溜的眼睛盯着塞菲罗斯,让他感到很不自在。他很快就把婴儿还给了赫拉。


「ほらね?……良かったらこの子にも、セフィロスとクラウドで名前をつけてあげてくれないかな」
“看吧?……如果可以的话,也请你和克劳德给这孩子取个名字吧。”

「……」
“……”

「ああ、俺達でよければ」
“啊,如果我们能帮上忙的话。”


 むっすりと黙り込むセフィロスの代わりに、クラウドが横から笑顔で答える。そんなやり取りをしていたとき、アンガスが相手をしていた子どもがこちらへ走り寄ってきた。
萨菲罗斯闷闷不乐地沉默着,克劳德则在一旁笑着回答。就在他们这样一来一回地交谈时,安格斯正在应付的孩子跑了过来。


「ねえクラウド、おれ、チョコボで空飛びたい」
“喂,克劳德,我想骑陆行鸟飞上天。”

「チョコボは空を飛ばないぞ。山や海を走れるすごいやつはいるが」
“陆行鸟是不会飞的。不过有能跑山跑海的厉害家伙。”

「ここにもいる?」
“这里也有吗?”

「まだいない。いつか生まれてくるかもしれないな」
“还没有。也许有一天会出生吧。”

「なんだぁ」
“什么嘛。”

「普通のチョコボも楽しいぞ。乗るか?」
“普通的陆行鸟也很有趣哦。要骑吗?”


 乗る!!と元気よく叫んで飛び跳ねる子の手を引いて、クラウドは小屋の方へ向かっていった。子どもの相手は得意ではないとクラウドはいうが、いちいち目線を合わせて根気よく相手をしてやるあたり、十分得意の部類に入るだろうとセフィロスは思う。同族のようなあの頭のせいか、それともこまめに世話に通っているせいなのか、クラウドが近づくと周りのチョコボ達はクエクエと歓迎するように声を上げ、我先にと金色の頭に寄って行っている。
“骑!”克劳德牵着活泼地叫着跳起来的孩子的手,朝小屋走去。克劳德说他不擅长应付孩子,但萨菲罗斯觉得,他每次都耐心地与孩子平视并应付,这已经足够算得上擅长了。也许是因为那些和他们同族一样的脑袋,又或者是他经常来照顾的缘故,克劳德一靠近,周围的陆行鸟们就“咕咕”地叫着表示欢迎,争先恐后地凑到那金色的脑袋旁边。


「またクラウドのこと見てる。本当に好きだね」
「你又在看克劳德了。真是喜欢他啊。」


 にやにやとセフィロスを見ながら茶化すようにヘラが言うと、アンガスが誇らしげに言葉を重ねてきた。
赫拉看着萨菲罗斯,揶揄地笑着说,安格斯则自豪地补充道。


「クラウドさん、神殿でチョコボを飼ってから、毎日楽しそうじゃないですか? ほら、セフィロスさん、中庭にチョコボ小屋を作って良かったでしょう?」
“克劳德先生,自从在神殿里养了陆行鸟之后,不是每天都很开心吗?你看,萨菲罗斯先生,在庭院里建个陆行鸟小屋真是太好了,对吧?”

「何年それ言ってるのさ、アンガスったら」
“安格斯,你这话都说了多少年了。”

「……お前たちが揃うとうるさくて敵わん」
“……你们凑在一起就吵得要命。”


 セフィロスがそうぼやいてみせると、間髪入れずにヘラとアンガスの明るい声が返ってくる。
萨菲罗斯这样抱怨着,赫拉和安格斯明亮的声音立刻不假思索地回应道。


「こういうの、嫌いじゃないくせに。素直じゃないよねー」
“你又不是不喜欢这样。真是不坦率啊~”

「たまには賑やかなのもいいじゃありませんか」
“偶尔热闹一下不是也挺好的吗?”


 太陽に照らされた庭にはチョコボが駆ける音と明るい家族の笑い声が響き、強引な、けれど決して不快ではない団らんの温もりがセフィロスとクラウドを包んでいた。
阳光普照的庭院里回荡着陆行鸟奔跑的声音和家人欢快的笑声,一种强硬却绝不令人不快的团圆的温暖包围着萨菲罗斯和克劳德。





惜別と願い
惜别与愿望

 明日からはこの神官が世話役を務めると言って、緊張に顔をひきつらせた若い男の神官を紹介された。顔見せを済ませて若い神官が退出すると、のんびりとした声音でアンガスが言う。
安格斯说从明天起这位神官将担任他们的照料者,并介绍了一位因紧张而面部僵硬的年轻男神官。在见过面年轻神官退下后,安格斯用悠闲的语调说:


「今日が、儂がここにいる最終日ということです、セフィロスさん」
“萨菲罗斯先生,今天是我在这里的最后一天。”


 皺の深く刻まれた優しい顔に、曲がった腰。髪は抜け落ち、ほとんど残っていない。セフィロスと並ぶと、親子以上に年が離れて見える。いつ頃だったか孫が生まれたあたりから、アンガスは一人称をそれらしいものに変えていた。血管と皺の目立つ骨ばった手で、ゆったりとアンガスは茶を二人分用意する。片方をセフィロスの前に置くと、もう一方のカップを手に持ち、アンガスはセフィロスの対面にいつものように座った。一口、茶を口に含むと、穏やかにアンガスは話し出した。
他那张刻满皱纹的慈祥的脸上,腰也弯了。头发掉得差不多了,所剩无几。和萨菲罗斯站在一起,他们看起来不像父子,反而更像隔了好几辈的人。不知从何时起,大约是孙子出生的时候,安格斯就把自己的第一人称改成了更符合他身份的称呼。安格斯用那双血管和皱纹清晰可见的骨节分明的手,慢悠悠地准备了两份茶。他把其中一杯放在萨菲罗斯面前,然后拿起另一杯,像往常一样坐在萨菲罗斯对面。他抿了一口茶,然后平静地开口了。


「どうにも体が動かなくなってきましてなぁ。そろそろ星が呼んでいるようですから、最期は家で過ごそうと思います。……婆さんは随分と早くに星に還ってしまったから、儂だけでもセフィロスさんとクラウドさんを見守らないと、と思っておったんですが」
“身体越来越不听使唤了啊。看来星星在召唤我了,所以我想在家里度过最后的时光。……老伴儿很早就回到星星那里去了,我本想着至少要替她好好看着萨菲罗斯先生和克劳德先生的。”


 ヘラは、二人の子ども達が家を出てから、肺に病気を患った。何度かクラウドと共に見舞いにも訪れたが、会うたびに病は進行していて、闘病の末、五年前に息を引き取った。訃報を受け取ったとき、ヘラと親交の深かったクラウドは深く悲しみ、見ていられないほどであった。
赫拉在两个孩子离家后,患上了肺病。克劳德曾几次和萨菲罗斯一起去探望她,但每次见面,她的病情都在恶化,最终在五年前与病魔抗争后去世了。收到讣告时,与赫拉交情深厚的克劳德悲痛欲绝,令人不忍直视。


「自分のことを考えろ」
“想想你自己吧。”


 セフィロスは淡々とそう返す。だが、喉に何かが詰まっているかのような感覚が残り、軽く眉をひそめる。
萨菲罗斯淡淡地回应道。但喉咙里仿佛有什么东西堵住了,他轻轻皱了皱眉。


「どうされました?」
“您怎么了?”


 アンガスの心配そうな、困ったような表情でそう問いかけられたとき、詰まっていた言葉がするりとセフィロスの口から零れ落ちた。
当安格斯带着担忧又困惑的表情这样问道时,堵在萨菲罗斯喉咙里的话语便顺畅地从他口中倾泻而出。


「…………お前たちには、長い間世話になったな」
“…………你们,长久以来受你们照顾了。”


 アンガスが目を見開く。
安格斯睁大了眼睛。


「おやおや……今日はメテオが降るかもしれませんな。あなたがそんなことを言うなんて」
“哎呀呀……今天可能要下流星雨了。您居然会说出这种话。”

「茶化すな」
“别开玩笑。”

「ほっほっほ、すみません。何しろセフィロスさんのひねくれ具合はよ~く知っとりますからね。未だにクラウドさんに愛を告げていないでしょう」
“嚯嚯嚯,抱歉。毕竟我很清楚萨菲罗斯先生有多别扭。您至今还没向克劳德先生告白吧。”

「私はまだその感情を認めていないし、必要ない。今はどうでもいいだろう」
“我还没承认那种感情,也没必要。现在怎样都无所谓吧。”

「仕方のないお方だ。……ですが、嬉しいですよ。あなたにそんな風に言ってもらえるなんて、本当に……とても嬉しい」
“真是个没办法的人啊。……但是,我很开心。能被您那样说,真的……非常开心。”


 セフィロスをからかうように悪戯な笑みを浮かべていたくせに、しみじみとそう呟いたと思ったら、アンガスの目の端に光るものが浮かんでいるのが見えた。セフィロスは眉を寄せ、アンガスに声をかける。
明明刚才还带着恶作剧般的笑容,像是在逗弄萨菲罗斯,可当他深有感触地低语完后,萨菲罗斯看到安格斯的眼角闪烁着光芒。萨菲罗斯皱起眉,对安格斯说道。


「泣くほどのことではあるまい」
“不至于哭吧。”

「あるんですな、これが。ええ、従者冥利に尽きますよ……」
“至于啊,就是至于。嗯,这真是作为侍从的无上荣幸……”


 小さく震える手の甲で涙を拭うと、アンガスはセフィロスを優しい眼差しで見つめ、静かに語り出す。
安格斯用微微颤抖的手背抹去眼泪,用温柔的目光凝视着萨菲罗斯,然后平静地开口说道。


「セフィロスさんに初めて会った時、あなたがおじさんに見えたのに、いつの間にか同じくらいの歳になって、今では儂の方がずっと年上です。――あなたはどうにも人の感情に疎いもんですから、困った兄のように思ったこともあれば、大切な友人のようにも思っていましたよ。息子よりもあなたの方が若い今となっては、色々なことを知らない子どものように見えるときもあります」
“第一次见到萨菲罗斯先生的时候,您看起来像个大叔,不知不觉间我们变得差不多大了,现在我可比您年长多了。——您对人的感情总是有些迟钝,所以我有时把您当成令人头疼的哥哥,有时又把您当成重要的朋友。现在您比我的儿子还年轻,有时又像个什么都不懂的孩子。”


 そう言って柔らかくアンガスが微笑む。その表情と、懐かしむようにアンガスが語った言葉に、胸の辺りで何かがざわめいた気がした。息苦しいような、胸が潰されるような不愉快な感覚が生まれる。
安格斯说着,柔和地笑了。他的表情,以及安格斯怀念地讲述的话语,让我的胸口仿佛有什么东西在骚动。一种令人窒息、心如刀绞般的不快感油然而生。


「……」
“……”

「ああ、またそんな顔をして。今度は何です?」
“啊,又露出那种表情了。这次又是什么事?”


 セフィロスの症状を告げると、アンガスはからからと笑った。
安格斯听了萨菲罗斯的症状,哈哈大笑起来。


「それはね、あなた、寂しいんでしょうよ。儂があなたを置いていってしまうもんですから。」
“那是因为,你啊,会感到寂寞吧。因为我会把你丢下,独自离开。”

「寂しい、か。――私は……私にとっても、お前は、友人のようなものであったのかもしれんな」
“寂寞,吗。——我……对我来说,你或许也像个朋友吧。”


 ごく小さな声で呟いたそれを聞き、アンガスは幸せそうに顔を緩めた。
安格斯听见他用极小的声音说出这句话,幸福地放松了表情。


「本当に珍しい。今日が儂の命日かもしれませんな」
“真是稀奇。今天或许就是我的忌日了吧。”

「縁起でもない。……何か、望みがあるなら聞いてやろう」
“别说不吉利的话。……你有什么愿望的话,我可以听听。”


 そうセフィロスが言うと、アンガスは額の皺をのばすように手をあて、ほんの数秒考えてから諭すように言った。
萨菲罗斯这么一说,安格斯便用手抚平额头的皱纹,思考了短短几秒后,才像是在劝导般说道。


「クラウドさんを大事にしてくださいよ。あなたはすぐ酷いことをしようとするんですから。儂の人生は八十年も行かないくらいですが、それでも長いと感じましたよ。婆さんが居てくれたから、楽しく過ごせました」
“请您好好珍惜克劳德先生。您总是想做些过分的事情。我的人生还不到八十年,但即便如此也觉得漫长。多亏了老伴在身边,我才能过得开心。”


 そこで言葉を切って茶を口に含むと、アンガスは老人とは思えない強い視線をセフィロスに向ける。
安格斯说到这里便打住了,他喝了口茶,用一种不像是老人会有的锐利目光看向萨菲罗斯。


「セフィロスさんの命はもっとずっと長いんでしょう。果てがあるのか儂には想像もつきませんが……あなたの半身をくれぐれもお大事に」
“萨菲罗斯先生的生命会更长久吧。我无法想象那是否有尽头……请务必好好珍重您的半身。”


「最後までお前は説教ばかりだ。言われなくても分かっている」
“你到最后都在说教。就算你不说我也知道。”


 何十年も聞かされ続けたのと同じ言葉にうんざりとしながらそう返したとき、ふと疑問が浮かんだ。
萨菲罗斯厌烦地回了句,这和几十年来他听过无数遍的话如出一辙,这时他忽然产生了一个疑问。


「ここに留まって、子孫を守ってほしい、とは言わないのだな」
“你没有说希望我留在这里,守护你的子孙后代啊。”

「あなた方がここを居心地良く思ってくださる間は、もちろんお好きにどうぞ。ですが、神は巡るものですし、人は愚かなものです。いつか人があなた達に牙を剥くなら、それが別れ時でしょう。またお二人で気ままな旅を楽しまれるのがよろしいと思いますよ」
“只要你们觉得这里住得舒服,当然可以随意居住。但是,神明是会更迭的,人类是愚蠢的。如果有一天人类对你们露出獠牙,那就是分别的时候了。我想你们二位还是继续享受无拘无束的旅行比较好。”

「神官とは思えない言葉だな」
“这可不像神官说的话啊。”

「儂は確かに神官ですが、あなたの友人ですからね」
“我确实是神官,但同时也是你的朋友啊。”


 ――子どもの頃から変わらず破天荒な奴だ。
——从孩提时代起就是个放荡不羁的家伙,一点都没变。

 自然と口角が上がり、セフィロスは口元に笑みを刻んでいた。二人が茶を飲み終わると、アンガスは丁寧に片づけをして、そっと席を立った。
萨菲罗斯自然而然地嘴角上扬,唇边勾勒出笑容。两人喝完茶后,安格斯细心地收拾好,然后悄悄地起身。


「さあ、いつまでも話していると名残惜しくなってしまう。儂はそろそろ行きますよ。クラウドさんにも、どうぞよろしくお伝えください。セフィロスさん、あなた方がいつかこの地を旅立つ日まで、どうか心穏やかに過ごせますように」
“好了,再聊下去就舍不得了。我该走了。也请代我向克劳德先生问好。萨菲罗斯先生,愿你们在离开这片土地之前,都能心境平和。”

「ああ。――さらばだ、アンガス」
“嗯。——再会了,安格斯。”

「ええ。さようなら、セフィロスさん」
“嗯。再见,萨菲罗斯先生。”


 笑顔を浮かべ、子どものように手を振って、これが最期と信じられないようなあっさりとした態度でアンガスは部屋から出ていった。
安格斯带着笑容,像个孩子一样挥着手,以一种令人难以置信的轻松态度离开了房间,仿佛这并非永别。



***



 晴れ渡った青空に、葬送の鐘が響く。
晴朗的蓝天下,葬礼的钟声回荡。

 参列者がすすり泣く声が辺りから聞こえてくる静かな地で、棺の中には見慣れた顔の老人が横たわっていた。その体の上にそっと白い花を手向け、黙祷を送ると、セフィロスはクラウドとともにその場を離れた。
在四周传来吊唁者低泣声的寂静之地,棺木中躺着一张熟悉的老人面孔。萨菲罗斯轻轻地将一朵白花放在他的身上,默哀片刻后,便与克劳德一同离开了那里。




「……分かっていることですけど、人の寿命は短いですね。ヘラも、アンガスも、子どもだったのに、あっという間に成長して、もう逝ってしまった」
“……我知道,但人的寿命真是短暂啊。赫拉也好,安格斯也好,明明还是孩子,却转眼间就长大了,然后又离开了。”


 陰鬱な声でクラウドが呟く。
克劳德用阴郁的声音低语道。


「仕方がないことだ」
“这是没办法的事。”


 感情を込めない声でセフィロスはそう返した。ふと、アンガスの言葉を思い出し、独り言のように呟く。
萨菲罗斯用不带感情的声音回答道。他忽然想起安格斯的那些话,像自言自语般低声说道:


「置いていかれることは寂しいのだと、アンガスが言っていたな」
“安格斯说过,被抛下是很寂寞的。”


 クラウドが足を止め、セフィロスを気遣わしげに見上げる。
克劳德停下脚步,担忧地看着萨菲罗斯。


「セフィロスはアンガスと親しかったですから、余計にそうでしょう」
“萨菲罗斯和安格斯关系很好,所以您会更寂寞吧。”

「さあ、どうだかな」
“哦?是吗?”


 死んだ、と言われても実感が湧かなかった。そもそもセフィロスは人の生死を重く捉える方ではない。棺の中で物言わず眠る姿よりは、最後の日、笑顔で手を振った姿の方がアンガスらしい別れのように思えた。
即便被告知“他死了”,也感受不到真实感。说到底,萨菲罗斯就不是一个会把人的生死看得太重的人。比起安格斯在棺材里一言不发地沉睡的样子,他最后一天笑着挥手的样子,才更像是安格斯式的告别。


「人の中で生きるとは、そういうことなのだろう。今更だが」
“在人类中生活,大概就是这么回事吧。虽然现在说这些已经太晚了。”

「……。俺がいます、セフィロス」
“……。我在这里,萨菲罗斯。”


 急に手首をクラウドに掴まれ、ぐい、と強い力で引き寄せられる。セフィロスは、クラウドにきつく抱擁されていた。慣れ親しんだ体温が、なぜか普段よりも温かく感じる。抱き合うとき、クラウドがあたたかい、とよく呟く意味が少し分かったような気がした。胸に当たるクラウドの頭を両手で抱き込み、頬を寄せる。
手腕突然被克劳德抓住,他猛地用力将萨菲罗斯拉近。萨菲罗斯被克劳德紧紧地抱住。熟悉的体温,不知为何比平时更温暖。他似乎有点明白了,为什么克劳德在拥抱时,总是会喃喃地说“好温暖”。他用双手抱住克劳德靠在自己胸前的头,脸颊贴了上去。


「お前は私の半身らしい」
“他说你是我的一部分。”

「アンガスが?」
“安格斯说的?”

「ああ、そう言っていた」
“嗯,他是这么说的。”

「セフィロス、あなたが俺を捨てない限り、ずっと側にいますから。だから、大丈夫です」
“萨菲罗斯,只要你不抛弃我,我就会永远在你身边。所以,没关系的。”

「……そうか」
“……是吗。”


 何かを決意したかのような力強い響きを声に込めて、そうクラウドは宣言した。人の人生はとても早く、短い。セフィロスと共にいられるのはクラウドだけで、クラウドと共にいられるのもセフィロスだけだ。どれだけ親しくなろうと他人はそこに入れない。そのことをようやく実感し、おかしな話だが、酷く安堵した。
克劳德将某种决意融入声音中,带着强有力的回响,如此宣告道。人的一生是如此之快,如此短暂。能与萨菲罗斯在一起的只有克劳德,能与克劳德在一起的也只有萨菲罗斯。无论关系多么亲密,他人都无法介入其中。终于意识到这一点,说来奇怪,却感到无比安心。


「クラウド」
“克劳德。”

「はい」
“是的。”

「クラウド――」
“克劳德——”

「セフィロス、どうしたんで……っ」
“萨菲罗斯,你怎么了……!”


 名を呼び、顔を上げたクラウドと唇を合わせる。ゆっくりと響く哀しげな鐘の音を背に、セフィロスは自らの半身を抱きしめ、その温度に感謝しながら目を閉じた。
克劳德抬起头,与呼唤他名字的萨菲罗斯唇齿相接。在身后缓慢回荡的悲伤钟声中,萨菲罗斯抱紧了自己的半身,在感受着那份温暖的同时闭上了眼睛。


 告げるつもりはないけれど、これが愛だというのなら悪くない。